その間も、たくさんの評価、感想本当にありがとうございます。
今回は少し凝ってみました。
月島くんを見送ってから私はレッスンに励んでいた。
残り少ない高校生としての芸能活動。
悔いは絶対に残したくないからだ。
「それじゃあ、みんなお疲れ様」
長時間のレッスンを終えメンバーに別れを告げる。
パスパレが結成されてから早一年。
紆余曲折あったけれど、今はどちらかと言うと楽しくやれている気がする。
"元子役" ではなく、"女優" でもなく、 "アイドル" としての白鷺千聖も浸透してきた。
順調にいけばみんなと武道館に立つことだって夢じゃない。
活動を休止する前に達成したい目標だけれど、現実はそう甘くないのはわかっている。
目標はあくまで目標。
達成できなければまた次の目標を定めればいいだけのこと。
私は
プルルルルッ。
ポケットにしまってあった携帯に電話が入った。
発信者は……………不明。
以前、同じ出来事があったから尚更その相手に恐怖する。
もしかして、手紙の送り主?
そんなことが頭をよぎる。
「も、もしもし」
意を決して電話に出るも向こう側の人物は返事を返そうとしない。
数秒、数十秒待っても状況が変わらずまるで私をからかっているのかとすら感じる。
「あの、何も用がなければ切りますよ」
少し強めに告げたその時、くすくすと小さく笑う声が聞こえた。
「どちら様?」
電話の送り主に問いただすと、その声の主はようやく返事を返した。
『初めまして、と言った方がいいかしら?』
「少なくとも私はあなたのことを知らないわ」
『"羽丘の女帝" という二つ名は聞いたことなくて?』
「………………!?」
以前月島くんを殺害しようとした張本人。
これまで私となんの接点もなかったその狂女から電話がかかってくるとは思わず驚く。
『ウフフッ』
「一体何の用かしら?別に私はあなたと話すことなんてないのだけれど」
『そう。でも、残念。私にはあるの。よかったら聞いてちょうだい』
「……………手短にお願いするわ」
『もちろんよ♪』
どこか余裕があり落ち着いた様子の彼女。
まるで、社長と話しているみたいだ。
『最近あなたの身に異変が起きたと言う噂を聞いたの。それは合ってるかしら?』
「……………ええ、その通りよ。でも、このことを知ってる人は限られているわ。どこからその情報を得たのかしら?」
『私って結構情報網が広いの。あなたが知られたくないこともなんだって知ってる。例えば、文化祭の出来事もね』
「…………あなたの目的がわからないわ。私への嫌がらせ?それとも、
「別にあなたなんてどうなろうと構わないわ。少なくとも私は、ね?」
意味深なその言葉。
まるで誰かが私にどうかなって欲しい人がいるみたいな言種だ。
「どうやら私は酷く憎まれているようね」
『ウフッ、正解よ。例えばあなたに如何わしい手紙を送りつけた人とかね』
やはり、と言うべきか。
手紙の送り主と彼女が繋がっていると自ら吐露した。
これで月島くんに伝えさえすれば彼女は終わったも同然。
だからこそ、彼女の真の目的が分からずにいた。
「あの手紙のことが本当だろうと、今の私には月島くんが付いているわ。あなただって彼の強さは知っているはず。こんなことをしてメリットなんてないと思うのだけれど?」
『知られたって構わないわ。近い将来絶対知られることなんだもの。言わせて貰えば、これは "宣戦布告" 。月島くんを取り巻くもの全てを壊すためのね』
「あらっ、随分物騒なことを言うじゃない。集団で襲った挙句警察に捕まることを恐れて逃げ出した人が吐くセリフじゃないと思うのだけれど」
『……………確かにあの時は驚かされたわ。彼の生命力はゴキブリ以上よ。だからこそ、今度は─────ちゃんと殺す』
「あなたにできるのかしら?あの暴君を相手に」
『もちろんよ。どんな屈強な大男でも、どれだけ血を流しても倒れない化け物でも、
羽丘の女帝さんは自分勝手に電話を切り、緊張から解放されたからか私はふぅっと息を吐く。
「本当に、驚いたわ」
今はただその一言に尽きる。
これまでなんの接点もなかった危険人物からコンタクトされたとなると、軽く受け流すことなんてできるわけがない。
彼女は『殺る』と言い切った。
もうこれは嘘偽りない言葉と受け取って間違いないだろう。
「……………もしもし月島くん?白鷺です。実はさっき─────」
私はすぐさま月島くんに電話をかけ先ほどの彼女との会話を全て話した。
彼は驚く様子もなく私の話を聞き、淡々と返事を返す。
『アイツが何を考えてるから知らねぇけど、マズイのは確かだな』
「やはりそうよね…………」
『とりあえずオマエは一人で出歩かねぇこと。仕事中はオレの側から離れるな』
「ええ。もちろん」
『それと、あの時みたく誰かを人質に取られることだってあるだろうから、クソ親父に頼んで松原と氷川に護衛をつけるようにしてもらう』
「私からもお願いしておくわ」
『オマエは仕事に集中してたらいい。余計なことは全て忘れろ。万が一にもしくじりはしねぇよ』
「頼りにしてるわ。月島くん」
『よせよ。柄でもねェ』
「フフッ、本心なのだけれど?」
『オマエが言うと嘘臭く感じるんだよ。そういう演技はドラマの中だけにしとけ。じゃあな』
月島くんは捨て台詞を吐き電話を切る。
「やっぱり、月島くんの声を聞くと落ち着くわね」
いつからだろう?
