高嶺の華と路傍の花   作:山本イツキ

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ゴールデンウィーク、皆さんはいかがお過ごしでしょうか?


私は、惰眠を謳歌しております。はい。


久々の更新でお忘れかと思いますが、どうぞご覧ください。


第34輪 ソメイヨシノ 〜純潔〜

 私、氷川紗夜の朝は早い。

 

 

 「おはようございます。おはようございます」

 

 

 生徒会、そして風紀委員に席を置く私は毎朝こうして校門に立ち挨拶すると同時に風紀の乱れをチェックする。

 

 

 「ふぁ〜………………ダリィ」

 

 「だらしがないですよ」

 

 「仕方ねぇだろ。朝早ぇんだから」

 

 

 寝癖を直さず私の横に立つ彼、月島くんは恐らくこの学園で一番風紀を乱しているといっても過言ではない人だ。

 けど、注意をしたところでどうしようもないことはわかっている。

 彼ほど適当で野蛮な男性を私は知らない。

 

 

 「おはよう。二人とも」

 

 「おはようございます。杏井さん」

 

 

 爽やかな挨拶をする彼、杏井さんは彼とは対極のような人だ。

 服装の乱れもなく清潔で、クラス内外で人気が高く悪い噂なんて一つも聞いたこともない。

 私からすれば、全員が真似してほしいと言える程の模範的な生徒である。

 

 

 「今日のお昼休み、二人にちょっと取材したいんだけどいいかな?」

 

 「なんだ、新聞部の活動か」

 

 「そうだよ」

 

 「残念だが、噂の熱愛疑惑なんてものは存在しねぇぞ」

 

 「ははは。そんなものは掲載したりしないさ。学校の風紀を取り締まる二人にインタビューしたいだけだよ」

 

 「私は構いませんよ」

 

 「手短に済ませるならいいけど」

 

 「ありがとう!それじゃあ、また教室で」

 

 

 笑顔で手を振り彼は校舎へと向かって歩く。

 

 

 「月島くんも彼を見習ってはどうですか?」

 

 「ハッ、嫌なこった」

 

 「そう言うと思っていましたよ」

 

 「じゃあ言うんじゃねぇよ」

 

 

 月島くんと杏井くんは言うなれば、隠と陽。

 相反する男子生徒がこうして同じクラスにいるのだから、見ていて違いがハッキリとわかる。

 その姿を見て女子生徒は "どっちが魅力的か" などといった論争に発展していると聞く。

 数で言うと、杏井くんに好意を寄せている人は大勢いるけれど月島くんにも少なからずそう思っている人は存在する。

 クラスメイトにどちらが好きかと聞かれても、私は解答しかねる。

 だって私には異性に恋愛感情といったものを持ちあわせたことは一度たりともないのだから。

 

 

 「ふふっ」

 

 「何がおかしい?」

 

 「少しですが、あなたのことを理解することができて嬉しいんですよ」

 

 「ほお。じゃあ、オレが今何を考えてるかわかるのか?」

 

 

 月島くんは私の目をじっと見る。

 それは、『わかるものなら答えてみろ』と言わんばかりの鋭い眼光だった。

 

 彼は一体どこまで傲慢なんだか……………。

 

 

 「わかるわけありません。私は決してエスパーではありませんから」

 

 「まあ当然か。とあるゲームだと、エスパータイプはあくタイプに弱いから現実でも同じなんだろ」

 

 「エスパータイプ?あくタイプ?」

 

 

 聞きなれない単語に混乱する。

 

 

 「…………前言を撤回します。やはりあなたの考えてることを完璧に理解することは不可能なようですね」

 

 「べーつにいいだろ?わかんなくたってよ。人の考えてることなんて三者三様、千差万別。的確に読み取るなんてのは不可能な話だ」

 

 「それでも私は理解しようとすることを諦めません」

 

 「ケッ、強情な奴」

 

 

 月島くんは呆れたように舌打ちする。

 

 

 「って言うかオマエはいいのかよ。杏井をそんなに信頼して」

 

 「信頼も何も、クラスメイトとして普通に話していただけですけど」

 

 「どーもきなくさい感じがしてよ。変なことを企んでなければいいんだがな、アイツ」

 

 「月島くんほど物騒なことを思いつく人はいませんよ」

 

 「安心しろ。それで苦しむのは加害者だけだ」

 

 「はぁ、暴力だけで解決するのはもうやめてくださいね」

 

 「善処する」

 

 

