アムロの帰還   作:ローファイト

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感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

もうちょっと続く感じになりそうです。
ストーリーは作っちゃってます。
設定とかはちょっと弄ってますが、あらかたは原作設定に沿ってるとは思ってます。
映像化や小説化もされていない部分なんで、結構あやふやですが……


世界の情勢を知る。

アムロはブライト、ミライ夫婦と再会を果たしたその日の晩、ジョブ・ジョンにあてがわれたサナリィ基地内の宿泊部屋で思いに更けていた。

 

(俺は確かにこの世界での役割を終えたと思っていた。今では向こうの世界こそが俺にとっての帰る場所だと思っている。今この世界の地球圏は俺が居た30年前よりも状況は明らかに悪化している……しかし、この世界にとって俺は既に死んだ人間だ。俺が干渉すべきではない事は理屈では理解している。だが……)

アムロは思い悩んでいた。

先日ジョブ・ジョンから聞いた現状の地球圏の概要、今日会った苦難を乗り越え穏やかに生活していたブライト夫婦を思い起こす。

 

翌日、早朝にアムロはジョブ・ジョンに呼ばれる。

丁度アムロも会おうと考えていた所だった。

 

開発室長室とプレートに名が刻まれてる部屋では、ジョブが待っていた。

「アムロ、先日君には君の使命を優先するべきだと言った手前申し訳ない。だが、君の意見を聞きたい案件が出来た」

 

「いや、こちらも世話になってます。俺が答えられる範囲なら……」

 

「早速だがこれを見て欲しい」

ジョブはそう言って、室長室の壁一面の巨大なディスプレイにとあるデータと映像を次々と見せる。

 

「これは……」

その映像にはモビルスーツを次々と倒し、小型の自動機動兵器らしきものを複数破壊し、最後には花のような巨大モビルアーマーを打倒す様が映し出されていた。

 

「そう。F91の戦闘データを編集したものだ。搭乗者はシーブック・アノー」

ジョンからその名を聞き、アムロは先日スペース・アークで会った大人しそうな少年の顔を思い浮かべる。

 

「彼は……」

 

「彼は一般人だ。フロンティアサイドのハイスクールに通うごく普通の学生だった。だが彼は、まともな訓練を受けずしてF91を乗りこなし、最大の戦果を挙げている。まるで一年戦争時の誰かを彷彿させる戦いだ」

ジョブが言う誰かとは、もちろんアムロの事だ。当時16歳だったアムロはモビルスーツの搭乗経験が無いにも関わらず、初めて乗ったガンダムで2機のザクを撃退している。

 

「これは……俺の時とは桁違いだ。既に彼はニュータイプとしての力を十分に発揮している」

アムロはシーブックの戦闘データを見て、こう評価した。

当時のアムロはニュータイプとしての能力を有していたかもしれないが、発現させてはいなかった。

 

「いやF91にはサイコフレームやサイコミュと連動させたバイオコンピュータが搭載されている。ニュータイプの能力を十分に発揮できる土壌が既にF91にはあった。一年戦争時のあの時のガンダムとはシステムやモビルスーツの性能も何もかも異なるよ。だが、君が言う様に、このデータからは明らかに彼が高いニュータイプ能力を有していることが分かる」

ジョブはサイコミュの概念が無い当時のRX-78-2 ガンダムと、ニュータイプの力を十二分に発揮できる機能を搭載しているF91では比較対象にならないと、ガンダムに乗ったばかりの当時のアムロと今のシーブックとは環境が大幅に異なるため、対比はナンセンスだと言ったのだ。

