宇宙世紀0123年8月26日
新サイド6とサイド1を元に共和制連合国家、宇宙連合が建国。
正式名称を宇宙連合共和国としなかったのは、これからも全ての国や地域を受け入れ、連邦に変わる地球圏統治機構を目指すという意思の表れだった。
初代首相にオードリーが就任、宇宙連合軍の総司令にブライトが就任した。
現在、大統領制を採用しておらず、完全な三権分立とは至っていない。
将来的には市民選挙により大統領を選出する予定ではあった。
宇宙世紀0123年8月28日
サイドが独立宣言を行ってから1週間後。
宇宙世紀0100年1月に自治権を放棄してから凡そ23年半の時を経て、ジオン共和国の名を復活させる。
宇宙世紀0123年8月30日
独立宣言を行ったサイド2、新サイド5は正式にコスモ・バビロニアに対し恭順の意思を示し、傘下に下る。
この事によりコスモ・バビロニアは宇宙における最大勢力となる。
宇宙世紀始まって以来、地球圏には地球連邦、コスモ・バビロニア、宇宙連合、ジオン共和国の4つの国家統治機構が存在することとなった。
宇宙連合は建国に当たって先ず行った事は、スペースノイドに対しての締め付けともとれる連邦政府による不平等な法令や税制の解消であった。
それらの不平等な法令や税制は、地球よりも豊かになりつつあるコロニーにおいて、スペースノイドが日常生活を送る上で大きな弊害ではなくなってきてはいた。
だが、今日(こんにち)に至るまでアースノイドとスペースノイドの軋轢を生み出す一助を担い、スペースノイドの心の奥底に劣等感を与え続けて来た象徴でもあった。
これらの解消はスペースノイドにとって長年の願いであり、地球連邦に勝利したと同等の意義があった。
それ以外にも、早急に解決すべき問題は山積みである。
実務的な問題として、新サイド6とサイド1の法令関連の統合だ。
新サイド6とサイド1の各サイド独自の法令などが存在し、それらを調整し新たな統一した法律が必要不可欠となる。
現在、市民生活を支えるライフラインは、各サイドは自国で全て賄える体制を元々整えており、今の所、大きな混乱は起きてはいないが、経済活動においては諸所の問題が起き始め、改善や復旧が急務であった。
地球連邦から独立するという事は、地球連邦との国交も遮断され、経済的結びつきは全て遮断されることになる。地球との経済活動はそれほど大きくは無いため当面は大きな問題とはならないが、月との経済活動遮断は影響がでる事は間違いない。
特に交易関連は大きなダメージを拭えない。
決して多くはないとはいえ月との輸出入に頼っていた物も幾つかある。
地球連邦と国交を閉じてしまった現在、輸入品に関しては自国での生産や増産にシフト、輸出品に関しては、生産調整又は代替えを行う様に各界と連携をとり、問題解消へと進んでいる。
交易関連企業のダメージだけでなく、長距離輸送・旅客業界は大打撃を受ける事は想像に易い。
幸いにも、木星間輸送については元々新サイド6のコロニー公社は独自ルートで行っていたため、モビルスーツや艦船の燃料に関する問題は今の所クリアーしている。
但し、この状況下では木星間輸送船団には今まで以上の護衛戦力が必要となるだろう。
現行は国交断絶状態ではあるが、地球連邦との窓口を開く事となるだろう。
それは捕虜交換交渉だった。
現在、宇宙連合は多数の連邦軍捕虜を得ていた。
ここでの捕虜とは、コンペイ島での戦闘と新サイド6とサイド1での独立の際に捕えた連邦軍の将兵の事である。
コンペイ島でブライトの呼びかけにより恭順した艦内の将兵の中で、恭順に添わなかった者は含まれていない。
彼らは移送という形で、コンペイ島に残っていた輸送船で月面都市に既に帰している。