 全く信用できない返事を受け取り私たちの会話は終わった。

 どうやら月島くんは杏井くんを警戒しているようだけど私にはその気持ちがわからない。

 だって、あれほど真面目で他人に好かれる人格者なのだから。

 

 ──────だけどそれが表の顔で、実は裏ではとんでもないことをしているというのはドラマや小説ではよくある話だ。

 空想の世界を現実に当てはめるなんてバカげたことだとは思うけど、月島くんとまでは言わずとも少しばかりは用心するに越したことはないだろう。

 万が一…………いや、億が一にでも彼が()()を見せるその時が来るまでは。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 昼休みになろうと私に休む余裕はない。

 机を片付けてからお弁当を持ち杏井くんの待つ新聞部の部室へと向かう。

 花咲川の部活の定義は5人以上が在籍(兼任は認めない)が条件だけど、新聞部はその人数ギリギリの6人しかいない。

 それも、部活動として始動したのもつい最近の話だ。

 これまでは学校行事の写真を撮り掲載する程度だったけど彼が入部してからは少し趣旨が変わった。

 それが、今から行うインタビューだ。

 彼がレポーター兼執筆者となり対談の内容を掲載している。

 その他にも噂話などを持ち込んで執筆することもあるらしいけど決して他人が傷つくようなスキャンダルは決して書かない。

 詳しく読んだことはないけどどれも面白いものばかりで生徒には人気のコンテンツのようだ。

 

 

 「失礼します」

 

 

 扉をノックし部室へと入る。

 そこには既に月島くんの姿もあった。

 

 

 「やあ。待ってたよ」

 

 「おっせぇぞ」

 

 「あなたのように机を散乱したまま来たわけじゃありません」

 

 「まあまあ。適当にかけてよ」

 

 

 杏井くんに勧められ椅子に腰掛ける。

 

 

 「月島くん、氷川さん。今日は急に呼び出してごめんね」

 

 「別に構わねぇよ」

 

 「私もです」

 

 「ありがとう。早速だけど訊かせてもらうね。あっ、お昼ご飯を食べながら答えてくれて大丈夫だから」

 

 「そうか。なら遠慮なく」

 

 

 杏井くんは机の上にボイスレコーダーらしきものを置き、月島くんはビニール袋からパンを取り出し一口かじった。

 私も弁当箱を開け、食べ始める。

 

 

 「それじゃあ、いくね。最近、というか二人は風紀委員になってから関わりが増えていると思うんだけど、お互いのことをどう思っているのかな?」

 

 「おいおい、それなら朝も言っただろうが。この女に惚れることはねぇぞ?」

 

 「あはは。別に恋愛感情について訊いてるわけじゃないよ。仕事仲間(ビジネスパートナー)としてどう思ってるか教えてほしいな」

 

 「なんだそのことか。そうだな……………」

 

 

 月島くんは腕を組み考えるそぶりを見せる。

 

 

 「氷川さんはどうかな?」

 

 「私、ですか………………」

 

 

 私も頭の中で考えを巡らせる。

 月島くんと同様に、彼に恋愛感情を抱いたことはないしこれからもないだろう。

 がさつでいいかげんで、カッとなると手に負えないという欠点はあるけれど、いざというときにはすごく頼りになるし人には思い付かないような大胆な発想も持ち合わせているのは彼の長所である。

 彼の良いところは私も見習わなくてはならない。

 しかし、それを差し引いても "好意" とするには私と合わないところが多すぎるのが現状だ。

 何故なら、気苦労でこっちが倒れてしまいそうだから。

 

 

 「総じていうなら……………頼りにはなっていますよ」

 

 「おいっ。なんだ、その上から目線な言い方は」

 

 「事実ですから」

 

 「月島くんはどうかな?何か考えついた?」

 

 「結論から言うと、合うわけがねぇよ。オレと氷川は水と油みたいなもんだからな」

 

 「そっか」

 

 「だが、"嫌い" ってわけじゃねぇんだぜ」

 

 「というと?」

 

 「そりゃあ初めは馬が合わねぇ事ばかりで衝突しまくってはいたが、ここ最近は氷川の考えもわかるようになってきてな。今までのオレは独りで突っ走ってきたが、他人と協力することも悪くないって思えるようになってきたところだ」

 

 「なるほど。つまり、異性としての好意はなくても、思考や人間性に一目置いているってことかな?」

 

 「ま、そんなところだ」

 

 「…………………」

 

 

 普段見られない月島くんの素直な一面を目の当たりにして言葉を失う。

 

 

 「んだよ」

 

 「いえ、なんでもありません」

 

 

 胸に手を当て小さく深呼吸をして心を落ちつせる。

 

