ご無沙汰しております。
漸く書けました。
何だかんだと長くなってしまいました。
さらに……次話で一区切りしたかったのに……伸びそうです><
「……父が……父が死んだなんて何かの間違いではないでしょうか!?」
リリィ・ビダンは、執務室から出てきたシアノ・マルティス大佐に縋りつく様にこんな事を聞く。
普段は気丈とした佇まいを見せる彼女には珍しく、瞳は揺れ顔全体に動揺の色が見て取れる。
「……リリィ・ビダン少尉、残念ながら事実だ。君の父上は亡くなられた」
「そんな……、大佐は……獄中の父を守って頂けると!」
「君の父上カミーユ・ビダン氏は戦場で亡くなられた」
「どう…いう事ですか?獄中の父が何故戦場に!?」
「君には知らせない様にとビダン氏からは言われていたのだが……君の父上は自らの疑いを払拭するために、モビルスーツで前線に立たれる事を決意し、先のコンペイ島攻略作戦に参加されていたのだよ」
「……父がモビルスーツに!?」
「君も知っているだろうが、君の父上は若かりし頃、モビルスーツパイロットとして活躍されていたという事を」
「それは……でも35年も前の話です!なぜそんな無茶を!」
「……それは私にも分からない。ただ、わかっている事は、ビダン氏は自らの意思でコスモ・バビロニアの理想の為に立たれたという事………今回の作戦、何者かの裏切り行為により、作戦が漏れ、作戦参加した艦隊の半数を失う程の敗退を期した。だが、君の父上は率先して殿を務め、最後の最後まで立派に戦われ、敵の強力なニュータイプとの激しい攻防の末、力尽き……亡くなられたのだ。そのおかげで我々はこうして生きて月に戻れた。君の父上には感謝してもしきれない」
シアノ大佐は神妙な声色でこう語り、リリィに頭を下げる。
「そ、そんな事が……父が……亡くなったのは事実なのですね……」
「事実だ。…惜しい人物を無くした。お悔やみ申し上げる」
シアノ大佐は仮面の上からでもわかるような苦渋に満ちた面持ちで、再度リリィに頭を下げた。
「………お父さん……すみません。失礼します」
リリィは父の死が事実だと知り、涙をこらえ切れなくなり、俯きながらシアノ大佐に辞し、通路を駆け抜ける。
リリィは自室に戻り、堪えきれず声を上げて泣く。
カミーユはリリィにとって優しい父であり、甘えさせてくれる存在だった。
叱られた記憶などほとんどない。
それこそ、リリィがコスモ・バビロニア軍の兵士となって帰って来た時ぐらいだ。
それが、父カミーユ・ビダンと顔を合わせた最後となるなどとは、思いもよらなかっただろう。
だが、シアノ大佐が語った言葉は真実には程遠い。
シアノ大佐自身がカミーユを娘であるリリィと妻のユイリィを人質にし、無理矢理戦場に出したのだ。
しかも、最後は捨て駒同然の扱いをしたのだ。
真実を隠し、平然と嘘を並べ、マインド・コントロールを掛け、リリィの怒りの矛先を宇宙連合へと向かわせ、戦場へと誘う。
しかし、カミーユ・ビダンは生きていた。
先のシアノ・マルティス大佐率いるコスモ・バビロニア国 グラナダ駐留軍による宇宙要塞 コンペイ島急襲戦にて、攻撃側のカミーユが操縦するユニコーンガンダム2号機 バンシィ・ハデスは、防衛側のアムロのHi-νガンダムからの激しい攻撃により爆散したかのように見えた。
機体の損傷は激しいがコクピットには損傷は無く、パイロットのカミーユも無傷だった。
アムロはカミーユが死亡したと見せかけるために、絶妙な攻撃コントロールでバンシィ・ハデスに損傷を与え、派手に爆散したかのように見せかけたのだ。
アムロの隔絶した操縦技術があってこそ成立する絶技と言っていいだろう。
但し、バンシィ・ハデスは大破状態で、自力で動く事すらままならない状態ではあった。
「アムロさん……」
「カミーユ……久しいな」
コンペイ島のモビルスーツドッグに運ばれ、寝かされた状態の大破したバンシィ・ハデスのコクピットブロックから、両手を上げ、降参のポーズを取りながら出て来るカミーユにアムロは話しかける。
アムロは他の兵には、銃口を向けなくともいいと指示を出し、自分一人で大破したバンシィ・ハデスの前まで歩んでいた。
「生きていたんですね……しかも若いままだ。どういう……?」
「ああ、いろいろとあった」
「いろいろですか……完敗です。あの凄まじいまでのプレッシャー、今まで感じた事もなかった。まるで宇宙そのものと戦っているような感覚に陥りました」
「まさか、カミーユと戦場で会うとは思いもよらなかった」
