多くの評価、感想ほんとうにありがとうございます。
今回は千聖さん視点となります。
目覚めると雲に日差しを遮られ、暗くいつも以上に寒い朝を迎えた。
季節はもう冬に近い。
ドラマの撮影も近々始まるし、体調管理をしっかりしないと────。
話は変わるけれど、昨日の学期末試験は私にしてはよく問題を解けた方だった。
赤点なんてあり得ないほどに。
けれど、私にはテスト以上に心配にしていることがある。
テストの後に先生に聞いてみたけれど、『わたしには分からない』の一点張りだった。
月島くんと同じ風紀委員の紗夜ちゃんに聞いても、そもそも学校に来ていないことすら知らない様子だった。
今日はテスト二日目。
連続で登校しなかったらもう二人に何かあったことは確定的と言ってもいいだろう。
そう考えテレビをつけると朝のニュースが報道されていた。
ニュースキャスターが神妙な面持ちで話し始める。
「続いてのニュースです。東京都の────で大変ショッキングな事件が起こりました」
家からも随分と近場なところ。
そのニュースに食い入るようにして見る。
「昨日、都内の倉庫にて男子高校生と女子高生が襲われた事件で、警察は犯人と思われる複数人の実行犯を追っています」
どうやら私と年齢も近いよう。
この歳でそんな事件に巻き込まれるなんて、本当に可哀想。
場面が切り替わり、大きな古い倉庫が映し出された。
近場といってもどこにあるかわからないその場所で事件は起きたらしくニュースキャスターは淡々と言葉を続ける。
「警察によりますと昨日午後1時頃、高校生ぐらいの男の子が何者かに襲われていると通報があり、警察官が駆けつけると犯人の姿はなく、制服姿の男子生徒に矢のようなものが刺さり大量の血を流していた状態だったと言います。そして数メートル離れたところで同じ制服の女子生徒も発見され意識を失っていたといいます。
女子生徒は軽症でしたが、男子生徒は複数箇所の骨折、刺し傷等で重傷を負い意識不明の重体だと言います」
朝から何とも残酷なニュースを聞かされた。
未成年に対しこんな仕打ちをするなんて犯人は正気じゃない。
悪くなった気分を治す為に珈琲を入れようとすると、このニュースの続きが報道される。
「被害にあった男子高校生は、月島 奏くん17歳で、警察は────」
……………えっ?
今、なんて言ったの?
ニュースキャスターの告げた名前に頭が真っ白になった。
手にしていたコーヒーカップは重力に逆らわず落下し、破片が床に飛び散る。
それと同時に心臓がドクンッ、ドクンッと鼓動が早くなり息苦しくなる。
床にへたり込み、バクバクとなる心臓を手で抑え心を落ち着かせる。
落ち着け────落ち着くのよ────!
そう言い聞かせても、鼓動は全く元通りにならない。
私の異変に気づいた母が来てくれて、何とか落ち着いたけれどテストどころではなくなった。
学校を休むことも勧められたけれど、今は大事な学期末試験の真っ最中。
普段出席できていない為に休むわけにいかず、私は無理を言い登校する。
きっとこのニュースを見たクラスメイトたちも驚いているだろう。
早く試験を終わらせてお見舞いに行かなくちゃ────。
◆◆◆
教室に着くと、やはりクラスメイトたちは月島くんたちの話で持ちきりだった。
どうやら新聞やネットニュースでも大きく報じられていたらしい。
やっぱり、今日はテストどころではない。
チャイムが鳴り、担任の先生からも月島くんと花音のことを告げられた。
どうやら先生方も詳しいことは何も知らないようで今日のテスト終わりにお見舞いに行くと言う。
私たち生徒は極力行かないようにと言われたけれど、そんなことを守る生徒の方が少ないことは目に見えている。
『まったく、無駄な忠告だ』
月島くんのならそう笑いながら罵倒するだろう。
私も今、彼と同じ気持ち。
有耶無耶な空気のまま始まったテストだけれど、全然解くことができない。
それはクラスメイトたちも同じ。
どこか気の抜けた、集中できていない様子だった。
テストが午前中に終わり、今日は何もないから早く帰ってお見舞いに行こうと思ったけれど、再度先生の忠告を受けた。
