今回は紗夜さんメインです
私には、双子の妹がいる。
顔は瓜二つで、小さい時はよく間違えられそれに戸惑う人を見てケラケラと笑うのが楽しくて仕方なかったのをよく覚えている。
しかし私たちは早々に、色々な面で差が生まれはじめた──────。
両足で立ち上がったことも、言葉を発するようになったことも、文字を書けるようになったことも、あらゆることの "初めて" は全て妹がやってのける。
天才、と言って片付けるのは好きじゃないけれど、あの子はその言葉でしか言い表せない逸材なのは間違い無い。
私は、そんな妹に心の底から嫉妬していた。
いくら努力しても、あの子は何でも簡単にこなしてしまう。『姉という存在は、妹の手本となるべき存在だ』と父からよく言われていたから、尚更私は許せなかった。
不甲斐ない自分の才能が…………。
妹は私と仲良しだと本気で思っているらしく、その無邪気さが更に私を苛立たせる。
両親の前では良い姉妹であり続けたけど、私にも限界の時が来た。
あれは、中学の時。
学年末のテストで必死に勉強したけれど、良い成績を残せなかった私に対し、妹は全ての教科でオール満点を叩きだした。
それだけならまだ許せた。しかしあの子はクラスで平然と、あることを口にする。
「テスト?こんなの余裕だったよ。授業で先生の話を聞いてたら頭に入るじゃん?勉強しても点が取れない人の気が知れないな〜」
偶然それを耳にした私は、目の前が真っ赤に染まり、体中の血液が煮え繰り返るような状態に陥る。
妹の何気ない言葉と、情けない自分自身に激しい怒りを覚えた瞬間だった。
それ以来、あの子とはろくに言葉を交わしていない。
一方的に私から関わるのを拒否している。
妹のことが憎くて、疎ましくて、忌まわしくて…………様々な負の感情が入り混じり、余計に遠ざかる。
そんな中、出会ったのがギターだった。
テレビで演奏する女の人の姿を見て、強烈な憧れを抱き、妹には内緒でギターを購入した。
はじめはやはり上手くいかず、『きっと妹なら…………』という言葉も脳裏に浮かんだけれど、全て薙ぎ払い練習に没頭する。
次第に上達していき、いつしかステージの上に立つまでになった。
様々なバンドで演奏してきたけれど、私の練習量に応えてくれる人は誰もいない。
並大抵の練習しかこなさず、上手い人が現れた途端、その人を天才呼ばわりする。
限界まで努力を積み重ね、それでも敵わないと思った人にしか出せない台詞を、淡々と吐き出すメンバーたちを許すことができず、1人になる。
今まで、ずっとそれの繰り返しだ。
初めて夢中になるものを見つけても、共有してくれる人と出会うことは決してない。
今の私は、群れと逸れた動物と同じような存在だ。心に蓋をし、誰に認められることもなく、ただひたすらに練習を積み重ねていく。
そんな自分に酔いしれる私は、一体何のために生きているんでしょうか?