「……アムロさん…俺はユイリィと娘を………」
「カミーユ……事情は大方理解したつもりだ。今は大人しく捕まってくれ、悪いようにはしない」
アムロとカミーユ、最強のパイロットと最高のニュータイプと呼ばれた二人は、実に36年ぶりの再会を果たすが、皮肉にも戦場で敵として出会ってしまった。
カミーユの身柄は事情があるにせよ、敵方のモビルスーツパイロットであったため簡単なメディカルチェックを受けた後、捕虜として収監される。
アムロの計らいで捕虜用の収容施設ではなく、独房へと収監されることとなった。
他のコスモ・バビロニア軍兵捕虜にも、カミーユが捕らわれ生きている事を秘匿する意味もある。
コスモ・バビロニア軍にカミーユが死亡していると見せかける必要があったからこそのこの処置である。
翌日、宇宙要塞 コンペイ島基地内の小さな談話室で、アムロと捕虜となったカミーユ、そして地球連邦政府との停戦交渉を終え、帰還したばかりのブライトと話し合いの場が設けられた。
「ブライトさん、お久しぶりです」
「カミーユ、数年ぶりか……」
「ブライトさんはやはり軍服が似合ってますよ」
カミーユはコスモ・バビロニア軍の黒を基調としたノーマルスーツから、灰色の捕虜用の収監服に着替えさせられてはいるが、本来、独房から外に移動する場合、嵌めるべき手錠は今は外されている。
対するブライトは、白を基調とした宇宙連合軍将校用の重々しい儀礼用制服に身を包んでいる。
アムロも同じく白を基調としたものだが宇宙連合将校用の動きやすさを重視した軍服を着用していた。
「アムロからは多少事情は聴いたが、まさかコスモ・バビロニア軍でモビルスーツに乗っていたとはな」
「グラナダを占拠したコスモ・バビロニア軍の司令官 シアノ・マルティスに、ユイリィと娘が人質に取られ……脅され、モビルスーツに……」
「そうか、ファ…いや、ユイリィと娘は軍に収監されているのか?」
「ユイリィは軍施設に軟禁状態です。娘のリリィは……俺が知らない内にコスモ・バビロニア軍の兵士になっていました」
「カミーユどういうことだ?そもそも娘さんは地球に居るはずじゃないのか?連邦軍大学の医学部に所属していたと聞いていたが」
「俺にも分からない。この戦争が始まって、グラナダがコスモ・バビロニア軍に占拠され……俺達の前にコスモ・バビロニア軍の兵士となって帰って来たんです……何故そんな事になったのか……」
カミーユは頭を抱え、苦し気に言葉を紡ぐ。
「カミーユ……」
アムロはブライトとカミーユの話を黙って聞き、苦悩するカミーユに慰めの言葉をかけようとするが、言葉が出なかった。
「そうか……コスモ・バビロニアの前身、クロスボーン・バンガードとブッホコンツェルンは、連邦軍大学に深く入り込んでいたと聞いている。コスモ貴族主義に染まった若者を送り込み、軍の最新知識を学ばせ、又は軍大学内のめぼしい人材をスカウトし、クロスボーン・バンガードに取り込むなどと……」
ブライトはこの事について、宇宙連合に所属してからバナージなどから聞かされていた。
「でもなぜリリィが!?」
「それはわからん。だが多くの若者がコスモ・バビロニア側に付いたと聞いている。コスモ・バビロニアは連邦内部に深く入り込み根を張っている。それだけではなく各業界やコロニ―にもな。厄介な事に人心掌握術にも優れている。コスモ貴族主義やそれに類するコスモ・クルス教の布教もその一つだ」
ブライトが語る様に、コスモ・バビロニアは建国以前に連邦軍や連邦政府、各業界などに深く根を張っていた。
更にここ数年、コスモ貴族主義を元としたコスモ・クルス教なる教団の名が徐々に巷に聞こえだしていた。
この教祖はコスモ・バビロニア国王 マイッツアー・ロナの亡き長男の娘、若きカリスマ シェリンドン・ロナが立ち上げた教団であった。彼女はマイッツアーの孫にして、セシリーの従姉妹に当たる。
この教団をコスモ・バビロニアが全面的にバックアップしている事は間違いないだろう。
「くそっ!!」
カミーユは悔し気に拳を握り自分の膝を強く叩く。
「……カミーユ、コスモ・バビロニア軍内では娘さんはどういう立場なのかわかるか?」
アムロはカミーユを見据えて聞く。
「グラナダ駐留軍司令官 シアノ・マルティスの直属の部下でモビルスーツのパイロットをやらされている。彼奴に踊らされ……リリィは!」
カミーユは徐々に怒りがこみ上げてきたのだろう。語気が強まっていく。
