誤字脱字報告ありがとうございます。
今回はちょぴっり戦闘あり。
無双じゃないかな?
文はちょっと長めです。
サナリィが独自に開発竣工したサナリィ初の艦船、モノケロース(一角獣)級大型戦艦は、少々横幅は細身ではあるがアーガマ級やアイリッシュ級を彷彿させる外観をしていた。
大型戦艦と銘打っているだけあって全長510mとラー・カイラム級より少し大きい。しかも、艦内容積量はラーカイラムの2倍以上ある。
特徴としては推進力はラー・カイラム級の1.27倍、火力は主砲の威力は殆ど同じだが、多彩な武装があるため総合的には高くなっていた。
左右対称の大型カタパルトデッキが上下に存在し、宇宙空間では最大4か所からのモビルスーツ射出が可能となっている。上下のカタパルトデッキに挟まれる形で格納庫が存在し、モビルスーツ積載能力は非常に高く、最大18機モビルスーツが搭載可能。
左右の大型カタパルトデッキの間にハイパー・メガ粒子砲が装備されている。
そして、この艦最大の特徴は、初の高出力I・フィールド搭載艦である事だ。
そもそも連邦宇宙軍がサナリィに連邦宇宙軍の旗艦として発注した新規設計の新造戦艦であった。
月面都市 フォンブラウン近郊にあるサナリィ月面本部基地に、月面都市アナハイムから連邦宇宙軍のアナハイム駐留軍艦隊が12隻一個師団が二方向から迫っていた。
裏ではアナハイム・エレクトロニクスが一枚噛んでおり、恐らくはサナリィの占拠が目的だろう。
アナハイム・エレクトロニクスは新世代型モビルスーツのコンペに負け、技術力でサナリィに追い越されたとあって、サナリィは目の上のたんこぶどころではない存在だ。
サナリィを潰し、さらに技術も盗用吸収出来れば一石二鳥どころの利益ではない。
一個師団相手にサナリィ月面本部基地の防衛力ではとても抵抗できるものではない。
しかも、なまじ抵抗出来たとしても、フォンブラウンを盾にされる可能性があるのだ。
アムロはジョブにこの新造戦艦 モノケロースの月からの脱出を頼まれる。
モノケロースには技術漏洩に繋がるF91を始めとする試作モビルスーツや改良型モビルスーツを詰め込み、前途のある若いモビルスーツパイロットや乗組員を乗せる事になっている。
そして、サナリィ月面本部基地は、モノケロースが月からの無事脱出を見届けた段階で降伏する段取りとなっていた。
余談だが、サナリィ所属の軍人は名目上連邦宇宙軍の出向扱いにはなっているが、研究施設の機密性保持のため、実質サナリィ直属の軍人という待遇だ。
そのせいか、連邦大学や士官学校からサナリィに送られてくる軍人は女性が多いのも特徴である。
特に連邦宇宙軍は閉鎖的な風潮があり、指揮官によっては女性を拒否する艦や艦隊もある位だ。女性士官候補は優秀な人材だろうと特にコロニー出身者の女性は、連邦宇宙軍にとって窓際部署もいい所のサナリィのような外郭機関などに送られることが多いのだ。
同じように、テストパイロットも問題を起こしたパイロットが送られるケースも多々ある。
アムロは早速モノケロースの連絡小型艇用の格納庫にYF-5に着艦させる。
モビルスーツ用のカタパルトデッキ及び格納庫とは場所は異なり、連絡小型艇用の小さな格納庫が艦中央の左右下部に存在し、その右部を専用に使わせてもらう事になった。
アムロはその後、モノケロースの発令所ブリッジへと上がり、ブリッジで忙しなく指示をだしているスペース・アークからそのままモノケロースの艦長代理に任命されたレアリー・エドベリ中尉に挨拶をする。
「レアリー艦長、また世話になる」
「こちらこそ、こんな事態でハヤセさんに防衛に回っていただき、これほど心強い事はありません。私は引き続きこの新造戦艦の艦長代理の任を任されました。しかし、先の戦いでは上官が亡くなられ、私が便宜上引き継いだだけで、経験も浅く若輩者です。室長からはハヤセさんは佐官待遇でとお聞きしております。なにとぞよろしくお願いいたします」
レアリーは先の戦いでは、スペース・アークの指揮を毅然と行っていたが、現在22歳。士官学校を卒業して1年も経っておらず、艦の全体の指揮も先の戦いが初めてだったのだ。