どうやら学校側は、生徒たちの病院への立ち入り及び月島くんのお見舞いを禁止したらしい。
見つけ次第
確かに、マスコミ関係だっていそうだし制服なんかで行こうものなら間違いなくターゲットにされかねない。
生徒をおもっての配慮でしょうね。
『これぐらいやって当然だ。だが、まだまだ爪が甘い。オレなら停学を受けず病院に行く方法がいくらでも思いつくぜ?』
彼の言葉が再び私の頭の中で発せられる。
そう、これぐらいで挫ける私ではない。
それに、病院にいるのは花音だって同じはず。
彼はともかく、気弱な花音が負わされた心身的な負担は計り知れない。
私が花音にできることなんてありはしないけど、少しでも元気付けられたら────。
そんな淡い期待を持つ。
それに、彼には何度も助けてもらった恩もあるし、停学中にお見舞いに来てくれたこともある。
彼のお見舞いはついで、そう、ついでよ。
私の本命は花音。
だって先生は『
………………………
……………
家に帰りしばらく休んだ後、着替えてから市内で一番大きい病院へと足を運ぶ。
ニュースで聞いた限りの重症なら、彼が運ばれた病院はここ以外ありえない。
今日は何の仕事もなくてよかった。
手にはお見舞い用の花束を持ち、エントランスに立ち寄る。
花音のいる病室を聞き、周りに先生がいないことも一応確認しつつ向かう。
大きな病院だけあって、病室の数も半端ではないほど多い。
しばらくすると花音の名前が入った一般病棟の一室を見つけ、入室する。
花音の他にも数人、入院している人がいて軽く挨拶し最奥にある花音の元へ歩く。
カーテンで囲われていて、外からは中の様子がわからない。
「花音、入るわね」
私はそう告げ、カーテンを捲る。
すると、花音はベットに横になりぐっすりと眠っているようだった。
何だか懐かしい花音の顔。
見た限りでは何もなさそうでホッと一安心する。
「松原さんのお見舞いですか?」
「……………ッ!?」
後ろから看護師さんに声をかけられる。
ビクッと肩を震わせたけれど、あくまで毅然と振る舞う。
「はい、彼女とは個人的な友人でして………」
「そうですか、花咲川の生徒は見つけ次第伝えるようにと看護師長にも言われていたもので、すみません」
────危なかった。
どうやら学校側も本気で対処するらしい。
「あの、花音は…………無事なんですか?」
「はい。目立った外傷はありませんし、近々退院すると思われます。ただ、松原さんは間近で男の子の姿を見ているでしょうから精神的負荷がある可能性が高いです」
「そうですよね…………」
「お見舞いの花束、よければお預かりしましょうか?目覚め次第お渡し致しますよ」
「わかりました。では、お願いします」
看護師さんに花束を渡し、そそくさと帰り支度をする。
「あ、あのっ!」
看護師さんが私を呼び止める。
「この花束の差出人を松原さんにお伝えないといけないので、よければ教えてください」
私は顔を上げ、柔かに答える。
「"千聖"、とだけ名乗っておきます。花音にもそうお伝えください」
私は一礼し、部屋を後にする。
向かう先は彼の元。
私は足早に彼の元へ向かう。
◆◆◆
花音の病室を聞いた際も、スタッフさんから疑いの眼差しを向けられたから頼ることができない。
万が一バレたら本当に停学になってしまう。
この広い病院で患者を一人探すとなれば本当に大変で困る。
「何かお探しですか?」
十数分歩き続けたことで、ある看護師さんが声をかけてきた。
とても若く、胸には"研修生"と書き記されたバッジを身につけている。
「い、いえ。なにも…………」
ぎこちなく答えたけれど、研修生さんは特に追及することなく離れた。
もし次に同じ人に話しかけられたら面倒だ。
そう考えた私は逆に、私から話を続けた。
「そういえば、今日のニュースをご覧になりましたか?」
「今日の…………ニュース…………?」
私の言葉に戸惑う研修生さん。
「とある倉庫で男子生徒が暴行された事件ですよ。その生徒がこの病院に入院しているんじゃないかってすごい噂になっているんですよ」
私はあくまで他人のふりをして話す。