こんなことを思うようになったのは。
いつもは歪みあってばかりの私たちだったけど、今となっては普通の友達…………いや、それ以上の良好な関係まで築かれていた。
でも、彼はそんなこと一切気にしない。
今の私たちは、女優とマネージャー。
ただ、それだけの関係だ。
「…………………」
ベッドに置いてあるクマのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。
(なんだか、モヤモヤする………………)
この気持ちは電話で脅されたからか、それとも別の何かなのか。
脳裏に浮かぶ彼のことを考えながら今日は寝付くことにした。
◆◆◆
今年も性懲りも無くやってきた暑すぎる夏。
夜は比較的涼しく感じるが、昼間となるともう完全に日差しがオレたちを殺しにきている。
汗はとめどなく流れ、日傘や帽子、洗剤の香りのするタオルは必需品だ。
何せオレはいま、白鷺のドラマの撮影に同行しているんだからな。
「はい、カーーット!……………おっけい!ひとまず休憩にしようか」
監督の一言で役者たちが散り散りになる。
白鷺は真っ先にオレの元へと駆け寄り、キンキンに冷えた水を手渡す。
女優といえど人は人。
疲労の色が見てとれた。
「辛そうだな」
「ええ。けれど、嫌いじゃないわよ?」
「ドMかよ」
「そういうわけじゃないのだけれど」
にこやかに笑う白鷺だが、肩から息していて呼吸が荒い。
今まで何とも思わず見ていたドラマだったが、裏側ではこんなことをしているのかと思うと俳優や女優の演技力は素晴らしいと言う他ない。
他のマネージャーとも話をしたが、海外での撮影だともっと大変だと言う。
今回は国内、もとい近場での撮影で助かった。
「今のが『幼馴染と水辺で戯れ合うシーン』か…………。せっかく海まで来たのに潜れないなんて、監督も鬼だな」
「このシーンでの目的は二人が絆を深めあうことよ。幼馴染といっても二人は高校生。気難しい年頃だということを監督もわかっているんじゃないかしら?」
「普通の高校生はこんなことしてるんだな。オレにとっての普通とはかけ離れすぎて想像もつかん」
「喧嘩ばかりしているとそうなるかもしれないわね」
「うっせぇ」
「あなたにはそういった人はいなかったのかしら?」
「…………………」
思えばオレに "友達" はいれど、 "幼馴染" と呼べる存在はいない。
ガキの頃はバカだったから、頭に血が昇りやすくすぐに揉め事を起こしては色んな奴との殴り合い、喧嘩三昧だった。
歳は問わず、オレがカチンときた瞬間に闘いのゴングは鳴っていた。
そこからはもう想像する通りだ。
そこからできるのは、敵、子分、噂を聞きつけた挑戦者ばかり。
あの頃のオレは友達すらろくにできなかったのだ。
「そういうオマエはどうなんだよ」
「私は子役としてずっとテレビに出ていたから、そういった人はいなかったわね。学校にもあまり通えなかったし…………」
どうやら白鷺もオレと同類らしい。
しかし奴はオレとは違い幼少期を棒に振るったわけではない。
その時の活躍があったからこそ今こうやって仕事がもらえてるわけだからな。
…………いや待てよ。
それならオレもあの頃に力をつけたおかげで誰にも負けることなくいられてるわけで──────。
「ふふっ、何か変なことを考えている顔ね」
「昔を懐かしんでんだよ」
「小さい時の月島くんはいつも傷を作っていたものね。写真に映っていたもの全部、どこかしらに絆創膏をつけていたわよ?」
「今だから言えるが、自分でもどうかしていたと思う。中学に上がってからはもうそんなこと一切しないように陰でひっそりと学園生活を送っていたんだけどな」
「あなたが陰に?想像もつかないわね」
「情緒が不安定な時期だからな。結局、最後は暴れ回って今に至るわけだ」
「たった17年だけど、あなたほど濃い人生を歩んだ人はいないでしょうね」
「まあ、つまんねぇ人生よりよっぽどいいんじゃねぇの?この方がよ」
これが、今のオレの考えだ。
『ストレスは人生のスパイスだ』と、ハンス・セリエが言ったようになんの刺激もない日常を送ることなんて退屈で仕方ないだろう。
