結局つぐみも彩さんも当てずじまい……………。
当たった方は本当におめでとうございます。
「『入学式後の暴行騒ぎで新入生たちが一週間の停学処分。その騒動を止めたのは風紀委員長!』か……………」
廊下に掲載してある新聞部による記事。
そこには、どこから撮ったかわからない写真が添えられていてもちろんオレが写り込んでいた。
大々的に取り上げられたこの事件は瞬く間に学校中へと広がり、オレは下級生から恐れられる存在となったようだ。
「うふふ。よかったわね♪」
こちらに揶揄うような笑顔を向ける白鷺。
言葉と表情が全く一致していない。
「何がよかったのか説明してもらおうか」
「何って、あなたが悪いなんて内容はどこにも見当たらないからよ?」
「それはそうだが、せめて掲載するなら本人の許可がいるだろ普通」
「その記者たちは拒否されると思ったからじゃないかしら。ほらっ、月島くんっていかにもおっかないから」
「人をまるで怪物みたいに…………」
「怪物というよりは、化物の方が近いわね」
「変わらねェじゃねえか!!」
「うふふふふふ♪」
この女はほんっとうに性格が悪い。
もう悪魔だ悪魔!洗っても洗っても落ちることもない腹黒い性格を持った小悪魔だ!
黒い翼やら黒いツノが生えていても全く驚くことはないだろう。
「それにしても、新入生たちは処分を受けたのにあなたは何もなかったのね」
「当然だろ。理由が理由だ。正当防衛って形でなんとか認められたけどな」
「今回も、ちゃんと目撃者をつけたのね」
「万が一のことがあるからな。だが、どうやら暴力というやつは "悪" として捉えられるらしい」
「当たり前じゃない」
「アホか。暴力にも色々あんだよ」
「色々って?」
「それは────」
オレが語り始めたその瞬間、朝礼のチャイムが廊下に鳴り響く。
「続きはまた後でだ。とっとと教室に戻るぞ」
「ええ。楽しみにしてるわ」
オレは白鷺の前に出て歩み始める。
教室に入ると担任は教壇に立ちクラスメイトたちもすでに着席していて、オレたちも静かに腰を下ろす。
そういえば、昨日は入学式の出来事が濃かったから気にならなかったが、オレの左隣の席が二日続け空席だ。
このクラスは全員合わせて35人。
周りを見渡し数を確認するが、やはり数に間違いはない。
だとしたらまさか……………。
「今日から授業が始まりますが、その前に……………入ってきてください」
担任が廊下の方を向きそう声をかけると、1人の男子生徒が入室する。
整えられた金髪に黒い瞳。背丈は170センチあるかないかでどこかキラキラとしたオーラを身に纏っていた。
その生徒は担任の隣に立つと元気発剌といった感じで自己紹介を始める。
「はじめまして!大阪から転校してきました、
深々と頭を下げる関西からの転校生にクラスメイトたちは拍手を送る。
「杏井くんの席は、月島くんの隣です」
「わかりました!」
転校生は咳ではなくオレの方へとゆっくり歩み寄る。
「月島 奏くんだよね。どうぞよろしく!」
柔かな笑顔で差し出された右手。
間違いなく握手を求めているんだろう。
大勢の身の前でこうも堂々とやられると、こっちも対応せざるを得ないよな。
「ん」
オレはその手を仕方なく握る。
「ふふふ。仲良くしようね」
なんてコミュ力の高い爽やかな転校生だ。
きっと前にいた学校でも最上位グループでクラスを仕切っていたに違いない。
これでスポーツも勉強もできたらと考えると、末恐ろしい奴だ。
「杏井くん。そろそろ着席してくださいね」
「あっ、すみません」
転校生はそう言い、オレの隣の席に腰を下ろす。
数少ない男子生徒の追加にこのクラスはどうなるのか────。
きっと、争奪戦が勃発するのは間違いないだろうな。
◆◆◆
授業は恙無く進められ、昼休みを迎えた。
転校生はクラスの女子たちに囲まれキャーキャーと喚く。
どうもこの甲高い声が苦手だ。
思わず耳を塞いでしまう。
それにしても、アイツがかなりできる奴なのは十分に理解できた。