当時のRX-78-2 ガンダムにはサイコミュシステム等は一切搭載されていない。

ZガンダムやZZガンダムにはファンネル等の火器管制システムを省いた簡易サイコミュシステムであるバイオセンサーが搭載され、ニュータイプ能力を発揮する土壌はあった。

νガンダムやユニコーンガンダムにはサイコフレームが搭載され、フルサイコフレームのユニコーンガンダムに至っては、通常ではありえない事象まで起こすに至っていた。

一年戦争当時のアムロは戦場の最中、ニュータイプ能力を徐々に高め、ジオン系のサイコミュ搭載兵器を自らの技量とニュータイプ能力のみで打ち破るに至っていた。ア・バオア・クーでの戦場に至っては、一個人でホワイト・ベースのクルー全員に未来予知と言っていい内容をテレパスで全員同時に伝えていた。

以降、アムロは大人になり、様々なしがらみにより、ニュータイプ能力を発揮することを恐れるかのように、使用すること自体を躊躇するようになる。

そして末期には、観測された中、史上最大のニュータイプ能力を発揮した事象、アクシズショックは間違いなく、サイコミュシステムを搭載したνガンダムに乗ったアムロがもたらせたものだろう。

それにジョブにとって一緒に数か月過ごし、自らの目で見て来たという贔屓目もあるだろうが、アムロは彼にとって史上最高のモビルスーツパイロットにしてニュータイプであり、英雄だったのだ。

 

 

「バイオコンピュータとは?」

アムロは聞きなれないその言葉の意味をジョブに問う。

 

「モビルスーツ管制用の教育型コンピュータのコンセプトは一緒だ。こちらはサイコミュと連動しパイロットとモビルスーツをダイレクトに意思疎通を図るシステムだ。リミッターを解除し最大化稼働時にはパイロットはモビルスーツと一体感を得られるだろう事は想定していたが、まさかリミッターを解除出来る程のニュータイプが現れるとは……彼の母親がバイオコンピュータの開発者だと言う事も関係してるのかもしれない」

そう言って、ジョブはアムロにタブレット端末を渡し、極秘であるはずのバイオコンピュータの資料をアムロに見せる。

ジョブはアムロとの比較など関係無しに、シーブック自身が高いニュータイプ能力を有している事を認めている。

 

「サイコミュと一体型の管制システムか……。なるほどこれならば、パイロットの負担を減らし、サイコミュを稼働させる事が出来ると言う事か、パイロットの能力に合わせリミッターとしての役割もある……。パイロットに調整処置を施す必要が無いということか」

 

「私はこう見えても人道派でね。強化人間否定派なのだよ。ただ乗り手を選ぶ。リミッターを限界まで解除し、最大稼働まで発揮したのは今回が初めてだ」

 

「……ジョブさん。俺の意見を聞きたいというのは?」

 

「そうだ。ニュータイプとして、いや、パイロットとして、彼をどう思うかと参考に意見を聞きたかったのだが……もう答えが出ている。君の話を聞くに合格の様だ」

 

「彼は最近まで一般人だと……彼は自らの意思でモビルスーツのパイロットになる事を?」

 

「彼はそう希望した。何がそうさせたのかは、想像に易い。彼はこの戦いで故郷を追われ、父親を亡くした」

ジョブは少々眉を顰めながら、シーブックがモビルスーツパイロットを志願したいきさつを推測し、アムロにそう語った。

 

「いや、彼からは復讐というような激しい感情を感じなかった。彼からは光のような物を感じた。……そうだジョブさん。もう一人ニュータイプが……たしか、スペースアークでシーブックと一緒にいたセシリーという少女だ」

アムロはシーブックに会った際、復讐などという負の感情は一切感じられず、希望の光のようにも感じていたのだ。それは、一緒にいたセシリーに対してもそうだった。

 

「それは本当なのか?アムロ?確かに、セシリー・フェアチャイルドは、モビルスーツを短期間で乗りこなしていたという報告を受けているが……」

ジョブはセシリーがニュータイプであることを知らなかったようだ。

そのような報告は受けていない。いや、ニュータイプという概念自体殆ど持っていないレアリーら、スペース・アークのクルーに求めるのも無理難題だろう。

シーブックについてはF91のデータを解析した結果、シーブックが高いニュータイプ能力を有していると判明したが、セシリーが搭乗していたコスモ・バビロニア側のモビルスーツ ビギナ・ギナは回収できずに、大破のまま宇宙に漂っているだろう。

