今まで以上に大暴れします。
2日目の自由行動はクラス単位の移動となる。
オレたちAクラスは嵐山に来ていた。
「これが竜安寺庭園ね」
「とても神秘的ですね……………」
悦に浸る歴史マニアたちだが、オレにはこの魅力がさっぱりわからん。
氷川曰く、エリザベス女王も心を奪われたと言っていたがその気持ちは分かり合えない。
「なあ松原。これを見てオマエはどう思う?」
「えっ?えっと……………すごく、歴史を感じるというか……………」
松原の反応に納得だ。
「月島くんの感性だと、この光景の素晴らしさは分からなかったかしら?」
「アー、ソノトオリ。オレニハワカラナイナー」
「全く、馬鹿馬鹿しい」
「ふえぇ…………さ、三人とも〜」
白鷺の言うことは事実だから何も言い返せない。
「そんなことより、とっととここを離れて和菓子食いに行こうぜ」
「昨日も散々食べてた気がするのだけれど」
「抹茶って今まで苦手だったんだが、なんか美味く感じるようになってな。京都様々だな」
「味を感じるのもいいですが、こういった景色もちゃんと観るべきでは?」
「確かに、今の私たちじゃあ何度もそう簡単に来れないよね」
「"花より団子" ってことわざがあるだろ?今のオレは、まさにそれだ」
決して京都の歴史や風景を馬鹿にするわけではないが、何せ飯が美味い。
旅館の飯も関東とは違った味付けでこれもありだと思ったし、祭りなども盛んで退屈することもないだろう。
将来暮らすなら、やはり関西か。
そんな考えが脳内をよぎる。
「仕方ないわね。それじゃあ、次の場所へ向かいましょうか」
白鷺の提案で竜安寺を出て、再び狭い道を進む。
のちに気づいたことだが、ここも観光の名所と知られてるはずなんだが、オレたち以外に観光客はあまり見られなかった。
静かなことは結構なのだが、どうにも引っかかる。
まるで、嵐の前の静けさのような─────。
「…………………あぁ?」
そう考えていると、どこからか現れた黒マスクの男に突如背中に何かを当てられ、バチバチッとスパーク音が鳴ると同時に身体中に電流が駆け巡る。
「ッ!!!」
あまりの威力に怯んでいると、そばの大木に隠れていた二人の男も姿を見せた。
片方は持っていた鉄パイプで後頭部目掛けて思い切りフルスイングし、もう片方は背中をドロップキックし、オレは前方へ大きく飛ばされ地面に体を打ち付ける。
頭からは多量の血が流れ、その血が目に入り視界を霞ませる。
「つ、月島くん!?」
「なんで………………」
「一体誰が!?」
あまりに突然の出来事に困惑する3人。
その3人の背後に立っていた黒マスクの男たちは、オレの元へ詰め寄り頭を踏みつけ見下ろす。
「これが月島 奏。存外、大したことないやん」
「スタンガンで痺れさせたとはいえ、一発KOか」
「所詮は高校生。噂だけが一人歩きした雑魚やろ」
口々に言う男たち。
どうやら計画的な犯行らしい。
「あなたたち!一体何してるんですか!?」
声を張り上げ、キッと睨む氷川。
握った拳は小刻みに震え、怒りは頂点に達しているようだ。
「安心しぃや。お前たちに危害を加えるつもりはないねん。用があるんは……………ふんっ!」
男は鉄パイプを振り上げ、再度オレの後頭部に向けて振り下ろす。
「この男だけや」
この一撃で流血がさらに加速する。
おまけに、さっきのスタンガンの影響で身体が痺れて指一本動きそうにない。
今まで経験してきた中で、最大のピンチかもしれないな。
「おいおい。まさかもう終わり!?」
「2時間スタンバッてたのによ〜」
「つまんねぇなぁ」
「おっ、可愛子ちゃん発見♪」
3人の男の他に、ゾロゾロと他の仲間も集まってきやがった。
数にしておよそ30人。
状況がマズすぎる。
「今からコイツを嬲り殺す。間違っても、女には手ぇ出したらあかんで。
スタンガンを持った男が仲間にそう告げる。
男たちはゾロゾロとオレを囲むように集まり、蹴る、殴るの暴行を繰り返した。
「や、やめて……………」