 

 「それじゃあ次の質問にいくね」

 

 「おお」

 

 「共学化してからこの学校では男女交際が多いようだけど二人はどう考えているのかな?」

 

 「しつこい奴だなァ。今回のテーマは恋愛についてとでも言うつもりか?」

 

 「ふふっ。まあ、そんなところさ。花咲川の風紀を取り仕切る二人の意見を是非訊かせてほしいな」

 

 

 和かな笑みを浮かべる杏井くんはどこか、私たちをからかっているのかと思えるほど落ち着いている様子だ。

 あくまで彼は部活動の一環として私たちに取材をしているだけ。

 彼に裏があるとはとても思えないのだけれど…………。

 

 

 「別に個人の自由でいいんじゃねぇの?恋愛なんて」

 

 「そうでしょうか」

 

 「ああ?」

 

 「学生の本文は勉学にあります。恋愛にうつつを抜かしては本末転倒です」

 

 「そうかなぁ?実際、恋愛を経験してわかることもあるんじゃないかな」

 

 「しかし………………」

 

 「だからよぉ、何でもかんでも硬く考えすぎなんだよテメェは」

 

 

 月島くんは私の頭を大きい掌でバシバシと叩いた。

 

 

 「な、何するんですか!?」

 

 「恋人になろうが24時間365日ずっと一緒にいるわけじゃねぇんだ。互いと離れている間に勉強すればいいだろ?」

 

 「それが本当に可能なんでしょうか」

 

 「さあな。それは本人たち次第だろう」

 

 「それだと意味がありません」

 

 「意味、ねぇ…………」

 

 「若いうちにそういったことを経験するのも必要でしょうが、それは大人になってもできること。今急いですることではないと思います」

 

 「つまり、氷川さんは恋愛には否定的。月島くんは肯定的ということでいいんだね?」

 

 「そんなところだろうな」

 

 「月島くんは適当なだけです」

 

 「恋愛禁止なんて校則はこの学校は設けてないからね」

 

 「校則があったとしてもやる奴はどーせ隠れてコソコソ付き合ってるだろうぜ?クククッ」

 

 「確かにその通りですね……………」

 

 「世の中、テメェみたいな真面目な奴はそういないってことだ。これが集団、これが社会だ」

 

 

 秩序のない世界なんてなんの意味もない。

 法律という絶対的な "正義" は存在するけれどそれを犯す人間は止まることを知らず出てくる一方だ。

 いい人間と悪い人間。

 世の中はこの二択以外に存在しない。

 私は絶対に前者でありたいと心底思った。

 

 

 「それじゃあ次の質問をするね。二人は─────」

 

 

 その後もしばらく杏井くんの質問は続いた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 放課後も私は激務に追われている。

 生徒会の日報や学校行事についての会議、風紀委員の見回りや部活動─────あげればきりがない。

 頭が痛くなり眉間に指をあてる。

 

 

 「おーい氷川。見回り始めっぞ」

 

 「ええ。行きましょう」

 

 

 近頃はサボりもなくなり、彼を探すこともなくなったけど書類関係に関しては別の話。

 溜まりに溜まったその全てを私にいつも押し付ける。

 試しにやってもらった時には、適当すぎる書き方に呆れ全てを受け持つことになったけど納得はしていない。

 彼は『自分は頭が悪い』と常々言い続け、テストも平均を下回ることが多いけれど、私は知っている。

 月島くんはただ、やる気がないだけでちゃんと勉強すればとても頭がいいことを。

 とどのつまり、極度のめんどくさがりなのだ。

 

 

 「しっかし、この学園も随分と平和になったもんだな」

 

 

 彼から放たれた唐突の言葉。

 

 

 「そう、ですね」

 

 

 月島くんが風紀委員長になってからは校内の問題は全くと言っていいほど起きなくなった。

 偏に彼の "強さ" が要因だろう。

 入学式では騒いでいた一年生たちも今ではすっかりおとなしくなり、先生たちも彼に一目置くようになっていた。

 素行は決して褒められたものじゃないけれど、彼が中心となりこの学園は確実に良くなっていると目に見えてわかる。

 

 

 「最近また変質者が出るらしいから、今日も外の見回りでいいだろう」

 

 「はい。そうしましょう」

 

 

 二人で横に並び校門を出てすぐに、いかにも不良な二人組の他校の生徒に目をつけられ絡まれる。

 

 

 「オマエが "不死身の暴君(アンデッド)" かぁ?」

 

 「女連れとはいいご身分だなぁ!!」

 

 

