アムロの帰還   作:ローファイト

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感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

今回は無双も戦闘は有りません。
つなぎ要素が大きいお話です。



接触

斥候艦隊を撤退させたアムロとνガンダムは、モノケロースが退避している宙域へと進む。

モノケロースの退避位置はあらかじめブライトと打ち合わせ済みだった。

だが、それは連邦軍艦隊の追撃や追跡が無いのが前提の場所だ。

 

アムロはYF-5 シューティングスターとハロをモノケロースに置いてきており、νガンダムには無人機が追従しているため、モノケロースの正確な位置を把握することが出来ていた。

モノケロースは打ち合わせ場所通り、L5宙域の外延外側ギリギリの位置に退避していた。

 

モノケロースとバナージの艦隊は撤退途中まで行動を共にしていたが、他の連邦軍巡回艦との遭遇等を考慮し、別行動に移った。

一番まずいのはモノケロースとバナージの艦隊が行動を共にしている事が見つかる事に他ならないからだ。

 

更にバナージは何としても、艦隊を新サイド6の他の偽装基地にたどり着かせなくてはならなかった。最悪オードリーだけでも、新サイド6のどこかのコロニーに送り届けなければならない。

 

バナージの艦隊も輸送船と戦闘艦を途中で分け、行動を別にする。

戦闘艦の影をチラつかせ囮役にしながら、輸送艦を規定宇宙航路に乗せ、無事にオードリーと輸送艦は新サイド6のコロニーに到着。

 

バナージの艦隊も途中、バナージがユニコーンガンダム1号機で囮となり出撃し、キルケーユニットのレーン・エイムと対峙する一幕があったが、なんとか偽装基地にたどり着くことが出来たようだ。

 

 

しかし、この事態を受け、新サイド6があるL5宙域は連邦軍が最大限の警戒と網を張っているだろう。

モノケロースは新サイド6の宙域、L5宙域に迂闊に入る事が出来なくなった。

要するに当面の退避場所を失ったことになる。

新サイド6の廃棄資源衛星偽装基地でまともに補給を受ける間もなく撤退を余儀なくされ、食料も心許ない状況だ。

 

 

 

 

アムロとνガンダムはモノケロースに帰還し、右側上部カタパルトデッキに着艦、格納庫へと収納される。

 

アムロがνガンダムを降りると……

「ハヤセさん、な、なんですかこのモビルスーツは!」

「ジェガンタイプじゃない?まさか!?」

「かっ、カッコいい!ガ、ガンダムタイプだ!」

「ハヤセさん!あの後ろの放熱板はなんですか!?」

「大きい……」

「このシンプルなフォルムは、芸術的だ!」

若い整備兵がわらわらとアムロに集まって来て質問攻めにする。

流石に隠密撤退中のモノケロースから先ほどのνガンダムの戦闘シーンは確認できなかったようだが、格納庫に収容されるνガンダムの存在感に彼らは興奮気味であった。

アムロは苦笑気味にジェガンタイプのカスタム機だとお茶を濁し、そそくさと格納庫の出入口に向かう。

 

だが……

「ハヤセの旦那……ありゃ、νガンダム…RX-93シリーズだよな。30年前に量産計画があって、僅かだが作られた奴だ。高価な上に相当な技量が無いと乗りこなせないってなことで、直ぐに量産型の製造もストップされたとんでもないガンダムタイプだ。俺は若い頃、量産型を整備したことがあるが……こりゃ、オリジナルじゃないのか?あれはぶっ壊れたと聞いていたが……あんた何もんだ?」

格納庫の出入口に差し掛かったところで、古参の整備兵長にアムロは声をかけられた。

流石のアムロもこれには答えを窮し、そうなのか?としらばくれる。

 

(流石に不味かったか……)

アムロはνガンダムで直接戻って来た事に少々後悔していた。

 

 

