花音とのハッピーエンドを迎えた奏くんのアフターストーリーとなります。
どうぞ最後までご覧ください。
思えばあっという間だった3年間の高校生活。それは苦難の日々だった。
最悪の一年生。クラスメイトたちと馴染むことはなく学校外の不良たちとケンカする毎日で、だった十数年の人生において最も無駄な時間を過ごした歳だった。
改善の二年生。白鷺や氷川、そして花音たちとの関わりを経て少しずつまともな学校生活を送るようになった歳。学校行事はもちろんのこと、プライベートでも奴らと接することでオレの心境に大きな変化が見られた。
最良の三年生。これまでの経験が実を結び、人付き合いや学校生活が一変した。後半は受験だなんだで面倒な日々が続いたがこれほど楽しいと感じた一年は他にない。信じられないことではあるが、彼女もできたわけだしな。
そして冬が過ぎ去り、暖かな春の日差しが眩しいこの日、オレは花咲川高校を卒業する。
式自体は大して特別なことはしていないがこの3年間を振り返るとやはり思うことがあり、しみじみとした気持ちになった。
卒業式が終わり校庭に出ると、卒業生たちがそれぞれの思い出を語り合い、写真を撮り、今日を目一杯楽しんでいる様子が見える。
「みなさん。お疲れ様でした」
せんせーたちへの挨拶が終わり、氷川がオレたちの輪に加わる。
「長かったなぁ。この3年間」
「あら、私はそうは思わなかったけれど?」
「テメェは登校した日が少なかったからだろがい」
「別に、好きで欠席してたわけじゃないわ」
白鷺は大学受験に向けて芸能活動を休止していたが、高校を卒業した今日、再び再会となる。
額に受けた傷は未だ痛々しく残ってはいるが、仕事に支障はないとのこと。メイクや前髪やらで隠せると判断したんだろうな。
新しい事務所に所属し、順風満帆な芸能生活&大学生活が送れそうだ。
「月島くんも、大学でサボってばかりではいけませんよ?」
「じゃあ毎朝オレを起こしに………いや、やめておこう。テメェならやりかねん」
「やりましょうか?」
「結構デス!!」
氷川はオレと同じ大学の法学部へ。
出会った頃は教師になるとか言っていたやつが、今の夢は警察官。高校での日常がやつを変えたらしい。
オレもそうなるのが目標だから、これからも奴の
「奏くんなら大丈夫だよ。ねっ?」
「一人で起きられるかが心配だ。実家を出るわけだからな」
「ふふっ。楽しみだね♪」
「どちらかと言うと不安が勝つぞ」
「それも醍醐味だよ」
オレの彼女、花音は白鷺と同じ大学に合格しこの春からルームシェアを始めるそうだ。
仲のいい二人だから決して心配はしてないんだが………新しい家の場所がわからなくなって迷子になることが容易に想像できる。
花音には誰かと一緒にいさせないと心配でたまらん。
「なら、私があなたの家の隣に引っ越しましょうか?それとも、松原さんたちと同様に私が住みつきましょうか?」
「やめろその言い方!幽霊かテメェは!!」
「タンスを漁ってきたら引っ叩きますからね」
「するか!!!」
実現することのない妄想に強烈なツッコミを入れる。
こんな几帳面な幽霊が住み着いてきたらたまったもんじゃない。
毎日規則正しい生活を送らされるし、部屋を片付けろだのと言われるだろうし、何よりオレのプライバシーが無くなる。
氷川にはオレの家の住所は絶対教えん。絶対だ。
しばらく四人で話していると、下級生の男子生徒たちがぞろぞろと群がってきた。
「総長!!3年間のお勤め、お疲れ様でした!!」
『したぁ!!』
「あぁ?」
総勢50名の野郎どもが一斉に頭を下げる。
舎弟になりてぇ、タイマンを張りてぇ、オレを超えてェって連中が後をたたず大勢のバカがこの学園に入学した。もちろん全員を完膚なきまでに叩きのめしたのだが、結果全員がオレの下につくことになって暴走族『逆鱗』を結成することになった。
もちろんウチは、犯罪行為に一切手を染めないクリーンな集団。警察が手を焼く輩を殲滅し町の治安維持に貢献している………といえば聞こえはいいが、おれはあくまでコイツらに名前を貸してるだけ。決して懇意にしているわけじゃない。
「うっせぇなぁ。とっとと散れ、クズ共」
『えぇっ!?』
他人行儀で野郎共を一蹴するが、奴らは驚愕の表情を浮かべ叫ぶ。
「それはないですよ!!」
「総長が受験勉強に励んでる間、俺たち頑張ってたのに!!」
「制服の第一ボタンの一つくらいくれたっていいじゃないですか!!」
