高嶺の華と路傍の花   作:山本イツキ

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学年が上がり、三年生編となります。


第28輪 蕾たちの開花

 「────あっ!あったよ!!ほらっ、あそこ!」

 

 

 松原が興奮しながら前方を指差す。

 その指し示す方を向くと、デカイ掲示板にそれぞれの生徒のクラス分けが表示されていて松原のクラスはA組と記載されていた。

 

 

 「うふふ、今年も同じクラスね。花音♪」

 

 

 隣で笑みを浮かべる白鷺もどうやらA組らしい。

 

 

 「やったね、千聖ちゃん♪」

 

 「私は……………いえ、()()A組でした」

 

 「ほんとっ!?すごい偶然!」

 

 

 仕事仲間(ビジネスパートナー)の氷川もどうやら二人と同じクラスだったようだ。

 この流れだと、もしや──────

 

 

 「……………()()()()()だったようだな」

 

 

 オレは呆れたようにそう呟く。

 A組の名簿にキチンとオレの名前も刻まれていた。

 去年までは氷川だけ別クラスだったが、今年からはこの四人全員が一緒らしい。

 

 

 「やった!みんな一緒だ!」

 

 

 誰よりも大はしゃぎする松原。

 何がそんなに嬉しいのか理解できないがコイツの言い分はわかる。

 

 松原の性格上、1人だけ別のクラスというのはとても寂しいことなんだろう。

 まして、オレたち3人が同じクラスなら尚更だ。

 

 

 「まあ、退屈はしなさそうだな」

 

 「月島くん。そんな呑気なこと言って大丈夫なの?」

 

 「ああ?何が言いたい?」

 

 「今までは別クラスだった貴方の飼い主(さよちゃん)が同じクラスになったことを忘れたのかしら?」

 

 「別に、大したことじゃないだろ。風紀委員の仕事さえサボらなければ──────」

 

 「授業中の居眠り。サボり。テスト勉強。遅刻がなくなったのは結構だけれど、今までできたことができなくなるのをわかっているの?」

 

 

 白鷺の言葉でようやく思い知らされる。

 

 やばい…………このままだと、オレも真人間に調教されちまう。

 

 

 

 「そうですか…………月島くん、あなたは今までそんなこともしていたんですね………………」

 

 

 唐突に放たれる殺気。

 青い炎のようなオーラを身に纏い、頭から角を生やしたその姿はまさに鬼。

 鋭く向けられた眼光に目を逸らす。

 

 いや、目が合わずともこのまま突っ立っていれば殺られる!!

 

 野生の勘がそう囁き、オレは一目散にこの場を去ろうと駆け出した。

 しかし、鬼はそれを決して逃さない。

 まるで猫の首を掴み上げるかのようにオレの足を地面から離すと、いつの日か使った首輪を強引に付けた。

 思い出したくもない圧迫感。

 オレはまたコイツの下僕(いぬ)と化したようだ。

 

 

 「……………なあ」

 

 「なんですか」

 

 「まだ何もしてないんだが?」

 

 「何もって、私から逃げようとしていたでしょう」

 

 「あんな状況、誰だって尻尾巻いて逃げ出すだろ」

 

 「私に嘘をつきましたね。これまでの行いも含めて、今日は長時間正座でもして反省してもらいましょうか?」

 

 「おいおい、勘弁してくれよ…………」

 

 「ダメです」

 

 

 淡々と会話を続ける氷川。

 こうなったら、梃子を用いても考えが変わることはない。

 

 

 「…………ちっ、わーったよ」

 

 「その前に、まずは入学式です。風紀委員長として、新入生の見本となるような格好で参加してください」

 

 「わかったから、この首輪外してくれよ。息苦しくて仕方ねェ」

 

 

 オレが首輪を指さすと、氷川は小さいカギを手に持ち鍵穴にそれを差し込み少し捻る。

 カチャっとキーが外れる音が鳴り、首元の圧迫感が綺麗さっぱりなくなった。

 数分ぶりの開放感。

 しっかし、氷川がまだあんな物騒なものを持っていたなんて驚きだ。

 

 これはまた、警戒が必要なようだ。

 

 

