アムロの帰還   作:ローファイト

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ご無沙汰しております。
漸く続きが書けました。

ゆっくりですが、書ききろうと思っております。

今回もアムロ無双は有りません。


再会

 

宇宙世紀0123年4月上旬

モビルスーツ試験運用艦スペース・アークはクロスボーン・バンガードの襲撃を辛くも脱し、フロンティア・サイドから月面都市フォンブラウンにほど近いサナリィ本部月面基地に帰還を果たした。

 

スペース・アークには、クロスボーン・バンガードの残党狩りを退けたアムロ・レイが民間軍事会社所属レイ・ハヤセと偽名を名のり乗艦していた。

 

アムロは宇宙世紀0093年3月 アクシズショックにより、平行世界のマクロスの世界に飛ばされたのが29歳。

マクロスの世界で7年過ごし現在36歳、次元断層に巻き込まれ奇しくも30年後の宇宙世紀0123年4月に帰還を果たしたのだ。

もし、アムロがマクロスの世界に飛ばされる事なく、生存していたと仮定すれば、宇宙世紀0123年4月現在、59歳となっていたであろう。

アムロ自身の時間の流れのずれは凡そ23年の月日となる。

 

 

月面基地に到着したアムロを待ち受けていたのは、嘗てホワイト・ベースで共に戦ったジョブ・ジョンであった。

ジョブ・ジョンは現在、サナリィ重役という立場にあった。

ジョブ・ジョンはスペース・アークから送られた報告書、アムロがクロスボーン・バンガードの残党狩りを退けた映像データとアムロ本人の映像データを確認し、ある種の期待をして、民間軍事会社所属のレイ・ハヤセと名乗るアムロとの面会を望んだのだ。

アムロは警戒をしながらも、ジョブ・ジョンの名を聞き、面会に応じたのだった。

 

 

アムロはレアリーの案内の下、スペース・アークの会議室に通される。

アムロ自身、レアリーの人柄と実直さから幾分かは警戒を解いてはいたが、YF-5に残したハロには何時でもスペース・アークをハッキングし掌握できるように指示を出していた。

 

しばらくし、サナリィのカーキ色の制服を着こんだ老人がレアリーと共に現れる。

老人はアムロに軽く頭を下げてから、レアリーに指示する。

「レアリー君ご苦労、この区域の監視カメラ等を全て遮断。周囲30m範囲を立入禁止にしなさい。私が解除するまで厳守です。もちろん君もです」

 

「ですが……室長」

レアリーはその老人の命令に戸惑う。

前代未聞の処置だからだ。

さらにアムロに護衛依頼を頼み、ジョブとの仲介役を行った自分もこの話し合いに参加するものだと思っていたのもある。

 

「これは命令です。何かあれば、私の方から出向きます」

 

「…了解いたしました。私はブリッジに待機しております」

レアリーは一息間を開け、了承し、一礼して会議室から出ていく。

 

「……これで心置きなく話せる。私はサナリィ所属、開発室長ジョブ・ジョンです」

ジョブは手を前に出し、アムロに握手を求める。

 

「レイ・ハヤセです。申し訳ないですが所属は申し上げられません」

アムロはソファーから立ち上がり、握手を返す。

アムロは紳士然としていたが目の前の深い皺に頭も寂しい老人に、嘗ての美少年といっていい顔立ちのジョブ・ジョンの面影を全く感じなかった。

 

「いえ結構です。先ずはスペース・アークのクルーをお救い頂き、感謝いたします」

ジョブ・ジョンはアムロにソファーに座る様に促し、自らも対面のソファーに腰を掛ける。

 

「たまたま通り掛ったまでです」

 

「申し訳ないですが、あの戦闘データを拝見させていただきました。見事です。モビルスーツを破壊せずに急所のみを撃ち抜き、停止状態にと。あの戦闘機の機動力も素晴らしいですが、貴方の技量はもはや誰も手が届かないでしょう。……ただ、私は貴方と同じような技量を持つ人物を一人知っております。………君の御父上、アムロ・レイはご存命なのですか?」

