高嶺の華と路傍の花   作:山本イツキ

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昨日の完結から一夜、高校から卒業した数年後の物語です。

ボクの完全な妄想なので、楽しんでいただけたら幸いですね。


番外編
番外編 大人になった花たちは今………


 今日も賑やかな商店街。

 かつてはここで学校終わりにフラフラと寄り道することもあったこの場所で全国ニュースに取り上げられるほどの事件が起きた。

 それが『地蔵通り 通り魔殺傷事件』

 犯人は20代から30代ほどの痩せ型の人物だが、性別すら判明してない神出鬼没の殺人犯だ。

 オレの地元であるこの場所のパトロールも兼ねて事件の詳細を知るために住人に聞き込みを行っていた。

 

 

 「それで、どんな感じだった?」

 

 

 サングラス越しに視線を送る主婦にそう問いかけると、どうやら事件が起きた後のことを目撃してたらしく詳しく教えてくれた。

 

 

 「突然悲鳴声が聞こえてきて……そこへ近づくと、血まみれになって倒れる人が何人もいたんです……」

 

 

 主婦は事件の凄惨さが滲み出るように、震えながらそう話す。

 

 

 「犯人の顔は?」

 

 「見ていません。黒のフード姿でナイフを持っていたのは見えたんですが…………」

 

 「そうか。呼び止めて悪かったな」

 

 

 この周辺の監視カメラの映像も確認したが、犯人を特定するような証拠は一切上がっていない。

 こういった住民の記憶を手がかりにすることも多々あるのだが、犯人も相当慎重なんだろう。事件が起きてからおよそ1週間。全く進歩しやしねぇ。

 

 

 「あの………」

 

 

 立ち去ろうとするオレを主婦呼び止める。

 

 

 「こんなこと訊ねるのは失礼だと思うんですけど、あなた………誰なんですか?」

 

 

 オレは自らの格好を再確認する。

 タイ無しで黒シャツのボタンを開け、その上にストライプの黒スーツを羽織ったサングラスの男。まあ、疑問に思うのも無理ないか。

 

 

 「そういえば、まだ見せてなかったな」

 

 

 思い出すかよのようにそう呟き、胸ポケットに入れていた警察手帳をその主婦に開いて見せる。

 

 

 「警視庁刑事部捜査一課強行犯捜査三係、月島 奏だ。何かあったらこれからもよろしくな」

 

 

 そう、オレは大学を出て()()()()()()()

 それも準キャリア。それなりに頑張った結果だ。

 すでに現場で数年経験を積み今こうして事件に関する情報を集めて回っている。デスクワークなんかより現場(こっち)の方が向いてるからな。

 

 主婦にニカッと笑って別れを告げ、別の聞き込みを行っている相棒の元へ向かう。

 さほど離れたところにはいなかったようで、すぐさまその姿を視界に捉えた。

 

 

 「よお。進展してるか?」

 

 

 サラリーマンらしい男と話をしている背後から声をかける。

 

 

 「邪魔しないでください」

 

 「へいへい」

 

 

 邪険にされ、しばらく天を仰いでいると話し終えた相棒がシャッターに背を預けぼーっとしているオレの元に歩み寄る。

 

 

 「お待たせしました」

 

 「ったく、遅えっつの」

 

 「仕方ありません。昨日のことを事細かに思い出してくれていたのですから」

 

 

 透き通るような水色の髪を一つに束ねキッチリとスーツを着こなす女、氷川紗夜は手帳にびっしり記したメモをオレに見せつけた。

 

 

 「ほー、こりゃあスゲェ。犯人でもなければ分からんほどの情報量だ」

 

 「残念ですがこれまで調べた目撃証言と、先ほど聞き込みをしていた方とは外見が一致しません」

 

 「バーカ。見りゃわかるっつーの」

 

 

 氷川から情報提供者に視線を移すと、小太りで大柄な体型の男でどこか清潔さに欠けている。

 

 

 「………なるほど。やっぱ他と同じだな」

 

 「ええ、ほぼ100%一致してますね。しかし体は華奢でまるで女みたいだったらしいです」

 

 「女ねぇ………」

 

 

 刃物を振り回す危険な女はオレの中では一人しかいないが、あれ以降全く姿を見せるどころか名前すら聞かなくなった。

 別の街に身を隠したか、あるいは死んだか。

 後者の方が有難くはあるが今のオレには関係のないことだな。

 

 

 「そんなことより、サングラス(それ)、取ったらどうですか?」

 

 「なぜだ」

 

 「警察官に相応しくないからです。分からないのですか?」

 

 