突然の指揮の移譲に、変化著しい先の戦場で柔軟に艦の運営を行っていたことから、優秀な士官であることが伺える。
「よろしく。だが俺は艦の扱いには疎い」
「いえ、その件に関しては室長のお知り合いでもあり、ハヤセさんとも面識がある方で歴戦の艦長がオブザーバーとして乗艦していただけるとか……」
丁度その時、年老いたと言えども歴戦の戦士の風格を漂わす人物が、乗組員に案内され発令所ブリッジに入ってきた。
「この程、オブザーバーを引き受けた元連邦宇宙軍大佐 ブライト・ノアです。よろしく」
その人物とはブライトだった。だが、現役の頃の尖った居丈高さは鳴りを潜め、その場にいたブリッジ要員に敬礼し丁寧に挨拶を行った。
そう、アムロがブライトに電話をし、躊躇しながらもこの新造戦艦に乗り込んでもらえるように頼んだのだ。
先のスペース・アークを見るに、レアリーはよくやっていたが、経験値の高い軍人がほぼ居ない様子だった。
それに、アムロはブライトに会いに行った際、確かにミライと幸せに余生を過ごしているように見えたが、それと同時に、ブライトの中にまだ何かが燻ぶったような感情が見受けられたのだ。
ブライトはアムロからある程度の事情を聞いた後、ミライの顔色を伺うも、引き受けると直ぐに返答した。
電話でそう返事をしたブライトの顔は若返ったように見えたとか。
その代わり、ミライも乗艦させるという条件が付いたのだが……。
ブライト・ノアの名を聞いて誰もが作業を止め、敬礼するブライトに注目し、しばらくして皆慌てたように敬礼を返していく。
「……ブ、ブライト・ノア大佐?あの……連邦宇宙軍最強と名高いロンド・ベルの……失礼いたしました。艦長代理という立場ではありますが、本艦を預からせていただきますサナリィ所属レアリー・エドベリ中尉です。お会い出来て光栄ですブライト・ノア艦長」
レアリーもジョブからブライトの名前までは聞いていなかったようだ。
これは連絡ミスなのか、ジョブのちょっとした悪戯心だったのかは分からない。
「艦長は飽くまでも君だ。私は横に座っているだけのつもりだ。既に引退して18年も経つロートルだが、経験だけは豊富にある。何かあれば質問してくれればいい」
ブライトは年若いレアリーに対し、昔では考えられないような一歩も二歩も下がった対応をしていた。既に引退して18年という年月が経ち、年相応に丸くなったのもあるだろう。
だが、その細い目の奥にはギラギラと光るものがあった。
因みにミライは第一線から離れすぎ、さらに年齢も年齢のため流石にブリッジ要員としては厳しいため、医務課の手伝いを行うことになっていた。
後程、カウンセラーのような役割を果たすようになり、ひっきりなしに男女問わず若者が押し寄せるようになるのだが……
アムロはそんなブライトに目配せし、ブライトもアイコンタクトで返した後、アムロはブリッジから出て、モビルスーツの格納庫へと向かう。
アムロは本艦のモビルスーツ隊の隊長に任命された赤髪ショートカット、活発そうな顔立ちの20代中頃の女性、サナリィ所属テストパイロット サラサ・マイル中尉に挨拶をし、打ち合わせを行う。
既にマイルはレアリーからレイ・ハヤセ(アムロ)について外部協力者の凄腕のパイロットであり、さらに佐官扱いである事が伝えられていたため、アムロの意見を素直に聞き入れる。
現在、格納庫には18機程のモビルスーツが運び込まれていたが、稼働できるモビルスーツは8機との事だ。
それ以外は試作開発中の物だったり、改良調整中の物だったりと、見るからに稼働できる状態ではないのもある。
アムロはF91のハンガー前の技術スタッフらしき若者と何やら相談しているシーブックとセシリーに声を掛ける。
「シーブックとセシリー、君らはまたモビルスーツに乗ると聞いた」
「はい。自分が今出来る事をやりたいんです」
「私も……同じです」
シーブックははにかみながら、セシリーは少々答え難そうにしていた。
セシリーはシーブックと同じ思いを抱いている事も確かだろうが、迷いがあった。
自分がロナ家の人間であることが心に重く圧し掛かり、セシリー自身本当にこのまま、ここでパイロットを続けていてもよいのだろうかと思い悩んでいた。
