高嶺の華と路傍の花   作:山本イツキ

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ちゃう久々の投稿。

ほんとお待たせしてすみません。


頑張って終わらせますんで、どうかお付き合いください


第42輪 キンセンカ〜絶望〜

 車を走らせ、病院へと向かったオレは車に親父を置き去りにし一目散に受付と駆け寄る。

 

 

 「花咲川の生徒だ!!運ばれた生徒たちはどこにいる!?」

 

 

 息を切らしながら尋ねるも看護師は怖気付いて話そうとしない。

 そこに数分遅れで親父がやってきた。

 

 

 「驚かせてすまない。私はこういう者で」

 

 

 自分の名刺を看護師に見せ、白鷺の部屋の場所を聞くとまたもオレは親父を置き去りに4階にある病室へと階段で駆け上がる。

 

 

 「白鷺っ!!」

 

 

 勢いよく扉を開けその名を呼ぶ。

 白鷺はベットに横たわり、腕や頭に包帯を巻いた状態で眠りについていた。

 その有様にオレは言葉を失う。

 数分遅れて親父も病室へと入ってきた。

 

 

 「全く、少しは落ち着いたらどうだ」

 

 「………………るせぇ」

 

 「さっき看護師さんから容体は聞いた。打撲や切創はあるが命に関わる怪我はしていないらしい」

 

 「そうか」 

 

 

 安心したのも束の間、親父は包帯が巻かれた白鷺の額を指差し残酷な通告を受ける。

 

 

 「しかし、額にできた傷は深く、一生残るかもしれないらしい」

 

 「……………は?」

 

 

 その言葉に頭が真っ白になる。

 

 

 「ガラスの破片で思い切り傷付けられたのだろう。出血も酷かったみたいだ」

 

 

 白鷺はアイドル、そして女優だ。

 テレビや雑誌、表舞台で活躍する人間だからこそ外傷には特に気を張っている。

 そんな奴に対し犯人は分かって傷つけた。

 恨みなんて生易しいものじゃない。

 犯人は、芸能人白鷺千聖を殺したんだ。

 

 

 「………………親父」

 

 「なんだ?」

 

 「約束は守る。白鷺を守れなかったのは、オレの責任だ」

 

 

 親父に頭を下げる。

 約束、それは白鷺を絶対に守ると言うこと。

 それを守れなかった場合は違約金として損害賠償を請求することだ。

 

 

 「今回お前は警察に拘束され、身動きが取れなかった。その当日にこのようなことをしたと言うことは、犯人の計画的犯行とみていい。お前に落ち度はない」

 

 「だとしても、オレの気が済まない。金は必ず払う」

 

 「残念だが、俺は今更金を得たところで何も変わらない。あれはお前に仕事させるための脅しだったにすぎないからな」

 

 「………………そうか」

 

 「だが、まだ期限はある。必ず犯人を捕まえてきなさい。慰謝料等はその子から徴収するとしよう」

 

 「わかった。白鷺を頼む」

 

 

 親父に別れを告げ部屋を出る。

 することはただ一つ。

 白鷺の敵討ちだ。

 

 

 病院を出てそのまま学校へと徒歩で向かう。

 普段ならその道中に絶対誰かしらは絡んでくるんだが、今日はその相手すら現れない。

 いや、姿を消したと言うべきか。

 すれ違う人間全てがカタギであり、必ずいた不良、半グレ、世の中から悪と分類される奴らはこの場にいない。

 

 

 「……………………チッ」

 

 

 普段、ウザイと感じていた奴らが肝心な時にいやしない。

 理由は知らんが役に立たん連中だ。

 沸々と湧き上がる自分への怒りの吐口がどこにも見当たらない。

 結局誰とも関わることもなく学校へと着くとすぐにオレたちの教室に顔を出す。

 いつもは賑やかな様子が嘘のように静かで電気も消され扉も完全に閉められていた。

 

 

 「何しに来たんですか?」

 

 