アムロは報告や今後のモノケロースの方針について打ち合わせのために艦長室に呼ばれていたが、一度与えられた自室に戻り、軽くシャワーを浴びる。

着替えを行ってる最中に、ブライト夫妻の訪問を受ける。

「アムロ、しばらく食事を摂ってないでしょ?サンドイッチ作って来たわ」

「ありがとう、ミライさん」

ミライがアムロの為に手軽に食べられるサンドイッチを用意してくれていた。

アムロはコクピット内で栄養補給用のドリンクは口にはしていたが、この半日以上まともな物を何も口にしていなかった。

 

「νガンダムがまだあったとはな。俺もあの後に散々探したのだが……」

「ああ、15年前にバナージがさっきの廃棄資源衛星近隣宙域で見つけたらしい」

「あれから、主を失ったνガンダムは15年間宇宙を彷徨っていたと言う事か……」

「そうらしい。俺もまさかこうしてまた乗る事になるとは思いも寄らなかった」

ブライトの口振りから、アムロとνガンダムが行方不明になってから、νガンダムの行方を捜していたようだ。

 

「アムロ、それとだ。レアリー艦長はお前の事を気にしている様子だ。疑ってると言う感じではないが、俺にお前の事を何度か聞いてきた。それに今回のνガンダムだ。……これ以上隠せば、疑いの目で見られるだけだ」

「……確かにそうだが」

「彼女は信用できる。事情を話した方が良いだろう」

「わたしもそう思うわ。彼女、若いけどしっかりしてるもの、クルーにも慕われてるのもわかるわ」

ブライトとミライはレアリーにアムロの出自の真実を語る様に説得する。

二人ともレアリーをかなり買っているようだ。

それにレアリーは実際に、アムロが何者なのかとかなり初期から疑問に思っていた。ブライトとの交友に、ジョブ・ジョンからの信頼も厚く、さらに凄まじい技量のパイロットだ。何よりYF-5にマーキングされてあるあのユニコーンマークが頭から離れないでいる。

今はアムロが元ロンド・ベルのパイロットではないかと推測していた。

しかも、ありえないかもしれないが、もしかするとあのアムロ・レイかもしれないとまで……

 

「……事情を話した方がいいな。それにこの艦の行先の事も有る。彼女には全て話そう。信じてくれるかは疑問だが……」

「彼女なら大丈夫よ」

「だったらいいですが」

アムロは二人の説得に応じ、レアリーに真実を語る事にした。

 

「アムロ、行先とは……お前が所属しているという平行世界の長距離移民船団のことか?」

「いいや、その中継地点だ。高速機動輸送艦、補給可能な大型艦が待機している場所だ」

「緊急避難先として俺に知らせてくれた場所か」

「そうだ。流石に長距離移民船団は、モノケロースのクルーにはショックがデカすぎるだろう」

「巨人の異星人が生活していると聞いたが、流石にそれは俺やミライでもショックはデカいだろう」

「いや、長距離移民船団は基本、全員マイクローン化、要するに人間サイズに遺伝子組み換え処理を行ったゼントラーディ人しかいない。見た目はそれ程俺達と変わらない。耳の形が多少特徴がある程度だ」

「それにしてもだ。巨大宇宙船に街があるとかだけでも想像がしにくい」

「それだけじゃない、中継地点に待機させてる高速機動輸送艦はこの艦よりも更に大きい、800m級だ。しかも可変戦闘機が最大200機搭載可能だ。これだけでもどう思われることやら」

「……輸送艦一隻で、二個師団から三個師団クラスの機動兵器が搭載可能とは……」

「ああ、前にも言ったが、俺が居た世界の物量は凄まじい。500万からの敵艦隊が存在したからな。旗艦空母は1400㎞級だ。まるで月がもう一つ現れたと錯覚してしまう程だ」

「そこまで来ると、想像ができんな」

ブライトはアムロの話を聞き、ため息をついていた。

因みに長距離移民船団の旗艦メガロード01は1800m弱、護衛艦には4000m級戦艦まで存在する。

 

