高嶺の華と路傍の花   作:山本イツキ

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物語も残るはあと数話。

自分の全てを出し切ります。


第47輪 花は折りたし梢は高し

 月島くんと出会って私の日常は一変した。

 ただ学園のためにと思って所属した風紀委員。

 そこに突如現れた学園の異分子。

 一目見た時から私はこう感じていた。

 

 この男子生徒とは根本的に合わない、と。

 

 実際初めはそうだった。

 そりが合わずいがみ合ってばかりで、互いの胸ぐらを掴み合ったほど険悪だった。

 どれだけ言っても遅刻はするし服装は乱れているし、言葉遣いは治らない。

 私とは対極にある彼の存在がただただ鬱陶しくてしかたなかった。

 あまりの酷さにネットで拘束具を購入し、首輪をつけては捕まえたほどだ。

 

 けれど、いつの間にか私は彼を信頼するまでに関係が改善された。

 度々事件に巻き込まれては苦難を乗り越え、学園長からの依頼もこなしてきたいわば戦友。

 相棒のような立ち位置にある。

 

 

 今思えば、こんな忙しない日々は彼なしには過ごせなかっただろう。

 昔は平穏無事を望んでいたけれど今はもっと刺激的な出来事を求めている自分がいる。

 本当に、私は変わった。

 もちろんいい方にだ。

 

 これも全て彼の────

 

 

 「邪魔するぜ」

 

 

 あいも変わらずノックをせず生徒会室に入室する月島くん。

 今日は私以外誰もいないからいいものの、女子生徒で大半を占めるこの学園は、彼のような人間に耐性のある人は少ない。

 もう少し配慮してあげてほしいところだ。

 

 

 「邪魔をするならお帰りください」

 

 「あいよ〜…………って帰るかバーカッ」

 

 「知ってたんですね」

 

 「オマエこそ」

 

 

 私たちは顔を見合わせ笑う。

 彼は私の対面に腰を下ろし、カバンからお菓子を取り出し口に運んだ。

 

 

 「食うか?」

 

 

 棒状のお菓子を掴み、腕を伸ばす。

 

 

 「いただきます」

 

 

 私は遠慮なくそれを受け取ると、意外だ、と言わんばかりな表情を浮かべる。

 

 

 「なんですか?」

 

 「いや、またどうせ『校則違反です』だとか言うと思ってよ」

 

 「学校に不必要なものの中にお菓子は含まれません。休み時間や放課後であれば問題ないはずです」

 

 「ククッ。少しは思考が柔軟になったか?」

 

 「おかげさまで」

 

 

 月島くんは鼻で笑い、お菓子を齧りながら話を切り出す。

 

 

 「不本意、ではあるがオマエに話がある」

 

 「はなし?」

 

 「思春期を迎えた子供のくだらねぇ悩みだ。興味がないなら適当に聞き流せばいい」

 

 

 不本意という言葉はさておき、月島くんが私に相談事とは珍しい。

 生徒会の日報はすでに書き終え他に仕事はないから断る理由もなかった。

 

 

 「いいでしょう。乗りますよ」

 

 「悪いな。ほらっ、もう一本」

 

 

 彼にとってこのお菓子が相談を聞いてもらうための交換材料ということなのかしら?

 変なところで律儀。

 2年経った今でも彼の考えはわからないことが多い。

 

 

 「それで、あなたの悩みというのは?」

 

 「…………自慢じゃないが、オレは二人の女に好かれているらしい」

 

 「二人………白鷺さんと松原さんですか?」

 

 「なんだ知ってたのか」

 

 「白鷺さんには以前相談を持ちかけられたことがあるので」

 

 「松原は」

 

 「女の勘です」

 

 「ハッ、面白い冗談を言うようになったじゃねェか」

 

 「ええ。単なる消去法ですよ。あなたと深い関係にある女子生徒の中で白鷺さん私を除くともう松原さんしかいません」

 

 「いい考察だ。一本取られたぜ」

 

 

 手放しに賞賛する月島くん。

 しかしケラケラと笑う表情の奥に、どこか暗い影があるのを私は見逃さない。

 

 

 「どちらかを選べば親友である二人の心に傷がつきかねない。そして自分自身もせっかく仲良くなった関係が崩れ去るのを恐れている。それがあなたの悩みといったところでしょうか」

 

 「要約するとそうだ」

 

 

 それにしても、女嫌いを自称していた彼からそんな悩みが生まれるなんて。

 まるで彼のお母さんにでもなった気分に浸る。

 

 

 「悩ましい限りですね」

 

 「全くだ。一夫多妻制を認めない日本に生まれこれほど後悔したことはない」

 

