アムロの帰還   作:ローファイト

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ご無沙汰しております。
漸く、書くことが出来ました。
短編扱いです。



謎のパイロット

宇宙世紀0123年3月下旬

コスモ貴族主義を掲げたクロスボーン・バンガードは、フロンティア・サイド(新サイド4)のコロニーフロンティアⅣに対し電撃襲撃を成功させ、その後わずか1か月でフロンティア・サイドのすべてのコロニーから連邦軍を駆逐し占領掌握を完了させる。

そして、総帥マイッツアー・ロナはコスモ・バビロニアの建国をこの地に宣言したのだった。

 

 

現在宇宙世紀0123年4月上旬

フロンティア・サイドよりクロスボーン・バンガードの攻勢から辛くも脱出した連邦軍所属練習艦 スペース・アークは難民船を装い月へと撤退の途についていた。

フロンティア・サイドは月からも近い上に、月にはまだクロスボーン・バンガードの手の者が入っていない都市がいくつか存在した。

さらにその都市にはF91を開発したサナリィの本部もあり、連邦軍の大部隊も駐留している。

 

スペース・アークには先の戦いで巨大モビルアーマー ラフレシアをF91を駆り、打ち破ったシーブック・アノー少年と同級生のセシリー・フェアチャイルドが同乗していた。

 

しかし、月に向かう道中にクロスボーン・バンガードの残党狩りに遭い、襲われる。

残党狩りの戦艦二隻は難民船を装ってるスペース・アークにお構いなしに攻撃を仕掛けて来たのだ。

スペース・アークは元々サナリィ所属のモビルスーツ試験運用艦だ。

大した武装もない上に、既に稼働できるモビルスーツは残っておらず、半壊したF91一機のみ。戦う戦力はもはや無かった。

 

さらに飽くまでも難民船を装っているため、ミノフスキー粒子の散布を行っていなかった。

もしミノフスキー粒子を散布し、隠密行動を取りつつ移動したならば、見つかった場合、戦闘行為とみなされ、攻撃の対象となるからだ。

また、ミノフスキー粒子の散布は状況によってはそこに戦艦がある事を逆に知らしめてしまう。

ミノフスキー粒子をそこら中に乱発されてる大規模な戦闘宙域やその前後で在れば有効ではあるが、何もない宙域でのミノフスキー粒子の高濃度散布はそこに何かがあると容易にしらしめてしまい、このような単艦での撤退では逆効果になる事が多い。

 

今回の場合、難民船の信号を出してるにも拘らず、攻撃を仕掛けられる場合はどちらが有効なのかは結果次第だが。

 

 

残党狩りを必死に振り切ろうとするスペース・アーク。

何れにしろ難民船を主張し続けるためにも、偶然居合わせた味方に見つけてもらうためにも、今更ミノフスキー粒子の散布は出来ない。

そして、敵はもはやミノフスキー粒子の散布も行わず堂々とスペース・アークを追う。

余程自信があるのか、既にスペース・アークに戦力無しと見抜いているのか、難民船と分かって攻撃を開始しているのか、何れにしろ怠慢であろう。

 

 

スペース・アーク艦長代行のレアリー・エドベリ中尉は神にもすがる思いで、全速離脱の指示をだす。

残党狩り戦艦はクロスボーン・バンガードの主力モビルスーツ、ベルガ・ダラス3機とデナン・ゾン9機の中隊規模の部隊を投入する。

スペース・アークは万事休すであった。

 

 

 

 

そんな状況下で、スペース・アークに所属不明の音声通信が入って来たのだ。

比較的若い男性の声だった。

『貴艦は追われてるようだが、貴艦の所属次第では援護する』

しかも、最新技術であるはずの高出力レーザー通信でだ。

高出力レーザー通信はミノフスキー粒子の影響が通常通信に比べ受けにくいとされているが、それは飽くまでも比較した場合である。

ただ、今回はミノフスキー粒子の散布もされていない宙域である。

通信はクリアーだった。

 

レアリー中尉はその通信を受け、通信先の位置を検索するようにブリッジオペレーターに指示を出すとともに、現在の状況を素直に答える。

通信の相手が敵か味方もわからない相手ではあったが、今さら敵が増えたところでこの絶望的な状況が変わるわけもない。味方で在れば助かる可能性が高くなるからだ。

「本艦は地球連邦軍海軍戦略研究所(サナリィ)所属、モビルスーツ試験運用艦 スペース・アーク。現在多数の民間人を収容し撤退中、クロスボーン・バンガードを名乗る賊に襲撃されています。先の賊によるフロンティアサイド襲撃によりモビルスーツを全て失い、戦力は皆無、救援願う」

 

『了解した。直ちに援護に向かう』

返事と共に相手からの通信が切れる。

 

その返事を聞き、レアリーは何故か緊張が幾分か取れる思いをし、次の指示をブリッジに出す。

「所属は不明、最新型の高出力レーザー通信を送って来たわ。どういう事?私達を救援に………副長、ただいまより所属不明の通信者を友軍と認識。観測士、敵モビルスーツをマークしつつ友軍観測、目視観測360度密に!」

 

 

その間も徐々に迫る敵モビルスーツ部隊、さらに威嚇するかのような敵艦からの艦砲ビーム照射が艦をかすめる。

 

所属不明通信先の部隊をまだ確認できない。

 

「観測士!友軍はまだなの!」

 

「目視確認できません、敵艦砲ビーム照射停止、当艦は間もなくMS部隊の射程圏内です」

 

「……さっきのはまさか、敵の通信?私達は遊ばれている?」

レアリーは友軍が来る気配がない現状に、先ほどの通信は敵がふざけて送って来た通信だと脳裏によぎり、冷や汗を背中に感じながら声に出ていた。

 

