高嶺の華と路傍の花   作:山本イツキ

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早めの更新となります。

物語はいよいよ佳境に入ってきました。


第37輪 火の花

 白鷺のマネージャーを務めてから1ヶ月が経過。

 夏の暑さが変わることはないが、オレの身の回りにはある変化が起きた。

 

 

 「それじゃあ月島くん。行ってくるわね」

 

 「お、おお」

 

 

 笑顔で手を振り、白鷺は撮影現場へと戻る。

 

 忘れもしない、あれはドラマの撮影後の出来事だ。

 オレは奴に告白された。

 生まれて初めての出来事にあの日は動揺を隠しきれなかったが時間がった今、大分落ち着きを取り戻すことができたが、白鷺に対してなんの返答もしていない。

 いや、出来るわけがないというのが正しい言い方か。

 

 もちろん、率直に嬉しいと感じているがそれ以上に白鷺との関係性が崩れるのを危惧している。

 "OK" をすれば晴れて恋人同士となり、"NO" と答えればただの友達になる。

 白鷺は松原や氷川とも仲がいいから奴らとの関係性も考えなくてはならない。

 

 ハッキリ言ってオレは今、すごく困っているのだ。

 

 

 「やあ。元気にしてるか?奏」

 

 「……………なんだ。親父(アンタ)か」

 

 

 普段現場には顔を見せないオレの雇い主が仏頂面で歩み寄ってきた。

 スタッフたちが奴に頭を下げる中、奴はオレの隣の席にゆっくりと腰掛ける。

 

 

 「『仕事の方は』順調そうだな」

 

 「ああ。あんたらのスケジュール管理のおかげだ」

 

 

 クソ親父は実の息子とは目を合わさず、笑顔でポーズをとる白鷺の方へと顔を向ける。

 しかしオレはそんなこと気にせず話を続ける。

 

 

 「仕事をいれるのは結構なんだが、もう少し場所を考えてくれよ。あちこち移動してこっちは大変なんだからな」

 

 

 今日は雑誌に掲載する写真の撮影にドラマのインタビュー、新曲のレコーディングと仕事が目白押しだ。

 場所も全て異なり移動がとてつもなく面倒である。

 クーラーをガンガンに効かせた車に乗れるならまだしも、こちとらお日さんの光をモロに受けるバイクだ。

 もちろん体を冷却させる装置なんてものは備わっちゃいない。

 少し跨っただけで汗を掻く。

 

 

 「折り合いがつかなくてな。許してくれ」

 

 「赦しを請うならオレより白鷺にしろよ」

 

 「あの子は許してくれる。何せ、優しいからな」

 

 「ハッ、あんたに嫌われたくないからだと思うぞ」

 

 「そんなことはない。何故なら、そんなちんけなことを考え怯えているようなら私がとうの昔に見限っているからだ」

 

 (おふくろに見限られた男がよく言う………)

 

 

 今すぐにでも解雇(クビ)にされてもおかしくないこの心の声を口に出すことなく、会話は進む。

 

 

 「どうやら私の心配は不要だったようだな。他のマネージャーにも話は聞いたが、問題なく仕事がやれているようだ」

 

 「ったりめぇだろ。勤務時間内はちゃんと働く」

 

 「良い心掛けだ。そういえば、今月の給料はちゃんと口座に振り込まれていたな?」

 

 「ああ。全く、高校生がこんな額もらっていいのか疑心暗鬼になったぜ」

 

 「他のマネージャーとは比べ物にならないほど危険な仕事内容だからな。あれぐらいは貰って当然と言えるだろう」

 

 「さっすが社長。太っ腹だこと」

 

 

 親父は『あれぐらい』と言ったが、とんでもない。

 あまり大きな声で言えることではないのだが、そうだな…………高校生がバイトをして稼げる平均金額の5倍近くはあったとだけ伝えておこう。

 

 

 「万が一の時のために貯金でもしておくんだな」

 

 「安心しろ。万が一なんて事は起こらねぇよ」

 

 「フッ、そうか」

 

 

 一定だった親父の固い表情はオレの一言で柔らかくなった。

 それはどこか、嬉しそうともみてとれた。

 

 

 「さて、そろそろお暇させてもらうか」

 

 

 親父はそういいながらゆっくりと立ち上がる。

 

 

 「なんだ、白鷺の仕事姿をもっと見ていかなくていいのか?」

 

 「こう見えて忙しい身でな。今日はたまたま近くで打ち合わせがあったから来ただけだ」

 

 「そうか。まあ、気ぃつけて」

 

