高嶺の華と路傍の花   作:山本イツキ

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バンドリ内だと、奏くんも大学生になるのか〜
いや、この子の頭ではそれは不可能かな笑

それに暴力沙汰で退学なんてことも…………喧嘩もほどほどに、ね


第43輪 ダイビー〜死んでも離れない〜

 毒ガスで意識が霞む中、オレの目はしっかりとその姿を映した。

 紛れもない。

 あれは、松原花音そのものだ。

 誰かのなりすましと信じたいのは山々だが、声も顔も本人そのものだった。

 その事実を受け入れられず頭の中は未だフリーズしたままだ。

 

 

 「ごめんね、奏くん」

 

 

 拳銃を片手に松原はそう呟く。

 

 

 「オマエ……………」

 

 「なぜ、って訊きたそうな顔だね。いいよ、教えてあげる」

 

 

 ニコリ、と笑い松原は話を続ける。

 

 

 「千聖ちゃんのことがね、憎くて憎くて仕方なかったの。私にないものを全部持ってて、挙げ句の果てに好きな人までも奪おうとしている…………だから、本気で殺そうと思ったの」

 

 「…………………」

 

 「結果、大成功。あの女は顔に一生の傷を残し、愛してやまない男を今ここで失おうとしている。女優としても一人の女としても、もう終わりなんだよ、彼女は」

 

 

 鬼気迫る勢いで今までの想いを吐露する松原。

 これが奴の腹の中か?

 いいや、オレはわかってる。

 

 

 「………………松原」 

 

 

 オレの考えが間違っていれば松原との関係が絶たれることになる。

 荒れくれていたオレに優しくしてくれた唯一の女。

 だが、この違和感はどうやったって拭い切れるもんじゃない。

 毒で痺れる体を無理やり起こし、手を蹴り上げ拳銃を引き剥がすと、そのまま顔面目掛けて拳を振るう。

 オレの拳は松原の頬を直撃し鈍い音と共に体が彼方へ吹き飛ぶ。

 

 渾身の、そして不意の一撃はオレの疑惑も晴らす形となった。

 

 

 「ククッ。どうやらオレは一人、友達を失わずに済んだ様だな」

 

 

 再度殴り飛ばした相手の方を見ると、見事に顔は崩れ別の人間だということが明らかになったのだ。

 松原、いや、別の何かはオレを鋭い目つきで睨む。

 

 

 「今までは、全て演技だったの?」

 

 「バカいえ。これでも万全の体調とは程遠いんだぜ?撃たれて体は痛ぇし、毒で手足は痺れて目眩もハンパねェ」

 

 「油断したね。"羽丘の女帝" さん」

 

 「察しはついていたが、やっぱテメェか」

 

 

 羽丘の女帝、北谷は松原のマスクを脱ぎ捨て元の顔を曝け出す。

 その瞳は松原とは対極。

 凍りつくほど冷たく、オレを見下す様にのぞかせる。

 

 

 「これも北谷(オマエ)からの発案か?」

 

 「ええ。もう物理的にではあなたを殺せそうになかったから、特別に用意させてもらったわ。まあ、無意味だったようだけれど」

 

 

 一体どんな裏ルートを辿れば、たかが一女子高生が毒ガス兵器や拳銃、声までそっくりになる擬態マスクを入手できるのだろうか。

 闇は深い。果てしなく。

 

 

 「二人が知り合いだったのも驚きだったが、まさかこうして手を組むとはな」

 

 「まさか」

 

 「ただの一蓮托生よ」

 

 「へぇ」

 

 

 どちらともオレの友達を傷つけたことに変わり無い。

 行き着く先は、決まっている。

 

 

 「面倒ではあるが好都合だ。オレが本気で殺したいと考えてる二人が今こうして目の前にいるんだからな」

 

 「……………ッ!?」

 

 

 第六感が働いたのか、オレの渾身の蹴りを間一髪のところでかわし、後ずさる北谷。

 奴の目には、フラフラと揺れるオレと空振った脚がコンクリの地面に突き刺さりひび割れた光景だった。

 さっきまでの澄ましたような表情は無くなり、目を大きく見開きながらオレを見る。

 

 

 「よくかわしたな。今のをガードしてたら、容赦なく骨を砕いていたはずなんだが」

 

 

 目眩のような症状がオレを襲う。

 かわした、とは言ったが厳密にいえば当たらなかったという方が正しい。

 今も目が霞んでどっちがどっちなのか区別はつかない上に、その姿を正確には捉えきれていない。

 

 

