高嶺の華と路傍の花   作:山本イツキ

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久々の更新です


第25輪 降り積もる雪花

 窓を覗けば外は暗く静まり返り、テレビに目をやるとお笑い芸人たちが棒で尻をしばかれている。

 今の時刻は正月を迎えた深夜0時。

 世間は年越しを田舎で迎えようと帰省している頃だろうが、月島家(うち)は例外だ。

 何せ、おふくろのおふくろや親父、オレにとっての爺ちゃん婆ちゃん家は歩いてもいける距離にあり、道を歩いているだけでも度々会うほどだ。

 年末年始だからと言って帰る理由もない。

 一応は帰るらしいが、今日は暖房の効いた家でのんびりと過ごしている。

 

 

 ────あっ?クリスマスはどうしたかって?

 

 病院のベットの上で過ごしたんだよバカ野郎。

 オレが、塞ぎ切って間もない身体で無茶したせいで、傷口が開いて入院生活が伸びてしまった。

 まあ、自業自得というやつだ。

 北谷の取り巻きたちと共に入院生活を余儀なくされ、徹底監査のもとベットの上とかでただひたすらじっとしていた。

 

 まるで、冬眠中の熊のように。

 

 そして日はゆっくりと過ぎ、痛みもひいたオレは年末年始ということもあってか通院することを条件に退院を認められた。

 ただ、通院すること以外にも幾つかの条件が付け加えられた。

 

 一つ、ケンカはしないこと。

 一つ、病院やおふくろ指示には従うこと。

 一つ、外出は極力しないこと。

 

 この三つだ。

 どれも我慢するまでもなく守れるものばかりだが、二つ目には納得がいかない。

 要は、『余計なことはするな』と命令されているともとれる。

 

 よほど信頼されてないんだな、オレって野郎は。

 

 

 「田中────タイキック」

 

 

 無情のアナウンスと共に芸人が悲鳴を発し、それを見る他の芸人たちは笑い転げた。

 酷い扱いを受けるこの顎の長い芸人に同情する。

 

 タイキックの刑が執行されたと同時に携帯の着信が鳴る。

 発信者の名前は、松原だった。

 

 

 「なんだ?」

 

 「あっ、松原です!今大丈夫かな?」

 

 

 オレが入院してた時、何度も見舞いに来てくれたし "久しぶり" という感覚はないが、電話越しだとまた違った気分に浸る。

 

 

 「おー、暇すぎて年を越す前に寝ちまうところだったぜ」

 

 「あのっ、もしよかったら………初詣、行きませんか?」

 

 

 唐突の松原からの誘い。

 せっかくの申し出を無碍にするのはなんだか申し訳ない、と思ったがオレには病院との制約に加え、家には最恐の鬼(マイ・マザー)がいる。

 黙ってこそこそ出ようものなら、血○術の如く強力な鉄拳が放たれ、ロープで体をぐるぐるに固定されては二度と外へ出ることも許されなくなる可能性が大いにある。

 

 オレにある選択肢はただ一つ。

 

 

 "説得" だ。

 

 

 「おふくろ〜、今から─────」

 

 

 テレビから目を離しおふくろの方に視線を向けると、テーブルに突っ伏したまま寝息を立てるおふくろの姿がそこにあった。

 よくみるとそばには空になった大ビール缶が大量に置かれていて、これがどう言う状況かすぐに理解する。

 

 

 (千載一遇の好機!!)

 

 

 鬼は酒に飲まれ泥酔状態。

 出るなら今しかない─────。

 

 

 「あの…………奏くん?」

 

 「ああ、すまん。オレも行こう」

 

 「やった♪じゃあ、駅前に集合で!」

 

 「わかった。すぐに出る」

 

 

 オレは電話を切り、すぐに支度を始める。

 鬼を目覚めさせないように、静かに………。

 

 数分で済ませ、廊下に出たところでオレはフッと頭をよぎった考えを実行すべく再び部屋に戻る。

 クローゼットの中から適当な上着を取り出し、熟睡するおふくろの肩にかけた。

 

 

 「アンタが風邪でも引いて寝込んだら、誰がオレの飯作ってくれんだよ。もっと自分の体に気ぃ使えよな。もういい歳なんだからよ」

 

 

 オレの声はおふくろに届くことはない。

 こんな言葉、シラフだとまず言えないしちょうどいい。

 何せ年始だからな。日頃の感謝は伝えとかないと。

 

