高嶺の華と路傍の花   作:山本イツキ

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おひさしぶりです。久々の更新になります。


なんでオレのバンドリ正月メンバー当たらないのおおお!(欲深い人)


第30輪 白色の水仙

 ネット社会の今、オレたち学生だけでなく老若男女に重宝されているYouTube。

 幅広いジャンルに加え、テレビのバラエティ顔負けの面白い動画もあれば考察系で為になるものもあって長時間でもついつい見入ってしまう。

 コレらの配信者は俗に "YouTuber" と呼ばれ皆に親しまれているんだが…………この中にももちろん害があるのは皆が知っていることだろう。

 

 

 「なあオマエら。YouTubeってみるのか?」

 

 

 とある日の昼休み。

 いつも通り屋上でのんびりしている最中、氷川も加えた3人に尋ねてみる。

 

 

 「YouTubeですか?いえ、ほとんど見たことはありませんね」

 

 

 表情を一切変えず氷川は即答する。

 まあ、妥当と言ったところから。

 バカ真面目なコイツに対して聞く内容じゃなかったな。

 

 

 「私は、海の生き物の動画とかよくみるよ。ダイビングとか行ってみたいなあ♪」

 

 「私もあまり見ないわね。それがどうかしたの?」

 

 「いやな、オレらの一個下にYouTuberがいるって噂を耳にしてよ。少し…………ほんの少しだけ気になっただけだ」

 

 「そうですか。しかし、その歳で娯楽に身を捧げるのは私には考えられません」

 

 「だろうな。氷川ならならそういうと思ったぜ」

 

 「まさかあなたもYouTuberになろうとしてるわけないわよね?」

 

 「ハッ、バカ言え。通常業務で手一杯だっつーの」

 

 

 動画の撮影に編集、チャンネル登録者数増加の為のキャラ作りなんて到底オレにできっこない。

 なんだかんだ凄いと思うな。

 

 

 「その一個下のYouTuberさんのことなんですが、以前生徒会会議でも話題にあがったことがあります」

 

 「ヘェ。その内容は?」

 

 「どうやら、生徒会長である白金さんに学校での動画撮影の許可を申請したそうです」

 

 「燐子ちゃんに?」

 

 「まず間違いなく学校側は承諾しないだろうからな。そいつの判断は間違ってねぇよ」

 

 「それで、燐子ちゃんはなんて言ったの?」

 

 「もちろんその場で返答はしなかったそうです。その後の対応をどうするかで討論になりましたが、満場一致で許可しない方針になりました」

 

 「ふん、お堅い生徒会らしい考えだな」

 

 「あらっ、それじゃあ月島くんならどうしていたのか教えてもらえないかしら?」

 

 

 全員の視線がオレに集まる。

 その中でも特に氷川の目が鋭くこちらを向く。

 謝る気は毛頭ないし、誤魔化すつもりもないからオレは本心を話す。

 

 

 「まずは、そのYouTuberの話を聞いてからの方が良かったんじゃねぇの?『動画を撮りたいです』『ダメです』ってやりたいだけじゃあやりたい側は不満に思うだろ。どんな動画になるか分からないしよぉ」

 

 「でも、生徒会が許可してたとしても先生たちが止めるんじゃないかな?」

 

 「だからこそ生徒会に許可の申請をしたんだろうな。もし教師陣に見つかっても、『生徒会長が許可した』とさえ証言したら、重い処罰の対象はプラチナに早替わりだ」

 

 「責任の擦りつけ、ですか……………」

 

 「ああ。姑息だが、理にはかなっている」

 

 

 そう話していると、オレの携帯の着信音が鳴り響く。

 発信者を見ると、杏井からだった。

 

 

 「なんだ………………ああ────いいぜ。わかった」

 

 

 数十秒話した後、電話を切る。

 

 

 「誰からだったの?」

 

 「杏井からだ。どうやら放課後に用があるらしい。氷川、今日は風紀委員の仕事は特に予定はなかったな?」

 

