高嶺の華と路傍の花   作:山本イツキ

54 / 54
こっちでは久々の更新!

奏くん、そして花音さんたちの未来のお話となります!


月に叢雲、花に風

 「月島、おかえりー」

 「センパイ!お疲れ様です!」

 

 

 オレたちが帰ってくるや否や盛大な歓迎を受ける。あー、自分で言うのもなんだが………オレは署の人間に異常に好かれている。

 上層部の男を病院送りにしたとはいったが、そいつは周りからかなり疎まれていた存在で厄介者扱いだった。

 殴った理由は紆余曲折あるがそんな人間に力で圧倒し、数々の悪行の証拠を突きつけ離職に追い込んだからかオレはこの署で一躍 "人気者「ヒーロー」"となり上司や部下、同期と問わず慕われるようになったのだ。

 

 

 「月島くん。ちょっと」

 

 

 課長が手招きをしてオレを呼ぶ。

 

 

 「なんでしょう」

 

 「まずは、ひったくりの現行犯逮捕について感謝したい。ありがとう」

 

 「まーそれが職務なんで」

 

 「そしてもう一つ。キミにとって非常に良い知らせがある。昇格についてなんだが………」

 

 「お断りします「ノーセンキュー」」

 

 「えっ?」

 

 「準キャリアだからどうとか、自動的にとか、そんなことどーだっていいんですよ。オレが自由にやるのにこれ以上の地位は必要ない。それだけなんで」

 

 

 課長の提案を断り席に戻る。一連の会話を盗み聞きしていたのか、氷川が凄い目つきでオレを睨む。

 

 

 「上司に向かってあんな言い方はないと思いますが?」

 

 「これでも立派になったもんだろ。敬語が使えるようになったんだからな」

 

 

 オレの言葉に大きくため息をつく氷川。

 

 

 「それはそうと、今日の事情聴取の内容をまとめて提出してください」

 

 「期限は?」

 

 「今日の定時までです」

 

 「了解「Aye, ma'am」」

 

 

 今の時刻は16時半。定時は今からおよそ1時間後。

 今日は朝から聴き込みをやってたから手帳に記した目撃者の証言がたんまりとある。これを全てまとめて氷川に出すとなると1時間でもギリ、か………。

 

 全く、無茶言ってくれるぜあの女。

 

 

 

 「大変っすね」

 

 

 隣の席に座る後輩が話しかけてきた。

 

 

 「人ごとじゃねェぞ?これから紅葉祭りやらハロウィンやらで忙しくなるんだからな」

 

 「学生時代は楽しかったイベントも、大人になった今は厄介ごととしか認識できないですからねぇ………」

 

 「オマエ24歳だろ?まだまだ若ぇじゃねぇか」

 

 「歳は関係ないっすよ。はぁ、近頃事件が頻発してるし、それらのイベントが盛りだくさんとなると、大変どころじゃ済まなそうっすね」

 

 

 後輩の言葉通り、今は平穏と言い難い状況にある。度重なる事件に加えて小さないざこざなんて数え出したらキリがない。

 警察「こっち」は年中人手不足だってのによ。

 

 

 「そーいえばオマエ、今日は子供の誕生日だとか言ってなかったか?」

 

 「え?ああ、2歳になりましたね」

 

 「『え?』じゃねぇよ!嫁さん子供が待ってんだろうが!仕事はオレに任せてさっさと帰れ!!」

 

 「でも………!」

 

 「その子の父親はテメェだけだろ?親ならもっと子供を大事にしろ!課長に文句言われたら『月島にパワハラされました』とでも言っとけ。ホラっ、帰った帰った!」

 

 「す、すみません!お先に失礼します!」

 

 

 オレの言葉に従い後輩はそそくさと帰り支度を済ませ帰路に着く。

 父親からの愛情を受けて育ってこなかったからか、こういうのには見過ごせないタチになっちまった。自分でも恥ずかしくなりそうなセリフを思い出し、赤面するがそれを氷川は見逃さない。

 

 

 「口下手というか、なんというか……」

 

 「うっせぇ」

 

 「あなたの方こそ奥様を放っておいて大丈夫なんですか?」

 

 「安心しろ。定時に終わらせて速攻帰ってやる」

 

 (仕事はできるし、人望もあるし……人としては本当に完成してるんですけどね、彼)

 

 「氷川〜。仕事頑張るからコーヒー奢ってくれー」

 

 (私に対する敬意がないこと以外は………!)

