高嶺の華と路傍の花   作:山本イツキ

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私ごとになりますが、誕生日を迎えました。
こうして元気に執筆できているのもこの作品を読んでいただいてる皆様のおかげです。
ご愛読本当にありがとうございます!


誕生日プレゼント、とは言いませんが、高評価、感想をしていただけると最高です。喜び舞い上がって、モチベが上がりまくるので!
何卒、よろしくお願いします!!


第48輪 立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花

 私を物語の登場人物で例えるなら、決して物語の根幹に関わることのない脇役だ。

 村人A、手下B。色んな役のあるうちの一つにすぎない。

 脇役は脇役らしく目立たないようごく普通の学園生活を送っていればそれでいいと思っていた。

 

 そんな私だけど、生まれて初めて恋をした。

 

 誰よりも強くて、優しくて、勇敢な男の子。

 キラキラと太陽のように光輝く圧倒的な存在感を放つ彼、月島 奏くんに。

 そんな彼は脇役である私と親しくしてくれた。

 これ以上ない喜びを噛み締め、私はあくまで一人の友達として彼と接するように尽くしてきた。

 だけどもう、それはおしまい。

 脇役を卒業する時が訪れたのだ。

 

 

 だけど、長年染みついたネガティブな考えは拭うことができない。

 彼のことは心の底から好きだ。とても好きだ。大好きだ。

 千聖ちゃんにだって負けたくない!

 月島くんとお付き合いをしたい!!

 

 

 だが、その心の中の願望は所詮ただの望み。

 どのように行動すべきか、どうやって月島くんを振り向かせるのか。

 所詮脇役の私では到底思いつくことはできない難題だった。

 

 

 「はぁ………どうしよう…………」

 

 

 誰もいない屋上で独り、小さくまとまるように座る。

 こんな時はいつも千聖ちゃんに頼っていたけど今はとてもそんなマネはできない。

 好敵手とまで言われたからにはフェアでありたいし、自分独りの力でどうにかしなくちゃいけないのはわかっているけど…………私じゃどうしようも─────

 

 

 「先客か?」

 

 「ひゃっ!」

 

 

 ひょいっと梯子を飛び上がり、綺麗に着地する奏くん。

 手にはパンの入ったビニール袋をぶら下げている。

 

 

 「なんだ、松原か」

 

 「ここ、奏くんの場所なのに、ごめんね…………」

 

 「気にするな。横いいか?」

 

 「うん。どうぞ」

 

 

 奏くんは私の横に腰を下ろしビニール袋からパンを一つ取り出し頬張る。

 

 

 「食わねェの?」

 

 「え?……………あっ」

 

 

 時計を見れば針は12時を差している。

 そう、今はお昼休みだ。

 授業中から今ずっと考え事をしていたから、お昼ご飯を食べることが頭から抜け落ちてしまっていた。

 我ながら、バカだなぁと呆れてしまう。

 

 

 「食欲ねぇのか?」

 

 「そんなことないよ!い、いただきます!」

 

 

 両手を合わせお弁当箱を開き、甘めの卵焼きを端で割り口に運ぶ。

 

 

 「朝からずーっと気になってたんだけどよ」

 

 

 月島くんは人差し指を伸ばし、私の眉間に当てがう。

 

 

 「な、なに!?」

 

 「ずーっと眉間に皺がよってるぜ?」

 

 「ええっ?そうかな?」

 

 「なんか悩んでるのか」

 

 「………………」

 

 「まあ、話したくないなら別にいいけど」

 

 

 奏くんは指を離し、パンを齧る。

 唐突な彼の行動に顔が熱くなり頬を両掌で覆う。

 正直、今の顔を彼に見られたくないな。

 

 

 「私は、脇役なの…………」

 

 「どうした、突然」

 

 「主役たちを輝かせるいわば裏方。そんな私が、恋愛をする資格なんてない…………」

 

 

 今日は一段と思考がネガティブだ。

 顔を下げご飯を食べる手を止めると、奏くんは私の目の前にしゃがみ、額を指で弾いた。

 

 

 「いたっ………!」

 

 

 パチン、と綺麗な音をたて額はジンジンと痛む。

 

 

 「バカ野郎。なに弱気になってんだ」

 

 「ば、バカは奏くんだよ!いきなり暴力を振るうなんてひどいっ!」

 

 「勝手にブツブツと自分を蔑む松原を見てられなかったんだよ」

 

