今回で一年の総まとめとなります
季節はついに春を迎え、枯れきっていた木々に緑が色づき暖かい日差しが差し込むようになった。
とはいえ、まだ夜は冷え込むから夜にフラフラ出歩くのは控えている。
そして今日、オレは赤い半ヘルを被り愛車の "CB400SS" に跨り海沿いの道を走行中だ。
もちろんただ走りまわるために乗っているわけじゃない。
目的は別にあるんだが、まずは今日が何の日か説明しなくてはならない。
3月14日。そう、今日は世間で言うところの "ホワイトデー" というやつなのだ。
今までのオレにとっては全く関係のない行事だったが今年は違う。
物を貰っちまったからには返さなくてはいけない。
しかし、返すといっても何を選択すればいいのか?
ネットで調べるとアメやらホワイトチョコレートを渡すものらしいが、あの三人はそれぞれ手作りをしてまで拘った。
そんな代物に適当に買ってきたチョコを渡すなんて三人に失礼だろう。
普段はチャランポランで適当な性格のオレだが、最低限の礼儀は持ち合わせている。
そんな手抜きのものを渡すなんて到底考えられない。
では、どうしたか?
答えは単純。
別に物を贈るだけがホワイトデーじゃない。
そう考えたオレは三人に『カフェで好きなだけ奢る』と打診したところ、全員からOKと返事をもらい今日を迎えた。
現地に集合、とは言ったがいくつか問題点がある。
一つは、足がなければ電車でないといけない店だということ。
氷川は問題ないだろうが、特に松原が心配だ。携帯すらバグらせる程の方向音痴さ─────電車を乗りかえる必要があるあの店まで一人でたどり着くのは不可能と言っていいだろう。
一応白鷺が一緒に着いていくとは言っていたが、どこか自信なさげだった。
まあ、別に問題ないだろう。
まさか "電車に乗るのが苦手" なんていうわけないだろうからな。
待ち合わせ時間の5分前に店の前に到着。
路肩にバイクを止め、店の前の扉に近づくと氷川の姿が目に入る。
「よお、氷川」
「おはようございます。月島くん」
適当に挨拶を交わし、奴の隣に立つ。
「もう来てたのか。まだ5分前だぞ?」
「早め早めに行動するのは当然のことです。あなたこそ、絶対遅刻すると思っていました」
「バカヤロォ。
「ええ、そうですね」
二人の間に沈黙の時間が流れる。
ホントッ、コイツとは仕事以外だと何も話すことがない。
こんな真っ昼間では変な輩が出歩くこともないから、オレたちの間に割って入るようなトラブルは起きそうにもないが、さて、何を話したらいいのやら………。
そう考えていると、氷川の方から語りかけてきた。
「正直、今日は断ろうと思いました」
「何故だ?」
「あなたと関わっているとろくなことにならない。そう考えたからです」
「おいおい、人を疫病神みたいに言うんじゃねぇよ。オマエがただ巻き込まれ体質なだけだろ」
「ですが、最近はそういったトラブルもたまには悪くないと思い始めました。もちろん、毎日続いていれば頭痛に悩まされていたでしょうけど…………。こういったことを"人生のスパイス" とでも言うんでしょうか?それが今は、不快だと感じることは無くなったんです」
氷川から出た意外な一言。
堅物なコイツから出た言葉とは思えずキョトンとなる。
その様子を察してか、和やかに話す氷川はオレと目が合った瞬間顔を赤くし視線を逸らした。
「と、とにかく!あなたといると退屈しないと言いたいんです!」
「へぇ〜、そうかよ」
「ええ!そうです!!」
必死に返す氷川にオレは思わず吹き出して笑う。
一年前、学園長を交えて対面した時は『オレとは絶対合わないタイプ』と一蹴した。
奴が女だったということもあっただろうが、なにより