男たちの力み声の中、松原の弱々しい声が聞こえる。
「月島くん……………そんな……………」
「や、やめなさいと言ってるでしょう!!」
氷川の声も虚しく、男たちは見向きすらしない。
「さもなくば──────!」
「だ、ダメだよ!紗夜ちゃんまで巻き込まれたら、絶対ダメだよ!!」
「しかし!!」
「二人とも……………落ち着いて…………」
観光客が誰もいないことが仇となった。
精神的に不安定になったあの3人ではまともに動くことすらできないだろう。
今の状況を打破するには、もう───────。
「なんや、死んだか?」
「ピクリとも動かねぇよ」
「とっとと運んで、報酬ゲットや」
男たちは暴行をやめ、無理やりオレの両腕を掴み上げる。
「…………………おい」
微かにしか聞こえない小さな声。
しかし、その声には明確な怒りが込められていた。
「人の身体ァボコスカ殴りやがって…………こちとら旅行に来てんのにわざわざ怪我までさせられて……………ざけんじゃねェ」
「─────ぶち殺してやるよ」
血に濡れた真っ赤な瞳を見開くと、野郎共は驚きの表情を浮かべ一歩後退する。
まだ身体は痺れちゃいるが、怒りでもう何も感じられん。
これ以上ないほどの憎悪を内に溜め、怒りのオーラを身に纏う。
オレの頭にあるのはこの男たちに対する殺意ただ一色だ。
「何で生きてんねんコイツ!!」
「死なへんのか!?」
「冥土の土産にくれてやるよ。オレの "
腕をつかみ上げる男の顎を両足で蹴り上げ、気絶し膝をついたところでその顔面に目がけて殺意のこもった拳を振るう。
そのまま後頭部が地面へとめり込み、白目を剥いて動かなくなった。
「次は……………どいつだ……………?」
フラフラとしながらも立ち上がっても尚、血で染まった目を敵に向ける。
だが、敵はスタンガンを浴びてもいないのに怯んだ様子。
一向に向かってくる気配がない。
「な、なんやこのバケモノ…………!!」
「人間ちゃうやろ…………」
「"逆鱗" や……………オレら、"逆鱗" に触れてしもうたんや……………!」
そう口々にする男たちのうちの一人に、有無を言わず顔面に膝蹴りする。
そして厨に浮いたままもう一人の男の頭を蹴り落とすと、最初にドロップキックしてきた男の鳩尾目がけて蹴りを入れる。
これで4人が動かなくなった。
残りはおよそ26人。
「に、逃げろおぉぉぉぉぉ!!」
奇声を発し、一斉に逃げ惑う男たち。
「バカが…………逃がしゃしねぇよ!!!」
そこからの展開は早かった。
全員が大通りへ出る前に、土に体を埋めては骨を折り、宙へ舞ったと思いきや殴り飛ばし、一人、また一人と人数を減らしていく。
その中でも唯一鉄パイプの男たちは反撃してきたが、それを掴み腕力だけで真っ二つにし、顔面に渾身の右ストレートをお見舞いした。
鼻からは血の噴水が湧き出て、辺り一面真っ赤に染める。
そして一番最後。
真っ先に逃げ出したスタンガン男の首根っこを掴み、誰も見えない場所へと引きずる。
男はこれ以上にないほど醜く、汚い面をしていた。
「お、俺たちが悪かった!!い、い、命だけわぁ……………!!」
わんわんと泣き喚く黒マスク男。
「オレの質問に正直に答えろ。嘘をついたとオレが判断したら、近くの湖に仲間もろとも沈める。いいな?」
そう忠告すると、男はウンウンと何度も頷いた。
「目的は何だ」
「め、命令されて……………あなたを、始末しようと……………」
「誰からだ」
「名前は、知りません……………け、けど、報酬を渡すと言われて、つい……………」
「金で釣られた半グレ集団か。なあ、知ってるか?スタンガンって結構痛いんだぜ?」
男の持っていたスタンガンを奪い取り、腹部に当てスイッチを入れる。
「あがあああああああ!!」
男は痛みに耐えかね悶絶する。
そんな男の喉を血まみれの手で握り締める。
「声出すんじゃねぇよ。警察にバレたらどうする。
そう脅すも、男は体を痙攣させるだけで返事を返さない。
くたばる寸前か?