 「女にも手を出すなんて、堕ちたものね」

 

 「バーカ。オレはそもそも男女関係なく捻り潰す極悪人だぜ?」

 

 「彼女相手なら手も抜いてくれると考えたけど、そうもいかないみたいだね」

 

 「凶器だろうが兵器だろうが構わねェ。殺すつもりでこいよ」

 

 

 殺気を奮い立たせ戦闘体制をとる。

 まず動き出したのは北谷。

 ポケットからナイフを取り出しオレに突き刺そうとするが苦も無くそれをかわし、肘打ちで背中を強打する。

 遅れて杏井も動き出すがアクションを起こす前に腹部目掛けて蹴りを入れ、後方へ飛ばす。

 最終手段、と言わんばかりに北谷は銃口をオレに向けるが引き金を弾く前に腕を手刀でへし折り、銃を手放させると奴の顔面にフルスイングで拳を振るう。

 

 向こうが殺す気でオレに向かってくるなら、こっちもそれ相応のことをするまで。

 今のオレなら視覚がなくても感覚だけで動けちまう。

 まるでゾーンにでも入った気分だ。

 

 

 「まったく……………手に負えないね」

 

 「痛ッ………………痛ッ……………!!」

 

 「つまらん。もう終わりか」

 

 

 今のオレは誰にも歯が立たない。

 その絶対的な自信がより際立つ。

 

 「羽丘の女帝さん。動けそうかい?」

 

 「……………無理。骨を、やられたわ………」

 

 「僕も、肋骨を何本かやられた。パンチ1発でここまで負荷を負うとは、さすがだね」

 

 「あなた、笑ってる場合じゃ……………」

 

 「おいっ」

 

 「………………!?」

 

 

 北谷の声のする方へ歩み寄り、見下ろす。

 

 

 「これまで散々オレの学校生活を邪魔してきたな?中学の時が発端とはいえ、元はテメェが招いたことだ。なぜオレにそこまで固執する?」

 

 

 眼前まで距離を近づけ、詰め寄る。

 

 

 「何も答えられないのか」

 

 「………………………」

 

 「北谷ィィ!!!」

 

 

 オレの怒声が部屋に響き、二人の鼓膜を揺らす。

 涙を流すこの女の髪を引っ張り上げさらに問い詰める。

 

 

 「結局のところ復讐だろうが。額の傷をつけたオレに対して」

 

 「うぅ………………」

 

 「今更女扱いしろとでもいうのか?オレの友達を傷つけ、凶器を手にし、あまつさえオレを殺そうとしたテメェがか?ハッ、笑わせる。オマエは女でも、人間でもねェ。ただの犯罪者だ」

 

 「やめ、て………………」

 

 「後悔しようがもう遅ェ。オレの逆鱗に触れたオマエらはここで死ぬんだ。惨めな姿を世に晒されてな!!」

 

 「たす、け………………杏、井………………」

 

 

 身悶えする北谷を遠くで見つめるだけの杏井。

 協力関係といえどそこまでする義理はない。

 そう言わんばかりの行動だ。

 

 

 「おいっ、杏井。邪魔したらテメェも殺すからな?」

 

 「………………」

 

 

 杏井はオレの忠告に対し無言で頷く。

 

 

 (あれはまるで、修羅。視線だけで相手を威圧できるって、もはや人間じゃないね」

 

 

 杏井の心の声はいざ知らず、北谷から手を離したオレは仰向けになる奴に跨り、グッと腕を引く。

 

 

 「死ね」

 

 

 勢いよく振り下ろされた拳は北谷の顔面にモロで直撃し、血飛沫を上げる。

 再度、今度はもう片方の腕を振り上げ下ろし、また血を流す。

 引いては殴り、殴っては血飛沫をあげの繰り返し。

 二桁殴る頃にはオレの両手は真っ赤に染まり、北谷の顔はかつての面影すら残らぬほど悲惨なものになっていた。

 これが報い。

 奴はオレの大切なものを幾度となく傷つけたんだ。当然の結果だろう。

 

 

 「あー、頭がボーッとする……………」

 

 

 血濡れた手で顔を覆い天を仰ぐ。

 これが毒ガスの影響なのか、怒りが頂点を越えたからかわからないが気分は悪くない。

 全身を包む血の香りも今はどこか心地よさすら感じるのだ。

 どうやらオレは完全にイカレちまったらしい。

 おかしくて、思わず笑ってしまう。

 

 

 「さあて、次はテメェだ。何か言い残すことはあるか?」

 

 