それは、きっと氷川も同じだっただろう。
犬猿の仲。
オレたちの関係を言い表すにはピッタリな言葉だった。
だが、今は違う。
歪み合いながらも、しっかりとしたコミュニケーションをとり
この一年でお互い成長したんだろう。
語る氷川の表情にそれが全て滲み出ている。
オレがここまで変わっちまった要因は、氷川の存在が大きいのは間違いない。
少しは感謝しなくちゃな。
「まあ、オマエが手綱を引いてくれるからオレが風紀委員としてやっていけたんだろう。これからもよろしく頼むぜ」
「……………………」
オレが話すと氷川は急に黙り込み驚いた顔でオレを見つめる。
「んだよ」
「いえ、その…………何だか変だなと」
「お互い様だ。オマエとしんみりとした話をするのは、やはりダメみたいだ」
「だ、ダメってどう言うことですか!?」
「まあまあ。そう怒るなって」
感情の変化が激しい氷川を宥め、携帯を見る。
今は集合時間からおよそ10分たった時刻。
二人の遅刻は確定したんだが、どうもオレの勘はこう囁いている。
『何かあったに違いない』と。
そう考えていると、携帯に一件のメールが届く。
差出人は白鷺からだ。
「…………やはりな」
そう呟いたオレは路肩に停めてあるバイクに向かい、ヘルメットを被るとすぐさまバイクのエンジンをかける。
「月島くん!?一体何を……………!」
「すぐに戻る。何かあったら連絡をくれ」
氷川を置いていき勢いよく発進する。
白鷺から送られたメールには、単語で"三つ目の駅"、"広場"、"早く来て" と記されていた。
どうやら勘は当たっていたらしい。
オレは二人の身を案じながらアクセルを思い切り捻り、全速力でぶっ飛ばす。
◆◆◆
店からバイクを飛ばして数分。
カフェの最寄駅から三駅も離れた駅前広場に奴らはいた。
二人のチャラ男共に囲まれて──────。
髪を染めチャラケた服装から察するにそこらの大学生だろう。
小っせぇ女二人を束になってナンパしようとは、なかなかセコイ連中だ。
(これは、仕置きが必要だな…………)
オレは周りに人がいないことを確認し、バイクに乗ったまま集団へ突っ込む。
マフラー音を聞きつけて男は一斉に散り散りになり、横並びになる松原たちの前に並行して停車させた。
驚く松原たちだったが、オレがヘルメットを脱いだ瞬間その表情が変化する。
「よお。待たせたな」
オレは脱いだヘルメットをサイドミラーに引っ掛け、スタンドを立てる。
二人をナンパしていた男たちは歯軋りし、怒りを露わにオレを一点に見つめている。
「おいお前!!危ないだろ!!」
男の一人が声を荒げる。
「うっせぇなぁ。いちいち喚くなよ、みっともねェ」
「俺たちはこの子達と楽しく遊ぼうとしてただけだ!お前には関係ない!!」
「関係ない?大いにあるねェ。この二人とは今日お茶するって前々から約束してたんだよ。ほらっ、脈なしは帰った帰った」
オレは手で追い払う仕草を取ると、男たちの怒りは頂点に達したようで口々に罵詈雑言を浴びせる。
「嘘つくんじゃねぇよ!この不良男が!!」
「お前みたいなヤンキーがこんな可愛い子と脈アリの方がおかしいだろ!とっとと消えろ!!この社会のクズが!!」
「ハッハハ、酷い言われようだなァ。流石のオレも傷ついちゃうかも?クククッ」
「そんな冗談言ってる場合じゃないよぉ…………」
ふざけるオレに対し松原は動揺を隠せない。
白鷺はずっと無言を貫いているが、何を考えているかさっぱりわからない。
暴言を吐く男たちの前で数秒の沈黙後、作り笑顔を浮かべオレの腕を掴んだ。
「すみません。きょうだいと待ち合わせていたもので。ねぇ、
「……………はぁ?テメェ、何言って──────」
「そ、そうだよ〜!久しぶりに会えて嬉しいな〜、
