高嶺の華と路傍の花   作:山本イツキ

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お気に入り、しおり、感想、評価、本当にありがとうございます。



今回で、藤村先生編が終了となります。




第6輪 枯れかけの花は返り咲く

 学園長と話をした次の日の朝。

 やはり奴は玄関にいた。

 

 

 「おはようございます、月島くん。迎えにきました」

 

 「おう、ご苦労ご苦労。それじゃあ行くか」

 

 「えっ…………!?」

 

 

 オレの言動に氷川は驚き目を大きく見開く。

 まぁ無理もない。

 嫌悪な表情で出迎え無抵抗ながらも敵意剥き出しだった昨日の相手が、その様子を一切見せていない。

 氷川からしたら不思議で仕方ないだろう。

 いや、不思議というより何か企んでいそうで気味が悪い、と言った方が正しいか。

 

 今や氷川は腕を組み、目を細めジッとオレを見つめている。

 

 

 「………んだよ。お前、ここに何しにきたんだよ?」

 

 

 やや高圧的に問う。

 

 

 「あなたを…………迎えに…………」

 

 「なら、とっとと朝の仕事片付けて藤村の情報収集に取り掛かるぞ」

 

 「そ、そうですね。正直こんな朝を迎える日が来るとは思っていませんでした」

 

 「あぁ、言い忘れていたが─────」

 

 

 そこで言葉を区切り、振り向きざまにこう告げる。

 

 

 「お前の鞄に入ってる拘束具、もう使うこともないだろうから持ってこないほうがいい。無駄に重いだろ?」

 

 「…………いえ、念のため入れておいたままにさせてもらいます」

 

 

 どうやら、まだ完全に信頼されておるわけではなさそうだ。

 物騒な拘束具(もの)を持ち歩いて、変な噂でも立ったらどうするつもりなんだろうか。

 『あの真面目な風紀委員長がそんなマニアックなことを…………!』なんてことになりかねない。

 いや、その前に氷川の家族、特に妹にドン引きされるのが先か。

 

 本人もそこまでバカじゃないだろうが、一応注意しておくことにしよう。

 

 

 校門での朝の風紀活動は風紀委員が中心となって行うのだが、生徒会も絡むことが多い。

 一般生徒の手本として示すことが目的なんだろうが、その顧問が逸脱してる為か寧ろ示しがつかない状況にあると見る。

 風紀活動後に生徒会メンバーの1人に、藤村について聞いてみた。

 

 

 Q.藤村についてどう思う?

 

 A.嫌いじゃないけど好きでもない。でもどちらかと言えば苦手。

 

 Q.藤村の髪型、服装についてどう思う?

 

 A.全く似合ってないし、指導者とは思えない。

 

 

 話を聞く限り、良い印象は持たれていたいような口ぶりだ。

 登校してすれ違う一般生徒からも同様に尋ねて回る。

 学年、性別関係なく藤村のことを知る人は皆、口を揃えてこう答えた。

 

 

 藤村のことは苦手である─────と。

 

 

 これは面白い情報だ。

 学園長の話だと極一部でも慕う人物がいるという見解だったが、そんな言葉を放つ人間が1人としていない。

 どれだけ好かれていないか丸わかりだった。

 いくら実績があれど説得力の欠ける人物に何を言われても心に響くことはない。

 

 

 「氷川、トーマス・カーライルって知ってるか?」

 

 「………誰なんですか?」

 

 

 隣に立つ氷川に問いを投げかけるが、何を言っているかわからない様子だ。

 

 

 「イギリスの思想家だ。奴はこんな名言を残している。『自分より立場の弱い人に対する接し方に、人の偉大さは現れる』ってな。果たして藤村は偉大な人間なのか、奴だけに関わらずオレも断然、否と答えるな」

 

 「その方ならともかく、月島くんは何故そう考えるのですか?」

 

 「自分が手塩にかけて育てた生徒たちに嫌いと言われるんだ。こんな悲しいことはない」

 

 「しかし、実績は確かにあるんですよ?」

 

 「そんなものただの飾りだ。もっと視野を広げてみたらどうだ?」

 

 「………正直私にはよくわかりません。実績がなければ頼られるということ自体ないはずです。それ以外に必要なことって………?」

 

 