 

 「今度は、ちゃんと帰ってくるわ。行ってくる」

 

 

 おふくろにそう言い残し、家を後にする。

 外は暗く静まり返り少し息を吐くだけで白い息が出る程に冷え込んでいた。

 誘われでもしなければ絶対に出ることのない極寒の外。

 ヒューッと吹く風に体を震わせる。

 

 

 「……………寒っ」

 

 

 ポケットに両手を突っ込み呟く。

 アパートの階段を降り、しばらく道を歩いていると、オレの前に五人組の野郎たちがまるで待っていたかのように一列に並び立ち塞がる。

 路肩にはイカツイバイクが停められていてその風貌からも暴走族(あっち)側の人間だと察する。

 無関係、と言いたいところだがその視線はオレに向けられていた。

 スルーするのはまず不可能だろうな。

 

 

 「………………んだよ」

 

 

 不機嫌そうに睨みそう問いかけると、ズルムケ頭の野郎が前に出る。

 

 

 「お前が月島 奏だな?」

 

 「だとしたらなんだ。こんな寒い中バイクなんて運転しやがって、グリップヒーター付きか?」

 

 「そんなことはどうでもいい。お前に一つ聞きたいことがあるんだ」

 

 「一方的かよ」

 

 「"羽丘の女帝" の取り巻きたちをお前が半殺しにしたって噂は本当か?」

 

 「─────本当、だと言ったら?」

 

 

 何処から聞きつけたかわからないその事実に即答すると、野郎たちは驚きの表情を見せる。

 どうやら信じていなかったらしい。

 

 

 「実は、その取り巻きたちは暴走族界隈の中でもかなりの実力者として知られていたんだ。それを手懐ける女帝も然り、それを倒したとなれば気にもなるのは必然だ」

 

 「ヘェ、アイツらがねェ…………」

 

 「以前全国的にニュースになった『花咲川倉庫での高校生男女暴行事件』。その被害者がたった一週間で回復しこれほどの成果をあげたお前に興味が湧いてな」

 

 「成果って、オマエら一体何様なんだよ」

 

 

 やたら上から目線でモノを言う野郎に腹が立つが、奴は意にも介さず話を続ける。

 

 

 「その暴行事件の犯人もその取り巻きたちの仕業だろ?」

 

 「ほお、よく知ってるな」

 

 「あの倉庫はアイツらの溜まり場になっていたから予想はつく。流石は "不死身の暴君(アンデッド)" と言われるだけのことはある」

 

 「…………はあ!?何だそりゃ」

 

 

 奴から放たれた聞きなれない単語。

 アンデッド?何だその厨二病のような名前は。クソダセェ。

 

 

 「知らないのか?お前の()()だ」

 

 「やめろ!誰だ、そんな下らん名付けをしたのは!?」

 

 「誰が名付けたかそれは知らない。だが、広まるのはかなり早かったな。お前はもう、"不死身の暴君(アンデッド)" として通っているぞ?」

 

 「はぁ、どんな顔して街を歩いたらいいんだよ…………」

 

 

 今後のことを想像して、深いため息をつく。

 別に、誰かに認められたいが為にこんなことをしてるわけじゃない。

 ましてオレが暴走族扱いされてるのも気に入らん。

 オレはオレだ。それ以上でもそれ以下でもない、ただの高校生だ。

 

 

 「結局オマエたちはこの寒空の中、オレがやったことの事実確認をする為だけに待ってたのか?ご苦労なこった。これで用は済んだだろう。オレはこれで─────」

 

 「おっと、そうはさせないぞ」

 

 

 野郎たちはオレを囲うかのように距離を詰める。

  

 

 「俺たちの目的はここからだ。せっかくのこの機会にノコノコ帰るなんてできるわけないだろ?」

 

 「ハッ、オレと喧嘩するってんなら残念だったな。オレはまだ通院してる身。病院からも喧嘩は禁じられている」

 

 「そんなことは関係ない。それに、これは喧嘩ではない。"組手" だ」

 

 「組手、か…………」

 

 

 その言葉を聞き、オレは羽織っていたコートを脱ぎ捨て腰を低くし構える。

 

 

 「…………なら問題ない。相手してやる。まだ傷は完治していないがちょうどいいハンデだろ?全力でかかってきな」

 

 

 手招きして挑発すると、野郎たちは眉間に青筋を浮かべる

 

 

 「ナメやがって…………!!いくぞおおおおお!」

 

 

 怒りに満ちた声を大きく発し、腕を振り上げる。

 オレにとってこれは初詣に行く前の、冷え固まった身体をほぐす準備運動(ウォーミングアップ)だ。

 精々オレの身体をあっためる役割を果たしてくれよ?