よってたかってやかましい。
全員骨折させたろか。
「文句があるならかかってこいよ。テメェら如き、15秒ありゃ十分だが?」
ゴキゴキと手を鳴らし威嚇すると、野郎どもは顔が真っ青になり道を開ける。
本気で喧嘩する気はなかったが、奴らは察したらしい。いい判断だ。
無闇矢鱈に特攻しても無駄。勇敢と無謀はイコールじゃない。
「………まあ、なんだ」
大群を横切り立ち止まると、振り返ることなく言葉を投げかける。
「花咲川は任せたぞ」
「…………う、うっす!!」
未だ潰えることのない悪の芽。全てを取り除くことはできないがこれだけの人数が目を光らせていれば大丈夫だ。
見た目は野蛮だが、そこらの不良とは違うことをオレは知っている。
受験勉強に励んでいる間、この学校で騒ぎが起きなかったのは単に奴らのおかげなんだろう。
スタスタと校門へ向かい歩いていると、後ろから花音がひょこっと顔を覗かせる。
「すごく慕われてるね」
「オレにそんな威厳はねェよ」
「奏くんを尊敬してることに変わりはないよ」
「慣れねぇなぁ………」
「照れてる?」
「照れてねェ!」
「ふふふっ♪」
悪戯に笑う花音。それはどこか白鷺にも似た揶揄い方だ。長く付き合っているからかクセが移っちまったんだな、きっと。
「………おやっ」
道中、保護者たちと談笑していた学園長と目があった。ちょうど話し終えたばかりらしく、保護者たちに礼をしてからオレの元へ歩み寄る。
「月島くん。卒業おめでとう」
「ああ。おかげさまでな」
オレは白い歯を見せ返事を返す。
こうして進級、卒業できたのも単にこのジジイの影響が大きい。風紀委員なんて面倒な仕事を押し付けてきたことに当初は怒りもあったが、今となってはいい思い出。
在学させてなんの得もねェこの超問題児の不良を退学させずに、学校に居続けさせてくれたのは素直に感謝している。
「2年間の風紀委員の任、ご苦労だったね」
「大変だったんだぜ?マジで」
「はははっ。だが、君の働きのおかげですっかり問題事が起きなくなった。感謝しているよ」
「よせよ。そういうの、慣れてねェんだ」
「照れてるのかい?」
「もういいわ!そのノリ!!」
「全く、騒々しいですよ?」
オレと学園長の間に氷川が割って入る。
「改めまして学園長先生。3年間、お世話になりました」
「こちらこそ。キミにはとても助けられたね」
「当然のことをしただけです」
「大学は月島くんと同じなんだってね。二人の活躍が見れないのはすごく残念に思うよ」
「ケッ!こんな堅苦しい奴、高校だけで十分だっての」
「私こそ、あなたのような粗暴な人は大学までだと考えてるので」
互いに睨み合い険悪な空気になる。
犬と猿、水と油など仲の悪い意味を表す言葉は多数存在するが、心の底から憎んでいるわけではない。
これは一種の友情表現。
仲良しこよしよりもこっちの方がオレたちに合っている。
二人で言い争いをしているその時だった。
「どけどけどけェェ!!」
族車に跨り、ド派手に校内へ侵入してきた十数人の男たちが生徒たちを押し除け道を塞ぐ。
先頭に立つ男がバイクから降り、オレの眼前までゆっくりと近づく。
「お前が月島奏だな?」
「そーだけど。アンタは」
似合もしない金髪リーゼントを突き出し威嚇する男。
オレよりタッパがあるから見下ろされてる形になるが、決して圧は感じず平然と返す。
「俺は
その名前を聞き逆鱗のメンバーたちがざわつく。
「怒狗露って、荒川の………」
「ああ。俺たちの3個上。超有名の暴走族」
「確か、女子供関係なくフルボッコにするって有名だよな」
「そんなヤバい人がなんでここに……」
「決まってるだろ!総長をノシにきたんだろ」
「大丈夫かよっ、おい………」
奴らの会話を聞く限り、相当ヤベェ連中なのは間違いなさそうだ。完全な悪人面のこの男がオレに何の用があってきたのか。
目を見ただけでわかる。
「勧誘しにきたんだろ。オレを」
「その通り」
やはりオレの勘が当たった。
「俺とお前が組んだら東京一の暴走族になるのは間違いない。どうだ?荒川を仕切るこの俺と─────」
「クタバレ」
「はぁ………?」
オレはとーんと跳び、上から見下ろす無礼なこの男の頭を踵落としすると、ゴッと鈍い音を立てながら顎を地面に強打し気絶する。
「
気を失っている男の顔面を踏みつけそう吐き捨てる。
「人を傷つけるだけの暴走族なんてオレがいくらでも潰してやる。さて………」