そして携帯をカバンから取り出し、SNSをタップすると色んな人の呟きが掲載された画面を表示し看護師さんに見せる。
「あぁ!月島 奏くんのことですね!とても辛い事件でしたね…………少しだけ拝見しましたが、あれほどの傷を負わされて生きているなんてとても信じられません」
新人の研修生さんは口を滑らせる。
私が無関係の人間だと本気で思い込んでいるらしい。
ここから私はさらに追及する。
「少しお伺いしたいのですが、彼はどこにいるんですか?」
「そ、そのことは、お答えすることはできません。看護師長に止められておりますので…………」
「そういえば、彼を見たんですよね?ここに搬送された時に」
「あっ……………!」
新人の研修生さんは口を手に当て閉ざす。
どうやら失言したことに気がついたようだ。
「別に私は記者でもなければ、悪質な投稿をするものでもありません」
「ではあなたは一体…………?」
疑いの目を向ける新人さんにニコリと笑いながらこう答える。
「彼の従兄弟です。叔母さまから彼がここに入院しているので見舞いに来てほしいと頼まれてきました」
「な、なんだ、そうだったんですか!そういうことならご案内いたします。どうぞこちらへ」
私は研修生さんの後をついていく。
子役時代から色んな役を演じてきた私にとって、人を騙す演技をすることなんて朝飯前。
少しだけしおらしくすれば簡単に信じてもらえる。
少し言い方は悪くなってしまったけれど今は仕方ない。
騙してしまったことはバレてしまった時に、また会った時に謝罪するとしよう。
エレベーターで階を上がり、数分も歩けば彼の元へはすぐに辿り着けた。
研修生さんは私を送り届けた後、すぐに持ち場へと戻る。
恐る恐る近づくと、三人の姿が目に映る。
一人は学園長先生。
もう一人は長身の女性。
もう一人は…………紗夜ちゃん?
どうして紗夜ちゃんがいるのか不思議だったけれど学校関係者がいる以上立ち寄ることはできない。
帰ろうとしたその時だった。
「…………白鷺、さん?」
紗夜ちゃんが突如声をかける。
学園長と女性もこちらに顔を向け、私は観念するように三人の元へ歩み寄った。
「学園長先生、すみません」
私は深々と頭を下げる。
停学になることは仕方ない、そう考えていたけれど学園長は私を咎めることなかった。
「気にすることはない。変な取材は受けなかったかい?」
「はい…………本当にすみませんでした」
私は再度頭を下げる
「アンタが白鷺千聖ちゃん?」
「はい、そうですが…………」
「ふーーん」
長身の女性は顔を近づける。
私服姿のこの女性は、ヒールを履いてないのにも関わらず、この中で誰よりも背が高い。
目つきは鋭くどこか感じたことのある圧を感じる。
「白鷺くん、紹介しよう。彼女は月島 奏くんのお母様、
「どーも初めまして。よろしく、千聖ちゃん」
やっぱりね、と心で呟き、差し伸べられた握手に応じる。
「初めまして。月島くんにはいつもお世話になっています」
「テレビで見るより断然美人だ。紗夜ちゃんといい、最近の若い子は整った顔の子が多くて羨ましいよ」
「いえ、お母様に比べたら私なんて………。とてもお綺麗で、こちらこそ羨ましい限りです」
「謙遜しちゃって、まあ!いい娘じゃん、気に入った!」
月島くんのお母様はケラケラと笑う。
実際、この女性もすごい美貌の持ち主。
肩にかかるぐらいの艶やかな金色の髪。
そして、まるでモデルのような整った顔、体つき────二十代だと言われても信じてしまいそうなほどだった。
「奏の見舞いに来てくれたんだろ?学校から止められてるのに、わざわざありがとね」
「い、いえ!そんな………」
「松原くんのお見舞いにも行ったんだろう?彼女はまだ眠っていたかい?」
「はい、花音を守ってくれた月島くんには本当に感謝しかありません」
「アイツが女の子をねぇ………未だに信じられないよ。入学前はあれだけ女嫌いだったのに、驚いたもんさ」
「入学してからも彼は変わらなかったよ。だが、ここにいる二人と松原くんのおかげで彼は変わることができた」
「ああ、本当に感謝してるよ」
お母様は嬉しそうに話す。
