誤字脱字報告ありがとうございます。
前作は一話ごとに戦闘シーンをと思って書いてましたが、今作はなかなかそうはいかないようです。
アムロの活躍でアナハイム駐留艦隊を退け、無事月を脱出したモノケロース。
だが、16時間後、早速問題が起こる。
艦長室の応接セットにレアリーと対面にブライト、アムロが座っている。
「モノケロースは月を脱し、コスモ・バビロニアの本拠地フロンティア・サイドや連邦宇宙軍の哨戒艦隊を避けるため、迂回し遠回りにて地球への突入を予定しておりました。室長からは地球にあるサナリィ試験研究所に向かえと言われておりましたので……、ですが先ほど地球のサナリィ試験研究所に通信を行ったところ、月の本部基地同様、サナリィ試験研究所は連邦軍に抑えられておりました」
厳しい表情で語るレアリーは、非常に厳しい状況下での判断を迫られる中で不用意にブリッジ要員を不安がらせないためにも、早速起こったこの問題について先ずはブライトとアムロに相談すべく、艦長室でこの場を設けたのだ。
「そうか、ではサナリィの関連部署は連邦、いや、アナハイムの息のかかった連中に全て押さえられたと見た方が良いな。アナハイムの連中は余程サナリィを目の敵にしている様だ」
すでに、サナリィ月面本部基地は降伏し、アナハイムに抑えられているだろう。
勿論、ジョブ他残った重役などは全て拘束され、尋問を受けている事は想像に易い。
この様子だと、サナリィの関連部署は抑えられ、モビルスーツ技術関連での出向スタッフも拘束されているだろう。
「ああ、そう言う事だ……ハヤセ」
ブライトはアムロという名前を飲み込み、偽名であるハヤセの名を口にする。
「はい、室長もこういった事態を想定されていたのでしょう。サナリィ関連部署以外の場所も指定されておりました。新サイド6の33バンチコロニーと」
「レアリー艦長、そこには何がある?」
「わかりません。ただ、シュトレイ・バーンなる人物に接触しろと……」
「どういう人物なんだ?」
「いえ……室長からはきっと協力してくれると…それだけしか」
「ハヤセ、新サイド6、33バンチコロニーは片田舎のコロニーだ。調べて見たが農業関連のコロニーで人口も少ない。もしかするとジョン室長の個人的な繋がりがある人物なのかもしれん」
どうやらブライトもその人物について知らないようだ。
有名な人物ではないと言う事なのだろう。
ジョブが何故その人物を指定したのか、今は定かではない。
「もう一つ大きな問題があります。当艦モノケロースに拿捕命令が下りました。当艦の連邦宇宙軍所属軍人は全員反逆者扱いとの事。この事を知っているのは私とブリッジ要員の数人だけです。箝口令を敷きましたが……いずれは皆に話さなければなりません」
「そこまでするとは……しかし、連邦にしては動きが早いな」
「ふっ、確かにな。誰かさんが頑張り過ぎたのではないか?」
ブライトはユーモアを交えてアムロにそう言った。
頑張り過ぎたとは先ほどの戦闘の事だろう。
たった3機のモビルスーツに一個師団の半分が這う這うの体で撤退したのだから。
「俺か?」
「確かに状況は最悪だが、拿捕命令だということは、幸いにも撃沈される可能性が低いと言う事だ。余程この艦とサナリィの技術が欲しい様だ」
ブライトの言葉ももっともだった。
この広い宇宙空間で逃げる戦艦の拿捕は撃墜させるよりも数段困難なものだからだ。
そうかといって、状況は最悪の一歩手前ぐらいマシだと言う程度だが。
「……はい」
「だが、隊の士気は落ちるだろう。さらに艦内で暴動や反乱が起きる可能性もある。連邦軍から反逆者のレッテルを張られてしまっている。名誉挽回の為とこの艦の乗っ取りを考える乗務員が現れる可能性も十分ある」
アムロは内部からの崩壊を懸念する。
実際に起こり得る話だった。