現在、火星と地球の間のアステロイドベルトに待機しているメガロード01率いる長距離移民船団にはモノケロースを直接連れて行くわけには行かないだろう。

本来交わるはずの無い、長距離移民船団のマクロスの平行世界の住人と宇宙世紀の住人を接触させるのは憚れる。

それに、アムロ自身、地球のいざこざに自分の都合で長距離移民船団を関わらせたくはなかった。

だが、モノケロースを助けたい思いもあり、妥協点として地球圏の外延部に待機している高速機動輸送艦での補給処置を考えていた。

これもアムロの一存で決める事は出来ないが、メガロード01の上層部は快く了解してくれるだろう。

 

アムロは自室でブライトとミライと打ち合わせを済ませた後、ブライトと共に艦長室に向かう。

 

 

 

「ハヤセさんよくご無事で、殿を任せてしまいまして、申し訳ございません」

「いや、俺から買って出た事だ。艦長が責任を感じる事じゃない」

「いえ、何度も救っていだたいて、感謝しきれません」

「ジョブさんに頼まれたことだ」

レアリーは開口一番に、アムロに頭を下げ礼を言う。

 

「それと……ハヤセさん、こんな事を聞くのはルール違反なのかもしれませんが……あのモビルスーツはガンダムではないですか?……あの朱色のユニコーンマーク……貴方は」

遂にレアリーから、アムロについて直接聞いてきたのだ。

やはりレアリーは勘づいているようだ。

 

「……その事だが、レイ・ハヤセは偽名だ。俺の本名はアムロ・レイだ」

アムロは一呼吸おいて、本名を名乗る。

 

「…………」

 

「どうした?」

 

「いえ、余りにも衝撃的で……そうかも知れないと、頭の片隅には思っていたのですが、その伝説のモビルスーツパイロットが目の前に……しかも30年前に亡くなられたと……生きておられたとしても年齢が合わないです。失礼ですが、ブライト元司令と年齢がそれ程変わらないはずなのに……余りにもお若いので……」

 

「それも理由がある。俺の実年齢は36歳だ。本来なら59歳でなければならないが、時間にラグが大きくある」

 

「……コールドスリープですか?あの技術は何十年も研究、試験されてきましたが、未だに技術が確立されていないと……」

 

「いいや……、信じられないかもしれないが、レアリー艦長には聞いて欲しい」

そう言ってアムロは30年前に平行世界へ飛ばされ、そして最近、この時代に戻って来た経緯を語りだす。

平行世界では同じ地球が存在し、同じ言語を話し、同じような歴史を紡いできたこと。その世界では銀河規模で異星人同士の戦いが起きており、地球も巻き込まれ、地球は壊滅、人類は絶滅一歩手前まで行ったが、今は異星人と手を携え、共に生きていく事を決め、広大な宇宙へ第二の母星を求め旅立ったことなど………。

普通に聞けばとても信じられないような話だ。

アムロはブライト夫婦に説明したのと同様に、情報端末の映像を見せながら語った。

 

「……その、どう言ったらいいのか」

 

「信じられないだろうが、真実だ。出来れば今はレアリー艦長の心の中で留めて欲しい。俺が乗って来た可変戦闘機は平行世界の技術で作られたものだ。そもそもこの世界のモビルスーツのコンセプトとは全く異なる発想で開発されたものだ」

 

「信じる信じないといよりも、理解が追い付いていない状態です。……しかし、そんな重要な事をどうして、私に話を……」

 

「レアリー艦長は違和感、いや疑問に思っていただろう。俺の事やあの可変戦闘機、そしてジョブさんやブライトとの関係に……」

 

「……確かにそうですが……ハヤセさん……いえ、そのアムロ・レイ中佐が誰であろうと、信用しようとは思っておりました。あの室長が太鼓判を押すような方です。それにとても悪い人には見えませんでした」

 

「それはありがたいが……中佐?」

 

「お前は30年前に戦死したことになってるからな、殉職し二階級特進している。記録のお前の最終階級は中佐だ」

ブライトが補足説明をしてくれるが、それにはアムロは苦笑するしかなかった。

因みにブライトの最終階級は准将であったが、連邦宇宙軍最強と呼び名の高いロンド・ベル艦隊と司令官としての階級が大佐であったため、一般的にはブライト大佐と認識されている。

