本当にありがとうございます。
今回はどちらかというと、紗夜さんメインかもしれないです。
良いことをした次の日の朝は、何だか清々しい。
今日は遅刻するどころか、誰よりも早く登校して教室の鍵を開け、自分の席に着席する。
普段のオレからしたら、絶対にあり得ない行動だ。鍵を職員室に取りに行った時も、その場にいた教師陣全員が驚きの表情を見せてくれた。
こういうドッキリも、案外悪くない。オレのSな性格が滲み出る。
次に教室に入ってくる奴の反応が、実に楽しみだ。早く誰かこないか、ソワソワする。
まるで、餌を心待ちにする子犬のような気分だ。
そう考えていると、早速誰かが入室したようだ。驚く姿を一目見ようとそっちに顔を向けると、そこには見覚えのある……というか、昨日に名前と顔を覚えたやつが現れた。
「ふぇっ!?つ、月島くん!?」
「お前は確か、飯を奢ってくれた………」
「は、はい!松原 花音です!」
昨日ぶりの再会に言葉も出ない様子だ。
全く知らない奴より、面識のある奴の方がこうやって会話もできるから、当たりと言ったら当たりか。
松原はドアを閉めると、オレの隣の席に腰掛けた。
…………どうやら、こいつはお隣さんだったらしい。
「お前、学校来るの早いんだな。真面目か」
「い、いや、今日は道に迷わずに来れたからなんだ………普段はもう少し遅いよ」
「一度来た道ならすぐ覚えられるだろ」
「それが私、極度の方向音痴で………」
「方向音痴?そんな人間が実在するのか?」
「う、うん………実は昨日も、駅までの道で迷子になって、ああなったの…………」
こいつは天然か、はたまたアホなのか。
女とは、わからないものだ。
「なら、携帯でナビゲーションアプリを入れたらいいだろ?」
「何度か試したんだけど…………何もしてなくても、携帯内の私の位置が勝手に動いて迷子になるんだ…………」
「それはもう末期だろ」
ペットは飼い主によく似ると言うが、こいつの場合、機械にもその影響を及ぼすようだ。
やはりこいつは、人間の中でも特に異質な存在らしい。
束ねられた青い髪は触覚かなにかで、怪電波でも発しているんだろう。それ以外、迷子になる理由がオレにはわからない。
しばらく2人で話していると、続々とクラスメイトたちが登校してきた。松原と同様に、素直に驚く奴もいれば特に気にしない奴も見受けられた。
しかし、どうやらクラスメイトたちはオレと松原の仲がいいと勘違いされてしまったようだ。
嫌われ者のオレはともかく、小動物のような松原はクラスでは、どう思っているのだろうか?
オレみたいな不良とでも仲良くできる、寛大な心の持ち主だと周知されているか、ただの変人だと思われているのか……………。
まぁ、オレは断然後者だと考えるだろう。
どんな物好きでも、こんな不良と仲良くしようだなんて普通思わない。むしろ避ける対象になる。関わってもろくなことにならないからな。
そうしてオレから人は離れていく。話したとしても、一度きりの出来事に過ぎない。
だからこそ、松原とこうして再び言葉を交わすのに違和感を覚える。
松原の考えてる事が、オレには全くわからない。
ニコニコと浮かべる笑みは繕ったものか否か。もう少し、関係を深めてから確かめるのも悪くないな。
殆どのクラスメイトが登校し終えた頃、教室に異質なオーラを纏った人間が入ってきた。
長く艶やかな金髪をなびかせ、颯爽と入室したそのクラスメイトは、皆に「おはよう」と一言発し、教室に笑顔を撒き散らす。
友人関係に恵まれなかった高1の時から、学校で唯一オレに絡み、執拗に話しかけようとするこの女は、オレにとっての天敵となる存在だ。
名は白鷺 千聖。松原以外で唯一、顔と名前が一致する唯一の女だ。
「あらっ、月島くん、おはよう。今日は遅刻をせず登校したのね」
「……………………ぉぅ」
「…………ねぇ月島くん。おはように、おはようと返しなさいって、お母様から教わらなかったの?」
「るっせぇよ。お前はオレのなんだ?」
「ふふふっ、最近になってようやく返事をしてくれるようになったのね。感心だわ。最初はひたすらに無視を続けていたのに」
「……………あんなにしつこく絡まれたら反応しざるを得ないだろ。とにかくうぜぇから、とっととオレの視界から消えてくれ。今は、松原と話をしてんだよ」