 氷川が困惑するのもわかる。

 今の社会は実力主義。

 成果を出す人間が生き残り、それ以外は地位を失う。

 そういう意味では藤村は前者だと言える。

 成果を残しているからこそ役職を担い、人に意見することが許される。

 

 

 だがそれは目に見える実績でありそれまでの過程は無視したものだ。

 

 

 わかりやすく、例え話をしよう。

 

 あるところに野球が大好きな少年がいるとする。

 その少年は、超強豪として有名な少年野球チームに入団しようとしているそうだ。

 

 だが実はそのチームの内面は、体罰や恐喝はお構いなし。

 人格を失うほどの練習としごきで強制的に作り上げられ、野球の楽しさも忘れてしまった軍団だと知ったら彼の考えは変わるだろうか?

 

 答えは人それぞれによるだろうが、オレは人格を失うまでそのチームで野球をやりたいとは思わない。

 そして、この例え話の肝は "野球の楽しさ" という言葉にある。

 野球の楽しさ、つまり野球をどれだけ深く理解し好きであるかということだ。

 そんな感情を持たず、ただただ白球を追いかけるスポーツなんてなんの魅力も感じない。

 野球を愛しているプレーヤーがやるからこそ、観戦してエキサイトする。

 

 このことを藤村に置き換えると、奴に育てられた生徒達の大半は、外面は完璧だが内心は腹黒く暴力や恐喝で育ったためか性格が常軌を逸脱する人間が社会に輩出されていることになるはずだ。

 

 これが上っ面な成績というもの。

 こいつらが社会に適合するなんて到底思えない。

 

 

 「要するに、自分がどれだけ慕われる指導をしてきたかどうか。そして、人に感謝することのできる人材に育成することができたかが重要なんだよ」

 

 「なるほど………。あなたの考えはよく分かりました。つまり、藤村先生にはそれが圧倒的に欠けているというんですね?」

 

 「そういうことだ。まぁこればっかりは卒業生に聞かないとわからないことなんだがな」

 

 「いえ、実際にその通りだと思いますよ。中身のない人間は、いずれ破滅の道を歩みます」

 

 「…………お前、結構冷たいんだな」

 

 「事実です。だからこそ、私たちがそうならないようにちゃんとした指導が必要なんです」

 

 

 覇気のこもった言葉から、その重大さが伝わる。

 教師藤村の更生。

 これは、思っていたより壮大な計画になりそうだ。 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 昼休みを迎え、オレは学園長室に直行する。もちろん昼飯を持参して。

 

 

 「入るぜ」

 

 

 例の如く荒っぽく扉を開けるが、そこに学園長の姿は見えない。

 アポを取っていないとはいえ、いつも暇そうにしている男が………。

 思わず呆気にとられる。

 

 

 「学園長なら、しばらく学校にはいないわよ」

 

 

 背後から聞こえた声に驚き、距離をとる。

 

 

 「あなたも学園長に用があるのかしら?」

 

 

 金髪の憎き女、白鷺千聖が笑顔で話しかけてきた。

 しかし、その笑顔はどこか冷たさを感じる。

 

 

 「お前には関係ない」

 

 「まぁ、私にとってどうでもいいことは確かのようね」

 

 「さあな。もしかしたらオレのおかげでこの学校が前より過ごしやすくなるかもしれないぜ?」

 

 「ふふふ、そんな時が来るなんてことはないでしょうから、笑って聞き流しておくわね♪」

 

 「……………好きにしろ」

 

 

 いちいちかんにさわる奴だ。

 こんな一面を見ているからこそ、奴が子役からの有名人というのも不思議に思う。

 この性格でよくもまぁ人間関係を作れるものだ。

 ───いや、奴だからこそというべきだろうか。

 演技を極めてきた人間にとって、偽りの自分を演じるなんてことは容易いはず。

 性格が良くて人当たりもいい女優。

 それが、テレビ関係者が下した白鷺千聖に対する性格分析の結果なんだろう。

 それが偽りの姿だということも知らず─────。

 

 

 「お前は学園長に何の用だ」

 

 「あなたには関係のないことよ?それでも知らないのなら教えてあげても構わないけれど?」

 

 「…………興味ねぇよ。オレの失言だ。適当に聞き流せ」

 

 「えぇ、そのようね」

 

