高嶺の華と路傍の花   作:山本イツキ

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バンドリの新作が決まりましたね。
まさかの8つ目のバンド………?
楽しみで仕方ないです。オッドアイサイコー!


今回は前話の続き、そして新たな事件の開幕となります。


第44輪 花に嵐

 月島くんが病院に緊急搬送されてから3日。

 たびたび面会には訪れているけれど未だ目覚める様子はない。

 怪我をして、こうやって治療を受ける姿は何度も見てきたけれど、全く慣れることがない。

 特に、私が関わっていたことなら尚更。

 自らの力の無さに心底腹が立つ。

 

 

 (……………ダメ。弱気になっては、ダメ)

 

 

 

 そう心の中で呟き自分を奮い立たせる。

 これから会う人にそんな姿を見せてはいけないと思ったから。

 

 

 「失礼します」

 

 

 こんこんっと扉をノックしその部屋にいる人に声をかける。

 合図を確認するとゆっくりとその扉を開き部屋へと入った。

 

 

 「いらっしゃい。紗夜ちゃん」

 

 「お邪魔します」

 

 

 小さく笑い応対したのは白鷺さん。

 月島くんが病院に搬送されてきたと同時に目覚め、今は日常生活が可能なほど回復している。

 直に退院できるだろうと、お医者様からも言われたらしい。

 

 

 「月島くんのお見舞いには行ったの?」

 

 「ええ。先ほど」

 

 「まだ、目覚めそうにないのね」

 

 

 どうやら私の表情から察したようだ。

 

 

 「そのうち元気に飛び起きるはずですよ。なんなら、もう少しだけ大人しく寝ててもらっても構わないぐらいです」

 

 「ふふっ。それもそうね」

 

 「もうすぐ大学生なんですからもっと落ち着いた生活をしてほしいんですけど…………」

 

 「それは諦めた方が良いかもしれないわね。頭の中まで筋肉でできてるような人なんだから」

 

 

 ニコッとした表情とは裏腹になかなかの毒を吐く。

 まあ、お互い彼をよく知っている身。

 白鷺さんに至っては学外でも行動を共にしているのだから、私の知らない一面を知っていても不思議ではない。

 

 

 「…………どうして笑ってるの?」

 

 「いえ、なんでもありません」

 

 「隠さなくて良いじゃない♪」

 

 「その………少し、安心しました」

 

 「安心?どうして?」

 

 「正直、自暴自棄になってしまっているのではないかと勝手ながら心配していました」

 

 

 その一言で私が何を言いたかったのか白鷺さんは理解する。

 杏井くんにつけられた額の傷にそっと手を当てる。

 

 

 「もう気にしていないもの。お医者からもう治すことはできないって言われたから」

 

 「しかし……………」

 

 「心配してくれてありがとう。その気持ちだけでも嬉しいわ」

 

 

 白鷺さんはそう答え小さく笑みを浮かべる。

 

 

 「すみません。私はこれで」

 

 「あらっ、もう帰っちゃうの?」

 

 「この後警察の事情聴取を受ける予定なので」

 

 「そう。気をつけてね」

 

 「ええ。また来させていただきます」

 

 

 私は頭を下げ病室を後にする。

 完全にその姿が見えなくなるまでいつも通りの表情を保ち、扉が閉まり切ったのを確認し、ふぅっと息を吐く。

 そして、そそくさと廊下を早歩きする。

 

 

 白鷺さんは良くも悪くも笑顔が素敵な女性だ。

 誰に対しても(月島くんに対しては例外)人当たりが良いから腹の底まではわからないけど、本心でないことはわかる。

 気にしていない、と言う言葉も裏を返せばそうじゃないことになる。

 顔に傷を負ってしまったのだから、女優でアイドルである彼女がなんともないわけがない。

 わかってる。わかっているけれど─────私ができることなんて何もない。

 

 もしかしたら、彼ならば……………そんな淡い期待を寄せてしまう。

 全て他人任せ。

 そんな無力な自分が情けなくてたまらない。

 

 

 誰にもみられることなく悔し涙を流し、私は警察署へと向かう。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 紗夜ちゃんが部屋を出て、私はベッドに背を預ける。

 

 

 「はぁ……………」

 

 

 誰もいない病室で一人ため息をつく。

 どこか気を遣われているような、そんな話し方をされてすごく息苦しく感じる。

 

 

 「気にしてない、ね…………」

 

 

 再び、額の傷にそっと手を当てる。

 上手く隠すこともできるだろうけど、水に濡れるなどのアクシデントがあれば簡単に見つかってしまう。

 コレがある限り私はテレビに映ることはできない。

 女優として、アイドルとして、そして芸能人として、白鷺千聖はもう終わったのだ。

 

 

 「これからどうしようかしら」

 

 

 このまま表舞台から姿を消して普通の学生生活を謳歌するのも良い。

 花音や紗夜ちゃん、そして月島と同じ大学に通うのも楽しそうだ。

 

 そう、自分の気持ちを取り繕う。

 

 