連邦軍将兵の捕虜の返還に対して、こちらからの要求は独立運動の中で逮捕移送された人物、サナリィ関係者の逮捕者の返還だ。
この交渉のテーブルに地球連邦が付くと言う事は、宇宙連合を一つの国家として事実上認めた事にもなり、何らかの形で国交を開く事ともなる。
地球連邦政府は、今のこの情勢下ではこの交渉に乗るしかないだろう。
一つに、連邦宇宙軍はコスモ・バビロニアが宇宙要塞ドーザを使った巨大規模のブービートラップと言える自壊大爆発で大打撃を受けた事。
二つに、宇宙での拠点を一気に失い、宇宙での軍事バランスが完全に崩れた事。
三つに、宇宙連合側が捕縛した連邦軍将兵の捕虜の人数が多い事。
コンペイ島での戦闘では死者は少なかった。
撃墜された戦闘艦船は1隻、モビルスーツ3機であり、残った12隻の艦船と75機のモビルスーツは行動不能にし、乗組員はほぼ全員無事であるからだ。
コンペイ島だけで2万人近くの捕虜が出ている。
そこに新サイド6とサイド1での捕虜を含めると3万人強の捕虜がいることになる。
四つに、連邦宇宙軍から宇宙連合へと離反者が出ている事。
ブライト・ノアの勇名によるものが大きい。
さらには、コスモ・バビロニア建国から始まる失敗続きの地球連邦軍上層部への不信感や、コロニー出身者への不遇など、潜在的に不平不満を持った将兵などの受け皿ともなった。
大きくは宇宙連合建国宣言前に7隻、宣言後に5隻程、宇宙連合側に艦ごと離反者が流れる。
また、輸送船に乗って亡命を希望する将兵まで出て来る始末だった。
ここまでは新サイド6首脳陣やオードリーとバナージが考えていた以上の成果であった。
この流れはブライトが提案した戦略を元に進めたものだった。
そのブライトの戦略の肝は宇宙要塞コンペイ島の攻略にあった。
モノケロースの戦力を新サイド6から連邦軍を追い出すために使うのではなく、コンペイ島と戦闘を行うことによって、新サイド6の連邦軍駐留軍をコンペイ島へと誘い出し、新サイド6から引き離すことで、独立をより優位に進める事が出来ると踏んでいたのだ。
最悪、コンペイ島に大戦力が存在した場合、戦闘を行うふりだけをし、全力で逃げる事も考えていた。
しかし、コンペイ島の占領が成功すれば、新サイド6の独立が優位に進むだけでなく、連邦の将校等を取り押さえる事ができれば捕虜交換交渉で、ジョブ・ジョン以下月に残してしまったサナリィの職員達を取り戻せるとも踏んでいた。
更には、L5宙域から連邦軍を完全に排除できれば、新サイド6の防衛に厚みが出来、サイド1とサイド3とも同盟が結べる可能性も出て来る。
ブライトの戦略について、新サイド6側では最初は無謀な賭けではないかという反対意見が半数以上占めた。
だが、オードリーやバナージと共に更に詳細に戦略戦術を練り、反対意見派を納得させるだけのプランを提示したのだ。
それが新サイド6とサイド1との連合国家プランだ。
このプランが成功すれば独立国家として、地球連邦やコスモ・バビロニアと同じ交渉のテーブルに付けるだけの力を得られ、その意義は誰が見ても余りにも大きい。
その後、オードリー達はサイド1と粘り強く交渉を行い、サイド1連邦軍駐留艦隊の排除の協力に連合国家構想をまとめ、今日に至ったのだ。
宇宙世紀0123年9月2日。
コスモ・バビロニアのグラナダ駐留軍は月面都市アンマンを占領。
連邦宇宙軍が大きなダメージを受け再編する間の隙を突いた、シアノ・マルティス大佐率いる少数精鋭部隊での電撃作戦だった。
「リリィ少尉、ロンギフローリムの具合はどうだったか」