また、実父 カロッゾ・ロナとの決着も彼女の心の重しにもなっていた。
アムロはそんなセシリーの迷いを感じ取るが、今はそっとしておくことにした。
「そうか……、先ほどマイル中尉に話をつけた。出撃する際は、二人は俺の指示に従ってくれ」
「ハヤセさんも一緒に来てくれるんですか」
シーブックは屈託のない笑顔をアムロに向ける。
「ああ、F91はどうだ?」
「何とかなりそうです。流石に胴体フレームの傷の修理は今は厳しいですが、頭部や腕や足の交換などは終わってます」
「セシリー、君は?」
「私はF90の5号機Nタイプに乗るようにと」
セシリーはF91の右隣りのハンガーを指さす。
「これは………」
ハンガーに立つガンダムタイプを見て思わずアムロは声を漏らす。
F90は初期の1号機が宇宙世紀0112年に正式にロールアウトしてから0120年まで10号機まで作られている。
既に1~4号機と6~10号機は連邦の手に渡っており、5号機だけはサナリィに残していた。
いや、連邦に見せられなかったと言っていいだろう。
形状は異なるがF91の元となった機体であり、他のF90とはそもそものコンセプトが異なっていた。
5号機NタイプのNタイプとはニュータイプ専用試作機の事を指していたからだ。
F90シリーズにはミッションパックと呼ばれる武装装甲を運用に応じて容易に変更できるパック装備がAタイプからZタイプまで構想されていた。
但し、N(ニュータイプ専用)タイプだけは他のパーツとは異なり、F90本体自身を変更する必要があった。特にコクピット周りのサイコミュ連動装置や開発封印されているサイコフレーム、サイコミュ兵器が搭載できる外装躯体やそれに合わせた反応系設定など、他のF90とは共有できないパーツが35%近くを占めていた。
5号機開発当時はF91のようにリミッターを設けておらず、ニュータイプ専用機としてかなり尖った性能となっていため、所属するテストパイロットの誰もがまともに乗りこなす事が出来なかった機体でもあった。
その後、バイオコンピュータを取り入れ、リミッター設定等、パイロットの負担を減少させる設定を行う試験運用が試されることになり、それがのちのF91に生かされていた。
そして、先ほど思わずアムロが声を漏らした理由は………
5号機N(ニュータイプ専用機)タイプは、ジョブがνガンダムの形状に似せて作らせたからだ。
よく見るとフレーム形状等異なる場所も多くあるが、ガンダムの顔とνガンダムと同じ白と黒の塗装がそう見せている。
アムロが一瞬言葉に詰まり、そう見えてしまっても仕方がないだろう。
たが、バックパックには放熱板のようなフィンファンネルは取り付けられていなかった。
「武装を選択できると仰っていて、何にすればいいのか私には判断がつかなくて、相談していたところです」
セシリーはアムロにそう答える。
「……ファンネルはないのか?」
シーブックとセシリーが相談していた技術スタッフに、このνガンダムに似せられて作られた5号機を見て、アムロはつい聞いてしまう。
「ええっと、あなたは?」
此処はいわば機密情報が多数集まる場所だ。
技術スタッフが顔を知らないアムロに訪ねるのは当然である。
「俺はレイ・ハヤセ、外部協力者だ」
「あなたが……室長から聞いています。何かあったらあなたに相談しろと……ファンネル?………ああ、ええっと、これですか?フィンファンネルリファイン?サイコミュ兵器とありますね。Nタイプ専用……へえ、初めて見ました。どうやら動かせる者が居なくて、テストも出来ずに不適合品扱いでお蔵入りです。この艦に積み込んだ機材の中にあるとは思いますが、何せアナハイムに渡したくない試作品や開発途上の兵器や、はたまたこのような不適合品などは数多くありますから、とりあえず、この艦に急いで積み込まないといけないので、直ぐに使わないものはどこにあるか現状は把握できないです。………ファンネル?なんだこれ?こんなのどうやって稼働させるんですか?」
その技術スタッフはアムロが言うファンネルという言葉になじみが無く、持っていたタブレット端末で調べる。