 

 「ダメです」

 

 「花音の入院費とかで金がねぇんだよ〜」

 

 「口ではなく手を動かしてください。月島巡査部長」

 

 「チッ、この鉄仮面が!」

 

 

 全く、もう少しは同期に優しくして欲しいもんだ。

 その後オレは速攻で仕事を終わらせ公言通り定時に上がることになり、そのまま直帰する。

 

 

 「帰ったぞ〜」

 

 

 ガチャリと家の扉を開くと、エプロン姿の嫁が台所から顔を覗かせた。

 

 

 「お帰りなさい!」

 

 「おいおい。ゆっくりしてろって言ったろ?」

 

 「大丈夫だよ。今日は調子がいいから」

 

 

 夕食を作っている最中だったようで、大きな鍋の中で何かを煮込んでいるようだ。

 

 

 「あとはオレがやっとくから、布団に入ってろ」

 

 「え、でも………」

 

 「いーから!ほらっ、さっさと行く!」

 

 「あ、ありがとう」

 

 

 近頃の花音は、お産が近いこともあってか調子が悪い。立っているのもやっとの状態だ。

 そんな嫁に無理させるのは男としてどうかしてる。そこんとこ、おふくろに教育されてよかったと心底思う。

 

 

 「おっ、今日はシチューか」

 

 「うん。もう煮込み終えてるからあとはお皿に盛り付けるだけなんだけど………」

 

 

 それでさっきあんな渋い反応を見せていたのか、というツッコミを飲み込み、ガスを止めてから皿に盛り付けテーブルに出す。

 

 

 「それで、白鷺とは何の話をしてたんだ?」

 

 

 シチューを口に運びながら花音にそう問いかける。

 

 

 「お腹の子の話とか、千聖ちゃんのお仕事の話とかだよ」

 

 「アイツ忙しそうだもんなぁ」

 

 「女優さんだからね」

 

 「花音もそういう道は目指さなかったのか?」

 

 「わ、私には無理だよ!」

 

 「そうかあ?昔演劇の練習に付き合ってくれた時もも、いい演技してたからな」

 

 「懐かしいなぁ………」

 

 「女優じゃなくても、声優って手もあったんじゃないか?」

 

 「うーん、やっぱり私は "普通" が一番かな」

 

 

 実に常識人な花音らしい考えだ。

 今は専業主婦としてオレを支えてくれているが、結婚する前はとあるカフェの店員として働いていた。これも花音らしい。

 当時は警察学校に入ってたこともあって働いている姿を見ることはできなかったが、後に訊いた話だと常連さんに好かれ丁寧に仕事をこなしてくれていたという。

 

 

 「……ああ!冷蔵庫にサラダがあるの忘れてた!」

 

 

 こうやって時折見せるドジなところと方向音痴がたまに傷だが。

 

 

 「出してくるから座ってろ」

 

 「ごめんなさい………」

 

 

 全く、先が思いやられる。

 とにかく今は、花音が無事オレたちの子供を産んでくれることが第一だ。

 

 

 

………………

 

 

…………

 

 

 

 地蔵通り 通り魔殺傷事件発生からおよそ1ヶ月。犯人の特徴は把握しているが、肝心の当該人物とは接触できていない。

 署内もどこかピリついた空気が漂っていて居心地がすこぶる悪いのが現状だ。

 

 ………ああ、花音はというと無事に産婦人科に入院することもできて今は病院の中。看護師さんもいるから家にいるより100倍安心できる。

 おふくろや義両親、白鷺も度々面会してくれているから花音としては不安はないと言う。

 早く娘に会えないかとみんなが待ち遠しく思っている。

 