実際にはクロスボーン・バンガード、現コスモ・バビロニア国軍に回収されていたのだが……。

 

「ああ、間違いない。俺は彼女からも高いニュータイプ能力を感じた」

 

「アムロが言うならそうなのだろう。だが彼女は……」

ジョブはここに来て言い淀む。

 

「何か問題でも?」

 

「彼女はコスモ・バビロニアの総帥、今や国王というべきか、マイッツァー・ロナの孫娘 ベラ・ロナだ」

 

「……どういうことですか?」

 

「これはかなりデリケートな問題だ。今の所この事実はサナリィでも一部の人間しか知らない。……レアリー君から報告を受け、セシリー君自身にも直接話を聞いたのだが、彼女は元々シーブック君と同じ高校に通っていた。彼女の母親は幼い彼女を連れロナ家を出て、彼女を育てた。だが、マイッツァーは建国に当たって彼女をロナ家へと連れ戻した。コスモ・バビロニア建国式典の映像にも一族の人間として確かに彼女は映っていた。だが、彼女はコスモ・バビロニアを抜け、再びセシリー・フェアチャイルドとして、現地レジスタンスやスペース・アークに協力したとの事だ」

セシリーはカロッゾ・ロナ(鉄仮面)とマイッツァーの娘 ナディア・ロナとの子で、本名はベラ・ロナだった。

だがセシリーが4歳の頃、貴族主義に反感を持っていた母 ナディアはセシリーを連れて家を出、シオ・フェアチャイルドと駆け落ちをしフロンティアⅣに居住してきたのだ。ナディアとシオの元、パン屋の娘として17歳まで育てられてきた。

コスモ・バビロニアの建国に当たって、総統 マイッツァーは自分の血筋を持つセシリーを連れ戻し、その美貌と共に国のアイドル的な役割を期待し、王女に据えたのだ。

セシリー自身は貴族主義を容認したわけでもなく、大人の都合と時代の流れに翻弄され、さらに友人であるシーブックが自分をロナ家へと連れ戻すために寄越した部隊によって目の前で死んでしまったと思い、自分がロナ家に戻らなければ、さらに自分の親しい人たちが被害に遭うと、諦め、祖父 マイッツァーに従っていたのだ。

だが、シーブックは生きていた。

ベラ・ロナとなったセシリーはコスモ・バビロニアのプロパガンダの一環として、モビルスーツ ビギナ・ギナを駆り戦場に出ていたのだが、偶然にもF91に乗るシーブックと再会を果たしたのだ。

セシリーはシーブックの説得の元、再びロナ家を抜け、ベラ・ロナからセシリー・フェアチャイルドに戻ったのだった。

そして、人々の抹殺を図る悪意の権化にへと変貌してしまった実父、鉄仮面 カロッゾ・ロナとシーブックと共に対決し決着をつけ、今に至っている。

 

このような経緯がセシリーに有り、ジョブはレアリーからの報告を受けた後、直ぐにセシリーについて箝口令を敷き、情報漏洩を防ぐ手立てを行った。

もし、連邦軍にこの事が知れ渡れば、セシリーを引き渡すように要求されるだろう事は火を見るよりも明らかだった。

連邦に引き渡されたセシリーの末路は分かり切っている。

人質として政治利用される彼女には過酷な運命が待っているだろうと。

ジョブにとって望ましいものでは無い。

セシリーは現状、サナリィ、いや、ジョブの元で保護されていると言って間違いないだろう。

 

「ジョブさん彼女を……」

 