 氷川の言葉に従いサングラスを外すと、かつて切り刻まれた左目付近に刻まれた縦の刀傷が顕になる。

 

 

 「これを見ても尚、そう言えるか?」

 

 「………せめて、警察署内では外してくださいね」

 

 「あいよっ」

 

 

 再びサングラスをかけ辺りを見渡す。

 昼下がりの繁華街に平然と群がる人間たち。ニュースになったとはいえ、犯罪者が潜んでいるかもしれないこの場所を何食わぬ顔で歩いているのは、オレからしたら異常な光景だ。

 

 自分は関係ない。

 事件に巻き込まれるわけなんてない。

 

 そんな気の緩みが自らの命を落とすことにつながることを、いくら説明しても理解したがらん。

 オレの嫁もそうだ。できることなら一番安全な家の中にいて欲しいものなのだが、『今日は大切な予定があるから』と言って昼過ぎ、ちょうど今ぐらいの時間に誰かと待ち合わせをしているらしい。

 人付き合いが大切なのもわかるが、おっちょこちょいなアイツが心配でたまらん。

 オレは変じゃない。これは夫として当然の気持ちだ。

 

 

 「時間も時間だ。そろそろ飯にしないか?この辺にオススメの本格中華料理の店があるんだが」

 

 「いいですね。ぜひ連れて行ってください」

 

 「一応言っておくが、辛いぞ」

 

 

 オレのその一言に氷川の鋭い視線が飛ぶ。

 

 

 「私の舌はお子様だとでも?」

 

 「後の仕事に支障をきたしたくないなら甘口にしてもらうこった」

 

 「ナメないでください」

 

 「ククッ。テメェの反応が楽しみだ♪」

 

 

 キリッと鋭い視線を向ける氷川だったが、注文した麻婆豆腐が想像以上に辛かったのか汗が止まらず、なかなか蓮華が進まなかった。

 その姿を揶揄うように笑いながらオレはこの店で一番人気の坦々麺(辛さ控えめ)を平らげた。

 オレは決して甘口をバカにしていたわけじゃない。むしろ辛いのが得意じゃないからな。

 安い挑発に乗り自滅した氷川がバカだったと言う他ないが、奴は持ち前の気力と根性で完食しやがった。素直に脱帽。残したらもっと煽ってやろうと思ってたのに、チキショウ。

 

 その後その辛さがクセになった氷川に激辛料理のプチブームが訪れたのはまた別の話。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 この世にはいい奴と悪い奴が存在する。

 その悪い奴の中でも、救いようのある人間(バカ)もいれば救いようがねぇ人間(クズ)もいる。

 前者が貧困に苦しんだ挙句、金に困って犯罪に手を染めちまったという例。オレの経験上、そういった人間は後に悔いや自らを責め立てるような気持ちに駆られるやつが多く厚生の余地がある。

 後者は自らの欲求のために犯罪に手を染める奴。牢屋にぶち込んだとしても、刑罰を受けたとしても、数年後にはまた同じことを繰り返す。

 これもオレの経験則。頭のネジが外れた奴らに後世の余地はねェ。だからこそこっちだって容赦などしない。

 

 そんな中、数年刑事として働いてわかったことなんだが犯罪は減るどころか増す一方にあるのは悩ましいところである。

 

 

 「待ちなさい!!」

 

 

 昼飯後に事情聴取を再開していたところ、覆面マスクをつけた男がひったくり事件を引き起こした。

 オレはひったくられた婆さんに寄り添い、相棒である氷川はその犯人を追い猛然と追いかける。

 

 

 「はぁ………はぁ…………」

 

 

 ヒールを履いていることもあり男との距離は縮まるどころかぐんぐんと離されていく。

 遠距離で人を拘束具で捉えられるほどの動体視力とオレとの付き合いで得た護身術もここでは全く役に立っていない。

 仕方ない、と呟き奴らに追いつこうと全力で駆ける。地面を力強く蹴る音が響き、風を切り、数秒もすると数十メートル離れていた氷川にあっさりと追いつき肩に手をおきこう告げた。

 

 

 「あとはまかせろ」

 

 

 氷川を置き去りにし、犯人目掛けて直走る。

 曲がり角を曲がったところを確認し追跡するが犯人はその手前で待ち構えており、オレの顔面目掛けて拳を振るってきた。

 それを掌で受け止め捻り上げ胸板からコンクリートの地面に叩きつけた。

 

 

 「えーっと、午後13時48分。現行犯逮捕な」

 

 

 時間を確認し以前抵抗を続ける男に手錠をかける。

 

 

 「お、俺の話を聞いてくれ!!」

 

 

 捉えた男が待ったをかける。

 