キッと残りの男たちを睨みつけると、男たちは奇声を発しながら校舎を後にし逃げ去った。
「あーー…………」
冷静になった頭で今のこの状況を整理する。
卒業式後に喧嘩。
他校の生徒への暴力。
余裕で大学進学取り消しモンだな、コレは。
「月島くん」
学園長がゆっくりと歩み寄る。
言い訳をするつもりはねェ。ここはきちんと頭を………。
「大学でも、精進しなさい」
「…………はっ?」
思いもしなかった学園長の言葉にポカンと口を開く。
「怒らねぇの?」
「彼も他所ではおいたをしてきたんだろう?当然の報いだと私は思ってる」
「アンタ、変わってるな」
「はははっ。じゃなかったら高校の学園長なんて務まらないさ」
豪快に笑い飛ばす学園長に呆れて苦笑いする。周りを反応を見ると、まるでいつものことか、と言わんばかりに既に卒業生たちが会話を再開していた。
学園長はオレの肩に手を置き話を続ける。
「その力は、誰かを守るために使いなさい。キミならそれができるはずだ。"弱きを助け強きをくじく"、これからのキミの活躍を大いに期待しているよ」
………おいおい、なんだよ。
なんで、こんな老耄の言葉が、こんなに心にくるんだ。
誰に言われるまでもなく、生まれて初めて、自ら頭を下げる。
「…………お世話に、なりました………」
父親が長きに渡りいなかったオレにとってこの人は第二の父。おふくろも世話になった恩人だ。
だからこそ、伝えなければならないと思った。
これまでの感謝と、謝罪を込めて。
「ほらっ、彼女たちが待っているよ。早く言ってあげなさい」
笑顔でポンポンと肩を叩く学園長に再度頭を下げ、校門で待つ花音たちの元へ駆け寄る。
「全く、あなたはいつまでたっても変わりませんね」
「まあ、それが月島くんだものね♪」
「あんまり無茶しちゃダメだからね?」
「………すまんとは思ってる」
三者三様の言葉に言葉を返しつつ、オレは振り返り学園長に最後の言葉を告げる。
「またな、
ニコリと笑う学園長は軽く手を振り見送る。
波瀾万丈だったこの3年間。全く、いい日々を過ごした。
名残惜しい気持ちもあるが、まだまだオレの学生生活は長い。大学、そして社会人になってもこんな楽しい毎日を過ごすことができたら本当に幸せだろう。
暴れん坊だったオレを、どうしようもないクズだったオレを、ここまで育ててくれたことを感謝するぜ。花咲川高校。
数年後、立派な大人になって恩返しに来てやるよ。あばよっ!!
◆◆◆
「はぁ、つっかれたぁ………」
ベッドに背を預け、大の字になる。
さっきまで行われていた謝恩会にも出て、みんなの前で話までさせられて疲労感に襲われた。
まあ、楽しかったのは事実だからオレとしては満足しているんだが。
少し冷えた体を温めようと毛布に包まろうとしたその時、着信音が鳴り響く。
「あいあーい」
『あっ、もしもし?奏くん?』
電話の声の主は花音だった。
「どうした?」
『今、奏くんのお家の近くにいるんだけど、よかったら話せない?』
「ああ。なんなら、家来るか?」
『いいの?』
「おふくろも仕事で帰ってこねぇし、寒いだろ?」
春を迎えたと言っても、まだまだ冬を越したばかり。気温は一桁になることがザラだ。
こんな寒空の下、落ち着いて話すことなんてできないだろう。
『それじゃあ、お邪魔しようかな』
「着いたらチャイム鳴らしてくれ」
『うん!わかった!』
元気にそう返し、電話を切る。
しばらくベッドで横になってると花音は言葉通りチャイムを鳴らし、家へと上がる。
お邪魔します、と礼儀正しく挨拶し居間へ案内し椅子に腰掛ける。
「コーヒーでいいか?」
「うん。ありがとう♪」
そう言うだろうと思って予めお湯を沸かして正解だった。
棚からインスタントのコーヒーを出し、カップの中でお湯と混ぜる。花音は甘いのが好きだから砂糖とミルクも入れ、手渡す。
「なんだ、家に帰ってなかったのか」
花音の服装を見ると、未だ制服のまま。
ジャージに着替えたオレとは違い謝恩会の後、そのままここへきたようだ。
「すぐにでも奏くんに会いたくて………」
「オレはどこにも逃げやしねぇよ」
「目を離すとすぐどこかにいっちゃうから心配」
「大学は真面目に勉学に励むつもりだ」
「えへへ。少し想像しづらいかも」
「言ったな。このっ」
冗談混じりに笑う花音の額を指で優しくつく。
騒がしかった先ほどの会とは違い、至って穏やかな空気だ。