「連邦に引き渡すつもりはない。だが、彼女をどうすべきかは、図りかねている」

ジョブはそう強く断言するが、手を顎にやり、思案に暮れるような表情をしていた。

その答えに、アムロは内心ホッとするとともに、ジョブに対してますます好感を持ったのは言うまでもない。

 

「………ジョブさん、俺をシーブックとセシリーに会わせてくれないか」

 

「どういう事だアムロ?……いや、元々私は君にシーブック君にアドバイスをあげて欲しいとは思っていた。君の経験から出る言葉は彼にとって何よりの金言になるだろうと」

 

「俺は会って、話してみたいと思ったまでです。俺のアドバイスが参考になるかは分からないが、それは話しておきますよ」

シーブックにセシリー、あの若者達に会い、何かを伝えなければと漠然と思っていた。

 

「わかった。そのように直ぐに手配しよう。それと、君も私に話があるのだったな」

 

「はい、今の地球圏の情勢を詳しく知りたいと……」

 

「私が言うのもおかしな話だが……現在の地球圏に関わるつもりなのかね」

 

「わかりません。ですがここは俺の故郷であることは間違いありません」

アムロには確かにこの世界に干渉していいものか迷いがある。だが、何か出来る事はないかという思いも強く持っていたのだ。

 

「わかった。こちらが把握してる事を全て話そう。サナリィは戦略研究を得意としている。連邦のどこよりも正確性の高い情報を持ってると自負しているのだよ」

サナリィは海軍戦略研究所の名前の由来通り、軍略に関するアドバイスを連邦軍に行って来た機関だ。元々はコロニー公社と結び付きの強い民間企業だったが、連邦軍に買収され半官半民の立場で現在に至る。

さらに、正式に現在のモビルスーツ開発研究を開始したのは、奇しくもアムロとシャアが対決した第二次ネオ・ジオン抗争の半年後となる。

 

 

ジョブは語りだす。

現在、地球連邦軍はほぼアナハイムからモビルスーツの供給を受けている状態だ。

所有モビルスーツを含む機動兵器の数は凡そ5400機、艦船は約800隻。

これは連邦軍が一年戦争後からグリプス戦役までに所有していた戦力とほぼ同じだ。

だがこれでも、時代と共に軍縮の流れにより一時期に比べ、数を減らしている。

そして、コスモ・バビロニアが所有する戦力はアナハイムの動向や先の戦い、過去の動きを見て、多く見積もってこの時点で、凡そモビルスーツ700機、艦船は80隻だろうと推測していた。これは嘗て第一次ネオ・ジオン抗争時にアクシズ(ネオ・ジオン)及びジオン残党軍が所有していた戦力よりも明らかに多い。

因みに第二次ネオ・ジオン抗争時に、シャア率いる新生ネオ・ジオンの戦力は艦船14隻、モビルスーツ及びモビルアーマー合計86機という連邦の一師団程度の寡兵だった。

更に一年戦争開戦時のルウム戦役でのジオンの戦力は艦船158隻(+補給艦240隻)モビルスーツは約3000機だったと。

対する連邦は艦船565隻(+補給艦1280隻)と戦闘機多数。モビルスーツは存在しない。

 

 

コスモ・バビロニアと連邦軍との単純な総戦力差は7~8倍の差がある。

だが、連邦軍は5400機の内、90%以上が旧式のジェガンからなるモビルスーツであった。

コスモ・バビロニア側の最新鋭の小型モビルスーツの性能は既に、ジェガンを圧倒的に凌駕していることが実証済みだ。

単純な数での戦力差では既に測れない状態だ。

 

マイッツァーは下準備を水面下で30年以上前から行っていたとサナリィは見ている。

26年前にマイッツァーが関わっただろう私設モビルスーツ部隊の動きを把握したのを皮切りに、コスモ・バビロニアの前身でもあるブッホ・コンツェルンは幾度となく、モビルスーツのテストを行いつつ、軍備の拡大を行い、ついには私設軍隊クロスボーン・バンガードを設立させたのだ。