 「松原さん、白鷺さん。すみませんが、私たちはこれから体育館へ入学式の準備をしてきます。また後ほど、教室でお会いしましょう」

 

 「ええ。わかったわ」

 

 「頑張ってね!」

 

 

 オレたちは足を進める。

 

 

 「松原ー。くれぐれも迷子になるなよー」

 

 「さ、流石に校舎内は大丈夫だよ〜!!」

 

 

 去り際にそう捨て台詞を吐くと、松原は顔を真っ赤にし必死に訴える。

 松原の "大丈夫" は少しばかり…………否、全然信用できない。

 1人にしておくにはあまりにも危険だ。

 

 そう言った意味では、目の届く範囲で見守れるオレたちが同じクラスで良かったと思うよな。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 「し、新入生の、みなさん……………ご入学……………おめでとう、ござい……………ます」

 

 

 プラチナが途切れ途切れながらも挨拶をする。

 今日のメインイベントでもある入学式。

 高校生活はじめての行事に一般だと真面目な態度を取り繕うものなんだが─────今年の新入生は頭のネジが外れた奴らが多いようだ。

 

 現に、プラチナの言葉に耳を貸す新入生はいるものの、やはりイレギュラーは存在する。

 

 

 「それでさー!ここの喫茶店がー………!」

 「お前みたことある!あの中学出身だろ?」

 「昨日見たテレビが面白くってさー!」

 

 隣同士で面白おかしく話すその笑い声はプラチナのマイク越しに発せられるか弱い声に引けを取らない大きさだ。

 風紀委員長としてこの行事に立ち会ってはいるが、不愉快で仕方がない。

 

 

 「…………………」 

 

 

 腕を組み眉間に皺を寄せている様子から察して隣に着座する氷川もオレと同じ気持ちらしい。

 

 

 「あ、あの……………みなさん、静かに…………」

 

 壇上で困惑するプラチナ。

一応カンペがあるらしいが、どうやらそれを読み上げるには精神的に厳しいように見える。

 そう考えたオレはゆっくりとその場から立ち上がり、同じペースで壇上へ向かい足を進める。

 途中、止めに入ろうとする教師もいたが全てスルーし、新入生全員の視線がオレに向けて一点集中しプラチナの隣まで歩み寄る。

 オレが近づいたこともわからないのか、奴の目はグルグルと渦を巻き落ち着かない様子。

 

 そっと耳元に口を近づ誰にも聞こえない音量で声をかける。

 

 

 「あとは任せろ」

 

 

 プラチナの目が元通りになり何も言わず深々と一礼すると、駆け足で壇上を去る。

 この一連の行動に会場全体がどよめきを上げ始めた。

 そんな空気を一刀両断するかのように、オレはこう切り出す。

 

 

 「えー、初めまして──────クソガキ諸君」

 

 

 マイク越しに伝わる言葉に会場がしんと静まり返る。

 掴みは大成功。

 このままの勢いでオレは話しを続ける。

 

 

 「オマエたちは中学を卒業し、大人への階段を一歩踏みしめた。だが所詮は()()()()()だ。オマエたちは大人になったと錯覚してるに過ぎん。"まだまだ未熟なクソガキ" という称号がお似合いだろう?」

 

 

 オレに対して向けられた視線の中で、まるで針を突き刺すように鋭く向けられた新入生に向け、さらに言葉を重ねる。

 

 

 「どうやらこの中にも、自分が完熟した大人だと勘違いをしている奴もいるな。染髪やピアスはまだいいとして、()()()()()()()()()()()()()()()?胸ポケットにでも隠してるつもりだろうが、その形状で丸わかりなんだよ。ったく、その歳で肺を汚してバカな野郎共だ」

 

 

 オレが指摘した生徒たちは眉間に皺を寄せ、今にもオレへ殴りかかろうとイラついてる様子が見て取れる。

 

 

 「ここは数年前まで由緒正しき女子校だったのは周知のことだろう。だが、共学化したことも相まって、水面化で行われた悪事も浮き彫りになった。教師によるどの過ぎた指導や生徒同士のイジメ、この場では話せない真っ黒なことも多々あったな。今回はそれに加え未熟なガキのお()りときた…………誰の影響か知らんが今年は不真面目な生徒が多いように思えるな」

