今回はかつてないほど残酷な描写が多数含まれています。
お気をつけてご覧ください
学期末試験。
それは、学生ならば誰もが頭を悩ます行事の一つ。
それは女優である私も例外ではなく、紗夜ちゃんみたいに学年トップクラスとは言わずとも平均以上の点を取れるように勉強してきた。
今日がその本番なのだけれど………未だ二人の姿がない。
月島くんと花音。
サボりがちな彼なら "そのまさか" を起こしえるけれど、あの真面目な花音が試験日に休むなんてとても考えられない。
花音がいくら方向音痴と言っても、通い慣れた登校道で迷うはずもないからその線は考えにくい。
心配で心配で、今すぐにでも探しに行きたいけれどその衝動を必死に抑える。
「はい、それでは試験を開始します。欠席は………月島くんと松原さんですね。まず、筆記用具ですが─────」
担任の先生が淡々と説明に入る。
どうやら二人がいないことはあらかじめ知っていたような口ぶりだったけど、本当に大丈夫か不安な気持ちでいっぱいになる。
もしかしたらただの風邪かもしれない。
けれど、私の勘はこう囁いている。
『二人は何らかの事件に巻き込まれたんだろう』と───────。
◆◆◆
とある廃倉庫にて。
オレの携帯に着信を入れた野郎が指定したこの場所に単身丸腰で乗り込む。
「随分物騒なとこだな」
何故今オレがこんな状況にいるかというと、今から小一時間前に遡る必要がある。
嫌々、学期末試験を受けに行こうと家を出ようとした時だった。
オレの携帯に一件の着信が入った。
送信主は不明。
携帯には非通知、とだけ記載されておりオレは渋々その電話に出た。
『誰だ』
やや高圧的に答えると、電話越しの野郎は不敵に笑いオレを挑発する。
『迷惑電話なら切るぞ。さっさと名乗れ。テメェは誰だ』
それでも笑うことをやめなかった野郎に腹が立ち、通話を切ろうとしたその時だった。
『ウフフッ、お久しぶりね。月島 奏くん』
『…………!?テメェ、北谷か』
『フフッ、せいかーい♪』
嬉しそうに話す送り主は、羽丘の女帝という異名を持つ不良女。
そしてオレを歪めた張本人。
北谷 桃子からだった。
『オレに一体何のようだ?どうしてこの番号を知っている?一体何が目的だ?』
『そんないっぺんに言わなくても、後で全部答えてあげるわよ。だから今は一つだけ答えてあ・げ・る♡』
奴はそう吐き捨て通話を切ると、一通のメールを送りつける。
そのメールには一枚の写真が添付されていたんだが…………まあその写真がびっくり。
手足を縛られた状態の松原がそこには映っていたのだ。
再度着信音が鳴り、一コールも待たずして通話に出る。
『写真、見てくれたかしら?』
『テメェ………松原に何をした!?』
思わず声に力が入る。
北谷はその様子すらも面白いと言わんばかりに笑う。
『まだ何も、とだけ伝えておくわ。今から一時間以内に、市内の海沿いにある大きい廃倉庫に一人で来なさい。もしも警察に伝えたり、一人で来なかったりしたら…………どうなるかわかるわよね?』
『バーカ。どうなるかわからねぇのはオマエの方だ。松原に手ェだしたら、髪の毛全部むしり取ってやるよ』
『ウフフッ、あなたとの再会を楽しみにしてるわ。私は素手で
そして再び通話が切れる。
オレはすぐ学園長に電話を入れ、今の状況を伝えるとすぐさま家を飛び出した。
家の駐輪場に止めてあるバイクを取り出し、スピード違反なんてお構いなしの速度で廃倉庫へと向かった。
─────そして現在。
乗ってきたバイクを廃倉庫の前に停車させ、正面から堂々と入る。
オレの視界に入る限りは誰もその姿を捉えることはできない。
中は暗く、天井の僅かな隙間から木漏れ日のように指す光のみ。
オレはだだっ広い空間の中に一人、仁王立ちする。
そこで一度息を大きく吸い────────
「北谷いいいぃぃぃぃ!!」
倉庫の外からでも聞こえる声量で奴の名を叫ぶ。
それでも奴は一向に姿を表すことはない。
「月島 奏が来てやったぞ!さっさと出て─────」
話している最中に、ヒュンッ、という風切り音が聞こえたと思いきや、右足に激痛が走る。
「…………ッ!?」
痛む右足を確認するため一瞬目線をおろしたその時、正面から何者かが猛ダッシュでこちらとの間合いを詰め、拳を振り抜く。
間一髪で後方に飛び込みながら躱し、強襲者と距離を取る。