「シアノ・マルティス大佐か、…鉄仮面 カロッゾ・ロナ将軍の懐刀と呼ばれた男だ。ルナツー攻略戦でも戦果を挙げ、寡兵によるグラナダやアンマン占領の手際を見るに優れた将校だ。……カミーユは会った事があるのか?」
ブライトはデータベースにあったシアノ・マルティス大佐についての情報を思い浮かべながら、カミーユに聞く。
「コンペイ島攻略司令官として、彼奴も居た。俺に出撃を命令し、リリィやユイリィを人質にして脅してきた奴ですよ!奴はニュータイプ、いや強化人間だ。力はそれ程感じないが、紳士ぶった仮面の裏にはどす黒い感情が蠢いていた」
「このタイミングでのコンペイ島急襲の手際、アムロが居なければコンペイ島はとうにシアノ大佐の手で落ちていただろう。しかもこの時代に強化人間とはな……。そういえば鉄仮面 カロッゾ・ロナも強化人間だったそうだ」
ブライトはセシリーやシーブックから、カロッゾ・ロナも強化人間であるという事を聞いていた。そのカロッゾ・ロナをシーブックが討った事や、セシリーがカロッゾの実の娘であることも……。
「………カミーユ、娘さんはニュータイプなのか?」
アムロはこの話の中、ふと思い浮かべた事を、カミーユに聞く。
「……そうです。今はそれ程力は無いかもしれない。戦争でその力が肥大し……そして……リリィには俺の様なあんな思いをしてほしくないのに……彼奴はリリィを戦争の道具に!!……くっ!!」
カミーユはリリィが自分の二の舞になるのではないかと危惧し、それを誘うシアノ大佐に対し怒りをこみ上げる。
カミーユがリリィのニュータイプ能力がそれ程でもないと評したのは5カ月前の話だ。
今では、コスモ・バビロニア軍の元で、素質を開花しつつあった。
「カミーユ、落ち着け」
アムロは激高に駆られそうになるカミーユを見て、間髪入れずに言葉を挟む。
ブライトはカミーユが落ち着くのを見計らって、質問を続ける。
「カミーユ、そもそもだが、カミーユの娘と知って取り込んだのか?」
「わかりません。…だが少なくともグラナダが占領されるまでは俺には何もアプローチは無かった」
カミーユはそう語ったが、シアノ大佐はリリィを正式にコスモ・バビロニア側に引き込む際に担当官が調べ上げたリリィの経歴を閲覧し、カミーユの娘である事を知っていたのだ。
「カミーユ、調べさせて貰ったがあのモビルスーツはユニコーンガンダム2号機だな、カミーユの経歴を知ったうえで、ニュータイプデストロイヤーと呼ばれるあの機体に乗せたのだろう」
アムロはカミーユが乗っていた機体からデータを取り出し、調べていた。
「……シアノ・マルティスは俺にシュトレイ・バーンを倒すようにと、何度も言って来た。俺にモビルスーツの訓練を施し、あのガンダムに乗せたのはシュトレイ・バーンを倒させるためだった。今回のアムロさんのガンダムもシュトレイ・バーンが乗ってると踏んで俺を出撃させた」
「どういうことだ?」
「シアノ・マルティスはシュトレイ・バーンに固執していた……嘗ての俺に匹敵するニュータイプだとも言っていた」
「シュトレイを知ってる奴か」
「本人に聞いた方がいいだろう」
アムロとブライトもシアノ大佐がシュトレイ・バーンことバナージ・リンクスに関わりのある人物の可能性が高いと踏む。
「……虫のいい話ですが、俺を開放してくれませんか?ユイリィとリリィを俺の手で何としても助けださなければ」
カミーユは神妙な面持ちでブライトとアムロに訴えかける。
「カミーユ、一人グラナダに戻ったところで、また人質を盾に意に沿わない戦いをさせられるだけだぞ」
「カミーユどうだ?ここで、宇宙連合で戦ってみないか?どうやらアムロが上手くカミーユを戦死したように見せかけたようだ。それに戦場で娘さんに会う機会があるだろう。グラナダ奪還の機会もあるかもしれん……いや、状況が許せば、現地諜報員を使いユイリィの情報も掴ませよう」
「ブライトさん……それは……少し考えさせてください」
後日カミーユは、宇宙連合軍に参加することを決断し、アムロとブライトにその事を伝えることになる。
地球連邦と宇宙連合の会談の1週間後。
取決め通りに捕虜交換が執り行われた。
サナリィの月面基地スタッフの殆どが、地球連邦から宇宙連合に引き渡された。
因みに、サナリィの地球支部スタッフは、半数以上連邦側に取り込まれていた。
月面基地のサナリィは連邦と距離を置いていたきらいがあるが、地球支部は連邦との橋渡し的立場から、連邦の一員であるという意識が高いため、地球支部のサナリィスタッフは地球連邦にそのまま付き従う事に拒否感を感じる者も少なかったのだろう。