 オレの背後にいつも通りの腕組みポーズで立ち、ため息混じりにそう問いかけてきた女。

 奴はまるで、オレが来ることをわかっているかのように顔色ひとつ変えずただオレを見ていた。

 

 

 「白鷺の敵討ち」

 

 「残念ですがその敵はここにはいませんよ」

 

 「テメェは」

 

 「自分の鞄を取りに戻ってきました。もう帰るところです」

 

 「ハッ、どうやらテメェも被害にあったらしいな」

 

 

 腕組みをする氷川の右腕には白い包帯が巻かれ、それを隠すように氷川はその部分を覆い隠す。

 

 

 「別に、たいした怪我ではありません」

 

 

 そう言い張る氷川にゆっくりと近づき、その腕を握ると奴は苦痛の表情を浮かべた。

 

 

 「っ!!」

 

 「無茶すんじゃねぇよ。怪我が悪化するだけだ」

 

 「……………大きなガラスの破片が刺さりました。咄嗟に右腕で庇ってしまったので、致し方ありませんが」

 

 「おいおい。重傷じゃねぇか」

 

 「白鷺さんに比べれば私なんて……………」

 

 「ああ。オレもさっき会ってきた」

 

 「見たんですね」

 

 「ありゃあ、酷いってもんじゃねぇよ。白鷺千聖の女優人生を完全に殺そうって怨念がこもってるかのようだった」

 

 「あの時、私が止めていれば………………」

 

 「おいっ、一体何があったんだ。一から詳しく教えろ」

 

 「わかりました。全てお話しします。まずは、被害にあった場所へと向かいますね」

 

 

 そういい、氷川は背を向け歩き始める。

 オレはその後ろを黙ってついていく。

 通り過ぎるすべての教室にも人はおらず、ところどころ損傷していた。

 恐らく犯人が暴れてつけたものだろう。

 どうやらそれほどまでに大きな事件だったらしい。

 近頃は平和だと思っていたが、卒業間近にとんでもない大騒動を起こしやがった。

 

 

 「ここです」

 

 

 氷川の脚がぴたりと止まりその教室を見ると、凄惨と言う他ない状況だった。

 窓ガラスは全て割られ、綺麗に並べられているはずの机や椅子も倒れそのいくつかは足も折れていた。

 オレはもっと近くで見ようと割られた窓を飛び越え教室へと入る。

 歩くたびガラスがパリパリと割れ、辺りを見渡すと血痕のついた壁が目に入った。

 白鷺か、氷川か、あるいは他の誰かか知らんが相当な量だ。

 べっとりとこびりついている。

 

 

 「ひでぇな」

 

 

 膝をつき、その血痕を見る。

 

 

 「誰のだ?」

 

 「白鷺さんのものです」

 

 

 氷川も窓からこの部屋へと入り、オレの後ろに立つ。

 

 

 「白鷺に個人的な因縁を持ってる奴がいることは知ってる。奴の所属事務所に脅迫状が届いていたからな。まさかその犯人が外部から侵入してこの惨劇を生んだわけじゃないだろう」

 

 「…………………」

 

 「となると外部犯、北谷の可能性はねェ。白鷺の知り合いか?あのクラスにいたというのか?じゃあ誰が……………」

 

 

 考え込むオレに、氷川はある人物の名を口にした。

 

 

 「杏井くんです」

 

 「杏井だと?」

 

 「はい。彼が白鷺さんを傷つけた、この惨劇を生んだ張本人です」 

 

 「おい待て。ありえねェだろ。アイツがこんなことする訳…………」

 

 「私たちは、騙されていたんです。彼の演技に」

 

 「演技?どういうことだ」

 

 「まずは、白鷺さんの過去を遡る必要がありそうです」

 

 

 氷川はその全てを話す。

 白鷺が杏井に言い寄られていたこと。

 それを拒み、その事実をネタに笑った連中を半殺しにして事件になったことも全て。

 どこか聞き覚えのあるその似通った過去に、オレは耳が痛くなった。

 

 

 「それで大暴れしたのか」

 

 「彼をどうするつもりですか?」

 