授業は至って真面目に受けてるし、体育でやったバスケでも楽々ダンクできるぐらいの身体能力もある。
要するに完璧超人という奴だ。
女子生徒が群がるのも頷ける。
もちろんだが、転校生を羨ましがってるわけではない。
未だに "女" に少し抵抗があるし、恋愛なんてとてもする気が起きん。
「あっ、かなでくん!今日もお昼一緒にどうかな?」
群れる女子生徒をかき分け、松原が声をかける。
そばにはもちろん、白鷺もいる。
「ああ。構わねぇよ」
「なら、私もお邪魔するわね」
「オマエは風で飛ばされるなよ。ただでさえ小せぇんだから」
「なっ!?失礼ね!」
「氷川はどうする?」
「私は生徒会の書類整理があるのでここに残ります」
「そうか。まあ頑張れや」
そう言い残し、オレは2人を連れて屋上へと向かう。
夜はまだまだ冷え込むことが多いが、日中は陽の光が程よく差し込み体を暖めてくれる。
冬の間は寒すぎて来れたものじゃなかったが、この気温なら寝転がっても寒さを感じることはないだろう。
ようやく、待ち侘びた春がやってきたのだ。
「それにしても、あの転校生には恐れ入るな」
オレの第一声に2人は黙々と飯を食べながらきょとんと首を傾げる。
「何よりヤベェのがあのコミュ力だな。顔色一つ変えずに全員と会話してやがった。あれが演技じゃなけりゃあ、俳優だって目指せるんじゃねぇの?」
オレはそう言い、白鷺に視線を向ける。
子役から "演技" というものを熟知してるであろう奴に聞くのが一番だと思ったが、どこか表情は険しい。
「本音と建前の使い分けは誰にだってできるわよ。それに、あれほど過度に迫るのは彼にとって失礼でしょう」
「転校生だから目新しいさもあるんだろうな。オレだって中学の転校の時はさぞ注目を浴びたぜ?」
オレの場合は紆余曲折色々あったがその全貌を知るのは極一部だ。
まさかあの転校生にそんなやましいことはないだろう。
「それに、関西から来たって言ってたのに全然関西弁を使わないね」
「どうせ親が転勤族なんだろ」
「凄いなぁ。引っ越しのお金とかすごくかかりそう…………」
「まだ本人と詳しく話せてないからそこまでは分からないけどな。なんにせよ、害がなかったらそれでいい」
「害、ね……………」
「ん?どうした白鷺」
「いえ、何もないわ。それで、あなたにとって杏井くんの印象はどうだったのかしら?」
「『明るくて人当たりのいい爽やかくん』って感じだな。オマエらはどうなんだ」
「えーっと…………キラキラした人、かな」
「別に。興味なんてないわ」
「おいおい。酷ェ言い方だな」
「本当の話よ」
そっぽを向き再び箸をすすめる白鷺。
オレの直感だが、おそらくこの二人は面識があるに違いねぇ。
白鷺がこれほど嫌悪にするってことは余程の碌でなしかバカな野郎なんだろう。
……………そういえば、そんな男が他にもいたな。
作られた笑顔を顔面に貼り付け、色々ちょっかいを出されてきた日々。
あれも嫌われているうちの一つに入るんだろう。
白鷺が嫌いに思われているであろう当の本人は考えるのをやめた。
別に、オレも白鷺のことは好きでも何でもないからな。
嫌われようが別に構わん。
「まっ、問題ごとを起こされなければそれでいい」
たとえ人に嫌われようがオレは気にしない。
チヤホヤされてる他人のことなんて羨ましいとも思わない。
少なかろうと、オレが信頼できる奴がいればそれでいいんだ。
◆◆◆
Pastel*Paletteのバンド練習が終わり、夜道を歩いていると携帯に着信が入る。
差出人は不明。
「…………………もしもし」
私がそう返答しても発信者はクスクスと笑っているだけ。
明らかな迷惑電話。
嫌がらせの他にありえない。
「何か用かしら?あなたと話すことはないのだけれど」
少しキツく言うと発信者は笑いながらもようやく言葉を口にする。
「いやあ、クラスで見た時は心底驚いたよ。まさかこんなところで再開するとはねぇ」
「それはこちらも同じことよ。杏井くん」