さっきまでワイワイと賑やかだったクラスに不穏な空気が漂う。主に、オレとこの女の周りが。
隣に座る松原も、オドオドと交互を見つめて、これから起きるであろう争いに不安の表情を見せる。
「そう、それはお邪魔して悪かったわね。でも、珍しい光景を目の当たりにしたわ。あの
「…………あんまり調子に乗るんじゃねぇぞ。それ以上無駄口を叩くようなら、女優であろうと傷ひとつじゃ済まさねぇぞ」
「あら、私に脅迫?別に構わないわよ。あなた如きに恐怖心なんて一切抱かない。あなたと話すのも、ただからかうのが面白いだけだからなのよ?」
「…………………もう我慢ならねぇ─────」
「─────ぶっ潰す!!!!」
机から身を乗り出し、拳を振り上げたその瞬間、ホームルームをの始まりを知らせるチャイムが鳴り響く。
それと同時に担任が教室に入り、何があったか問いただしてきた。
オレは何を言っても信じてもらえないだろうから、黙秘を続けると、目の前にいる女はたった一言「なんでもありません」と答え、この争いは終戦を迎えた。
そして去り際に、クスリと笑いながら「残念だったわね」と告げられ、奴は席につく。
あぁ、ダメだ─────やっぱ、こいつとは仲良くなれそうにないわ。
◆◆◆
せっかく早く登校したのに、授業を真面目に受ける気が完全に失せ、意気消沈としている。
一時限目は委員会決めで、昨日の学園長の話によると『堂々としてたらいい』とのことだったから、その言葉に従い堂々と寝る態勢になる。
オレが風紀委員になる事が決まったと担任から言われた時、クラス中が驚きの声を上げたがオレは変わらず夢の中へ入ろうとする。
その後の授業も、オレは机に突っ伏したまま微動だにしない。開いたノートと教科書は、もはや飾りだ。
教科担当の先生も、呆れ果てオレを夢から覚まさせようともしなかった。
そうして、あっという間に今日の学校が終わりすぐ帰ろうとしたが、昨日に続き担任に呼び止められ、学園長室に行くよう指示される。
恐らく要件は、風紀委員長との対面だろうな。願わくば男であってほしい。
もし、風紀委員長が女なら最悪だ。
ただでさえ、女とはいい思い出がないのにさっきあいつとあんな事があったから、会う前なのに憂鬱な気分に襲われる。
少々荒っぽく学園長室の扉を開けるとそこには、こちらを振り向く2人の姿があった。
1人は学園長。もう1人は、おそらく昨日の話に出た風紀委員長だろうか。
見るまでもなく、制服からして、こいつは女だ。なんだか、期待して損した。
自分にだけ聞こえるように舌打ちし、嫌そうな顔を見せると、風紀委員長もオレの顔を見るなり、ムッとした表情を見せ返してきた。
なんだ、オレの喧嘩をかう気か、この女?
「おぉ、月島くんか、よく来てくれたね。まぁ、立ち話もなんだからそこに座りなさい」
入り口で立ち止まるオレに学園長は、昨日と同じソファに座るよう催促する。
適当に返事を返し、そこに腰かけると、学園長と女はオレの対面側に腰を掛ける。
「早速だが、紹介させてもらうよ。彼女は氷川 紗夜。この学校の風紀委員長を担ってくれている子だ」
「ご紹介に預かりました。2年B組、風紀委員長の氷川 紗夜です。あなたの事情は、学園長から話は聞かせて頂きました。不束者ですが、よろしくお願いします」
淡々と話すこいつの口調からは、どこか生真面目そうな人間性だと察知した。
差し出された右手は、握手を求めているんだろうが、オレはそれに応じず挑発するように笑みを浮かべる。
それに対しても、こいつは不満そうな顔をあからさまに見せ、手を引っ込めた。
こいつの名前は、確か─────。
「えっと、氷川…………き○し?」
「それは演歌歌手です。しかも男です」
「確か、紅白歌合戦で龍に乗って歌ってた…………」
「うん、それは完全に氷川 き○しだね」
「あの…………本当に彼で大丈夫なんでしょうか?さっきの反応といい、私とコミュニケーションを取ろうとする気が、全く感じられません」
オレの態度に、風紀委員長がとうとう怒りを露わにしだした。
なるほど、不真面目な人間に対しては、許すことのできない程の真面目な人間なんだな。所詮は女、つまらねぇやつだ。
学園長は、風紀委員長を宥めるように話す。
「君が心配しているほど、彼は悪い人間ではないよ。まぁこんな見た目ではあるがね」