 「えっ?」

 

 「一人で抱え込むな。『話したくないなら』なんてもう言わねェ。命令だ、話せ」

 

 

 真剣な眼差しを向ける奏くん。

 言葉にも一切裏がなく真っ直ぐだ。

 手をあげたのだってきっと私のためだったんだろう。

 

 

 「実は…………」

 

 

 私は内側に秘めていた想いを吐露する。

 自分の好きな人に好きな人の話をするのはなんだか不思議な気持ちだったけど、心スッと軽くなるような感じがした。

 予例のチャイムが鳴るまで話し、いつもは饒舌な奏くんも口を閉ざし真剣に聞いてくれた。

 お昼ご飯を食べる手も止め私が全てを話し終えた後、しばし考え答えを返す。

 

 

 「思春期ならではの悩みだな」

 

 「うん…………」

 

 

 つい恥ずかしくて頬をあかく染める。

 

 

 「なに照れんだよ」

 

 「だ、だって〜!」

 

 

 奏くんはまるで気づいていないようだけど、全て彼に対しての私の想いだ。

 恥ずかしくないわけがない。

 

 

 「それにしてもアレだな。オレのことをそこまで好きできてくれるのは、嬉しいものだな」

 

 

 ────どうやら彼は全て知っていたようだ。

 奏くんは後頭部をかき照れるように笑う。

 私はここから逃げ出したくなるような、そんな衝動に駆られるもジッと堪える。

 どこで聞いたの?

 それとも、私の反応で気づいたの?

 頭の中はパニックだ。

 

 

 「知ってたの………?」

 

 「まあな」

  

 「いつ………?」

 

 「修学旅行で泊まった宿の風呂場で鉢合わせた時だ」

 

 「あの、時…………」

 

 

 私は恥ずかしさのあまり顔を手で覆った。

 あの日の記憶が蘇る。

 あそこで告白したこともそうだけど、私は奏くんに裸を見られていた。

 もちろん故意ではなかったのは知っているけど、すぐに立ち去ればいいものを背中を流すという常軌を逸脱することまでしてしまっている。

 今からすれば、なぜ私はあんなことをしてしまったのかわからない。

 その時から好きだったとはいえ、助けてくれたお礼をあんな形で返すなんて我ながらどうかしてる。

 

 

 「奏くん、その…………私の裸、どうでした、か…………?」

 

 「……………何言ってんだ?」

 

 「え、ええっと…………」

 

 「ーーークッ、ハハハハッ!やっぱ今日のお前、なんか変!」

 

 「ふえぇ………」

 

 

 彼の言う通り今日は情緒が不安定だ。

 いつも以上にネガティブだし、口から出る言葉とフル稼働する思考が全く噛み合わない。

 ここで授業の始まりを告げる本鈴のチャイムが鳴り響くが、屋上で未だお昼ご飯を食べきっていない私たちは確実に間に合わない。

 そのことに気がつき呆然とすると、彼は残りのパンを飲み込み床に背を預けそっと目を閉じた。

 

 

 「このままサボろうぜ。昼からの授業は全部つまらねェ教師の担当だからよ」

 

 「……………いいよ」

 

 

 これも普段私が言わないこと。

 学校の授業は大切だけど、朝からこれまでの授業内容なんて全く頭に入ってない。

 今、教室に戻ったところで遅刻なのは間違いないし、どうせまた上の空になるだけだ。

 そんなことなら奏くんとこれからの話をする方がずっといい。

 

 私は生まれて初めてサボることを決めた。

 

 

 「奏くんは、恋、したことありますか」

 

 「あぁ。中学のクラスメイトにな」

 

 「どんな、気持ちだったの?」

 

 「そりゃあもうそいつのことで頭がいっぱいになったぜ。どんな些細なことでもその女と関わられることができたら気分が高揚したもんだ」

 

 「ふふ。奏くんらしいね」

 

 「単なる若気の至りだ。実はオレ、中学の前半は陰キャだったんだぜ?」

 

 「えっ!意外!」

 

 「オマエの言う、脇役中の脇役だ。クラスで目立たない方だったし、今みたいにガタイもできてなかった。人に嫌われるのを恐れていたのも合ったんだがな」

 

 

 次々と語られる想い人の過去。

 それは、まるで私のようで………。

 

 

 「告白は失敗したが後悔はしてない。今となってはな」

 

 「どうやって立ち直ったの?」

 