グラナダ駐留艦隊司令官 シアノ・マルティス大佐は、横に並び歩くコスモ・バビロニア軍特殊部隊の赤を基調とした隊服を着た黒髪の年若い東洋の血が入っているだろう美女に声を掛ける。
リリィ少尉がアンマン攻略の際搭乗したニュータイプ用モビルスーツ、ロンギフローリムは初実戦だった。
ロンギフローリムはラフレシアプロジェクトの一環で開発された試作モビルスーツである。
一対多数の殲滅戦を想定し作成されたモビルアーマー・ラフレシアは規格外の性能が故、ラフレシアの性能に合わせて強化処置を施した鉄仮面 カロッゾ・ロナしか操る事が出来なかった。
このロンギフローリムはそのラフレシアをスケールダウンさせ、モビルスーツに置き換えるための試験機の位置づけだ。
ラフレシア同様にネオ・サイコミュシステムが搭載されてはいるが、ラフレシアの死角を埋めていた125本のテンタクルロッドは廃止され、12基のファンネルが搭載されている。
全高はこの時代のモビルスーツとしては大きく18m、ラフレシアの花弁ユニットの様な大型バインダーを四つ装着されている。
外観は、モビルスーツ本体はビギナ・ギナ系列の姿をしているが、大型バインダーを装着した姿は、嘗てネオ・ジオンが開発したクシャトリヤを彷彿させる。
だが、赤と白を基調とした塗装を施された装甲はロンギフローリムの名前の由来どおり、テッポウユリの花にも見えない事もない。
「シアノ大佐、申し訳ございません。まだ、スペック性能の70%も引き出せずに……」
リリィ少尉の切れ長の目は、シアノ大佐の仮面の奥にある瞳を一瞥し、申し訳なさそうに項垂れる。
「君は十分やってくれてる。焦りは禁物だ」
シアノは慰めるかのような口調でそういい、リリィの肩にポンと手をやる。
リリィ少尉はネオ・サイコミュシステム搭載モビルスーツ ロンギフローリムのパイロットに抜擢されるぐらい優秀なニュータイプの素養があったが、今回の作戦では、ロンギフローリムのネオ・サイコミュシステムに適応しきれず、技術士官が提示した性能を発揮させることが出来なかった。
だが、最先方に立ち、連邦軍防衛隊モビルスーツを単騎で6機落とすという実績をあげ、アンマン陥落に十分貢献していた。
ロンギフローリムの初実戦としては、十分な戦果と言えるだろう。
コスモ・バビロニアによるアンマン占領は連邦に対してと言うよりも、アナハイム・エレクトロニクスへの警告であり、脅しであった。
5か月前にアナハイム・エレクトロニクスは地球連邦から要請を受け、地球のオーガスタ基地等3か所に大規模な次世代型小型モビルスーツ生産工場を立ち上げたのだ。
急ピッチで建てられた生産工場は、この10月始めには稼働開始の予定であり、この工場がフルに稼働すれば、コスモ・バビロニアにとっても脅威になるだろう事は明らかだ。
連邦にばかりに肩入れするなという警告と共に、アンマンのアナハイム・エレクトロニクスの工場をコスモ・バビロニア系のモビルスーツ部品生産拠点とするためであった。
コスモ・バビロニアは、モビルスーツ自体は自身の傘下であるブッホ・コンツェルンの子会社であるブッホ・エアロダイナミックス社に生産させていたが、部品はアナハイム・エレクトロニクスに大きく依存していた。
モビルスーツを増産させるためにも、部品自体も増産させる必要があったのだ。
しかもグラナダにはコスモ・バビロニア系のモビルスーツを生産するための工場(ブッホ・エアロダイナミックス社)が既に稼働状態であり、月での量産機の増産を始めていたのだ。
「シアノ大佐……父と母は……」
リリィ少尉は項垂れたままシアノに聞きづらそうに、自分の両親について尋ねる。
「健康状態は問題なく、健やかに過ごしていると報告にある。君の事もある。私からも扱いは丁重にと指示を出している。生活には不自由しない様にね」
