高嶺の華と路傍の花   作:山本イツキ

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お久しぶりです、山本イツキです。
久々の投稿になりますが、これまで色々なことがありました。
気がつけばバンドリ映画が公開。結局行けたのはSong I amのみ………。
映画を見てまた描きたいと思い仕上げました。

友希那さんカッコよかった。
リサ姉美人だった。
お父さんイケボすぎた(笑)

気持ち新たに、この作品を読んでいただけると幸いです。



第19輪 咲くことを諦めた花

 2学期も中盤に差し掛かると、学校の体制が変わってくる。

 それが、生徒会役員の世代交代だ。

 この時期になると、その椅子を勝ち取ると言わんばかりに生徒会の立候補者とその補佐役の奴らが躍起になっている。

 自分に清き一票を投じてくれ、だとか演説を行なってはいるが所詮口先だけにしか聞こえないのは事実だろう。

 誰も親身になって聞こうとはしない。

 もちろんオレもその中の一人。

 オレにとってはどうでもいい行事の一つだ。

 

 生徒会役員とは学校行事や日々の生活を取り仕切る、言わば "学校の犬"。

 自ら進んで立候補する奴なんてそういるものじゃない。

 

 

 

 ────あっ?我らが風紀委員長はその一人だと?

 

 アイツは………アレだ、そういうのがお似合いだからだろ。オレには理解できんが。

 人に使われることだとか、誰かのために働くだとか、そういうことに快感を覚える奴。そう、Mだ。

 いやしかし、以前オレに首輪を巻いてロープを手に取った奴の姿は紛れもない女王様だった。

 

 うちの風紀委員長は、SかMか。

 

 きっとそれは本人のみぞ知ることだろうな。

 

 

 「勝手に人の性格を判断するのをやめてもらっていいですか?」

 

 

 風紀委員長は鋭い眼光でオレを睨み、思考を静止させた。

 

 

 「オレはまだ何も言ってねぇだろ?」

 

 「あなたがニヤついて黙っているときは、何かよからぬことを考えてる証拠です」

 

 「オレが、いつ、ニヤついてたって?」

 

 「私がこの教室に入った瞬間からです」

 

 「なるほど。それは気色悪ぃな」

 

 「ええ。とても気分が悪かったです。あなたの顔を見ると」

 

 「"風紀委員長はSの可能性が高い"と………」

 

 「変なメモを取るのもやめなさい!」

 

 「おぉ、怖ぇ怖ぇ」

 

 

 いつもの敬語はどこかへ吹っ飛びキレてきた。

 『怖い』と言いながら、全くその気がしないのを察してか氷川はさらに機嫌を悪くする。

 

 

 「それにしてもお前、本当にもう一年風紀委員長をやるつもりか?」

 

 「ええ、そのつもりです」

 

 「お前ってほんと変わってるよな」

 

 「月島くんにだけは言われたくありません」

 

 「それはお互い様だ」

 

 

 ………………………

 

 

 …………

 

 

 

 氷川といるとどうも会話が続かない。

 放課後の教室に二人きりのこの状況で、相手はお堅い風紀委員長。

 互いに合う趣味もなければ共通する話題もないからな。

 

 なぜ今、おれがこの状況下に置かれているか少し時間を遡る必要がある。

 

 あれは昨日の放課後の出来事だ。

 いつも通り風紀委員の見回りを氷川とこなしてる最中だった。

 奴の知人が生徒会に立候補をするからその補佐をして欲しい、と頼まれたのだ。

 オレは二つ返事で "NO" と答えた。

 

 理由は二つ。

 一つは、その立候補者がオレの知らねぇ女だったから。

 もう一つは、単純にめんどくせぇからだ。 

 

 氷川の連れがどれだけ立派な理想を持とうが、それはただの理想に過ぎない。

 その女の可能性だけで手を貸そうなんて、考えが甘すぎる。

 そう氷川に伝えたが、『とりあえず話だけでも』と言うことで、渋々OKしたわけだが…………当の本人は未だ現れやしねェ。

 苛立つ感情が徐々に募る。

 

