投稿のスピードは遅いですが、これからも何卒よろしくお願いします
「それではホームルームを始めます。最近、風邪が流行っているようなので皆さんも気をつけるようにしてくださいね」
担任の先生から告げられたその言葉。
いつも近くにいたその大きい背中は今、この教室にはいない。
彼ほど強い人でも、風邪をひいてしまったようだ。
会えなくて残念と言うか、なんというか…………なんだか不思議な気分だ。
ホームルームが終わるとすぐに千聖ちゃんが私の机に来てくれた。
「ねえ花音。これから予定はあるの?」
「今日はバイトもバンドもないから大丈夫だよ」
「私も今日は何も予定がないから、その…………よかったら、月島くんのお見舞いに一緒に来てくれないかしら?」
千聖ちゃんからの突然の提案に驚いたけど、断る理由もない。
私は二つ返事で返答する。
「もちろん!」
「ありがとう♪そうだわ。ねぇ、紗夜ちゃん。よかったら一緒にどうかしら?」
「えっ、私ですか?」
千聖ちゃんは偶然そばを通りかかった紗夜ちゃんにも声をかける。
少し迷っていたような表情をしていたけど、答えはすぐに返ってきた。
「すみません。これから生徒会の仕事があるので…………」
「そう、わかったわ。お仕事がんばってね」
「ありがとうございます。よければ、月島くんに『早く治すように』と伝えておいてください」
「ええ、もちろんよ♪」
紗夜ちゃんに別れを告げ、私たちは横に並び廊下を歩く。
「なんだか、寂しいわね」
「え?」
「月島くんと過ごすようになってから毎日が慌ただしくて、とても刺激的で…………それにすっかり慣れちゃったもの」
千聖ちゃんはどこか感慨深く話す。
その様子は、奏くんと会えなくて悲しんでいるようにも見えた。
「楽しければそれで良いと思っていた学校生活が彼のせいで劇的に変わってしまったわ」
「確かにそうだね」
「こうなってしまった
「責任?」
「いいえ、なんでもないわ」
「そ、そっか」
千聖ちゃんの言葉に違和感を覚えたけど深掘りはしない。
無理やり言わせてしまうのは、友達として酷いことだと思ったからだ。
千聖ちゃんは私にとって唯一無二の友達。
些細なことがきっかけでその関係が崩れてしまうと考えると少し怖い。
独りぼっちは、絶対に嫌だ。
「そうだ、せっかくだし月島くんに手料理を振る舞うのはどうかしら?彼の事だし、料理は苦手でしょうから」
「うん!いいと思う!」
「花音は料理はできるの?」
「お菓子なら多少は作れるけど、料理は…………」
「私も難しい物は無理だけれど、簡単な物なら作れるから下拵えだけお願いしてもいいかしら?」
「うん!それなら大丈夫だよ」
「ありがとう花音♪」
二人で話していると、あっという間に奏くんの家に着いた。
学校からこれだけ近かったら迷う事なく登校できると思うと少し羨ましく感じる。
それに、電車の遅延にも影響されないし、万が一雨が降って傘を忘れても走って帰れば問題ない。
いい事づくしだ。
「それじゃあ、インターホンを鳴らすわね」
千聖ちゃんはそう言い、インターホンを押す。
……………どうやら誰も出る様子がない。
もしかしたら、奏くんは寝てて気づかないだけかもしれない。
「月島くーん。白鷺です。いらっしゃいますか〜?」
ドアをどんどんと叩き呼びかけるも、返事が返ってこない。
「おかしいわね。何で出ないのかしら?」
「千聖ちゃん。奏くんを無理やり起こすのは良くないよ。また日を改めよ。ね?」
「もしかしたら………………あらっ?」
千聖ちゃんはドアノブに手をかけ、少し捻りながら引くと扉が開いた。
玄関は真っ暗で廊下の先に見えるリビングにも光が一切灯っていない。
「月島くーん?」
奏くんの名前を再度呼びかける。
………………だけど、やっぱり返事は返ってこない。
「ち、千聖ちゃん。勝手に人の家に入るのは…………」
「月島くんに万が一のことがあったら心配でしょう?別に、彼はこんなことでは怒らないわ」
「で、でも……………」
「月島くん。お邪魔するわね」
私の反対を押し切り、千聖ちゃんは廊下を進む。
ダメなことだとは思ったけど、さっきの言葉がどうしても頭から離れなかった。
『万が一のことがあったら』
奏くんのお母さんは仕事でいないだろうし、彼に兄弟がいるって聞いたこともない。
独りで辛い思いをしてると考えると、そのような思考は綺麗さっぱり無くなった。
私も千聖ちゃんの後を追う。
すると──────
「きゃあああああ!!」
リビングの方から千聖ちゃんの悲鳴が響いた。