あるにはあるようだが、現在どこにあるのかも分からない状態のようだ。
緊急脱出というこんな事態だ。直ぐに必要な物の以外は、詰め込めるだけ詰め込むように押し込んでいるような状態であった。
しかも不適合品のレッテルを張られたものらしいのだから、なおさらだ。
そもそも、ニュータイプの素養があるテストパイロットが居ないと、テストどころかまともに稼働すらできないものだ、致し方が無いだろう。
「そうか……できれば、それを探し出してきてほしい」
「わかりました。落ち着いてからで」
「他の装備は?」
「こいつはF91の試作機にあたりますんで、武装は基本F91と共用です。それ以外にもF90の装備も出来るんで……」
技術スタッフはアムロにタブレット端末を渡す。
「……V.S.B.R(ヴェスバー)可変速ビームライフル、これは凄い」
アムロは5号機に装備可能な兵器群の中からヴェスバーを見つけ、その性能に目を見張る。
ヴェスバーはサナリィが開発した最新兵器の一つだ。
取り回しがし易いビームライフルのカテゴリーに入るが、構造はメガ粒子砲に近く、現在の戦艦の主砲に匹敵する威力を持つ。
さらに、発射するビームの収束率や、射出速度が無段階で調節が出来ることから多種多様なビーム発射兵器をこれ一つで賄える優れものだった。
「これはサナリィが開発した新世代型のビーム兵器です」
技術スタッフは自信満々に応える。
「……F91はバックパックから可動式で腰部にスライドさせ、腕(マニュピレ―タ)で照準が可能か……F90 5号機はバックパックからの可動式で肩越しに固定、照準はセミオート若しくは脳波連動サイコミュか……」
アムロはタブレットでヴェスバーの技術資料を確認する。
F91は背中のバックパックに装着したヴェスバーを腰の位置にスライドさせ、手(マニュピレ―ター)に持って、照準を合わす事が出来る。ビームライフルに近い感覚で扱う事が出来るため、高機動時にも照準を合わす事も容易で、扱いやすい。
F90 5号機Nタイプ、背中のバックパックに装着したヴェスバーを肩の位置にスライドさせ、ガンキャノンのような体勢であるため、通常は照準は躯体本体を固定して撃つことになるだろう。要するに止まった状態での発射が基本となる。
但し、ヴェスバーは完全固定ではなく、上には90度、左右には15度、下には5度程度の角度がつけられ、さらにサイコミュと連動し、ニュータイプならば、F91と似たような感覚で照準発射できるだろう。
オールドタイプの操縦者も視野に入れて作られたF91はヴェスバーの位置は肩口から、扱いやすい腰位置へと変更したのだろう。
「あのー、サイコミュの理論がいまいちわからないんですが……ニュータイプ専用だとしか」
この時代、サイコミュ兵器自体封印兵器に近い扱いを受けていた。
ユニコーンガンダムに纏わるサイコフレーム関連について、当時の連邦上層部は危険視し、サイコフレームの開発封印処置を命令したのだ。
サナリィではジョブの下の極一部の技術スタッフしかサイコミュ関連について携わっていない。バイオコンピュータの開発を隠れ蓑にし、連邦に秘密裏に行っていたのだ。
この年若い技術スタッフがアムロにこんな質問をしたとしてもおかしくはない。
「ハヤセさん、ニュータイプをご存じなのですか?ニュータイプとは……どういう人たちですか?」
技術スタッフの質問にかぶせるようにセシリーがアムロに迫る様に聞いてくる。
「ニュータイプとは、ジオン・ダイクンが提唱した宇宙に適応した人のことだよ」
アムロはまずは一般論を答えて見せる。
「それは知っています。そうではなくて、シーブックや私がニュータイプじゃないかと………変に思われるかもしれませんが私、わかってしまうんです。でもこの感覚……とても怖いんです。私が私でなくなるのではないかと」
セシリーは自身のニュータイプ能力に戸惑いと不安、恐怖まで感じていた。
「セシリー……」
隣でシーブックは心配そうにセシリーの顔を伺う。
「その感覚は大切だ。セシリー。君は君だ。君自身が自分を見失わなければ大丈夫だ。それにニュータイプと言っても、そういった感覚が鋭くなるだけのただの人間さ」