彼の性格上、学校のことなんて話さないだろうし、自分の知らない月島くんの一面を聞けて喜んでいる様子。
「引き止めて悪かったね。キミも月島くんのお見舞いにきたんだろう?よかったら一言声をかけてあげてくれないか?」
「はいっ…………」
三人に一礼してから彼の病室へと入る。
花音とは違う広々とした一人部屋。
この広い空間の奥、曇る空を映す窓のそばにあるベットの上。
ピッ、ピッ、と彼が生きていることを示す機械音だけがなるこの部屋に彼はいた。
ゆっくりとそこへ歩み寄る。
横たわる彼を見て驚愕する。
「月島くん……………」
頭には包帯を巻き、少し見える首元にも痣のようなものが見えた。
毛布で隠れているからわからないけれど、その下にある体にも夥しい傷があるはず。
とてもじゃないけど直視できない。
「静かだろ?アタシの息子」
私のそばに来た月島くんのお母様はなんだか寂しそうに話す。
「そうですね…………」
「家ではアタシと揉める事なんてしょっちゅうだし、学校でも迷惑ばかりかけてるだろうから────これほどおとなしくしてるなんて、信じられないよ」
お母様はそういうと、彼の顔に手を触れ目が潤う。
「月島くんには何度も助けられました。だからこそ、彼には元気になって帰ってきてほしいです」
「大丈夫だ。なんたってアタシの息子だからね」
「ニュースで報道されてたのですが…………その……………」
こんなことを聞いてしまって良いのか?
そう考え口が詰まる。
「遠慮することはない。なんでも聞きな」
お母様は寛容に受け入れてくれた。
「それじゃあ…………彼にこのような怪我を負わせた犯人は…………?」
「まだ逃走中らしい。目撃者によれば、犯人は複数いたそうだけど、まだその足取りも掴めてないんだと」
「そうですか…………」
「一体、奏が何をしたっていうんだろうね。まあ、あの子の事だし相当恨みをかったんだろう、じゃなきゃ、ここまでの傷を負わされることはない」
お母様の拳に力が入る。
突然と言って良い、自分の息子が訳もわからずこんな目に合えば誰だって怒るだろう。
私だって、花音が傷つけられて犯人に対してとてつもない怒りが込み上げているのだから。
「千聖ちゃん。一つ聞きたいんだけど、いいかな」
「はい、なんでしょうか?」
「いくら犯人が複数人とはいえ、奏がここまでボロボロにやられるはずがない。それに奏は決して非力じゃないから、一人ぐらいは倒していてもおかしくないはずなんだ。けど、今回はそれがない。ずっと不思議で仕方なかったんだが………千聖ちゃんはどう思う?」
真剣な眼差しを向けるお母様。
けれど私には確信に迫れるほど、彼のことを知っているわけではない。
複数人VS月島くんなら彼の分が悪いのは明らか。
複数人といえど相手が何十人いてもおかしくない中、お母様は一人は倒すと言い切った。
確かに彼の強さは異常とは思う。
男の人の骨を簡単にへし折ることができるし、花音がいたとしてもうまく立ち回れるはず。
そんな状況の中、私が出した答えは────。
「彼に何かしら事情があったのかもしれません」
「事情?」
「例えば、花音を守るために身を挺したとか、脅されていたとか………それでも、彼があっさり負けることなんてあり得ないと思います」
「そうか、その通りだな。少し気が楽になったよ、ありがとう、千聖ちゃん」
「いえ、お役に立てて光栄です」
話し終えると、学園長先生から呼び出され家まで送ると言ってくれた。
お母様はもう少し残るといい、お礼を言った後紗夜ちゃんも含め三人で車に乗る。
また、お見舞いに来よう。
私はそう心に誓い病院を後にした。
いかがだったでしょうか?
最後に一言。
執筆者のお願いになりますが、評価をしてくださる際、一言何か付け加えていただけるとありがたいです。
何でも構いません。良いところ、悪いところ、全て真摯に受け止め執筆していこうと思います。
評価をしてくださるのは非常にありがたいですが、何も言わず低評価をされるとどこをどう直したらわからずこちらとしても困惑してしまいます。
強制ではありません。何卒よろしくお願いします。