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 「奏くーん!こっちこっち!」

 

 

 跳ねながら手を振る松原にゆっくりと歩み寄る。

 その格好は、ニットにマフラーに手袋、そして何重にも着込んだであろう分厚い上着。

 寒いにしても、そこまでする意味がわからん。

 コイツは今から北海道にでも旅行しに行くのか?

 

 

 「おお。待たせた…………な?」

 

 「あらっ、月島くん。こんばんは」

 

 

 松原の横に佇む小さい影。多忙の女優様もご一緒だ。

 

 

 「何だ、いたのか」

 

 「何だ、とは何よ!そもそもあなたをここに誘おうと花音に提案したのは私なのよ?」

 

 「へーへー、感謝してますよ」

 

 「ホントッ、冷たいんだから」

 

 

 白鷺はわざとらしく目線を逸らす。

 いったいどの口が言ってるんだか。

 

 

 「………あれ?どうしてそんなに服が汚れてるの?」

 

 

 首を傾げながら尋ねる松原。

 

 

 「ああ、これか。実はさっき変な輩に絡まれてな」

 

 「変な輩?」

 

 「なあに、ただの暴走族だ」

 

 「暴走族って…………何であなたはいつもそうトラブルに巻き込まれるのかしら…………」

 

 「安心しろ。オレにとっては突然家に押しかける、『よ○すけの隣の晩御飯』ぐらいのハプニングだ。しかしまあ、組手だ何だと豪語する割には大したことなかったな。きっと奴らは夢の中で年を越すんだろうぜ?クククッ」

 

 

 今から三十分ほども前。

 オレは全員が束になり襲われた。

 もちろん逃げ場はなく、ガードするにもオレの手足の傷のせいで負荷には耐えられない。

 オレはノーガードでの戦闘を余儀なくされた。

 放たれる拳を全て体を数度傾けるだけで回避し、躱すことのできないものは最低限の力で受け流しダメージを防いだ。

 全員の息が切れかけたと同時にオレは宙へ舞い、空中で何度も回転しながら敵の顎に目掛けて蹴りを当て続けた。

 言わば、"ダイナミック・タイキック"だ。

 着地する時には誰一人として立ち上がる野郎はいなかった。

 

 全員が気絶していることを確認すると、オレは土埃のついたコートを払いそそくさとその場を後にした。

 

 

 これまでが先程の一部始終だ。

 

 

 「とりあえずオレは無傷だし約束も破ってねェよ。また入院生活を送るなんてたまったもんじゃねェからな」

 

 「…………あっ!奏くんに言ってないことがあったんだった!」

 

 

 大事なことを思い出したかのように、ハッとなる松原。

 何をするかと思えば、深々と頭を下げた。

 

 「少し遅くなっちゃったけど、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

 

 「なんだソレか。おお、あけおめ。白鷺もな」

 

 「ええ、こちらこそ」

 

 

 二人に新年の挨拶を済ませ、神社に向かい歩き出す。

 道中やはり時間が遅い為かガラの悪い連中が多く屯していた。

 夏場は夜の方が涼しくてよく夜中に外出してたから暴走族たちに絡まれることなんてしょっちゅうだったが、冬は違う。

 オレは冬眠する熊のように家に引きこもるから夜に外で見かけることなんて絶対にない。

 

 ましてや、この前はあれほど暴れたんだ。

 注目されることも必然なんだろうな。

 

 

 「おいっ、見ろよ。アイツだ、"不死身の暴君(アンデッド)" !」

 「お前声かけてみろよ」

 「はぁ!?無理に決まってるだろ!」

 「血溜まりになるぐらいの出血をしても笑ってたって噂だぜ」

 「俺は刃物で刺されても平然としてたって聞いたぜ?」

 「おっかねぇ……………」

 

 

 通り過ぎる不良たち全員に視線を向けられてはコソコソと何かを言われる。

 若干話が盛られているのは確かだが、無闇に絡まれることが少なくなるのはいいことだ。

 

 だがそれは、不良とは名ばかりのヤンチャボウズたちだけにとどまる話なんだけどな。

 