それをもアナハイムは想定しての事だったのだろう。
「はい、確かにそうなのですが、サナリィ所属の軍人は……その…連邦宇宙軍からは疎まれておりまして、私もそうなのですが、連邦宇宙軍ではなくサナリィ所属であるという意識が高いのです。しっかりと皆と話し合いをすれば、そこまではいかないとは思います。……現在この艦は私も含め若い軍人が多く、しかも女性率が80%です。それよりもメンタル面が心配です」
前述にも記したが、サナリィに送られてくる連邦宇宙軍の軍人は女性の率が非常に高い。
レアリーもしっかりしているが、まだ22という年齢だ。
一方、サナリィ本体の技術開発者や職員はどちらかというと男性の方が少し多い。
因みにアムロはレアリーに対してかなり好感を持っていた。
このような事態でも毅然と対応する姿が、タイプは異なるが、自分の妻である未沙と重なるからだ。
未沙も22歳という年齢で大佐という地位になり、しかもメガロード船団の提督として、毅然と職務に当たっていた。
アムロが出会った頃の19歳の未沙は、確かに職務では大人の対応をしていたのだが、少女の感情がちらほらと現れ、どこか微笑ましいものがあった。
この事もアムロが積極的にこの艦を助けたいと思う理由の要因であるのだろう。
「ふぅ、なるほど、……レアリー艦長に任せるしかない。私ではその辺りは疎いものだ。うむ……ミライを連れて来て正解だったか。私の妻も乗艦している。ああ見えて一年戦争ではホワイトベースのメイン操舵士として従事していた。相談してみるといい。私からもそう言っておこう」
ブライトはレアリーに、女性のメンタルケアについて自分では役に立たないと、ミライを推す。
ミライは嘗てホワイトベースのおっかさんと呼ばれた程に当時のホワイトベースの若者たちの精神的な支柱であった事は言うまでもない。
それを横で聞いていたアムロは、ブライトならばそうだろうなと思いながらも、ブリッジ要員が全員若い女性だったマクロスのグローバル艦長が、如何に気遣いが出来る人物だったかと、改めてその精神性に感嘆の思いを送る。
「助かります」
「目的地は新サイド6か……だが、容易ではない。各サイドには連邦の駐留軍が目を光らせているだろう。元々、宇宙の最大拠点であるルナツーとグラナダからコスモ・バビロニアに追い出された連邦宇宙軍は、反攻作戦を実施するまで各コロニーの防衛を密にしている可能性が高い。さらに各サイドがコスモ・バビロニアに迎合しないように取り締まりもよりいっそう厳しい物になっているだろう」
ブライトはマップ表示にこの艦の現在地を記している手元のタブレットを眺めながら、目的地の新サイド6に向かうに当たって、現在の状況を整理しながら話す。
「コスモ・バビロニアが動いてくれれば向いやすいですが、幸い新サイド6は昔から連邦に対して中庸な立場をとっているサイドです。他のサイドに比べればまだ希望はあるのではないでしょうか?」
「しかし、何の対策もなしにこの大型戦艦が新サイド6宙域に向かえば、嫌でも連邦の駐留艦隊に見つかるだろう。今やお尋ね者のこの艦が、誰の手引きも無しに33バンチコロニーに寄港できるものでは無い。先ずは人を向かわせシュトレイ・バーンなる人物に接触するのが先手か」
アムロはブライトやレアリーの意見を聞きながら、考えを導き出す。
「そうだな。レアリー艦長、食料はどのくらいの貯えがある?」
ブライトもアムロの意見に同意しつつ、艦の備蓄状況をレアリーに確認する。
「半月分です。緊急脱出でしたので、基地や他の艦の保存可能な食糧を出来るだけ積み込んだのですが、これが限界でした」
「その間に新サイド6近辺L5宙域に隠れながら、シュトレイ・バーンなる人物と交渉しなければならないと言う事か……いや、そもそもシュトレイ・バーンなる人物が今も33バンチコロニーに本当に存在するかも確認しようが無い。どういう立場の人間なのかも分からず、接触手段も分からない。なかなか厳しいか」