ジョブの目は真正面でアムロを見据えながら、こんな質問をして来たのだ。

どうやらジョブは目の前の、レイ・ハヤセと名乗る人物をアムロの息子だと判断したようだ。

アムロ並みの戦闘センスによく似た風貌に年齢的にも辻褄が合う。

 

「………」

アムロはそれにどう応えるか答えに窮する。

 

「答えられないと。……それで十分です。しかし、貴方は見れば見る程、御父上アムロ・レイと瓜二つだ。貴方の御父上の最後の記録写真と寸分もたがわ……………いや、……………アムロ……そんなはずは………」

ジョブ・ジョンはじっとアムロの顔を見ていたのだが、途中から目を見開き驚愕の表情に変わり、手が震えていた。

 

「………ジョブさん。ご無沙汰してます。あの頃はお世話になりました。貴方のお陰で当時ホワイト・ベースでギスギスしていたカイさんやハヤトとの関係も随分と円滑になりました」

アムロは優しい笑顔をジョブに向ける。

アムロはジョブとの僅かな会話の中にも、部下やこちらに向ける細かい配慮や優しさはホワイトベース時代となんら変わらないと感じ、ニュータイプの勘も目の前の人物が信に足る人物だと……、この一つ年上の優しき戦友に真実を語る事にしたのだ。

 

「アムロ……なのか?いや、そんなはずは…………先ほどの戦闘データはまさしくアムロ・レイを彷彿されるものだった。だがしかし………」

ジョブは目を見開いたまま……震える手を前に出し、アムロを指さしていた。

 

「アムロ・レイです。……信じられないでしょうが」

 

「………アムロ・レイは0093年にシャアとの激闘でMIAと認定され、亡くなった事になっていた。私も当時の戦闘データを穴が空く程確認し、精査した。サイコ・フレームのオーバーロードによるサイコフィールドが生成され……アクシズを……。しかしνガンダムは見つからなかった。残骸もなにも……だから、わたしはひょっとして生きているのではと思った……が。君がアムロだと言うのであれば……君は当時の姿のままだ……どういう事なのか」

ジョブは一息ついた後、早口で語りだし、そして、狐に抓まれたような表情をしていた。

 

「俺もよくわかりません。俺もシャアと決着をつけ、地球に落ちるアクシズをνガンダムで受け止めようとしたのです。サイコフレームが感応し、凄まじい力があふれ出で、アクシズが押し戻されて行くのを薄れゆく意識の中で感じました。……そして俺自身は死んだと。ですが、俺は生きてました」

 

「…………まさか、時間移動?いや、あり得る。サイコフレームがオーバーロードして起こる現象サイコフィールド。それを応用したサイコシャードは時すら操る現象が確認されている。あのアクシズショックのサイコフィールドの中心に居ただろうアムロやνガンダムに何が起きてもおかしくない。……となるとアムロ、君はこの時代に時間移動を?」

ジョブはそのアムロの話を聞き、思い当たる事があったのだ。

サイコフレーム自体偶然の産物で出来たようなもので、サイコミュシステムにしろまだ解明されていない事が多い。

ただ、アクシズショックのデータにラプラス事変やユニコーンガンダムのデータ等から、サイコフレームが相当不可解な現象を起こすデータは得られたようだ。

 

「サイコフレームはそんな現象まで可能なのか……。いえ、違います」

アムロはジョブのサイコフレームにまつわる話の一端を聞き、流石に驚きながら時間移動説を否定する。

 

「どういうことか?それとも君は年をとらないとでもいうのか?」

 

「……俺は平行世界へと飛ばされた。ジョブさんの言う通り、サイコフレームの共振が何らかの現象を起こした可能性が高いと俺も考えていました」

 

「平行世界ということは………別世界………信じられないが……否定する要素も無い」

 