 「はい」

 

 「じゃあ決まりだ。もうすぐ昼も終わりだし、降りようぜ」

 

 

 オレたちは鉄梯子を降り、教室へと向かう。

 しかし向こうからコンタクトしてくるとは驚いた。

 隣の席だからと連絡先を交換したばかりだったが、いきなり活用するとは…………つくづく奴のコミュ力には感心させられる。

 

 それにしても────オレに用、か。

 

 多少なりともオレのことは耳にしてるだろうし、厄介ごとに巻き込まれることだけは勘弁して欲しいところだな。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 特に真面目に受けることもなかった授業を終え迎えた放課後。

 担任の話が終わり、すぐさま杏井に呼び出され奴の横を歩く。

 

 

 「それで、オレに一体何をしようってんだ?」

 

 

 オレは憤然と澄ました顔で歩く杏井の顔を睨んでそう聞くと、奴は表情を変えずそのまま返す。

 

 

 「キミに、会ってほしい人がいるんだ」

 

 「会って欲しいだあ?まさかそいつの頼みでオレを連れてこうっていうのか?」

 

 「その通り!何の接点もないキミと話すのは嫌悪されるだろうから、仲裁役として僕が選ばれたらしいんだ」

 

 「転校して僅か数日の人間に仲裁役ねぇ…………」

 

 「あははっ、なんだかその人に信頼されてるみたいでね」

 

 

 杏井の人柄だと難しくないだろうが、どうやって知り合ったのか気になるところだ。

 

 

 「そういえばオマエ、新聞部に入ったんだってな。しがない文化部なんかに入って、何が目的なんだ?」

 

 「僕はね、昔から記者をやってみたいと思っていたんだ。インタビュアーとも言うのかな?人と話すのが好きでね、つい人の核心まで迫ってしまうことがあるんだ。話している人からすれば知ってほしくないことも多々あるだろうけどけどね、1人で抱え込むなんてナンセンスだと僕は考えてるよ」

 

 「なら訊くが、オマエはどうすべきだというんだ?」

 

 「簡単なことさ。共感して貰えばいい。自分の考え、想い、意見。何でもいいんだ。そうすればまた交友は広がり、内容がより深く感じられるようになる。素敵だと思わないかな?」

 

 「交友関係だとかはどうでもいい。だが、1人で何もかも抱え込むのは良くないというのは共感できる」

 

 「そうでしょう!そうでしょう!」

 

 

 目を輝かせながら顔を近づける杏井。

 気持ち悪さしか感じられなかったから、強引に杏井の顔面を引き離す。

 しばらく歩くと、普段使われていない教室が続く人気の少ない廊下へとたどり着く。

 しんと静まり返ったこの場所に、相反する雰囲気をかもちだす1人の男子生徒が仁王立ちしていた。

 

 

 「来てくれてサンキューっす!きょーいパイセン!」

 

 

 …………………はあ?なんだ、この珍獣は?

 

 歳上の相手に対して全く敬意が感じられ───いや、それ以前にオレたちをナメきってると考えていい。

 派手な金髪、ジャラジャラと鳴る金のネックレスにゴーグル型の眼鏡……………もう、何て言ったらいいのやら。

 個性に個性と個性が重なってハンバーガーが完成してやがる。

 

 

 「紹介するよ。彼は2年生の金田くんだよ」

 

 「…………なあ杏井」

 

 「ん?どうしたんだい?」

 

 「このおかしな生き物は一体なんなんだ」

 

 「ちょいちょいちょいちょ〜〜い!ひっどい言い方ですねぇ!オレっちこう見えて、YouTuberなんですけどぉ!?」

 

 

 どうやら噂のYouTuberはコイツだったらしい。

 まあ、いかにも "らしい“ と言う感じだな。

 見た目のインパクトに関しては百点満点だろう。

 

 

 「それで、オレに話ってなんだ」

 

 「おーーっと!早速本題入る感じぃ?」

 