急いで駆け寄ると、明かりのついた部屋に黒のジャージ姿で横たわる奏くんの姿が目に入る。
それも、ただ横になっているだけじゃない。
明らかに途中で倒れたような感じだ。
「奏くん!奏くん!」
彼の体を揺らし呼び掛けてみるも、目を閉じたまま全く動かない。
額に手を当てるととても熱く、息遣いも荒い。
どうやらかなり重い状態なようだ。
「千聖ちゃん!まずは奏くんをベットに!」
「え、ええ。そうね」
二人で奏くんの体を起き上がらせ、腕を二人の肩に乗せゆっくりと歩く。
身長差があるから足は引きずっているけど、何とか動くことができた。
奏くんの部屋の扉を開け、ゆっくりと降ろし布団をかける。
「どうしてあんなところで倒れてたのかな……………?」
「確かにそうね。彼なら大方………………あら?」
千聖は何かに気がついたようだ。
「千聖ちゃん?」
「ふふっ。月島くんの寝顔、結構可愛いらしいのね」
「えっ?」
私も奏くんの寝顔を見る。
いつも活発で元気発剌としたのとは違い、静かな寝息を立てる彼の姿はとてもギャップがあった。
可愛い、かどうかはわからないけど見てて微笑ましく思えた。
そんな彼に千聖ちゃんはカメラを向け、パシャっと写真を撮る。
ニヤリ、と悪戯に笑みを浮かべるその表情はまるで小悪魔のよう。
良からぬことに使おうとしてるのは目に見えていた。
「さて、月島くんが目覚める前にお粥でも作っておこうかしら」
「うん!」
私たちはキッチンへと向かい、早速調理の準備を始めた。
閉まってあった包丁やまな板などの調理器具を出し冷蔵庫の中を確認する。
「まぁ………………」
残念そうな声を出す千聖ちゃん。
私も続いてみてみると、中は牛乳と僅かな調味料しか入っておらずこれではなにも作ることができない。
「ちょっと買い出しに行ってくるわね。花音は留守番を頼んでもいいかしら?」
「うん!任せて」
「じゃあ、行ってきます」
千聖ちゃんはそう言い残し、家を後にする。
しんと静まり返った家の中。
それも、寝ているとはいえ奏くんと二人きりになるのは随分と久しぶりだ。
(えっと確か、カバンの中に…………あった!)
私はカバンの中から薬の入った瓶を取り出した。
あれは昼休みのこと。
お手洗いに行こうと廊下を歩いていると偶然こころちゃんと会った。
どうやら暇になって校内を散歩していたようだ。
奏くんが風邪になって心配だと話したところ、こころちゃんは風邪薬をくれた。
彼女曰く、『絶対治る!』ものらしい。
ありがたくそれをもらい、明日返す予定だ。
そして今。
その薬とコップに入った水を奏くんの部屋に持っていく。
「奏くん。起きれますか?」
彼にそう問いかけると返答はない。
よく見ると、顔は赤くうなされているような状態だった。
とても薬は飲めそうにない。
そう考えた私は、ハンカチを水に濡らし、奏くんの額に乗せた。
少しでも体を冷やそうとしたけど、あまり状態に変化はなさそうだ。
「奏くん……………」
彼の顔をじっと見る。
なんだか、とっても苦しそう。
私が代わりになれたらいいのに…………。
まるで吸い込まれるかのように、奏くんの顔との距離がゆっくりと近くなる。
あと30センチ……………10センチ…………もう、目と鼻の先──────
「花音〜。帰ったわよ〜」
「……………!?」
千聖ちゃんの声に驚き、顔をパッと離す。
(あれ…………?私は今、なにをしようとしてたの…………?)
今の一瞬、私が私でないような気がした。
奏くんの熱が移ったのかな?
なんにせよ、こんな事は千聖ちゃんには話せない。
今の出来事は心の中に閉じ込めておこう。
◆◆◆
奏くんの部屋から何食わぬ顔で迎えると、千聖ちゃんは大きなビニール袋を持って帰ってきた。
「おかえり。千聖ちゃん」
「ただいま。近くにスーパーがあって助かったおかげで、いろんなものが買えたわ」
ビニール袋には、ネギや卵、梅干しが入っていていかにも "お粥" という感じのものばかりだ。
他には桃とみかんの缶詰、玉ねぎに…………ニンニク?
なにに使うかわからないものまで入っている。
「それじゃあ花音。早速始めるわよ」
「う、うん!」
制服の袖を捲り調理を始める。
………と言っても、私がやることと言ったらお米を洗って渡すぐらいだ。
火や包丁とか危ないものを扱うこともないから安心できる。
その間千聖ちゃんは卵を溶き、ネギを小口切りにし、玉ねぎをみじん切りにする。
とても丁寧で手際がいい。
まるで、誰かのお嫁さんのようなーーー
「花音?