「俺も最初は信じられませんでした。俺は平行世界に行き、最近再び戻って来たんです。そこに時間的なズレが起きたようです。平行世界の証拠として俺が乗って来た戦闘機が証拠です」

アムロが乗って来たYF-5 シューティングスターにはこの世界にはないゼントラーディの技術も多分に積み込まれていた。

 

「そうか、君は本当にあのアムロ・レイなのだな……」

 

「そうです」

 

「神はこの世界を見捨てなかった……」

ジョブは何故か涙ぐんでいた。

 

「………ジョブさん」

 

「アムロ、よく生きていてくれた。よく帰ってきてくれた」

ジョブは再び立ち上がり、涙ながらにアムロに両手で握手を求める。

 

「ジョブさん、申し訳ないが、この30年何があったか教えてもらえないだろうか?」

アムロはそんなジョブの涙に少々大げさに思いながらも、肝心な事を聞く。

 

「時間がかかるぞ。君の平行世界とやらの話も大いに興味がある……場所を変えよう」

ジョブは涙を拭き、大いに頷きこういった。

 

 

ジョブはアムロが乗って来たYF-5を一目見せてもらった後に、YF-5を基地の現在使用していない空ドックに置いておくように言う。

その際、YF-5には誰も手出しさせないように伝えた。

 

アムロはその後、ジョブの案内で基地内にあるジョブの私室に案内される。

 

「……そうか、シャアは行方不明……ネオ・ジオンは崩壊」

アムロはラプラス事変、ジオン共和国の連邦への帰属。マフティー動乱、連邦の衰退。宇宙依存拡大。各サイドの権力増大。ブッホ・コンツェルンの台頭などなど、概略ではあるが、ジョブに語り聞かせて貰った。

 

「もはや、地球連邦は形骸化してしまっている。この30年連邦政府は何もしなかったのが原因だ。いや、行った事といえば、私腹を肥やす連中を増やしたと言う事だろう」

 

「クロスボーン・バンガードとは?」

 

「ブッホ・コンツェルンの私設軍隊だよ。前々から連邦軍に警告はしていたのだが、連邦は動かなかった。ついには総帥のマイッツアー・ロナがコスモ貴族主義を掲げ、つい半月前に新サイド4 フロンティア・サイドにコスモ・バビロニアなる国を建国した。スペース・アークはそこから逃れる途中で、君に助けられた。新サイド4は完全に抑えられ、月のグラナダは落ちた。他のサイドも追従し、傘下に入るか、連邦から独立し、同盟を結ぶ動きまである」

 

「一年戦争の再来か……」

 

「一年戦争時との大きな違いは、経済は完全に宇宙で回っていると言う事だ。産業、資源や食料、人口全てがだ。宇宙は既に地球無しで回っているのだよ。連邦の連中はそれでも地球に固執し、自らの首を絞め続け、結果がこれだ」

 

「………連邦宇宙軍は何をしていたんですか?」

 

「連中の鼻薬で、骨抜きにされている。それだけじゃない。モビルスーツの性能差も明らかだ。アナハイムの連中がのらりくらりと自己の金儲けだけに力を入れた結果でもある。連中は今回もコスモ・バビロニアと地球連邦ともに兵器を売りさばくつもりだ」

 

「連邦はまだ、アナハイムをのさばらせているのか。アナハイムはコスモ・バビロニアにもモビルスーツの提供を……」

 

「いや、コスモ・バビロニアの前身であるブッホ・コンツェルンは独自に小型モビルスーツの開発を成功させた。元々はアナハイムの下請けで兵器の部品なども作っていたのだが、20年ほど前に本格的に自社開発を行ったようだ」

 

「よく連邦が許したものだ。それ程腐ってると言う事か……」

 

「そうだ。民生品として売り出す名目で許可を取り今に至る。我々(サナリィ)の技術も流用されている事は見るからにわかる。モビルスーツ開発技術力は今ではアナハイムよりも上だろう。部品などはアナハイムから今も多量に供給を受けているだろうが………」