アムロは今迄、ニュータイプの能力に溺れ、自分を見失って行く人間や、他者との境界があやふやになり、精神に異常をきたしてきた人間を見知っていた。
アムロ自身もそれに長らく悩まされてきた。
だが、ニュータイプの素養が徐々に高まっていく感覚を怖いと表現するセシリーは、肥大化する能力に取り込まれずに、それに対する疑問を抱いていた。
自分を見失わない彼女なら、きっと大丈夫だろうとアムロは感じていた。
「ハヤセさん……ありがとうございます。気持ちが少し楽になりました」
「あの……ハヤセさんは、もしかしてニュータイプなんですか?」
シーブックはアムロのセシリーへのアドバイスを聞き、思った事をそのままアムロに聞いた。
「……ああ、そうだ」
「やっぱり、そんな感じがしてました」
「やはり……」
シーブックとセシリーもどうやら、感覚的にアムロがニュータイプではないかと感じていたようだ。
ニュータイプ同士はお互いを認知すると言うが、それと同じなのだろう。
「あの、話聞いてます?」
技術スタッフは話に置いてきぼりにされ不満げにしていた。
結局セシリーが搭乗するF90 5号機Nタイプの武装は、ヴェスバーとビームライフル、F90専用実弾バズーカ、バルカンにビームシールド、ビームサーベルとメガ・マシンキャノンとビームランチャーの違いはあるが、ほぼシーブックが搭乗するF91と同じ構成になった。
急ピッチに発進準備を進めていた新造戦艦 モノケロースはアナハイム駐留艦隊の到着予想時間の15分前に出発する事ができた。
だが、アナハイム駐留艦隊はそれを察知し、艦隊を半分に分けて月の衛星軌道から侵攻してきた艦隊が、こちらの頭を取ろうと月からの脱出を阻止する動きを取る。
元々艦隊を分け、さらに片方の艦隊は月衛星軌道上まで上がりサナリィに侵攻したのは、脱出を謀る艦がある可能性を視野に入れていたからだ。
モノケロースは何とか頭を抑えられる前に月衛星軌道上に上がる事ができたが、月衛星軌道上でアナハイムの6隻の艦隊とモノケロースは正面で両者射程圏内に入ってしまい、有無も言わさずにアナハイム側の艦隊から艦砲射撃を受けていた。
艦砲射撃を行って来たアナハイムの艦隊に抗議の通信を行うが、無視をされる。
相手はやる気満々のようだ。
敵の射撃をやり過ごしつつ、反転して推進速度を生かして撤退を図りたいところだが、アナハイムとは別の連邦月軌道艦隊がモノケロースを遠方から囲むような位置取りを行っている事が判明する。
アナハイム側が根回しを行ったのだろう。
さらに、後方から別動艦隊の6隻がサナリィの月面基地を抑えずに、そのままモノケロースを追うように月衛星軌道上に上がる様子を見せていた。
もはや相手との交戦は避けられない。
モノケロースはブライトのアドバイスの下、正面突破を図ることになる。
正面突破と言っても、敵艦隊とすれ違うほど接近するわけではない。
真正面に進み、敵の距離4分の1まで近づいた段階で、月衛星軌道を脱するように上方に一気に脱出する。
レアリーはその判断に驚くが、ブライトは反転して撤退を図ったとしても、他の連邦月軌道艦隊に退路を断たれる可能性が高いと判断し、敵に囲まれるよりはマシだとアドバイスをする。
ブライトは一年戦争から今迄、敵よりも艦船が少ない状態でいつも戦ってきた。
特に一年戦争末期には敵の艦隊を引き付けるという任務のため、多数対ホワイトベース一隻などという場面を何度も経験してきたのだ。
レアリーはブライトが示したアドバイスを元に、コンピュータで戦況予測演算を行うが、ブライトの指示は実に的確だった。
さらに、このモノケロースには大出力Iフィールドが搭載されている。
正面で戦ったとしてもある程度距離を保てば相手のビーム攻撃が被弾する可能性は通常の艦に比べ圧倒的に低い。
一方月衛星軌道上に上がり、モノケロースと対峙していたのはアナハイム駐留艦隊のラー・カイラム級旗艦艦長 ダグラス・クライス大佐。
御年58歳のグリプス戦役が初陣という大ベテランの艦長だった。
「ふむ。こちらは威嚇射撃を行ったが、相手は反撃にでないか、さらにミノフスキー粒子の散布も無しか……飽くまでも味方を装うか」