オレは手を離してから頬を殴り無理矢理にでも起こす。
「寝てんじゃねェ。逝くにはまだまだ早ェよボケが」
「ご………………ごめん、なさい………………」
「謝ったところでもう遅ェんだよ。今日からお前たちはグチャグチャの惨めな顔を晒し、親や友人から見捨てられ、一人寂しく生きていくんだ。わかるか?オマエたちは
「ひ、ひぃ……………!」
「今までも散々人のことを殴って、陥れてきたんだろ?今度はオマエがそれを味わう番だ。知らなかっただろ?死ぬことより辛いことなんて山ほどあるんだぜ!?」
男の顔は恐怖という色で染まる。
これからのことを想像してか、震え上がっている。
「オマエの仲間はどうなってるんだろうなぁ?久しぶりに加減せず殴ったから、下手してら死んでるかもな。オマエの仲間が言った通り、オレの "逆鱗" に触れたんだから、死んだって構わねェだろ?生きていたってどーせ惨めな人生が待ってるだけなんだ。だが…………それを世間は許してくれなさそうだ」
遠くでパトカーと思わしきサイレンが耳に入った。
きっと白鷺たちが知らせたんだろう。
「オレがオマエらを半殺しにしたのは事実だし、証言しても構わないぜ?だが、同じ牢屋にぶち込まれたその時は──────また殺し合おうぜ♪」
「あ………あああああああ!!!!」
男は発狂すると共に気を失った。
これで30人全員のした。
気持ちが切れたからかこれまでの疲労がどっと体を襲う。
「………………だいぶ、やり過ぎたな」
手に付着した野郎共の血を見て、ふと考える。
今回の件、まさか北谷は関わっていないよな?
信じたくはないが、奴が関わっていたとしたら大事だ。
すぐに親父に報告を───────。
「あっ、やっべ……………」
立ちあがろうとしたその時、フラッときてその場に倒れ込んだ。
血を流し過ぎたし、松原たちにも迷惑をかけた。
反省することが山ほどある喧嘩だったな。
オレはその場で意識を手放した。
◆◆◆
病室のベットで静かに横たわる奏くん。
修学旅行に来ているはずが、思わぬ事件に巻き込まれてしまった。
「また、傷を負わせちゃったね…………」
頭に巻いた包帯が痛々しそうに映る。
お医者さん曰く、命に別状はないそうだけどそう言うことじゃない。
せっかくの楽しい旅行が、私が弱いばっかりに台無しにしてしまったのだ。
「ごめんね…………奏くん……………」
泣いて許されることではないのはわかっている。
けど、涙を流さずにはいられない。
奏くんのことを思えば思うほど、涙が溢れて止まらなくなる。
所詮私は路傍に転がる石ころ同然の存在。
やっぱり私では不釣り合いだ。
「奏くんのことが好きだなんて─────とても言えないよ……………」
……………………
…………
「……………うん。それじゃあ、予定通りに」
ホテルの一角にある薄暗い廊下。
地図には非常階段しかないそのフロアで何やらコソコソとしている人影を見て後を追ってみたのだけれど、やはりというべきか。
「そこで何をしているのかしら?」
その人物に対して臆することなく声をかけると、彼は同様の色を見せないままゆっくりと振り返った。
「やあ。白鷺さん」
白々しく爽やかな対応をとる杏井くん。
彼は転校してきたその日に私にコンタクトを取り、何か企んでいるような口ぶりをしていた。
クラス内にとどまらず、学内でもかなりの人気者らしいけれど、私は全く好きになれない。
「今は二人きりよ。今更正体を隠したって無駄なことだと思うのだけれど」
「そうかい?それじゃあ遠慮なく…………」
彼のキラキラとした目からハイライトが消え、上っ面の小さな笑みを浮かべた。
これが、彼の本当の素顔。
何の感情もなく中身は空っぽ。まるでマリオネットを見ているかのような印象を受ける。
「これでどうかな?」