 「部屋で泣き続けた。枕がビッチャビチャになるまでな」

 

 「…………今でも、その人は好きなの?」

 

 「……………」

 

 

 その言葉に、スッと暗くなる表情を浮かべた奏くんだけど、すぐさま明るさを取り戻す。

 

 

 「ついこの間再開したんだがな、あの頃の面影もないぐらい変わり果ててたんだよ。今はもうなんとも思っちゃいねェ、クソビッチだ。あんな女に惚れた自分が恥ずかしくなったぜ」

 

 

 ケラケラと笑いとばす奏くん。

 やっぱり、奏くんは誰よりも強いな。

 まさに鉄壁。鋼の心身だ。

 

 

 「オマエ、さっき言ったよな?『私に恋愛をする資格はない』って。そんなもん、あるわけねぇだろ」

 

 「わかってる。わかってるけど………やっぱり私には無理なの…………」

 

 「ったく、オマエってやつは〜!」

 

 

 奏くんは大きな手で私の頭を掴み、わしゃわしゃと髪をかき乱す。

 

 

 「妙なところで肝が座ってるくせに、簡単に怖気付く。松原は誰よりもいい女だぜ?オレが言うんだ、間違いねェ」

 

 「……………」

 

 

 まるで私を励ますような言葉。

 嬉しい。嬉しいのは確かなんだけど、その言葉だけはどうしても受け入れられない。

 

 

 「まずオマエは誰よりも人当たりがいい。相手が不良だろうが、人気アイドルだろうが、顔色ひとつ変えず対等に接することができる。とてもじゃないがオレにはできねェ」

 

 「そんなの、普通だよ」

 

 「あとは、人の悪口を言わないことだな。誰しも他人に対して不満を口にするが、松原にはそれがない。尊敬に値するほどだ」

 

 「…………………」

 

 「あとは、細かい礼儀ができてるとこだ。『おはよう』『ありがとう』なんて日常にありふれた言葉でも松原はそれを欠かすことはない。さっきだって急いでるくせしてちゃんと手を合わせて『いただきます』って言っただろ?スゲェと思ったよ」

 

 「…………いっぱい、褒めてくれるね」

 

 「当たり前だろ。それだけオマエがオレにとって魅力的に映ってるってことだよ」

 

 

 それは、私もだよ。

 あなたからはいつもたくさんの勇気や希望、笑顔をくれた。

 恩返しするには余りある日常、そして経験を。

 

 

 「嬉しい」

 

 

 私は私にできる最高の笑顔で答えた。

 奏くんも嬉しそうに笑って返してくれた。

 

 

 「でもねっ奏くん。私って、先に告白した親友の好きな人に告白するような、悪い子なんだよ?」

 

 「告白に早いも遅いもねェよ。オレが欲しけりゃ惚れさせてみろ、なんてな」

 

 「うん。頑張る!」

 

 

 ごめんね。千聖ちゃん。

 やっぱり─────奏くんは譲れないや。

 相手が親友だとしても、負けたくない。

 彼に、誰よりも大切な人として扱ってほしい。

 

 こんな我儘な私を、どうか許して。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 私の人生は、彼との出会いによって大きく変えられた。

 子役の時からテレビで活躍し続け、将来はアカデミー賞を受賞するような女優になる。

 "なりたい" ではなく "なる" 。()()ではなく、()()だ。

 子供ながら抱いていた夢だけれど、今はもうそれが不可能な立ち位置にいる。

 

 思えば高校生になってからの3年間は辛いことが多かったように思う。

 

 学校では先生に嫉妬され、クラスメイトからいじめを受け、私に逆恨みする転校生がやってきたりもした。

 仕事においては、SNSでの誹謗中傷に耐え、迷惑客に頭を悩まし、最近では不本意ながら闇の力をも借りて芸能界に居続けようともした。

 

 思い描いていた私の人生設計とは大きく異なることばかり。

 それも全て、月島奏くんと出会ってしまったことから始まったのだ。

 

 

 はじめは心の底から嫌いだった。

 先のことなんてまるで考えず、人当たりも最悪で、現在「いま」をギリギリといった様子でヘラヘラと過ごす彼のことが、理解できなかったのだ。

 彼を揶揄いバカにし続けたのは、私にこんな人間になってはいけないという教訓に近い。

 私は芸能人。こんな底辺な人物と同じになってはダメ。

 そう、信じてやまなかった。

 