 

 「さて、今日も聞き込み行くかー」

 

 「そうですね」

 

 

 オレと氷川はあいも変わらず捜査車両に乗り込み現地の聞き込み調査だ。

 

 

 

 「あれから進展ねぇし、犯人死んだんじゃねぇの?」

 

 「そうとも言い切れないでしょう。過去、逮捕した人も照合しましたが、いずれも不一致。まだこの世のどこかに潜んでいるはずです」

 

 「隠れるのが上手いのか、どっかで誰かに匿われているのか……」

 

 「協力者がいるとでも?」

 

 「可能性の話だ。まあ、こればっかりは机上の空論に過ぎん」

 

 

 願わくばこのまま被害者が出ずにお縄になってくれて欲しいものだ。

 その時だった。捜査車両の無線に連絡が入る。

 

 

 『警視庁から緊急配備命令!花咲川病院にて人質事件が発生。事件発生現場は────』

 

 「この病院って、まさか………!!」

 

 「ッ!?」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 これは事件が起きる数十分前の出来事。

 

 静かで落ち着きのある真っ白な部屋。

 これまで大病を患ったことも、大怪我に見舞われたこともないから病院に入院するというのは新鮮だ。

 けれど、普段は家事に追われて一人バタバタとしていることが多く、こうしてただベットに横になるのはどうも慣れない。

 

 

 「体調はどうかしら?」

 

 

 パイプ椅子に腰を下ろす千聖ちゃんが心配そうな表情で私を見る。

 

 

 「昨日は少ししんどかったけど、大丈夫だよ」

 

 

 臨月を迎えてからというものの、身体は調子の波が激しく吐き気や眩暈、陣痛といった症状のせいで眠れない日々が続いている。

 みんなに心配ばかりかけて申し訳ない………。

 

 

 「忙しいのにお見舞いありがとう。千聖ちゃん」

 

 「気にしないで。ちょうど撮影場所が近くだったから」

 

 

 こうして話しているだけでも励みになる。

 早く、元気な赤ちゃんの姿を見せてあげたいなぁ。

 

 そう考えていた時だった。

 

 

 「…………うぅっ!!」

 

 「花音!?」

 

 

 突如として陣痛が襲う。これまで経験したことのない痛み。何ヶ月も子を孕っていたからわかる。もうすぐ生まれてくると。

 千聖ちゃんはすぐナースコールで状況の説明をして、しばらくしてから車椅子を手に看護師さんは来てくれた。

 

 

 「す、すみません…………ううっ!」

 

 「月島さん、落ち着いてください」

 

 「ゆっくりよ。花音」

 

 

 看護師さんと千聖ちゃんに抱えられ車椅子に乗り込むと、そのまま分娩室へ向かう。

 

 

 「動くな」

 

 

 部屋を出てすぐ、銃を手にした男に制止させられてしまった。痛みのせいで気づかなかったけど、病院内は悲鳴が各所で響き渡っていて武装した男たちが続々と姿を現し始める。

 

 

 「この病院は我々が占拠した。部屋に戻れ」

 

 「し、しかし!この方は────」

 

 「戻れ。これ以上騒ぐようなら死んでもらう」

 

 

 看護師さんの抵抗も虚しく私たちは病室へと戻る。申し訳なさそうな顔をする彼女は何も悪くない。こんな事態、誰も想定していないのだから。

 

 

 「きっとすぐ警察……いや、月島くんがくるわ。それまで持ち堪えましょう」

 

 「……う、うん………」

 

 

 お腹の中の赤ちゃん。ごめんなさい。今はまだ、出てきちゃいけないの。

 お願いだから、おとなしく、しててね。

 

 

 

 場面は再びオレたちへ。

 無線から聞いた情報を元にすぐさま事件が起きた病院へと辿り着く。

 

 

 「状況は!?」

 

 「ま、まだ犯人たちからは何の連絡も………」

 

 