 「……………いいからさっさと話せ。この廊下がオマエの血で汚れんうちにな」

 

 「ひぇ〜!こっわ!!ツッキーパイセンが恐ろしいことはオレッち知ってるもんねー☆」

 

 「ツッキーパイセン……………!?」

 

 「金田くん。月島くんは多忙なんだし、手短に済ませたらどうかな?」

 

 「ちぇ〜、みんなせっかちなんだからぁ」

 

 

 頬を膨らませながら残念がる下級生に、正直今は殺意しか湧かん。

 理由もなく殴るのは嫌いとは言ったが、オレは気が短い方だ。

 つい、カッとなって物に当たることだって当然ある。

 ただ腹が立つからという理由で殴り飛ばしてやろうかと本気で考えたのは初めてだ。

 この場に杏井がいてくれてよかった。

 もし一対一(さし)だったら、本当に廊下が真っ赤に染まっていただろうからな。

 

 

 「じゃあ話すね☆ツッキーパイセンには、オレッちの動画に出て欲しいのよ!」

 

 「めんどくせぇなぁ」

 

 「名付けて『オレッち、最恐のパイセンに喧嘩売られたww』!!どうよぉ!?」

 

 「喧嘩だあ?テメェ、オレに勝てると本気で思ってるのか」

 

 「いやいやいや、まさか本気で()るわけないじゃん!あくまでふりだよ!ふ・り!」

 

 「つまり、金田くんが月島くんと喧嘩する様子を動画にしたいわけだね?」

 

 「そのとーり!一応企画書もあるから読んでちょ☆」

 

 

 金田はそういうと、数枚の紙を手渡す。

 手書きで書かれたその汚ねぇ字をなんとか解読し、頭の中で整理する。

 役割を言うと、金田が本人、杏井がカメラマン、オレが悪役らしい。

 まずオレが金田と接触し、なんやかんやあった後、喧嘩になり金田がオレに殴り勝つってか────まあなんというか、完全にヤラセだとわかるような内容だな。

 事実、本気の喧嘩をしたら金田がオレに勝つなんてことはまずあり得ない。

 例えるなら、チャンピオンのポ○モンにトレーナー自身が戦うようなものだからな。

 金田もそれをわかって提案しているんだろう。

 

 

 「結局のところオマエの目的はなんだ?」

 

 「とどのつまり〜、オレッちが強いってことを視聴者に見せればそれでOKって感じ☆」

 

 「どうかな?引き受けてくれるかな?」

 

 「つまり、オレが金田の強さの広告塔になればいいってわけか。別に構わねえよ」

 

 「マジで!?いやあ、ツッキーパイセンマジさい───」

 

 「だが、()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 「…………へっ?」

 

 

 奴の先回りした言葉に、金田は腑抜けた返事を返す。

 

 

 「自分で言うのもなんだが、オレは殴り合いという観点において負けたことがねェ」

 

 「おお、さっすが!」

 

 「無論、その相手ってのも腕に自信のあった奴らだ。武器を使う奴もいた。2メートル近い変人もいた。オレはコイツらを素手で沈めてきたんだ。さて、オマエにクイズだ。オレがオマエに負けたと知れ渡ればこの街の不良共はどんな行動を取ると思う?」

 

 「さ、さあ?」

 

 「オレ以上に強いと知れ渡れば、オマエの元に喧嘩自慢たちが集まるってことだ。毎日毎日不良の相手をしなくちゃいけなくなる。体の保証なんてとてもできやしねェ」

 

 「それはキチィなぁ…………」

 

 「それに、動画制作どころじゃなくなるだろうな。まあオレからしたら、余計な連中から絡まれることは無くなるだろうからありがたいんだけどな」

 

 「うーーーん……………」

 

 「これまでのオレの話を踏まえて、オマエは本気でこの企画を通す気なのか?」

 

 

 オレの意思は伝えた。

 危険性もわかりやすく教えた。

 奴だって理解しているはずだ。

 

 常人ならここで踏みとどまってくれるだろうが……………。

 