 2人の間に異様な空気が流れる。

 帰ろうにも帰れない。互いが一歩も引けない状況にある。

 この場から去ること、すなわち己の敗北を意味することだと自負しているのだ。

 

 沈黙を破ったのは奴だった。

 

 

 「あなたが手に待っているのってお昼ごはんよね?」

 

 「だったらなんだ」

 

 「よかったら、私とお昼を共にしていただけるかしら?」

 

 「……………はっ?」

 

 

 奴の言い放った言葉の意味がわからない。

 そんなオレに構わず奴はを続けて話す。

 

 

 「本当は花音と2人きりだったところをあなたも一緒にどうかと聞いてるのよ?」

 

 「んな上から目線で話す相手と飯なんて食えるか、ボケッ」

 

 「確かに、それもそうね…………」

 

 

 拒否するように顔を背けると、奴は手を顎に添え考えるそぶりを見せる。

 数秒の沈黙の後、何かを閃いたと言わんばかりの不敵な笑みをこぼす。

 

 

 「何がおかしい。これ以上オレに用がないならここから消えやがれ。目障りだ」

 

 「そう………。なら、言い方を変えるわ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 「……………!?」

 

 「喉から手が出るほど欲しいでしょ?もちろん、花音に聞こうとしても無駄よ。あの子は絶対に話さない」

 

 

 そんな美味い話があるはずがない。

 だが、一つでも多く情報を手に入れたいのは確かだ。

 

 話す前からオレはもう詰んでいたようだな─────。

 

 

 「…………いいだろう。その提案にのってやる」

 

 「ふふふ、月島くん?あなたはあくまで立場上頭を下げてでも教えを乞う必要があるのよ?その誠意は見せてくれるのかしら?」

 

 「お前の情報が本当で、且つオレが藤村に敗北したその時に土下座でもなんでもしてやるよ」

 

 「それは楽しみね♪」

 

 

 奴は不適な笑みを浮かべ、言葉を続ける。

 

 

 「なら、早速行きましょう。花音を待たせてるの」

 

 「あぁ、そうだな」

 

 

 オレはそう言い、奴は背を向け歩き出しその後ろをついていく。

 その間にも言葉を交わすことはない。

 『月島 奏と白鷺 千聖は犬猿の仲だ』という噂はもう学校中に広まってるらしく、すれ違う生徒から驚きの視線を送られる。

 オレだってこんな奴と関わるのなんてごめんだ。

 だが今はそんな悠長なことを言ってられない。

 怒りのこもった握り拳を引っ込め、オレはただ奴の背中を追う。

 

 校舎を出て陽の当たる中庭に出ると、茶色のベンチに腰掛ける松原の姿が目に入る。

 弁当には手をつけず、ウトウトと首を動かし眠りに入っている様子だった。

 

 

 「花音、お待たせ」

 

 「……………すぅ」

 

 

 松原が呼びかけに応じることはない。

 

 

 「花音………!花音…………!」

 

 「…………ふぇ?」

 

 

 奴が肩を強く揺するとようやく反応を見せる。

 目覚めかけの両目を擦り、大きく腕を伸ばす。

 

 

 「花音、お目覚めかしら?」

 

 「………うん。今日はなんだか日差しがポカポカしてて気持ちいいんだ〜」

 

 「………花音?……………まだ寝ぼけているのかしら?」

 

 

 オレと奴がこの場にいることに驚かないということは、松原は奴の姿しか目に入っていないようだ。

 目がまだしょぼしょぼとしている。

 

 

 「よう、松原。居眠り中に悪いな。邪魔するぜ」

 

 「あ〜〜月島くん…………いらっしゃ…………い?」

 

 

 そこで言葉を区切り、異変に気付いたかのように目を大きく見開く。

 オレと奴の姿を交互に顔を動かし目視する。

 寝ぼけた頭が完全に働き、この場の異様さに驚き、腰を抜かし尻餅を着く。

 

 

 「ふえっ、ふえぇ〜〜!?こ、これはどういう状況なの〜〜!?」

 

 

 松原の華奢な体から大音量の声が放たれる。

 近くにいた生徒たちは一点にその方向を向く。

 松原は真っ赤に染まった顔を隠し、奴はやれやれと言った様子で苦笑いする。

 松原の予想通りの反応に、オレはフッと小さく笑う。

 

 

 「こいつが藤村について、いろいろ教えてくれるらしくてな」

 