 

「ネオ・ジオンを、シャアを止めたとしても……無駄だったと言う事なのか………」

 

「……………いや、30年間は大きな戦いは無かった」

 

「宙域にジェガンタイプの残骸が何体も見えた。連邦はモビルスーツに対し何もしてこなかったのですか?」

アムロは新サイド4 フロンティア・サイド宙域までYF-5を飛ばせた際、ジェガンタイプの残骸や放置された物を多数目の当たりにしていたのだ。

初期生産されてから35年経った今も、その形状をほとんど変えることなく。

 

「いいや、ここ最近漸く、小型モビルスーツにシフトしつつあった。ここサナリィはアナハイムから独立した連邦のモビルスーツ研究開発機関を担い、30年前から小型モビルスーツの開発研究を行っている。技術力では既にモビルスーツ小型化を渋るアナハイムを上回っている事は間違いない。但し、生産力は乏しく、結局アナハイムに外部生産を委託してる状況だ。これも連邦のお偉方がアナハイムとは結び付きが強いからだろう。自らの首を絞める結果は目に見えているのにだ」

 

「では、あのスペース・アークに搭載されていた小型のガンダムタイプは……」

 

「ああ、私の主導下で開発した現段階ではサナリィ最高峰のモビルスーツ F91だ。まだ試験運用段階ではあるが。あれはニュータイプが搭乗することにより、最大のパフォーマンスを発揮するように設計されている。今は開発封印処置を施されたサイコフレームをこっそりコクピット周りに埋め込んでいるのだよ。そう……私はこの暗雲としたこの世の中を切り開く、君のようなパイロットが生まれる事を望んで……私は君が乗り戦う姿を想像しながら、このF91を設計したのだよ」

 

「……ジョブさん」

 

「あの12機のコスモ・バビロニアのモビルスーツを打ち倒す映像データを見て、私はどれだけ心躍ったか……君の再来だと思ったのだよ……だが、本人がこうして目の前に……」

ジョブの目尻にはまた涙が溜まっていた。

 

「……そういえば、ブライトはどうしてます。ブライトが居れば、こんな暴挙を許すはずが無い」

アムロは一抹の不安を抱えながらジョブにブライトの事を聞く。

もしかすると、あのシャアとのアクシズの攻防戦で、ブライトも命を落としている可能性があるからだ。

 

「ブライトさんは……18年前に軍を辞めてしまった」

 

「……やめた…なぜです?」

ジョブのその答えにホッとすると同時に、あのブライトがそんなに早く軍を辞める事に訝し気に感じた。連邦軍のやり様にいいかげん嫌気を差したという可能性はあるが……

 

「………あの人にとって耐えがたい事件があった。……今はこの隣のフォンブラウンで静かに暮らしている」

 

「ブライトに何が?」

 

「………アムロ、これからどうするつもりかい?」

ジョブはアムロの質問をはぐらかし、逆に今後の事を聞く。

 

 

「ジョブさん……その前に俺の話も聞いてもらえますか?」

 

「平行世界の話だったか、実に興味深い」

先ほどまで暗い話で陰鬱とした雰囲気だったが、アムロがそう切り出すとジョブは少年のように目を輝かせていた。

 

アムロは平行世界に転移してから、今に至るまでの大まかな話をジョブに聞かせる。

「銀河の覇権を賭けた星間戦争に異星人、しかも巨人族。500万の艦隊に、地球潰滅。異星人との共存。外宇宙に向け第2の故郷を探す旅……あまりにもスケールが大きすぎる。にわかに信じられないが、今こうして若いアムロと話している現状を見れば、真実なのだろう。だが我々の地球圏では未だ人同士の諍いが絶えない現状は余りにも情けない」

 

「俺は向こうの世界で骨を埋めるつもりでした。いや、今も埋めるつもりです。火星圏に一緒に転移してしまった船団を残し、本当に元居た宇宙世紀の時代に転移してしまったのか、確かめるためにここに来ました」

