高嶺の華と路傍の花   作:山本イツキ

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お久しぶりです、山本イツキです。

たくさんのお気に入り登録、評価、感想ありがとうございます。


今回は紗夜さんメイン回になります。

紗夜さんがあんなことやそんなことを……………


第20輪 花を枯らす害薬

 生徒会長がプラチナに変わってから色んな校則が見直された。

 服装、頭髪、携帯等の持ち込み物などなど曖昧だった校則も全て見直され明言されるようになったのだ。

 あの生徒会選挙が終わった後からもキッチリと目に見える実績を残す生徒会を支持する声は増す一方で、今まさにこの学園は新しく生まれ変わろうとしている。

 

 そんな中、オレはというと─────。

 

 

 「あーーっ…………今から風紀委員会議を行うが、特に何も異常はないな?」

 

 

 不本意な役を担い、月に一度行われる委員会議に出席している。

 これまでは全て氷川に丸投げしていたが、風紀委員長となった今それをすることは許されない。

 

 現にオレの隣で副会長兼副委員長様はこちらを睨んでいる。

 

 

 「…………よしっ、何もないな。それじゃあ解散─────」

 

 「できる訳ないでしょう」

 

 

 面倒な会議を即刻終わらせようとすると、副委員長は横槍を入れてくる。

 

 

 「んだコラっ。今のこのご時世、時短だ時短だと人が密になる時間を極力割いているってのに、オマエはオレの配慮を踏み躙ろうってのか?」

 

 「あなたが変に圧力をかけるから皆さんが怯えて何もいえないだけです」

 

 「そんな訳ねぇよな?なぁ!?」

 

 

 オレの問いかけに委員共は下を向いたり、巻き込まれないようにと上の空を見る。

 ハッキリしないのは大嫌いだが、脅したところで氷川がまたゴチャゴチャいってくるのは目に見えている。

 

 

 「結果が目に見えています」

 

 

 オレは大きくため息をつき、進行を氷川に委ねた。

 

 

 「皆さんもご存知かと思いますが、ここ数日間で何人もの生徒が何者かに暴行を受けています。夜は極力出かけず、一人にならないように心がけてください」

 

 「困った時はちゃんと119番通報しろよ」

 

 「学校にかけても構いません」

 

 「もしくは、フリーダイヤル0120- *******(パパとママは今晩もプロレス?)にかけてくれれば頼り甲斐のある酔っ払いマッチョ軍団がすぐにでも駆けつけてくれるから覚えとけよ」

 

 「そんな読み方ありません!」

 

 「ちなみにだがこの番号、ありとあらゆる携帯機器だと通じないから要注意な」

 

 「どうやってかけろというんですか!?」

 

 

 先ほどまで重苦しかった空気だった教室が笑い声に包まれる。

 今度は氷川が大きくため息をつき、最後のまとめの言葉をオレに委ねた。

 

 

 「とにかく野郎と遭遇した場合は金的を狙え。いいな?」

 

 

 委員共は口々に返事をし、教室を後にする。

 教室内がオレたち二人だけになった時、ずっと腕を組み眉間に皺を寄せていた氷川の口が開く。

 

 

 「全く、あなたは風紀委員長としての自覚はあるんですか?」

 

 

 氷川の口ぶりから、オレに対する怒りを感じる。

 

 

 「自覚も何も、勝手に任命しやがったのは学園長(あのハゲ)だろうが。お前がどう言おうがオレの好きにやらせてもらうぜ」

 

 「はあ…………先が思いやられます」

 

 

 氷川はわざとらしく、ため息をつく。

 

 

 「別に不安を煽る必要はねぇんだよ」

 

 「なぜですか?危機感を持たないと、いざという時に何もできないでしょう?」

 

 「出会した時点でやられるのは目に見えてるのに、危機感もクソもねぇだろ」

 

 「それは確かにそうですが………」

 

 「だから最低限、"集団行動をとる"、"誰かに頼る"ことの2つだけ頭に入れとけば助かる確率はグッと上がる。現に今まで襲われた奴は皆、"()()"、"()()()"出歩いてる奴だったからな」

 

 

 氷川はオレの話に納得したのか無言で頷き肯定した。

 

 

 「結局は暴行を受けただとか、何人もの生徒がやられてる、なんて話は無駄なんだよ」

 

 「それじゃあ、あなたが話したあのくだらない電話番号はなんなんですか?アレも私にとっては無駄だと思いますが?」

 