 近くにいた警官の胸ぐらを掴み問いただすも回答は得られず。そんなオレに氷川は冷静な態度で手を引き剥がした。

 

 

 「落ち着いてください。気持ちはわかりますが……」

 

 「落ち着いていられるか!!嫁と子供が人質に取られてんだぞ!?」

 

 「あなたがここで喚いたところで状況は何も変わりません。黙って上層部の指示を待ちな

さい」

 

 「くっ……」

 

 

 納得はしていないが氷川は何も間違ったことを言ってない。胸ぐらを掴んだ警官に謝り、事件の情報と指示を待つ。

 以前のオレなら問答無用で突入しただろうが、相手の数も目的もわからない上病院内全ての人間が人質に取られていると考えれば、大惨劇になることは容易に想像できる。

 これでも組織の人間。一番大切なのは花音だが、被害者が出るのは避けなければならない。

 それに、奴が小さく呟きた言葉をオレは聞き逃さなかった。

 

 『許可が降りれば、あなたには存分に働いてもらいますから』

 

 オレの無鉄砲さと猪突猛進ぶりは何年もそばで視てきた氷川「このおんな」が一番理解している。それを踏まえてのこの言葉。

 今はまだ、その時ではないと目に見えない枷を嵌め込んだのだ。流石、よくオレの扱いに慣れている。

 

 

 「氷川警部補!月島巡査部長!」

 

 

 現場に到着してから数分、別の若い警官が駆け寄ってきた。

 

 

 「どうしましたか?」

 

 「警視から通達です。犯人の目的が判明して、その………」

 

 「時間がねぇんだ!さっさと答えろ!!」

 

 

 モゴモゴとハッキリ言わない若い警官の胸ぐらを掴み上げる。

 

 

 「は、犯人は………「月島巡査部長を連れてこい」と………言ってきてるそうです………!」

 

 「………はぁ!?」

 

 

 その発言の意味が理解できず首を傾げる。

 パッと手を離し、咳き込みながらも警官は説明を続ける。

 

 

 「犯人によれば、月島巡査部長を渡してくれたら、他の患者の命は助ける、と………」

 

 

 つまり、オレへの怨恨を晴らすためにこんな大騒動を引き起こしたということか。

 関係のない人を、それも最愛の妻「かのん」をも巻き込む犯人たちは生かして帰さん。少なくとも、骨の一本や二本はへし折ってやる。

 

 

 「要は、月島巡査部長を一人で行かせようと言っていると………?」

 

 「は、はい!警視も、人質救出が最優先、だと………!」

 

 「月島巡査部長を見殺しにする気ですか!?」

 

 

 氷川もオレ同様に若い警官の肩を強く掴む。

 なんの権限もない若手にそんなことを言っても無駄だろうに。ま、オレも似たようなことをしてたわけだが、自分より取り乱していると逆に冷静になるとはよくいったものだな。

 

 

 「安心しろ氷川」

 

 

 取り乱す上司の頭をわしゃわしゃと撫でながらこう告げる。

 

 

 「オレは、()()()()()

 

 

 この状況下で尚、余裕な笑みを浮かべる。決して強がりや痩せ我慢などではない。

 さっき氷川が告げた『許可が降りれば存分に働いてもらう』という言葉のその時が訪れ、今オレの頭の中にあるのは、人質の救出。そして愛する妻と子を助け出すことだけだ。

 

 

 「上に伝えろ。『死人を出したくなければ手出しは無用だ』ってな」

 

 

 そう言い残し、独り病院の中へ侵入する。

 自動扉が開くと同時に犯人たちの姿が見え、オレの登場とともに銃口がこちらに向く。

 

 

 「誰だ!?」

 

 

 犯行グループの一人がそう叫ぶが、オレは一瞬で距離を詰め銃を奪い取ると顔面を右ストレートで振り抜き戦闘不能に陥らせる。

 人質となった患者や看護師たちをうまく利用して姿を隠し、不意の一撃で気絶させていく。     

 十数秒も経たずして、一人を残し目視できる範囲の犯人たちは全員床に這いつくばっている状態。残る一人も今は胸ぐらを掴み上げ尋問している最中だ。

 