 

 「それでもオレっちはやるぜ!"悪を倒す正義の味方" なんてかっこいいし☆それに、そんな奴らに追いかけられでもすればまた動画のネタになるしね☆」

 

 

 どうやらオレの考えは甘かったようだ。

 結局この男は自分の存在価値をアピールすることしか頭にないらしい。

 己が身の危険を顧みない心意気には感心するが、周りの迷惑も考えるべきだ。

 

 まずは動画を撮影するカメラマン。

 金田に同行するとなれば当然危険な目に遭うのは目に見えている。

 その時に金田自身が助けてやれれば問題ないが、コイツにそんな力はないだろう。

 1人で撮影できるなら問題ないが、人に頼む以上は誰かにやってもらわないと奴の動画制作は始まらないと見た。

 

 次に学校の生徒たち。

 オレ関連でちょっかいをかけられる輩が多いと氷川に聞いたことがあるが、それがさらに増えるに違いない。

 "学生YouTuber" で有名なこの男に近づこうとよからぬことを考える連中もきっと現れる。

 

 最後にこのオレ。

 企画上は金田に敗北する予定だから、この動画を見た奴らはオレを『YouTuberに負けた貧弱野郎』というレッテルを貼るだろう。

 ヤラセだと気づいてくれればそれでいいが、多少なりともオレが他人に見下されるのは癪だ。

 それに、金田一行が万が一襲われでもすれば生徒会として今後の防犯対策を徹底するとかで仕事が押し寄せてくる。

 面倒ごとになるのは絶対避けたい。

 

 

 「……………好きにしろ」

 

 

 呆れたように金田にそう言い捨て2人に背を向け歩き出す。

 文字どおり金田は好き勝手にやるだろう。

 別にそれで構わん。

 奴にその気があろうとなかろうと、オレはオレのやり方で金田の依頼を遂行するだけだ。

 そのためのプランは既に頭の中に描き切っている。

 今からその下準備を始めるとしよう。

 

 

 「テメェに似合った、ド派手な企画にしてやるよ」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 迎えた動画の撮影日。

 結局のところ、学校の許可は得ずプラチナにも極秘でやることにした。

 万が一教師陣にバレてプラチナが今日のことを知ってたとなると最悪生徒会長を降ろされかねないからな。

 関係のない奴は極力巻き込みたくない。

 

 撮影に指定した場所は校庭。

 集合時間も放課後すぐにした為、帰り支度を済ませ下校する生徒で賑わい、また教師たちも会議だなんだで忙しいからオレたちを気にする余裕もない。

 目立つことが大好きな金田にとってはまさにうってつけの環境だ。

 もちろんこれらを全て考え提案したのもオレなんだがな。

 

 

 「おーーっす!ツッキーパイセン☆」

 

 

 集合時間きっかりにやつは堂々と姿を現した。

 

 

 「来たな。じゃあ、早速始めるとするか」

 

 「わかった。撮影準備に入るね」

 

 「オレは持ち場に着く。終わったら連絡してくれ」

 

 「うん。すぐ向かうね」

 

 

 オレは杏井にそう言い捨てこの場を去ると見せかけ、野次馬たちの輪から外れた誰にも認識されない場所でことを見守る。

 そんなことも知らずに杏井はカバンからカメラと携帯を持ち出し、金田に向ける。

 カメラがYouTubeに投稿する用で、携帯は学校の掲示板に生配信する為のものらしい。

 これも、あの3人の集まりの後に決まったことだ。

 どうやら今日の様子を間近で見れなかった生徒たちのために見せたいとか言って強引に意見を通してきた。

 奴の考えてることなんて手に取るようにわかる。

 要はヤラセではなく正真正銘、オレを陥れる為に仕組んだことだろう。

 その意見に対してオレは異を唱えることはしなかった。

 何せ、()()()()()()()()()()()()()()からな。

 

 カメラが向けられる中、野次馬が次々と集まって来る。

 携帯で写真を撮ったり、動画にしたり…………有名人にあったとなるとすぐにSNSで呟きたがるクセはオレには理解できん。

 