 

「アムロ………君は英雄なのだろう。向こうの世界でもこの世界でも……30年前、君はこの世界に希望の光を見せてくれた。サイコフィールドが放つ希望の光を……あの時にここでの君の役目は終わったと言う事なのだろう」

 

「………しかし、今のこの地球の現状を放っておくことも俺には……」

 

「アムロ……君には君の使命があるのだと私は思う。それはこの世界の為ではないだろう。一緒にこちらに来てしまった向こうの世界の人々には君が必要だ。この世界は君を貶めて来た、君が助ける義理は無い」

ジョブは切なそうな表情を浮かべながら、アムロにこう言い切った。

 

「ですが……」

 

「君はこのサナリィを自由に使いたまえ、情報も提供する。今迄この世界の為に力を尽くしてきてくれた君にはその権利がある。…………ブライトさんに顔を出してあげてほしい、きっと喜ぶ」

 

「わかりました………ありがとうございます」

アムロはジョブの言葉を今は素直に受けとることにした。

 

アムロがここに来た目的は既に達していた。

この世界が元居た宇宙世紀の世界の30年後の世界であることは判明し、この世界の今の情勢もここで知る事が出来るだろう。

ただ、肝心の向こうの世界に帰る手立ては今の所ない。

 

アムロはジョブから社員証を受け取り、サナリィ内での自由を許される。

さらに、サナリィ内の宿泊施設の提供とスペース・アークの護衛料をカードごとアムロに渡した。

 

アムロはYF-5に一旦戻り、未沙に通信を行う。

「未沙……俺の故郷だったよ。30年後の……」

『アムロさん帰れたのね。でも浮かない顔よ』

「ああ」

『YF-5のデータをライブ通信で確認したわ……戦闘になったのね』

「ああ、未だ人々が争っていた……」

『アムロさん……』

「未沙……俺は……」

『一度地球に行って空気を吸って来てください。青い地球があるのだから、私や子供たちにも地球の様子を映像で見せてください』

「………」

『アムロさんはちょっと我がままになってもいいと思うわ』

「未沙、ありがとう」

アムロは未沙のその言葉に心を落ち着かせることが出来た。

 

 

アムロはジョブの言葉と未沙の言葉を心に留め、サナリィ内の宿泊施設へと……。

アムロは早速、サナリィの社内ネットワークを使い、ライブラリー検索を行う。

ここ30年の出来事を自らの目で確かめる。

(やはり、シャアはあの時に死んだとみていいだろう……。しかし、俺がこうやって生きている。もしやという事も無きにしも非ずか………)

アムロは第二次ネオ・ジオン抗争と呼ばれるシャアとの戦いを調べていた。

サナリィは元々戦術研究を行っていた機関だけあって、この抗争について細部にわたって調べ上げていた。

(サイコフレームのオーバーロードによるサイコフィールド……それが地球に落下するアクシズを押し戻したと……あの時感じた力はたしかにこれだろう)

(……ラー・カイラムは無事だったが、戦死者はかなり出たようだ。あの時感じたチェーンの存在は……やはり……)

ラー・カイラムに戦友も多く乗艦していた。嘗て、恋人未満だった関係のチェーン・アギの事を調べるが……MIA(戦時行方不明兵)扱いになっていたことが判明する。

アムロは静かに目を瞑り、既にこの世にいないだろう彼女の魂に思いを馳せる。

 

アムロはラプラス事変などの事件も目を通し、そして、マフティー動乱に目を向ける。

そこには信じがたい内容が書かれていた。

連邦高官の粛清をモビルスーツを使って行っていたマフティー・ナビーユ・エリンのリーダーが、ブライトの息子ハサウェイ・ノアだと言うのだ。

しかも、捕えられたハサウェイの処刑を行ったのがブライト・ノアと……。

 