 

 転機が訪れたのはあまりに突然の出来事だった。

 昨年の夏でのコラボカフェのことだ。

 私の親友、花音が迷惑客に絡まれていたところを彼は私の気持ちを代弁するかのように男に制裁を加えてくれた。

 そこからは実に早かった。

 乱雑で、爽快で、スリリングな日常は私に今まで感じさせることのなかった経験を与えてくれ、自ずと月島奏という男の子に惹かれることになる。

 

 彼が私の専属マネージャーになった時はとても胸が躍り、興奮する気持ちを抑えるので精一杯だったことをよく覚えている。

 海辺で告白したことだって後悔はない。

 彼に対する想いは誰にも負けない。

 月島くんの彼女になるのは、この私よ。

 

 

 

 キーン、コーン、カーン、コーン。

 

 

 授業の終わり、もとい全ての授業の終わりを告げる鐘の音が鳴る。

 お昼休み以降、花音と月島くんは帰ってくることはなかった。

 花音はともかく、彼は確実にサボリだろう。

 紗夜ちゃんもカンカンと言った様子だった。

 

 終礼を終えどこかしらでサボる彼に電話をかける。

 

 

 『……………あいあい』

 

 

 いつものふざけた口調で電話を出る。

 

 

 「今どこにいるの?」

 

 『屋上。松原と話してた』

 

 「花音と?それって…………」

 

 

 私はそこで口を閉ざす。

 相談内容はきっとあのことだ、と察したからだ。

 コホンっ、咳払いをして話を変える。

 

 

 「今日このあとは空いてるのかしら?」

 

 『ああ。暇だ』

 

 「今度開かれるライブに向けてベースの練習をしたいの。よかったら、スタジオまで送ってもらってもいいかしら?」

 

 『いいぜ。アパート前で待ってな。ついでにオレのカバンも持ってきてくれ』

 

 「わかったわ。紗夜ちゃんには内緒にしておいてあげる」

 

 『察しが良くて助かるぜ』

 

 

 小さく笑って返し電話を切る。

 そこまで紗夜ちゃんを恐れているのなら、真面目に授業を受ければいいのに。

 やはり、今でも彼の考えは読み取ることができない。

 

 月島くんの家の駐車場で待っていると、聞き慣れたバイクの排気音が聞こえこちらに向かいながら腕にかけていたヘルメットを投げて渡してきた。

 

 

 「ちょっと、危ないじゃない」

 

 「悪い悪い。カバン、サンキューな」

 

 

 悪びれもなくそう口にする月島くん。

 不本意に頬を膨らませ彼の肩を借り、バイクにまたがると勢いよく発進する。

 スタジオへはあっという間に到着し、バイクを停め受付を済ませる。

 

 

 「んじゃ、オレはこれで」

 

 

 手を軽くあげ帰ろうとする月島くんの手をぎゅっと掴んだ。

 

 

 「もう少し付き合ってちょうだい」

 

 「このあと見たい番組が…………」

 

 「今日は暇なのよね?もう少しだけでいいからここにいて。ねっ?」

 

 「ちっ、わーったよ」

 

 

 彼は早々に折れ、強引に引き止めることに成功した。

 スタッフさんに二人入ることを伝えスタジオへと足を踏み入れる。

 防音完備で、扉の鍵を閉めて仕舞えば邪魔が入ってくることはない。

 彼に気づかれぬよう鍵をして、密室に二人という空間を作り出す。

 

 

 「一つ、訊いていいかしら」

 

 「なんだ」

 

 「花音とは、どんなことを話したのか教えてちょうだい」

 

 「ただの世間話だっつーの」

 

 

 月島くんの視線が不用意に泳ぐ。

 

 

 「花音のため、と言うなら深掘りしないわ。それがあなた個人の意思ならこちらにも考えはある」

 

 「ハッ、物騒なこと言いやがって!どうせこの閉じ込められた部屋の中で体を触られたとかでスタッフに泣きつく気だったろ?」

 

 「よくわかったわね♪」

 

 「恐ろしい女……………」

 

 「教えてくれるわよね?」

 

 「いいだろう。だが、あまり口外するなよ」

 

 

 そんなこと話す友達は花音ぐらいしかいない、と言う自虐はさておき月島くんの言葉をチューニングを合わせながら耳にする。

 実に優しいあの子らしい悩みだった。

 

 

 「オマエには松原に譲るとか、遠慮するといった感情はないのか?」

 