ブライトはさらに思考を回し、アムロの意見をまとめて整理するが、厳しい状況は変わらない。
「俺が行こう。俺の可変戦闘機ならば33バンチコロニーに潜り込める」
アムロは自分が行く事を提案する。
アムロにはシュトレイ・バーンなる人物を探す手立てがあった。
33バンチコロニーにYF-5とハロとでハッキングを掛け探せると踏んでいた。
「ハヤセさん……お一人でですか?」
「レアリー艦長、ここはハヤセに任せよう。彼の経験値ならば可能だろう。但しハヤセ、期限は4日間だ。それ以上は厳しい。シュトレイ・バーンなる人物に接触できなくとも、4日後には戻ってきてくれ、その間に次の手立てでも考えておく」
ブライトはレアリーに進言し、アムロに期限を切って同意した。
確かに、食料の制限もあり、それ以上の時間を取ると次の行動に移るには手遅れに成りかねない。
「ああ、シュトレイ・バーンが居ないと分かれば直ぐに戻るさ」
こうして、モノケロースは新サイド6のL5宙域から少し離れたデブリ帯に移動し、身を顰める。
レアリーはアムロが出発した後に、艦内の軍人を集め、連邦宇宙軍から自分達が反逆者の扱いを受けている事を伝え、この難局を皆で乗り越えようと訴えかけた。
艦内から降伏をと声を上げるものや、不安の声が上がっていたが、レアリーや年長者スタッフやミライたちの声掛けや説得で、艦内での不満を柔らげる事に成功する。
この様子を見るに、しばらくは暴走する心配は無いだろう。
アムロは新サイド6 33バンチコロニーへと出発する前にブライトに声をかけていた。
もし、自分が4日間で戻って来なければ、この宙域に行けと……。
そこにはメガロード01の護衛艦の一つ、地球圏ギリギリに待機させていた補給艦も兼ねた800m級高速機動輸送艦が今もアムロの帰りを待っていた。
アムロが考えうる最終手段だった。
メガロード01を自分の都合で巻き込みたくないという思いが根底にある。
さらに、この世界の事はこの世界の人間が解決すべきだと言う思いもあり、アムロ自身関わる事を躊躇していたきらいがあった。
だが、この世界の現状を憂う気持ちも大きく、ブライトやミライ、シーブックにセシリー、それに既に関わってしまったジョブを始めレアリーやサナリィの人達を見捨てる事も出来ない。
そんなジレンマを抱えながら、アムロはブライトに自分の認識タグを渡す。
これが有れば、自分にもしもの事があったとしても、メガロード01は受け入れてくれるだろうと……。
もちろんアムロは死にに行くつもり等毛頭ない。
自分が行くのが一番いいだろうという判断からだ。
ブライトは最初は認識タグの受け取りを拒否していたが、自分一人であればどうとでもなると、保険のような物だと説得され渋々受け取った。
そこには准将を示す(brigadier general)が刻まれていたことに驚いてはいた。
だが、アムロは分かっていなかった。
もし、アムロに何らかの事があった場合、メガロード01の取る行動を………。
アムロはシーブックとセシリーにも声を掛けるために、格納庫に降りたのだが……。
技術スタッフや開発陣に取り囲まれる。
「は、はや、ハヤセさんーーーっ!あれは何ですか!?あの戦闘機、モビルスーツに変形しませんでしたか!?」
「F90シリーズよりも小さい!!どこの技術ですか!?」
「あの大きさで、変形にあのF91に劣らない機動力!!」
「推進剤はなんですか!?とても、アポジモーターだけであの機動は!?」
「ぜぜ是非、あの戦闘機を見せてくださーーーい!!」
サナリィは言うならば技術開発集団の塊のような組織だ。
こうなるのも仕方がない。
アムロは苦笑しながらも、何となくこの雰囲気を懐かしく思う。