アムロは背中に冷たいものを感じる。

ジョブが言い淀んでいたのはこういう理由からだった。

「ブライトに……ブライトに会わなければ………」

 

 

アムロは翌日、ジョブに面会しフォンブラウンに行く事を告げる。

元々潜入用に用意していた私服に着替える。どうやら宇宙世紀のこの時代にも十分通じるファッションの様だ。

道中、なんとなしにサングラスを購入し……ジョブに教えてもらったブライトの家へ向かう。

 

 

閑静な住宅街の一角にブライトの家はあった。

アムロは電動自動タクシーを降り、ブライトの家に近づく。

庭先には、見覚えのある女性が花壇の世話をしていた。

アムロのイメージからは幾分か年を重ねていたが間違いないだろう。

 

「ミライさんかい?」

アムロは女性の後ろからサングラスを外しながら声をかける。

 

「………え?…………うそ……アムロ?……いえ、そんなはずは………」

ミライは振り返り、声を掛けたアムロの顔を見上げ、その顔を見つめながら驚きの声を上げ立ち上がり、両手で口元を抑える。

 

「ミライさん……アムロです」

 

「………そ、そんな、でも………あなた!あなたっ!ここにアムロが!」

ミライは困惑した表情をしながらも、家に向かって叫ぶ。

 

「なんだ?ミライ騒々しい……アムロだと、冗談も休み休みにしてくれ………!?」

そう言いながら、玄関から出てきたのは、頭髪には白いものが目立ち、鼻下に髭を生やしたブライトだった。

玄関先に立っているアムロを見て、目を見開き持っていた剪定鋏を地面に落とす。

 

「あなたっ!……」

ミライはブライトに駆け寄り、アムロの方に振り向き指さす。その表情にはまるで幽霊を見ているかのように………。

それもそのはず、死んだと思っていた人物が、その当時の姿のまま現れたのだから。

 

「ブライト……久しぶりだな。ちょっと老け込んだか?」

アムロはブライトに声をかけ、ワザとユーモアを含んだ言葉を投げかけた。

 

「………ア…アムロなのか?……いや、しかし」

 

「ああ、アムロだ。30年ぶりになるのか、長らく待たせた」

 

「あ、アムロっ!……生きていたんだな……アムロ!」

ブライトはアムロに近づき、彼には珍しく、酷く興奮したようにアムロに抱き着いた。

 

「ああ、俺はこうして生きてる。すまなかった」

暫く、2人は抱き合っていた。

ブライトにとって30年ぶり、アムロにとっては7年ぶりの再会だった。

 

落ち着いたところで、アムロは家に上がり、アンティーク調のダイニングテーブルの席に座る様に促される。

「アムロ、飲み物は何がいいかしら?」

「コーヒーで」

「さっきは取り乱してしまってごめんなさいね」

「いや無理もない」

ミライはキッチンへと入る。

 

対面に座るブライトは未だ興奮が冷めない様子でアムロに訪ねる。

「アムロ……今の今迄どこに行っていたんだ。それにあの当時のままだ」

「いや、俺も幾分か年をとった。ブライトほどじゃないが」

「お前が死んだと思って俺がどれ程悔しんだか……」

「すまなかった。俺もシャアとの決着をつけ、νガンダムでアクシズを押し返そうとし、死を覚悟したさ」

「だが、お前は今俺の目の前にこうして生きている。当時と変わらない姿のままで、どういうことだ?」

 

ミライがコーヒーの入ったカップを3つ、それぞれの席に置き、ブライトの横に座る。

「アムロ、生きていてくれて嬉しいわ。でもどうして?」

「ブライト、ミライさん、信じられないだろうが、まずは聞いてくれ」

アムロはブライトとミライに、アクシズを押し返そうとし、死を覚悟した瞬間に、平行世界へと跳ばされたことを語り出す。

大まかな経緯と7年間平行世界で暮らし、そして、つい先日、宇宙世紀の今の時空に自分が所属する船団ごと飛ばされたと……。

 