「はい、艦長、相手艦から先ほどから通信が来ております。恐らく抗議であろうかと」
「引き続き無視をしろ」
「はい、艦長」
「ほほう、正面から来るとは驚きだ。抗うつもりか?よほど素人と見える。新造戦艦と言えどもたった一隻で何が出来る。しかもこちらのモビルスーツはアナハイム製小型モビルスーツが30機もある。副官、艦の捕縛と言えども今回の任務は余裕だな」
「はい、艦長」
「だが、こちらもちゃんと相手をしなくてはな、ミノフスキー粒子散布後、味方艦同士の距離を保ち、こちらは微速で前進しつつモビルスーツ隊を発進させ、あのデカブツ艦を行動不能にしろと各艦に指示をだせ」
「はい、艦長」
「落とすなよ。落とせば元も子もない。ああ、そうだな。一応降伏勧告とやらを出してやろう。先に回線まわせ」
「はい、艦長」
「実戦データも取れ、さらにアナハイムにも恩が売れるか」
降伏勧告を行うと同時に、42機有るモビルスーツの内小型モビルスーツの30機全機を発進させ、モノケロースを戦闘不能にさせる指示を出す。
『連邦宇宙軍アナハイム駐留軍艦隊、連邦宇宙軍大佐 ダグラス・クライスだ。所属不明艦、直ちに降伏せよ』
「こちら、地球連邦軍海軍戦略研究所(サナリィ)所属艦、試験艦 モノケロース。私は連邦宇宙軍出向サナリィ所属、当艦艦長代理のレアリー・エドベリ中尉です。何故貴艦は同じ連邦軍所属の当艦に攻撃をされるのですか?」
『女か……ふっ、サナリィがコスモ・バビロニアを名乗る逆賊と手を組んだという情報を得ている』
「そんなはずはありません」
『確かにその艦からは連邦軍のシグナルがでているが、モノケロースという艦は登録されていない。貴艦が逆賊だという証ではないかね?』
「当艦は試験艦として登録されているはずです」
『はて、そのようなデータは無いが?……何にしろ、降伏勧告は済ませた。抵抗はするなよ』
そう言って、アナハイム側のクライス大佐は一方的に通信を切る。
艦長席に座るレアリーは余りにものその対応に憤りを感じる。
少し離れた横の席に座るブライトは呆れかえり、自分が顔を出して、叱ろうかとも考えたのだが、無駄だろうとやめておく。
アナハイム駐留艦隊がミノフスキー粒子を散布するのと同時に、モビルスーツを発進させたことを感知する。
モノケロース側もミノフスキー粒子を散布を行い、交戦準備を行う。
モビルスーツ隊にも発進指示がでた。
基本指示はモノケロースの敵モビルスーツ隊からの防衛だった。
サラサ・マイル中尉率いるモビルスーツ隊6機はモノケロースの直衛を行うことになる。
因みにサラサはF70Ⅱ キャノンガンダムⅡに搭乗、サナリィの初期の小型支援モビルスーツの試作改良型だ。
残りはF70の量産型であるF71 Gキャノン(サナリィ生産型)2機に、F90の量産試作機であるF80シリーズ3機。
発進前のアムロはブリッジのレアリーに艦内通信でこんな提案をする。
「俺が敵モビルスーツ隊と艦隊に突っ込みかく乱する」
『単騎でですか?そんな……』
「目的は飽くまでもかく乱だ。まさか敵も攻めてくるとは思わない。そこに隙が出来る。相手の攻撃が鈍くなれば、正面脱出は容易だ。シーブックとセシリーを連れていく」
『ハヤセさん……余りにも無茶では?』
レアリーがそう言うのも無理もない。
アムロは敵モビルスーツ部隊と6隻の艦船相手に立ちまわると言っているのだ。
少なくとも30機以上のモビルスーツとも相手どる事になる。
『レアリー艦長代理、彼なら大丈夫だ。敵モビルスーツ部隊は既に発進している。ここは経験の高い彼に任せるべきだ。この艦も初陣で、マイル中尉率いるモビルスーツ隊も初陣だ。初陣では実力を発揮できないケースは多い。モビルスーツ隊は落ち着いて艦の防衛だけに専念させる方が良い。実際戦闘が行われなくとも次の実戦に繋がることになる』
ブライトが横でレアリーを説得するようにアドバイスを送る。
アムロに対して絶対の信頼感を持っているため、これは当然の指示であった。
実際にアムロは一年戦争のア・バオア・クーや第二次ネオ・ジオン抗争の艦隊戦の最中、それ以上の数を相手取り単騎で戦っていたのだ。