だがサナリィは、ブッホ・コンツェルンによるモビルスーツの本格量産体制が整ったのはこの5~6年だろうと見ていた。

 

 

余談だが、メガロード01率いる第一次移民船団の機動兵器は地球連邦の所有してる全モビルスーツの数よりも多い。

メガロード01のバルキリー及びデストロイド搭載数は凡そ800機。

10隻の護衛艦隊に搭載されたバルキリー及びゼントラン系機動兵器は合計で9000機と、既に地球全体のモビルスーツの数を上回っていた。

艦船こそ少ないが、護衛艦はゼントラーディ製を改良したものが主で4000m級戦艦1隻、3000m級戦艦1隻、3000m級強襲揚陸艦を改造した空母艦が2隻、2000m級戦艦2隻、中型砲艦1500m級3隻、補給艦2隻。護衛艦隊の数にカウントされていないが、地球製のアームド級空母艦2隻がメガロード01に常時接合されている。

 

これ程の戦力をもってしても、ゼントラーディの分岐艦隊には及ばない。

ゼントラーディの分岐艦隊は凡そ2000~4000の艦船からなり、機動兵器に至っては20万を余裕で超えているのだ。

開戦当時はこの1分岐艦隊に、当初の地球統合軍は手も足も出なかったのだ。

 

さらにその上位組織である基幹艦隊に至っては、500万~600万の艦船に、さらに1400㎞級超巨大空母を擁している。

これらの集中攻撃により、地球は死の星へと変貌を遂げる事となった。

 

本来なら、数の上でメガロード01の船団はゼントラーディの分岐艦隊に劣っているが、兵器の性能がゼントラーディに比べかなり向上しているのと、バルキリー隊の練度、さらに此処にはアムロが居るのだ。

寡兵と侮って、攻撃を加えれば痛い目にあうのはどちらかというのは火を見るよりも明らかだ。

 

 

 

話は戻すが、コスモ・バビロニア建国前、新サイド4 フロンティア・サイドの掌握する際にクロスボーン・バンガードの親衛隊のみで敢行されていた。

住民やコロニーや施設になるべく被害が出ないように配慮して動いていた。

新サイド4内での物損、人的被害は駐留連邦軍部隊が拡大していたと言っていい。

コロニー内でビームライフルやミサイルなどの爆破を伴う兵器を躊躇せずに使用する連邦駐留軍。

一方、クロスボーン・バンガードの親衛隊は、実弾とショットランサーのみで対応しようとしていた。

守るべきコロニー内の人々の被害を拡大する連邦駐留軍に対して、マイッツァーが呆れたのは言うまでもない。

 

 

クロスボーン・バンガードは新サイド4 フロンティア・サイドを掌握に乗り出すと同時に、月のグラナダとルナツー及び資源衛星の幾つかを占拠している。

ルナツーに向かわせた部隊がクロスボーン・バンガードの鉄仮面 カロッゾ・ロナ率いる本隊だった。

ルナツーの連邦軍艦隊はほぼ潰滅。一方コスモ・バビロニアのクロスボーン・バンガード軍は被害は5%も満たない。

電撃襲撃というのもあるが、ルナツーの駐留艦隊が一番薄いタイミングを狙っていた。

既に、連邦の動きは筒抜けであったようだ。

 

その他のサイドには手を出さないのは、マイッツァーの意思、コスモ貴族主義に則った行動でもあった。

マイッツァーは先ずは、コスモ・バビロニアを建国し、宇宙に知らしめ、その他のサイドに連邦からの独立やコスモ・バビロニアへの追従を促そうとしたのだ。

一年戦争時のジオンとは明らかに異なり、脅しによる宇宙統治を望んでいない。

理想の国家建立と経済での宇宙統治を望んでいた。

最終的な目標は連邦の解体ではある。

これはある意味、サイド3のモナハン・バハロが構想していたサイド共栄圏に近い。

いや、参考にしたのかもしれない。

 

