高嶺の華と路傍の花   作:山本イツキ

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今日は4月1日です。

山本イツキは改名し、ジャイアント・イツキとして執筆します!





第7輪 彷徨う綿毛

 時は黄金週間(ゴールデンウィーク)

 日々の授業の褒美として神が授けた憩いの休日を、皆は何をして過ごすのだろうか?

 

 ダラダラと家で満喫すること奴もいれば、部活動で汗を流す奴もいるだろうな。

 あぁ、小旅行もいいな。海外旅行も捨てがたい。

 

 

 だが実際のところオレはいずれも当てはまらない。

 

 

 なら何をしていたと思う?

 

 

 …………まぁノーヒントじゃあ分からなくて当然か。

 

 なら、勿体ぶらず教えよう。

 

 

 

 答えはこれだ─────ワン、ツー、スリー。

 

 

 

 オレは、とある場所にいる。

 手提げ鞄には必要書類と証明写真、そして印鑑と筆記用具が入っていて、右手には受験番号が記された紙を握り締めている。

 

 オレを含めた100人近い人数が一斉に、頭上のモニターに視線をやった。

 人それぞれ反応は違っているが、オレはどちらかと言うと喜びに位置する感情を抱く。

 

 モニターには、オレの受験番号が記載されており、それは合格を告げていた。

 

 

 「奏〜、試験どうだった〜?」

 

 

 試験会場まで引率してくれたおふくろが、軽い口調で聞いてきた。

 オレはそんなおふくろに、グッドサインを見せながら答える。

 

 

 「余裕だったぜ」

 

 「おぉ!流石はアタシの息子だ!アホだけど馬鹿じゃないだけのことはある!」

 

 「…………それ、褒めてるのか?」

 

 

 オーバーリアクションで喜ぶおふくろに少々の怒りを覚える。

 受けた本人より親の方が喜ぶってどんな状況だろうか。

 

 

 「まぁ何にせよよかったな。これでどこにだって行けるじゃん」

 

 「まぁな。それにしても、こんな簡単に取れるのか?()()()()()()()()

 

 

 そう、ことばどおりオレはこの黄金週間でバイクの免許を取りに来ていた。

 校則に "バイクの免許を取ってはいけない" と言う項目はなかったから、氷川にとやかく言われることはないはずだ。

 国だって16歳になったなら、中型バイクの免許を取ることが法律で認められている。

 

 だが、国で認められていても金銭面でオレは大きな足枷がついていた。

 教習所に通う金なんてなかったし、おふくろも『学生の頃に飛び込みで受けた』なんて言うから試してみれば…………。

 常識さえあれば受かるんだなぁ、これが。

 

 全く、簡単すぎてため息が出る。

 

 

 「本当にいいのか?あのバイクで。アタシのお古なんだけど」

 

 「別に構わないぜ?お古っつっても、そこまで乗ってねぇから綺麗だし色だってオレの理想とぴったりだ」

 

 「それならよかった!なら、帰ってすぐ運転するか?」

 

 「あぁ、もちろん」

 

 

 数十分後には、オレの手元に発行された免許証が渡される。

 試験会場を出て、おふくろが待つ車の中に乗り込み、家へと走り出した。

 

 

 ………………

 

 ………

 

 

 「アンタ、最近学校はどうなんだ?」

 

 

 突如、おふくろが話を振ってきた。

 

 

 「別に、特に変わりねぇよ」

 

 

 オレは素っ気なく返すが、おふくろは白い歯を見せながらケラケラと笑い声を上げた。

 

 

 「特に変わるわけないだろ?先生に楯突く生徒がさぁ」

 

 「…………はぁっ!?知ってたのかよ!?」

 

 「当たり前だよ。ちなみにだけど、花咲川の先生にアタシの同級生がいてな」

 

 「マジかよ……………」

 

 「色々聞いてるけど、聞きたい?」

 

 「なんで事の張本人がその話を聞かないといけないんだよ!」

 

 「はははっ、確かにその通りだ」

 

 

 オレが試験に受かった喜びからか、おふくろはずっと上機嫌だ。

 機嫌が悪いと一言も話さないし、接しづらいから正直めんどくさい。

 このままの状態でいてくれたら最高だ。

 心の底からそう思う。

 

 

 「先生も感謝してたぜ?藤村ってのは気にくわないから清々したってな」

 