再度右足を見ると、多量の出血と共にあるものがぶっ刺さっていた。
それは、クロスボウで使用する太く短い矢。
脚は貫通していなかったが…………それを差し引いても激痛が全身に巡る。
「おいおい、シャレになってねぇぞ…………」
まさかここまでやるとは─────
足に刺さった矢を引っこ抜き投げ捨てると、そこからさらに血が流れ出してきた。
動きづらいから抜いたはいいものの、足がズキズキとさらに痛む。
矢を放った奴もどうやら姿を隠したらしく、その影を見ることもできない。
次もまた同じように足を狙われたら、The・エンドかな。
目を凝らし強襲者の方に顔を向けると、わざとらしい拍手をしながら不敵に笑う北谷の姿が目に映る。
白のトップクを羽織り一端のヤンキーを気取った格好をしてやがった。
「ニ射目を躱したのは素直に褒めておくわ。流石よ、月島くん」
神経を逆撫でするようにオレを褒め、煽る。
「人に向かってクロスボウを放てる手下がいるなんて、驚いたぜ。どうやらそいつの恨みも随分かってるらしいな、オレって人間は」
オレも無理に笑みを浮かべ余裕の態度を示す。
「フフフッ、アナタは正義の味方面して色んな人を殴り回っていたものね」
「流石は羽丘の女帝!厨二病満載の肩書を持つだけのことはある。情報は全て筒抜けだったってか?」
「アナタもよく覚えているでしょう?同じクラスの種村さん」
種村。文化祭で白鷺千聖を痛めつけた三人組のリーダー格だった女だ。
確か奴は北谷と接触して暴行のイロハを叩き込まれた。
北谷の口から種村の名前が出るのは不思議ではない。
「ああ、よーく覚えてるぜ。人にナイフを突きつける危ねぇ女だったな」
「もちろん、私が教え込んだからよ?まあ恨みが強いだけで何の才能も感じなかったのだけれど」
「冷てぇなァ。
「アナタ相手とはいえど何かしら傷を負わせないと意味がないわ。せっかく武器を持っているのだからね。それで手も出せずに終わるなんてクソ、ゴミ以下よ。フフフッ」
笑顔で罵倒する北谷。
コイツに限ってではないが、女ってのは考えることがえげつない。
男なんかよりもその本性はドス黒く陰湿。
オレにとっては、国民的アニメのガキ大将が可愛く見えるほどに。
「クククッ、
オレがそう問いただすと、北原から笑みが消え虚ろ目を開き口を閉ざす。
ただただ冷徹なその目は今までにない、新しい北原と見て取れた。
だが、何も話さなければ進展しない。
オレは再び問いかける。
「おいおい、だんまりなんて卑怯じゃねぇか。オレは今日、大事な大事な学期末試験をポシャってここにいるんだからよ」
オレがヘラヘラと笑いながらそう言うと、北原は何も言わずフィンガースナップをする。
その音を聞きつけ、廃倉庫の至る所から柄の悪い野郎たちがぞろぞろと湧いてきた。
数にして八。
手にはそれぞれ、バット、鉄パイプ、木刀、スタンガンらしきものなどなど目白押し。
階段で上がれる高所にはさっきオレを脚を射抜いたクロスボウを持つ野郎もいる。
全員が鋭い目つきでオレを睨み、今にも襲い掛かろうとしている。
「ハッ、素手でやると言っておきながらこのザマか。全く、汚いにも程があるぜ」
「言ったはずよ。
「なるほどな。オマエ単体は素手と言っておきながら、取り巻きたちが着実にオレのスタミナを削り最後は
「アナタが私の手で、この場所で、虫ケラのように死ねばそれでいい。身体的にも、精神的にもズタズタにね。さあ、余興もこれでおしまい」
「本番はこれからってか…………。もう少し、怪我人を労って欲しいんだけどな!」
オレは腰を低くし身構える。
戦闘体制を整えるのはいいものの、明らかにオレの分が悪すぎるな。
コッチは丸腰の上に右足の負傷。
対して向こうは武器を手に取る取り巻きたちと、女帝とまで恐れられる北谷の存在。
過去にも危険な武器で脅されたことはあったものの、あの程度の小物は本気で殺そうとはしない。
対してコイツらは全員が同じ意思で、オレに向けて殺意を抱いている。
こういう相手は正直手強い。
北谷はともかく、野郎から先に片付けるか─────。
「オマエらがどんな手を使ってこようが関係ねェ。既に承知してるとは思うが、オレは女だろうと知らねぇ人間だろうと、平気で手ェあげる野郎だから覚悟しろよ?」
オレは奴らに中指を立て挑発する。
とっとと松原の居場所を吐かせてここからトンズラだ。