アムロは機密情報だとやんわり断るが……技術スタッフや開発陣は諦めきれずにアムロの後ろへとぞろぞろとついてくる有様だ。
「シーブックとセシリー、俺は暫く出る。この艦の事は任せた。君らなら大丈夫だ」
「ハヤセさんが戻って来るまで、何とかやってみせます」
「ハヤセさん……」
シーブックとセシリーに声を掛けた後、アムロは直ぐにモノケロースを出発した。
YF-5 シューティングスターは33バンチコロニーに向かう途中で、宙域で待機させていた無人機を呼び寄せ、推進剤と弾薬の補給を済ませ、偽装バルーンでデブリに擬態しステルスモードでゆっくりと33バンチコロニーに近づき接岸する。
無人機も擬態させ少し離れた場所で待機させる。
アムロのニュータイプ能力は33バンチコロニーに近づくにつれ、強い力を感じていた。
(……間違いないニュータイプが居る。凄い力だ。カミーユか?いや……この感じは違う。何かを包み込み守ろうとする意志を感じる。……俺を見ている?)
アムロ自身は33バンチコロニーに侵入し、待機させていたハロにシュトレイ・バーンについてコロニーにハッキングさせると同時に、コロニー内の様子を見るために、携帯端末でマップを確認しながら中心街に向かうアムロだが、何者かに後を付けられている事を感じる。
だが、その何者かからは悪意をまったく感じなかった。
アムロはワザと人通りの少ない場所に移動し待ち構える。
「………あなたは何者だ?なぜこのコロニーに侵入したのか?」
その青年、いや年のころはアムロと同じぐらいだろうか、ジーパンにジャンバー姿の男がアムロに声を掛ける。離れた場所にこの男の仲間と思われる人間が数人こちらの様子を伺っているのも感じていた。
警戒はされているが、アムロは目の前の男からは大きな敵意を感じなかった。
「何故俺の後を?」
「あなたは、正規のルートでこのコロニーに入ってきていない。……それよりもあなたはニュータイプだ。これ程凄まじい力は……今迄感じたことがない。あの赤い彗星の再来すら軽く凌駕する凄まじい力だ……。だが悪意をまったく感じない。貴方は何者だ?」
目の前の男がこう語った事で、アムロはふと思い出す。
バナージ・リンクスと言う名を……。ジョブから提供してもらった極秘資料にその名が載っていた。ラプラス事変当時のユニコーンガンダムのパイロット少年の名だった。
フルサイコフレームのユニコーンガンダムを乗りこなし、考えられないような不可思議な事象を起こしていたことが極秘資料に記させれていた。
先ほどからずっと感じていた強いニュータイプの力は目の前の男のものだと……
アムロのニュータイプとしての直感も、彼こそがバナージ・リンクスだと訴えかけていた。
「バナージ・リンクスか?」
アムロは思わずその名を口にする。
「………なぜ、その名を」
「いや……すまなかった俺はレイ・ハヤセ……シュトレイ・バーン氏か?サナリィのジョブ・ジョン氏の進言により、あなたに会いに来た」
この男がバナージ・リンクスであり、ジョブがこのコロニーに行き、人と会えと……導き出される答えとしてバナージこそシュトレイ・バーンではないかという、単純な紐づけの考えの元にその可能性を口にした。
「ジョブさんの………だが貴方は何者だ?」
アムロの判断は正しかったようだ。バナージこそ、ジョブが会えと言ったシュトレイ・バーンだった。
だが、目の前の男はもう一度アムロに聞きなおした。
「レイ・ハヤセだと名乗ったが。正確にはサナリィの直属の者じゃない。立場的には協力者という事になる」
「……いや、あなたの名は俺の感覚にズレを感じさせる」
「本名を名乗った所でどうなる?……あなたもシュトレイ・バーンでいいのだろう?」