 「生徒を不安がらせないためのボケに決まってるだろうが。それにオレって野郎はどうも怖がられてるみたいだからな。少しはユーモアに接してやらないと誰も頼ろうとしねぇだろ?」

 

 「………本当にあなたは捻くれてますね」

 

 「要領がいいと言え、バカ真面目」

 

 「なっ!?」

 

 「だからこそオレたちが今やるべきことは─────」

 

 

 オレは氷川に背を向け歩き出す。

 

 

 「校内外の見回りをして1日でも早く犯人を見つけることだろ?」

 

 

 そのまま教室を後にし、見回りを開始した。

 暴行事件が起こってからちょうど3日。

 水面下に潜んだ悪人は必ず顔を出す。

 それまでオレはじっと待とう。

 

 オレの拳に力が入る。

 

 

 「オレの監視領域(テリトリー)で被害者を出した時点で、オレは負けてるんだよな…………クソッ!」

 

 

 この嘆きは誰の耳に入ることもなかった。

 

 

………………………

 

 

………………

 

 

 

 見回り、というのは建前でオレはある場所へと向かっていた。

 そこは今やオレの第二のサボりスポット。

 部活動。基、茶道部以外で使うことはないその部屋は、和を象徴とする畳部屋で物音一つすらろくにしない静けさを持つ。

 茶道部と言っても所詮は名ばかりで、そのほとんどが幽霊部員。

 オレが会ったことあるのも、せいぜい3人だけだ。

 

 

 「邪魔するぜ」

 

 

 何の前触れもなくその和室に入ると、二人の姿が目に入る。

 

 

 「あっ、月島くん!いらっしゃい!」

 

 

 一人はクラスメイトの松原。

 

 

 「………………コクッ」

 

 

 もう一人はヨボヨボの婆さん。

 茶道部の顧問らしいが、話しているところを見たことがない。

 

 一応伝えておくと、今ここにはいないがもう一人ちゃんとした部員がいる。

 一年生のどっかの国のハーフ女子で、外人特有の日本文化大好き女だ。

 松原同様人当たりがよく唐突にここへきても嬉しそうに歓迎してくれる変わった奴だ。

 

 

 「いつもいつもホント悪いな。二人の静かな空気を壊しちまって」

 

 

 悪びれもなくそういうと、松原はオレをもてなすかのようにお茶と茶菓子を差し出す。

 今日は…………ほお、栗羊羹か。遠慮なくいただこう。

 

 

 「私は全然構わないよ。風紀委員の見回りはもう終わったの?」

 

 「いや、まだまだこれからだ。少なくとも今じゃねェ。……………苦っ!」

 

 

 差し出された茶を一口啜る。

 コーヒーとはまた違う苦味。

 決して悪くはないが、まだオレの舌ではその旨さがわからん。

 

 だからこそ、絶対に『結構なお味で』なんて口にしない。

 

 

 「風紀委員長になってやっぱり大変だよね」

 

 「氷川のサポートがあるから全然苦ではねぇよ。問題があるとしたら、アイツと考えを共有することができないことだな」

 

 「よく喧嘩してるもんね………」

 

 

 松原は表情を曇らせながら話す。

 

 

 「喧嘩というか、反発というか、氷川はとは分かり合える気がしねぇんだよなぁ。そういえば、今日の風紀委員会議も揉めてよ。何でもかんでも噛み付いてきやがるから、ツッコムのもめんどくせぇよ」

 

 「それでも、楽しんでやれてるんじゃないかな?」

 

 「松原にはそう見えるのか?」

 

 「うん!私にはそう見えてるよ」

 

 

 松原は満面の笑みで返す。

 

 

 「………………変な奴」

 

 「えへへ」

 

 「なあ。一つ聞きたいことがあるんだが、真剣に答えてもらってもいいか?」

 

 「うん?いいよ?」

 

 

 オレはもう一度茶を啜り、一呼吸置く。

 

 

 「お前─────他人に怒りとか感じたことはねぇの?」

 

 

 その質問に松原は考える間も無く即答する。

 

 

 「怒り?特にないかな」

 

 「はっ!?おまっ、イラってすることねぇの?」

 

 「私ね、自身おっちょこちょいというか、ドジだから、人に迷惑をかけることが多いんだ」

 

 (…………知ってる)

 

 「だから私は人には優しくしたいと思うんだ。私自身そうやって接してほしいし、そうなっていくためにまず私からやろうっ!という感じかな」

 