 

 「残ってる仲間の数と、その配置は?」

 

 「い、言えな…………うぐっ!」

 

 

 無駄に足掻く男の腹部を殴打し嘔吐する。

 

 

 「1秒だ。考える間もやらん。オレの問いに即座に答えなければそのスカスカの頭を握り潰す」

 

 「ひっ………!!」

 

 

 恐怖に染まり、顔が真っ青になる男。そんなことは関係ないといった鬼の形相で再度問う。

 

 

 「残る仲間の数と、配置は………!?」

 

 「い、1階に3人………2階に………5人………!!」

 

 「そうか。じゃあ、とっとと眠れ」

 

 

 パッと手を離し、膠着する男に踵落としして顔面が床にめり込んだ。少なくとも、ちゃんと情報を吐いたからには握り潰さないと言う約束は最低限果たしてやった。

 そもそも、病院をテロする奴に情状酌量の余地はねェ。殺されなかっただけ感謝しな。

 

 

 

 「ザザッ………おいっ!応答、しろ………!」

 

 

 床に顔面がめり込んだ男の胸ポケットから無線機を取り上げ、まだどこかに潜んでいる仲間にこう告げる。

 

 

 「テメェら全員、地獄に送ってやるから逃げんじゃねェぞ」

 

 「き………きさ………!!」

 

 

 ガシャンッ!!

 無線の先にいる犯人の言葉を訊く前に無線機を破壊し、人質たちを解放する。逃げ惑う人間たちとは逆方向へ歩き、花音の元へ向かう。

 これだけの騒ぎだ。ストレスでも感じればお腹の子の状態に影響することは想像に難くない。出産予定日はまだ先だが、下手をしたら………などと最悪な想定をしていると、産婦人科エリアに辿り着き、辺りを見渡す。

 

 妙な静けさだ。

 それはまるで、嵐の前の静寂のようで────

 

 

 バン!!

 

 

 「………っ!?」

 

 

 後方からの殺気を感じ咄嗟に右へ体をスライドさせると、銃声の元である弾丸が空を裂き院内の壁にめり込んだ。

 躱していなければ致命傷になっていたであろうその一撃にヒヤリとする。

 

 

 「あっぶねぇ………!」

 

 

 こんなところでくたばるなんてシャレにならん。

 

 

 「クソッ!」

 

 「遅ェ!!」

 

 

 再度銃を構える男であったが、すでにオレは眼前まで迫っており渾身の膝蹴りを顔面にお見舞いし戦闘不能にする。

 男の手から離れた拳銃は床を滑るように転がっていき、武装し鬼の仮面をつけた巨漢の前で止まった。

 

 

 「いやあ、見事見事」

 

 

 先ほどの一部始終をみていたのか、男はわざとらしい拍手をし、人工的な音声で称賛を送る。恐らくはあの仮面に内蔵でもしているのだろう。

 

 

 「よお。テメェが黒幕か?」

 

 「いかにも」

 

 

 オレの問いかけに一切偽るつもりはないといった態度だ。

 

 

 「テメェがどこの誰かは知らねぇが、外は大勢の警察が待機し「スタンバッ」てる。バカな真似はやめて投降した方が身のためだぜ?」

 

 

 無駄ではあるが一応そう提案を持ちかける。

 

 

 「フフフ。生憎、キミを絶望のどん底に叩き落とすことさえできれば警察に捕まることなんてわけないさ」

 

 「やはり、この病院でテロ行為に出たもの復讐か」

 

 「その通り。他の人間はどうだっていい。目的はハナからキミだけだ」

 

 

 オレはこれまで多くの人間の恨みをかってきたという自負はあるが、花音の存在を知る人物は殆どいない。

 その中から今目の前にいる人物の特徴を踏まえ、さらに絞り込むとある男の名が浮かび上がった。

 

 