 

「そのような、世界情勢が一変するような重要な話をなぜ私のような者に……」

 

「レアリー艦長は信頼できる人物だ。堅物のブライトでさえそう言っているんだ。間違いない」

 

「恐縮です」

 

「それと、モノケロースのこれからの事もある……提案なんだが、今、俺が所属してる長距離移民船団の補給可能な輸送艦が地球圏の外延部に待機している。そこで補給を受けてほしい。弾薬だとかは規格が異なるものが多いだろうが、エネルギー関連ならば、何とかなるだろう。食料や生活物資は全く問題ない。あの場所ならば安全面も保証される、今後の行く末を考える時間も作れる。どうだろうか?」

 

「その、とても助かりますが……。平行世界から来られた長距離移民船団の方々も補給に困っているのではありませんか?それなのにご迷惑がかかるのでは?」

 

「ふっ、艦長はやはり信が置ける人物だな、逆に気を遣わせてしまったか。長距離移民船団は広い宇宙の中、人類が住める惑星、要するに第二の母星を探すために地球を発った船団だ。それこそ目的を達するまで何十年、何百年かかるか分からない旅だ。自給自足は勿論、独自の戦力も備えている。たかだか700名程度の人員は全く問題にならない」

長距離移民船団、特にメガロード01は長距離航行で起こりえるあらゆる障害を想定し、設計運営されている。ただ流石に次元断層に飲み込まれるとは想定外だったのだが。

モノケロースは乗員凡そ480名で標準稼働が想定された艦だ。最低人数は180名とかなり少ない人数でも航行運営可能である。現在は、サナリィの若い技術者やスタッフも月の基地から逃げるために乗船しているため、700名程の人間が乗っている。そもそもモノケロースはかなり内部が広く、元々連邦宇宙軍の旗艦として設計されているため、内装も豪華で、居住性も十分確保され、福利厚生施設も十二分にあり、700名もの人間も十分収容できた。

 

「そ…そうなんですか」

 

「宇宙航行に慣れてないスタッフも多いだろう。この辺で休ませないと後々に厳しい」

 

「わかりました。ですが、皆にどう説明すれば良いでしょうか?」

 

「ああ、俺が所属する民間軍事会社の基地とでも言っておけば大丈夫じゃないか?」

 

「基地ですか……」

 

「ああ、先にいっておくが、輸送艦と言ってもモノケロースよりも大きい。モノケロースを収容は流石に出来ないが、民間のシャトル程度であれば、数機収容できるスペースは十分ある」

 

「それ程の大きさが……わかりました。その、何から何まで……ありがとうございます」

レアリーはモノケロースの今後の行く末で悩んでいたが、当面の補給については解決を見た。だがそれよりも、アムロから聞いた平行世界の話に、頭の中を時間をかけて整理する必要があった。

 

 

モノケロースは地球圏を離れるコースを取り、地球圏外延に待機している高速機動輸送艦に向かう。

 

レアリーは発令所ブリッジの艦長席に座り、指揮を執るが、どこかうわの空だった。

当然だろう。レイ・ハヤセの正体が伝説のモビルスーツパイロット アムロ・レイだったのだ。それだけだったらまだいい、そのアムロは平行世界に飛ばされ、この世界に戻ってきたのだ。しかも平行世界の船団を引き連れて……。

レアリーの中で、この事実は暫く消化しきれなかったのも言うまでもない。

 

 

 

 

アムロはその間に、YF-5に戻り、メガロード01と通信を行う。

勿論、その相手は長距離移民船団の提督であり、最愛の妻でもある未沙だ。

アムロはこれまでの経緯を未沙に話し、改まった口調で願いでる。

「早瀬提督、勝手な申し出だとは承知している。戦艦級一隻分の補給を願いたい」

 