 「何度も彼と顔を合わせるのはアレだったから、今日この場ですることになったのよ」

 

 「こっちだってまっぴらごめんだ。こいつとさしで話すのもアレだから、松原に仲裁役になってもらって欲しい」

 

 「ごめんなさいね、花音。ついでと言ってはなんだけれど、あなたからもお話ししてあげて欲しいの」

 

 「う、うん、わかった!なんとなくだけど………」

 

 

 松原の心配をよそに、オレはベンチに腰掛けビニール袋から菓子パンを取り出し一口かじる。

 それと同時に、2人も弁当に箸をつける。

 

 

 「それじゃあ、早速だが聞かせてもらおうか。お前は藤村の何を知っている?」

 

 

 オレがそう問いかけると、奴は弁当のおかずを口に含み不適な笑みを見せながら答える。

 

 

 「知っている、というより、思い知らされたと言うべきかしら」

 

 「どう意味なの?千聖ちゃん?」

 

 「藤村先生は頭髪が目立つ色の人に対しては厳しく指導する。そうよね、月島くん?」

 

 「あぁ、その通りだ」

 

 「藤村先生が過剰に頭髪チェックをする理由は、あの人の過去にあるのよ」

 

 「藤村先生の………過去?」

 

 

 松原は首を傾げ疑問を投げかける。

 

 

 「あいつがこの学園の出身の時の話か?」

 

 「えぇ、そうよ。この学園の図書室には過去の卒業生のアルバムを見ることができるの」

 

 「そうなんだ!図書室にはあまり行かないから知らなかったなぁ」

 

 「学園創立から現在まで、何十年もの記録が残っているのだけど、ある年だけそのアルバムが残されていないのよ」

 

 「それってまさか…………」

 

 「そう、月島くんが察した通り、藤村先生の代のものよ」

 

 

 自分の過去を知られたくないがために、学園に保管されてるアルバムを処理。

 藤村の本気度が窺える。余程知られたくないのだろうか。

 

 ここで、一つの疑問が浮かんでくる。

 そのアルバムが無くなったことで、図書室内で問題にならなかったのだろうか?

 図書委員をはじめ、毎度のように本を読みに来る連中なら必ず気づくはずだ。

 奴が気づいたくらいだからな。

 

 

 「なるほど、それは確かに思い知らされるに値する決定的な証拠だ」

 

 「すごいよ千聖ちゃん!よくそのことに気づいたね!」

 

 「ふふふっ、お役に立てたのなら光栄だわ」

 

 

 認めたくはないが、認めざるを得ない。

 これは貴重な情報だ。

 

 

 「ついでと言ってはなんだけれど、もう一つ教えてあげるわね」

 

 「あぁ、聞かせてもらおう」

 

 「藤村先生は頭髪チェックにとても厳しい………そうよね、花音?」

 

 「う、うん。私も何度も注意されたことがあるんだ………」

 

 「それはオレもこいつも同じだ」

 

 「あの人がそうなったのにもちゃんとした理由があるわ。これは、疑念じゃなくて確信よ」

 

 「自信満々な面しやがって。そう言い切れる根拠があるんだな?」

 

 「えぇ、もちろん。それは、ある人物の影響が大きいわ」

 

 「ある人物………?」

 

 「その人の名前は─────」

 

 

 

 松原たちと昼飯を共にした後は、更なる情報収集を行った。

 無くなったアルバムの捜索、当時の藤村を知る人間からの証言…………どれもオレ一人で行ったものではない。

 松原や氷川、そして中学時代に親しかった友人たちにも協力を依頼し、確たる事実も手に入れた。

 

 計画を練りはじめてから2週間。

 

 執行する時はきた。

 

 

 

 さぁ、いっちょ始めようか。

 

 

 

 放送室から学校中にオレの声が流れる。

 

 

 「風紀委員長の下僕から通達だ。3年A組担任の藤村 梅子(ふじむら うめこ)。至急2年A組の教室に来るように。アンタの思想をひっくり返してやるから覚悟しろよ─────」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 放課後を迎えた教室には、オレと藤村以外誰の姿もない。

 外は夕日が立ち上り、部活に勤しむ生徒たちは皆練習に明け暮れている。

 

 

 「それで、私に何の用かしら?」

 

 