「アムロはそれで若いままなのね。私なんてすっかりおばあちゃんよ」

ミライはアムロのその話をすんなりと受け入れていた。

 

「信じられん。この地球とよく似た世界…平行世界に飛ばされ、そこでは銀河を跨ぐ異星人達の星間戦争が繰り広げられ、それに巻き込まれた形でそっちの世界の地球人類が……地球を覆う500万の艦隊か……想像がつかんな。地球は壊滅、人類と異星人が手を取り合うか………いやはや、映画の世界だな」

 

「人類は異星人と手を取り合って、共に生きていく事を決めるなんて、素敵な話よブライト」

 

「ミライ……その話を信じられるのか?」

 

「だって、アムロが若いまま現れたのよ。こうして私達の目の前で話をしてくれてるわ」

ミライはアムロの荒唐無稽な話を信じているようだが、ブライトはまだ受け入れられていないようだ。

 

アムロは会話をしながら、おもむろに情報端末機を取り出し、立体投影映像をテーブルに浮かびあげる。

そこには、アムロと優しい笑顔を浮かべる若い女性と双子の子供が写っていた。

「俺の嫁と子供達だ」

 

「アムロお前…そうか、あのアムロが結婚して家庭を持ったのか、そうか……」

感慨深そうにそう言うブライトの目尻には涙が溜まっていた。

 

「随分若い奥さんね」

「ああ、俺が今36で、彼女は、未沙は26だ。32の時に結婚した」

「ふふふふふっ、アムロの奥さんはきっと若いけどしっかり者なのね」

「ミライさんの言う通りだ。しっかりもので、俺は彼女に助けられてばかりだ」

ミライとアムロは暫く、未沙と子供たちの事で盛り上がる。

 

「……真実なのだなアムロ。……向こうでも戦って……そして、今もこうやって戦乱のさなかのここに……」

 

「ああ、真実だ。だが俺はある種幸せだ。こうやって家庭を持てるなどとは思っていなかった。今も彼女と子供たちは俺と一緒に歩んでくれる。それに人類と異星人が手を取り合い互いに努力する姿は何とも言えない」

アムロは今の自分は幸せだとブライトとミライに告げた。

 

「そうか……」

「アムロ……」

ブライトとミライは笑みをこぼしていた。

 

アムロは、多少老け込んでしまったようだがブライトとミライが夫婦で仲良く過ごしている事にホッとする。

アムロはハサウェイの事を話題にすべきなのかと思考を巡らせるが、こちらからは触れない方が良いだろうと判断する。

2人の話から、今は年金生活をおくっているらしい。

仮にも連邦軍の艦隊の指揮官までにのし上がった人物だ。

年金も十分にあるだろう。

 

 

アムロはそのまま夕飯を馳走してもらう。

ミライが何時また会えるかとアムロに訪ね、

「また、寄らせてもらうさ。今の俺の名はレイ・ハヤセという事になってる。何かあったらここに連絡してくれ」とアムロは返答する。

先日からサナリィのジョブ・ジョンのもとで世話になってる事を告げ、ジョブに渡された携帯端末の番号を知らせ、ノア家を後にする。

 

(ブライトとミライさん……ブライトは多少老け込んでしまっていたが、仲良く暮らしていた。話の筋から娘のチェーミンは結婚して近所に住んでるようだ。孫も居るようだし大丈夫だろう)

 

 




〇ジョブさんの設定は色々あるようですが、一つ上の先輩という設定に準拠させてもらってます。ジョブさんは随分と紳士な感じで、尊敬できる先輩として魔改造。
〇F91にはサイコフレームが搭載されてる記述があったり、なかったり。
此処ではサイコフレームをコクピット周りにのみ使用してる説を採用しております。

次はシーブック達との話を書ければなと思ってます。
それと……どうやってあの化け物バルキリーが生まれるかも今後書ければと思ってます。

私事ですが、もう一作のアムロとのギャップにちょっと苦しんだかな?

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