「アムロさん………わかりました。レイ准将、当船団は宇宙で困難な立場にある者を見捨てるような事は致しません。それが異星人だろうとです。それはこの船団の設立宣言に謳われている条文にも記されております。許可致します。但し、詳細についてはこちらで検討し、追って知らせます。先に高速機動輸送艦との連動、補給及び人員移動は許可します。人員移動の際は条例に則って、安全面を考慮し対象者の遺伝子検査をお願いいたします」

未沙も船団のトップとして、姿勢を正し、アムロに許可を出す。

 

「感謝する」

アムロは映像通信越しに敬礼を返す。

 

「アムロさん、大変なのは十分わかっているのだけど、こちらもトラブルが発生して……」

未沙は凛とした佇まいとは打って変わって、申し訳なさそうにアムロにそう告げる。

 

「未沙、何があった?」

 

「その………、タカトク中将がアムロさんに会わせろと、再三に渡りブリッジに……」

 

「いや、ちょっと待て、なぜタカトク中将がメガロード01に乗船している。中将は月基地にいらっしゃるはずだぞ」

新統合軍、技術開発関連の全責任者であるタカトク中将は月基地にラボを置き、今もバルキリーや宇宙戦艦等の開発や研究を行っているはずなのだ。

 

「それが……半年前の護衛艦入れ替えの際に、密航されたらしいの。予備のバルキリーのコクピットの中に隠れられていたらしいのだけど、暇を持て余して、コクピット内部を解体され、緊急脱出用のコールドスリープモードが発動したらしく、いままで護衛艦内の予備のバルキリーコクピット内で眠られて……どうやら、次元断層の影響で意識を取り戻されて、それで……」

タカトク中将はメガロード01が次元断層に落ちる前まで、メガロード01の来訪を再三申請していたが、そのたびに却下されていた。

新統合政府において技術開発関連のトップなのだから、わざわざ危険が及ぶ可能性のある宇宙探索移動中のメガロード01に行かせるわけにはいかないだろう。

それに、長距離移民船団トップの未沙も受け入れに困る。

そこで、しびれを切らしたタカトク中将は長期休暇を取り、今回の密航騒ぎだろう。

なぜ、そこまでしてタカトク中将はメガロード01に来たかったのか?

勿論アムロに会うためだ。

新たなインスピレーションを求め、アムロと技術開発についてじっくり語り合いたかったのだ。

タカトク中将は技術開発については天才的ではあったが、それ以外にはほぼ興味が無く、新たなバルキリー開発の為には凡そ軍人とは思えないとんでもない行動を起こしてしまう程なのだ。

そして、密航を敢行したのだろうが、誤ってコールドスリープ状態になり、さらに次元転移に一緒に巻き込まれたようだ。

 

「………………それで、中将はなんと?」

アムロは、頭痛がするかのように額に手をやる。

 

「アムロさんを出せの一点張りで………ここは平行世界の可能性が在る事も、地球に偵察に行った事もお伝えしたのだけど………」

未沙の言葉に、アムロはタカトク中将がどんな行動に出たのか、容易に想像が出来た。

 

ブリッジではなく通信室でアムロとの通信中の未沙の元に、ブリッジ要員から緊急連絡があると、直接声がかかる。

アムロとの回線をそのままにしたまま、緊急連絡の内容を聞く。

『艦長、通信中に失礼します。一条少佐からの緊急報告です』

『いいわ、この場で報告を』

『タカトク中将が許可なく、フォールド可能な中型連絡船に勝手に乗り込もうとしたそうです。それを何とか阻止したのは良いのですが……。その……中将はレイ准将の元に行くとばかり、話が噛み合わないそうです』

『……分かったわ、一条少佐には丁重にと伝えてください』

『了解』

 

「………アムロさん」

 

「未沙……中将と話そう」

アムロは困り顔の未沙の顔を通信画面越しに見て、こう答えるしかなかった。

 

 