 

因みにフロンティア・サイドを占拠・掌握し、コスモ・バビロニア建国後、レジスタンスの抵抗を沈下させるため。

レジスタンスが潜むコロニーに対して、鉄仮面はフロンティア・サイドの幾つかのコロニーで殺戮マシーン バグを使い、レジスタンスごと住人を虐殺したが、マイッツァーの意思ではない。明らかに鉄仮面率いる一部の艦隊が暴走したに過ぎない。

この事はコスモ・バビロニアに大きな傷をつける結果になるのだが……。

 

 

 

「マイッツァー・ロナはかなり切れる男の上に、この時の為に慎重に下準備を行ってきたのだろう。ルナツーとグラナダを占拠されれば、連邦宇宙軍は動きにくい。ルナツーと月の拠点であるグラナダを失ったとしても連邦宇宙軍の4分の3は無傷で健在だ。だが現在各サイドは連邦を煙たがっているため、宇宙における拠点をほぼ失ったに等しい。サイド7ぐらいだろう」

 

「アナハイムや他の月面都市は?」

 

「アナハイムか……あそこは連邦宇宙軍が駐留しているのは間違いないが、あの駐留軍はほぼ、アナハイム・エレクトロニクスの私設軍隊と化している。連邦の為に動かないだろう。アナハイムは今回の抗争……いや、既に戦争か。戦争が長引けば長引く程、金儲けが出来る。アナハイムは連邦のモビルスーツの生産を一手に担い、コスモ・バビロニアに部品を多量に供給している自分たちが軍事バランスをコントロールできると踏んでいるだろう」

 

「………そこまでに」

アムロはその次の言葉をあえて発しなかった。

アナハイムを野放しにして来た連邦の無能さと、腐り具合に。

 

「連邦軍が総力戦を行えば、流石に物量で押し切るだろう。一年戦争時のルウム戦役のように連邦は敗退しない。物量差はあの時よりもさらに上であり、旧型が多いとは言えモビルスーツというカテゴリーの戦力は十分に有している。だが、直ぐには動けないだろう。

各サイドにも連邦宇宙軍が駐留しているが……。うまく機能していない」

 

「…………」

 

「予想だが、コスモ・バビロニアは各サイドの連邦の駐留軍を叩く名目で侵攻する恐れがある。各サイドの占拠ではなく、飽くまでも駐留軍を打倒する名目だ。連邦駐留軍が居なくなったサイドは独立、又は追従状態になれば、コスモ・バビロニアにとって占拠するよりも意味が大きい。ジオンは少ない人員で戦線を拡大したがために膠着状態に陥り、身動きが出来なくなった。ならば、最初から占拠せず、連邦からの独立を促すだけで連邦の動きを止める事が出来、自分たちの軍隊を効率よく動かせる。ジオンの失敗と同じ轍を踏まないだろう」

一年戦争時のジオンの戦略について、軍事評論家や連邦軍、サナリィも盛んに研究していた。

もちろん、マイッツァーらも研究していただろう。

 

「…………」

 

「コスモ・バビロニア建国から、ルナツーもグラナダに駐留させている軍にも動きが無い。内部掌握を確実にするためだろう。長期戦を視野に入れている可能性が高い。無理に地球を占拠するつもりはないだろう。今や経済圏の中枢は宇宙にある。じっくりと連邦の力を削ぐつもりなのかもしれない。数年、いや10年20年と……」

 

「………ジョブさん。コスモ・バビロニアという国が、連邦を倒せば、地球圏には明るい未来はあるのだろうか?」

アムロは暫く黙って、ジョブの話を聞いていたが、此処でこんな事を聞いた。

自らの経験とジョブの話から、連邦という組織が、この先地球圏に明るい未来を築いていけるとはとても思えなかった。

だから、こんな質問をしたのだ。

 