 

 「はっ?何言ってんだテメェ。バカか?」

 

 

 もちろんそれに応じるオレじゃねえ。抑えつける手にさらに力を込める。

 

 

 「イタタッ………!ほんと、少しでいいから聞いてくれ!!」

 

 「救いようのねェ人間に貸す耳は持ち合わせていないもんでな」

 

 「俺には家族がいるんだ!家に娘2人と嫁と両親………みんなが俺を待ってるんだ!!」

 

 

 勝手に話し始めた男の口実に耳を傾ける。

 

 

 「だったらこんな行為に手を染めんじゃねェよ」

 

 

 救いようのある人間の可能性があろうと犯罪は犯罪。取り逃すわけにはいかん。

 

 

 「ったく。仕方ねぇ」

 

 

 オレは男から手を離しポケットからあるものを取り出し男に差し出す。

 

 

 「こ、これは………!?」

 

 

 そのモノに男も驚愕した様子だ。

 

 

 「拳銃だ。見りゃわかるだろ」

 

 

 本来手放すことを許されないそれを震えながら手に取る男。弾倉も確認しちゃんと実弾がこもっていることを確認する最中、ある取引を持ちかける。

 

 

 「アンタには二つの選択肢がある。一つ、その拳銃でオレを撃ち逃げる。二つ、無駄な犯罪に手を染めず大人しく捕まる。さあ、あんたはどちらを選ぶ?」

 

 

 単独か道連れか。本当に家族が大事と思っているのであれば無駄なことはしないはずだが………荒々しく息を切らし、昂った表情を浮かべる男の様子を見てオレは全てを悟った。

 

 

 「バカが!!俺に家族なんていねぇよ!!まずはテメェからだ!死ねえええええええ!!!」

 

 

 ーーーーパッパラパー。残念デシタ〜www

 

 迫真に迫る男の様子に似つかわしくない陽気な音が響く。

 

 

 「え………なんで…………」

 

 「あーそれ、おもちゃなんだわ」

 

 「は、はああああああ!?」

 

 

 奴が手にしているのは見た目や質量、構造までもが本物と同じレプリカ品だ。

 プロでも見分けがつかないほど繊細な作りをしたそれはセーフティを解除し引き金を引いたところで弾なんて出てきやしない。

 実弾に見えたそれは製造者曰くカセットテープみたいなものでそれをセットし引き金を引くとおもちゃのような音を流すことが可能だという。

 そんな無駄な機能は求めてなかったんだが、彼の遊び心ということで水に流してやった。

 

 

 「悲しいぜ。救いようのない人間の無様な最期はよォ」

 

 

 グッと握った拳を男の顎に強打し気絶させた。それと同時に氷川が遅れて現地に到着する。

 

 

 「はぁ………すみません。助かりました」

 

 

 膝に手をつき感謝する氷川。

 歳をとり運動能力も落ちた………とは口が裂けても言わん。

 一連の行動を隠すようにおもちゃの銃を懐にしまう。

 

 

 「気にすんなよ。()()()()()

 

 「全く、あなたには敵いませんね。()()()()()()

 

 

 皮肉も込められたその肩書を口にする氷川とオレ。

 警察学校では氷川が主席、オレが次席で卒業し様々な経験を経て今は警視庁捜査一課へと配属されているんだが、階級は別。

 配属早々にオレは横暴なことで有名な署の上層部の男に反発し、病院送りになるほどの怪我を負わせちまった為に昇格が見送られてしまったからだ。

 直接言われたことはないが、さっきみたいな違反行為も原因の一つなんだろうが検挙率においてオレの右に出る人間は全国でもそうはいない。

 言い訳に聞こえるだろうが、昇格なんて別にしなくていい。上の立場になれば面倒ごとが増えるだけだからな。

 

 対して氷川は順調にステップを踏み今やオレの上司となった。

 このままキャリアを積めば警部、警視へと進みゆくゆくは女性初の警視総監だって夢じゃないだろう。

 

 

 「とりあえず、コイツを連れて帰るか」

 

 「ええ。パトカー回してきますね」

 

 

 氷川はそう告げこの場を後にする。

 その間何をしようか悩んでいると、とある店のテラス席で二人の姿を目撃した。

 捉えた男を電柱に縛り上げ、二人の元へ駆け寄る。

 

 

 「よお。邪魔するぜ」

 

 

 オレの登場に二人は驚いた様子を見せた。

 

 

 「奏くん!?」

 

 「あらっ、随分とお久しぶりね」

 

 

 その二人というのは妻の花音。そして、大女優の白鷺千聖。

 どうやら二人はお茶をしていたそうで、空いていた席に腰を下ろす。

 