30分後。

タカトク中将はアムロと映像通信を行うのだが……

「アムロ君!平行世界とは恐れ入った!YF-5とこの世界の機動兵器との戦闘映像は確認したが、平行世界の機動兵器とはまさしく人型なのだな!これならば近接戦闘は必須と言えるだろう!まあ、君が乗った私のYF-5とでは、相手として不足のようだったが!はははははっ!それよりもだ!君だけズルいではないか!私も平行世界の兵器群に触れさせてくれてもいいのではないかね!確かに5年前の時点で、YF-5シューティングスターは3世代を悠に越えた究極の可変戦闘機として完成を見た。だがもうそろそろアレを超える物を作ってみたいではないか!自身の限界を超えた先を見たいではないか!!それなのにだ!!近頃新統合軍は私を月基地に押し込め!先に、どんなパイロットでも使い勝手がいいVF-4の後継量産機を作れだの!ステルスに特化した次世代可変戦闘機を作れだのと!!面白くもない開発を!ステルス機は多少楽しめたが!!やはり私は究極の可変戦闘機が作りたいのだ!!だから奴らの要望通り!!VF-4ライトニングⅢの後継機としてYF-5のフレームを元にVF-1の簡便性とVF-4 の使い勝手の良さをミックスさせたVF-5000を完成させた!!次世代ステルス機としてVF-11の試作機、VFX-11も完成させた!!ようやく次の究極の可変戦闘機に着手できると息巻いていたのにだ!!君に会う事が出来ないではないか!!だから私は長期休暇を取り、こうしてメガロード01に到着したのだ!!そして気が付けば次元断層に落ち平行世界に転移!!アムロ君は平行世界の機動兵器と対峙していたと!!何たる天祐!!何たる偶然!!私のインスピレーションは高まる一方だ!!是非!!この世界の機動兵器群に触れさせてくれ!!」

タカトク中将は通信越しにアムロに開口一発目から一息で語った。

要するに、YF-5の次の究極可変戦闘機を設計するために、この世界のモビルスーツに触らせろと言っているのだ。

 

「……タカトク中将、ご無沙汰しております。……わかりました、但し条件は付けさせてください」

 

「流石はアムロ君!!話が早い!君の奥方は相変わらず頭が固くて困る!!君を見習って貰いたいものだ!!ははははははっ!!では、早速この世界の地球へと!!」

 

「待ってください。今は危険です。………メガロード01で待ってください。この世界の兵器群の技術書や開発設計図などを送信しますので」

 

「いや!私のこの目で見たいのだ!!君だけズルいではないか!!君もわかるだろう!同じ技術者として!!自分の目で確かめたいのだよ!!」

こうなるとタカトク中将はテコでも自分の意思を曲げないだろう。

アムロもそれを重々承知していた。

 

「わかりました。但し、今私が向かう高速機動輸送艦までです。そこに私も戻ります。こちらの世界の機動兵器も用意します」

 

「致し方が無い!それで手を打とう!!はははははっ!!」

タカトク中将のテンションは上がりっぱなしだ。

 

「……では、お待ちしてます」

 

「うむ!!」

タカトク中将は満足そうに頷き、通信を終了させる。

アムロは悩みの種が一つ増えた事に、珍しくため息をついていた。

 

 

 

 

 

 

 

1日半後、モノケロースは高速機動輸送艦に到着し、弁当箱のような形をした高速機動輸送艦の上部に乗ったような形で固定される。

 

固定から2時間後、アムロはモノケロースから高速機動輸送艦にレアリーとブライトと共に移動する。

その前にレアリーとブライトからは髪の毛を二本程、預かり、先に高速機動輸送艦に送る。

遺伝子検査を行い、伝染病や未知のウイルス、アレルギーなどを持っていないか等を調べるためだ。

その結果、簡易検査では問題無しと出たため、乗艦許可が下りたのだ。

 

「レイ准将、おかえりなさい」

「准将、ご苦労様です」

「准将、お待ちしておりました」

アムロは敬礼と共に乗組員に出迎えられる。

 