 藤村がやや高圧的に言葉を投げかける。

 ここに呼び出された意味なんてわからないような様子だ。

 

 

 「まず始めに、ノコノコと丸腰でこの場に来てくれたことに感謝するぜ」

 

 

 オレはそんなことを意にも介さず返答する。

 藤村はオレの言葉使いに不満そうな顔を見せる。

 

 

 「あなたはまず礼儀を覚えなさい。私に歯向かうなんて10年早いわ」

 

 「くくっ。そう思ってオレは、歯向かう為の武器をいくつか用意した」

 

 

 オレはそこで言葉を区切り、手に持っていた茶封筒から一枚の写真を取り出した。

 藤村はその写真を凝視し、驚きの表情を見せる。

 

 

 「─────っ!!」

 

 「気づいたか?これは、アンタの学生時代の写真だ」

 

 「どこでそんなものを…………!?」

 

 「学園で保存されていたアルバムは処理されていたからな。学園長に頼んで拝借させてもらった。他人の、ましてや学園長の所有物ともなれば処分出来なかっただろ?」

 

 

 藤村はオレに詰め寄り、手に持っていた写真を強奪しビリビリに破り捨てた。

 こうなることも想定内。

 写真なんて携帯端末を含め、パソコン内にも保存済み。

 オレがその気になればいつでもばら撒くことも可能だ。

 

 

 「黒髪のおさげでメガネ。今のアンタとは大違いだ。誰がどう見ても、3年A組担任の学生時代の写真だとは思わないだろうな」

 

 「黙りなさい!!」

 

 「それに、こんな証言もある。昔アンタの担任をしていた教師からだ。"自分の下の名前が嫌いで、もし呼ばれでもしたらとても腹を立てていた" ってな」

 

 「黙りなさいと言っているのが聞こえないの!?!?」

 

 

 二人きりの教室に藤村の怒鳴り声が響き渡る。

 どれだけ威圧されようが、オレは言葉を続けた。

 

 

 「まだまだ情報はあるぜ?耳の穴かっぽじってよぉく聞けよ?」

 

 「…………いやっ!!いやあぁぁぁぁ!!」

 

 

 発狂する藤村に、オレが手にした情報を次々と告げる。

 信じられないと言った時には、その証言を録音したものを流し、それでも納得しない時には、オレと証言者が写った写真を見せ、確たるものに仕立て上げた。

 

 そんな奴だが、オレにも異議を唱え始める。

 

 

 「あ、あなたはどうなのよ!?髪を染めているのは事実!!あなたに言われる資格なんてないわ!!」

 

 「あっ?お前、ちゃんとコンタクト入ってんのか?その細い目をさらに細めてよーく見てみろよ?」

 

 「何を言って…………あっ─────」

 

 

 オレはこう言われることも予想していた。

 金のメッシュを入れた髪について言われたら、オレは完全にアウトだ。

 

 そのためにオレは、この日に備え1週間前から()()()()()()()()()

 ワックスで固められたヘアスタイルも捨て去り、七三分けで整え真面目さを演出する為に伊達眼鏡もつけた。

 

 オレが悪く言われる筋合いはどこにもない。

 

 

 「人に指導する時は、まず自分が手本となれる存在であれ。お前は在籍したこの学園で何も学ばなかったのか?」

 

 「…………………っ!」

 

 「アンタの指導方法は、実績を残せても人間関係は最底辺だ。お前は間違えたんだ」

 

 

 藤村に抵抗する余力はもう残っていない。

 腰を抜かして床にへたり込み、ピクリとも動かない。

 失神寸前の状態だ。

 そんな奴を、さらにどん底に突き落とす証言を言い渡す。

 

 

 「最後になるが、これはアンタが憧れる名女優からの言葉だ。もうその名前はわかっているな?」

 

 「…………し、白鷺…………千聖………」

 

 

 顔を下に向け、囁くような声で放ったその人物の名前。

 白鷺千聖はこの事を知っていた。 

 

 これは、2週間前の昼休みの回想だ。

 

 

 『その人の名前は─────()()()()

 

 『つまりは、お前ってことか』

 

 『なんでそう確信できるの?』

 

 『藤村先生は、他の誰よりも私に対して厳しく指導した。私の容姿が羨ましくて仕方なかったのでしょうね』

 