「こんな見た目だからこそ、信用ができないのですが………………」
「……………おい、こんな見た目とはどういう意味だ?学園長だろうが風紀委員長だろうが、あまり調子に乗ってると、吹っ飛ばすぞ」
「はははっ、冗談だよ。そんなに怒っていると、氷川くんに良い印象をもってくれないぞ?」
「もうすでに良くはないのですが…………」
「チッ……………」
今日は、教室でのあいつの事といい、本当に災難だ。あぁ、早く帰りてぇ。
「それで、今日は何のためにオレを呼んだんだ?まさか、風紀委員長の声を聞くためだけにこの場を設けたわけじゃないよな?」
「もちろん、そんな事のためにキミを呼んだわけじゃないよ」
「なら、早く要件を言ってくれ。今日は災難続きで、気分が良くない」
「そうか。なら、始めるとしよう。氷川くんには説明したが、今から2人で校内の見回りをしてもらう。それが、今日のミッションだ」
「ミッションねぇ………正直、気乗りしねぇな」
「それは私も同感です。どうしてあなたなんかと…………」
「これも委員長としての役目だよ、氷川くん。何かあったら、すぐに知らせてくれ」
「わかりました……………それでは、月島さん。不本意ですが、行きましょう」
「それはこっちのセリフだ。ボケッ」
オレの、風紀委員初仕事が開始した。
◆◆◆
学園長室を出ると、まずは校庭の見回りから始まった。
しかし、帰宅途中やら、部活動に行く途中とかで特に異常はない。
続く校舎内も、体育館も、屋上も、何一つ風紀委員としての仕事が見つからない。
流石は元お嬢様校。問題の一つも起きる気配がない。すれ違う生徒達は皆、生き生きとしていて、オレみたいにフラフラした奴は誰一人としていない。
「今日は特に問題なさそうですね」
「…………
「いえ、風紀を乱す生徒は稀にいますよ。しかし、それも大した事ではありません。ここは真面目な生徒が多くて助かります」
「お前は教師か」
「えぇ、いずれなれたらいいですね」
「本気かよ」
「もちろん、本気です。だからこそ今は信頼を得て、実績を積まなければいけません」
「つまらねぇ生き方だな」
オレがそう言うと、奴はムッと表情を強張らせる。
どうやら、オレの言葉が気に入らなかったようだ。
「あなたこそ、自分の人生がつまらないと感じたことはないんですか?」
「ないな。自由奔放こそが、オレの心情だからな」
「学園長から聞いてはいましたが、あなたは本当にこの学校に相応しくありませんね」
「オレは、この学校が大嫌いだ。来るはずもなかったのに、オレの人生は、生まれた時から災難に見舞われ続けっぱなしだ」
「……………お互い、苦労しますね」
「あっ?お前の苦労なんて、たかが知れてるだろ?親の機嫌を損ねないように、良い娘で居続ければいいんだろうからな」
「あなた、何を…………」
言葉の意味が理解できず困惑する奴の顔にグッと近づき、さらに問い詰める。
「お前のその性格も、親に気に入られるためにわざとそうしているんじゃないのか?オレに、本当のお前を曝け出してみろよ」
「……………やめなさい」
「そんないい子ぶってないで、さっさと本性見せやがれ。それとも何か?生真面目なお前と比べられる対象が、身内に─────」
「やめろと言っているでしょう!!!」
誰もいない廊下に、怒鳴り声が鳴り響く。
耳を覆うには、あまりにも唐突で、奴からは考えられないほどの声量がオレの耳をキーンと痛めつける。
「テメェ、一体何しやが─────」
「あなたに何がわかるって言うのよ!?あなたなんかに…………!?」
オレの言葉を遮り、両手で胸ぐらを掴む奴の目からは涙がこぼれ落ちた。
女の涙には興味ないが、一つだけ分かったことがある。
「…………お前、真面目すぎてつまらない奴だと思っていたが、訂正するぜ。ちょっとは面白いとこ、あるじゃねぇか」
「あなたなんかに何と思われたって構わない!お願いだから、これ以上私の事情には踏み込んでこないで!」
奴は手を離し、泣きながら走り去っていった。
それにしても、結構力あったな。ああいうことは、され慣れてるがなかなか息苦しかった。
踏み込んでこないで、か…………。
「踏み込んでくれって言っているようなもんだよな」
自分の中で結論づけ、あいつの話を聞きに再度学園長室に向かう。
次回、紗夜さんメインの回になります(またかよ)