「……それは、わからない。コスモ・バビロニア宣言を見るに、貴族社会を基本とした社会を構築するつもりの様だ。それが実現した際、明るい未来になるものなのかは、未来の歴史家が判断する事だろう。ただ、万人が受け入れる事は難しい。貴族社会中心の中世ヨーロッパは瓦解し、民主主義へと移行してきた歴史が物語ってるようには思う。だが今の連邦がどうかというと……」

ジョブは最後には言い淀んでいた。このまま連邦が続いたとしても、とても良い未来とは言えないと感じているからだ。

 

「………俺は」

アムロは苦しそうな表情を浮かべていた。

ある記憶を脳裏に浮かべていた。

それは第二次ネオ・ジオン抗争時のシャアとのやり取りだった。

シャアは隕石を落とし、地球を人が住めない地にしようとした。

それは地球を私物化する連中をのさばらせないという強い意志の表れでもあった。

地球に人が縛られるからだと……

シャアは連邦の腐敗ぶりに絶望し、徹底的に叩くつもりだったのだ。

 

アムロはアクシズ落下を阻止し、シャアを止めた。

その結果、連邦の腐敗ぶりは拍車がかかり……マフティーの動乱を招き、そして、今の状況を産んでしまったのではないかと……。

シャアのやり方については許せるものでは無かった。

だが、それでも今の現状は見るに堪えるものでは無かったのだ。

 

「アムロ………」

 

「ジョブさん。サナリィはどういう立場に。連邦の外郭団体とお聞きしましたが」

 

「今の所、フォンブラウンの連邦宇宙軍駐留艦隊からは、防衛に専念しろとだけ通達があったが、サナリィは連邦の要請に従わざるを得ないだろう。出来る事と言えば多くはない。モビルスーツの生産設備はあるが、月単位で10が限界だ。ほぼ試作機か既存機の改良をメインに行っていると言っていいだろう。それらの提供とテストパイロット、テスト艦が3隻と開発中の新型艦船1隻の提供だろう。その前に懸念もある。コスモ・バビロニアが、ここもターゲットにする可能性が在ると言う事だ。ここはモビルスーツ開発の最新鋭研究所だ。それと……アナハイムが手を出してくると言う事も考えられる。今しばらくは動きは無いようだが、何れにしろここも安全ではない」

 

「…………」

 

「アムロ、君は君の使命を全うするがいい。もはや地球圏は混沌としている。何が正しいのか正解なんてものは存在しないだろう」

 

「ジョブさん……あなたは」

 

「コスモ・バビロニアが本格的にここに攻めて来れば、ひとたまりも無いだろう。防衛能力は高くない。フォンブラウンの駐留艦隊も当てにならない。だが目的は技術や設備の奪取のための占拠であって、殲滅させられることは無い。奴らにとっても欲しい情報や技術がここにはある。命は助かるだろう。だが、その前になるべく、此処の若者たちを逃したい」

苦笑気味にそう答えるジョブ。

 

「………」

ジョブのそんな言葉を聞き、アムロは声を掛ける事が出来なかった。

 

 

そんな時だ。

ジョブの元に緊急連絡が入る。

「何?……どういうことですか?……わかりました。フォンブラウンの連邦軍駐留艦隊にも通達を……非戦闘員は研究所から退避し、フォンブラウンへ。テスト艦及びテストパイロットの人員は防衛準備。こちらから手を出してはいけません」

そう言って、ジョブは通話を切る。

 

「何があったんですか?」

 

「アナハイムから艦隊の発進を確認した。艦隊を二手に分けてはいるが、進路方向からおそらく、ここだろう。………さっそくアナハイムの連中が手を出してきたということだ。予想よりも随分早い。しかもこうもあからさまにとは、連中にとって余程このサナリィが目障りなのだろう。大方サナリィがコスモ・バビロニアと手を組んだとでも、連邦宇宙軍に嘘の密告をしたのだろう。自分達こそ、コスモ・バビロニアと裏で手を結び、兵器を流していたと言うのにだ。となるとフォンブラウンの連邦軍駐留艦隊は救援要請を行ったところで無駄だろう」