「それじゃあ─────いくわよ!!」
北谷の号令と共に取り巻きたちが一斉に詰め寄ってきた。
居合い斬りをする木刀野郎を躱し、スタンガン野郎は脚を引っ掛け転ばし、鉄パイプを素手で受け止め腹に蹴りを入れる。
いつ飛んでくるかわからない矢も警戒しながら、襲いかかる野郎を全て捌く。
しかし、北谷はあくまで来ない。
オレが弱るのを待つかのようにタイミングを見計らっているようだ。
……………にしても、コイツらの動きが並じゃねェ。
ただの不良とは違う機敏な動き。
そして技の応酬。
導き出された答えは一つ。
「おいっ、北谷!まさかコイツら、
オレが奴らの動きを間一髪で躱しながらそう問いかけると、奴は笑みを浮かべその答えを物語る。
「ピンポーン、正解♪それぞれが中学では腕を鳴らしたエキスパートたちよ。ソコらの不良とは訳が違う動き。数人がかりで襲えば、アナタでも手が焼くでしょう?」
しかしこの状況、かなりヤバいな。
オレが一人でも捌ききれなかった時点で
とりあえず、クロスボウにだけは細心の注意を払いつつ一人一人確実にKOするか。
「どうしたどうした!?所詮エキスパートと言ってもこの程度か?」
オレが手招きし煽ると、背後から北谷が回し蹴りをしてきたが片手でそれを受け止め、顔面に渾身の右ストレートを放つ。
しかし北谷は両腕でガードして数歩後退する。
「やっぱ攻撃が軽いな。痛くも痒くもねェ。所詮、女帝といえどオマエじゃオレに勝てる訳ねぇんだよ」
「よく周りをご覧なさい。決して私だけじゃないことを、お忘れなく」
そして再び野郎たちが一斉に襲いかかる。
オレが身構えたその時────今度は左腕に激痛がはしる。
「……………ッ
散々警戒していたクロスボウ野郎から矢が放出された。
この入り乱れた中では使いづらいだろう、と少し油断があったのは事実。
重大なミス。
それによりオレの身体は再びその激痛に見舞われ、一瞬の硬直を生む。
「しま……………っ!!」
左腕の痛みで怯んだ隙に、木刀野郎の居合い斬りを頭にモロに喰らう。
「かはっ…………!!」
あまりの衝撃に血反吐を吐く。
「どぁっ!…………ぐぁ!!」
手を緩めることなく襲いかかる野郎たち。
スタンガンの強い電撃で気を失いかけては、メリケンサックで腹を殴られ、鉄パイプで脚を強打されては、バットで背中をフルスイング。
もはや立つことすらままならなくなり、ぶっ倒れるのも時間の問題だ。
身体を殴られるたびに血を吐き、足元が真っ赤に染まる。
これが──────今までの報いというやつか。
朦朧とする意識の中、オレはただひたすらに殴られ続ける。
◆◆◆
「あれっ…………?ここは、どこだろう……………」
目覚めた時には、どこか知らない場所で手足を縛られ、壁に貼り付けにされていた。
全くこの状況が掴めない。
戸惑う私の元に暗い影から小柄な人が近づいてくる。
「はじめまして、松原花音さん」
「あ、あなたは、一体………?」
「月島 奏くんのお友達です。彼もここにきていますが、お会いになられますか?」
丁寧に話す人だけど、笑い方が少し変。
どこか無理矢理と言うか、心からの笑顔じゃないことは私でもわかった。
それに顔も何だか千聖ちゃんに似てて違和感も感じた。
「奏くんも、ここにいるんですか?」
「ええ、もちろん。ただ────変わり果てた姿で迎える羽目になるかもしれませんがそこは覚悟してくださいね」
女の人はそう言い、私の手足縛る紐を解きはじめる。
私にはこの人の考えが全くわからないし、私が今、何故、この状況下にいるのか理解することはできないけど一つだけ確かなことがある。
この人に逆らったら、私はただでは済まないと。
数分も掛からずに紐は解き終えた。
『ありがとう』とお礼を言う間もなく、女のひとは何も言わずに前へ進む。
私もその後ろを黙ってついていく。
……………………
…………
細長い廊下を歩いている途中。
私たちの間に会話はない。
『何か話した方がいいのでは?』と頭によぎるけど、『余計なことはしない方がいい』と否定的な意見もよぎる。
おどおどしていると、女の人から声をかけられた。
「松原さんは、月島くんの彼女ですか?」
唐突に聞かれたその質問に私は全力で首を横に振る。
嘘ではない、と強調するように。
「そうですか。お似合いだと思いますけどね♪」
この人は一体どこまで知っているんだろう?