 「あるわけないわ」

 

 「言い切るのか」

 

 「それがなんであれ、欲しいものは必ずものにする。花音と約束したから、尚更………」

 

 「泥棒の台詞かよ」

 

 「間違っているかしら?」

 

 「いいや。オマエは正しい。その傲慢さこそが白鷺千聖だ」

 

 「うふふ。よかった♪」

 

 

 私は裏表のない笑みで返し、ベースを爪弾く。

 彼はパイプ椅子に座り、ベースを弾く私の姿をただ見ていた。

 

 

 「月島くん」

 

 「今度はなんだ」

 

 「どうしたらあなたの彼女になれるか、教えて」

 

 「ストレートだな、おいっ」

 

 「私はあなたの理想の彼女に必ずなれるわ。どんな性格だって、どんな人柄だって演じれる。花音に勝っているところがあれば、それしか思いつかないの」

 

 

 長年積み重ねてきた演技力。それが私の武器。

 家事は一通りこなせるし、スタイルにだって自信がある。

 残るはもう、月島くんの理想とする女性像を体現するだけ。

 今の私にはそんな考えしか浮かんでいない。

 

 月島くんは椅子から立ち上がり眼前まで距離を詰めてきた。

 目をそっと閉じると彼は腕をあげ、私の頭を軽く叩いた。

 

 

 「なにっ!?」

 

 

 突然の出来事に困惑するし、叩かれた頭上を抑える。

 

 

 「バカか。()()()()()()()()だろが」

 

 「えっ…………?」

 

 「オマエは一体誰だ?ドラマに出てくる面倒見の良い幼馴染Aか?それとも男に素直に慣れない恥ずかしがり屋な少女Bか?」

 

 「どれも、違う」

 

 「そう。オマエは白鷺千聖だ。他の誰でもない、白鷺千聖本人だ」

 

 「………正直、今の私では花音に見劣りしてしまう。だってあの子は、とっても優しい子だもの…………」

 

 

 ベースを弾く手を止め、ポロポロと涙をこぼす。

 認めたくなかった。けど、認めざるを得なかった。

 今の私は月島くんにあまりに不釣り合いだ。

 関係が改善されたとはいえ、啀み合うことも多いし未だ理解できないことだってたくさんある。

 けれど花音は、たとえ自分が不幸になろうともどんなことでも受け入れてしまうほどの器を持っている。

 

 傲慢で、自意識の高い私にはない才能。

 月島奏という、ヤンチャで負けず嫌いな男の子にはああいう子がお似合いだ。

 

 

 「はぁ…………ったく、ホントオマエらは!!」

 

 

 また叩かれると身構えるけど、今度は私の頭にそっと手を置き撫でるように手を動かす。

 

 

 「オマエが好きな男は誰だ?」

 

 「月島くんよ」

 

 「松原の好きな男は?」

 

 「月島くん」

 

 「オレはどっちに惹かれてると思う?」

 

 「…………花音」

 

 

 彼は鼻で笑い、手を休めることなく撫でる。

 

 

 「アイツも確かにいい女だ。これからどんな嫌がらせや酷いことを言われようとも、嫌いになることなんてあり得ないな。

 

 「私はどうなのよ…………」

 

 「少なくとも、素顔を隠してばかりだとなんの魅力も感じない。オレは完全にプライベートの、演技もクソもないありのままの女に惚れるんだぜ?

 

 「もう、バカっ…………」

 

 

 私は彼の胸に顔を預ける。

 グッと服を握る手に力が入り、涙を彼の服で拭う。

 

 

 「オレが欲しけりゃ惚れさせてみろよ。大女優様」

 

 

  挑戦とも言えるその言葉。

 それを聞き体から顔を離した。

 

 

 「………ええ。絶対、振り向かせてみせるわ」

 

 

 ごめんなさい、花音。

 私はやっぱり彼が愛おしくてたまらない。

 いくらあなたといえど、譲りたくないの。

 

 蹴落としてでもなんて酷いことは言わない。

 正々堂々、彼の心を掴んで見せる。

 負けても恨みっこなし。

 

 

 月島くんの彼女になるのは、白鷺千聖。

 この私よ。




この物語が始まって約3年。

その物語もいよいよ終わりを迎えます。
千聖さんか、花音さんか。

二人の恋路の行方は………?

残り2話。
どうぞ最後までお楽しみください。
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