そう、電話の声の主は
今日、花咲川にやってきた転校生だ。
彼の番号は知らなかったけれど向こうはどこで手に入れたか、私にピンポイントでかけてきた。
「今も女優をやってるんだろ?いや、どちらかというと今はアイドルの方が忙しいのかな?テレビでも最近よく目にするよ」
「…………あなたはどうなのかしら?最近はめっきり名前を聞かなくなったのだけど」
「主役を張るほどではないがちょくちょく舞台に立たせてもらってるよ。やはり僕は演じることが好きだからね」
彼と出会ったのは私が中学生だった時まで遡る。
子役から本格的な女優として仕事をもらい始めた時、杏井くんと出会った。
私は主役の友達役として。
彼はエキストラとしてドラマに出演し、同じ歳ということで接点を持ったのだけど彼にあまりいい印象はない。
どこか自分に酔った、あまりにも芝居がかりすぎている演技にあまり好感を持てなかったのだ。
そのこともあって、彼が重大な役に選ばれることは決してなく、このような関係性がしばらく続いた。
そんな時だった。
ドラマの撮影が終わったある日、2人きりになったところを見計らって告白してきたけど、特に関わりもない彼に私が惚れる要素はどこにもなく気持ちに応えられなかった。
それからも彼はしつこく私を遊びに誘い、渋々付き添いはしたけどそれ以上の進展はなかった。
その仕事がなくなってからは完全に関係が絶たれもう2度と会うこともないと思ってたけど…………運命とは実に残酷だ。
こんな悪男とまた顔を合わせることになるなんて────。
「そう。差し詰め、クラスでのあなたは『明るく人当たりの良い爽やか系男子』と言ったところかしら」
「その通りだよ。これからの学校生活に胸を踊らせる転校生……………僕にピッタリの役だとは思わないかな?」
「はぁ……………あなたは相変わらずなのね。そういえば、あなたのその演技にまんまと騙された素人が1人いるわ」
「1人?違うだろ。クラス全員がそうさ!」
どこか自信満々に語る彼。
正直、今にでも電話を切ってやりたい。
「私の電話番号をどこで聞きつけたかまでは聞かないわ。だけど、一つだけ教えてちょうだい」
「ほお?何かな?」
「あなた────
強調するように発したその言葉。
彼は沈黙することなくすぐさま答える。
「別に、何も?」
「嘘をつかないで!私は知ってるのよ…………
「やだなぁ。そんな昔のことを掘り返すことないだろうに。僕の言い分を伝えさせてもらうと、ここへ転校してきたのは本当に偶然さ。勿論、キミに危害を加えることは決してない。改心したんだよ。僕はただ、残り少ない高校生活を楽しみたいだけさ」
白々しいその言葉の数々に怒りが込み上げる。
「…………あなたの言うことは信じることができないわ。もし、変なことを考えているのなら今すぐやめた方がいいわ」
「どうしてだい?」
「────
語尾を強くし放ったその名前。
しかし、彼は決して怯む様子を見せない。
「ふふっ、怖い怖い。誰のことかさっぱりわからないが、 "
「彼を怒らせない方がいい。それだけは肝に銘じときなさい」
「僕の方こそ君の言うことが信じられないからね。これからじっくり見て考えるとするよ」
「そう……………もう、あなたと話すことは何もないわ。それじゃあ」
「ああ。また学校で」
ブツンッ!
半ば強引に電話を切る。
緊張状態からようやく解放され、フーッと息を吐き肩の力を抜く。
一刻も早く月島くんに彼の正体を話したいところだけど…………とても信じてくれそうになさそうね。
それに、そのことが彼の耳にでも入ったら私は終わりだ。
クラスメイトだけにとどまらず学校全体から嫌われ者のレッテルを貼られるのは間違いない。
それだけは絶対に避けなくちゃ。
だって私は、彼のような底辺な人間に構う暇なんてないもの。
今回から新キャラクターの登場です。
出すか少し迷いましたが、個人的に刺激が欲しいなーと言うことで追加しました
奏くんの新たなる脅威になる可能性がある彼の行動にも注目です。