高嶺の華と路傍の花   作:山本イツキ

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第8輪 欲の蕾

 「はぁっ?盗聴器と盗撮カメラが女子トイレで見つかっただぁ?」

 

 「……………!!」

 

 

 この事件が発覚したのは、黄金週間が明け平穏な日々が始まってすぐの頃だった。

 唐突に呼び出された学園長室で、この事件を告げられたオレと氷川は驚きを隠せない。

 

 オレの場合、こんなお嬢様学校でそんなバカをした犯人に呆れただけだが氷川は違う。

 眉間にシワを寄せ、殺意すら感じるオーラを身に纏う。

 目を閉じ無言で腕を組むその佇まいからも、氷川の怒りの度合いが窺える。

 その姿はまさに鬼神の如し。恐ろしい奴め。

 

 

 「おそらく、創立以来初の出来事だろうね」

 

 「当然だな。もし過去に事例があったら、それはそれで一大事だろ」

 

 「それがね月島くん。極一部だが、同性同士の恋愛なんて起こりうることもあるんだよ」

 

 「はっ、そんなものどこに需要があるんだか…………」

 

 「─────そんなことはどうだっていいんです!!!!」

 

 

 無言を貫いた鬼神がとうとうキレた。

 あまりの形相に学園長はゴホンッと咳払いし、話を戻す。

 

 

 「話が脱線してしまったが、二つが見つかったのは2Fの女子トイレ。何かに見られてる気がすると感じた女子生徒が探し出し、発見した」

 

 「…………私も使ってる場所ですね」

 

 「しっかし、犯人もバカだな。こんなマネしてただでは済まないだろうに」

 

 「目的は不明だが、学園長としてこの事件を見過ごすわけにはいかないつもりだ」

 

 「目的なんて一つしかないだろ?その撮った写真や音声をヤラシイ事に使うに決まってる。犯人は(ヤロォ)だな」

 

 「…………考えたくありませんね」

 

 

 氷川の顔が青ざ、組んだ腕に更なる力が加わる。

 どこの男に利用されてるか分からないからこそ気色悪い。

 

 そこから最悪のシナリオは─────。

 

 

 「それで、この件は学校に伝えるつもりなのか?」

 

 「他の生徒がパニックを起こす可能性もあるからこれは極秘事項でお願いしたい。くれぐれも内密にね」

 

 「わかりました。必ず犯人を見つけ出してみせます」 

 

 「あぁ、よろしく頼むよ」

 

 

 学園長はそう告げ、オレたちは部屋を後にする。

 そこから並んで歩いているが、二人して会話は無い。

 

 学園長からこの話を聞いた時から、眉間のシワが寄ったままだ。

 よほど切羽詰ってるらしい。

 ここは話題を変えて空気を変えたいところだが…………気難しいこいつには、変に気を使わないほうがいいか。

 

 オレはストレート、ど直球で尋ねる。

 

 

 「お前、犯人のことどう思う?」

 

 「最低で卑劣………同じ学校の生徒として恥ずかしくて仕方ありません」

 

 「今は未成年だが、これは立派な犯罪行為だからな」

 

 「ええ、決して許せません」

 

 

 氷川の揺るがない意志がビシビシと伝わる。

 被害者になってるだろうし、仕事仲間として助けないとな。

 

 

 「とりあえずどうする?場所が場所だけに、オレは立ち入れないぞ?」

 

 「そうですね………なら、あなたは男子生徒から聞き込みをお願いします。私はこの学校の女子トイレ全てを見て回ってきますので」

 

 「了解だ。なら、1時間後ぐらいに2年A組の教室で待つ」

 

 「わかりました。では、お願いします」

 

 

 氷川に別れを告げ、対の方向へ歩き出す。

 盗聴、盗撮………何故その行為に及ぶのか全く理解できない。

 

 はっきり言うが、オレにとって女とはクソみたいな生き物だと思っている。

 いや、思っていたと言ったほうが正しいか。

 この学園に入学して時を過ごし、オレの中の考え方が少し変わった。

 クソみたいな女の中でも、松原や氷川のような比較的まともなやつもいると気づかされた。

 中学の頃のオレが聞いたら驚くだろうな。

 

 

 まぁ、二人のどちらかと恋愛に発展するなんてことは絶対にありえない。

 

 そう断言できる。

 

 オレの色恋沙汰は中学で終わったんだ。

 人を好きになることに恐怖すら感じる。

 