松原も白鷺とは対の腕を掴み、ぎこちないながらも柔かな表情で話す。
一体、何が何やら…………。
未だ状況が掴めないオレの耳元で白鷺がそっと呟いた。
「いいから合わせなさい!あなたの言うことが信じられないと言うのなら、嘘でもついてこの二人に諦めてもらうほかないの!」
「チッ、めんどくせぇが仕方ねェ……………」
今のこの状況を簡単に整理しよう。
どうやらオレはこの二人のきょうだいという設定らしい。
二人の口ぶりだと松原は妹役、白鷺は姉役だと思うが…………まさかこの身長差で白鷺がオレの姉役な訳はない。
おそらくは双子。間違いなくそうだろう。
顔は似てないし性格だって全く似つかないオレたちだが、それ以外考えられん。
だからオレも遠慮することはない。
意を決して二人の演技に便乗する。
「すまねぇなぁ。随分と待たせちまったらしいな。
「なっ……………!?」
オレの言葉に白鷺は驚く。
「ケッ、なんだよ。仲良しきょうだいかよ」
「なんか冷めたわ。行こうぜ」
そう言って男たちは去って行った。
なんだか、乱闘にならず解決したのは随分久しぶりな気がする。
二人の姿が見えなくなったのを確認し、白鷺は怒りを露わにした笑顔でオレを問い詰める。
「月島く〜ん?」
「んだよ。オマエが合わせろって言ったから演じてやったんだろうが」
「私があなたの妹なんて、ドラマだとしても嫌だわ」
「こっちだってテメェみたいな腹黒女の兄はごめんだ」
「ふ、二人とも〜……………」
「でも、感謝はするわ。助けてくれてありがとう」
いつもなら険悪なままで終わるはずが、今日は白鷺が先に降りた。
「気にするな。オレが勝手にやっただけだ……………ところで、オマエたちはなんでこんな場所にいるんだ?降りる駅はもっと先だろ?」
「「うっ……………」」
「まさか─────乗り換えができないのか?」
オレの問いかけに松原は苦笑いし、白鷺は視線を逸らした。
考えていた『まさか』が、現実に起きている。
どうやらこの女、電車に乗るのが苦手らしい。
芸能人だから、車での移動が多いからか?
いや、だとしてもあり得ないだろ。
昔はどうか知らんが、今は携帯のナビでどの電車に何時何分で乗ったらいいかがわかるし、乗り換えだって苦じゃないはずだ。
…………あっ、そうか。
携帯のナビ機能を狂わす奴がそばにいたから、白鷺の携帯にもそれが移ったってことか。
そうだとしたら、松原は本当に人間なのか疑ってしまう。
「携帯が使えないにしろ、駅員にでも聞けば済む話だと思うが?それに、駅にある路線図を見たらすぐわかるだろ」
「それが……………わからないのよ」
「はぁ!?」
原因は白鷺本人にあったらしい。
「松原ならまだしも、路線図が分からないってどういうことだよ!」
「私ならまだしもって…………」
「これだったら氷川に頼んで三人できてもらったほうがよかったな。あの時オマエが微妙な反応だった理由がよくわかったぜ」
「そこまで遠くなかったし、花音と協力してならいけると思ったのだけど…………現実は厳しいわね」
「松原と協力してる時点でオマエはジ・エンドだ」
「そうね、これからは気をつけるわ」
「私、そんなにダメかな………?」
「か、花音!?別にあなたが悪いわけじゃないのよ?紗夜ちゃんに頼らなかった私の責任で───────」
「慰めてるとこ悪いんだが、今まさにその氷川を待たせてるんだ。とっととオレは向かいたいんだが?」
「「あっ」」
二人は顔を合わせ、あたふたと駅に走る。
「いいか!?ここから三駅先の駅だからな!間違っても逆走するんじゃねぇぞ!?」
「うんっ!大丈夫!」
「次は失敗しないわ!」
二人は振り向きざまにそう告げ、駅の中へと消えていった。
「本当に大丈夫かよ……………」