 『自信過剰だ、ボケッ』

 

 『そう言えるのも、確信しているからよ?藤村先生は、私のSNSの公式アカウントをフォローしているわ』

 

 『なんでそれがわかるの?』

 

 『私もあの人に一矢報いようと考えたからよ。こっちも色々調べていたのだけれど、もうその必要も無くなったわ』

 

 『そうだな。全部オレが担うんだからな』

 

 『あの人は私対して何かしら特別な感情を抱いている。間違いないわ。もし、この事を武器にするならこう付け加えて頂戴』

 

 

 「白鷺千聖はこう言っていた。"あなたのような芋女に、私の真似事なんてできっこないわ"ってな。全く、どこまでも傲慢な奴だ」

 

 「うそよ…………うそよ…………!!」

 

 「なんなら、本人の音声でも流してやろうか?オレが言った方より何百倍も迫力があるぞ?」

 

 

 そう言って携帯をチラつかせると、藤村は顔を背け拒否の反応を示す。

 そんな奴の頭を鷲掴みにし、さらに追い討ちをかける。

 

 

 「つまりはそういう事だ。()()()()()()()()()()()()()

 

 

 目には涙を浮かべ、体の力は完全に抜け切っていた。

 こんな人間でも、昔はもっとまともな存在だったろうに。

 哀れだ、全く。

 

 

 「いいか?まずは自分の姿に目を向けろ。そしてこれまでの行いを戒めろ。今のアンタにオレたちを指導するなんて1()0()()()()

 

 

 鷲掴みにした頭を離し、吐き捨てるように言った。

 その後のやつがどうしたのかは知らない。

 明日、藤村がどうなっているのか実に見ものだな。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 結果から言うと、奴の容姿は何も変わらなかった。

 少し期待はしたんだが、実に残念だ。

 

 

 「あっ、月島くん!おはよう!」

 

 「おぉ」

 

 

 朝の挨拶運動の最中、松原が歩み寄ってきた。

 その背後には、奴の姿もあった。

 

 

 「藤村先生は、何も変わってないように見えるのだけど?」

 

 「あぁ、もう手遅れだったみたいだ」

 

 「月島くんでも無理でしたか…………」

 

 

 オレの隣に立つ氷川が大きくため息をつく。

 

 

 「氷川も何ヶ月か前に直談判したんだろ?前に学園長室で話してた時、"学園長も"って言ってたもんな?」

 

 「気づいていましたか…………」

 

 「だが、今回の件で変わったこともある。藤村をよく見てみろ」

 

 

 そう促すと、3人は奴に視線を向ける。

 特に注意することもなく、ただボーっと突っ立っているだけ。

 まるでカカシそのものだ。

 

 

 「何も…………言わないね」

 

 「相当応えた様子だったからな。とりあえずオレは()()()()()()()。そういうことでいいか?」

 

 

 オレは過去にその言葉を言った人物に顔を向ける。

 そいつもそれを察したようだ。

 

 

 「えぇ、及第点にでもしといてあげましょう」

 

 「お前に借りを作るのは嫌だったんだがな…………」

 

 「でも、それがなかったら今頃あなたは土下座をしていたのよ?私たちの目の前で」

 

 「あの、それはどういう………?」

 

 

 オレと奴の会話の意味が分からず、氷川と松原は首を傾げる。

 

 

 「お前たちが知る必要はない。とりあえず、一件落着だ。今後またあいつが不穏な動きをすることはないだろうが、注意しててくれ」

 

 

 今回の一件でわかったことがある。

 それは、人はどうしても変えることが難しいということだ。

 藤村の姿を見る限り、以前のような光り輝くような金髪ではなくなった。

 おそらく、一度は黒染めしたんだろう。

 

 だが、自分の姿を鏡で見て過去のトラウマを思い出した。

 藤村 梅子という自分の存在を好きになれずにいる。

 

 奴がそんな自分を好きになれる方法。

 それは、偽りの自分であり続けること。

 己が好む姿でいること。

 

 そんな人間が、今まで見下してきた生徒から事実を突きつけられてどんな気持ちなんだろうな。

 

 

 もう、知ったこっちゃない。

 

 

 

 奴にはもう、恵まれた人生を歩めるはずもないのだから。




いつもより長めでした。


次回から1話限りの事件を繰り広げる予定です。
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