 「そうか。だが、そいつは傍観を決め込んでいただけだろ?そんな奴に感謝されても嬉しくはないな」

 

 「大人の世界ってのは難しいもんだ。言いたくても言えない、そんなことで溢れてる」

 

 「理不尽極まりないな」

 

 「アンタも、少しは大人になりなよ」

 

 「大人になる、ねぇ…………」

 

 

 その言葉が妙に引っかかる。

 オレにとって大人は、せこい生き物の象徴だと思う。

 年功序列で全ては決まり、下のものはずっと迫害され続ける。

 藤村がいい例だ。

 あいつのようにデカい態度を取り続ければ必ず天罰が下る。

 出る杭は打たれるとはよくいったものだ。

 

 もちろん、それに該当しない大人もいるだろう。

 だが、全てを信用していいわけではない。

 人間誰しも、自分が一番。

 誰しも他人に構う余裕があるとは限らない。

 

 

 「まぁ、おふくろが近所に自慢できるぐらいにはならないとな」

 

 「おぉっ!よくいった!!母さん鼻が高いぞ!」

 

 

 おふくろは突如、両手で握っていたハンドルを右手だけに持ち替え、離した左手をオレの右肩に伸ばし思いっきり叩いてきた。

 ジンジンと痛みが広がり思わず、ウッと声が出る。

 

 上機嫌でも、おふくろが危険なことがよーくわかった。

 自分の怪力を少しは自覚して欲しいものだな。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 家に帰ってすぐに予め購入していた真紅のヘルメットとグローブを装着し、同色のバイクに跨り発進した。

 木々が生茂る並木道を颯爽と駆け抜け、風を置き去りにする。

 普段何分もかけて歩く道は、バイクにかかれば一瞬。

 実に清々しい気分だ。

 

 幼少期に憧れた仮面ライダーもこうやってバイクに乗って行く先々で事件を解決していた。

 昔のオレは本当にピュアだったと思う。

 ヒーローになりたい、なんてはしゃいでたガキが、今や学校の悪役になっているなんて誰が想像してたんだろうか。

 いや、元不良のおふくろに育てられていた時点で運命は多少決まっていたのかもしれないな。

 万が一にありえないがオレに子供ができたなら、おふくろやオレみたいにならないで欲しい、心底そう思う。

 

 

 そう考えているうちに30分ほどが経った。

 オレが向かった先は、夏場に人で賑わう "海" 。だが、ここには泳ぎに来たわけじゃない。

 最近、柄の悪い連中が昼夜問わず屯していると噂を耳にしたから、ちょいとこらしめにきただけだ。 

 

 あと数ヶ月もすれば真夏日がやってくる。

 そうなれば海の利用者は増え、時期に始まる海の家のバイトで荒稼ぎしようというのがオレの策略。

 不良たちのせいで中止にでもなればたまったもんじゃない。

 邪魔する奴は誰であろうと許さねぇ。

 

 今のうちに釘を刺してやる。

 

 

 バイクを路肩に止め、辺りを見渡す。 

 

 …………………

 

 …………

 

 残念なことに屯するは不良共(ターゲット)は見当たらない。

 

 

 「ちっ、ハズレだったか」

 

 

 吐き捨てるようにそう嘆き、長い階段下の砂浜に目を向けるとある光景を目にする。

 三人組の厳つい男たちが一人の少女を取り囲み、何かを話している最中だ。

 いや、話していると言うにはあまりに男たちが一方的に見える。

 

 高圧的な態度を察するに、ナンパだな。間違いない。

 その光景を見てオレはそいつらの元へ一目散に走り出した。

 

 音もなく近づき、不意打ちとばかりに一人の男の脇腹に蹴りを入れる。

 残りの二人は同時に首根っこを掴み、互いの顔面をぶつけて地面に叩きつけた。

 かかった時間はおよそ5秒。声を出す隙すら与えない速攻で、既に三人はピクリとも動かない。 

 

 

 「ナンパする暇があるなら、黙ってど○森でもやってな」

 

 

 二人の後頭部を離し、囲まれてた少女に声をかける。

 

 

 「ふぅ〜〜、危なかったなぁお嬢さん。今後は一人でこの付近は歩かないように─────」

 

 「あの………もしかして、月島くん?」

 

 

 ナンパされてた少女の顔をはっきりと見ていなかったが、間違いなくオレの名前を口にした。

 オレの知り合い?いや、知り合いと言っても限りがある。

 恐る恐る振り向くと、その少女は嬉しそうな表情を見せた。

 