 

 

 ため息混じりにそう話すと、イラついていた生徒たちがオレに向かって怒号を発し始めた。

 

 

 「何様だお前は!!」

 「引っ込め!!」

 「ボコられてぇのか!?」

 

 

 そんな声もオレにとってはどこ吹く風。

 何食わぬ顔で大きく息を吸い、マイク越しに叫ぶ。

 

 

 「よく聞け!喚き散らかす野郎共!!」

 

 

 スピーカーから放たれる大音量の声が会場を包み、全員の鼓膜を揺らす。

 

 

 「テメェらがこの学校で何年留年しようが、ボッチになろうが構わねェ。だがな!生徒に危害を加えたり、犯罪に手を染めようとする奴はオレが許さねェ!風紀委員長の名において、オレが "制裁" してやるよ。それに不満があるならいつでも相手になるぜ?さあ、かかってきな」

 

 

 オレが手招きし挑発するようにそう言うと、新入生の1人が叫びながら壇上に向かい走ってきた。

 

 

 「うるせええええ!」

 

 

 オレは壇上から飛び降り突進してくる新入生の襟を掴み、勢いを殺すことなくそのまま背負い投げをする。

 派手に背中を打ったからかピクリとも動かなくなり、体から手を離す。

 

 

 「さあ、ほかに希望者は?」

 

 

 小さく笑いそう問うも、立ち上がっていた生徒たちは皆大人しく着座した。

 どうやら、今ここで大喧嘩するのを躊躇ったようだ。

 

 

 「……………オレからは以上だ。各々、青春を謳歌しろよ」

 

 

 そう言い捨てオレは道のど真ん中を歩き会場を去る。

 

 

 

………………………

 

 

………………

 

 

 

 今日の大まかなノルマは全てこなし放課後を迎えた。

 入学式と始業式があった影響で今日は午前中で帰れるはずなんだが、風紀委員長(オレ)にそんな安息な時は訪れない。

 

 今も学園長室のソファに座り氷川の説教を受けている真っ最中だ。

 

 

 「あなたは……………本っ当に……………!!」

 

 

 怒り心頭の氷川。

 

 言いたいことはわかる。

 だが、キレてばかりだと眉間に寄った皺は2度と戻らなくなるぞ?

 

 …………なんて冗談はもちろん言わん。

 火に油を注ぐような愚行だからな。

 

 

 「悪かったとは思ってる。だが、あのまま放置してたら入学式は崩壊してただろ?」

 

 

 オレは反省する素振りを見せつつも、ありのままの気持ちを伝える。

 氷川もそれをわかっているから、これ以上何も話さずオレの正面に座り腕を組む。

 

 

 「しっかし、今年は変な奴らが多くて困るな」

 

 「確かにその通りですね。あの風貌や言葉遣い…………まるで誰かを彷彿とさせるものがありましたね」

 

 

 そう話す氷川の目線がオレに向く。

 はいはい、その通りだっつーの。

 全てはオレの責任だと言いたいんだな、この女は。

 

 

 「別に、奴らに勧めて入学させたわけじゃねえよ。それに、奴らは顔すら知らねェ赤の他人だ」

 

 「それはもちろんわかっています。しかし、あなたのその格好を直すいい機会だと思いませんか?」

 

 「オレが正せば奴らも変わるとでも?」

 

 「そうです」

 

 「ハッ、そんなに上手くいかねェから "不良" は存在するんだろうが」

 

 「いずれにせよあなたはこの学校を代表する生徒会役員、それも風紀委員長です。一般生徒の手本となるように努めるべきですよ」

 

 「なら、今度の生徒会役員会議で服装や頭髪の項目をゆるくするようにプラチナに頼んでみるかな」

 

 「そう言う問題では────────ッ!?」

 

 

 氷川がそう話した途端、学園長室の窓がパリンッと派手に割れる。

 急いで駆け寄ると、そこには硬式の野球ボールが転がっていた。

 『野球部員の1人がボールをかっ飛ばして窓を割る』なんてシチュエーションが思い浮かぶが、グラウンドはこの窓から見えることはない。

 明らかに、故意に行われたものだ。

 