 「ハッ、アンタに恨まれる筋合いはないんだがな。小林 "()" ()()()

 

 「フフフッ。久しぶりだね、月島巡査部長」

 

 

 男は小さく笑いながら仮面を取り、本来の声と顔を曝け出した。

 オレの脳内CPUが弾き出した人物の名が小林管理官。いや、元管理官。オレが過去、署内で嫌われ、あまりの横暴さに耐えかね、殴り飛ばし病院送りにした男というのがコイツだ。

 これまでの汚職の数々を暴かれ解雇「クビ」になったと耳にしたんだが、オレへの恨みでここまで這い上がってきたらしい。

 

 

 「そもそもアンタは氷川に手を出したんだ。抵抗されて当然と思うが?」

 

 

 解雇となった要因の一つが女性職員へのわいせつ行為。その被害者の一部に氷川も含まれていた。

 権力を振り翳し、やりたい放題だったこの男に限界を感じたのか氷川は右手を振りかぶり奴の頬目掛けてビンタをかまそうとした。それをオレは静止し、代わりに右拳を喰らわせてやったというのが詳細だ。

 あのまま氷川が手を出していたら立場は今と逆になっていただろう。それどころか、氷川が辞めていた可能性だってある。

 あの事件に悔いはない。

 氷川を攻める気も微塵もないからな。

 

 

 「抵抗、ねぇ……それにしては程度がすぎると思うんだが?」

 

 「あんときのキズ、まだ癒えてねェのか」

 

 

 トントン、と指の先で頬を突く。

 

 

 「忘れられるわけがない。あの拳のせいで顔は変形し、妻には見限られ、職も失った……もう今の私にあるのはキミへの復讐。ただそれだけだ」

 

 

 側から聞けばただの逆恨みとしか考えられないだろう。だが、いくらそれを論破しようとも小林の決意は揺るがない。

 

 

 「つまりはリターンマッチか?いいぜ。受けてやるよ」

 

 

 拳を軽く握り戦闘体制を取る。

 武装してるといえど相手は初老のジジイ。勝算はある。

 

 

 「私も警察から離れていたから体を鍛え直した。そして、あの方から素晴らしいものを与えてくださったのだ!!」

 

 

 カチッという音と共に身につけていた黒色の戦闘服が鎧のような形に変貌を遂げ、以前とは比べ物にならないほど屈強な体格となった小林に沿うデザインとなっていた。

 

 

 「ハッ、まるでヒーローのコスチュームだな」

 

 「まずは私の腕力を披露するとしよう………フンッ!!」

 

 

 グローブをつけた拳を大きく振りかぶり、地を殴るとパラパラと床が砕け奴の腕力の強さを物語った。

 

 

 「へぇ、やるじゃん。その服のおかげかもしんねーけど」

 

 

 目の前の光景に驚きはしない。

 なぜなら、オレにもできるから。

 

 

 「次は俊敏さだ。キミと私の距離はおよそ8メートル。それを一瞬で詰めて見せよう」

 

 

 フーッと大きく息を吸い吐いた小林は目にも止まらぬ速さでオレの懐に潜り込むと、先ほど見せた腕力をオレの腹部に一点集中し振り抜く。

 

 

 「ゴハァッ!」

 

 

 かつてないほどの衝撃を受け吐血し、身体はすぐさま壁に激突する。

 常人ではあり得ないほどのスピードとパワー。オレの動体視力を持っていて躱せないとなると厄介極まりない。

 額から流れた血を袖で拭い、服についた埃を祓い立ち上がると小林はゆっくりとこちらに近づけながら口を開く。

 

 

 「痛ってて……」

 

 「キミ、相変わらず拳銃は持っていないんだろう」

 

 「お察しの通り、オレは拳銃はおろか、サッカーボールを生成するベルトもつけちゃいねぇよ」

 

 「なら安心だ。キミの力は私が一番恐れている。だからこそ、それ以上の力と速さでねじ伏せさせてもらう!!」

 

 「やってみな!クソ野郎!!」

 

 

 今、開戦のゴングが────

 