「白鷺とはいつからシェアハウスに移るんだ?」
「来月の予定だよ。これからまたドラマの撮影とかで忙しくなるから、それが落ち着いてからかな」
「相変わらず多忙だな」
「もうマネージャーはやらないの?」
「ハッ!あんなクソ忙しい仕事、いくら金払いが良くてももうごめんだね」
「大変だったんだ………」
「大変なんてもんじゃねぇよ。マネージャーってよりボディガードに近かったし、送り迎えやスケジュール管理………あぁ、もう面倒ったらありゃしねェ」
決して表に立つことのない裏方の仕事。
その凄さたるや、オレなんかが語れるはずもない。
「花音はファストフードのバイトは続けるのか?」
「うん。お家賃もあるし、将来のために少しでも貯金しないとね♪」
「耳が痛い話だな………」
「奏くんはバイトするの?」
「当然。職種は決めてねェけど、肉体労働なりして稼ぐ予定だ」
「奏くんらしいね」
「脳筋とでも言いてぇのか?」
「勉強ばかりで運動不足になったらダメだよ?」
「両立は厳しそうだ」
まあオレの場合、勉強不足になるのがオチだと思うが………そこは青鬼さん「ひかわ」にでも頼んで試験対策するか。
「ふふっ、楽しみだね♪」
「ああ」
小さく笑みを浮かべながら少し冷めたコーヒーを口に含む。
見栄を張ってブラックにしてみたが、やはり苦い。まだまだオレの舌はお子様なようだ。
この味が美味いと感じるような大人に、いつかなるんだろうな………。
「………ねぇ。奏くん」
和やかな空気から一転、真剣な顔つきになる花音。
「何だ?」
「私たち………本当に恋人同士、だよね………?」
何を言うかと思いきや、訳のわからんことを告げる花音の頭を撫でながらこう答える。
「当たり前だろ」
「何だか、未だに実感が湧かなくて……」
「まあ、恋人らしいことは全然できてないからな」
自分で言うと何とも情けなく感じるが、受験があったから仕方ない。
突如、花音はスッと立ち上がりオレの元へ歩み寄る。
「立って。奏くん」
花音の言葉通り、その場に立ち上がるとオレの胸元に顔を埋め、ぎゅっと抱きしめてきた。
珍しく積極的な花音の行動に動揺する。
「なんだなんだ、どうした急に」
もちろん、拒絶なんてせず再度頭に手を添える。
「大好き………」
「ああ。オレもだ」
「私なんかが、奏くんに恋してもいいの、かな………?カッコよくて、頼り甲斐があって、優しくて、素敵で………そんな高嶺の華のような奏くんと私が、釣り合うのかな………?」
あの時の威勢の良さはどこへいったのやら。
告白から時間が経って再び弱気になったらしい。
オレは言葉ではなく態度で示すことを決め、頭から手を離し花音同様、背中に腕を回しギュッと抱きしめる。
「私 “なんか" じゃねぇよ。花音は花音だ。オレは花音だから惚れたんだ」
「奏くん………」
「言っても分からねェならこうしてやるよ。花音。目を閉じろ」
「えっ………うん………」
そっと瞳を閉じた花音。
オレの目的はただ一つ。無防備な唇を強引に奪う。
「…………っ!?」
唐突な行動に驚く花音。
思わず手を離すがオレは花音から離れることなく、数秒間。キスをし続けた。
何ともクサイ、ドラマでしかみたことのない行為だが、花音を分からせるには十分だった。
「これがオレの気持ちだ。言っておくが、花音が初めてだからな」
「うん………ありがとう…………!」
ようやく安心したのか、オレの胸元で涙をこぼす花音。全く、泣き虫にも程がある。
だが、面倒だなんて思わない。これも花音。彼女の個性だ。
これからはそんなネガティヴな気持ちにならないよう、好きと伝え続けていかなくてはいけないな。
最後になるが、聞いてくれ。
高山に咲く高嶺の花だろうと、道端に咲く路傍の花だろうと、その花の価値は等しく同じ。
咲けば花は美しく育つ。
その価値を見出せるかどつかは自分自身だと言うことを伝えたい。
この3年間楽しかったぜ。
最後まで読んでくれて、ありがとな。
いかがだったでしょうか?
私にとっては三作品目の結末となり、やはり物語が終わってしまうと悲しい気持ちに浸ってしまいますよね…………
投稿期間が空いたり、誤字があったりと非常に読みづらかったとは思いますが最後まで読んでいただき本当にありがとうございました!!
今回登場したキャラの大人になった後のストーリーも執筆中なので、今月には投稿したいと考えてます!
ではまたどこかで。