さらに言えば、マクロスの世界では3000隻擁する分岐艦隊を相手に立ちまわったり、無人機付きとは言え、少なくとも数十万から100万の犇めく艦隊を突っ切っている。
『……了解いたしました』
レアリーはブライトにそう説得されれば従わざるを得なかった。
アムロのYF-5 シューティングスターはシーブックのF91とセシリーのF90 5号機Nタイプを率い、モノケロースの前方へと出撃する。
アナハイム駐留艦隊から出撃したモビルスーツは、サナリィから盗用したF90VやF91の設計図から作られたRXF-91 シルエットガンダム1機と昨年採用されたばかりのRGM-122 次世代初期量産型ジャベリン3機、RGM-109 ヘビーガン、RGM-111 ハーディガン及びF-71G キャノン、モビルスーツ合計30機編成だ。
現在の所、アナハイム駐留艦隊の各艦から出撃した30機は3中隊に振り分け、前方、右翼、左翼と多少距離を詰めてモノケロースに侵攻していく。
この状況で向こうからもモビルスーツが攻めてくるとは思ってはいなかったが、一応マニュアル通りモビルスーツ戦を想定し、敵方のモビルスーツ隊と出くわした場合、隣の部隊が応援に向かい、余った1部隊はそのまま戦艦へと迫る作戦だ。
アナハイム駐留艦隊は敵方のモビルスーツは多くて9機前後だと考えていたための対応だ。
実際9機だったのだが……。
そして、ラー・カイラム級旗艦ブリッジでは……
「艦長、左翼モビルスーツ部隊 アンケロ中隊、交戦!」
「なんだと?打って出てきたのか?バカな。何機だ?まさか全機という事はないだろうな。自らの艦は丸裸ではないか」
「いえ、超望遠観測では3機の敵機影を確認」
「たった3機か、破れかぶれもいい所だ。信号弾を打て、一応中央のレオポルド中隊を応援に向かわせろ」
「はい、艦長。信号弾発射」
「まさか、打って出るとはな。防衛されるよりも個別で叩く方が楽だな。相手はド素人もいい所だ」
クライス艦長は副官に少々ボヤキなら、指示を出していた。
「か、艦長!!」
「なんだ、右翼にでもモビルスーツ小隊が現れたか?」
「い、いえ……左翼アンケロ中隊9機、全滅です」
「バカな……1分も経っていないぞ!」
「正式には6機行動不能で救援信号、3機は不明……」
「………な、なんだと、敵は本当に3機なのか?」
「はい、間違いありません。反応から小型のモビルスーツと思われます」
「……エース級の奴がいるのか?」
クライスは先ほどまで余裕の態度を表していたが、一転、その報告に焦りだす。
「応援移動開始中のレオポルド中隊、先ほどの敵3機と思われる機影と戦闘開始……超望遠カメラでとらえる事が出来ました。映像出します」
「なっ!?戦闘機だと?……ばかな!!変形した!?あのサイズで変形しただと!!シルエットガンダムが一瞬で!?……あっ……ああ……ああ………まさか、あの真っ白な機体……まさか、まさか!!あり得ない!!あれは……白い流星は30年前に………!?」
クライスはその戦闘映像を艦長席から立ちあがり、食い入る様に見ていた。
白い戦闘機が次々とモビルスーツを一瞬で行動不能にさせ、さらにかなり細身だがモビルスーツ形態に変形し、虎の子のシルエットガンダムの四肢を一瞬で切り落とし、行動不能にする姿を……。
クライスは、戦闘機から変形した白いモビルスーツが目を光らせ、まるでこちらを見据えているような錯覚に陥っていた。
背筋が凍るような恐怖と共に、ある過去の記憶が蘇る。
それは36年前のグリプス戦役後の第一次ネオ・ジオン抗争のとある宙域戦闘の記憶。
真っ白なZガンダムタイプを駆る白い流星が敵陣内を無人の荒野の如く駆け巡る様を……。
当時は味方であったが……もし、あの白き流星が敵に回ったとしたら…………
「か、艦長!レオポルド中隊、全滅です……」
「………」
「艦長、艦長!ご指示を!!」
「…………ありえない!!ありえないーーっ!!う、右翼モビルスーツ中隊を直ぐに呼び戻せ!!防衛のモビルスーツを全機出せ!!艦砲射撃で狙い撃て!!あの白い奴を近づけさせるなーーーっ!!」
クライスは暫く茫然としていたが、副長の呼びかけに我に返り、狂乱するように叫びながら副官に怒鳴るように指示をだす。