 「……………おっと、そうだった。大事なことを言い忘れていたよ」

 

 

 背を向け歩き出した親父は立ち止まり、衝撃の一言を言い放った。

 

 

 「白鷺と恋人関係になるのは結構だが、私情を仕事場に持ち込まず、学生らしい節度のあるお付き合いをするように」

 

 「…………………!?て、テメェ!その情報をどこから……………!!」

 

 「私からは以上だ。そのうち、二人の馴れ初め話でも聞かせてくれ」

 

 

 ハッハッハと笑いながら去るクソ親父。

 誰かに聞かれたのではないかと辺りを見渡したが人影は一切なく、親父はわかってあんなことを言ったんだろう。

 流石は芸能プロダクションの社長と言ったところか。

 しかし、どうやら親父はオレと白鷺が付き合っていると誤解しているような口振りだった。

 どこで情報が漏れたか気になるところだが、まずはきちんと事実を伝えるところから始めなくてはならないようだ。

 

 

 「月島くん。おまたせ」

 

 

 小さく手を振り戻ってきた白鷺。

 だが、オレの目線は親父の方を向いていた。

 

 

 「あれは………………社長?何でこんなところにいるのかしら?」

 

 「さあな」

 

 「何か話したの?」

 

 「………………」

 

 

 オレは頭の中で先程の会話を思い出す。

 

 

 「………………別に」

 

 「嘘、ね」

 

 

 「白鷺は頬を膨らませながらオレの顔を両手で押し、不満そうにオレの目を見ていた。

 

 

 「本当は何を話したのかしら?正直に言わなかったらこのままあなたの唇を奪ってもいいのだけれど?」

 

 

 冗談と思えない発言に負け、オレは親父との会話の内容を全て話した。

 しかし、白鷺は表情をひとつも変えることなく淡々と返事を返す。

 

 

 「うちの事務所に "恋愛禁止" なんていうルールはないからじゃないかしら?現に、結婚にまで発展した人もいるのよ」

 

 「だからといって決めつけられるのは違うだろ。もしその話がオマエのグループのメンバーや事務所のスタッフ、最悪の場合マスコミにバレたら面倒くせェなんてレベルじゃなくなるぞ」

 

 「でも、どのみち私は芸能活動を少しの間休止するのだから、すぐに別の話題で持ちきりになるはずよ」

 

 「確かに、近頃は物騒なニュースが多いからな。不倫やら、人身事故やら」

 

 「新人の子が出てきて厄介なベテランが弾かれていくように、芸能人は日々入れ替わり立ち替わりの世界なの。私は、いつまでもテレビと関わる仕事をしていきたい」

 

 「立派な志だな」

 

 「月島くんには夢はないの?」

 

 「おいおい、オマエの後に言わせる気か?」

 

 「恥ずかしがらなくてもいいのだけれど」

 

 「そういうわけじゃねぇんだよ」

 

 

 奴に比べてオレの将来なんてあまりにもちっぽけだ。

 並べることすら烏滸がましい。

 

 

 「そんなことより、撮影が終わったならとっとと次の現場行くぞ。今日はかつかつだから休む暇はねぇからな」

 

 「ええ。望むところよ。夜のお楽しみのためにもね♪」

 

 

 オレたちは現場のスタッフに別れを告げ、次の仕事場へと向かう。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 時刻は午後7時。

 昼間にミンミンと鳴いていた蝉の声はパタリと止まり、静かな夜を迎えると思いきや周囲はガヤガヤと人の話す声で溢れていた。

 そう、今日は年に一度の花火大会が開催されているのだ。

 去年は店員としてこの人混みに紛れることはなかったのだが、今年は一人の客としてこの祭りに参加している。

 もちろん、オレは一人ではない。

 

 

 「ごめんなさい。10分も遅れてしまって…………」

 

 「ううん、大丈夫だよ」

 

 「お仕事お疲れ様でした」

 

 「はぁ……………ホント、ギリギリだったな」

 

 

 そう、白鷺の言っていた夜の楽しみとはまさにこれのことだ。

 この日はたまたま松原、氷川の予定も空いていて、なら全員で花火を見に行こうと決まったわけだ。

 

 …………はっ?如何わしいことを考えていただと?