その疑問だけがただただ残る。
「緊張することはありませんよ。楽にしてください」
「え、えっと、じゃあ……………」
何を聞こうか数秒考える。
「あなたは…………誰なんですか?」
私の質問にこの人はすぐに答えた。
「月島くんから聞いていませんか?羽丘女子学園の女帝、という名を」
その名前に聞き覚えがある。
台風が来て奏くんの家にお邪魔した時に教えてもらったその名前。
危険だから気をつけろ、と言われたけどまさかこの人がそうだったなんて。
私の、『逆らわない方がいい』という考えは正しかった。
「し、知ってます…………」
「それで、彼は何と?」
「『危険だから気をつけろ』とだけ教えてくれました」
「ウフフッ、確かにその通りですね。私はこれまで多くの人とケンカをしてきて、勝ち続け、今ではこんな異名が付き恐れられるようになった。この意味、アナタには分かりますか?」
「い、いえ…………」
女帝さんは一度立ち止まり、一呼吸置く。
振り向くとずっと笑顔だった表情は消え、光の灯らない目を開く。
「彼を始末することなんて容易い、ということですよ」
その言葉から女帝さんの強気が感じ取れた。
でも、信じたくない。
奏くんが、あの無敵にも思えた強さを持つ彼が負けるはずがない、と。
「信じらないのならアナタの目で確認すればいいわ。もうすぐでその姿を拝ませてあげる」
女帝さんは再び私に背を向け歩き出す。
そうだ、私は信じない。
彼は絶対、悪に屈することは決してない!
数分も歩けば廊下の出口が見えはじめる。
それと同時に何かを強くぶつける鈍い音が少しずつ、だけど確実に聴こえてくる。
私は一目散に出口へと走りあたりを見回す。
廊下で聞こえた音の正体は私の下。
広い空間に、一塊になった男の人の集団から暴行を加えられる奏くんの姿が目に映る。
「奏くんっ!!」
響き渡る私の声に集団たちが顔を上げる。
彼も片目だけ開け私をみると、苦しそうに名前を呼ぶ。
「マツバラ…………ゴホッ!!」
咳き込むと同時に多量の血を吐く。
身体も痣だらけになり頭からも血が流れ、彼を中心にコンクリートの床は真っ赤に染まっている。
腕や背中には矢が刺さり息継ぎも荒く、いつ倒れてもおかしくない、そんなボロボロの状態だった。
「感動のご対面ね。心境はどうかしら?」
私の後方で女帝さんが嬉しそうに話す。
「こんなの…………あんまりだよ……………」
「こんなの?ウフフッ、まだまだ甘いわ。彼がこれまでいったいどれだけの人を苦しめてきたと思っているの?」
私の横に並び問いかける女帝さん。
奏くんの過去なんて私にはわからないけど、これだけは言える。
彼は決して間違ったことはしていない。
「クククッ、言ってくれるなァ…………」
「まだ笑うの余裕があるのね。なら─────」
女帝さんが指を鳴らすと男の人たちは再び彼に暴行を加え始めた。
「やめてっ!!これ以上殴ったりなんかしたら、奏くんが死んじゃう!!」
私の必死の叫びも彼らには伝わらない。
どれだけ涙を流してもこの状況は変わらない。
私って本当に無力だ。
そう痛感させられる。
「ねぇ月島くん。まさかとは思うけれど、
「……………えっ?」
女帝さんは驚く私の前にナイフを突きつける。
「おいっ…………!テメェ……………!!」
「ずっと探していたわ。アナタが大切だと思う女性をね。候補は三人、氷川紗夜、白鷺千聖、そして松原花音。初めは白鷺千聖だと思っていたわ。だって何だか私と似ていたんだもの。だけど違った。幾度となく彼女を痛めつけてきたけれどアナタが本気で怒ったことは決してなかった。
次に氷川紗夜。彼女はアナタと風紀委員として長い付き合いがある。恋愛というより、アナタと彼女はビジネスパートナーに近い間柄だった上に、揉め事も絶えず起こしていた。何度か嫌がらせをしたものの白鷺千聖と同様に、アナタが本気で怒ることはなかった。
私には確信があるわ。この二人ではないと。それが何故わかったのか教えてあげる。それは──────」
女帝さんは一呼吸おき、言葉を強調するように強く言い放った。
「アナタが暴行を加えた人の
怪我の具合?