 

 「お〜い!"不死身の暴君"さんよ〜!俺といっちょタイマンでも────」

 

 

 オレの肩を掴みニヤニヤと笑みを浮かべた野郎が現れた。

 ジャラジャラとした金のネックレスやブレスレットを飾った金髪のその男の手を、オレの手の甲で払うと、野郎の鳩尾目掛けて拳を振るう。

 野郎は声にならない声を発しながらその場に蹲り、その頭に足を乗せ腕を組む。

 

 

 「でっ、オレになんか用?」

 

 「い゛いえ……………ずみまぜんでじだ……………」

 

 

 謝罪する男たちを放置しオレは再び歩み始める。

 

 

 「あそこまでするのはどうかと思うけれど?」

 

 

 白鷺は呆れ顔でそう零す。

 松原は何も言わずただオロオロとしていた。

 

 

 「ああいう野郎は大嫌いだ!ったく、イライラさせやがるぜ…………」

 

 

 思い出すだけで腹が立つ。

 まあオレの身なりも世間一般からすればチャラケている方だろう。

 だが、オレはあんな奴とは違う。

 "殴りたいから" だとか、"強そうだから" などという理由で人に手を挙げようなんて考えない。

 まして、己の欲求を満たす為だけに拳を振るうなんて言語道断だ。

 そんな奴は外道。不良と名乗るなど烏滸がましい。

 あんな人間には()()という呼び名で十分だ。

 

 

 「あなたもよく暴力を振るっているでしょう?」

 

 「ああ?オレが目的もなく無抵抗の人間を一度でも殴り飛ばしたことがあったか?」

 

 「何をそんなにムキになっているの」

 

 「あのクズと一緒にされるのがムカつくだけだ!オレは暴走族でもなければヤクザでもねェ!ただの高校生(パンピー)だ!!」

 

 

 激昂するオレに対して白鷺は冷静に返す。

 そんな二人に松原は両腕を広げ割って入り、静止させようとする。

 

 

 「二人ともストーップ!喧嘩は良くないよ!」

 

 「ケンカじゃねェよ」

 「喧嘩ではないわよ」

 

 「ふぇ、ふえぇ…………」

 

 

 オレたちの反応に戸惑う松原。

 事実オレたちは言い争ってはいるが喧嘩までには至っていない。

 こんなこと日常茶飯事なのに、何をそこまで慌てる必要があるのか理解し難いな。

 

 

 「とにかく、オレは考えなしに手をあげたりすることは無ェってことだ。次また履き違えたこと言いやがったら許さねェからな」

 

 「はいはい、わかったわ」

 

 

 少し場が重苦しくなったがオレたちは変わらず神社に向かい歩き続ける。

 

 

 

……………………

 

 

…………

 

 

 

 「ふえぇ…………すごい人……………」

 

 「ああ、これは予想以上だな」

 

 

 神社に着くや否やでた一言。

 鐘の前には行列ができ、屋台に並ぶ人の数も計り知れない。

 よくこんな寒い中、外に出てこれるもんだ。

 松原に誘われる前のオレでは到底考えないだろう。

 

 

 「本当にすごい人だかり………花音、はぐれちゃダメよ?」

 

 「だ、大丈夫だよ!」

 

 「そうだぞ松原。もしオレたちを見失ったらちゃんと迷子センターに行けよ?」

 

 「わ、私は子供じゃないよお!」

 

 「松原はまだまだ子供(ガキ)だろ」

 「花音はまだまだ子供よ」

 

 「はう…………!」

 

 

 オレと白鷺の正論パンチをモロに受け松原はその場に膝をつく。

 どうやら相当落ち込んでいるらしい。

 事実、携帯のナビ機能すら迷子にさせるほどの女だ。

 はぐれたとしても迷子センターにたどり着けるのも困難だろう。

 

 

 「ほらっ、花音」

 

 

 白鷺は松原に手を差し伸べる。

 

 

 「うぅ…………ありがとう、千聖ちゃん…………」

 

 「これならはぐれることはないでしょう?」

 

 

 白鷺はそう言うと松原の手をギュッと握る。

 なるほど、いい案だ。

 オレには到底できない、女同士だからこそできる技。

 口では言わないが白鷺がいてくれて助かった。

 

 

 「解決したか?」

 

 「ええ。これなら大丈夫よ」

 

 「えへへ、千聖ちゃんの手、あったかいね♪」

 