これにて、サナリィの研究成果は地球連邦側にも渡ったと見ていいだろう。
但し、サナリィは研究をほぼ月面基地で行っていたため、未発表な物や最新の研究中の物などは渡ることはないと思っていい。
そして、引き渡されたサナリィのスタッフの中にジョブ・ジョンの姿も……。
「アムロ、ブライトさん、サナリィの若人達を守って頂き、感謝する」
「ジョブさん…こちらこそ長らくお待たせしました」
「……いや、君が囮となりモノケロースを逃がしてくれたお陰だ」
アムロとブライトとがっしり再会の握手を交わす。
「ジョブさん、ご無事で何よりです」
「シュトレイ……ようやくここまで来たな」
「これも、ジョブさんが今迄裏から手を回し助けて頂いてきたお陰です。ありがとうございます」
そして、シュトレイ・バーンことバナージとも握手を交わし、お互い頷き合う。
ジョブはバナージとオードリーが表舞台に立ち、今迄の苦労が実りだした事に、労いの言葉を掛けたのだ。
ジョブ・ジョンとバナージとはラプラスの箱を巡るラプラス事変後から実に27年の付き合いとなる。
その間ジョブは、バナージに対し廃棄処分すべきモビルスーツやパーツ等の提供や、各種情報提供を行っていたのだ。ユニコーンガンダムの封印先もジョブからの情報であった。
ジョブはバナージとオードリーの影の協力者と言ってもいい立場の人物であった。
ジョブはバナージやオードリーの境遇に同情していたという事も有るが、特にバナージに対しては当時、連邦軍内で不遇な扱いを受けながらも地球の為に戦い、そして最後には地球を救うために命を落としたアムロの面影を見ていたようだ。
ジョブはこの後、宇宙連合の兵器開発局の局長に就任することになるが……
「F92(フォーミュラ92)が完成しているだと?……な、何だこれは!?こんな設計思想が、完璧だ!……誰が?……アムロか?アムロなのか?」
F92はまさにZタイプのような飛行形態への変形機構を持つモビルスーツの小型化を目指し設計開発が行われていたが、変形プロセスの調整や剛性の確保に難航し、ここ数年ほぼ開発が止まってしまっていたのだ。だがジョブが再びF92の設計をやり直すために開発状況を確認しようとしたのだが、モノケロースのドッグに何時の間にか完成されているF92が立っていた事に腰を抜かすほどの衝撃を受けたのだ。
最初はアムロが携わったと思っていたのだが、サナリィの月面基地からモノケロースで逃れた若手技術スタッフに聞くと、タカトクなる人物の名が上がり、更に混乱する。
ジョブは早速アムロに火急の要件だと、呼び出した。
「アムロ。F92が完成していたのだが、あの変形機構はどういう事だ?あんな設計思想は今迄なかった!……まさしくミノフスキー博士に匹敵する天才的な発想だ。モノケロースに乗船していたスタッフに聞くとタカトクなる人物の名が挙がっていたのだが、アムロ、君は知っているのか!?」
ジョブにしては珍しく興奮気味にアムロにこう切り出した。
「……そ、それは、すみませんジョブさん。そのジョブさんに渡されたサナリィのマスターデータを……その平行世界の俺の上司に見せる羽目になりまして……その上司がその」
返事をするアムロの方も珍しく歯切れの悪そうに答えていた。
そう、F92はタカトク中将がいつものノリでモノケロースに乗船していたサナリィの技術者を巻き込み、バルキリーの変形機構を応用させて完成させてしまったのだ。
「それはいい、君に渡した時点で君の好きな様にしてもらってよかった。その君の上司というのがタカトクという人物なのだな!」
「タカトク中将、向こうの世界では各種技術開発及び研究の最高責任者であり、可変戦闘機…機動兵器開発の第一人者です。一応俺の直属の上司にもなる人物です。……本来、向こうの世界に居るはずだったのですが、何故か移民船団に乗り合わせ、ここに……。ご迷惑をおかけいたしました」
興奮気味のジョブに若干身を引きながらアムロはそう答えて、ジョブに頭を下げる。
「んんっ……アムロ、タカトク中将に会わせてくれまいか?」
ジョブは居ずまいを但し、アムロにこんな事を頼む。
「……いや、それは」
しかし、その言葉にアムロは言葉を濁し難色を示す。
アムロがジョブをタカトク中将に会わせる事に躊躇したのだ。
マクロス世界の技術が宇宙世紀に流れる事に対しての恐れも、確かにある。
だが、それが最大の理由で躊躇しているわけではない。
タカトク中将だからだ。
確かにタカトク中将は技術者として最高峰の人物であろう。