 月島くんに近づき威嚇するも、彼は全く気にすることはない。

 

 

 「誰だが知らねぇが、オレと()り合う気か?」

 

 「『そうだ』と言ったらどうなんだコラッ!」

 

 「所詮噂ってのはデカくなるだけで実際は大したことないってのが相場では決まってるんだよ!」

 

 

 ヒートアップする二人組に月島くんは全く動じない。

 そして、この状況に慣れつつある自分が怖くも感じる。

 

 

 「やれやれ、ケガしてもしらねぇぞ」

 

 「待ってください」

 

 

 首を鳴らし戦闘態勢に入る月島くんの前に私は立った。

 

 

 「おい氷川。そこをどけ」

 

 「いいえ、どきません。あなたが手を出せばこの人たちがどうなるかわかりません」

 

 「人を凶悪犯扱いしてんじゃねぇよ。テメェもケガだけじゃすまねぇぞ?」

 

 「大丈夫です。ここは私に任せてください」

 

 「ったく。どうなってもしらねぇからな」

 

 

 月島くんは一歩下がり、私は二人組と正面から向き合う。

 

 

 「まずは女!テメェからだ!!」

 

 「覚悟しろよ!!」

 

 

 猛ダッシュで距離を詰め、腕を振りかぶる二人の拳をかわし、片方の男の足を引っ掛け勢いのまま転ばせる。

 片方の男は再び拳を振るうも私も再度避け背負い投げをして背中からコンクリの地面に叩きつけた。

 

 ふぅ、と一息吹き二人の方を見るとそれぞれの箇所を抑え痛がるそぶりを見せる。

 

 

 「わぁぁお………………」

 

 

 どうやら月島くんも驚いている様子だ。

 

 

 「なんですか?」

 

 「いや、意外にやるもんだと思ってよ」

 

 「護身術を学んだ結果です。それに、集団相手だと私では太刀打ちできません」

 

 「前に暴力がどうだとか言ってなかったか?」

 

 「正当防衛です」

 

 「ハッ、テメェも言うようになったじゃねぇか」

 

 「勘違いしないでください。軽くあしらう程度でいいものを、あなたはやりすぎです」

 

 「そうか?反撃の意志を潰してこそ初めて────みろ。奴らはまだピンピンしてるぜ」

 

 

 フラフラと立ち上がり私を睨む眼光に少し怯む。

 どうやら彼らはまだ戦う気らしい。

 

 

 「よ………よくも、やってくれたな…………!」

 

 「テメェ、は………………絶対……………!」

 

 「「ゆるさねぇ!!」」

 

 「そうか。だが、残念────」

 

 

 二人に向かって月島くんは鳩尾めがけて思い切り蹴りを入れた

 

 

 「テメェら三下じゃあオレたちには勝てねぇよ」

 

 

 男たちは蹲り、戦闘不能になった。

 月島くんは彼らに構うことなくこの場を後にし私も彼の横に並ぶ。

 

 

 「やはり、やりすぎなのでは?」

 

 「いーんだよあれぐらいで。また絡まれたんじゃあ面倒だからな。それに……………」

 

 

 月島くんは悪戯な笑みを浮かべ私を見る。

 

 

 「今日はいいもん見させてもらったな。あの氷川が暴力を振るうとは」

 

 

 はははっ、と嬉しそうに笑う彼に少し怒りばかりの感じつつも冷静に返す。

 

 

 「違うと言ってるでしょう!」

 

 「そう怒るなって。それに、それだけ強かったら彼氏なんて存在は必要ないってのも頷けるな」

 

 「私なんてまだまだです。それに、私だって恋愛に興味がないわけじゃ、ないんですよ?」

 

 「……………………はっ?」

 

 

 私の言葉を聞いてか、月島くんは急に立ち止まった。

 振り返ると、その顔つきはどこか呆然としたものだった。

 

 

 「月島くん……………?」

 

 

 私が声をかけても返事がない。

 それほど驚くことなのでしょうか?

 

 すると、突如我に帰ったかのように歩き出し、私の肩に手を当てこう告げる。

 

 

 「……………テメェに釣り合う男なんざ世の中にいねぇから、恋愛は諦めろ」

 

 

 何かを諭すように発したその言葉。

 私の少しばかりの怒りが爆発した。

 

 

 「ふ、ふざけないでください!!」

 

 

 彼に言われる筋合いはない。

 今日ほどこのように感じたことはない瞬間だった。

 




執筆したくてもできない日々が続いていますが、どうか私を忘れないでぇぇぇぇ(涙目)
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