 

 

 「グッドモーニング、アフタヌーン、イブニング☆どうも "マネヤン" でっす!なんと今日は、オレッちの母校で企画を行いたいと思いまーす!」

 

 

 金田の自己紹介と共に、群がった生徒たちが歓声を上げる。

 自分の出身校で撮影をするなんてバカな真似だとは思うが金田のことだ、後のことは決して考えていないだろう。

 奴の頭の中にあることは、自分の名前を売って売って売りまくって有名になることだけだろうからな。

 

 

 「実はオレッちの高校には、不良たちから恐れられている男子生徒がいるんよね。ボクの一個上で、入学式当日に新一年生の不良たち…………20人ぐらいかな?を、1人で全員薙ぎ倒したらしいのよ!じゃあ、そのこわーいパイセンについてインタビューしたいと思いまーす☆」

 

 

 金田はそう言い、1人の女子生徒に近づきカメラを向ける。

 

 

 「不良に恐れられてるパイセンについて何か知ってる?」

 

 「えっと、すごく背が高くて…………あと、目つきがすごく鋭いです」

 

 「なるほど。ありがと☆じゃあ、次!そこのキミ!」

 

 

 次々とインタビューする相手を変え、オレの情報を引き出す。

 

 

 「まあご覧の通り恐ろしいパイセンだということが分かりましたよね?今日はそんなパイセンに対して、喧嘩を売ってみたいと思いまーす☆」

 

 

 金田のその言葉に、野次馬たちは衝撃の声をあげる。

 

 

 「理由は単純!オレッちの方が強いってことを証明するためだよ!!」

 

 

 高々と発したその言葉。

 野次馬たちを活気立たせる為には十分なものだった。

 

 

 「オレッち実は、ボクシングやってたことあるからワンパンで終わるかもね☆所詮は噂だから大したことないかも!」

 

 

 こうなったらもう止まらない。

 湧き上がる観客に対しオレは陰で呆れたようにため息をつく。

 

 

 「それじゃあ早速行ってみよー!」

 

 

 オープニングも終わり、杏井のカメラが降りたところでオレは所定の位置に向けて歩き出す。

 それと同時に初めからずっと影に隠れていた氷川が姿を現しオレの横に並ぶ。

 

 

 「準備は万全か?」

 

 「ええ。ですが、本当にいいんですか?」

 

 「当たり前だ。例え相手が人気者だろうが()()()()()()。ちゃーんとその悪行を晒してやる必要がある」

 

 「はぁ……………毎度毎度、月島くんの突拍子もない発想はどこから湧いてくるのか不思議で仕方ありません。決して良い成績とはいえないあなたは一体何を考えているんですか?」

 

 「そうだな……………ひとまずオレは置いといて、世の中の大半は『勉強は嫌いで頭が悪い奴』か『勉強はできるが頭が悪い奴』のどちらかだとオレは思う」

 

 「その根拠は?」

 

 「『勉強は嫌いで頭が悪い奴』は言わずもがな、"バカ" と区別される。対して『勉強はできるが頭が悪い奴』はどうだ?学校の成績は良くテストの問題もスラスラと解くことができるだろう。だが、日常生活においては "バカ" と揶揄されるやつと同レベルな人間ばかりだ。数学なんていい例だろう。数字は嘘をつくことないから予め答えが決まっているが、こと人生においてはその限りじゃねェ。普段の生活で "解答" を迫られた時、大半の人間はどれが正解かで必ず迷う。完璧な回答を求めてな。分かりもしないクセに、バカな行為だぜ全く」

 

 「つまりあなたはどれにも当てはまらない、特別な人間だと言いたいのですか?」

 

 「特別だとは思ってねェよ。そうだな…………あえて言うなら『勉強は嫌いだが応用が効く奴』だな。オレは回答を求められたときは全て "勘" で答える。例えその選択が間違っていたとしても別に構わん。それがオレの人生だからな」