 「どちら共と付き合おうとでも?冗談でも最低です」

 

 「失言だ。忘れろ」

 

 

 私が本当に彼のお母さんなのだとしたら、ビンタは避けられない。

 痛い思いをしてでもそんな考えは捨てさせようとするだろう。

 

 …………しかし、何故私はここまで親目線になるのだろうか?よくわからない。

 

 

 「どちらともに気はあるんですよね」

 

 「ああ。オレがこの先、一組の男女として付き合うならあの二人以外考えられねェ」

 

 「白鷺さんに松原さん。性格の良い二人だからこそ、あなたはここまで悩んでいるのですね」

 

 「今回ばかりはオレにはどうすることもできん。二人の問題だからな」

 

 

 最終的には彼が決めればそれでいいのだけれど、その展開まで進展させるのが非常に難しい。

 以前白鷺さんと話した時は『いつも通りでいたらいい』と助言したけれど、そんな上部の言葉だけでは月島くんは納得しない。

 

 まるで私のこの2年間の成長度合いを測るためのような難題だ。

 あまりに荷が重すぎる。

 私が同じような経験をしていればもっと的確なアドバイスができたのに、と心の中で吐露する。

 

 卒業まで今のままの関係で───いや、それだと本人たちのためにならない。

 二人の恋愛対象を別に───いや、そんな方法は現実的ではない。

 

 

 なんとか、何としてでも全員が納得する形で終結できる案はないかと思考を巡らせるが一向にそれが浮かび上がることはなかった。

 やはり、恋愛は不平等だ。

 ドラマや小説のようなハッピーエンドを迎えることなんて決してない。

 この三人の恋愛においてもだ。

 

 

 「…………やはり、どちらか一人を選ぶべきでしょう」

 

 

 シンプル。

 実にシンプルな考えを彼にぶつける。

 正真正銘、これが今の私にできる唯一回答だ。

 

 

 「まあそうなるだろうな」

 

 「どちらか一方が傷ついても、答えを出すべきです」

 

 「だがいいのか?このままだと二人は今までとは違った関係になるんだぜ?」

 

 「それは覚悟の上です。しかし、二人の関係が険悪になることは絶対ありません」

 

 「何故そう言い切れる」

 

 「言ったはずです。性格のいい二人、と。必ず相手の幸せを願い、いつもと何ら変わらず接してくれます」

 

 「…………もし、最悪の状況に陥ればどうすればいい?二人の関係は崩壊し、心身共に深い傷を負わされることも想像できる。それでもオマエは一人に絞れと言うんだな?」

 

 「それでも決めるべきです。例えそんな状況になったとしても今のままでは進展なんてあり得ない。それに、未来のことは未来の自分に任せればいい。私は、そう考えます」

 

 

 そうだ。今、悩んだところで仕方ない。

 いくら将来のことを考えたところでそれは未来の自分にしかわからないことだから。

 大切なのは現在(いま)だ。

 今の自分の悩みは今の自分にしか解決できない。

 

 未来に対して憶測を立てることも大切だ。

 だが、それはあくまで予想でしかない。そうならないことだって大いにありうる。

 

 今、直面している問題から目を背けてはいけない。

 何故ならそこに将来抱えるであろう悩みの解決方法があるかもしれないのだから。

 

 

 「……………クッ、クククッ」

 

 「〜?」

 

 「クハハハハハハハハッ!!」

 

 

 何か吹っ切れたように彼は高らかと笑い声を上げた。

 

 

 「その通りだ!オレも少しはアイツらを信じてやらなきゃいけないな」

 

 「そうです。そのいきです!」

 

 「ハァ、何だか悩んでいた自分がバカらしく思えてきたぜ。ようやくスッキリした気分だ」

 

 「お役に立てましたか?」

 

 「ああ。おかげで助けられた」

 

 

 月島くんからの素直な感謝。

 あまり経験のないことに、頬を紅潮させ視線を逸らす。

 

 

 「それにしてもオマエも考えるようになったな。人の悩みに『〇〇だと思う』とか『〇〇のはず』だとか、曖昧な言葉を使っちゃいけねェ。余計不安を煽るだけだからな。ここは『〇〇だ』と道を示し、言い切るのが正しい。氷川のその言葉でオレは救われたんだ」

 

 「そんな、大袈裟です」

 

 「本当に向いてると思うぜ?教師にな」

 

 「そうでしょうか」

 

 「安心しろ。オレが保証する」

 

 「根拠が薄いですね」

 

 「そんなもの必要ねェ。何せオレは未来が見えるからな」

 

 「余計、心配になりました」

 

 「あぁ!?」

 

 