 

 実に立派な思想だ。

 コイツの懐の深さは、こういった考えから生まれるんだとおもい知らされる。

 

 

 「松原」

 

 「どうしたの?」

 

 「お前、本当に人間か」

 

 「えっ?………えぇ!?」

 

 「婆さんもそう思うだろ?なぁ?」

 

 

 そう問いかけると、婆さんはニコリと笑う。

 

 

 「どうしてそう思うの?」

 

 「この世の生物の中で人間ほど薄汚ねぇのはいねぇと思うんだ。無駄な争いを好み、集団生活しかできねぇくせに他人を妬みあまつさえ危害を加えようとする。なのにお前にはそれがねェ。何故だ?オレには全くわからん」

 

 「そ、そんなこと言われてもなあ………」

 

 「少しでも心当たりはねぇの?家族、友人、クラスメイトでも何でもいい」

 

 「無いものはどれだけ考えても無いよおー!」

 

 

 どうやらコレが松原の本心らしい。

 ホント、こっちがドン引きするぐらい良い性格してやがる。

 

 

 「そうか、問い詰めるようなマネして悪かった」

 

 「ううん、気にしないで」

 

 「逆にお前はオレに聞きたいこととかねぇの?」

 

 「聞きたいこと?」

 

 「ああ。答えれる範囲内なら何でも答えるぞ」

 

 「そ、そうだなあ。うーん…………」

 

 

 松原はじっと考える。

 

 

 「じゃあ、これからは月島くんのことを下の名前で呼んでもいいかな?」

 

 「なんだ、そんなことでいいのか?」

 

 「うんっ!せっかく友達になれたんだしね!」

 

 「別に構わねぇけど。なんて呼ばれようが気にしねぇし」

 

 「ありがとう!()()()!」

 

 「っ…………!」

 

 

 唐突に下の名前で呼ばれるとなんだか変な気分になる。

 上手く言えねぇけど、きっとアレだ。

 むず痒い気持ちというやつだ。

 

 

 「慣れねぇなあ、当分は」

 

 「私のことも『花音』って呼んでいいんだよ?」

 

 「……………いや、別にいい」

 

 「なんでっ!?」

 

 「だが、その時がくればそう呼ばせてもらう。松原」

 

 「わかった、待ってるね」

 

 「お前がそこの婆さんみたいになるまで松原って呼び続けても恨むなよ?」

 

 「それでも─────()()()()()?」

 

 「くっ!な、何なんださっきから!!」

 

 「な、何もしてないんだけど…………」

 

 「────あ、ああ、もうこんな時間か!そろそろ見回りに戻らねぇと、氷川にバレちまう。今日も奴に何か聞かれても黙秘で頼むな。邪魔したな、また明日!」

 

 

 オレは強引に部屋を後にする。

 今は気持ちが落ち着かないと言わんばかりに心臓がバクバクいってる。

 運動した後とは違う心臓の動き。

 これ以上あの部屋にいたらオレはどうなっていたのか、オレ自身わからなかった。

 

 いや、考えたところでわかりやしない。

 本人が意図していない言動ほどわかりにくいものはない。

 純粋というか、無垢というか…………松原はそう言った類の典型的なタイプだ。

 

 さっきの松原の言葉、表情。

 白鷺千聖(あのチビ)よりよっぽど恐怖した瞬間だった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 月島くんと別れて数時間。

 学校内だけでなく、校外にも捜索範囲を広げたものの何の足取りも掴めないまま下校時刻寸前の時間を迎えた。

 私は再び風紀委員会議で使用した教室へと戻り彼の到着を待つ。

 

 そう待たないうちにその時は訪れた。

 

 

 「お疲れ様です。進捗はどうですか?」

 

 「残念ながら空振りだ。犯人の"は"の字も出てきやしねェ」

 

 

 月島くんはお手上げと言わんばかりのそぶりを見せる。

 

 

 「私も同じでした。もう犯人はすでにこの近辺から離れたのでは?」

 

 「何人もの生徒に手を出したんだからな。そろそろ学校だけでなく警察(サツ)も動き出すと考えたんだろう。現に学校周辺の警備も強化されたところだしな」

 

 「完全に行き詰まった、ということでしょうか」

 

 「オレたちは探偵じゃねぇんだ。犯人探しはあくまで大人たち(あっち側)の仕事だろ?」

 

 「しかし……………」

 