「アムロ、随分と慕われてるようだな」

ブライトは通路を歩きながらそんな感想をアムロに漏らす。

「………」

レアリーはその横で恐縮していた。

 

 

この後、会議室のような場所で高速機動輸送艦の艦長と補給等の打ち合わせをする。

そして、正面の大画面スクリーンで、映像通信が行われた。

そこには白を基調とした制服を着た年若い落ち着いた雰囲気の美女が映し出される。

『新統合宇宙政府(新統合政府の正式名称)第一次超長距離移民船団提督の早瀬未沙です。貴艦を歓迎いたします』

「サナリィ所属、モノケロース艦長代理レアリー・エドベリ中尉です。受け入れ感謝いたします」

「モノケロースオブザーバーのブライト・ノアです」

 

『条件付きではありますが、滞在と補給の件に関しましては保証させていただきます。貴艦につきましてはレイ准将に一任しております』

 

「何から何まで、このご好意をどう受け止めれば……いいのか」

未沙の言葉にレアリーは感謝しつつも、この好意に報いる物がない事に、心を重くしていた。

 

「その件だが、俺からレアリー艦長に頼みたいことがある」

そこでアムロが横からレアリーに何やら頼みごとをしようとする。

 

「何なりと言ってください。我々で出来る事がありましたら」

レアリーはアムロの言葉に幾分か心を軽くするが……

 

「そうか……」

頼み事をするアムロの顔はあまり浮かないものだった。

 

 

未沙との通信会合を終え、一度モノケロースに戻り、会議室でモノケロースの各部署の責任者を集め、会議を行う。

補給の受け渡し、しばらくこの場で待機出来る事、これからの方針について……。

今後のモノケロースの方針については、二日に1回定期会合を行い、皆の意思決定を行う形をとる事となった。

ひとまずはこの場所はレイ・ハヤセが所属する民間軍事会社の基地であることにしている。

 

 

この後、レアリーはアムロとブライトと共に艦長室で雑談を交えた話し合いを行った。

「早瀬提督は随分とお若い様ですね。私とそれ程変わらない様に見えましたが、なんといいますか綺麗な方なのですが歴戦の艦長にも劣らない風格のような物を感じました」

先ほどのモノケロースの責任者会議についての意見交換を行った後、レアリーはアムロになにげなく未沙について聞いた。

 

「ああ、早瀬提督は26歳だ。君の方が若いだろう」

アムロはそう答える。

レアリーは現在22歳で中尉の立場だ。

それだけでも、優秀な士官だろう事はわかる。

 

「レアリー艦長もなかなかのものだと思うが」

ブライトはレアリーを褒める。

 

「恐縮です。でも私はまだまだです。今もブライト元司令やレイ准将がいらっしゃらなければ、何をどうすればいいのかも……」

 

「今まで通りハヤセでいい。それと彼女の事だが、経験の差だろう。彼女は19歳時に君と同じ中尉という立場で、最前線の艦で戦って来た人間だ。あちらの世界の人類は、異星人との戦いで生き残った人達は1000万人も居ない。軍人に至ってはほぼ全滅に近い。人材がいない中、彼女自身も優秀だったため、若くして上の重責を担う立場に収まるしかなかったと言う事だ。俺達大人が不甲斐ないばかりに……」

 

「1000万人も生き残れなかった………」

レアリーは驚きの声を上げる。

 

「ああ、一年戦争では人類の半分を失ったが……それ以上の経験をするとは思ってもみなかった……」

アムロは眉を顰めながらそう答える。

 

「そ……そう言えばレイ准将の偽名……ハヤセ……早瀬提督と同じですね」

 

「ああ、俺の妻だ。子供も二人いる」

 

「そ、そうなんですか……」

 

「アムロが若い姿で現れただけでも驚いたが、さらに若い嫁と子供まで居ると聞いた時はそれ以上に驚いたぞ」

ブライトはユーモアを交えてこんな事を言う。

 

「それはどういう意味だ?ブライト」

 

「そのままの意味だ」

 

 

 