 指をパキパキと鳴らしゆっくりと近づく。

 

 

 「敵討ち、なんて柄じゃないけど僕も少なからず君のことは嫌っているからね。一矢報いさせてもらうよ」

 

 「いい遺言だ」

 

 

 膝を狙い、脚を振り抜くがその場でジャンプしてかわされ逆にオレが蹴りを喰らう。

 地面を滑るようにしながら後退するが、杏井は勢いそのままにオレに向かい胸ぐらを掴むと顔面目掛けて思い切り拳を振るった。

 細腕からは信じがたいパワーを誇る拳、そしてスピード。

 この一瞬に限っては不死身の暴君(オレ)を上回ったというほかない。

 

 

 「役者で鍛えたおかげ、か?そこらの不良よりできそうだな」

 

 

 口の中に溜まった血を吐き捨て、そう問いかける。

 

 

 「……………々うるせぇ」

 

 

 突如、杏井の口調が変わり丸みが特徴の目つきも鋭くなった。

 これが氷川の言っていたやつの豹変した姿か。

 

 

 「白鷺千聖に群がる蝿が。オマエにも一生残る傷を与えてやるよ」

 

 

 オレを指差し血走った眼でそう宣言する杏井。

 

 

 「"喧嘩に明け暮れ、人を痛めつけることしか脳のない不良" って設定か?とことん役者なんだな、オマエは……………まあ、返り討ちにしてやるよ。演技中毒者!!」

 

 

 オレは再度速攻を仕掛ける。

 先ほど華麗にかわされた得意の蹴りで決着をつけようと考え、搦手を用いる。

 やつの腕を掴み顔面目掛けて掌底打ちをするも顔を傾けるだけで回避し、お返しと言わんばかりに肘打ちでオレの腹部を強打する。

 そのままオレの襟を掴み脚を引っ掛かけ背負い投げをされるも、体を捻り両足で着地し逆に投げ返す。

 そのまま滑るように地を這う杏井目掛けて脚を全力で振るうも、杏井も同様に脚を振り抜く。

 両者脛へ激突し、痛みが全身を駆け抜ける。

 

 

 「痛ッ、今のは効いたぜ。打撲程度では済まなそうだ」

 

 「お互い様、だ」

 

 

 膝をつくように片足を抑える杏井。

 無理な大勢で攻撃してきた分、威力は控えめで向こうのほうにダメージが乗ったようだ。

 だが、オレの蹴りに匹敵するほどのパワーには素直に驚かされた。

 

 

 「ギブアップか?」

 

 「誰が」

 

 

 眉間に皺を寄せながらも杏井は立ち上がる。

 しかし、片足に重心がかかりすぎているのが一目見ただけでわかる。

 相当傷は深いようだ。

 足払いすれば簡単に転びそうだな。

 

 

 「ここまでオレに張り合う奴と出会うのはいつぶりだろうな。もう手加減いらなそうだな」

 

 「傲慢な」

 

 「それが強者の特権だ」

 

 

 どんな汚い手を使われようとも、どれだけ大人数が相手だろうとオレは喧嘩で負けたことは一度もない。

 毒ガスを浴び、拳銃で撃たれた今でも負ける気が一切しない。

 

 

 「黙れ、羽虫が……………テメェを今、ここで殺して─────」

 

 「油断禁物だぜ?」

 

 

 こうして会話している間も命取り。

 奴らお得意の "不意打ち" で今度こそ杏井の頭を脚で捉えた。

 

 ドゴっ!と鈍い音が響き杏井は力無く床に体を預ける。

 

 

 「動かねェほうがいいぞ。脳震盪なんてチャチなレベルじゃねェからな」

 

 

 目を回す杏井を跨り、見下ろす。

 

 

 「卑怯だ、とでも言うつもりか?言わせねェよ。こちとらそれで何度も襲撃されてきたんだからよ」

 

 

 その場でしゃがみ、力の入っていない細腕を掴む。

 

 

 「まずは────松原の分」

 

 

 本来の可動域とは大幅にズレた場所まで腕を動かし、へし折る。

 

 

 「次は────氷川の分」

 

 

 先ほどへし折った対の腕を同様にする。

 

 

 「最後は脚だ。これで当分は介護なしには生活できないぜ?」

 

 「………………殺せ」

 

 「ああ?」

 

 「殺せよ。オレとあの女に恨みがあるんだろ?」

 

 

 命乞いをするどころか、自らを殺すよう促してくる杏井。

 そんな言葉を返すこともなくオレは奴の足をボキッとへし折った。

 

 