 「お前の気持ちもわかる。だがな、こっちの手札はあまりに乏しい。向こうは防犯カメラの映像も見れるし、警察犬だっている。対してこっちは聞き込みか見回りぐらいしかできることがねェ。あくまでオレたちは子供でしかねぇんだよ」

 

 

 彼の意見はもっともだ。

 それでも、被害にあったのはこの学校の生徒たち。

 身内に被害者が出た以上身内だけで解決したいところだけれど…………現実は厳しい。

 

 

 「それでも私たちがしていることは決して無駄では無いはずです。もうしばらく見回りを続けましょう」

 

 「そうだな。ったく、ホントこの学園はトラブルがつきねぇよな」

 

 「ええ。全くです」

 

 「まさかこの近辺に事件を呼び寄せる小学生探偵がいるんじゃねぇよな?だとしたらもう手の打ちようがねぇぞ?」

 

 「…………一体何の話をしてるんですか?」

 

 

 私がそう問いかけたと同時に下校時刻を告げるチャイムが鳴り響く。

 

 

 「おっ、もうそんな時間か。オレらも帰るぞ」

 

 「そうですね。テストも間近で部活をしている生徒もほとんどいないみたいですし、見回りは必要ないでしょう」

 

 「だな。オレは学園長に呼び出しをくらったから寄ってから帰るが、お前はどうする?」

 

 「私もこのまま帰ります。特に予定もないですし」

 

 「おいっ、まさか『()()()()()』なんて言うんじゃねぇだろうな?」

 

 「もちろんそのつもりはありません」

 

 「ならいい。妹にでも頼みやがれ」

 

 「そのつもりです」

 

 「間違っても一人で帰ろうなんて考えるんじゃねぇぞ?」

 

 「わかっています!もう、私は子供じゃないんですよ?」

 

 「ハハハッ、そうだったな。人を下僕(イヌ)のように扱える奴はもう立派な大人だ」

 

 「揶揄わないでください!!」

 

 

 ケラケラと笑う彼の前を通り過ぎ、強引に教室を後にする。

 部屋を出ると同時に日菜に電話を入れる。

 ────しかし、一向に出る気配がしない。

 ほとんど日菜に電話することはないけれど、私が日菜に電話をかける時はワンコールも経たないうちに出るはずなのに。

 こう言う時に限って…………いや、この間の悪さこそ日菜らしいと言うべきか。

 

 全生徒が下校し、月島くんも学園長と話があると言った今、私の頼れる人は完全に居なくなってしまった。

 月島くんの帰りを待つことも選択肢の一つだろうけど、学校のすぐそばに帰る家がある彼にとっては面倒であると思うに違いない。

 

 

 『間違っても一人で帰ろうなんて考えるんじゃねぇぞ?』

 

 

 彼の言葉が頭をよぎる。

 だけど、これほど警察が蔓延る中、犯人だって迂闊に動けないはず。

 こんなことでお母さんやお父さんに迷惑はかけられない。

 

 私は携帯画面を閉じ決意する。

 

 

 「────私一人でも大丈夫、よね」

 

 

 彼の言葉を無視し、自己判断で帰路についた。

 

 

 

……………………

 

 

…………

 

 

 

 時刻は18時を経過した。

 冬へと着々と進みつつある秋空はすでに暗黒模様。

 まるで暴行事件に難儀する私たちを示しているようでどこか気分が悪い。

 街頭も所々で光るだけで視界が悪く、人通りもあまりない。

 たまに警察官の方々ともすれ違うけれど、どこか疲れ切った表情をしている。

 彼らも私たちと同じ。

 なかなか犯人が見つけられず寝る間も惜しんで捜査に励んでいるんだろう。

 本当に申し訳ない気持ちでいっぱいな気持ちなのと同様に、犯人への怒りにも似たものが溢れている。

 

 不甲斐ない自分に腹が立つ。

 

 

 (そういえば今まで暴行を受けた生徒は、"夜に"、"一人で" いたからだったはず………)

 

 

 フッと私はある考えに行き着く。

 『放課後に見回りをした意味は、決してなかったのでは?』と。

 

 真っ暗な時間。

 人通りの少ない場所。

 単独行動をする私。

 

 犯人にとってこれほど好都合な相手はいない。

 

 

 (…………背に腹はかえられませんね)

 

 

 さっき彼に対して見せた態度は謝ろう。

 そして彼に家までついてきてもらおう。

 

 そう決心したその時だった。

 

 

 「──────きゃっ!」

 