オレはつまらんことが大嫌いだ。
勉強だってそう。ただ机にじっと座り話を聞くだけなんて面白くもなんともない。
学校で習ったことが将来役に立つことなんてさほど多くない、と大人は口を揃えて言う。
その考えにオレも賛同する。
オレが目指してるのはそんなものを必要としない。
単純な身体能力、友好な人間関係、そしてその場の閃き。
それらさえあれば他になにもいらん。
「まあ、月島くんらしい考え方ね」
「オマエも同じだろ」
「もちろん女優を目指すけれど、ちゃんと大学には通うわ」
「なんでそこまでして大学にこだわるんだ?」
「"ごく普通の日々を過ごす" ことも、役を演じる身としては経験しておくべき
奴は『白鷺千聖』という物語を歩む主人公であり、それを彩る演出家でもあり、全てを決める監督でもある。
その物語がどういった経緯を辿り、完結するのか少々興味が湧いてきた。
一年前のオレならこんなことを言うなんて想像もつかないだろうが、白鷺とは幾度となく行動を共にした。
怒り、悲しみといった感情も、女優であるための努力も、松原たちと話す時の和かな表情も──────もはやクラスメイトという関係では収まらない。
こういった関係性をなんと言うのか。
今のオレには答えかねる議題だ。
………………………
……………
ドラマの撮影も終わり、辺りはすっかり暗くなり夜を迎えた。
太陽の光を反射して輝いていた海も今は静かな波音をたてるだけで、魅力なんてこれっぽっちもない。
「夜だとやはり涼しいな」
「ええ。そうね」
オレたちは二人並んで砂浜を歩く。
日中はまるで砂漠のように熱していた砂浜も、この時間だと裸足でも余裕で歩くことができた。
いや、むしろ心地よさすら感じる。
海水で少し湿ったところなんかは冷たくて最高だと言えるな。
「朝からずっと
「……………
「なんか含みのある言い方だな。今は海が嫌いだとでも言うつもりか?」
「いえ、そういうことではないの。決して、嫌いではないわ……………」
白鷺は少し俯きどこか暗い表情を浮かべていた。
「どーせ海は日焼けしやすいとか海水は肌に良くないとか、そんなとこだろ」
「よく、わかったわね」
「オマエのことだからな。そんなこったろーなと思っただけだ」
「ふふ、私をよく見てる証拠ね」
「冗談はよせ。気色悪りぃ」
「まあ、酷い言い方」
もはや見慣れたやり取り。
今日は松原もいないから互いが言いたい放題だ。
二人きりというのも酷な話だな。
「そんなに海が嫌なら断れよ」
「そういうわけにはいかないわ。それに、しっかりとケアをしていれば問題ないのよ」
「芸能人ってのはつくづく面倒だな」
ストイックという言葉からかけ離れたオレはその一言に尽きる。
「でも、やっぱり海は好き。特に静寂に満ちたこの夜の風景が」
「そうかぁ?オレにはなにも感じないが」
「横になって空を見上げてみて。きっと驚くはずよ」
白鷺の言葉に従い、横になる。
すると目の前にはいくつもの星が光り輝く満天の空が広がっていた。
都心部では決して見ることのできない光景にオレは思わず声をあげた。
「これは……………驚いたな」
「そうでしょう?ビルや高層タワーの光がないからより一層綺麗に見えるの」
白鷺は横になるオレの隣に腰掛ける。
「あなたに、一度見て欲しくて」
「いい場所を教えてもらった。これは、マネージャーのお礼と受け取っていいのか?」
「別に、そういうわけではないわ」
「ならなんだ?」
「ただ単に、あなたとこの光景を共有したかったのよ」
「ほお、ロマンチックなことを言うじゃねぇか。だが
「どういう意味かしら?」
「それは今回のドラマで主人公がヒロインに向かっていうセリフを捩ったな」
「よく覚えてるわね。その通りよ」
「あんな言葉、クサくてオレには言えねぇよ。ドラマとはいえ、主人公役のあの俳優はよく表情を変えず演じれたものだな」
「その…………どうだったかしら?」
「どうって?」
「こう、ドキドキしたとか……………ときめいたとか」
「ハッ、あるわけねぇだろ。んなこと」
「そう。残念」
相手が白鷺千聖だからか?