「確かにそうだが………俺の本名を言い当てた貴方を警戒しないわけにはいかない。それにその凄まじいまでのニュータイプの力……これ程の力を感じた事が無い。これ程の力を持っているのなら、俺や彼女がどこかであなたを感じていたはずだ」
「そうか、君もニュータイプだったな、それも凄まじいセンスの持ち主だ………だが、名など意味がないと思うが」
「………」
バナージはじっとアムロを見据える。
「わかった。………ファミリー・ネームはハヤセでもいいのだがな。俺の名はアムロ・レイだ」
アムロはバナージの様子を見るに、名乗らない限り話が進まないと観念し、少々おどけてみせてから本名を名乗る。
「…………」
バナージはその名を聞いて、目を大きく見開く。
バナージも当然その名は知っていた。
その名を聞いて、反射的に思い起こす程に。
アムロ・レイの記録と自らが調べ上げた資料を……実際に会った事は無いがバナージにとっても特別な存在だった。
だが、その人物は30年前に死んでいるはずだった。
「どうした?」
「…………その名は……確かに、だが……その力……いや」
バナージはその名に衝撃を受け、かなり困惑しているようだ。
「名など名乗った所で意味はないと言ったのだがな」
「……アムロ・レイは死んだハズだ。しかも30年も前に…だが……その顔に…そしてなによりもひしひしと感じる途轍もないニュータイプ能力はそれ以外考えられない。アクシズショックを発動出来る程の力など……だが、年齢が合わない。いや……コールドスリープか?」
バナージは本人を目の前にして、必死に思考をまとめようと独り言のように呟く。
アムロ・レイは正式には30年前に死んでいる事になっている。
その人物が当時の若い姿のまま自分の目の前に現れたのだ。
この時代、コールドスリープの技術はある程度進んでいたが、まだ試験レベルで試験的に何人かが臨床試験を受けているだけの、実用されていない技術であった。
だが、マクロスの世界では既に実現レベルであった。
どのバルキリーのコクピットにも一般的に搭載されている代物だ。
バルキリーのコクピットはそれ自身が脱出ポッドの役割をし、本体が破壊されても、コクピット部分だけが分離できる。分離したコクピットは救難信号を出し続けるが、救助されずに数時間経つとコールドスリープが発動し、パイロットは眠りに付き救援を待つ事になる。初期型は持って半年程度だったが、ゼントラーディの技術を取り入れ、機器が正常に稼働する限り100年以上眠りにつくことが出来るとされている。
もし生きていたとしても、脱出ポッドは広大な宇宙をさまよい続ける可能性があり、いつ救助されるかも分からない。それが1時間後なのか、はたまた100年後なのか……
銀河を舞台に戦いを繰り広げる世界だからこそ、この装置は必要不可欠であった。
勿論この装置は各戦艦やメガロード01にもその設備が整っており、メガロード01は窮地に陥り機能が停止した場合、避難シェルターのコールドスリープ装置が稼働することになる。
アムロに関しては、コールドスリープという技術や概念を通り過ごした奇跡に近い事象で、今この場に居るのだが……
「今はレイ・ハヤセで通ってる」
アムロはまだ困惑の中のバナージに対し、何事も無いように再度偽名を名乗る。
「……すみません。失礼しました。私の名はシュトレイ・バーン、今は新サイド6のコロニー公社からコロニーの管理を請け負ってる管理会社を経営してます。……英雄と会えるとは光栄です。………その、バナージ・リンクスの名はここでは表沙汰にしないで頂けると助かります」
バナージは落ち着きを取り戻し、アムロに対して敬語を使い、握手を求める。
バナージは場所を変え、アムロを案内し、とある会社の応接室へと通す。
「サナリィの事は知ってます。月の本部、地球の支部も連邦に抑えられたことを……それでジョブさんは?」