 「武力行使。ぶん殴る」

 

 「やはり、ですか」

 

 「やむを得んだろ。オマエお得意の対話で解決ができる相手だったらこんな風にはなっちゃいねぇよ」

 

 「なら私も──────ッ!!!」

 

 

 でしゃばろうとする氷川の腕、それも包帯を巻いてるところをギュッと握ると、奴は苦痛の表情を浮かべた。

 

 

 「そのケガで何もできんだろ。捕まって足手まといになるのが関の山だ」

 

 「しかし…………」

 

 

 それでも食い下がるのがこの女だ。

 こういう時の対応をオレは心得ている。

 

 

 「いいか氷川。迷惑をかけるな」

 

 

 奴の肩に手を置き放ったその言葉。

 冷たいようにも聞こえるだろうが、これだけはっきり言わないとこの女には伝わらない。

 こんなことで傷つくようなやつでもないからな。

 

 

 「……………わかりました」

 

 

 渋々といった様子で受け入れる氷川。

 ここで引き下がろうとしないのは賢明だ。

 

 

 「安心しろ。白鷺の分もテメェの分も、キッチリ借りは返しといてやる」

 

 「……………こんなことを言うのは間違っているとは思いますが、お願いします。どうか………」

 

 「任せろ」

 

 

 氷川から思いを託され、オレは教室を出る。

 それと同時にとある人物に電話をかける。

 

 

 「オレだ。至急頼みたいことがある」

 

 

 奴を、杏井だけは。

 絶対に許さん。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 「─────とにかく、お前は無事で何よりだ」

 

 『心配かけさせてごめんね』

 

 

 結局のところ、二人を除くクラスメイトたちに被害はなく松原も無傷で済んだそう。

 電話での反応しかわからんが問題なさそうだ。

 

 

 「安心しろ。杏井は必ず警察に突き出す」

 

 『む、無茶だけはしないでね』

 

 「また病院送りになったら鼻で笑ってくれ。もちろん、五体満足で終わらせるように善処する」

 

 『うん。待ってるね』

 

 

 松原は優しい声でそう励まし電話を切る。

 

 

 「さて行くか」

 

 

 そう呟き、杏井のいる場所へと足を踏み入れる。

 氷川と別れたあと、オレはすぐ頼れる友達に奴の居場所を探ってもらい乗り込む手筈を整えた。

 毎度のことながらオレのわがままに付き合ってくれるアイツらに感謝しかない。

 今度、飯でも奢ってやるか。

 

 奴らの潜伏先は驚くことにとあるビルの地下室だった。

 杏井の他に複数人の出入りもあったそうでおそらくだがガチガチの迎撃体制で臨んでいるはずだ。

 だがそんなことは関係ない。

 挑んでくる野郎は全員薙ぎ倒すまでだ。

 

 

 鉄扉の前に立ちそれを蹴破って中に入る。

 

 

 「邪魔するぜ」

 

 

 オレの視界に入ったのは数十、百数人ほどの男たち。

 ここ最近見かけなかった街の不良どもだ。

 手には何かしらの武器を持ちやる気満々の様子。

 その群衆の最後尾に奴はいた。

 

 

 「オレのいない間に、随分と好き勝手暴れてくれたらしいな」

 

 「…………………」

 

 

 その問いかけに、杏井は椅子に腰掛けたまま頬杖をつき鋭い目で睨む。

 

 

 「もう時期ここに警察も来る。諦めて投降するんだな」

 

 「………………ハッタリはよしなよ」

 

 「ああ?」

 

 

 杏井は重い口を開いた。

 

 

 「キミがそんなくだらない手を使うわけがない。復讐しに来たんでしょ?この僕に」

 

 「復讐?誰の」

 

 「キミの大切な人たちだよ」

 

 「生憎だが、復讐なんて悍ましいモンのためにきたんじゃねェよ」

 

 「じゃあ、なんだと言うんだい?」

 

 「決まってる。オレのクラスに迷惑をかけた野郎をとっ捕まえるためだよ!!」

 

 