女帝さんの言っていることを理解できないでいると、彼女は言葉を続ける。
「骨折、病院送りはあれど全て治癒できる範囲にとどまっていた。でもアナタが中学で起こした暴行事件。覚えているかしら?大人しかったアナタが大暴れしてクラスメイトや先生方を病院送りにした大事件を。アレは悲惨だったわ。新聞やニュースには "少年A" とだけ記載されていたようだけど、世間では結構騒がれたものね」
確かに聞き覚えはあった。
同い年の中学生が、大暴れして教室を大破。生徒教諭を含めた何十人もの人が重軽傷を負わされたというニュース。
かなり近所の中学校で起こったものだったから鮮明に覚えている。
その犯人が奏くん?
とても信じることができない。
「アナタを止めに入った担任の先生はアナタに負わされた傷のせいで車椅子生活を余儀なくされた。私の仲の良かった子だってそう。割れたガラスが目に入り失明した。私だってそうよ、この額の傷…………二度と治らない負荷をこの男に負わされた。だから確信がついたのよ。アナタを本気で苦しむ様を見るにはこの女を痛めつけることが先決だってね」
女帝さんがナイフを振り翳すと、私の制服を切り裂いた。
前面が破られ、見るも無惨な姿を晒される。
「きゃっ…………!」
「て、テメェ…………許さねェ……………!」
怒りで血眼になる奏くん。
対し女帝さんは高らかと笑い声を上げた。
「ウフフッ、キャハハハハハハハッ!!それよ!!その歪んだ顔を見たかったのよ!」
「……………ロス………………ぶっ……………殺す!!!」
女帝さんは高さ7メートルにもなる高さから飛び降り、綺麗に着地すると彼の元へ近づきナイフを突きつける。
「どうかしら?アナタが惚れた女が痛めつけられる様を見るのは」
「おいコラッ、クソ女…………次、松原に手ェ出してみろ。土手っ腹に…………穴開けて…………やるよ」
鋭い目つきで睨む奏くん。
それが気に入らなかったのか、女帝さんは奏くんの顔を何度も、何度も殴りつける。
私も彼の元へ走り出そうとしたその時──────足元に矢が飛んできた。
飛んできた方向を見ると、弓をグッと引き追撃を加えようとする男の人が見えた。
次、動けば命はないと言わんばかりに向けるその矢に私は屈してしまった。
腰が抜け、床にへたりこむ。
「月島くん。アナタはやりすぎたのよ。何人もの人生を狂わせてきた。その報いを受けるのは当然のことよね?」
女帝さんは冷たくそう言い、奏くんの右目にナイフを突き立て切り裂いた。
「─────────!!」
声にならない声を発し、血を流す奏くん。
もう彼は限界だ─────そう思った時だった。
「クククッ………………クハハハ」
この状況に相応しくない笑い声が極僅かに上がる。
一体誰が?
その小さな声は次第に大きくなり、その声の主がはっきりとなる。
「カハハハハハハッ!」
それは、奏くんのものだった。
この異常事態に誰もが絶句し言葉を失う。
「オマエら、そんなに殴って、斬りつけて、射抜いて、本当に楽しいか?楽しくねぇよなァ!?オマエたちが憎んで恨んで仕方ねェ男は、一切弱みを見せることなく立ち続けてるんだからよ。オレは最高に楽しいぜ?お前たちの歪んだその表情を拝めてなァァ!!!」
その様子に誰も何も言えない。
いや、言えるわけがない。
血塗れで今にも倒れてもおかしくない人が、誰よりも活気に溢れてて余裕の笑みを浮かべている。
私にも言えることだが、女帝さんも、男の人たちも皆、彼に抱いたものはただ一つ。
圧倒的な威圧感。
この一言に尽きる。
その凄みに気圧されたのか女帝さんはナイフを落とし、無言になった空間に金属音が鳴り響く。
それとと同時に、遠くからパトカーのサイレンが鳴りだんだんとこちらに近づいてくる。
動けずにいた男の人たちは慌ててこの場を去り、女帝さんも後に続き姿を消した。
私も奏くんの元へ行きたいけれど腰が抜けて立つことすらできない。
だけど彼は一人になっても尚立ち続けた。
本当に生きているのかどうかもわからない。
だけど彼は耐え抜いた。
警察官が入ってきて安心したのか、私はその場に倒れ、意識を手放した。
この事件はのちに全国的なニュースとして取り上げられたのはまた後日の話。
いかがだったでしょうか?
次回は短文になるかと思いますが後日談を掲載予定です。
最後になりますが
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