 ────もう、叶わぬ夢なのに。

 実現不可能な理想を抱くことなんてしたくないのに、私の頭の中はそれらの生活を否定する。

 

 

 私は、女優 "白鷺千聖" 。

 子供の頃からテレビにでて実績を積み上げてきた芸能人。

 根本にあるのは昔からそう、これからもテレビで活躍し続けるのが私の願い。

 私は徹底した現実主義者(リアリスト)

 自分の不利益になると思ったことは徹底してその道を避けてきた自負がある。

 

 けれど…………こんなにも簡単に今までの生活が奪われるなんて、とても耐えられない。

 

 

 「どうしたら、いいの………………」

 

 

 自らの腕を抱え、涙をこぼす。

 人知れず、誰にも気づかれることもなく、私はただ独りで泣き叫び続けた。

 

 

 

………………………

 

 

…………

 

 

 

 一頻り泣いた後鏡に映る自分の顔を見る。

 

 

 「これは………酷いわね」

 

 

 目元が赤く腫れ、髪も顔もぐしゃぐしゃ。

 とても芸能人とは思えない姿だ。

 もう、自分が芸能人でいられなくなるとどうでも良く思えるけど、白鷺千聖がそれを拒む。

 

 テーブルに置いてあった化粧ポーチを手に取り、恥ずかしくない程度に顔を作り部屋を出る。

 今日は平日ということもあり、人とあまりすれ違うこともなく月島くんの病室へとたどり着く。

 変装、とまでは言わないけれどマスクもしてるし私が入院してると知れ渡ることはないだろう。

 

 

 扉をノックしようとしたその時、病室で話し声が聞こえたからその手を寸前で止める。

 

 

 「奏くん……………」

 

 

 その声はすぐにでもわかった。花音だ。

 

 

 「まだ、夢の中にいるのかな」

 

 

 入ることも可能だけれど、今行くのは違う気がして私は扉の前で花音の会話を聞くことにした。

 

 

 「私ね、ずっと考えてたんだ。奏くんのことを諦めようって、ずっと…………」

 

 「……………えっ?」

 

 

 花音のその一言で心臓がドクンッ、とはねる。

 

 

 「でもやっぱり、できないよ……………。だって、奏くんは誰よりもカッコいいし、優しいし、頼りになるし。私なんかとはとてもつり合わないと思うけど、この気持ちだけはどうしても抑えられないの」

 

 (願い、それ以上は…………言わないで─────)

 

 

 心で懇願する私だったけれど、その言葉は二人に届くことはない。

 

 

 「私、やっぱり奏くんが好き。千聖ちゃんよりも、その気持ちが強いって、思う」

 

 (花音……………)

 

 

 臆病だけど女の子らしい、私の大切な友達の告白。

 それも、同じ想いを寄せる相手の男の子に。

 突如、胸が締め付けられるような痛みに襲われる。

 

 

 「もちろん、奏くんの気持ちが第一だからね。千聖ちゃんとお似合いなのはわかってるし、二人が一緒にいるのが一番だとも思うけど……………その、私の気持ちも、知ってて欲しかったの」

 

 「………………」

 

 「それじゃあ、私は千聖ちゃんのところにも行くね。また起きたら、いっぱいお話ししようね♪」

 

 

 私は一目散に駆け出し、病室ではなく、トイレへと向かう。

 今は、とても花音に合わせる顔がない。

 それにどこか体調も良くないようだ。

 トイレへと駆け込み、戻す。

 

 

 「はぁ…………はぁ……………」

 

 

 必死になって胸を抑えるがその痛みが収まることは決してない。

 花音の言葉を思い出すたびに、気分が悪くなり、戻してしまう。

 まるで呪いの言葉のようだ。

 

 

 「どうして、こんなことに…………」

 

 

 涙ながらにそう吐露する。

 

 全ては、月島くんが悪いんだ。

 彼が私に関わったから、花音に優しくしたから、そう、全ては彼が。

 彼が全て悪いんだ。

 

 

 「……………ふふふ」

 

 

 誰にも聞こえない声で小さく笑う。

 

 

 「ホントっ。私って最低、ね」

 

 

 自分の醜さに思わず笑ってしまう。

 これが演技でもなんでもない、素の私。

 卑屈で下劣で醜い女。

 ドラマだと一番嫌われる役だ。

 

 けれどそれが私にはお似合いだと思う。

 

 

 「もう、これで決まりね」

 

 

 自らと向き合いそして決心する。

 ポケットにしまってあった携帯を出し、ある人物に電話をかける。

 

 

 「すみません。社長。お話があります」

 

 

 なんだ?と問いかける社長に提案を持ちかける。

 

 

 「どんなことでもします。だから私─────女優、そしてアイドルの白鷺千聖にチャンスをください」




紅茶って美味しいですよね。
子供の時はなぜか苦手だったんですけど、大人になってその美味しさに気づくことが多々あるんです。

コーヒーの苦味然り、漬物の味然り。

見た目は大人でも心の中はいつまでも少年でい続けたいですよね。

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