 まさか、オレがこの女に手ェ出すわけねぇだろうが。

 

 

 まあ、そんな話はさておき。

 仕事自体は集合時間の1時間前には終わったものの、この夏祭りの影響もあって道路は大渋滞を引き起こしていた。

 そのせいで白鷺を家に送り届けるのが遅くなり、結果オレは浴衣を着る間も無くこの会場へ来たわけだ。

 もうすでに体はヘトヘト。

 笑顔を作る余力すら残っちゃいない。

 

 

 「奏くん、大丈夫?」

 

 「問題ねぇよ。腹でも満たせば回復する」

 

 「マネージャーも大変なんですね」

 

 「大変なんて生易しいもんじゃねぇよ。もうブラックだブラック!」

 

 「でも、かなりの収入があるんじゃないかしら?」

 

 「お陰様でな」

 

 「それじゃあ、今日は月島くんに奢ってもらおうかしら♪」

 

 「っざけんな!第一テメェの方が儲かってるだろうが!」

 

 「あらっ、そんなこともないのよ?どれだけ仕事を頑張っても、事務所が殆ど持っていってしまうから」

 

 「あぁ……………………」

 

 

 オレは何も言い返せなかった。

 白鷺が仕事できているのはあくまで事務所が仕事をもらってきてくれてるおかげで、なんの後ろ盾もなければ今頃一文なしになっているだろう。

 

 

 「と、いうわけで今日は月島くんが私たちに日頃の感謝を込めて恩を返す番だと思うのだけれど?」

 

 「そうですね、一理あります」

 

 

 白鷺の提案に氷川も乗っかる。

 普段は絶対こんな茶番に付き合わないはずなのに、コイツ…………!

 

 

 「花音も遠慮しなくていいのよ♪」

 

 「それはオレのセリフだろ!?」

 

 「気にすることありません。松原さんも被害者の一人なんですから」

 

 「ふ、二人ともぉ……………」

 

 

 困惑する松原。

 多対一なんて喧嘩だと楽勝で勝てるのに、口喧嘩となるとどうもオレは弱者らしい。

 仕方ない、ここはオレの懐の広さを証明してやるか。 

 

 

 「…………わーったよ!オレの負けだ。その代わり一人1000円までだからな」

 

 「うふふ、ありがと♪」

 

 「何にするか迷いますね」

 

 「本当にいいの?奏くん」

 

 「気にするな。3000円なんて安いもんだろ」

 

 「そう?なら私はもう少し──────」

 

 「オマエはもっと遠慮しろ」

 

 

 調子に乗る白鷺の頭を叩き、痛そうにしながらも笑顔を見せる。

 

 

 「人が多いから逸れるんじゃねぇぞ。特に小さいの二人!」

 

 「ふえぇ………が、頑張ります」

 

 「私も含まれているのは心外なのだけれど」

 

 「オマエらは前科があるからな。二人で仲良く手でも握ってろ」

 

 「なら、私が間に入ります。これなら迷子になる心配はないでしょう」

 

 「ありがとう、紗夜ちゃん」

 

 「ねぇ、月島くん。私と花音の片手が空いてるのだけれど?」

 

 「のらねぇよ。バーカ」

 

 

 揶揄うように話す白鷺に背を向け、屋台を目指し歩き始める。

 それにしても、例年通りすごい人だかりだ。

 参加人数に合わせてか連ねる屋台も多いような気がする。

 鉄板焼き、リンゴ飴とかの食い物系に、金魚掬いやスーパーボール掬いなどの遊び系などなど、つい目移りしてしまうほどだ。

 昔はおふくろと来て、散々遊び回って最後はおんぶされながら帰ったという話もあるんだが、これは絶対に口外しない。

 結局のところ、体は大きくなれど心はあの頃となんら変わらないガキだということだな。

 

 そしてそれらの屋台で一際目立つのが──────。

 

 

 「へいへいへいへいへいらっしゃい!!」

 

 「早い美味い安いの三拍子が揃った焼きそばだよ!」

 

 

 酔っ払い二人が営む焼きそばの屋台。

 それも、オレのよく知る二人組だった。

 

 

 「おぉ、奏!久しぶりやないか〜!」

 

 「相変わらずだな。おっさん」

 

 

 一人は海の家とかで世話になった筋肉ダルマ。

 

 

 「奏ぇ!我が愛息子〜!」

 

 「寄るな。呑んだくれ」

 

 

 もう一人がオレのお袋。

 去年は酔っ払いが一人だったはずが今年は二人。

 こんなんで店が回るのか甚だ疑問だ。 

 

 

 「こんなところで何してやがるんだ」

 

 「見たらわかるやろ!出店や出店!」

 

 「今年はあんたが来ないからってアタシが誘われたんだよ!」

 

 「そうやで!渚ちゃんには感謝せんとな!アッハッハ!!」

 

 