 オレは勢いよく飛び出し、近くにいた男の顔面目掛けて脚を振り抜き、はるかかなたへ吹っ飛ばす。

 鉄パイプを振りかぶるやつにはそのパイプの原型をなくす一撃をお見舞いし変形させると、再び蹴りで数人巻き込んで気絶させる。

 敵をちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返し数がおよそ3分の1まで減ると、杏井の表情も険しくなった。

 

 

 「強いね。やっぱり」

 

 「これでも生身の人間なんだぜ?」

 

 

 オレは氷と炎が出る個性もなければ、体からチェンソーが飛び出すこともない。

 ピストルで撃たれれば死ぬし、殴られれば痛みだって感じる。

 

 

 「雑魚の相手は疲れた。ほらっ、かかってこいよ」

 

 

 手首を曲げ挑発すると、奴は徐に立ち上がりそばに置いてあった何かを顔につけ指を鳴らした。

 その瞬間。

 

 

 「………………ッ!?」

 

 

 部屋中の換気口から紫色の煙が勢いよく吹き出し、この地下室を覆う。

 咄嗟の出来事にオレは対応できず、その煙を吸い込んでしまった。

 

 

 「なっ、なんだ!?」

 「苦しい……………」

 「た、助け…………」

 

 

 杏井の仲間だったはずの連中が次々と倒れていく。

 オレ自身、目が少し霞んできた。

 袖でなんとか口を覆っているがいつまで息が続くのかわからない。

 

 

 「て、テメェ……………!!」

 

 「卑怯。とでも言うつもりかい?」

 

 

 ガスマスク越しに杏井は話す。

 

 

 「これは学生の喧嘩なんて生やさしいもんじゃない。殺し合いだよ。本物の命をかけた、ね」

 

 

 もはや高校生がやっていいレベルではない。

 れっきとした殺人だ。

 紫色のガスが霧散する頃には敵は杏井を除き全員が倒れ、オレも片膝をつき霞む目で奴を見る。

 

 

 「仲間にも知らせてない毒ガス攻撃か。ゴホッ!」

 

 「安心しなよ。死にはしない。多少後遺症は残るかもしれないけどね」

 

 「どこが、安心しろだ。吸っちまったっつうの……………」

 

 「それでも意識を保てているのはさすがと言う他ないよ。不死身の暴君(アンデッド)と言われるだけのことはある」

 

 

 このまま戦闘すれば、まず間違い無く敗北するだろう。

 オレはここで殺され、病院にいる白鷺たちに更なる危害を加える可能性が高い。

 必ずここで食い止めなければ。

 

 

 「花咲川無差別暴行事件の犯人もオマエだな?」

 

 「そうだよ」

 

 「見ず知らずの他人を一方的に危害を加えて、どうだったんだよ」

 

 「最高だった。演技では味わえない、緊迫としたあの光景。泣き叫ぶ女。手に残る鈍い感触。血の匂い。今思い出しただけで昇天しそうだ」

 

 

 悍ましい顔を浮かべる杏井。

 まるで自分に酔いしれているかのような、そんな感じだ。

 実に狂ってる。

 

 

 「それがオマエの本性か?クラスの時とえらい違いだ」

 

 「ボクは演じることが好きなんだ。アレも実に楽しかったよ。クラスの人気者になったからね」

 

 「まんまとオレも騙されたよ」

 

 

 適当に会話を促し時間を稼いで回復を試みるも状態は戻らない。

 そのことを杏井も承知済みだろう。

 肩を抱き、体を捻りながら杏井は告げる。

 

 

 「ああ、そうだった。キミ、今から死ぬけど何か言い残すことはあるかい?」

 

 「……………はっ?」

 

 

 その言葉と同時にパンッ!と銃声音が響き、オレの体に命中する。

 強烈な痛みと共に、口から大きく血を吐き、目にした先にいたのは。

 

 

 「うふふ。さよなら、奏くん」

 

 「まつ、ば……………」

 

 

 片手に拳銃を持ち、青い髪を束ねた松原の姿だった。

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