 だが、こっから先、恋愛に発展しなくとも二人のような性格の女が現れて、仲良くなれることを願いたいな。

 

 

 そして、聞き込み等々を終え教室に戻る時には約束の時間を迎えようとしていた。

 氷川はオレより数分遅れで教室に入ってきた。

 手には袋詰めされた数個の白い物体が見える。

 どうやら回収には成功したようだ。

 

 

 「すみません、少し遅れてしまいました」

 

 「いや、ご苦労だった。まぁお前の様子を察するにかなり深刻な状況にあるようだな」

 

 「ええ、正直驚きです」

 

 

 袋に詰められていた白い物体を机の上にばら撒くと、氷川は指を刺しながらどこにあったかオレに伝える。

 

 

 「これが3F教室近くの女子トイレ。それが視聴覚室の隣にある女子トイレ。そっちが1F職員室の隣にある女子トイレに仕掛けられていました」

 

 「結構ばらけてるな」

 

 「はい、かなり小型だったので探すのに苦労しました……」

 

 

 大きさはだいたい5センチ程度。

 触れてみるとなんだか塗装されたような感触がある。

 色が色だけに、真っ白の空間のトイレ内だと気付かないだろう。

 これだけの数を氷川はよく探し出してくれた。

 

 

 「もしかしたら、学年関係なしの上に、教師陣も被害にあってる可能性が高いな」

 

 「職員室近くのトイレに仕掛けられたとなると、そう考えざるを得ないですね」

 

 「認めたくはないが手際が異常に良かったんだろうな。それに度胸もある」

 

 「これだけの数を一体どうやって…………?」

 

 「考えられるのは複数犯。休日か平日の夜にでも忍び込むのなら一人でも可能だが…………数が数だけに、ちーっとばかし大変かもな」

 

 「こんな犯罪行為を、複数人で行ってるなんて…………」

 

 「"風紀委員の名の下に成敗致す!" ってか?」

 

 「ふざけないでください!」

 

 

 何もない空間を握り、敵を切る仕草をすると氷川は声を荒げた。

 

 

 「…………でも、確かにその通りですね」

 

 

 すると今度はクスッと笑って見せた。

 

 

 「忙しないな」

 

 「ほ、放っておいてください!」

 

 「あっ、そうだったそうだった。今日はもう遅いから明日で構わないが─────」

 

 「無視しないでください!」

 

 「各部活動の女子更衣室もチェックしといた方がいい。被害箇所が()()()()()()()()()()()()からな」

 

 「…………!!な、なるほど」

 

 「んじゃあ、今日は解散てことで。回収したそのちっこいのは学園長にでも渡しといてくれ。頼んだぜ」

 

 

 氷川の返事も聞かず一目散に教室を後にする。

 更衣室の確認は明日でもいいと言ったが、一箇所だけでも負担を減らしてやるか。

 

 オレは目的地へ向かい走り出す。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 「よぉっ、邪魔するぜ」

 

 

 花咲川学園ではあまり知られていない畳部屋。

 和を感じるその内装は日本を象徴すると言っても過言ではない。

 ここを使用するのは主に茶道部だ…………と氷川から耳にした。

 

 茶道部に入部してるあいつもきっとここにいるはずだ。

 

 例の如く、ノックも挨拶も無しに襖を力強く開ける。

 作法も何も知らないヤンチャ者がズカズカ入ったにも関わらず、この部屋にいる唯一の生徒、松原花音は正座で満面の笑みを浮かべ迎え入れた。

 

 

 「あっ、月島くん!いらっしゃい!」

 

 「急に押しかけて悪いな」

 

 「ううん、大丈夫だよ。何かあったの?」 

 

 

 首を傾げる松原の真正面に腰掛け、胡座をかく。

 

 

 「少し聞きたいことがあるんだが………緊張しなくていいから、包み隠さず話してくれ」

 

 「う、うんっ!」

 

 「まずは茶道部の活動についてなんだが、普段は制服か?」

 

 「うん、そうだよ。でも文化祭の時は着物を着たりすることもあるよ」

 

 「週にどのくらい集まっている?」

 

 「基本は自由かな?部員は14人で、男の子と女の子でちょうど7人ずつだよ」

 

 

 全員が活発に活動してるわけではなさそうで且つ、文化祭は年に一回。

 茶道部の女子部員としての被害は、限りなくゼロに近いと言ってもいいだろう。

 