 高笑いするおっさんに対し、後ろの3人はどこか引き気味だ。

 まあ無理もない。

 オレだって知り合いだと思われたくないんだからな。

 

 

 「………あれ?アンタ、友達と来るって言ってなかったっけか?」

 

 「ああ。だからこうして連れてきたんだろうが」

 

 

 オレが指を刺す3人を凝視する。

 

 

 「………………三叉とは、とんでもない野郎だね」

 

 「おい待て。とんでもない勘違いをしてるぞ」

 

 「奏もとうとうモテ期が来たってか?」

 

 「違うっつってるだろ!!」

 

 

 もう埒があかん。

 そう考えたオレは店を立ち去ろうとするが、筋肉だるまの腕に捕まり半ば強引に焼きそばを4人分押し付けられた。

 タダなのはありがたいが問題は味だ。

 あんな奴らが作った焼きそばなんて不味いに──────。

 

 

 「美味しいですね」

 

 「うん!とっても!」

 

 「驚いたわ」

 

 「………………なんか、悔しいな」

 

 

 文句の一つでも言ってやろうかと思ったが味は完璧だ。

 決して冷めてるわけでもなく出来立てで熱々。

 どうやら腕は確かなようだ。

 

 

 「まあ、二度と近寄らねぇけどな」

 

 

 あんなウザ絡みしてくる大人たちに構ってられん。

 オレたちは次の屋台を目指し再び歩き始めた。

 

 

 

……………………

 

 

…………

 

 

 

 祭りも佳境に入り、花火が打ち上がるまであと数分というところまで来ていた。

 さて、オレたちはというと──────。

 

 

 「ったく、テメェら!どんだけ食う気だ!?」

 

 「まあ、せっかくなんだしね」

 

 「大丈夫ですよ。食べきれるように調整しましたから」

 

 

 手にはフランクフルトにリンゴ飴、綿菓子なんかも持っている。

 自ら祭りを楽しみ尽くしていると曝け出しているような格好だ。

 

 

 「わ、私は見てるだけでもお腹いっぱいになっちゃうよ……………」

 

 

 白鷺と氷川は上限ギリギリになるように飯を買い込んで遊び回り、松原もなんだかんだ遊びで結構な金額を使った。

 遠慮する松原を二人が無理やり使わせたって言うほうが正しい言い方だけどな。

 一方オレはというと、射的でもらったココアシガレットを口に入れていた。

 

 

 「月島くん、そのお菓子はあなたに似合いすぎているから食べるのはやめた方がいいですよ」

 

 「似合いすぎってどういう意味だ?コラッ」

 

 「ライターもあれば、間違いなくアレに見られるわね」

 

 

 二人の言い分はよくわかる。

 とどのつまり、オレがタバコを吸っているように見えると言いたいんだろう。

 確かにこの姿(ナリ)じゃあ、疑われてもおかしくない。

 だが、残念なことにオレは生まれてこの方タバコなんて吸ったことはない。

 最近の漫画じゃあ未成年でもタバコを吸う奴がいるから、風評被害でしかない。

 

 

 「でも、ココアシガレットって美味しいよね。私も昔はよく食べたなぁ」

 

 「そうか。なら、一本どうだ?」

 

 「いいの?ありがとう」

 

 

 ポケットに入れていたココアシガレットを一本渡し、口に咥える。

 

 

 「…………うん、久しぶりに食べると美味しいね♪」

 

 

 その様子をオレはただじっと見ていた。

 

 

 「……………?あの、奏くん?」

 

 

 夢中になって食べていたはずの松原がオレの視線を察して、首を傾げた。

 

 

 「なんか、似合ってねぇなと思って」

 

 「えっ?それってどういう…………?」

 

 「気にするな」

 

 

 万が一にもありえないが、松原がタバコを吸う姿なんて想像もできん。

 それ故にギャップがあるというか、なんというか…………不思議な気分にさせられる。

 

 

 「月島くん。花音を汚しちゃダメよ?」

 

 「アホか。第一オレだって汚れてないっつうの」

 

 「…………………えっ?」

 

 「おい氷川。訳がわからないみたいな顔をするな」

 

 「ふふふ、あはは!」

 

 

 天然(まつばら)悪魔(しらさぎ)クソ真面目(ひかわ)

 タイプが全く違う3人のツッコミには骨が折れる。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 仲のいいみんなで来た花火大会。

 去年は千聖ちゃんとだけだったけど、今年は奏くんも、紗夜ちゃんも一緒で嬉しいなぁ。

 自然とニヤけてしまう。

 

 

 「ねぇ、花音。よかったら一緒に飲み物でも買いに行かない?」

 