 「うふふ、花音もね」

 

 「仲良しアピールはいいからさっさと鐘鳴らしに行くぞ…………と言いたいところだが、流石に寒いな。何か飲み物買ってくるからちょっと待ってろ」

 

 「ええ、そうさせていただくわ」

 

 「奏くん、ありがとう!」

 

 

 二人から離れ、オレは屋台を見渡す。

 フランクフルトに焼きそば、お好み焼き。

 まあどれも腹にくるものばかりでミルクティーやらコーンポタージュみたいな飲み物系は全くない。

 それに、こんな夜中にあんな高カロリーなものなんて食べたら女たち皆太るだろうに。

 そういうところを考慮してもっと軽食となるものを出すべきだろ、普通。

 全く、売店のおっさん共は何もわかっちゃいないな。

 

 オレなら絶対────おっ、甘酒振舞所を発見!

 しかもタダとはついている。

 甘 "酒" とは言っても二十歳以上が飲む酒とはまた違うものだ。

 オレたち未成年でも気軽に飲めるし、何より温まる。よしっ、これに決まりだ。

 

 甘酒を配る婆さんに声をかける。

 

 

 「甘酒三つ、大至急頼む」

 「すみません、甘酒を二つお願いします」

 

 

 オレと同時に婆さんに声をかけたその人物の方へ顔を向ける。

 

 

 「……………よお、あけおめ」

 

 

 オレがそう気軽に話す人物。

 仕事仲間(ビジネスパートナー)の氷川がお出ました。

 

 

 「あけましておめでとうございます。まさかこんなところで遭遇するなんて…………」

 

 「おいおい、人をモンスターみたいに言うんじゃねぇよ。それに、随分と気合入ってるじゃねぇか」

 

 

 改めて氷川見ると、髪色と同じ水色の袴姿でいかにも『正月を満喫しています』って感じの格好だった。

 

 

 「別に、着たくはなかったのですが…………妹が…………」

 

 「妹?それって確か────」

 

 「お姉ちゃーーーん!見つけたーーー!!」

 

 「日菜!?」

 

 

 氷川と瓜二つの顔をした女が氷川の背中を抱きしめる。

 会うのは夏以来か。しっかし、本当によく似てやがる。

 髪の長さまで同じにされたらまあ間違いなく区別はつかないだろう。

 

 

 「よお、また会ったな」

 

 「あれぇ?おにーさん誰?」

 

 「ぐっ…………」

 

 

 不思議そうに首を傾げる氷川妹。

 どうやら本気で覚えていないらしい。

 まあ、無理もないか。オレも似たような感じだからな。

 

 

 「夏祭り。屋台。焼きそば。ラムネ」

 

 

 わかりやすいように単語を四つ並べると、氷川妹は思い出したと言わんばかりに目を大きく見開く。

 

 

 「あー!あの時の優しいおにーさん!」

 

 「日菜、声が大きいわよ」

 

 「本当に奇遇だな。まさかこんなところで出会すとは思いもしなかった」

 

 「それはこちらのセリフです。それに、貴方は自宅療養の身でしょう?一体ここで何をしているんですか?」

 

 「初詣に決まってるだろ。だが、松原と白鷺も一緒だ。よかったら一緒にどうだ?」

 

 「えっ!?千聖ちゃんもいるの!?あたし行きたい!!」

 

 「氷川妹はこの様子だが、氷川姉は?」

 

 「その呼ばれ方は気に入りませんが、ぜひお願いします」

 

 「わかった、案内しよう」

 

 

 婆さんから人数分の甘酒を受け取るとオレたちは松原たちの元へ歩き出す。 

 

 そういえば、中学の友達が言っていた。

 『甘酒を飲んだだけで酔う女たちがいる漫画がある』と。

 どうやらその女たちは暴走し、主人公に多大なる迷惑をかけた挙句その記憶すら失ったと言う。

 そんな漫画のようなことは起こり得ないと思うが…………この濃い連中だ。

 

 ありえない、なんてことはありえない。

 

 この甘酒が漫画の女たちみたく酔わない程度の濃度であることを願おう。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 時間が経つにつれ人がさらに増えてきた。

 いわゆる "密" と言うやつだ。

 これだけ人が密集してるなら暖を取ることも可能だろうが、知らない人間と肩を寄せ合うってのは正直好かん。

 まして、その相手が小汚ねぇおっさんなら尚のこと。

 オレにはカイロさえあればそれでいい。

 