「よくお似合いよ。あなたが主役を張れない理由がよくわかったわ」
「流石は未来の大女優。ひと目見ただけでわかってしまうんだね」
「だって、何も感じられないもの。あなたらしさのかけらがひとつもない。きっと、つまらない演技しかできないんでしょうね」
「あはっ、挑発しているつもりなのかな?」
「いいえ。ただの罵倒よ」
彼のはぐらかすような話し方にすごく腹が立つ。
「それで、さっきは誰とどんなことを話していたのかしら?」
誤魔化さずストレートに問うと、彼は表情を一切変えることなく淡々と話す。
「キミには関係のないことさ」
「嘘をついても無駄よ。あなたが碌な人間じゃないのはよく知っているもの。今回月島くんが襲われたことだって、本当はあなたが仕組んだのでしょう?」
「……………ちなみに月島くんはどうなったんだい?」
「彼を襲った連中と一緒に病院へ搬送されたわ。残念だけど、命に別状はないわ。彼を襲った男たちは骨折等の大怪我を負ったそうだけど、誰も死んでいないわ」
「そうなんだ」
「とぼけても無駄よ。今すぐ密告する準備もできているのだから」
「脅しているつもりなのかい?」
「忠告よ。今すぐ自首しなさい」
語尾を強くし、彼を静止させようとする。
しかし、彼はクスクスと意に介さないような笑い声を出す。
「無駄だよ。大切な友人からの頼み事は断れない」
「………………"羽丘の女帝" さんかしら?」
「そう、せいかーい♪」
彼は薄ら笑いを浮かべ拍手する。
「彼女とは昔ながらの付き合いでね。月島くんのことは入学前からよく聞かされていたんだ。『アレは、人間のクズだ』ってね」
「あらっ、それ以上のクズがよくいうじゃない」
「まあね。今回は死ななかったみたいだけど、下手をすると次こそ彼は死んじゃうかもね」
「そんなにやわじゃないわよ、彼は」
「わかっているさ。だから、
何を考えているのかわからないけど、相当自信がありそうだ。
今すぐにでも月島くんに知らせたいところだけど、目の前の男はそれを許さない。
ここから一歩でも動けば、私が酷い目に遭う危険性があるからだ。
そうなれば彼は…………結局、どう転ぼうが月島くんに迷惑をかける
それをわかって今こうやって全てを話しているんだろう。
「私から何も言うことはないわ。だって、月島 奏が負ける姿なんて想像できないもの」
あくまでこっちが優勢だ。
そう思わせる。
「それはこれからわかることだ。キミもきっと目の当たりにするだろうね」
彼はそう告げ、身構える私を横切り背を向けたところで立ち止まる。
「くれぐれも僕のことは話さないほうがいい。月島くんに負担をかけないためにも、ね」
「脅しているつもりかしら?」
「忠告だよ。言葉を返すようだけどね」
「趣味が悪いこと……………」
彼の考えつきそうなことだ。
ため息をつき呆れていると、彼は突如私の肩を掴んだ。
「僕の昔のことも含めて誰かにバラしてみろ。死だけじゃ済まさねェぞクソ女ァ」
虚の目を大きく見開き、肩をギリギリと力強く握りそう告げる。
「テメェの一挙手一投足は常に監視されていると思え。不審な動きを少しでも見せたら、テメェの仲間もろとも殺してやるよ」
「忠告どうもありがとう。私から彼に告げ口することはない。約束よ」
間に受けず、流してみせると彼はパッと手を離し私の元を去る。
完全に姿が見えなくなるまで動かず、その時を迎えると大きく息を吐き、袖にしまってあった携帯を取り出し録音を切る。
「コレを晒せば共に死に、何もしなければ彼が………………。楽しい修学旅行のはずが、とんだ場面に遭遇してしまったものね」
私の方から余計なことはしない。
今は、それに徹するしか道はないと心に言い聞かせ部屋へと戻る。
裏切り、二重の意味で掛けてみました。
今はまだベットの上ですが、すぐ復活してまた暴れます。
ご期待ください。