「ありがとうございます……父と母に会う事は?」
「父君と母君のスパイ容疑が晴れていない。私の一存では難しい。ただ君の活躍次第では、閣下も恩赦を与えて下さるだろう。そうすれば顔を合わす事だけでなく、釈放もあり得る」
「……はい、必ず」
リリィ少尉の両親はコスモ・バビロニアがグラナダ占領後、不穏分子として逮捕されたのだ。
彼女の父は医者、母が看護師として夫婦で小さな診療所を営んでいた。
父の名はカミーユ・ビダンに母の名はユイリィ・ビダン。
彼女のフルネームはリリィ・ビダン。
嘗てグリプス戦役でZガンダムを駆りエウーゴを勝利に導いたカミーユ・ビダンと、幼馴染で同じくグリプス戦役でカミーユと共に戦い抜いたファ・ユイリィ、2人の22歳になる一人娘だった。
リリィは母親であるユイリィの反対を押し切って連邦軍大学医学部へ進学し、地球に降りていた。
元々は父の診療所を継ぎたいという純粋な思いだった。
だが、連邦軍大学の内部では、差別意識や権力闘争が根付いており、スペースノイドであったリリィは辛い思いをしたことは一度や二度ではなかった。
そんな中、コスモ貴族主義と出会い、その思想に染まって行ったのだった。
そして、両親に黙ってクロスボーン・バンガードに参加し、今に至る。
コスモ・バビロニア軍の前身であったブッホ・コンツェルンの私設軍隊 クロスボーン・バンガードは、優秀な将兵を得るために、連邦軍大学や連邦軍士官学校を大いに利用していた。
コスモ貴族主義教育を施した若者を連邦軍大学や連邦軍士官学校に送り込み、最新の軍事教育を受けさせていたのだ。
また、連邦軍大学や連邦軍士官学校内部から、スペースノイド出身者やコスモ貴族主義に賛同しそうな若者を引き抜く事も盛んに行っていた。
リリィ・ビダンはその後者だった。
リリィはクロスボーン・バンガードに入隊し、程なくしてシアノ・マルティス大佐にニュータイプ能力の素養を見初められ、直属の特殊部隊に抜擢されたのだった。
リリィはそのまま5カ月半前のコスモ・バビロニアの独立戦時にグラナダ攻略戦に参加し、初実戦を経験する。
リリィは直ぐに、両親の元へ駆けつけ、自分がコスモ・バビロニアの将兵となり、連邦政府からグラナダを開放した事を伝えたのだが……。
良かれと思っていたリリィは、父カミーユに生まれて初めて叱りつけられたのだ。
リリィは父がこれ程怒っている姿を見た事がなかった。
リリィにとって父は甘やかしてくれる存在であって、このように叱りつけられた事は一度もなかったのだ。
口うるさく叱ったり注意する役目は母ユイリィであった。
リリィはそのまま両親と喧嘩別れのようになるが、しばらくして、シアノ大佐から両親が不穏分子として逮捕された事を伝えられる。
リリィは何かの間違いだと、両親に合わせてくれるようにと、頭を下げ頼み込むが、シアノ大佐の管轄外であるため、難しいと、カミーユ夫妻の娘であるリリィに対しての疑惑を回避するのが精いっぱいだったとの返答だった。
更に、シアノ大佐はリリィに対し、功績を上げれば、両親を開放することが出来るだろうとも伝えている。
リリィはこの事により、より一層、コスモ・バビロニア軍人として、励むことになる。
しかし……
これは裏でシアノ・マルティス大佐が全て仕組んだ事だった。
連邦軍大学在学中のリリィをコスモ貴族主義に洗脳し、コスモ・バビロニアに引き込む際に、担当官に経歴は全て調べられていた。
シアノ大佐は、リリィの経歴書を目にした途端に、仮面の奥底の目は見開かれ、次には口を歪ませていた。
リリィがあの36年前のグリプス戦役の隠れた英雄と名高いカミーユ・ビダンの娘である事を、この当初から知っていたのだ。