 

 「おい氷川。これ以上待たせるならオレは帰るが?」

 

 「確かに、少し遅いですね」

 

 「人を呼び止めておきながら自分が遅刻するとは、飛んだ非常識野郎だな。よくもまあ生徒会に入りたいだなんて言えたもんだ」

 

 「私も詳しくは聞かなかったのですが、前生徒会長と─────っ、どうやらきたようです」

 

 

 氷川は会話を止め、ドアの方を見つめる。

 遠くにいる小さな影がだんだんとこの教室へと迫り、近づいてくる。

 数秒の後、その影は教室の前で立ち止まると深呼吸をするような動作を見せ、ゆっくりとその扉を開いた。

 

 

 「お待たせして…………申し訳ございません…………。初めまして………2年B組の白金 燐子、です…………」

 

 

 深々と礼をするその女は、どこかおどおどとした様子で話し何秒経っても顔を一切上げようとしない。

 律儀、というよりただ臆病なだけか。

 ずっと震えてるし、どうやらそれは氷川に対してではなく、オレに対しての感情だろう。

 

 

 「とりあえず顔を上げろよ。そのままだと話が進まねぇ」

 

 「は、はい………」

 

 

 オレの言葉と共にこの女はゆっくりと顔を上げた。

 震える体は未だ治らない。怯える様子は、松原に少しだけ似ている。

 

 

 「お前が氷川の言ってた、生徒会長の立候補者か?」

 

 「え、えっと…………そ、その…………」

 

 「…………なんだ、オレがそんなに怖いのか?」

 

 「い、いえ……………!そんなことは…………」

 

 

 この女とのたった数回の会話で分かったことがある。

 松原とコイツとの決定的に違うところは初対面での印象だ。

 松原は怯えながらも受け答えができていたが、コイツはそれ以前の問題。

 まともに言葉を返さないどころか、目も合わせようともしない。

 氷川の推薦だからよほど強情な野郎が出てくると思いきや、結果はその逆。

 コイツはもはや、人見知りという言葉の領域を超えている。

 

 「ったく、話にならねぇな。おい氷川、代わりに説明しろ」

 

 

 オレは深いため息をつきながら、氷川にバトンタッチを要求する。

 氷川も仕方ないと言わんばかりに話し始めた。

 

 

 「彼女は私のクラスメイト。そして、同じバンド仲間でもあります。あなたの想像通り臆病なところはありますが、これまで図書委員として活動していました。それに、芸術分野においても非凡な─────」

 

 「コイツの経歴なんてこれっぽっちも興味はねェよ」

 

 「説明しろと言ったのはあなたでしょう」

 

 「気になることはただ一つだ。お前はなぜ、生徒会長になろうとしている?」

 

 

 氷川のことを無視して、率直な疑問を扉の前で立ち尽くす臆病女に問う。

 案の定、奴はおどおどとするだけで返事を返さない。

 

 オレの中で決心がついた。

 

 

 「残念だが、お前に貸してやる力はねェ。じゃあな」

 

 

 オレは机にかけてあった鞄を持ち、教室から出ようとする。

 しかし、氷川はオレの腕を掴み離そうとしない。 

 

 

 「待ちなさい!まだ話の途中ですよ!」

 

 

 意味不明に怒る氷川の手を力任せに振り払う。

 

 

 「待つも何も、一向に話が進まねェからだろうが。おどおどびくびくしやがって、そんなにオレが怖いならいっそオレなんていねェ方がマシだろうが。察しろボケッ」

 

 「ですからっ!まだ何も始まってないのに帰るなんてそんな卑劣な行為がありますか!?」

 

 「オレの質問に答えねェコイツが悪いんだろが!」

 

 「あなたが高圧的に話すからでしょう!!」

 

 「ひ、氷川…………さん…………落ち着いて……………」

 

 「だいたいお前はコイツの何なんだ!!通訳か!?他人を挟まないと会話もままならねぇ奴が生徒会長にでもなったら学校が良くなるどころか悪化するわ!」

 