「ジョブさんは恐らくアナハイムか連邦に捕まっているだろう。俺達を逃がすための囮に……」
「そうですか……あの人らしい」
「ジョブさんはサナリィ月面本部基地から新型戦艦で俺達を逃がし、逃亡先としてこのコロニーと君の名を上げていた。だが……サナリィのスタッフも君の名を知らない。どういう関係なのか……」
「27年前の話です。ジョブさんは……俺が連邦に拘束されそうになるところを救ってくれました。ロンド・ベルの司令官ブライト・ノア大佐とで……。その後もジョブさんは色々と便宜を図ってくれて……今の俺があるのもジョブさんのお陰です」
バナージの口からブライトの名が出た事に少々驚くが、アムロはジョブから渡されたサナリィの極秘資料には、バナージ・リンクスという少年について、ラプラス事変以降消息不明とだけ、記されていた事を思い出す。
バナージのこの言い回しだと、ジョブがバナージに対して何らかの隠蔽工作を行い、その後もサナリィとは無関係に個人的にバナージと繋がりがあったと推測できる。
実際にジョブはバナージに個人的に手を差し伸べていた。
それはバナージ自身の優しさと勇気に触れ、その優れたニュータイプ能力が大人に翻弄されないようにという事もあった。何よりジョブ自身、バナージにアムロの面影を重ねていたのだ。
「君は今は何を……」
「英雄である貴方なら……それに俺のニュータイプ能力が貴方が信用に足る人物だと訴えています。……俺はある人物を守るためにここにいます」
「……その人物もニュータイプか……君以外にもニュータイプの存在をこのコロニーから感じていた」
それよりも、アムロはこのバナージから何かを守ろうとする意志をこのコロニーに侵入する前から感じていた。
「やはり、貴方には分かってしまうんですね。ここではそれだけしか言えませんが……」
「いや、構わない」
アムロは凡そ理解していた。
バナージ・リンクスが守ろうとしている人物を……サナリィの極秘資料にも記されている人物だ。恐らくミネバ・ラオ・ザビだろうと……。
「ハヤセさんがここに来た理由も凡そ分かってます。サナリィから逃れて来た戦艦の受け入れですね」
バナージはどうやら、凡その情報を持っているようだ。
それは一般に公開されているはずが無い情報だ。
連邦内部で流れている情報を何らかの形で取得していると言う事になる。
「話が早くて助かる」
「その件ですが……結論から申し上げますと、申し訳ないですが、今の情勢下では受け入れは厳しい状態です」
バナージは俯き加減になり、申し訳なさそうにモノケロースの受け入れを拒否する。
「そうか………」
アムロの顔も多少曇る。
アムロも情勢が厳しい事は理解しているため、無理強いは出来ない事は分かっていたが………。
「新サイド6は連邦宇宙軍艦隊が現在5師団集結しております。コスモ・バビロニアの新サイド4 フロンティア・サイドからも近く、月からも比較的近い。月の拠点を失った連邦宇宙軍はここ新サイド6をしばらくのL5宙域の根城にするつもりです」
受け入れ拒否の理由としてバナージはここに逃げ込むのは危険だと説明する。
「しかし新サイド6に5師団とは……、同じL5宙域にはサイド1やコンペイ島(旧ソロモン)があるがそっちではないのか?」
バナージの説明を聞いて、アムロがそう言うのも無理もない。
5師団は単純に計算すると艦船が70隻前後、補給艦も合わせると100前後、モビルスーツに至っては300~600機程度存在することになる。地球連邦の戦力の10分の1が終結していることになるからだ。
サイド1と新サイド6は同じL5宙域で地球を周回する軌道を取っており、新サイド6と最短で半日とかからない距離にサイド1が存在し、同じL5宙域外縁に嘗ての古戦場であり拠点であったコンペイ島宙域が存在していた。