その答えを見出してくれるのはきっと─────いや、他人に期待などしない。
私は私である為に、誰にも縋らず孤独な道を歩んでいくと心で誓う。
◆◆◆
奴と別れた後、オレはまず自販機に缶コーヒーを2つ買いに向かった。
一つはオレの分。もう一つはあのいけ好かない学園長の分だ。
話を聞き出すからには、手ぶらで行くわけにはいかない。缶コーヒーと奴の事情、いわゆる、等価交換というやつだ。
とりあえず温かいのと冷たいのを両方購入しそれをポケットに忍ばせ、学園長室へと向かう。
道中、風紀委員長らしき人を見かけたが今、用があるのは学園長だ。
構わずオレは歩き続ける。
「邪魔するぜ、学園長」
例の如くノックも無しに、部屋に入ると学園長はソファに腰掛けたまま、顎に手を置き何か考える素振りを見せる。
どうやら、オレの入室に気付いていないようだ。
「おい、学園長。聞こえているのか?」
対面に腰掛けると、ようやく学園長はオレの存在に気がつき、ニコリと笑みを浮かべる。
「あぁ………風紀委員の務め、ご苦労だったね」
「全くだ。本来こんな委員会必要ないと思うぐらい、問題なんて起きやしねぇ。つまらなくて欠伸が止まらん」
「はははっ、まだまだこれからだよ」
「ところでアンタは、熱いのと冷たいの、どっちが好きだ?」
「随分と唐突だね。そうだな…………冷たい方が好きかな」
そう答える学園長に、オレのポケットから冷たい缶コーヒーを投げ渡す。
難なくそれをキャッチし、不思議そうにそれを見つめる。
「サービスだ。ありがたく頂戴しろよ?」
「これは驚きだ。では、頂くとするよ」
カシャっと缶コーヒーを開け、少し口に含む。オレも同様に、温かいコーヒーを飲む。
「言い忘れていたが、それを飲んだからにはオレの相談に乗ってくれよ?」
「なるほど、それが目的か。こんなことしなくても、話は聞くというのに」
「育ちがいいものでな。アンタのよく知るおふくろのせいで。それに、この学園のトップに話を聞いてもらんだ。手ぶらなんてありえない」
「本当に変わっているな、キミは。それで、私に話があるとはどういうことなのかね?」
「あぁ、風紀委員長についてだ」
「やはり、氷川くんか…………。そういえばさっき、見回りの終了を報告すると共に、キミとは一緒に仕事をしたくないと言われたよ」
どうやら、オレより一足先に学園長と話をしたらしい。
あんなことを言われたら、そりゃあ一緒にいたくなくなるか。
「あいつはどんな様子だった?」
「様子?別にいつもと変わらなかったが?」
「そうか」
「そこは、何で聞かれたかを問うところではないのかね?」
「ちょいと面倒なことになってな。主に原因はオレなんだが………」
「氷川くんにも大まかな話は聞かせてもらったが、詳細はわからないんだ。良かったら、キミの言い分も聞かせてくれ」
「いいだろう。まずは──────」
オレはこの数十分で起きたことを話した。
オレと奴の会話、行動、覚えてる限りの全てを詳細に伝える。
学園長の反応からすると、奴は同じことを言ったんだろう。
全てを話す頃には、窓から夕日が差し込む時間を迎えていた。
「なるほど…………氷川くんがそのようなことを……………」
「オレ独特の解釈も入ってるだろうから、奴からも事情徴収したらどうだ?」
「あぁ、勿論そのつもりだ。次は、キミの番だね。氷川くんの何が知りたい?」
「あいつの全て、だ」
「………わかった。少し待っていたまえ」
学園長はそういうと、ゆっくりと立ち上がり棚にしまってある青いファイルを取り出しオレに寄越してきた。
中を開くと、この学園の生徒の顔写真が添えられた履歴書のようなものがファイリングされていた。
さらに進めると、そこには風紀委員長のデータが見つかった。
「学園長、説明してくれ」
「これは入学前に学園に提出してもらうものだ。本来、生徒に見せるのは禁止されているが、キミなら問題ない」
「オレが他人に全く興味がない、と言いたげだな」
「事実その通りだろう?」
「…………もうその事はどうでもいい。これであいつの過去を知れるんだな?」
「あぁ、補足も兼ねて私からも話をさせてもらうよ」
名前は氷川 紗夜。血液型はAB。
弓道部所属の風紀委員長。この辺の内容はカットでいいか。
家族構成は、母と父、そして…………妹?