 

 突如腕を掴まれた私は、人が複数人も通れない狭い十字路に体を吸い寄せられた。

 景色が光が全くささない真っ暗な場所へと映ると、背後にいる見知らぬ影が私の体を抱き寄せる。

 

 

 「グフフッ、捕まえた♡」

 

 

 耳元に聞こえるその声は、あまりに不快で下品。

 

 

 「キミ、花咲川の生徒だろ?スタイルいいねぇ、何年生?」

 

 

 不敵に笑う男の声に体の震えが止まらなくなる。

 抵抗しようとするも、腕でガッチリと抑えられ身動き一つ取れない。

 

 

 「あなた…………こんなことして、タダで済むと…………思っているの……………?」

 

 「タダで済む?その言葉をそのまま返すね。キミ、今からナニをされるかわかっているのかな?」

 

 「っ!!」

 

 

 私の体を抑えつけていた男の手は徐々に、足下半身、そして胸へと動く。

 片手で私の胸を揉み、もう片方の手はスカートの中を弄っている。

 とても不快。

 縮こまった私の体ではもはや声を出すこともできず、男のされたい放題となる。

 

 

 これも全て私の責任。

 

 

 日菜を頼らなかった。

 彼を頼ることができなかった私のプライドのせいだ。

 背後にいる変質者だけが悪いだけじゃない。

 

 この男に狙われるような状況を作ってしまった私が全ての原因だ。

 

 

 「おやっ?抵抗しないんだね!グフフッ、ボクのテクニックに感じちゃったのかな?」

 

 

 気持ち悪い言葉を吐く男は上機嫌に話す。

 対して私は案山子同然。

 身動き一つ取れず男の思うがままになる。

 

 

 「そろそろ我慢できないし…………ヤッちゃうよ?ほら……………ボクのも興奮してこんなになったんだよ……………」

 

 

 男はズボンのファスナーをおろす。

 

 

 「キミも初めてかな?グフフッ、ボクは初めてなんだ〜。キミみたいな可愛い女の子で童貞卒業できるなんて嬉しいな〜。それじゃあ、いただき────」

 

 

 男の言葉が途中で途絶える。

 それと同時に私の体を触れていた手が離れると同時に、『ドカッ!』という鈍い音が耳に入る。

 

 

 「グホッ!?」

 

 

 驚く声のする方に顔を向けると、男は数メートル飛んでいた。

 

 

 「うっ、うぉぉおぉぉあぁぁ…………」

 

 

 あまりの痛みからか脇腹を必死に抑え、目には涙を浮かべている。

 

 

 (一体何が…………!?)

 

 

 困惑する私の前に、見覚えのある金髪メッシュの男子生徒が宙に浮く姿が目に映った。

 着地するや否や、変質者の間合いに一瞬で詰め寄り驚く顔面に二度両拳のストレートを打ち込み、最後は顎を蹴り上げ男はノックダウン。

 

 そこにはボロボロに打ちのめされた下半身露出男と、両拳を強く握り仁王立ちで佇む男子生徒という構図が映る。

 私は乱れた服を元通りにしながら、彼の元へ駆け寄る。

 

 

 「月島くん!!」

 

 

 彼の名前を強く呼びかけると、月島くんは目を強張らせ今にもこの男に襲い掛かろうと言わんばかりの怒気にも等しい形相だった。

 

 

 「────おいっ、大丈夫か?」

 

 

 唐突に私を気遣う言葉が投げかけられ、彼の口から本当に出たものなのか疑いの眼差しを向ける。

 

 

 「わ、私なら問題ありません」

 

 「嘘つけ。この変質者にエロいことされたんだろ」

 

 「そ、それは…………」

 

 「オマエが何と言おうと、コイツにはそれ以上の屈辱を受けさせてやる。安心しろ。まずは顔面の骨を粉々にすることから始める」

 

 「そこまでしなくて結構です!」

 

 「じゃあこの小っせぇ股間を裂く。鎌か何か持ってるか?」

 

 「だから、私はもう大丈夫だと言っているでしょう!?」

 

 「だがな──────」

 

 「…………ふんっ!」

 

 

 何かと制裁を加えたがる月島くんに向かって私は、股間目掛けて思い切り蹴りを入れた。

 予想外の行動に彼は対処することができずノーガードでそれを受ける。

 側で倒れる変態男の隣で蹲り、声にならない声を発しながら股間を抑える。

 