カミーユはグリプス戦役に置いて、若干17歳という年で華々しい戦果を挙げ、エゥーゴを勝利に導いたモビルスーツパイロットだったが、一般的にカミーユ・ビダンの名は知られていない。
カミーユがグリプス戦役終結と同時に再起不能となったこともあるが、カミーユが所属していたエゥーゴが第一次ネオ・ジオン抗争(アクシズ戦役)後に実質の解散となり、そのほとんどが元連邦軍艦隊に再編入されたからだ。
その際、エゥーゴに所属の連邦軍人らは閑職等に追いやられることになり、実績も公けにはされなかった。
そのいい例がブライト・ノア本人だった。
グリプス戦役や第一次ネオ・ジオン抗争での勝利の立役者であったのだが、エゥーゴ解散後は再び閑職に追いやられる羽目になったのだ。
連邦政府にとって、エゥーゴとティターンズの戦いはスペース・ノイドと地球至上主義との戦いでは無く、飽くまでも連邦軍内部抗争として収めたのだ。
スペース・ノイドとアースノイドとの確執をこれ以上広げないための処置だった。だが、その傷はあまりにも大きく、内部抗争を止められなかった当時の連邦政府の上層部は責任を取らされる羽目になる。
グリプス戦役は連邦軍にとっても汚点としか言いようがない戦いであった。
よって、連邦軍からすれば、正式な軍人でもない少年兵であるカミーユの実績などとても公表できるものでは無かった。
但し、戦績は記録としては残っており、また、カミーユの名は当時の連邦軍上層部やエゥーゴ所属の連邦軍人、はたまた、敵であったはずのネオ・ジオンの残党などからは記憶として残ることになる。
話を戻す。
シアノ大佐はグラナダ占領後にリリィに次いで、そのカミーユを懐柔し引き込もうとしたのだが、カミーユは首を縦に振らないどころか、シアノ大佐に対し反抗的な態度を取る。
シアノ大佐はカミーユに対して、懐柔策から180度方向転換をし、妻のユイリィと娘のリリィを人質にし、カミーユを脅したのだ。
当のリリィは自分がカミーユに対しての人質などにされているとは思いもしていない。
だが、カミーユはこれには流石に従うしかなかった。
シアノ大佐はカミーユの優れたニュータイプ能力を利用し、今後現れるだろう強敵に捨て駒同然に当てようとしていたのだ。
当初は、無敵と称されたモビルアーマー ラフレシアを操る鉄仮面 カロッゾ・ロナを打ち破った何者かに当てようとしていたのだが……、その何者かの正体は突き止められなかった。
差し当たって、強敵として再び現れたバナージ・リンクスに当てる算段をしていたのだ。
カミーユは軟禁状態で、モビルスーツのシミュレーター訓練を受けさせられ、流石に53歳となった今では肉体的な衰えは否めないが、嘗ての勘を徐々に取り戻しつつあった。
宇宙世紀0123年9月14日
連邦政府と宇宙連合との正式会談の場が設けられる事となった。
主には捕虜交換交渉と停戦協定であった。
連邦政府は5月の段階では強硬派の意見が押し気味だったが、コスモ・バビロニア軍との宇宙要塞ドーザでの戦いで、連邦宇宙軍は大打撃を受け、更にはサイド7を除くサイドすべてが地球連邦から独立又は離反してしまったのだ。
現在は穏健派が地球連邦政府議会を主導している状態である。
地球連邦政府はコスモ・バビロニアと宇宙連合の両方と敵対する事は得策ではないとし、どちらかと手を携える事を検討していた。
コスモ・バビロニアと宇宙連合を天秤にかけた場合、地球連邦にとって都合が良いのは明らかに宇宙連合側であった。
コスモ・バビロニアは戦力も充実しており、地球連邦政府を明確に敵として見ている。