「そう。彼女には双子の妹がいるんだよ」
(なるほどな、分かったぜ。それで、比較対象の話をした途端ブチ切れた訳か)
「その子はここからそう遠くない羽丘女子学園に通っている。昔から、近所では神童だと噂されていたようだ」
「神童ねぇ…………。面白くない言われようだな」
「自分より優秀な妹に、憧れていたんだろう。氷川くんも努力を積み重ねてはいたものの、全く歯が立たなかったそうだ」
「憧れてるなら、どうしてあんなにキレる必要がある?抱えているのは、もっと複雑な感情だとオレは思うな」
「……………そうだね」
オレの発言に、学園長は言葉を詰まらせる。
「話を戻すが、アンタは、その妹についてどこまで知っている?」
「あくまで、氷川くんから聞いた話だが、『妹は自由奔放で明るくて、まるで自分とは正反対のような存在だ』と言っていた」
「2人の仲は?」
「全く良くないと聞いている」
恐らく、奴の生真面目な性格は嫌いな妹と差別化をする為にそうならざるをえなかったのだろう。
誰だって、気に入らない人間と同じになりたくないと思うものだ。
奴だと、尚更それに当てはまる。
オレはそれを分かって、あの時に挑発じみた行動を奴にとったが案の定、奴はブチ切れ手をあげた。
奴の考えてることなんて、手に取るように分かる。
あいつ自身はとても単純。そんな自分を偽りつづけて、さぞや苦しんでるだろうな。
「奴のことは大体分かった。要するに、あいつは自滅してるってことだ」
「自滅?」
「どうでもいいことに悩まされ、勝手に苦しんでやがる。アンタもあいつがどこかおかしいと感じたことはないのか?」
「なぜキミにはそれが分かる?」
オレに問いかける学園長に、逆にオレから一つ疑問を投げかける。
「アンタ、殴り合いの喧嘩ってしたことあるか?」
「殴り合いの喧嘩……いや、ないな」
「なら、分からなくて当然だ」
「キミは何が言いたい?」
「喧嘩っていうのは、いわば駆け引き。ただ殴り合うだけじゃないんだぜ?相手の思考を読み取り、次何してくるかを考える。そういう奴が、不良として最も強い分類に値する人間だ」
「なるほど、幾千もの喧嘩を乗り越えたキミは、相手の思考を読み取る能力に長けていると言いたいんだね?」
「その通り。オレは、学力としてはバカでも、人間としてはバカじゃねぇ」
「……………やはり、キミのお母さんと似ているな。情熱的で、困った人を放っておけない、リーダーの素質がある」
「よせよ。オレはただの面倒くさがりだ。興味を持ったことにしか動く気はねぇよ」
「それなら、私から頼みがある」
学園長はそう告げると、ツルツルのてっぺんをオレに向け、深々と頭を下げた。
「──────氷川くんを救ってあげてくれ」
「…………いいだろう。オレに手をあげる女は、そうはいねぇからな。救うといっても、方法はどうする?」
「それはキミが判断してくれて構わない。やり方も、私からは何も言わないよ」
「どうなっても知らないからな」
「大丈夫。キミを信用しているからね」
「ぬかせ。…………今度ここに来る時は、風紀委員長を連れてくる」
「あぁ、楽しみに待っているよ」
満面の笑みを浮かべる学園長に背を向け、右手を上げて返事をする。
さぁ、風紀委員の仕事を再開だ。
◆◆◆
「よぉ、数時間ぶりだな」
「……………何故あなたがここに…………?」
平然と現れたオレに、風紀委員長は嫌悪感をあらわにする。
履歴書通りなら、奴は弓道部の部員であるはずだと考えたオレは、真っ先に弓道場に向かった。
下校時刻まであと15分とないが、奴の性格上、最後まで居残って練習している可能性が高い。
ものの見事にその予想は的中したわけだ。
「ちょっとツラかせや」
「な、なんなんですか急に!?」
「このままだと、今日の事が気になって気持ちよく眠れそうにないからな」
「……………分かりました。着替えるので外で待っていてください。万が一、覗きでもしたら─────」
「安心しろ。お前の裸になんて興味ねぇよ」
オレは適当に返事をして、弓道場を後にする。5分もしたら奴も弓道場から出てきて、並んで校舎を出る。