アムロは技術者としてのタカトク中将を最大限に評価していた。
天才というよりも、飽くなき探求心を持った努力型の秀才だと感じていた。
だが、その底知れぬ探求心から開発研究以外の事は見えていないというよりも、まるっきり興味が無いのだ。他の事も嫌々ながら取り組むと人並み以上にこなす事ができてしまうがため、今の中将という地位があり、それがまた厄介でもある。
そんなタカトクを目の前のジョブと会わせてしまうとどうなってしまうのか……、アムロはこの一瞬でタカトクに振り回され、過労で倒れるジョブの姿や、はたまた、タカトクのあのノリがジョブ以下、元サナリィのスタッフでほぼ構成されている技術開発局の技術開発者に伝染してしまうとんでもない光景を想像してしまっていた。
「アムロ……モノケロースに送り込んだ若手技術スタッフは、タカトク中将と凡そ2カ月程共にしていたそうだが、以前に比べ皆、目に見えて発想力や技術力が高まり、特に意欲と士気が異様に高い。是非私もその薫陶を授かりたい」
「その……ですね」
アムロはそのジョブの言動に、先ほど想像したタカトクのノリに汚染されるジョブの姿が目に浮かび、背筋に寒気を覚える。
「それだけではない。F90シリーズのジェネレーターの欠点を指摘し、改善案もだされたとか、それに…アムロあのHi-νガンダムはなんだ?あのメンテナンスはほぼ君が取り仕切っているらしいが、ちょっと覗かせてもらった。外装は確かに30年前の設計思想そのものだ。だが中身は従来のモビルスーツどころか近代のモビルスーツとも別物だ!特にジェネレーター、あれは何だ?あれは何なのだ?しかも兵装はサナリィの技術が使われているようだが、より洗練されている!あれもタカトク中将が携われたのか!?」
ジョブは話すにつれ徐々に興奮気味になり、遂には立ち上がり対面に座るアムロの両肩を掴んでいた。
「それは……」
「アムロ!後生だ!是非タカトク中将に会わせてくれ!」
「………わかりました。何時とはお約束はできませんが」
アムロはジョブの圧に押され、約束をしてしまう。
普段物静かなジョブだが、やはり技術屋なのだろう。
だが、タカトク中将をこれ以上、こちらの世界に携わらせていいものなのかと、目の前のジョブに会わせていいものなのかを、アムロはしばらくその事で悩むことになる。
その問題のF92だが、カミーユが乗る事が決まったのは言うまでもない。
地球連邦との停戦協定を結び、コスモ・バビロニア軍を退けたところだが、建国間もない宇宙連合政府は一息つく暇もなく、山積みとなった課題を次々とこなさなくてはならなかった。
地球連邦と停戦協定を結んでから1カ月が経過した頃、宇宙連合の初代首相となったオードリーは、とある人物と積極的に話し合いの場を設けた。
「初めまして、わたくしはオードリー・バーン。オードリーと気軽にお呼び下さい。セシリー・フェアチャイルドさん。セシリーさんとお呼びさせていただいてよろしいでしょうか?それともベラ様と」
「私はセシリー・フェアチャイルドとして、ここに居させて頂いております。セシリーとお呼びください」
オードリーはセシリーとの会談を前々から熱望し、忙しい中実現したのだった。
ここは、新サイド6イチバンチコロニーにある宇宙連合政府、中央官舎群区域内にある宇宙連合軍官舎の応接室。
この応接室にオードリーとセシリーの2人はソファに座り、談話を始めていた。
隣の控室には、バナージと付き添いでブライトとシーブックも待機していた。
「ブライト提督とレアリー少佐に貴方の境遇をお聞きしておりました。コスモ・バビロニア国の姫君、国王 マイッツアー・ロナ様のお孫様だと」
「それは事実です。ですが私の半生以上は、養父シオ・フェアチャイルドの元でパン屋の娘として、世人として暮らしてきました」
「そうなのですね」
「私は確かにコスモ・バビロニア建国時に、祖父に請われ……いえ、強制的に家に戻され、ロナ家の一族として世に出されましたが、私がコスモ・バビロニアに戻された時間は僅かです。コスモ・バビロニアについては詳しくは知らないのです」
セシリーは自然と口調は強くなっていた。
セシリーは警戒をしていたのだ。
レアリーやブライトは信用できる人物だとセシリーは感じていたが、宇宙連合政府が自分を知れば、交渉の材料にされるのではないかと危惧していたからだ。