 

 「奏くん!!」

 

 

 小林の後方に映る小さな影。

 最愛の妻が涙を流しながら、奴は仲間に銃を突きつけられていた。

 

 

 「か、花音!!」

 

 

 一瞬。ほんの一瞬だ。

 小林から目を離した隙に、奴は渾身の一撃をオレの頬にぶちかます。顔から思い切り床に叩きつけられ、辺りは小さなクレーターのような跡ができた。

 

 

 「か………の…………」

 

 

 意識が飛ぶ寸前の状態でも尚、腕を伸ばし花音を救おうと踠く。しかし、その手は無惨にも踏み躙られ叶わなくなる。

 

 

 「大好きな嫁の前で敗北したんだ。肉体的にも、そして精神的にも効いたんじゃないかな?」

 

 

 素敵な笑みを浮かべ高笑いする小林。

 負けた。生まれて初めて、完璧な敗北を突きつけられた。

 白目を剥き、頭からは血が大量に溢れ、意識も朦朧としている。正直、立ち上がることも困難な状態だ。

 

 

 「今すぐに殺してやりたい気持ちは山々だが、まずはキミにしてもらわなければならないことがある。わかるかね?」

 

 

 わかるか、んなもん。

 

 

 「土下座だ。血に頭を擦り付け、『すみませんでした。小林管理官』と口にするんだ。そうすれば大事な嫁とお腹の子は救ってやると約束しよう」

 

 

 そう言って結局はオレも花音たちも殺す気だろう。テメェの性格の悪さはよく知っている。

 

 

 「私の気は長くなくてね、3秒だけ待とう。返答がなければ今すぐ二人を殺す」

 

 

 めろ………

 

 

 「3…………」

 

 

 やめろ………

 

 

 「2………」

 

 

 やめろ………!

 

 

 「1………!」

 

 

 やめろぉぉ………!!

 

 

 小林のカウントダウンを迎えようとしたその時、鈍器が頭部に当たった鈍い音と、銃声が院内に響き、それぞれが小林、そして花音に銃を突きつけていた男目掛けて放たれる。

 

 

 「ぐっ………!」

 

 「がっ………!」

 

 

 銃弾は小林の肩に命中し、奴の仲間は気を失い倒れた。

 一体、何が………!?

 

 

 「月島くん!!」

 

 「月島巡査部長!大丈夫ですか!?」

 

 

 聞き覚えのある二つの声。氷川と白鷺のものだ。

 

 

 「お………まえ、ら…………なに、して………!!」

 

 

 霞む視界に二人をとらえ問いかける。

 

 

 「『オレは死なない』そう豪語したのはどこの誰ですか!?そんなみっともない姿………あなたらしくありません!!」

 

 

 全く、無茶を言う上司だ。

 それに、待っとけって言ったはずなのに独りで勝手に来やがって………!

 

 

 「月島くん!私が惚れたのは、強くて、カッコよくて、誰にも負けない無敵のあなただったからよ!ここで死んでしまったら………花音とお腹の子はどうなるの!?」

 

 

 テメェはいつも事件に巻き込まれる。

 それに過去の恋愛談まで掘り返すとは、正気じゃねぇな………!

 

 

 「羽虫がぞろぞろと………まとめて皆殺しに────」

 

 

 踏みつけていた足が緩み、即座にありったけの力を込め掴む。

 

 

 「はぁ……はぁ……全く、無茶を言う、女たち、だぜ………!」

 

 

 ようやく意識がハッキリとしてきた。感覚もだいぶ戻ってきている。

 小林は掴んだ手を振り払おうとするも、オレの握力が勝り掴んで離さない。

 

 

 「奏、くん………」

 

 

 白鷺に支えられる側で小さくオレの名を呟く花音。

 なんだ?その心配そうな面は。

 オレがこんなところでくたばるとでも思ってるのか?

 オレは月島 奏。

 かつて "不死身の暴君" として恐れられ、花咲川を守ってきた男だぞ。たかが武装した男の前に、敗北してたまるかよ………!!