一方宇宙連合は、戦力としてはコスモ・バビロニアの四分の一も満たないと踏んでおり、地球連邦との捕虜交換の交渉にも積極的であり、対話が可能な相手であった。
同時に、コスモ・バビロニアさえ如何にかすれば、後は圧力さえかければ与易い相手であるとも考えていた。
会談は通信で行えばいいものの、連邦政府はコスモ・バビロニア等に盗聴される可能性が在るとして、旧態依然とした直接の話し合いの場を希望し、地球圏の緩衝宙域での会談が行われることとなった。
直接と言っても、代表者同士が席を並べ直接顔を合わせて話し合いをするわけではない。
お互いの艦を近接させ、有線回線での話し合いを行うのだ。
儀礼的な意味が大きいのだろう。
実際にはお互いの代表者を乗せた艦を一隻、有線回線が届く距離まで接近させる。
護衛戦艦は、距離を離し待機させるとしている。
一般的な主砲の射程圏外とされている距離である。
会談の場の緩衝宙域については、入念に交渉を重ね決定した。
宇宙連合が支配下に置く宇宙要塞コンペイ島と、地球連邦の宇宙における最後の要となってしまった宇宙要塞ゼダンの門との間の宙域だ。
この二つの宇宙要塞の間の宙域が選ばれた理由がある。
コスモ・バビロニアの支配下であるL1・L4宙域からは離れており、宇宙連合と地球連邦の両方の要塞が控えているこの宙域は、コスモ・バビロニアが容易に手が出せない宙域だからだ。
更には、宇宙要塞ゼダンの門には連邦宇宙軍の最大戦力が集結しており、その後方には、サイド3のジオン共和国、次に近い月はアナハイム・エレクトロニクスが幅を利かせているとはいえ、まだ多くは地球連邦の支配下だ。
因みにこの宇宙要塞ゼダンの門は二代目である。
初代は一年戦争時にア・バオア・クーと呼ばれジオン公国が手掛けた宇宙要塞で、一年戦争後は連邦軍がそのまま運用していたが、グリプス戦役時にアクシズ(ネオ・ジオン)によって破壊された。
今の物はサイド3に睨みを利かすためにも、この宙域に宇宙要塞が必要であったため、新たに再建されたものだ。
宇宙連合側の代表は首相のオードリー・バーンと同行者として軍トップのブライト・ノアが、レアリーが艦長を務める宇宙連合の旗艦モノケロースに搭乗し、約定通り護衛艦隊一個師団を引き連れ現れる。
地球連邦側の代表は副首相及び連邦軍大将格の一人が同行し、ラー・カイラム級を旗艦とし、同じく護衛艦隊一個師団を引き連れ登場した。
護衛艦隊を残し、双方の代表を乗せた戦艦が徐々に近づき歩み寄る。
この会談の方法について、当初バナージは難色を示していた。
オードリーに危険が及ぶ可能性が高いからだ。
だが、当のオードリーはこの会談にリスクを承知で積極的に臨む。
バナージはオードリー本人が望むのであれば、後は全力で守るのみと覚悟を決める。
ブライト・ノアを始め上層部はあらゆる危険性を想定し、会談を進めていた。
連邦軍の裏切りによる奇襲や攻撃、はたまたコロニー・レーザーによる攻撃の危険性、第三者(コスモ・バビロニア)の介入についても。
最終的にこの宙域のこのポイントを選んだのは、コロニー・レーザーによる攻撃を受け難い位置である事が挙げられる。
周囲には所々、小惑星群等が漂っており、位置的に他のサイドのコロニー群から照準が捉えられない場所である。
連邦軍の裏切りによる奇襲についても、旗艦モノケロースの性能であれば、逃げ切れるだろうと踏んでいた。
現在唯一の高出力Iフィールド搭載艦であり、サナリィが手掛けた最高峰の戦艦にして、他の戦艦に追従を許さない航行スピードに武装群、更にマクロス側から提供を受けたこの世界では破格の各種センサー類が搭載されているのだ。
単艦で戦場を突き切る事も可能だろう。