 「今のが────オレの分」

 

 

 残った最後の足を手に再度警告する。

 

 

 「殺せっつったか?いいぜ。この恨みを晴らしてから、な」

 

 

 これまでと同じようにグッと力を込め、そして叫ぶ。

 

 

 「これが────白鷺千聖の分だぁぁぁ!!」

 

 

 今までより数倍も力を入れ、真っ二つにへし折った。

 これでやつは立ち上がるは愚か、当分碌な生活を送ることはできない。

 

 

 「はぁ…………はぁ……………」

 

 

 ようやくことを成し遂げ、突如として眩暈が襲ってきた。

 ガンガンと頭に響く頭痛も鬱陶しい。

 早いとこ、病院へ─────

 

 

 「おい」

 

 

 この場を去ろうとしたオレを杏井が呼び止める。

 

 

 「このまま、置いていくつもりか?」

 

 「だったらなんだ」

 

 「オマエの恨みはそんなもんか。俺たちを殺したいと思っていたんじゃないのか?」

 

 「るせぇ。本当に殺したら、アイツらに合わせる顔がねェだろうが。言っておくが、北谷(あのおんな)も死んじゃいねェよ。顔面は整形しなければ治らんほど殴ったがな」

 

 「……………一つ頼みがある」

 

 「事によっては受けかねるが」

 

 「俺にも……………彼女と同じ傷を」

 

 「つまりは顔面を粉々にしろと?」

 

 「そう、だ。もちろん、弁明はする」

 

 「いいぜ。後悔すんなよ」

 

 

 断る理由すらない。

 そっと目を閉じる杏井の顔面目掛けて、オレは今日一番の力を振り絞り拳を振るった。

 鈍い音が響くと共に顔から大量の血が吹き出し、オレの手を汚す。

 完全に動かなくなったのを確認しオレは地下室を出る。

 

 

 「あー、しんどっ…………」

 

 

 壁に体を預け、這うように外へ出ようとする。

 平衡感覚は失われ頭痛も目眩もひどくなる一方だ。

 先ほどまでは興奮状態(ハイ)になっていたからか、ここにきてどっとそれらの症状が重くのしかかってきた。

 死ぬのも時間の問題か。

 

 

 「……………ここです!!」

 

 「はやく……………きてください!!」

 

 

 どことなく複数の足音が聞こえ、霞む視界に何人かの姿が目に入る。

 

 

 「月島くん!大丈夫ですか!?」

 

 「奏くん……………!!」

 

 

 声だけでわかる。

 氷川と松原の二人だ。

 

 

 「よぉ、なんだか、久しぶりに会った気が、するなァ」

 

 

 力を振り絞り俯きながら話す。

 

 

 「動かないで!もうすぐ救急車が到着するから!」

 

 「クククッ。今のオレには、霊柩車がお似合い、だぜ?」

 

 「冗談言ってる場合ですか!」

 

 

 氷川のそんな叱責をよそに、一人の男が割って入る。

 

 

 「警察の者だが、キミが月島 奏くんだね?」

 

 「あぁ………犯人なら、奥で、伸びてるはずだ」

 

 「わかった。キミは一刻も早く病院で治療を受けるんだ!」

 

 「とっとと行けよ。逃げられたら、アンタらの責任。だからな?」

 

 「もちろんだ。おいっ!急ぐぞ!」

 

 

 警察官たちは杏井たちの元へ走り、オレは氷川と松原に抱えられ外へと目指す。

 

 

 「よく、ここが分かったな」

 

 「後をついて行きました。松原さんも、察して連絡をくれたんです」

 

 「無茶はしないでって、言ったのに……」

 

 「説教なら、後で聞く。今は、もう─────」

 

 

 そこでオレの意識は失われた。

 ああ、コレが "死" か。

 なんともあっさりくたばっちまったな。

 この世に生を享けて早18年。

 随分と人の道から外れた人生を歩んできたが、決して悪い者ではなかった。

 もしまた人に生まれ変われたのなら、今度は真っ当に生きてやるか。

 

 

 

 ─────そう懺悔していたのも束の間、生きて再び目覚めたのはこの事件から3日ほどすぎた日のことだった。

 

 

 

 オレの気持ちを返せ!!

 小っ恥ずかしいじゃねェか!!

 バカヤロォ!!




あっさりと終わったなぁというのが執筆者の本音。

だってさあ、これ以上長引かせるわけにはいかないじゃん!?
もう3年経ったよ!?
メンバー卒業しちゃったよ!?

そりゃ焦るさ!!
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