 やはり私たちはこんな間柄なのが似合っている。

 彼に恋心を抱いているのではないかと勘違いしていたこともあったけど、やはり違う。

 好きではなく、尊敬。

 

 私が彼に抱いていた気持ちはきっとこれなんだ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 下校を知らせるチャイムが鳴り、私たちは学校を出た。

 あれからしばらく話が続き気がつけば下校時間を迎えていたのだ。

 急いで鍵を職員室へ返却し、門が閉まるギリギリになってしまった。

 

 空は完全に日が暮れており、夏が完全に過ぎ去り秋も中頃まで迎えた今、夜は冷え込む。

 

 

 「それでは私はこれで」

 

 

 家が目の前にある月島くんにそう告げ、駅へ向かおうとするも彼は帰ろうとはしなかった。

 

 

 「もう少し話そうぜ。どうせ駅まで一人だろ?」

 

 「え、ええ」

 

 「話し相手になるついでにエスコートしてやるよ。相談に乗ってくれた礼だ」

 

 「では。お言葉に甘えて」

 

 

 やはり変なところで律儀だ。

 けれど、ありがたい。

 防犯グッズを携えているとはいえ、夜の街はまだ怖い印象がついている。

 また誰かに連れ去られでもすれば、もう二度と一人で夜に出歩くことができなくなると思うから。

 

 

 「ちゃんと受験勉強はしていますか?」

 

 「当たり前だ」

 

 「それにしてはちゃんと授業を訊いていないようですが?」

 

 「知ってたのか」

 

 「真面目に授業を受けるクラスメイトの中で一人机に突っ伏してたらわかります」

 

 「仕方ねぇだろ。話が長いだけでつまらねぇんだから」

 

 「内申点だってあるんです。先生方からの印象は大事ですよ?」

 

 「要領の悪い授業は受けるだけ無駄だ。必要なところをまとめれば点なんて簡単に取れる」

 

 「もしかして…………成績いいんですか?」

 

 「心外だな。オレをバカと思ってたのか?」

 

 「はい」

 

 「見境ねぇなこの野郎」

 

 「事実そうでしょう?あなたの成績は学園長から訊きました。お世辞にも良いものとは言えなかったはずです」

 

 「犯人は学園長(ハゲ)か………覚えてろ………」

 

 「もう一度問います。ちゃんと大学に進学できるんですか?」

 

 「心配するな。問題ない」

 

 

 彼の言葉が全く信用できず、疑惑の目で彼を見る。

 

 

 「…………んだよ。信じられねぇってか」

 

 「はい」

 

 「なら、オレの最近の成績は知ってるか?」

 

 「それは…………」

 

 

 そう呟くと彼は一つ一つ指を折りながら答える。

 

 

 「1学期中間総合12位。期末総合10位。2学期中間総合7位。わかったか?テメェの知ってることがいかに古いかを」

 

 「まさか、そんな…………!?」

 

 「驚いたか?」

 

 

 望むような反応を見れて満足したのか、白い歯を見せニッと笑った。

 

 

 「まさか、カンニングを…………」

 

 「そっちかよおいっ!?」

 

 「それとも答案を盗んで…………」

 

 「おーおー、今のはケンカの合図と受け取っていいんだな?」

 

 「…………ふふっ」

 

 

 くだらないけれど彼とのやりとりが面白おかしく感じ思わず笑ってしまう。

 

 

 「ごめんなさい。決して怒らせるつもりはなかったの」

 

 「嘘つけ!どう考えても今のはおちょくってたよなァ!?」

 

 「あなたの反応が面白くて、ついっ」

 

 

 未だ冷静を保てず、クスクスと笑い続ける。

 

 

 「こんなところまで成長しなくていいっつーの」

 

 「これも全てあなたのおかげです」

 

 「ケッ!もっと他のことで感謝してほしかったぜ………」

 

 

 もちろん、感謝していますとも。

 今の私があるのも彼のおかげ。

 忘れてなどいるはずがありません。

 

 

 「なあ。氷川」

 

 「なんですか?」

 

 「今でも教師になりたいと思うのか?」

 

 「何ですか、いきなり」

 

 「気になっただけだ。答えたくなければ無視していい」

 

 

 確かに私は過去に、教師になりたいと彼に宣言した。

 それは小さい時から抱いていた漠然とした夢であって今もそうなりたいかと言われれば少し考えてしまう。

 

 

 「今はまだ、わかりません」

 

 「なんだ。ガキの頃から『プリ〇〇アになりたい』とでも言ってオレを爆笑させてくれよ」

 

 「バカにしてるんですか!?」

 

 「仕返しだ。ククッ」

 

 