 

 「やっぱり、捻くれていますね」

 

 「褒め言葉として受け取っておく」

 

 

 そう話し切ったところで目的地へと辿り着いた。

 

 

 「手筈通り、よろしく頼むぜ」

 

 「月島くんも、どうかお気をつけて」

 

 

 オレは廊下の角を曲がった階段のところでスタンバイする。

 この後曲がり角で金田とぶつかり、オレがキレたところで金田と殴り合いになり、金田が勝つって流れだ。

 廊下には既に奴の声が聞こえている。

 いや、奴の声だけじゃない。野次馬たちもそのまま引き連れてきたようだ。

 よしっ、こちらとしても好都合だ。

 

 

 「さあ、噂のパイセンはどこにいるのかなあ?」

 

 

 声がすぐそこまで聞こえてきた。

 出るなら今だ。

 

 

 ────ドン。

 

 

 オレと金田の体がぶつかる。

 

 

 「痛ってて……………」

 

 

 金田はオレとぶつかった衝撃で尻餅をつく。

 オレは上から睨みつけるように見下ろす。

 

 

 「おい。誰だテメェは」

 

 

 威圧するようにそう問いかけると、金田は意にも介さずスッと立ち上がる。

 

 

 「YouTuberのカネヤンッス。アナタが噂のパイセンっすね?」

 

 「噂?なんのことかさっぱりだが、ぶつかっておいて謝罪の一言もねェのか?」

 

 

 演じてすらいない普段のオレの態度。

 まあ、流石にここまで悪いとは思っていないがな。

 

 

 「パイセン、オレッち知ってるんだよ。パイセンが喧嘩強いことを」

 

 「うるせぇ。とっとと頭下げろや。蹴り落とすぞ?」

 

 「オレッちのクラスメイトや友達もみんなビビってんだ。だから、喧嘩に勝ち続けて調子に乗ってるアンタを今ここでオレッちが沈めてやるよ!!」

 

 

 その言葉に野次馬たちは歓喜の声をあげる。

 芝居がかったこのセリフの後、喧嘩が始まる予定だ。

 低く身構える金田に対しオレも首を鳴らし、仁王立ちで迎え撃つ。

 

 

 「それじょあ、いくぞ────」

 

 「ちょーっと待った!」

 

 「………………えっ?」

 

 

 オレの唐突な言葉と態度に金田は腑抜けたような返事を返す。

 

 

 「喧嘩なんてよくねぇよ。それに、問題になるのはオレだって避けたい。仮にも風紀委員長だからな」

 

 

 台本にはない言動。

 金田が困惑するのも無理はない。

 

 

 「だが、喧嘩に勝ち続けて調子に乗ってるってのはイラッときたから物理的にではなく精神的にテメェを潰してやるよ」

 

 

 親指を下に向け、ニヤリと笑う。

 そんなオレに金田は耳元に近づきボソボソと話し始める。

 

 

 「ちょっ、ツッキーパイセン!!こんなこと言ってなかったじゃん!アドリブ入れないでよ!!」

 

 

 かなり焦っている様子だ。

 だが、オレはそんな奴を無視して言葉を続ける。

 

 

 「まずは、これを見てもらおうか」

 

 

 

 オレは廊下の端に隠して置いたプロジェクターの電源を起動させ、壁にその映像を映し出す。

 そこには、あるSNSのアカウントの画面が表示されそれを見て金田の顔色が一気に悪くなる。

 

 

 『氷川。次だ』

 

 

 予め電話で繋げて置いた氷川にパソコン操作を頼み、次の画面を移す。

 その画面とは、アップされた動画だ。

 それらのタイトルは抜粋して以下の通り。

 

 ・未成年者が飲酒運転してみた

 ・不良集団とガチ喧嘩

 ・エアガンで通行人を狙撃してみた

 