 

 

 「へっ、悪いな………小林元管理官………ここで、終わらせてもらうぜ………!」

 

 「死に損ないがなにを」

 

 「これで、終いだ………!!」

 

 

 オレはもう片方の手を床につき、身体を浮かせるとそのまま回転蹴りをする。狙ったのは男の金的。

 いくら見た目がいかつい戦闘服でも急所は隠しきれていなかったことを事前に見抜いていた。

 そこを的確に狙いヒットさせる。

 

 

 「ぐわぁぁぁぁっ!!」

 

 

 男にしかわからない痛みが小林を襲う。

 幾度となく敵を壁や地面にめり込ませていた自慢の蹴り。それを股間に向けたんだ。想像を絶する苦痛を味わっているのだろう。

 顔は青ざめ、悶絶している。

 

 

 「ハハッ、金玉………潰ししまったかな………」

 

 

 なんとも下品な幕切れ。オレ自身、そう思う。

 駆け寄ってきた氷川の肩を借り、ようやく花音と再開を果たす。

 

 

 「悪ぃ………」

 

 「もう、心配、したんだから………!」

 

 

 ギュッと抱きしめ花音は大粒の涙を流しながらわんわんと泣き叫んだ。そして、それと同時に最愛の妻は膝から床に崩れ落ちた。

 

 

 「花音………!?」

 

 「ご、ごめん、なさい………もう、限界………」

 

 

 笑みを浮かべる余裕すらなく花音はうずくまる。最悪な状況が今まさに起こってしまった。

 

 

 「と、とにかく急いで分娩室に!!」

 

 「でも、お医者さんはどこにも………!!」

 

 「氷川は、急いで外から呼んでこい………白鷺は、そのまま花音と看護師を連れて分娩室に行け………」

 

 「あなたを放って置けますか!一番重症じゃないですか!」

 

 「安心しろ……子供の前で、弱々しい父親姿を、見せれるわけ、ねぇだろが………!」

 

 「しかし!!」

 

 「今は言い争いをしている場合じゃないわ!紗夜ちゃん、急いでお医者様を呼んできて!」

 

 「わかりました!」

 

 

 氷川は大急ぎで外へ向かい、オレたちも分娩室へ向けゆっくりと歩き出す。

 頼む。頼むから、元気な姿で生まれてきてくれ。

 

 

 

……………

 

 

………

 

 

 

 花音は今、分娩室の中。

 オレは別の医者から簡易的な措置を受け子供の誕生を待つ。そばには氷川もいる。

 

 

 「松原さん、大丈夫でしょうか………?」

 

 「安心しろ。アイツは、強い奴だ」

 

 

 このオレが惚れた女だ。そんなやわじゃない。分かってはいるのだが、不安にはなる。

 先ほどの出来事でストレスを抱え、難産にならなければいいのだが………そう考えていた矢先だった。

 

 分娩室から大きな産声が上がったのだ。

 

 

 「おめでとうございます!元気な女の子です!」

 

 

 扉が開き看護師が嬉しそうに告げる。

 オレは一目散に駆け出し花音の元へと向かった。

 

 

 「花音………!!」

 

 

 大汗をかき、大仕事をやってのけた妻と面会する。

 

 

 「えへへ。おめでとう、だね」

 

 

 体重3150グラム。

 オレたちの間に生まれた子は元気な姿でこの世に生を受けた。

 新たな家族の誕生。今日ほど、嬉しく思った日はない。自然と涙がこぼれ落ちる。

 

 

 「ありがとう、花音………」

 

 「これからも、ずっと幸せな家庭を築いていこうね」

 

 

 後に生まれた子はは『美柚(みゆ)』と名付けられ、スクスクと成長していくのであった。




いかがだったでしょうか?

子供の生誕、本当におめでたいですよね……


おめでたいといえば、5月10日は私、山本イツキの誕生日でございます!!(やったー)
どうか、高評価、お気に入り登録、感想でお祝いしていただけると幸いです
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。