しかし……

「敵MSの一機が停止……二機!超高速で何かが敵MS部隊に突入いたしました!!」

ブリッジの観測官の一人がそう叫び報告する。

 

「何かとは何ですか!報告は明確に!」

 

「敵MSよりさらに小型の……これは戦闘機!?……たった一機の白い戦闘機が敵MS部隊と交戦開始いたしました!!」

 

「戦闘機?たった一機で?映像送りなさい!?」

 

「望遠映像映します」

 

観測士がブリッジ正面スクリーンに映しだした映像には、10m強の純白の戦闘機が敵モビルスーツ部隊と交戦してる様子だった。

だが……それも束の間、見る見るうちに敵のモビルスーツは半壊し、行動不能に陥って行くのだった。

そして、1分も経たずして12機有ったモビルスーツ部隊は全機沈黙した。

 

「………な、なんなの?あの戦闘機は?………ジェガン系が全く歯が立たなかったあの敵小型モビルスーツ12機をたった一機の戦闘機で……」

レアリーは茫然と戦闘が終了した空域映像を眺めていた。

信じられない光景を目の当たりにしていたのだ。

他のブリッジ要員も同じくであったのは言うまでもない。

 

あの敵小型モビルスーツはフロンティアサイドの防衛戦力であるジェガン系などの連邦モビルスーツを手玉に取り、あっという間に制圧したのだ。

同じく、連邦製小型モビルスーツのヘビーガンすら上回る性能だった。

それをたった一機の戦闘機が、その敵モビルスーツ12機全てを1分も経たずして戦闘不能にしたのだ。

これだけでもあり得ない光景だったのだが、さらにどうやらモビルスーツの核融合炉を爆散させず、敵を行動不能にさせただけの様なのだ。

そんな事は普通では考えられない。

いや、常識では考えられない事なのだ。

 

戦闘機の性能だけでなく、パイロットの技量も全く想像が出来ない程凄まじいものだったのだ。

 

 

『敵モビルスーツ部隊は沈黙させた。敵艦がモビルスーツを回収する間に、この宙域を離脱することを勧める』

そして、先ほどの所属不明通信者、いや、目の前の光景を作り出した戦闘機のパイロットから通信が送られてくる。

 

「あ……その、失礼いたしました。援軍感謝いたします。命拾いいたしました」

レアリーは呆けていたのだが、その声で我に返り、所属不明パイロットに礼を言う。

 

『ああ、では……』

 

「その、失礼ですが、貴殿はどこの所属の部隊なのでしょうか?助けていただいたという事は友軍とお見受けいたします」

レアリーは所属不明パイロットが通信を切ろうという前に、大声を出し早口に所属を聞いた。

 

『………民間軍事会社所属だ』

相手は一瞬の沈黙の後、答える。

 

レアリーはその答えを聞いて、通信制限をかけるように通信士に指示する。

そして、レアリーは艦長席にある小型の通信機器を耳に装着し、レアリーと民間軍事会社所属と名乗った所属不明パイロットと一対一の通信で再び話し始める。

民間軍事会社所属と聞いての処置だった。

レアリーはこれから話す内容を部下にも聞かれるわけにも行かないことになるだろうと……

 

「もしよろしければ、当艦に着艦され、補給でも受けていただければ、……補給物資は豊富にあります」

 

『機密で動いている身だ』

 

「幸い私共のサナリィは連邦の中央に位置する組織ではありません。貴殿の情報は報告いたしません。ですから……その、すみません。本音を申し上げますと貴殿にこの艦の防衛をお受けしていただけないかと、……防衛依頼料としてお支払いいたします」

民間軍事会社は確かに存在するが、正式登録された企業ではない。

本来、モビルスーツは連邦軍しか所有出来ないのだ。

何らかの理由でモビルスーツを保持が許されたりと表向きはカモフラージュされている。

それが大手軍事会社だったり、星間運送会社だったり、財閥や財団も民間軍事会社を保有してるケースは多々あった。

さらに、連邦軍ではそんな民間軍事会社を採用し利用する事もあるのだ。

公然の事実として存在していたのだ。

レアリーはその事実を知った上で、この民間軍事会社所属を名乗るパイロットに道中の護衛依頼をしたのだった。

 

『……行き先は?』

 

「月面都市フォンブラウン近接の私共の研究所です。月面上までで離脱して頂ければと……」

 

『了解だ。条件にこの機体には触れない事、研究所出身という事でおわかりだろう。……それと情報提供も願いたい』

 

「わかりました。契約は必ず履行いたします」

 

此処で一度通信を切り、白い戦闘機がこの艦に着艦する事を部下に告げ、格納庫の一部に立ち入り禁止区域設け、さらに白い戦闘機には整備班に触れさせないようにと指示を出す。

 

 

真っ白の戦闘機がスペース・アークに接近着艦コースをとる。

その姿を望遠映像で眺めるレアリー。

 

しかし……その戦闘機のコクピット下に描かれてるエンブレムを見て……驚きのあまりその目は大きく見開かれていた。

 

赤字にAに似た一角獣を象ったエンブレムを……

 

 

 

そうこれは……連邦軍の長い歴史の中で最強のパイロットが使用していたエンブレムだった。

一年戦争では若干15歳という年齢で数多の強敵を倒し、グリプス戦役では各地の火消し役となり、30年前のシャアの反乱の際にはネオ・ジオン総帥シャア・アズナブルを討ち取るという快挙を成し遂げ……そして行方不明となった人物。

レアリーはその伝説のパイロットの名を口ずさむ。

「…アムロ……レイ」

 




2話連続投稿です。

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