アムロの時代では、サイド1のロンデニオンコロニーにロンド・ベルの本拠地があり、当時の連邦に新サイド6よりもサイド1を抑える事が重要視されていたからだ。
「サイド1にも駐留艦隊は存在しますが、周回軌道の関係で今はこの新サイド6がコスモ・バビロニアのフロンティア・サイドや月に近い。コンペイ島も有りますが、いざコスモ・バビロニアが攻めて来れば新サイド6の住人を盾にするつもりかもしれません。一応コスモ・バビロニアのコスモ貴族主義は人道派という事になってますからね。それを見越しての事なのでしょう。
それにサイド1は伝統的に連邦を嫌ってるサイドですからね。サイド1は居心地が悪いのでしょう」
バナージは苦笑気味に返答する。
アムロの時代と異なり現在、新サイド6は地球の軌道周期の関係で、サイド1よりも月とフロンティア・サイドに近い位置にあった。
サイド1が連邦を嫌っていると言うのは確かだが、こちらは半分冗談なのだろう。
「なるほど」
「連邦はコスモ・バビロニアによって、身動きがしにくい状態が今も続いてます」
「確かにそうだな……。コスモ・バビロニアはしたたかだ。嘗てのジオンよりも……最小限の戦闘行為と占領地域で、連邦の動きを止めた」
アムロはジョブからもらった極秘資料や直接受けたレクチャーで、コスモ・バビロニアと現在の地球連邦の勢力図をある程度把握していた。
コスモ・バビロニアの主な占領地域は、新サイド4 フロンティア・サイドとルナツー、月のグラナダ。
フロンティア・サイドは月と地球の中間地点に存在する。これで地球と月の航路を大きく抑える事が可能だ。グラナダを占拠したことで、月における重要拠点を手に入れたと同時にサイド3及びサイド1、新サイド6にも睨みを聞かせる事が出来る。
ルナツーを抑える事によって、どのサイドからも一番遠い位置にあり月の周回軌道の反対側にあるサイド7を抑えると同時に、L4宙域のサイド2、サイド5の裏を取る事になる。
さらに、それ以外に各サイドにほど近い資源衛星なども占領している。
アムロが言う最小限の占領で宇宙のすべてのサイドに睨みを利かせる事が出来たと言えよう。
裏を返せばこの3つのどこかを連邦が奪い返せば、コスモ・バビロニアの勢威は落ちるのだが、連邦は中々動くことが出来ない。
宇宙を蔑ろにして来た連邦は、各サイドが何時コスモ・バビロニア側に付くか、はたまた独立されるかと戦々恐々としているからだ。
だから、今もこうして大戦力を各サイドや宙域に置き、それを阻止する動きを取っている。
コスモ・バビロニアが嘗てのジオンのように、反抗するサイドを全滅させれば、連邦も防衛面も後方の憂いも少なくなり、かなり楽になるのだろうが……。
それにたった1隻とはいえ、連邦にとってもサナリィの新造戦艦 モノケロースを無視できないのも、こういう情勢下であり、どこかのサイドの勢力下に入る事を阻止したいのだ。
そもそも、アナハイムの言いなりで、アナハイム駐留艦隊がサナリィの月面本部基地を攻めたのが間違いだったのだが……。
しかも、一個師団を送り込んでおきながら、無傷で逃げられた上に、モビルスーツや艦船を半壊させられ、一個師団の半数とは言え無様に追い払われたという失態付きで。
「確かに厳しいな。理解した」
バナージの受け入れ拒否を、アムロは納得せざるを得なかった。
「すみません。今はまだ早いんです。……ですが……」
「一つ質問をしていいかい?」
「どうぞ……」
「君が守りたいものはサイド3ではなく、この新サイド6なのか?」
アムロはワザとこんな言い回しをする。
バナージが守りたいものがミネバ・ザビだと分かっていた。
だが、本来彼女を匿うべきは、嘗てザビ家がジオン公国を立ち上げたサイド3のはずだからだ。
だが、バナージの話では、どうやらここに、大切なもの(ミネバ)が居るような話しぶりだった。