 

 「あっ!やっぱり月島くんだ!」

 

 「………………なんでお前がこんなところに?」

 

 

 髪と同じ水色のワンピース姿のその少女の正体は、同じクラスの松原だった。

 オレが疑問を投げかけると、松原は照れた表情で答える。

 

 

 「実は、この辺りで有名なカフェがあって…………」

 

 「道に迷ったってか」

 

 「うんっ、そうなんだ…………」

 

 

 何がどうなったら砂浜まで歩み寄るのか。

 こんなところにカフェなんてないだろ普通。

 正直、この前松原から聞いた話は嘘だと思っていたが改めなければならない。

 

 こいつは正真正銘の方向音痴だ。

 

 

 「はぁ………仕方ねぇ。このまま放ってたら国境を超えかねないからな」

 

 「そ、そんなことしないよ!………多分」

 

 「携帯までバグらせるお前に説得力なんてねぇよ。目的地はどこだ?」

 

 「えっと、"Charlotte" って言う喫茶店なんだけど…………」

 

 「しゃーろっと?変わった名前だが…………少し待ってろ」

 

 

 ズボンの右ポケットから携帯を取り出し、検索をかける。

 ヒットした場所を凝視すると、そこはここから3キロも離れた場所にあった。

 

 

 「…………松原、ちょっと携帯見せてみろ」

 

 「えっ?う、うん、いいよ」

 

 

 松原から手渡された携帯からマップを開く。

 現在地は…………名古屋?

 あぁ、今度は渋谷か。次は小樽……………。

 

 

 「…………インターネットが壊れたか?」

 

 「それは世紀の大事件だよ!!」

 

 

 いやいや、そう言わざるを得ない動きを見せてるのは誰の携帯だよ。

 現在地が瞬きする間にどんどん変わっていく。

 なにこれ気持ち悪っ。

 群れにはぐれた小魚かよ。

 

 

 「ったく、頼りになれねぇ携帯だな」

 

 「う、うん………」

 

 「今、上でバイク止めてるから乗れよ。送るぞ」

 

 「えぇっ!?も、申し訳ないよ!!」

 

 「いいから来い。また変な族に絡まれたらどうしようもできないだろ?」

 

 「そ、それはそうだけど…………」

 

 「なら決まりだ。ほら、行くぞ」

 

 

 

 半ば強引に松原を連れ走り出した。

 そういえば、あの三人組は…………。

 まぁ、どうでもいいか。

 察が見つけて保護なり拘束なりするだろ。

 

 奴らが同じ過ちを繰り返さなかったらいいんだがな。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 バイクに乗れば3キロの道なんてあっという間だ。ホントつくづく免許をとって良かったと思う。

 

 この道のりで驚いたこと、というか面白い発見があった。

 それは、後ろからオレの腰に腕を回していた松原の締め付ける力が強い事だ。

 華奢な体でどんな腕力だよ、まったく。

 このままジャーマンスープレックスをされるんじゃねぇかと、本気でヒヤヒヤしていたんだからな。

 

 まぁ、こいつの性格じゃあ不可能か。

 ナンパしてくるヤロォなんて容易く撃退できる力があるのにもったいない。

 これじゃあ宝の持ち腐れだ。

 

 

 「ついたぞ松原…………っておい、いい加減力緩めろ。ジャーマンかますつもりか」

 

 「だ………だって…………」

 

 

 そう言うと、松原は目を潤ませる。

 だが確かにオレがスリップでもすれば、松原の肌は傷だらけになってただろうな。

 怖くなるのも無理はない。

 半袖でスカート姿のやつをバイクに乗せるのは間違いだったか。

 

 

 「ともかく目的地には着いたんだ。帰りは一人で─────」

 

 「あ、あのっ!よかったら一緒にお茶しませんか?もちろん、お金は私が出すよ!」

 

 

 オレの言葉を遮り、松原は案を持ちかける。

 

 

 「奢らせる為に人助けしてるわけじゃねぇんだ。悪いが、その申し出は受け取れねぇよ」

 

 「私は、月島くんとお話がしてみたいなぁと思って…………その…………」

 

 

 モジモジと言葉に詰まる松原。

 

 

 「そう言うことなら話は別だ。オレもお前に多少興味がある」

 

 「ほ、ホント!?なら一緒に行こうよ」

 

 

 松原に連れられて店に入る。

 シックな雰囲気を漂わせる内装は、やはりオレのような乱暴者には合わん。

 コーヒーは好きだが、他所で飲みに行くなんてことはしない。

 どうも落ち着かないからな。

 

 中は店主(マスター)とオレたちのみだが…………こんな状況で経営が成り立つのか?