 真面目に考えて損した。

 頬を膨らませ、そっぽをむいていると前方で複数の男子生徒が二人の花咲川の女子生徒に絡んでいる様子が目に映った。

 それは明らかに女子生徒が嫌がってるように見える。

 他校の男子生徒が相手とはいえ、見過ごせない。

 

 

 「月島くん」

 

 「あいよっ」

 

 

 月島くんは服の袖を捲り、二人の男の首に腕を回し集団に割って入る。

 

 

 「よぉ。うちの生徒に何のようだ?」

 

 

 そう切り込む彼を男子生徒たちは嫌悪する。

 

 

 「お前が誰だよ」

 「関係ない奴が首突っ込むな」

 「どっか行けよ」

 

 「ハァ、酷いこと言う奴らだ。オレの格好がつかなくなるじゃねェか」

 

 「だからそう言って……………っ!!」

 

 

 月島くんの腕にグッと力が入り、男子生徒たちの首を締め付ける。

 それも笑顔でやるのだから側から見れば恐怖でしかない。

 

 パッと手を離すと、ゴホゴホと咳き込み地面に尻をつける男子生徒たちは月島くんを睨む。

 

 

 「テメェ!何すんだ!!」

 「他校の生徒が手ぇだしていいと思ってんのかよ!?」

 

 「好き勝手言うんじゃねェよ。元はテメェらがうちの生徒を怖がらせたことが始まりだろうがさっさと散れ脈なし共」

 

 「ぶっ、殺す!!」

 

 

 男子生徒の人が拳を月島くん目掛けて振り切るが、掌で受け止め襟を掴み足をかけ男を宙に浮かせると、背負い投げで地面に叩きつけた。

 試合なら余裕で一本。

 ドゴっと言う鈍い音が静かな夜の街に響き、投げられた生徒は完全に気を失った。

 

 

 「し、死んだ!?」

 

 「バーカ。こんなカス、殺す価値もねェよ。ほらっ、とっとと逃げねェとコイツの二の舞になるぜ?」

 

 

 片手をポケットに入れ威圧する月島くん。

 これ以上放置することはできないけれど、私が出る必要のないことは男子生徒たちの反応を見て理解した。

 

 

 「こ、コイツあれだ!"不死身の暴君(アンデッド)" だっ!!関西では "逆鱗" って呼ばれてるやばい不良じゃんかよ!!」

 

 「嘘だろ!?本当に実在するのか!?」

 

 

 男子生徒たちは顔を見合わせて月島くんを見ると、彼は笑顔を浮かべ拳を握ると近くの壁を勢いよく殴りつけ、粉々に砕いた。

 …………どうやら彼は生まれる世界線を間違えたようね。

 見慣れた光景と思っていたけれど、いつ見ても引いてしまう。

 

 

 「に、逃げるぞ!!」

 

 

 地面で横たわる男子生徒を抱え、集団は走り去っていった。

 月島くんは頭を下げる女子生徒を通り過ぎ、私の元へ歩み寄った。

 

 

 「ハア〜!スッキリした♪」

 

 

 やりきった、と言わんばかりに満面の笑みを浮かべる月島くん。

 

 

 「もうすっかり悪者扱いですね」

 

 「構わねェよ。わかる奴に理解してくれればな」

 

 

 その言葉通り、女子生徒たちは月島くんの元へ駆け寄り感謝の言葉を述べ頭を下げた。

 良いことをすれば必ず報われる。

 度がすぎるのが悪いところだけど、被害にあった人の思いも込めて二度とそんなことに巻き込まないように力を込める。

 

 まさに、ダークヒーロー。

 そのような役柄がよく似合う。

 

 

 「そういえば、将来の話をしてたんだったか」

 

 「そうでしたね。ちなみに、月島くんは何になりたいんですか?」

 

 

 私がそう問いかけると彼は即答するようにこう答えた。

 

 

 「オレは大学を出たら刑事になる。街に蔓延る悪人どもを全員とっ捕まえて、ここを全良の街に変えてやるのが夢だ」

 

 

 実に壮大。そして清々しい夢だ。

 彼なら必ず成し遂げられるだろう。

 

 私はそう確信している。

 願わくば、私も相棒として付き添っていけたら─────

 

 

 「……………なんて」

 

 

 こんな日常が永遠に続くと考えたら、心身ともに持たないに決まってる。

 彼の手綱は他の人に握ってもらうことにしよう。

 

 

 「何言ってんだ?」

 

 「別に」

 

 

 今はただ、今しか味わうことのできない毎日を楽しみたい。




いかがだったでしょうか?

奏との出会いで人生を大きく狂わされた紗夜さん。
いい意味で、これからも相棒として付き添ってほしいですね。


最後になりますが、高評価、感想お待ちしてます。
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