 

 「月島奏ぇぇ!!今すぐ降りてこい!!」

 

 

 窓の外から叫び声が上がる。

 どうやらオレの行動は筒抜けらしい。

 

 

 「月島くん、これは一体……………」

 

 

 隣で怯える氷川。

 唐突の出来事に困惑している様子だ。

 

 

 「…………どうやら奴らを躾ける必要がありそうだ。おい氷川。ここで待ってろ」

 

 「えっ?」

 

 

 そう言い捨て、オレは窓から勢いよく飛び降り高さ7メートルほど下にあるアスファルトへ綺麗に着地する。

 それと同時に、同じ制服を着た複数の不良たちがオレを囲み今にも喧嘩が勃発しようとしていた。

 

 

 「よお、入学式以来だなぁ」

 

 

 不良の1人がニヤリと笑いそう話す。

 

 

 「盛るなよ。前座が」

 

 

 小さく笑いそう呟くと、その不良は前に出てオレを見下ろす形で立つ。

 そして、野太い力み声と共に放たれた拳を片手で受け止め辺りにパシーンっと高音が響いた。

 

 

 「へえ、今のを受け止めるか。流石だな。"不死身の暴君(アンデッド)" さん」

 

 

 感心するかのように話すこの不良はどうやら、オレのことを知っているらしい。

 いや、それは全員と言ったほうがいいか。

 オレの異名を口にしても、誰1人怯む様子はなかった。

 

 

 「ふっ、お前をぶっ倒すのは難しそうだなぁ」

 

 「ククッ、お前らを片付けるのは楽そうだなぁ」

 

 「ぐっ…………!!」

 

 

 あからさまな挑発に男は怒りをあらわにする。

 

 

 「オレに正面から殴りかかってくる度胸は褒めてやるが、生憎オレは目的もなく殴りつける趣味はねェ。わかったらその拳を引っ込めろ」

 

 「そんな趣味がなくても関係ないぜぇ?だってお前は今から、この人数を相手にしなくちゃならねぇんだからなぁ!!」

 

 

 不良たちが声高らかに声を上げる。

 

 

 「いくぞおおおおお!!」

 

 

 先陣に立つ男の声のもと、全員が襲いかかる。

 

 

 「仕方ねェ、"先輩に対する礼儀" を教えてやろう。その身体に、忘れないようになあ!」

 

 

 オレはその場に逆立ちする要領で両手をつき、体を思い切り捻り足を高速回転させる。

 踵はヤンキーたちの顎に綺麗に入り、1人、また1人倒れていく。その数が10を数えたところで全員が襲いかかるのをやめ、一歩後退する。

 その様子を見てオレは両手を地面から離し、数秒中に浮いた後両足をつく。

 

 

 「どうした?もう終わりか?」

 

 

 オレが一歩前へ進むと不良たちも後退する。

 額からは冷や汗を流し、今にも逃げ出しそうな勢いだ。

 

 もちろん、そんな真似を許すオレではない。

 全てこの場で片付ける。

 

 

 「テメェらも不良の端くれなら逃げずに立ち向かってこいよ。そうやって集団でいるから強くなれねェんだ。少なくともオレがこの学校に在籍する一年間で、本物の "不良" ってやつを教えてやるよ」

 

 

 そう言い残し、後退る不良たち目掛けて猛ダッシュし全員の頬を両の拳で振り抜く。

 全員を殴り倒す頃には、その様子を見かねた氷川が先生に事情を伝え、血相を変えて駆けつけていた。

 不良たちwithオレは、全員生徒指導室に連れて行かれこっぴどく怒られた。

 最終的な処罰は学園長に任せるとの結論に至ったが、あのハゲは今急用ということでこの学園にいない。

 もしあの場に学園長がいて、ガラスの破片が頭に刺さったなんてことが起きていたら…………もっと大ごとになっていただろう。

 そこは不幸中の幸いと言える。

 

 

 (まあ、なんにせよオレが処分を受けることはないだろうな)

 

 そう決め括り、顔を真っ赤にして怒る先生の言葉を右から左に聞き流した。

 

 




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