 「何でもかんでもあなたの憶測だけで決めないでください!彼女には可能性があります。見かけで判断するのはよしなさいと何度言ったらわかるんですかっ!!」

 

 「そもそもこんなキョドリっぱなしの生徒会長がいてたまるかっ!こんな奴が生徒のトップになるならまだオレがやった方がマシだボケが!!」

 

 「ふ…………二人、共…………争いは……………」

 

 

 普段は話が合わないオレたちだが、いざ揉め始めるとマシンガンの如くそれぞれが不満をぶつけ合う。

 もうこうなったら止まらない。

 互いの気が済むまでこの口戦は永遠に続く。

 

 オレはもう、臆病女の存在を完全に忘れ去っていた。

 氷川もまた同様、視界にはオレしか入っていない。

 互いの口が銃口となり、言葉が弾丸として発射される。

 撃ち撃たれ。この閉鎖された空間では誰もオレたちを止めることなどーーー。

 

 

 「お、落ち着いてください!!」

 

 

 まるで砲弾のように放たれたその強い言葉が、臆病女から発せられた。

 予想だにしなかった出来事に、一瞬硬直する。

 直後臆病女の方を向くと、顔を下に向け先程と同様にプルプルと手が震えていた。

 その震えは、オレへの恐怖からではない。

 

 気迫やら、奴の本気さが窺えるものだった。

 

 

 「やりゃあできるじゃねぇか、テメェ」

 

 

 オレはこの女の意外な一面を見て嬉しく思い、笑いながら話すとそばにある椅子に腰掛けた。

 氷川は驚いた表情を出したまま何も言わず、心を落ち着かせるように静かに座る。

 

 

 「さっき見せたお前の気迫に免じて話だけ聞いてやる。そんなとこで突っ立ってねぇで、適当に座れよ」

 

 「は、はい………失礼…………します…………」

 

 

 女は深々と礼をしてから、手前にあった椅子を引き、それに座る。

 

 

 「月島くん。あなたは誰に対しても "お前" だとか、"テメェ" だとか失礼にも程があります。彼女の名前ならさっき紹介したでしょう」

 

 「あぁ?そんなのいちいち覚えてられるか。日本人口だけで一体何千万人いると思ってんだ」

 

 「誰もそんな壮大な話はしてません。はあ、このことはまた後ほど話しますから、覚えててくださいね」

 

 「ため息つきたいのはこっちだっての」

 

 

 落ち着きは取り戻したが、互いにまだ銃口は向けたままの状態だ。

 いつまた銃撃戦になってもおかしくない。

 

 

 「それじゃあ、えーっと………名前は、何だったっけか」

 

 「白金 燐子さんです」

 

 「白金か。なら、お前はこれからプラチナな。ニックネームと捉えてくれたらいい」

 

 「は、はい…………よろしく…………お願いします…………」

 

 

 なんの捻りもないがシンプルゆえに覚えやすい。

 ガキの頃に熱中した、モンスターを捕獲して戦わせるゲームのタイトルでもあるしな。

 

 

 「プラチナはなんで生徒会長になりたいんだ?」

 

 「えと………前生徒会長から………推薦、されたから、です…………」

 

 「ヘェ、スゲェじゃん」

 

 

 "前生徒会長?あぁ、あの役立たずか"。

 それが心の中の第一声として発せられたが、その言葉を心の中で閉じ込める。

 どうせ氷川が横槍を入れるのは目に見えているからな。

 

 しかしまあ、プラチナは不思議なやつだ。

 人とコミュニケーションなんてとれねぇだろう、という印象だったが学校の生徒代表でもある生徒会長から直々に指名が来たということは、よほどの統率能力があると見る。

 

 なんの成果もあげず薄っぺらい表面上の、綺麗な部分だけの学校生活を整えていただけの前生徒会長の推薦ともなると、その凄みも薄れるけどな。

 

 

 「スゲェけど、それだけが理由か?」

 

 「い、いえ……………決して、それだけでは…………」

 

 「なんだ?言ってみろ」

 

 

 プラチナは一呼吸置くと、俯きながら答える。

 

 