連邦の兵器開発生産を長きに渡って担ってきたアナハイムは、15年前サナリィに新世代型モビルスーツ開発のコンペに負け、連邦のモビルスーツの設計開発権利をサナリィに奪われた形になった。それをかなり恨んでいるだろう事は明らかだ。

連邦への癒着体質が招いた怠慢だったのは間違いないだろうが、当時はモビルスーツの性能差があろうとも、負けるとは全く思っていなかっただろう。

それでも、連邦の裏側から手をまわして、外部委託という形態でサナリィが開発した量産機の生産だけは行えるように根回しは行ったようだ。

それ以降、サナリィに対して、ハッキングや嫌がらせを常駐的に行って来た。

F90やF91のデータを非合法な手段で奪取し、そっくりなモビルスーツをこっそり作り出している。だが、それはあくまでもハードの部分だけであって、肝心なバイオコンピュータ等は再現出来なかった。

また、コスモ・バビロニアのブッホ・コンツェルンからも過剰部品供給を行う代わりにこっそり技術提供を受けていた。

 

「……そこまで」

アムロはその後の言葉を出せなかった。そこまで腐っているのかと。

サナリィは半官半民とはいえ正式な連邦の外郭団体であり、連邦のモビルスーツ開発を任された機関だ。それを民間企業とは言え連邦の主要兵器生産を担ってきたアナハイム・エレクトロニクスが私欲の為に、これ程の行為に至ったことに………これも連邦の不甲斐なさが招いた結果なのだが。

 

 

「アナハイムは裏取引が得意なのはアムロ、身に染みて知っているだろう。奴らはアナハイムの駐留軍と共にこっちに向かってる。艦隊数12、一個師団とは随分と大仰な事だ……2時間半後には射程内だ。こちらが現在出せる艦は旧式のテスト艦2隻、新造戦艦が未完だが1隻、動くことは出来る程度だ。モビルスーツは新旧試作機・改装機合わせて42の内、現在まともに動くのは20機程度だろう。しかもベテランパイロットやベテラン乗員は先の戦いで亡くし、不足している」

 

「俺も出ます……」

 

「こんなくだらない事に君は付き合う必要はない。新造艦と幾つかの開発中のモビルスーツや若者や技術開発者を逃がし……サナリィは降伏する。それまでの時間稼ぎをするだけだ。奴らには適当な技術だけを提供し、最新技術は渡さんよ。特にバイオコンピュータやF91…開発中のF92とF93の設計図だけはな……。逃がす新造艦は捕えられる可能性がある。無事に脱出できる保証はない。アムロ、最新の開発データを君に渡す。君ならば間違いなく奴らの手から逃れられるだろう」

 

「ジョブさん………いいえ、俺はここを、守りますよ」

 

「いいや、奴らは抵抗し追い詰めれば、フォンブラウンを盾にするかもしれない。フォンブラウンの駐留艦隊をも抱き込んでいる可能性が高い。何れにしろ降伏しかないのだよ。そうなれば全てが水の泡だ」

 

「くっ……」

 

「アムロ……一つ頼まれてくれないか。逃がす新造戦艦の護衛を頼みたい……」

 

「………ジョブさん」

 

「頼む」

 

「……わかりました」

 

「ありがとうアムロ」

ジョブはどこかホッとした表情をし、両手でアムロの手を掴み、強く握手をする。

 

 

アムロは、ジョブの室長室から出てから、躊躇しながらもある人物に電話をしていた。

 

 

そして………、脱出劇が始まる。

 




次回は戦闘シーンがありますね。
さて、何処に逃げれば……
次回、あの人が出るかも。

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