「どうやらわたくしはセシリーさんに不快な思いをさせているようですね。申し訳ございません。わたくしは宇宙連合政府の首相としてではなく、今はオードリー・バーン一個人として、貴方とお話をしたかったのです。ただ、わたくしの今の立場がこんな仰々しい場所でお話をしなくてはならなくて、本来ならば喫茶店などでお話をしたかったのですが……」
「それはどういうことでしょうか?私がロナ家の人間だと知って、政府と関係無しに個人的な興味という事でしょうか?」
「そう言う事です。わたくしと貴方は似てると思いまして……、すみません。そう言えば申し遅れましたね。わたくしは以前、ミネバ・ラオ・ザビという名でした」
「え!?」
セシリーはその名を聞き大きく目を見開き驚く。
「そうです。サイド3、かつてのジオン公国国王 デギン・ザビの孫になります」
「……どういうことですか?ここはジオンの残党が組織、それだったらサイド3で……」
セシリーは大いに狼狽し、あれこれと思考を巡らせていた。
まさか、宇宙連合の代表であり首相であるオードリー・バーンが、ジオンの姫君だったとは思いもしなかったからだ。
しかも、この事は宇宙連合でも上層部の一部の人間しか知らない事実でもある。
「わたくしは幼い頃から、ジオンの残党組織に担がれてきました。ですがラプラス宣言を行った後、わたくしはジオンとザビ家を捨てたのです。ラプラス宣言はご存知ですか?」
「はい、中学校の教科書に載っておりました。誰もが知ってる歴史的な出来事です……その…捨てたとは?」
「当時わたくしは16歳でした。今の貴方より一つ下ですね。その時までわたくしは世事に疎く、世界を何も知りませんでした。いえ知識としては知っていたのですが、体感するのとは全く違っていました。そんなわたくしの前にシュトレイ、いえバナージが私の前に現れたのです。……わたくしはバナージと一緒に生きる事を決め、ジオンとザビ家を捨てたのです」
「え?……シュトレイさんと…ということですか?」
「バナージは、わたくしの話を何時も真剣に聞いてくれました。そしていつも一緒に考えてくれます。時にはモビルスーツに乗りわたくしを守ってもくれました。そして私と共に名を捨てシュトレイ・バーンと……」
「………」
「私はバナージと一緒に居られればそれで良かったのですが、そうもいかずこうした立場となりました。でも今も彼が名を変えてまで隣に居てくれるので……」
「お二人は強い絆で結ばれているのですね」
「貴方は違うのですかセシリーさん、あなたの隣にも素敵な方がいらっしゃるではないですか?」
「その……シーブックとは……その……そこまでの関係では……それに私は……」
セシリーは自分に話しを振られるが、その顔には影が落ちていた。
「セシリーさん?シーブックさんがお好きではないのですか?」
オードリーはそんなセシリーの反応に、少々首を傾げながら聞き返す。
「……私にはその資格が無いんです。シーブックを好きになってはいけないんです!」
セシリーは徐々に語気を強めていた。
「どういう事でしょうか?」
「ロナ家が起こした戦争で……シーブックのお父様は亡くなられました。シーブックは住む家も学校も友人も亡くしました。私の……流れる血がシーブックを……不幸に……」
「そうですか、……シーブックさんは貴方にその事で何か言いましたか?」
「いいえ、何も言わないんです。……それどころか私を守るためにモビルスーツに乗って戦うと」
「貴方はシーブックさんと一緒に戦うためにモビルスーツに今も乗っているのではないのですか?」
「違うんです!シーブックは戦い続けて、今度は私の為に死んでしまう。それが耐えられない!私がシーブックの隣で戦うのは……彼を死なせないために、いざとなれば私が彼の盾にっ!」
「落ち着いてくださいセシリーさん」
「私の実父、カロッゾ・ロナは!!私とシーブックの故郷であるフロンティアⅣに大量殺戮兵器を使い沢山の人を!!……もしかしたら隣の花屋のおばさんやご近所の知り合いや…同級生や学校の先生も!!」
セシリーは取り乱し、涙を流し泣き叫ぶ。
「落ち着いて、落ち着いてくださいセシリーさん」
オードリーは立ち上がり、そんなセシリーに駆け寄り強く抱きしめる。
「……母は軟禁され!養父は行方不明と!!きっと父が父が!!お養父さんを殺したっ!!私は私はその父を殺してっ!!」
セシリーは今迄誰にも語らなかった秘めた思いを、我慢していた感情を爆発させ、泣き叫ぶ。
フロンティア・サイドにクロスボーン・バンガードが侵攻し、戦闘に巻き込まれ、人々や友人の死を目の当たりにし、さらにロナ家に王族の姫として連れ戻され、モビルスーツに乗る羽目になった。そして再びシーブックと出会い、実父カロッゾ・ロナと対決をし、スペース・アークと共に月からの脱出劇に至るまで、わずか1カ月の間に激動の時間を過ごしてきたのだ。