 「このままじゃ、嫌だなって…………。私、変わりたいんです…………」

 

 「要するにその弱気なその性格を治したいってことだな」

 

 「は、はい…………」

 

 「まあ、本音の動機としてはいいんじゃねぇの」

 

 「本音の動機?どう言う意味ですか?」

 

 「考えてもみろ。『私自身が変わりたいから生徒会長になりたいんです』なんて言われて、生徒たちはどう思う?」

 

 「だから何ですか?と、言われても仕方ありません」

 

 「そうだろ。赤の他人からすればお前の動機は不純すぎる」

 

 「な、なら…………どうすれば…………?」

 

 「月島くん。勿体ぶらず早く答えなさい」

 

 

 なにも理解できず慌てふためくプラチナと回答を急かす氷川。

 そんな二人にオレの考えを伝える。

 

 

 「乗るか乗らないかはお前次第だが、一つオレの提案を聞いてくれ。まずはだな────」

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 そして迎えた候補者演説会。

 体育館に全校生徒が集い候補者の熱弁を聞く、言わば最後のアピールチャンス。

 オレたち補佐役は演説の準備やら街頭演説まがいな事を手伝うだけで仕事は終わり。

 あとは全て候補者たち次第だ。

 

 この学校には幾つもの委員会があるがその中でも唯一、風紀委員のみ委員長候補する奴がいなかった。

 

 オレを含めた全校生徒はてっきり、現委員長の氷川が引き継いでいくのかと思いきや、本人はこれを軽く否定した。

 『他にやることがあるので』だとか『あなたには関係のないことです』だとか回りくどい言い方をするから考えないようにしてきたが────候補者がいないとでもなれば、風紀委員は解散か?

 いや、学園長のことだ。

 なにかしら対策を打ってくるだろう。

 

 だがまあ、候補者が出なかった理由は大体わかる。

 

 

 異端児(オレ)がいるからだ。

 

 教師陣ですら手に負えないオレを制御できる人間なんて学園長か氷川ぐらいだろう、と大半の生徒は考えるはずだ。

 自らこんな足枷をつけたくないだろうからな。

 

 

 ────あっ?自分で言ってて悲しくならないかだと?

 

 

 なるわけねぇだろ。全部事実だ。

 清く正しく真っ当で、綺麗な正義ばかりを貫いているやってるようではこの学園の風紀委員長は務まらない。

 氷川だってそれを重々承知のはずだ。

 

 これから風紀委員長になる奴は実に不憫だ。

 

 足枷だけにとどまらず、自分勝手に動き回る猟犬を飼い慣らす必要があるんだからな。

 

 

 「月島くん。燐子ちゃんにどんなアドバイスをしたの?」

 

 

 1人で考え込んでいると、オレの隣に座る松原が話しかけてきた。

 

 

 「たった一言だけ『下を向くな。前を見ろ』とだけ伝えた」

 

 「えっと、それだけ?」

 

 「ああ。たったそれだけだ」

 

 「だ、大丈夫かな…………」

 

 「なるようになる。それに、忘れられねぇ演説会になると思うぜ」

 

 「それはどういう────」

 

 

 松原の問いに答える前に、司会者が演説会の開始を告げる言葉を発した。

 その声と同時に、生徒会の立候補者たちが横並びで歩いてくる。

 

 プラチナは左から2番目。

 奴の他にも生徒会長になりたいと、変わった考えを持つ奴がいたそうでそいつがトップバッターを務めるようだ。

 うっすら見覚えはあったものの、オレとは全く関わりのない男子生徒。

 七三分けにした髪とでかい丸眼鏡をした容姿から、氷川と同様クソ真面目タイプだとみて取れる。

 

 オレがこういう第一印象を持った奴は、大抵が教科書通りのありふれた話しかしない。

 

 

 現に奴が話した言葉は、『生徒会長になったら学校をより良くする』だとか、『バイリンガルな生徒の育成に尽力する』だとか、抽象的で理想論だけを語る演説に思わず大きなため息をつく。