 

 「なるほどな。ちなみにだが、お前はいつもどこの女子トイレを使っている?」

 

 「……えっ?ふえぇぇぇ!?」

 

 

 ─────おっと、率直に聞きすぎた。

 今の言い回しだと、オレが変態だと自白してるようなものだな。

 

 

 「えっと………結局、何が知りたいのかな…………?」

 

 

 松原は怯えるようなそぶりをみせる。

 まぁ、普通こんなこと言うはずもないな。

 仕方ない、ここは正直に答えてやるか。

 

 「これは機密事項なんだが仕方ない。実は、この学園で盗聴と盗撮をしてる人間が現れた」

 

 「ええっ!?そ、それは犯罪なんじゃあ………」

 

 「あぁ、学園長も笑って見過ごす気はないだとよ」

 

 「つまり、女子トイレのどこかにその盗聴機器が見つかったってこと?」

 

 「そういうことだ」

 

 

 松原は困惑した表情を見せる。

 氷川とは違って怒りといった感情はなさそうだ。

 どちらかと言うと酷く怖がっているような、そんな感じ。

 自分も被害に遭っているだろうか、まぁ当然の反応だな。

 

 

 「一刻も早くとっ捕まえられるように頑張るけど、これから女子トイレ使うときは注意するようにな」

 

 「うんっ!わかった!」

 

 「ところでだが、お前、今までずっと何をしてたんだ?」

 

 

 唐突な疑問を松原に投げかけた。

 一人で使うには広すぎるこの空間だけに少々違和感を感じる。

 

 

 「今日は部活動が無いからだよ」

 

 「はぁっ?部活動もないのに来たってのか?」

 

 「家だとあまり集中できないから、ここでよく勉強してるの」

 

 

 確かに入ってきた時から勉強してる姿は見えたが………テストはまだ先なのに、今勉強する必要があるのか?

 

 

 「オレからしたら、意味がわからんな」

 

 「ええっ?この勉強の内容が?」

 

 「違げぇよ。天然ボケかますな」

 

 「ふぇっ!?じ、じゃあ、勉強してる私に対してってこと?」

 

 「そう、それだ」

 

 

 オレが人差し指を向け肯定すると、松原は考えこむように首を傾げる。

 

 

 「うーん………"将来のため"、かな?」

 

 「将来ため、か…………考えたことないな」

 

 「ええっ!?」

 

 「全てが行き当たりばったり。もっとオレが利口なら、もっと楽な生き方ができただろうな」

 

 「でも、何も考えずに今を生きるっていうのも大事だと思うよ。私は、将来のことばかり気にして時々苦しい思いをすることもあるから………」

 

 「人それぞれ、ってことか。オレからしたら松原が羨ましいよ」

 

 「ええっ!?な、なんで!?」

 

 「上手くは言えねぇけど、なんか青春をしてる感じがする」

 

 「青春………?」

 

 「友達と遊び行ったり趣味に没頭したり部活に行ったり…………なんでオレはこうなっちまったんだか…………」

 

 

 

 自分で言ってて悲しくなる。

 中学の時は、毎日毎日クラスメイトたちとバカやって、笑い合って、本当に楽しかった。

 女との関わりはなかったけど、それでもオレなりに最高の日々を過ごせていたと思う。

 

 今のオレときたら…………相変わらず女を毛嫌いし、女子どころか男子生徒ですらオレに近づかなくなった。

 

 もう一度、あの日々を取り戻せたらいいのにな─────。

 

 

 「今からでも遅くないよ!きっと!」

 

 「松原…………」

 

 

 俯くオレに、松原は "大丈夫だよ" と言わんばかりに声を上げた。

 ホントっ、こいつは変わっている。

 こんなオレにも松原は他の人と同等に扱う。

 

 白鷺千聖もきっと、この一面を気に入ってるんだろうな

 方向音痴なのがたまに傷だが…………。

 

 

 

 「…………悪いな。恥ずかしい姿を見せちまった」

 

 「うんうん、大丈夫だよ。私にもできることがあったらなんでも言ってね!」

 

 「ああ、その時は頼む」

 

 

 松原の為にも、一刻も早く犯人を見つけ出さないとな。

 心の褌を締め直し、部屋を後にした。




コロナウイルスの影響でしばらくは定期的に更新できそうです
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