そんな準備を行ってきたが、お互いの艦は近接し、会談は問題無く始まった。
だが……
コンペイ島宙域では、突如としてコスモ・バビロニアの艦隊が現れたのだ。
シアノ・マルティス大佐率いるグラナダ駐留艦隊だった。
シアノ・マルティス大佐は地球連邦と宇宙連合の会談を正確に察知し、宇宙連合を一気に叩く絶好の機会として、宇宙連合の要であるこの宇宙要塞コンペイ島に奇襲を仕掛けてきたのだ。
絶妙なタイミングでの奇襲だった。
現在宇宙連合の戦力は多く見積もっても4個師団にも満たない。
地球連邦から離反し、合流した戦艦が丁度一個師団相当の12隻、元々新サイド6とサイド1が隠し持っていた戦艦は各一個師団12隻にも満たない。
先のコンペイ島での戦いで鹵獲した艦が12隻程度あるが、全て修理中で稼働できる状態ではなかった。
実質3個師団相当が関の山だった。
宇宙連合は地球連邦との約定で、会談に当たって一個師団を割く必要があった。
そうなると各サイドに護衛のための艦船を残すと、コンペイ島はほぼ丸裸状態となるのだ。
宇宙連合の防衛の要であるコンペイ島を落とし、コスモ・バビロニアが占拠すれば、宇宙連合の防衛網は瓦解する。
さらに、コンペイ島を落とした後、地球連邦と会談を行っている宇宙連合の精神的支柱であろうオードリーとその護衛艦隊を後ろから襲い壊滅させれば、もはや宇宙連合は立ち行かなくなり、そうなればコスモ・バビロニアに屈せざるを得ない状況となるだろう。
シアノ・マルティス大佐はそこまで読み切っての奇襲だった。
だが、そのシアノ・マルティス大佐にとって唯一の不安要素と言えるのが、シュトレイ・バーンこと、バナージ・リンクスの存在だった。
コンペイ島攻略後、地球連邦と交渉中のオードリーを襲えば、必ずバナージが出て来るだろうと踏んでいた。
その為のバナージ対策を用意していたのだ。
「カミーユ・ビダン君……君の出番はまだだ、君はコンペイ島、いやソロモンが落ちる様をそこでゆっくり見ておくといい」
シアノ大佐は通信越しに、モビルスーツデッキで待機するノーマルスーツを着込んだカミーユに不敵な笑みを浮かべる。
「くっ………」
カミーユは顔を歪ませ、歯を食いしばる。
御年53ではあるが、元々中性的な顔立ちのカミーユはその年齢を感じさせない。
30代中頃だと言っても分からないだろう。
因みに、リリィ・ビダンはこの戦場には同行していない。
流石に、カミーユと同じ戦場に出すわけには行かないため、リリィは月面都市アンマンの護衛に回していた。
「降伏勧告などは不必要だ。まずは前哨戦と行こうではないか、攻撃開始だ」
シアノ・マルティス大佐は、2個師団を前衛・後衛と分け、2段構えの陣形で、宇宙要塞コンペイ島へ正面から攻撃を開始する。
前衛の一個師団がコンペイ島に接近しながらモビルスーツ隊を展開、後衛は艦砲射撃でソロモンの砲撃をけん制。
だがコンペイ島からはまだ、艦隊は出撃していない。
コンペイ島は予想通りもぬけの殻だったのだろう。
この様子をシアノ大佐は余裕の笑みを浮かべ、旗艦ザムス・ガル級ザムス・ガイオンのブリッジの指揮官シートで、戦場を眺めていた。
直ぐにでも決着がつくだろうと誰もがそう思っていたのだが……。
「大佐、先方モビルスーツ トレラス中隊壊滅!!……前衛艦ザムス・ギリアス沈黙!!」
ブリッジ要員から戸惑い気味に報告が上がる。
「ん?……どういうことだ?」
シアノ大佐はその報告を聞き、少々前のめりになり聞き返す。
「いえ、自分には……あっ、続いて、モビルスーツ マーベル中隊壊滅!?……前衛艦ザムス・ガイン沈黙!!」
「何?……何が起きている?やつら、艦隊などないはずだ」