 実につまらない。

 現に奴の話に最後まで耳を傾けた生徒なんて半数もいないだろう。

 演説が十数秒たった今でも、奴がなにを言ったかほとんど覚えていない。

 

 奴の演説に協力した補佐役の人間が可哀想だと、哀れみの気持ちすら出てくる。

 

 やり切った、と胸を張る候補者と入れ替わりでプラチナが演説台に立つ。

 数度、大きく深呼吸を行いマイク越しに放たれた一言はオレ以外の生徒の度肝を抜くものだった。

 

 

 「私は………1人では何もできません」

 

 

 

……………………

 

 

………

 

 

 

 時は少し遡り、プラチナと初めて会った日。

 どのような演説をするか迷うこの女に、オレは一つ案を持ちかけた。

 

 

 『まずはだな、第一声でお前の弱気な性格を全面的に押す言葉を発しろ』

 

 『弱気な…………性格を?』

 

 『全く意味がわかりません。そんなことしたら、印象が悪くなるのは当然のことでしょう?』

 

 『勿論その通りだ。だがな、氷川。自分からそんな欠点を見せる奴が嘘をついているように見えるか?』

 

 『いえ、違います』

 

 『人の印象というのは何より最初が肝心だ。どれだけハイパーポジティブなことを語ろうと、日々の立ち振る舞いから、それは真逆だと感づかれるのはそう遠い話じゃねェ。それにありきたりなことを言っても、どうせつまらねぇ奴だと印象付けられるのが関の山だ』

 

 『なら………どうすれば……………?』

 

 『答えは単純。お前の弱気な性格を隠さず曝け出せばいい。それも、自分の評価を落とすような言葉を添えてな』

 

 『白金さん。真剣に聞かなくて大丈夫です。彼はその…………考え方が特殊というか、人一倍捻くれているんです』

 

 『おいコラッ。オブラートに包み切れてねぇぞ』

 

 『それでも、私は………最後まで聞きたい…………です』

 

 『なら、最後まで話させてもらうぞ。例えばそうだな、オレが演説台に立ったとして、「この学園の生徒から尊敬される生徒会長を目指します!」なんて言ったらどう思う?』

 

 『まず間違いなく、あなたのことを知る全校生徒は票を入れないでしょう』

 

 『その心は?』

 

 『あなたの素行を少なからず耳にしているからです』

 

 『そうそれだ。だからこそ、今の自分を隠す必要なんて無意味。むしろ逆効果だ。だからこそ、その場凌ぎの演技じゃなくありのままの自分で臨んだ方がいい。それに加え、嘘偽りない自分の本性をいうと更に良い。何せ大事な晴れ舞台、全校生徒の視線が一点に集まる演説台で自分から欠点を晒すようなバカが嘘を言っているように聞こえるわけがねェ。それで、お前を知らない生徒の第一印象と話の掴みは完璧だ』

 

 『すごい…………。どうしてそこまで…………考えられるの、ですか……………?』

 

 『決まってる。その方が何倍も面白ぇからだ』

 

 

…………………

 

 

………

 

 

 

 そして現在に至る。

 あたりを見渡すとプラチナの発した、たった一言に学園全体がどよめいている。

 それもそのはずだ。

 学校を代表する生徒を決めるこの場ではありえない発言をした上に、本人は至って堂々としているからだ。

 プラチナはこの空気を意にも介さず言葉を続ける。

 

 

 「私だけに限りません。人は、一人だけでは何もできません。スポーツ競技においても個人種目などがありますが、その人を支えるトレーナーやコーチがいて初めて成立します。それはこの学園生活にも同じことが言えます。私一人が頑張ったところでその力はほんの僅かですがこの学園全生徒の力を合わせればそれは何百、何千倍にもなるはずです」

 

 

 プラチナは一度言葉を止め、深呼吸をする。

 

 

 「今までは、生徒会が率先して学園生活をより良いものにしてきましたが、やはり全員が満足のいく学園にすることはできませんでした。それは全て、秩序だとか学園の為だと言うガチガチに固められた古い思考に他なりません。現に私は、学園長先生にこのような嘆願書を提出させていただきました」

 

 