「……貴方に隠し事はまったく出来ないと言う事ですね。俺が守りたい人物は貴方が推察されてる通り、俺は彼女を何としても守りたい。リスクはなるべく避けたい」
バナージはアムロがその名を出さずとも、言いたい事を理解し肯定する。
「追手のかかってるサナリィの新造戦艦がこのコロニーに入港したとバレる。もしくはバレなくとも、疑いをかけられれば彼女に被害が及ぶかもしれないということか……。連邦はジオン残党狩りは今も行っていると資料にもあった……そういう事か……しかし、何故彼女はサイド3ではなくこの新サイド6なのか?」
「彼女自身はサイド3とは決別しています。ただ今も彼女を慕って元ジオンの将校や兵士がついてますが……、彼女はジオンを復活させるつもりなどサラサラないのですがね。ついてくるものを拒めないのは、彼女の美徳であり、欠点でしょうか……」
「ここで静かに暮らしているということか……すまなかった。他を当たるとしよう」
アムロはすっきりした面持ちで、そう言って立ち上がりバナージに握手を求める。
アムロは少しの間であったがバナージは好感の持てる青年であり、ミネバを守りたいと言う思いがヒシヒシと伝わってきていた。
しかも、あのザビ家の忘れ形見がこの長閑なコロニーで静かに暮らしているとなると……アムロも感慨深いものがあった。
この二人を戦場に戻してはいけないと……。
「待ってください。………L5宙域から外れた廃棄同然の資源衛星があります。そこに行ってください。少しの間位は隠れ蓑になるかもしれません。補給もある程度用意させてもらいます。………受け入れについての事ですが、今はと言ったのです。彼女は武力での解決は望んではいませんが……この世界を憂いています。そのために今迄活動してきました。……それも漸く実を結ぼうとしてます。………その時は是非この新サイド6に来ていただきたい」
「それはありがたい申し出だが………彼女は、いや君たちは立ち上がるとでも?サイド3と袂を分け、ジオンを復活させる事も無く」
「正確には異なりますが凡そ近いものがあるでしょう。情勢は刻一刻と変わってます。こんな事を言ってはいけないのでしょうが、コスモ・バビロニア建国は各サイドにはいい刺激だったでしょう……流石にコスモ・バビロニアの理念には賛同しがたいですが」
「そうか……健闘を祈る」
アムロはバナージ達がこの混乱した世界に何かを成そうとしている事に理解する。
それは嘗てのジオンなどとは全く別の方法で……
「またお会いましょう。それまで耐えてください。貴方ならばきっと」
そう言ってバナージは立ち上がり、改めてアムロに握手を求めた。
アムロはバナージから見送りをと申し出を受けたが、やんわり断り、徒歩で街を出る。
長閑な街並みや田畑を見ながら思いにふける。
ジョブから提供された極秘資料の中のラプラス事変について。
27年前、当時16歳の少女だったミネバ・ザビは真の宇宙世紀憲章を公開し、自らの言葉で人々の平和を訴えた……。
優しく、真に平和を望む言葉だった。
その言葉が今も人々の記憶に残っている事を切に願う。
嘗てジオンの姫君だったミネバ。
ジオンというしがらみを脱し、人々の平和への願いを実現させようと今も進んでいる。
そのミネバを27年もの時を経て必死に守ってきたバナージ。
そして今自分の元には、コスモ・バビロニアの王女という立場でありながら、貴族主義を否定し、迷いながらも前に進もうとするセシリー。
そのセシリーを守りたいシーブック。
まだ、希望と言う光は人々の中に生き続けていると……。
アムロはそんな思いを噛みしめていた。
大人のバナージくん登場です。
今も、ミネバ…オードリーを守っています。
因みに、この世界線には鈍感な街医者やツンデレの元鉄の女や赤いダメンズやモビルスーツ拾ってくる幽鬼じいさんやらは存在しませんので悪しからず。