 私には決して知ることのない痛み。

 彼はそれを直に感じているんだろう。

 

 

 「て、テメェェェ…………」

 

 「月島くんは委員会議で言いました。『野郎と遭遇したら金的を狙え』と」

 

 「相手が違うだろぉがぁぁ………」 

 

 

 彼は姿勢を崩したまま途中呻き声を発しながら蹲る。

 

 

 「この男にはあなたが十分制裁を加えました。これ以上は入院どころでは済まなくなります。なので、私の判断で止めさせていただきました。ですが、あの…………やり過ぎてしまったことは謝ります。ごめんなさい」

 

 「…………氷川にも付いていれば分かる。この痛みがな…………。だが、お前を責める気は微塵もねェ。だから早く、警察と救急車、それから────」

 

 「酔っ払いマッチョ軍団とやらは呼ぶつもりはありません」

 

 「く、クッソォ…………」

 

 

 月島くんはぐったりと倒れ込みピクリとも動かなくなるのを確認し、私はすぐさま携帯を手に取り各番号へ連絡を入れる。

 もちろん彼の言う冗談には付き合わない。

 数分もするとパトカーと救急車が一台ずつ到着し、変質者は救急車へ。

 私と月島くんはパトカーへと乗り込む。

 

 現場を見るや否や、警察の方々は私を襲ったのは男二人で、私がそれを撃退したと勘違いしていたけれど私は全て否定。

 私には顔が凹むほどのパンチなど打ち込めない。

 救急車が到着しても尚、月島くんは蹲ったままだったので『あなたも救急車に乗ったほうがいいのでは?』と尋ねたところ、『問題ない』と多量の脂汗を流しながら答えたので私と同乗した。

 

 あくまで彼はクールを気取りたいらしい。

 

 同い年の女子高生に膝をついたことがそんな屈辱なのかしら?

 

 男の子の考えてることって本当にわからない。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 後日、私は何事も無かったかのように登校した。

 もちろん両親や日菜、学校にもこの事件を知られ非常に心配をかけたと反省している。

 日菜に至っては大量の涙を流しながら私に抱きつき大泣きされてしまった。

 本当にあの娘はアイドルとしての自覚があるのかしら。

 

 月島くんも、私を助けてくれたとはいえ変質者の体を大分メチャメチャにしたようで、下顎骨粉砕骨折等の重傷を負わせてしまい警察の方々にはキツく注意を受けていた。

 しかし彼のこういった騒動は見慣れているらしく、あくまで私を守るために行った暴行ということで停学及び退学といった処分は一切降りることはなかった。

 

 だからこそ、私は今こうして彼の横を歩いている。

 

 

 「昨日は本当に助かりました。感謝してもしきれません」

 

 

 私は深々と頭を下げる。

 しかし彼はどこか納得がいっていないようで、やや不機嫌である。

 

 

 「オレはオマエに受けた蹴りのせいで、ずーーーっと耐え難い苦しみを味わっていたわけだが…………それに対しての弁解は?」

 

 「月島くんを止める為には、ああするしかありませんでした。弁解の余地はない、と言いたいところですが仕方のないことだと割り切ってください」

 

 「ざけんなっ!こちとら警察(サツ)から犯人扱いされるわ、お袋からゲンコツ食らうわで散々だったんだぞ!!」

 

 「それはアナタの日頃の行いの所為です」

 

 「んだコラァ!!」

 

 

 怒鳴り声をあげる月島くん。

 私たちの話を聞いてか、学園の生徒たちが群がってきた。

 

 

 「何?また委員長と副委員長が言い争ってるの?」

 

 「二人って付き合ってたり?」

 

 「痴話喧嘩かな」

 

 「もう見慣れた光景だよねー」

 

 

 野次馬たちはあろうことか憶測でしかないことを口にし始めた。

 

 

 「おいコラッ!!見せもんじゃねェぞ!!」

 

 「風紀委員長〜、隠さなくてもいいんですよ〜」

 

 「黙れっ!!!」

 

 

 野次馬たちが一斉に笑い出す。

 月島くんは顔を紅潮させ、怒りをあらわにする。

 

 

 「はぁ…………本当に恥ずかしい……………」

 

 

 私はため息をつき呟く。

 慌ただしい日々がまた始まった。




この手の犯人は本当に怖いです。

奏くん、紗夜さんを救ってくれて本当にありがとう。


次回、奏くんが今までの報いを受けることになります
どうぞお楽しみに
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