 プラチナはそう言うと、数枚の紙を高々と上げる。

 もちろんここからでは文字が全く見えない為、代行としてプラチナが読み上げる。

 

 

 「前回行った、"学園に対しての要望" と言うアンケートを前生徒会長から譲り受けた物です。上位に位置する要望を読み上げます。

 『スマートフォンの使用を可能にして欲しい』

 『体育の授業をいくつかの競技に分け選択可能にして欲しい』

 『制服をもっとアレンジしたい』

 などが挙げられました。スマートフォンの使用についてですが、昼休みのみに限定し使用可能に。体育の授業に関しては先生方とも相談し、3つの選択を可能に。制服については、風紀委員会とも協力し正式な校則を作ると共に、生徒全員が納得のいくものにすると学園長先生に約束していただきました」

 

 

 その言葉に会場は拍手が巻き起こる。

 理想だけでなくちゃんと現実にした、その功績に対しての感謝の表れだろう。

 女子生徒もキャーキャー喚いているし、男子生徒もスマホの使用許可が下りて喜んでいる。

 

 奴はキッチリと成果を上げた。

 もう文句はないだろう。

 

 

 「これらの実現は、私一人で成し得たものではありません。これらの要望をした生徒の皆さん、そして私と共に協力してくれた月島くん、氷川さんのおかげでもあります。初めに私は、一人では何もできないと言いました。しかし、このように誰かと協力することができれば校則だって変えられるのです。これからも全校生徒の皆さんが満足のいく学園生活を送るために、私にどうか力を貸してください。私はそんな、全員で助け合えるような学園作りに尽力します。以上です。御静聴ありがとうございました」

 

 

 プラチナが深々と礼をすると同時に会場がスタンディングオベーションに包まれる。

 

 

 「決まったな」

 

 

 オレは小さくそう呟き、会場を後にする。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 次の日の放課後、学校の掲示板に選挙の結果が掲載された。

 無数の生徒で埋め尽くされていたが、オレの身長だと余裕で見える。

 結果は分かりきっていたが、生徒会長選挙はプラチナの圧勝に終わった。

 得票数は実に98%。

 オレや氷川の助力はあったものの、プラチナ自身よくやってくれた。

 

 

 ─────さて、オレが気がかりなのは風紀委員についてだ。

 生徒会役員で唯一立候補者が現れず、存続が怪しまれた委員会だが学園長「ハゲ」は一体どんな手を打ったのやら…………。

 そう考えていると、後ろから白鷺と松原が声をかけてきた。

 

 

 「あらっ、月島くん」

 

 「月島くんも見に来てたんだ」

 

 「おぉ。とりあえず、アイツは無事生徒会長になれて一安心だな」

 

 「あっ!ほんとだ!燐子ちゃん、当選してる!」

 

 

 松原が嬉しそうにはしゃぐ。

 

 

 「…………お前、見えてるのか?その身長で」

 

 「も、もちろんだよ!背伸びをすれば!」

 

 「ギリギリじゃねぇか」

 

 

 松原の横にいる白鷺に目をやる。

 そういえばコイツは、松原よりチビだったよな?

 松原でギリギリってことは……………。

 ふと白鷺に目線を向けると白鷺はニコリ笑い返す。

 笑みを浮かべるその顔とは対照的に、背後にどす黒いオーラをオレは感じ取る。

 

 『それ以上言ったら、あなたの頭をハンマーでど突いて身長縮めるわよ?うふふっ♡』

 

 と言われてるような気がしたから、オレからはこれ以上何も言わん。

 

 この女、ホント恐ろしい。

 

 

 「あれっ?風紀委員長の名前も記載されてるね名前は…………」

 

 

 おっと、白鷺(このチビ)に気を取られて大事なことを忘れていた。

 風紀委員に任命された名誉ありで可哀想な野郎は一体ーーー。

 

 

 「風紀委員長、()()()…………?」

 

 

 思わずその名前を何度も見返す。

 月島 奏?オレと同姓同名の生徒がこの学園にもいたのか。

 

 なんだ、ビックリした。

 