どこか座れるところで落ち着いて話したかったが、奴が『寄り道なんてもってのほかです』と頑なに断ってきたから、強引に連れて行くこともできなかった。
とりあえず、奴は電車通いだから駅まで歩きながら話すことになった。
「単刀直入に言わせてもらう。さっきは悪かったな」
「だから、いきなり何なんですか!?」
オレの唐突の謝罪に、奴は困惑した表情を浮かべる。
人に、それも女に頭を下げるなんて初めての行為だ…………クソっ、屈辱だ。
「学園長から、お前の話を聞かせてもらった。妹のこともな」
「……………!!何故そのことを…………!?」
「お前が今のお前になった原因。それは妹への嫉妬からだろ?間違っていたら、首を振るだけで構わん」
「…………………」
下をむき、口を開かないことから察するにイエスということだ。
「お前はそいつが大嫌いなんだろ?率直に聞くが、自分より優秀で神童とまで呼ばれていた妹を、手にかけたいと思ったことはないのか?」
「はっ!?あなた…………何を言って…………!?」
「お前がバカみたいに真面目だから、しようにもできなかったんだろ。なら、オレが代わりになってやるよ」
「なっ………………!?」
オレの考えている事がわからずに、奴は言葉を失う。
学園長からは、好きにしろと許可を得ている。ならば、オレはオレが最善だと思う手を尽くすだけだ。
「そ、そんなことさせる訳ないでしょう!?」
「そうだよな。お前の在籍する学園から犯罪者が出たら、将来の大学受験にも影響するだろうからな」
「そういう意味じゃなくて─────」
「あぁそうだ。お前にとって、オレはどうでもいい存在だろう。実の妹を失うのが怖いんだ」
「…………あなた、何が言いたいの?」
そう問いかけられたオレは一呼吸おき、こいつの胸ぐらを掴み怒るように叫ぶ。
「─────少しは妹の気持ちも考えろって言ってるんだよ!!!」
オレの声量に思わず耳を押さえた。
すれ違う人は皆、オレたちのことを見ている。まぁ、学生の戯れだと思われて終わりだろう。
オレはそのまま、怒鳴るように言葉を続ける。
「お前が妹にどんな気持ちを抱いてるかは分かる。だが、その理由も知らずひたすらに無視をされ続ける妹はどう思う!?神童だから平気だ、とでもいうつもりじゃないだろうな!?」
「……………………」
奴は再び黙り込む。
そして、これと同時に両の目から涙がポロポロとこぼれ落ちる。
「どんな出来事があっても、大事なんだろうが!その妹が!!なら、大切にしやがれってんだ!!このボケッ!!!」
最後にとどめを刺し、強引に手を離す。
それからも、奴の目から流れる涙は止まらない。
そんな時だった──────。
「道の真ん中でピーピーうるせぇんだよっ!!学生はとっとと家へ帰やがれ!!」
突如現れたチンピラに絡まれる。
数は5人。オレたちを囲うように固まり、威圧してくる。
「帰るのは──────お前らだ!!!」
話の腰を折られたことに腹が立ち、全員の顔面に拳を入れる。
全員が一発ノックアウト。所詮は小物。口程にもない。
「あなた………!?暴力は………!?」
「これが、学園長から頼まれたオレの風紀委員としての仕事だ。この頃、こんな連中が多くて手を焼いてるんだとさ」
「が、学園長がそういうなら、私からいうことはありません。もし、あなたが風紀委員をやめると言い出したら────」
「この役は、お前を含む委員会でやることになるだろうな」
「それは…………考えたくありませんね。認めたくありませんが、あなたを風紀委員の一員として迎えます」
「あぁそうかよ。なら、まずは放課後にできなかったことをしようぜ」
「放課後にできなかったこと?」
「まずはどちらの手でもいい、オレの前に差し出せ」
「…………?」
意味もわからず奴は右手を出すと、オレはその手を握る。
奴は驚きつつも、どこか嬉しそうな表情を見せた。
「よろしくな、風紀委員長」
「その呼ばれ方は嫌です。氷川と、苗字で呼んでください」
「あぁ。わかったよ、氷川」
こうして、オレの風紀委員初の仕事は幕を閉じた。
それと同時に、この学校で2人目の友人が誕生した。
基本的には、原作キャラは3人だけ登場させる予定です。
オリキャラのモブは多数出てきます