 くだらないものばかりだったが、中には犯罪とも取れる行為をした動画もある。

 言葉による書き込みも、『オレが1番の悪人』だとか『ヤクザのトップもすぐにでも狙える』だとか警察に喧嘩でも売ってるのかと言わんばかりのものがほとんどだ。

 その犯人も既にオレは特定済みである。

 

 

 「なあ金田」

 

 「ひぇっ!?」

 

 「オマエ、これに見覚えはないか?」

 

 「さ、さぁっ!?ななな、なんのことかなぁ??」

 

 

 挙動不審になる金田とざわつく野次馬たち。

 どうやら奴らも察し始めたようだ。

 

 

 「恍ける気か?なら、そんなオマエにこの動画を見てもらおうか」

 

 『月島くん。次の画面に移行しますね』

 

 『ああ』

 

 

 画面が切り替わり1人の男子生徒が映し出された動画が映し出され、氷川はそれを再生する。

 

 

 『僕は、金田くんと行動を共にしていた()()()()()()です。僕は他校出身の為、そちらの高校に行けないということで "動画" という形で発言させていただきます』

 

 

 唐突に現れた男の発言に野次馬たちはさらにざわつき出す。

 肝心の金田はと言うと、目を大きく見開かせ動揺を隠しきれずにいる。

 

 

 『僕は本来の動画に加えこれらの犯罪動画をずっと撮影してきました。初めは普通の動画ばかりでしたが、金田くんは売名行為に勤しみ犯罪を犯すことになりました。僕は彼についていけなくなり、カメラマンを辞めました。口止め料として多額のお金をもらいましたが、今回、金田くんを助けてくれる人が現れた為、そのお金は返金し話させてもらいました。

 この動画が公開されている頃には僕は警察に行っているでしょう。罪はそこで、償わさせていただきます。迷惑をかけた方々、本当にすみませんでした』

 

 

 男子生徒が頭を深々と下げたところで動画は終わった。

 

 

 「さあ、何か言い分はあるか?」

 

 

 全員の視線が金田に集まる。

 

 

 「……………嘘だ…………嘘だ嘘だ嘘だウソだーーーー!!!!」

 

 

 大声で叫び否定する金田。

 怒りで目が真っ赤になり、プロジェクターに近づき持ち上げ壁に投げつけた。

 派手にぶっ壊れる音が廊下に響く。 

 あーあ。あのプロジェクターは学校から借りたやつなのに、弁償しないといけねぇな。

 

 

 「オレッちは───────こんな奴知らない!!でっちあげだ!!」

 

 「ほう。全てはあの男の嘘だと?」

 

 「ああそうだ!!きっとオレッちの人気を妬んでいる奴だ!そうに違いない!」

 

 「なら聞くが、「何故今日は杏井がカメラマンなんだ?」」

 

 「………………っ!?」

 

 「ずっと気になってたんだ。これまでの動画を振り返ってみても、テメェが自撮りしてる形跡はねェ、誰かしらのカメラマンを同行させているんだ」

 

 「そ、それがどうしたんだってんだよお!そんなことザラにあるに決まってるじゃんかよお!」

 

 「ポイントは、カメラマンとの会話だ」

 

 「…………はあ?」

 

 「オマエの企画を全て見させてもらったが、その全てにカメラマンとの会話がある。初めの方はずっと同じ声の人間だったが、ある日を境にプッツリと消えた。それはいつか?」

 

 「まさか……………」

 

 「そう。金田が犯罪行為に走った時期とちょうど重なる」

 

 「っ!?!?」

 

 

 確たる証拠は突きつけた。

 さあ、足掻けるものなら足掻いてみろ。

 全校生徒が見ている前でな。

 

 金田の第一声に全員が注目する。

 

 

 「あ、あのさ……………」

 

 

 先ほどとは雲泥の差である弱々しい声。

 

 

 「んだよ」

 

 「ツッキーパイセンってさ、オレに恨みでもあんの?」

 

 「あるわけねぇだろボケッ」

 

 「じゃあ、なんで!?」

 