いや、オレは恋する乙女じゃない。
たとえオレが女で野郎から言われたとしても『は?なに言ってんだコイツ』と冷めたことを考えてしまいそうだ。
「なんだ、オマエはそんなセリフを言われて嬉しいのか?」
「そうね。
「好きな人ねぇ……………」
「月島くん。私にそんな人ができないとでも言いたいのかしら?」
「いや、オマエと釣り合う野郎なんてこの世にいるのか想像もつかんだけだ。女優の夫ともなるとプライベートもろくに過ごせなさそうだからな」
その上、スキャンダルなんて起こせば一躍週刊誌に取り上げられニュースにもなる。
"罪人" というレッテルを貼られた人間はこの格差社会では生きていくことすらできなくなるだろう。
オレはそんな人生真っ平御免だ。
「女優を辞めて専業主婦になるのも悪くないかもしれないわね」
「これまでの努力を全て捨てる気か?そんな勿体無いこと、あのクソ親父が許すわけねぇだろ」
「私の人生なんだもの。他人の指図なんて受け付けないわ」
「ククッ、それでこそ白鷺千聖だ」
「将来私がどうなっているかなんてわからない。でもハッキリしているのは、私がどんな
この女らしい傲慢とも取れる考え方だ。
だが、否定することはできないほど白鷺千聖という女は完成されている。
同年代の女優共はたまったもんじゃないだろうな。
こんな完璧超人が同じ世界にいるんだから。
「オマエに好かれる奴はさぞかし光栄だろうな」
「…………………ねぇ、月島くん」
「なん──────」
ずっと星空を見て会話していたが、奴の声のトーンが下がったのに気づき始めて顔を合わせると、なにやら真剣な目つきでオレを見ていた。
「誤魔化さないで、ちゃんと答えて欲しいの」
「お、おお。バッチこい」
「私のこと、どう思っているのかしら?」
「は、ハァ?」
突拍子もない質問に思わず間抜けな声を出してしまった。
白鷺のことをどう思っているか、だと?
今更そんなことを聞いてなにになるのか。
奴の考えていることがさっぱりわからん。
「そういうオマエはどうなんだ」
質問を質問で返し白鷺の動向を探る。
「そうね。あなたに聞いたからには私も答えなくちゃいけないわね」
一度顔を逸らし、ふぅっと息を吐き心を落ち着かせる。
「率直に言わせてもらうわ」
再度オレの方を向き小さく微笑むと奴はこう告げた。
「────────好きよ」
「………………ハッ?」
白鷺の言った言葉が理解できず思考が固まる。
「月島くん、あなたのことが好き。わたしはあなたに恋をしているの」
「ま、待て……………一体、なにがなにやら……………」
オレの思考回路はショートし、白鷺がなにを言っているのか全くわからずにいた。
それでも奴は悪戯に笑うとオレの顔にそっと手を当て耳元でそっと囁いた。
「別に月島くんが私のことをどう思っていても構わないわ。必ず私があなたを振り向かせてみせるから。覚悟しててね♪」
この後の記憶は一切ない。
初めての出来事にオレは動揺を隠せなかったんだ。
これが、告白というやつか。
普通の男女はこんな気持ちになるんだと実感させられた瞬間だった。
はい、投稿しない間にこんなことを考えていました。
もう、完全に告っちゃってます、はい笑
しかしそう簡単に終わらないのがこの作品。
千聖さんの動向は必見ですね。