 少し時間がかかったが、なんとか松原たちの元へ辿り着くことができたが…………どうやら二人きりではないらしい。

 高身長の大学生と思わしき若いチャラ男たちに絡まれているようだ。

 

 

 「君たちかわいいね!歳いくつ?」

 

 「え、えーっと………」

 

 「どう?よかったらこの後俺ん家で年越し祝いやろうと思ってんだけど」

 

 「いえ、間に合っています。それに人を待たせているので」

 

 

 おどおどとする松原に対しキッパリと断る白鷺。

 男の一人が白鷺に顔を近づけると、興奮するかのようにデカイ声を発する。

 

 

 「…………あれ?君、ひょっとして白鷺千聖ちゃん!?Pastel*Paletteの!」

 

 「そうですけど」

 

 「ほんとだっ!実物はマジで可愛いね!」

 

 「お褒めに預かり光栄です」

 

 「そんな有名人と会えるなんてラッキー!お友達も可愛いし、ほんと俺たち今日ついてるな!」

 

 「さっ、早く行こうぜ!」

 

 「いやっ…………離して…………!」

 

 「ち、千聖ちゃん…………!」

 

 

 強引に二人の腕を引く男たち。

 この光景を隣で見ていた氷川姉にオレは問いかける。

 

 

 「氷川姉、一つ聞くぞ」

 

 「なんですか?」

 

 「これでオレが手を出しても、何も悪くないな?」

 

 

 怒る気持ちを沈めるように、あくまで冷静に問う。

 どうやら氷川姉も眉間に皺を寄せていて、オレと同じ気持ちらしい。

 

 

 「()()()()()()()()()お願いします」

 

 「了解」

 

 

 氷川姉のゴーサインを受け、オレは手に持っていた甘酒を投げ捨て、足音を立てず男たちに駆け寄る。

 まず松原の腕を握る男の尻に、走った勢いのまま足を振りかぶり思いっきり蹴飛ばした。

 

 

 「いってぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 松原から手を離し、蹴られた尻を両手で押さえる男は大声を発しその場に蹲る。

 これが本家 "タイキック" だ。

 バラエティとは違うリアルな反応。

 素人のオレですらこんな威力を出せるんだなら、あのキックボクサーの蹴りは間違いなくそれ以上だろう。

 顎の長い芸人が痛がるのも無理はない。

 

 白鷺の腕を掴む男が突如現れたオレの姿を見て怒る。

 

 

 「誰だオマエ!!」

 

 「誰って、それはこっちのセリフだ。オレの友達(ダチ)に、なんのようだ?コラッ」

 

 

 今まで疎らだった人だかりが一気に捌け、オレたちを中心に囲う。

 

 

 「ハッ、友達(ダチ)って………どう考えても無関係だろ!お前みたいな不良が、こんな可愛い子と知り合いなわけないだろ!」

 

 「おいおい、人を見た目で判断するのはよせよ。それに、テメェみたいな底辺と一緒にされるのは癪だな」

 

 「はあ?何言ってんだこいつ!はははっ!」

 

 

 男は嘲笑うかのように笑う。

 一体何がおかしいんだか知りたくもないから、何も言わず男にゆっくりと近づくと右頬に拳を鋭く振り抜く。

 男はこの状況を理解できず、右頬を押さえると同時に大きく目を見開いた。

 

 

 「な、何すんだ!?」

 

 「"制裁のビンタ" だ」

 

 「いやっ!お前今グーで殴っただろ!!」

 

 「細かいことはどうでもいい。あのなあ、オマエもいい加減理解しろよ」

 

 「ああ?何を」

 

 「この二人が嫌がってるのわかんねェの?お前らは所詮、()()()なんだよ」

 

 

 オレのその言葉に野次馬たちがクスクスと笑い声を上げる。

 その声が聞こえたからか男は顔を真っ赤に染めさらに激昂する。

 

 

 「うるせえ!!黙れええええ!!」

 

 

 男の声に当たりがしんと静まり返る。

 誰も何も言わなくなった空間で一人、大声を発する男に膝を擦りながら近づく姿が目に入る。

 オレがタイキックしたもう一人の男だ。

 

 

 「気をつけろ…………!コイツ、ヤベェぞ…………!」

 

 

 野郎はオレの方を指さす。

 

 

 「ああ!?たかが歳下の不良だろ!?」

 