 

 「お仕事は大丈夫なの?」

 

 「ああ。さっきそこでひったくり犯を捕まえたところだ」

 

 「相変わらず忙しいのね」

 

 「オマエほどではないけどな」

 

 

 白鷺は今やテレビでその顔を見る日がないほどの大女優へと成長した。

 昨年は主演女優賞を獲得し、人気も上々。

 様々な役を演じ分ける実力派として認知されている。

 

 

 「花音も無茶するんじゃねぇぞ?」

 

 「うん。心配してくれてありがとう」

 

 

 オレはそう言い花音の膨らんだ腹を摩る。

 

 

 「そういえばまだ伝えられていなかったわね。妊娠おめでとう。二人とも」

 

 「ああ」

 

 「ありがとう♪」

 

 

 自分のことのように笑みを浮かべる白鷺。

 結婚しておよそ2年。

 紆余曲折あったが今は順風満帆と言えるほど幸せの真っ只中にある。

 

 

 「男の子か女の子、どっちかわかってるの?」

 

 「女の子だよ」

 

 「10ヶ月目だからもうそろそろだろうな。近々入院予定だ」

 

 「二人がその子の親になるのね………何だか、感慨深い思いだわ」

 

 「えへへ」

 

 「名前はもう決めてるの?」

 

 「考えてはいるんだが、これがなかなか難しくてな」

 

 「どんな名前になろうとも素敵な子に育つと思うわ。なんたって、二人の子供なんだもの」

 

 

 まるで自分のことのように喜ぶ白鷺。

 この女を振ったオレが言うのもなんだが、白鷺も幸せな家庭を築いて欲しいものだな。

 

 

 「全く。こんなところで何をしているのですか」

 

 

 しばらく談笑していると、パトカーをとりに行っていたはずの氷川が突如として現れる。

 

 

 「早かったな」

 

 「まだ仕事中ですよ。さっさと戻って………あらっ」

 

 「お久しぶりね。紗夜ちゃん」

 

 「お仕事お疲れ様♪」

 

 「お元気そうで何よりです。皆さん」

 

 

 眉間から皺がなくなり、穏やかな表情を浮かべる氷川警部補。

 

 

 「奏くんがいつも迷惑をかけてるみたいでごめんね………」

 

 「いえ。松原さ………失礼、月島さんが謝る必要はありません。それに、高校の時からなのでもう慣れっこです」

 

 「人を疫病神みたいに言うなー」

 

 「彼と仕事をするのってすごく大変じゃない?」

 

 「ええ。それはもちろん」

 

 「うふふっ、わかるわよ。その気持ち♪」

 

 

 二人は互いに見合い小さく笑う。

 

 

 「月島さんこそ大変じゃないですか?妊娠もされてますし、彼、すごくがさつなので心配です………」

 

 「バーカ。家ではまともにしてるっつうの」

 

 「奏くんの言う通りだよ!掃除も洗濯も、なんでも手伝ってくれてるし」

 

 「へぇ。意外ね」

 

 「仕事もそれぐらい真面目にしてくれればありがたいんですけどね」

 

 「テメェらはオレの何を知ってるって言うんだ?ああ?」

 

 

 散々な言われようだが、オレは母子家庭ってこともあってか最低限の家事はできる。

 料理はからっきしだけどな。精々、うまい具合に半熟の茹で卵が作れるぐらいだ。

 

 

 「………おっと、いけません。そろそろ戻らないと」

 

 「まだ話してて大丈夫だろ」

 

 「そうもいきません。あの事件の調査もまだ途中ですし、一旦署に帰りましょう」

 

 「チッ、仕方ねェ」

 

 

 オレはヨッコラセと立ち上がり、花音のお腹の中にいる二人の子供を摩り別れを告げる。

 

 

 「それじゃ、行ってくるわ」

 

 「うん。気をつけてね」

 

 「白鷺!花音のこと、くれぐれも頼んだぞ!!」

 

 「それはこちらのセリフよ。花音を泣かせたら許さないんだから!」

 

 「心配無用だ!ばーか!」

 

 「ふ、ふえぇ………」

 

 

 白鷺に花音を託し、パトカーへと乗り込む。

 白鷺や氷川に心配されるほど生活に困っちゃいない。順風満帆そのものだ。

 いずれ生まれるオレたちの子供のためにも、愛する嫁花音のためにも、この後の仕事を頑張るかな。

 




とりあえず3話ほどを予定してます。

物語が一旦完結したということで………アッチ(R18)の方のストーリーも展開する予定です笑

ぜひお楽しみに
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