 「初めにオマエの企画を聞いた時、邪魔してやろうと考えた。何かヒントはないかと動画を見ていたが、カメラマンが変わったことはすぐ気がついた。オレの人脈でようやく辿り着き、会うことができた。とりあえずテメェの恥ずかしいことを聞ければそれでよかったんだが……………もう出るわ出るわ犯罪の数々!思わず笑っちまったよ」

 

 「あ、アイツ………………!!」

 

 「テメェに足りなかったのは "信頼" だ。金で人を黙らせることができると思ったか?バカが。人はそんな単純じゃねぇよ」

 

 「じゃ、じゃあどうやって黙らせればいいんだよお!?」

 

 「はあ?黙らせる前にそんな犯罪行為すんなよ」

 

 

 まさにその通りだ、とその場にいた全員が頷いた。

 

 

 「うっ………………!」

 

 「どうしてもやらかしちまった時に大切なのが "信頼" だ。日々の積み重ねでそれは確固たるものになる。オマエはそれを怠ったから金で買収なんて汚ねぇことをして裏切られた。テメェはもう終わりだ。今は家に警察たちが待ち構えているだろうよ」

 

 

 もう完全に詰みだ。

 金田今更どう足掻こうが、この場をひっくり返すことなんて不可能だろう。

 

 ただ、一つを除いて────。

 

 

 「オレッちは…………負けない。お前なんかに、夢が潰されてたまるかあああああ!!」

 

 

 声を上げ勢いよく突進してくる金田。

 腕を大きく振りかぶりオレの顔面目掛けて腕を振り切ろうとしている。

 それはまるで全てを投げ打って敵に一撃を与えようとする獣のようだ。

 だが、そんな攻撃をモロともせず片手で受け止め思い切りその拳を握る。

 

 

 「ぐっ、ぐわあああああああ!!!」

 

 

 金田の悲鳴が耳に響く。

 結構本気で握ったから骨がいっちまったか?

 まあ、なんにせようるさいから黙らせるためにもう片方の手で口を塞ぐ。

 

 

 「やらかして、信頼もなく、金もない人間が唯一相手を黙らせる方法を教えてやる。"暴力" だ。体に、心に、その痛みを植え付けてやるだけで人は恐怖し従わざるを得なくなる。力で制圧するのもいい。言葉で追い詰めてやるのもいい。要は、自分が相手より格上だと認識させればいいんだ」

 

 「う、ううう!!」

 

 「テメェはつまらん人間だ。この学園にとっても害しかないだろう。テメェに拒否権はないが、ここで終わりにさせてもらうぜ」

 

 

 拳を握る手を離し、口を塞いでいた手にさらに力を入れ金田を持ち上げる。

 そしてそのまま、奴の頭から廊下の床に叩きつけた。

 

 

 「ごふっ」

 

 

 奴は鈍い声を上げ血を吹き倒れた。

 そして、杏井の持つカメラに向かいこう発言する。

 

 

 「動画は以上だ。テメェらも、つまらんことはするなよ」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 次の日。

 金田は病院に運ばれると同時に警察にお縄になったそうだ。

 動画も全て削除され、もう跡形も残っていない。

 

 一方オレはと言うと、金田の悪行を暴いたことで褒められたと共に厳重注意を受けた。

 『キミはやりすぎだ』とな。

 確かに、オレが本気で殴った相手は皆救急車で運ばれているような気がする。

 まあ、力の加減ができないことは仕方ないだろう。

 こっちも必死なんだからな。

 

 だが、今のオレはと言うと────。

 

 

 「あーっ、あったま痛ぇ…………」

 

 

 体温は38度。おまけに頭痛も来ている。

 完全に風邪をひいてしまったのだ。

 人1人持ち上げることなんて今はできっこない。

 今は布団の中で寝ることしかできないのだ。

 

 

 「くっそぉ…………ふざけんなよ…………」

 

 

 誰に向けていいかわからない怒りを独り吐き続けている。







どれだけ引いてもガチャが当たらないいいいいい!!(超欲張りな人)
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