「………ラスタ中隊壊滅……前衛艦ザムス・グエン沈黙……た、大佐!?」
ブリッジ要員はその報告を読み上げるが、顔色は見る見るうちに悪くなる。
「どういうことだ!?何がある!?まさか……奴が裏切者の姫君から離れるなど」
「大佐!当該箇所の映像捉えました!!映像出します!!」
観測兵から、シアノ大佐に対し興奮気味に報告する。
すると………
そこには白を基調とした大型モビルスーツが縦横無尽に宙域を駆け巡り次々と味方のモビルスーツが撃破されていく様が映し出される。
だが、観測カメラが追いきれないのだろう、度々そのモビルスーツは映像から消える。
旗艦ザムス・ガイオンの望遠カメラ6機がそのモビルスーツを追っているのだが、そのスピードや切れのある変則的な機動を捉えきれないのだ。
「あのモビルスーツはサイコフレームの共振反応の光を……シュトレイ・バーンか!?なぜここに!?……おのれバナージ・リンクスッ!!!……いや、良いだろう、姫君の前に無残な躯を晒してやろう」
シアノ大佐はそのモビルスーツからエメラルドグリーンの光が漏れ出る姿に戸惑い、怒りの声を上げた後、再び冷静な声色に戻す。
そして、専用回線に繋ぎ……
「カミーユ・ビダン君。少々早まったが、君の出番だ。ターゲットは白色のモビルスーツだ。君がこれを撃つことが出来たのならば、君の願いを一つ叶えよう」
「………………」
カミーユはその通信映像に映るシアノ大佐の仮面の顔を一瞥し、黙って漆黒のモビルスーツに乗り込む。
しかし……
シアノ・マルティス大佐は最大の勘違いをしている事にまだ気が付いていない。
白を基調とした大型モビルスーツを駆り、縦横無尽に宙域を駆けるパイロットが誰であるかを………、
その様は嘗て、味方からは白き流星と呼ばれ、そしてこの宙域がソロモンの名だった頃、他の追従を許さない圧倒的な力を振るい白い悪魔の異名で呼ばれた伝説のパイロットであることを………。
次回はやっとです。
やっとできますアムロ無双
そ、そういえば、今回アムロの名が一度も出ていない。
でもちゃんと活躍してますよ。モビルスーツ中隊3つと戦艦3つ落としてるんで><
え?それじゃまだ足りない?……まあ、ここのアムロ君は、分岐艦隊を一人で何とかできちゃうんで……
まだ途中ですけど、Hi-νガンダム(Ver TK)の活躍は次回w
それと、このお話の中盤の肝であるアムロVSカミーユも実現か!?
さてさて、カミーユは何に乗っているのでしょうか?
漆黒のモビルスーツとは!?
皆さんの予想は如何に!?
シアノ大佐の正体は?そして明日は有るのか?
ファ・ユイリィさんの名前についてなのですが、設定では漢字で書くと、花園麗さん。
要するにファミリネームが花(ファ)でファーストネームが園麗(ユイリィ)となるそうです。
ですが、ガンダムの世界では、日系も中国系の方も、全てファーストネームが先に来ていて、ファ・ユイリィだけ何故かこんな設定に><
例:ハヤト・コバヤシ ステファニー・ルオとか……
しかし、ファ以外にもルオ・ウーミンはファミリネームが前に……
これ如何に?
そんなファさんですが、TV版では母親にまでファ呼ばわりされてます。
これって……
もしかしたら、TV版スタッフはファ(花)がファーストネーム設定にしちゃったと。
私もずっとそう思ってました。
だから、思うんです。
どうすればいいのこれ?
ファ・ユイリィのひとくくりにすれば違和感ないんですが、結婚して男性性を名乗った場合は……
質問です。
どうしたらいいのか?多数決で決めさせてください。
ファ・ユイリィさんの結婚後の名前について……
-
ファ・ビダン(TV設定版)
-
ユイリィ・ビダン(多分正式設定版)