 

 オレたちはカウンター席に腰掛け、メニューを開く。

 

 

 「ロイヤルブレンドと、日替わりケーキを一つお願いします」

 

 

 松原はメニューを見ずにすぐ注文する。

 口ぶりからして、何度かここに来たことありそうだな。

 …………だけど道に迷うんだな、こいつ。

 

 

 「オレはマスターに任せる。オススメなのを頼むぜ」

 

 

 マスターは無言で頷くと、準備に取り掛かった。

 適当な注文で申し訳ないとは思う。

 だが、正直メニューを見ても何がなんだかさっぱり分からん。

 

 キリマンジャロ?

 フランボワーズ?

 なにそれ美味いのか?ってレベルでだ。 

 

 所詮インスタントコーヒーか缶コーヒーしか飲んだことない男「ヤロォ」には無理な話だったな。

 

 

 「それで、オレと話したいってどう言う意味だ?」

 

 

 そう問いかけると松原は俯きながらも笑顔で答えた。

 

 

 「今まで男の子とあまり話したことなかったから、いい機会だなぁと思って………」

 

 「男なら世の中にいっぱいいるぜ?」

 

 「その………男の子の友達って、月島くんしかいないから………」

 

 「そうか。オレも女の友達って松原しかいないな」

 

 「…………えっ!?」

 

 

 松原は驚いた表情を見せる。

 まぁ、事実そうだしな。

 氷川は友達と言うより "仕事仲間" と言う印象が強い。

 気兼ねなく話せる女と言ったら、今のところは松原しか思いつかない。

 

 

 「なんだ?以外だったか?それとも嫌だったか?」

 

 「ううん、違うよ!………嬉しいよ」

 

 

 ニコッと笑みを浮かべる松原はどこか、嬉しさというか、喜びを露わにしてる感じがする。

 やっぱ変わってるよな、松原は………。

 

 しばらくするとマスターが頼んだメニューを持ってきた。

 松原には例のものを、オレにはオリジナルブレンド&日替わりケーキという名のものを差し出した。

 

 

 「お前、それ紅茶か?」

 

 「うん。すごくいい香りで好きなんだあ」

 

 「ふーーん」

 

 「き、興味ないんだね………」

 

 「生憎な。上品なものは性に合わねぇ」

 

 「そんなことないと思うけどなあ………」

 

 「オレはこのコーヒーを堪能させてもらう」

 

 

 香りは…………コーヒーだな。

 ─────うん、コーヒーだ。それ以外の感想はない。

 ソムリエ風にちょっとカッコつけてみただけだ。

 そのコーヒーを少し口に含む。

 

 ─────おぉ、なんだこれ!

 

 今までに飲んだことのない味だ。

 インスタントとも缶コーヒーとも違う。

 ちゃんとしたコーヒーって感じがする。

 これをスーパーとかで製品化したら絶対に買い占めるな、間違いなく。

 

 …………この味をどう表現したらいいんだろな。

 自分の語彙力の無さに、恥ずかしくなってきた。

 

 

 「どう?気に入った?」

 

 「………あぁ、悪くない」

 

 「そっか!喜んでくれたなら嬉しいなぁ♪」

 

 

 日替わりケーキも無駄に甘すぎず、苦すぎず程よい感じだ。

 喫茶店………いいな、気に入った。

 

 

 「また良い店があったら教えてくれ、松原」

 

 「うん!えへへ、月島くんと共有できて私、嬉しいよ」

 

 「んな大袈裟な」

 

 「また一緒にカフェめぐりしようね!」

 

 「あぁ、約束する」

 

 

 松原にそう誓い店を出る。

 カフェめぐり………巡るのは構わないが道案内するやつがアレだから少し不安だ。

 

 帰り道、再び松原を後ろに乗せたんだが………やっぱジャーマンかますぐらいの力で締め付けてきやがった。 

 

 "こいつと二人乗りは絶対にしない"。

 

 オレは心の中で勝手に誓った。




※今日はエイプリルフールです。 
 改名なんて致しません。

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