 「うん!いいよ」

 

 「おいおい。二人だけで行く気か?」

 

 「そんなに心配なら月島くんも一緒にどう?」

 

 「ったく、めんどくせぇなぁ」

 

 「では私はここで待ってますね」

 

 「ありがとう。紗夜ちゃん」

 

 

 私たち3人は立ち上がり、近くの屋台へ向かう。

 その間も私と千聖ちゃんは手を繋ぎ、逸れないように心がける。

 

 

 「ねぇ、花音」

 

 「なあに?」

 

 

 奏くんの大きな背中の後ろで千聖ちゃんは私の耳元で小さく囁く。

 

 

 「実は私…………月島くんに告白したの」

 

 「え、えええええ!?!?」

 

 

 あまりの唐突な発言に思わず大きな声を出してしまう。

 そのせいで周りにいた人の注目を浴びてしまった。

 奏くんも私たちの方を振り向いた。

 

 

 「どうした?」

 

 「い、いや、なんでもない…………よ?」

 

 「嘘つけ。さては白鷺、松原に変なことを吹き込んだんじゃねぇよな?」

 

 「ふふふ、そんなことないわよ♪」

 

 

 千聖ちゃんの言ってることは全くの嘘だけど、否定できるほど私の心は落ち着いていなかった。

 悪戯に笑う千聖ちゃんがちょっと怖く恐ろしく見える。

 さすが女優さん、ということなのかな?

 

 

 「まあ、どーでもいいけど」

 

 

 奏くんは再び背を向け歩き出す。

 それを見計らって、千聖ちゃんは私に近いた。

 

 

 「驚かせちゃったかしら?」

 

 「も、もちろんだよ!」

 

 「うふふ、だって誰にも言ってなかったものね」

 

 「二人はその、あんまり仲は良くなかったと思うんだけど……………」

 

 

 私が思ったことを口にする。

 事実、奏くんと千聖ちゃんはいつも揉めてばかりだったはずだ。

 最近は良くなったとは言え、去年までは本当に酷かったから今でもとても信じられない。

 千聖ちゃんは考えるそぶりを見せると、何やら嬉しそうに語り出す。

 

 

 「確かにそうね。でも、私は決して心の底から憎んでいた訳じゃないのよ?あくまで彼が面白かったから揶揄っていただけ。恋愛感情を持つようになったのはもう少し後のことだったんだけれど」

 

 「やっぱり、文化祭の出来事が大きかったの?」

 

 「ええ。ずっと接しているうちに彼の魅力に気づいたというべきかしら。心の底から好きだと、そう思うわ」

 

 「そっか……………もしかして、二人はもう付き合ってるの?」

 

 「それが………………」

 

 

 千聖ちゃんは私の質問に言葉を濁す。

 

 

 「告白、したんだよね?」

 

 「そう、そうなのよ。でも彼からまだ返事は受け取っていないの」

 

 「えええ!?」

 

 「花音はどうしてだと思う?どうして月島くんは何も返答しないと思うか教えてほしいの」

 

 「どうして、と言われても………………」

 

 

 恋愛経験のない私からすれば既に未知の領域であるこの会話にどう本当すればいいのかわかるわけがない。

 少し考えるそぶりを見せ、思ったことをそのまま口にしてみる。

 

 

 「多分だけど、月島くん自身悩んでるんじゃないかな?」

 

 「悩んでいるって?」

 

 「その、千聖ちゃんはアイドルで女優さんだし、他の人の目も気にしているんじゃないかな?」

 

 「確かに、そのようなことを言っていたわね…………」

 

 「もう少し仕事が落ち着いてから聞いてみてもいいんじゃないかな?ほらっ!大学受験もあるんだし」

 

 

 もっともらしい理由なように聞こえるけど、答えになってないと私自身わかっている。

 先延ばしにしたところで答えが見つかるとも限らない。

 こればかりは奏くんの問題だ。

 

 

 「……………そうね。答えを急いではいけないものね。少しスッキリしたわ。ありがとう、花音」

 

 「うん!これからも、相談に乗るからね」

 

 

 親友との初めての恋愛話。

 千聖ちゃんの顔つきもどこか晴れやかで、煌びやかに見える。

 私もいつか恋をするのかな?

 だとしたらきっと──────ううん、こんなことを想像するなんていけないことだ。

 私はまだ18歳と未熟にも程がある。

 これからの人生、きっと素敵な人と出会えるといいな。




いかがだったでしょうか?

次回は修学旅行編になります。

感想、評価よろしくお願いします

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