 そうだよな。オレがそんなものになるわけがねぇよな。

 

 

 「現実逃避してもダメよ。間違いなく、あなたの名前よ、月島くん」

 

 

 白鷺の言葉で現実に引き戻される。

 

 

 「……………っ!あのヤロオおぉぉぉぉ!!」

 

 

 オレは一目散に学園長室へと走り出す。

 

 

 「おいハゲっ!オレを風紀委員長ってどういうことだゴラァ!!」

 

 

 乱雑に開けた扉の先には対面ソファに腰掛けてヘラヘラと笑う学園長「ハゲ」とため息をつき学園長(ハゲ)の対面に腰掛ける氷川の姿が目に入る。

 予めこの出来事が起こると予想していたように待ち構える二人に怒りが込み上げる。

 

 

 「まあまあ、落ち着きなさい。あっ、もう掲示板を見たからわかってると思うけど、副会長は氷川くんに─────」

 

 「んなことはどうでもいい!!……………いや、どうでもよくはないがっ!」

 

 

 氷川が副会長になったのも驚きだが、それ以上にオレのことが第一だ。

 氷川のことはスルーして話を戻す。

 

 

 「全て学園長が決めたことです。素直に受け止めてみれば良いのでは?」

 

 「バカかっ!?オレが風紀委員長なんて務まるわけねぇだろ!!もっとマシな人選できねぇのか!?」

 

 「これでも私は真剣さ。ちなみにだが、キミの風紀委員長就任を推したのは私だけじゃない。生徒会長である白金くんもだ」

 

 「プラチナが?」

 

 「彼女の代弁をすると『月島くんにはこれからも私を支えて欲しい。そして私も彼を支えられるようになりたい』だそうだ」

 

 「理由になってねぇだろうが…………」

 

 

 要らぬお節介を受けた。

 今のオレからはその言葉しか浮かんでこない。

 深くため息をつき、頭を抱える。

 

 

 「安心してください。私は副会長と言えど、風紀副委員長も兼任していますので」

 

 「そうかよ、それは助かる」

 

 「とりあえず納得してくれてよかったよ。はははっ」

 

 「納得はしてねぇよ!はぁ………何でオレがこんな面倒な役目を…………」

 

 「あなたも身を持って知ればいいと思います。書類管理に委員会議、校内の活動に生徒会議。やることは目白押しです」

 

 「面倒なことは全部お前に丸投げするから覚悟しろよ?」

 

 「絶対に逃しません」

 

 「言ってろ」

 

 「それじゃあ、決まりということでいいんだね?」

 

 「…………あぁ。やることは今までと何も変わらねぇぞ?」

 

 「もちろん。期待しているよ」

 

 

 不本意ながらオレは風紀委員長になることを承諾した。

 

 

 

 ─────それと同時にオレの知らないところで不穏な動きがあった。

 誰も近づくことのない路地裏。

 悪人たちのホームグランドであるその場所で、ある事件が起きた。

 

 

 花咲川学園女子生徒に対する暴行事件。

 

 

 被害にあった生徒は全員意識不明の重体。

 犯人は不明。

 手がかりになる痕跡も残っていないことから相当なやり手だと見解されたそうだ。

 

 そして場所は移り変わりとある無人倉庫にて。

 数十人の不良共を従えた野郎が、声高々と宣言する。

 

 

 「準備は整った。これより、月島 奏及び花咲川学園との全面戦争を開始する!」

 




いかがだったでしょうか?

月島くんの人物像を解釈させていただくと、彼は非常にめんどくさがりやです。何事もとにかくめんどくさがります
イメージは…………そう、NARUTOに出てくる初期のシカマルです。
ですが、やると決めたら必ずやり遂げる。
自分が面白いと感じたら率先して行うというのが月島くんです。
要は気分屋ですね(笑)
紗夜さんも彼の面倒をみるのは非常に大変でしょう。
月島くんもそれをわかっているからタチが悪い(笑)
頑張れ、紗夜さん。

そして次回から本格的に物語の核心に迫ります。
長々となりましたが、どうぞご期待ください
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