「そういえばレイ准将、先ほどの会合で頼み事とおっしゃってましたが……」

 

「ああ、それを言わなくてはならないな。君たちにとってはあまりいい気分の話じゃないのだが……。モノケロースのモビルスーツを見せて欲しいという要望なんだが……」

アムロが躊躇気味に要望を伝える。

 

「レイ准将はモビルスーツについては把握されているのでは?」

 

「いや……そのだ。船団、いやあちらの世界の技術者なんだが……」

アムロは躊躇気味だった理由は、サナリィの技術を見せてくれという物だった。

サナリィの技術は地球の最新技術だ。それこそライバル社のアナハイム・エレクトロニクスが喉から手が出る程のものだ。

サナリィはアナハイムに技術を取られまいとして、こうしてモノケロースを脱出させたのに、その最新技術を見せてくれなどとは流石に言い難いだろう。

 

「いえ、室長からお伺いしましたが、レイ准将にサナリィのマスターデータをお渡ししたと聞いてます。レイ准将なら有効活用してくれると、私には異存はありません。ここまで助けて頂いて、私どもに渡せるものは何もないので……」

 

「いや……いいのか?俺はデータは預かったが、封印か処分しようと考えていたのだが……」

 

「室長はレイ准将に有効活用していただくことを見越して、レイ准将にマスターデータを渡したのだと思います。護衛代金の代りにとでも思っているのだと思います」

 

「そうか……だが、本当にいいのか?」

アムロはレアリーが余りにもあっさり了承するため、サナリィの技術のすべてが入ったマスターデータの重要性に気が付いていないのではないかと、再度念を押す。

 

「私は技術者ではありませんが、レイ准将なら悪用される事はありませんし、そもそも地球連邦には遅かれ早かれ報告しなければならない技術です。アナハイムともコスモバビロニアでもない勢力で、しかも平行世界の方々なら、あまり問題にならない気がしますが」

 

「アムロ、お前は気にし過ぎだ。お前が居なかったら、俺もミライも乗船していなかった。モノケロースは駐留艦隊に鹵獲され、既にアナハイム・エレクトロニクスに奪われていた可能性が高いものだ」

 

「そうか、助かる。モノケロースに使えそうな技術もある程度こちらも提供しよう……いや、それだけならばいい。……そのだ。その技術者は本来俺の上司に当たるのだが……技術畑の人間で、機動兵器を見ると周りが見えないというかだ。迷惑をかける」

そう、アムロはタカトク中将の事を言っているのだ。

 

「ふっ、それはお前も一緒だろ。アムロ」

ブライトは昔のアムロを思い出し、笑っていたが……。

タカトク中将はそれよりも飛んでもない人物であることを、後で知る事になる。

 

「技術提供は助かります。サナリィの開発・技術スタッフも似たようなものですので、意気投合するのではありませんか?」

レアリーは、なぜか狼狽するアムロの姿と、ブライトとアムロのユーモアたっぷりの掛け合いに、微笑んでいた。

 

 

 

 

 

1日後……

「アムロ君!!これは凄いぞ!!サイコフレームとはなんだ!!ミノフスキー粒子とは!!これがビームサーベルの完成形か!!この世界には君のような天才が溢れているのだな!!」

フォールドブースター搭載の中型連絡船で、高速機動輸送艦に到着したタカトク中将は早速、モビルスーツを……

とりあえずは、νガンダムがその最初の餌食となったのは言うまでもない。

 

 

傍迷惑な技術者の乱入に最初は戸惑うサナリィの技術開発スタッフだったが、この事でモノケロースにも思わぬ恩恵が得られることになる。

 

 

そう、サナリィで開発途中であったモビルスーツが加速度的に完成していくのであった。

 




次回。

タカトク中将のお陰で、F92等の開発中のMSが完成に!?
νガンダムが魔改造!?
遂にあのとんでも機動兵器の開発着手に!!

とりあえずの安寧の地を得られたモノケロース。
そんな中、地球圏では、さらなる戦いが………。
地球に戻るモノケロースの明日は?

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