「艦長!!右翼中隊間に合いません!!……敵機こちらに向かって…いえ左翼6番艦に取りつかれました!!あっ……左翼6番艦クラップ級ノルダウス、メインエンジン損傷行動不能!!5番艦……あっ……グラメウス、行動不能!!」
「し、白い……流星……あ、悪魔だ」
映像情報と報告を聞き、クライスは顔面蒼白になり、艦長席に腰を落とす。
「艦長!艦長!ご指示を!!」
「ぜぜぜぜぜ全艦急速反転撤退!!」
「お味方はまだ、残ったままです!!」
「撤退だ!!撤退しろーーーーっ!!」
ラーカイラム級旗艦は、行動不能となった5番艦と6番艦を残し、反転撤退行動に移った。
アムロ達のYF-5とF91、F90 5号機Nタイプは小隊を組み、モノケロースに向かうアナハイム駐留艦隊の左翼モビルスーツ中隊を目指し、かなりのスピードで移動していた。
「左翼中隊の中央小隊から俺が叩く、左側小隊を2人に頼む」
「了解」
「了解です」
射程距離に入るとアムロのYF-5はファイター形態(戦闘機形態)で一気に加速し、左翼のモビルスーツ中隊9機の中央小隊に正面からガンポッドを放ちながら突っ込む。
「遅い!」
YF-5に気が付いた中隊は散開迎撃行動を取ろうとするが、既に中央の小隊3機はアムロの的確過ぎる射撃によって行動不能に陥らせられていた。
散開した左側小隊はシーブックとセシリーのF91とF90に撃ち落とされ、残りの右側小隊はアムロによって後ろを難なく取られ、行動不能にさせられる。
そのまま中央を進む中隊へと向かう。
12機のモビルスーツを確認し、先制の狙撃遠距離ビーム射撃でYF-5が2機、F91とF90 5号機Nタイプのヴェスバーで各1機づつ、敵モビルスーツの足を狙い吹き飛ばし、半壊状態に……。
その後、モビルスーツ同士の射撃戦状態になるが、敵方を一方的に落としていく。
そんな中、敵方のシルエットガンダムがビームを乱射気味に発射させながらYF-5に迫ってくる。
明らかに敵方パイロットもエース級が乗っているだろう反応だった。
「いい反応だ。だがっ!」
アムロのYF-5も迫るシルエットガンダムに向かって行き、眼前でバトロイド形態に変形、高周波イオンソードでシルエットガンダムの四肢を円を描く様に切り裂いた。
そして、頭部のメインカメラを破壊し、行動不能に……
残りのモビルスーツも行動不能にし、艦隊に向けて移動。
艦砲射撃を避けながら敵機艦隊に取りつき、敵艦クラップ級2隻のメインエンジンのみを破壊したところで、敵は撤退行動に移った。
アムロは敵艦隊撤退の様子を見て、シーブックとセシリーにも帰還指示を出し、モノケロースへと帰還する。
(小型モビルスーツか……、単純なスピードではバルキリーの方が上だ。ましてやYF-5とは歴然の差がある。だが、反応速度や旋回能力はかなり高い。ガンダムタイプ以外の敵パイロットの練度は低かったな。それに比べシーブックとセシリーは良い動きをする。F91とF90も敵方のモビルスーツに比べかなり高性能だというのもあるが、モビルスーツの性能を引き出している。サイコミュの反応も安定してる様だ。うちの(メガロード01)若い連中がVF-4 ライトニングⅢに搭乗しドッグファイトを行っても間違いなく負けるだろう。……あの二人にはまだ及ばないが……思い出す)
アムロは今回の戦闘を振り返りながら、シーブックとセシリーの戦闘センスに、5年前の事を思い出していた。
自分を先生と呼び、小隊を組み、幾度も戦闘を共にしたマックスとミリアの事を。
(それにしてもヴェスバーというビーム兵器、あれはすさまじい。艦隊クラスのビーム攻撃と小威力の連射まで、自由自在に切り替え可能だ。機動兵器武装に関しては、モビルスーツの方が性能が高い……中将が知れば飛びつくだろう)
そして、もう一人。何かとお騒がせな人物であった嘗ての上司であるタカトク中将の事もふと頭によぎる。
モノケロースはアナハイム駐留艦隊の追撃を難なくかわし、月衛星軌道から脱したのだった。
アムロにモビルスーツを乗せるか迷いましたが……
まあ、こんな感じに。
早くあのとんでもガンダムバルキリーを出したいw