 「違う………!街で聞いた噂話を思い出したんだ。金メッシュの髪、不意打ちの強力な蹴り、間違いない…………コイツ、"不死身の暴君(アンデッド)" だ…………!」

 

 

 野郎の発言に当たりがざわつく。

 全く知らないと言う奴もいれば、耳にしたことあると言う奴もいる。

 どうやら、オレの存在は不良界隈で収まらなかったようだ。

 

 

 「そんなのただの噂話だろ!たとえこいつがそうだとしても、オレが負けるかよ!」

 

 「やめろ…………!殺されるぞ…………!!」

 

 「うるせぇ!!尻に蹴りを食らったぐらいで立ち上がれない軟弱野郎が、俺に指図すんじゃねぇよ!!」

 

 

 仲間の静止を振り切り、男は着ていた上着を一枚脱ぐ。

 そして、自分の筋肉を見せつけるように着ていた上着を全て脱ぎ捨てとうとう上半身裸の状態にまでなった。

 

 

 「言っておくが、俺は中学高校とボクシングをやってたんだ。お前の鼻をへし折るぐらいは容易いぜ?シュッ、シュッ!」

 

 

 男は拳を数度前に突き出し、シャドーの動作をとる。

 神社で上半身裸でボクシングって。

 全く、迷惑にも程がある。

 コイツはアレだ、バカなんだろうな。

 思わずため息をつく。

 

 

 「よーし!体もあったまったし、そろそろいくぜ─────」

 

 

 粋がる男に対しオレは体を反転させ顔面目掛けて踵を振り下ろす。

 足は男の鼻にクリーンヒットし、鈍い音が響いたと同時に多量の血が噴き出す。

 男の背が地に着く直前に胸ぐらを掴み、胴体を引き上げる。

 意識が朦朧とする男に向けオレはあることを告げる。

 

 

 「言っておくがオレは格闘技未経験者だ。そんな人間に負けてさぞ屈辱だろう。けど、オマエもオレと同じはずだ。何せ、今は()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 男は口をパクパクと動かす。

 

 

 「なんで知ってるかって?オマエが言った言葉を振り返れよ。『ボクシングを()()()()』って言っただろ?オマエは所詮キツイ練習に耐えきれず退部し上辺だけ習った技術「スキル」を見せつけるだけの、ただの見栄っ張りだ。そんなエセヤンキーがオレに勝てるとでも?ハッ、甘くみられたもんだ。こちとら1Lの血を垂れ流しても生きてる男だ。くぐり抜けた修羅場の数が違ェんだよ」

 

 

 オレがそう言い終わると、男の意識は完全に途絶え白目を剥く。

 タイキックした野郎に向けて未だ血を流す男を投げ渡し近づくと見下ろすように呟く。

 

 

 「オレの大切な友達(ダチ)に、手ェ出してんじゃねェよ…………!」

 

 

 怒りがまだ治らないのがオレ自身わかる。

 今ここで二人がいなくならなければオレはきっとコイツらを血まみれになるまで殴るだろう。

 それを察してか、男たちは逃げるようにこの場を後にする。

 

 男たちがさった後でこの一部始終を見ていた野次馬たちが歓喜の声をあげるとともに盛大に拍手を送る。

 しまいには携帯でオレを撮影する奴も現れ始めた。

 

 

 (もう、初詣どころじゃないな)

 

 

 そう心で呟いたオレは白鷺と松原に帰ることを伝え、そそくさと神社から離れる。

 階段を降り切ったところでオレの両腕が誰かに掴まれた。

 振り向くと、四人の姿が目に映る。

 

 

 「あー…………騒ぎにして悪かったな」

 

 

 四人に目も合わせずそう言うと、各々が返事を返す。

 

 

 「助かったわ。ありがとう」

 

 「奏くん、本当にありがとう!」

 

 「やりすぎ、ではあったと思いますが今回は不問としましょう」

 

 「おにーさん強いね!るんっ♪ときたーっ!」

 

 「オマエら……………」

 

 

 予想外の言葉に驚く。

 

 

 「今日ははもういいわ。その代わり、最終日にまた全員で来ましょうね」

 

 

 白鷺の提案にオレは即答する。

 

 

 「もちろんだ」

 




いかがだったでしょうか。

ようやく物語も一年目を終えることとなりました。
次回はおそらくバレンタインデー編になると思われます。

どうぞご期待ください
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