心配そうに呟き、オレも元の場所へと戻る。
…………………
……………
店に戻り10分ほどが経過したところで迷子の二人がようやく到着した。
氷川に深々と頭を下げる二人に氷川は『気にする必要はない』と宥め、全員で中に入店する。
その店の名は "Charlotte"。
オレがずっと前に松原と来たあの店だ。
シックな雰囲気もガラガラの店内も、何ら変わらない。あの時のままだ。
オレたちは適当な席に座り、メニュー表を開く。
「今日は好きなものを頼め。ホワイトデーのお返し、というやつだ」
「あらっ、そういうことなら遠慮なく。すみませーん、ここで一番高い紅茶とケーキをお願いします」
「おいっ、テメェ!」
一切容赦のない白鷺の注文。
「なら、私はロイヤルブレンドと日替わりケーキをお願いします」
以前と同じメニューの松原。
「すみません、こういったところには行き慣れてなくて、その…………何を頼めばいいのか」
一人困惑する氷川。
「気にすることはないわ。好きなものを頼めばいいのよ♪」
「オマエはもっと自重しろ」
「ここのお店はどれもすごく美味しいんだけど、紅茶とケーキの組み合わせがおすすめだよ!」
「そうですか、ならこの、アップルティーと日替わりケーキでお願いします」
「全員決まったな。ならオレは、マスターのセンスに任せるぜ」
マスターは全員の注文をメモし、キッチンへ場所を移す。
すべてのメニューが来るまで、オレたちは談笑することにした。
「それにしても、オマエら3人とこうしてテーブルを囲うことになるなんて、夢にも思わなかったぜ」
「それはこちらのセリフです」
「それはこちらのセリフよ」
オレの発言に氷川と白鷺が横槍を入れる。
二人の反応とは対照的に、松原はなんだか嬉しそうに頬を緩ませていた。
その様子を不思議に思い本人に問う。
「何がそんなに嬉しいんだ?」
「えっ?ええっと…………」
松原は上の空になり考える素振りを見せると、すぐに返答をする。
「この一年で、みんなとこんなに仲良くなれてよかったなぁって思って、つい嬉しくって………」
「うふふ。その通りね」
「私も同じことを考えていましたよ」
松原の返答に二人が相槌を打つ。
思い返せば、この一年でいろんなことがあった。
風紀医院になり、氷川と仕事仲間になったこと。
理不尽教師、藤村への報復。
夏休みのアルバイト。
文化祭の演劇練習。
何もない日常も含めるといくら数えてもキリがない。
そんな濃すぎる日々をコイツらと過ごしてきた。
そんな高校生活も残り一年─────。
つまりは、この3人とこうやって笑い合えるのものあと僅かと言うことだ。
あっという間と思う反面、後悔にも見舞われている。
"女嫌い" という理由だけで、オレは最初の一年を無駄にしてしまった。
今となっては本当にくだらなかったと思う。
昔のオレでは絶対に考えられないようなことだな。
様々な考えを持った多種多様の人間との関わりを経てオレは大きく変わることができた。
残りたった一年。
いや、
たとえ卒業したとしても、オレたちの関係が切れることは決してないだろう。
大学、そして社会人になってもこうしてテーブルを囲い昔話に浸るのも悪くない。
「なあ、オマエら」
オレの言葉に全員の視線がこちらに向く。
「これからもよろしくな」
裏のない本心から出た言葉。
その発言に悪くいう奴は決していない。
「ええ、こちらこそ」
「私こそ、よろしくお願いします」
「奏くん、よろしくね♪」
そうこうしていると、マスターが注文した品を全て持ってきてテーブルに綺麗に添えた。
「さあ、食べようぜ」
オレたちは甘美な品々に舌鼓を打つ。
いかがだったでしょうか?
次の回から三年生編になります。
どうぞご期待ください。