「えっ…………!?」
どうやら私の考えを見透かしていたらしい。
でも、もしその時が来たのなら千聖ちゃんの旦那さんは幸せ者だと思う。
私はまだ、想像なんてとてもできないけど。
「あーー……………あったま痛ェ…………」
そう考えていると部屋から奏くんが姿を見せた。
眉間に皺が寄り、その頭痛の度合いがすぐわかる。
「おはよう。月島くん」
「あ〜、この際だ。なにも聞かん」
奏くんは気怠げにそう言い、ソファに腰掛ける。
「まさか風邪がこんなに長引くなんて、予想外だ……………」
「ホントあなたらしく無い」
「ああ、全くだ……………」
「でも、あなたの寝顔が意外に可愛くて驚いたわ」
「テメェ、何見たんだコラァ……………!」
「いつもの覇気がないけどどうしたのかしら?まるで幼稚園児が覚えた手の可愛い言葉で罵倒してるようにしか聞こえないわよ♪」
写真を撮っていた時よりも千聖ちゃんは揶揄うように笑う。
もうこれは小悪魔じゃない。悪魔そのものだ。
「決めた…………治ったら真っ先にぶん殴る」
「あらっ、それなら一生寝ててもらって構わないわよ」
「おいコラ、遠回しに "死ね" って言ってんじゃねぇよ…………」
「ふふっ、あはははっ!」
奏くんの返しが面白かったのか、大胆に千聖ちゃんは笑った。
「そうだわ。お粥を作ったのだけど、よかったら食べる?」
「ああ、食う……………。おふくろが出張で家をあけてて食い物がねぇんだ。常備してるカップ麺を全部切らしてたみたいでな……………。買いに行こうとしたら、そのザマだ」
「それでキッチンで倒れてたの?」
「松原たちが来なかったら空腹と熱で本当に死んでたかもな…………」
「カップ麺だけ食べてたら体壊すわよ。現に崩してるんだけれど」
「育ち盛りだからか腹が空くんだよ。現に今も腹が鳴ってんだ。飯ができてるなら早く食わせてくれ」
「はいはい。全く、仕方ないんだから」
呆れ顔でそう言い、お粥をお椀に盛り付ける千聖ちゃん。
てっぺんに梅干しが乗り、所々に散るネギの色合いが良いお粥を奏くんはあっという間に平らげソファに横になる。
「そういえば奏くん。お薬は飲んだ?」
「薬ぃ?そんなもん家にはねぇよ」
「奏くんの部屋に置いてあったんだけど、よかったら取ってくるね!」
私はそう言い残し奏くんの部屋へと入る。
改めて見渡すと、彼の部屋と私の部屋は全然違って見てた。
ぬいぐるみなどの可愛らしいものは一切なく物が少し散乱し箪笥の上に置いてある大きなバイクのヘルメットが目立つ。
もちろん異性ということもあるけど私にはとても新鮮に思える。
少ししてからテーブルに置いてあった薬と水を手に持ち奏くんの元へ行こうとしたその時、目の端にあるものが目に映った。
(あれは……………写真?)
コルクボードに付けられた様々な写真。
私は立ち止まりその写真たちをまじまじと見る。
中学の頃かな?みんなとても笑っている。
その笑いの中心にいるのはもちろん奏くん。
なんだか、見てるこっちまで明るくるようなキラキラとした写真だ。
彼のこんな笑顔を私は見たことがない。
『世界中を笑顔に』と目標を掲げるバンドのメンバーだけど、私はいつも助けてもらってばかりだ。
私だっていつか必ず彼の力になれるようになりたいなぁ。
(あれ、これって……………)
数々の写真の中でも一つ、私の目が奪われたものがあった。
それは
それも花咲祭で彼がロミオの格好をした時の写真だ。
その隣にいるのは─────千聖ちゃん。
恐らくだけど、演劇の練習中に撮られたものだと思う。
驚いた顔をして映る二人。
決して仲がいいとは言えない二人だけど、この大切な写真たちの中に飾られてるってことはそれだけ濃い思い出だったんだろう。
全てを見渡しても
「花音〜?」
「あっ、はーい!」
千聖ちゃんの呼ぶ声でふと我に帰り、部屋を出て奏くんに薬とお水を渡す。
険悪だったはずの二人の関係。
彼が私の親友にどんな感情を抱いてるのかわからないけど、改善されつつあるのかな?
私は争いごとが好きじゃない。
だからこそこうして笑って過ごせているのならそれで良い。
だって私は、世界に笑顔を届ける "ハロー、ハッピーワールド!" のメンバーなのだから。
花音さんと千聖さんに看病してもらえるなんて、幸せ者かよ!
こらっ奏!そこかわれ!!『必死の叫び)