たった17歳の少女には重すぎる濃密な時間だった。
セシリー自身、複雑な家庭環境で育ち、それを薄々感じていたのだろう。
セシリーの母、ナディア・ロナはマイッツアー・ロナの長女であった。
カロッゾとは大学時代に知り合い、カロッゾが婿養子としてロナ家に入った。
そのカロッゾだが、コスモ貴族主義に深く心酔するようになり、元々マイッツアーの考えやコスモ貴族主義に反発していたナディアはカロッゾから心が離れ、セシリーが4歳の頃に、セシリーを連れ、シオ・フェアチャイルドと駆け落ちし、野に下る。
その後、セシリー自身はパン屋の娘として育つ。
そして、セシリーはロナ家に連れ戻された際、無力な自分に何もかも諦め、心を閉ざし、祖父 マイッツアーの言いなりになりかけていた。
しばらくし、母が祖父に軟禁された事を知る。養父も行方不明だと聞いてはいたが、セシリーの開花しつつあったニュータイプ能力は実父カロッゾ・ロナが憎悪に駆られ、養父シオ・フェアチャイルドを亡き者にしたイメージを感じ取っていた。
だが、その頃のセシリーは心を閉ざし、それすらも無色に見え、流される日々を過ごしていたのだ。
そんな時、戦闘中に再びシーブックに出会う。
シーブックはそんなセシリーを優しく出迎え、セシリーもシーブックに心を救われた思いがしたのだろう。
再びセシリーの心が動きだし、シーブックと共に戦場の憎悪の元凶であった実父カロッゾ・ロナを討つに至った。
しかし、すべてが終わった後、セシリーはシーブックに対する淡い恋心を抱いていたが、それ以上に懺悔と後悔の念と心に何ともしがたい葛藤が残った。
今、図らずともオードリーの前で、今まで抑え堰き止めていた感情が決壊し、激流の様に取り止めとなく流れ出した。
アムロは前々からこれらのセシリーの感情を迷いという形で感じ取っていた。
アムロはブライトやレアリーにも相談し、オードリーの耳にも入る。
元々、オードリーは一段落付いた所でセシリーに会いたいとは思っていたが、これを耳にし、急遽会う事を決め、今回の話し合いの場が設けられたのだ。
オードリーもニュータイプであり、セシリーに対し何かを感じていたのだろう。
「大丈夫です、大丈夫ですから……」
「私は……私は………シーブック……私は……」
オードリーに抱きしめられ、その胸の中で嗚咽を漏らし泣き崩れるセシリー。
「今迄無理をなされていたのですね」
オードリーは涙を流しすすり泣くセシリーを抱きしめながら、背中と頭を優しくなでる。
隣の部屋で待機していたシーブックは、セシリーの泣き叫ぶ声に、談話室に乗り込む勢いだったが、バナージは首を横に振り「ここはオードリーに任せてくれないか」とシーブックの両肩を掴み制止する。
「セシリーが何かに悩んでいた事は知ってました。こんなに苦しんでいたなんて、俺は…隣に居ながら…何もわかっちゃなかった!」
シーブックは拳を強く握り、苦渋な面持ちで俯きながら悔しそうにこう語る。
「シーブック、自信を持て、お前が隣に居たからこそ、セシリーは今迄耐える事が出来たんだ」
「君は強い。なにより心が強い。君がいれば彼女も大丈夫だ」
ブライトとバナージはそんなシーブックに慰めの言葉を掛ける。
セシリーのすすり泣く声が聞こえなくなるまで、随分と時間を要した。
そして、セシリーが落ち着いたところを見計らい、オードリーは凛とした佇まいから少々崩し気味にセシリーにこんな話をする。
「ブライト提督やレアリー少佐から貴方の境遇をお聞きした時に、わたくしと似ていると感じたものです。でもわたくしは貴方のようにモビルスーツに乗り、思い人と一緒に戦う事は出来ませんでしたから、一緒に同じ場で共に戦えるあなた方を少し羨ましいとも思いました」
「すみません。取り乱してしまい……私はシーブックに迷惑ばかりかけて……そんな私がシーブックの隣に居てもいいのですか?」
「良いのですよ。それにわたくしなど、バナージ無しでは生きていけないぐらいに迷惑をかけてますよ」
「そうなのですか?」
セシリーには、目の前の凛とした佇まいの淑女が、伴侶に迷惑をかけている姿が想像できなかった。
「そうです。わたくし達は似たもの同士、セシリーさん、わたくしとお友達になって頂けませんか?」
「私とですか?」
「はい、わたくしは貴方とお友達になりたくて、この場を設けさせて頂きました。それとも親子程年が離れておりますわたくしとは、お嫌ですか?」
「いえ……その……」
「貴方のお立場は分かります。わたくしの実家は既に滅びましたが、貴方のご実家は健在です。もしかすると貴方は、ご実家に戻らなければならない時が来るかもしれません。それでもかまいません。お友達になるのに、家の事は関係ありませんもの。もし、そのような時が来たとしても、わたくしはセシリーさん。いえ、セシリーを送り出すつもりです」
「……本当にいいのでしょうか」
「それに、女同士でしか話せない事もあるでしょ?事情が分かっているわたくしならば、色々とお話が出来ると思います。わたくしも伊達に傀儡の姫を16年以上やっていたわけではありませんよ」
「ありがとうございます………首相……いえ、オードリーさんとお話が出来、閊えていたものが少し取れたように思います」
「それは何よりです。今度はこのような場ではなく、わたくし共の家にお招きします」
「ありがとうございます……」
セシリーは礼を言うが、オードリーの家という事は首相官邸ではないかと頭によぎる。
ここよりも、仰々しい事になりはしないかという懸念だ。
「結構、古いお家ですよ。何せ隠れ家ですから。連絡先は……そうですね。後程秘匿回線用の情報端末をお渡しいたしますね。これならいつでも連絡がつけられます」
オードリーはそんなセシリーの様子を察して微笑みながら答える。
オードリーが言う家とは、オードリーとバナージが過ごした33バンチコロニーの隠れ家の事だった。
こうして、オードリーとセシリー、ザビ家の元姫君とロナ家の姫君、新旧姫君達の会談が終わりを告げた。
数日後、マイナーチェンジを施したF90N改とF91の宙域航行訓練に勤しむセシリーとシーブックの姿があった。
モノケロースのモビルスーツデッキから風格のある二人のパイロットがそんな若者二人の様子を眩しそうに眺めていた。
「二人とも良いセンスだ。最近セシリーの方は何か晴れやかな気を発している、何か吹っ切れたような感じですね」
「ああそうだな。彼らの未来は希望あるものへと進むだろう。だが、せめて若者達にその道筋を示すのが俺達大人の仕事だ」
白色のノーマルスーツを着こんだカミーユとアムロだ。
アムロはカミーユに、自身のこれまでの経緯を知らせていた。
ブライトもカミーユならば知らせても問題は無いと判断してのことだ。
流石のカミーユも平行世界に飛ばされ、戻ってきたことには驚きを隠せないでいた。
それどころか、興奮気味にアムロに質問攻めをする有様だった。
アムロは情勢が落ち着いた所で、バナージやオードリーにも真実を語るつもりでいた。
そして、シーブックやセシリーにも……。
「何を年寄りくさい事を言ってるんですか?アムロさんも十分若いじゃないですか、何時の間にか俺よりも若いとか、俺こそこんな事が無ければ、モビルスーツなんて御免被りたいですよ」
「そうだな…カミーユ、その為にも嫁と娘を取り戻さなければな」
「ええ、必ず……だから、アムロさんにはとことん訓練に付き合って貰いますよ」
「ふう、これで50を過ぎてるとは……」
カミーユとアムロはそれぞれF92とHi-νガンダムに乗り込み、モノケロースの1番カタパルトデッキから訓練のため発進準備を進める。
遂にカミーユがF90のZタイプ?F92に……
よく考えれば、アムロとバナージと年はいったとはいえ怒れるカミーユって、さらに若くて生きのいい優等生タイプのシーブック……これって宇宙世紀最強の組み合わせじゃ……。
シアノ大佐に明日はあるのか?
これに木星に行ったきりの人とか……それはないよね。
もうそろそろ、究極のマンマシーンの話をチョロっと出したいところです。
ヒロインも多数出てきますが、お気に入りのヒロインは誰ですか?
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セシリー・フェアチャイルド
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オードリー・バーン
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ファ・ユイリィ
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ミライ・ヤシマ
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早瀬未沙