ザレゴトマジシャン   作:hetimasp

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あらゆるものを無意味にしよう。

大抵の事は解決する。


00プロローグ 起承転生

人が死んだらどうなるか。

ぼくはその問いについて何もないと答える。

死とはぼくにとって身近であり、ぼくを嫌っているものでもあった。

世界には死が溢れており、あらゆる死でもって人を終わらせる。

では、今、ぼくが陥っている状況はどうだろうか。

赤い最強も橙の最終も、青いサヴァンもいない。

鏡の向こう側もいなければ、ぼくの敵もいなかった。

ぼくはあの世界で終わったはずだった。

そう、はずだった。

しかし、今はどうだ?

生きている。

穂群原学園3年の×××××。

両親は幼い頃にまるで示し合わせたかのように死に、ぼくは周りから孤立してしまった。

いつだったか。

良い子の一般人と邂逅し、その時に話したこと。

生まれ変わったら天真爛漫に笑い、怒りたいときに怒り、悲しい時に泣いて、それで楽しく人生を送りたい。

彼女はそう言った。

ぼくは、なんと返しただろうか。

そうだ。

生まれ変わりたくない。早く死にたい。

そういった。

でも生まれ変わってしまった。

正義の味方として世界を救い、人類最弱の請負人として生きたあと。

ぼく一人だけが新しい世界に産み落とされてしまった。

人は死んだらどうなるか。

その答えの一つを僕は経験していた。

戯言だけどね。

 

 

時を遡り、親しいという人物は少ないが、ぼくに声をかけてくれる物好きはそれなりにいた。

物覚えが悪いぼくにしてはかなり良くやっている。

いや、関心を持っていたというべきか。

例えば藤村大河。

藤村組を取り仕切る街の有力者の孫で、冬木の街に住む虎。

一般人である彼女を、ぼくは極力避けている。

常軌を逸している人間と過ごして、一般人がどのような結末を辿ったかはぼくが良く知っていることだ。

それでも彼女はぼくを気に掛けてくれる良い人だ。

 

 

例えば柳洞一成。

柳洞寺の跡取り息子の彼は、ぼくに会うたびに嫌そうな声をあげる。

彼はぼくという存在がどのようなものなのかを理解している。

だから距離を一定に保って事なきを得ているわけだが、彼は非常に良い目を持っていると思う。

 

 

例えば間桐慎二、そして妹の桜。

この二人は腐れ縁というべきか、偶然というべきか。

詳しい理由は後にして、いつの間にか知り合いになっていた。

慎二君はぼくに嫉妬するように、桜ちゃんは羨ましがるように。

二人は誤解しているのだ。

いや、錯覚しているのか。

ぼくに嫉妬する部分も、羨ましがる部分もない。

それらは欠陥しているからだ。

 

 

そして衛宮士郎。

彼はぼくをいー先輩と呼び、会うたびに声を掛けてくれる。

幼い頃、彼は大災害に会って衛宮切嗣という魔法使いの養子となった。

 

 

魔法使い。

科学では為し得ない神秘を用いた不思議。

未来へ向かうのではなく、過去へ遡る歴史の研究家。

切嗣さんと出会ったとき、ぼくの第一印象ははっきり言って得体のしれないものだと評価していた。

それは紛れもなく本当のことで、ぼくはこの世界にとって、いや、あの世界にとっても異物だったのだろう。

なんの因果か、ぼくは滅ぼす側ではなく救う側になってしまったあの世界。

今となっては全部が戯言だ。

 

 

ともかく、この世界では魔術と呼ばれる神秘があり、秘匿されている。

秘匿されている神秘を早々に暴いてしまったぼくに、切嗣さんはとても焦っていたようだったが、ぼくは魔術師ではない。

ここでは正義の味方でもない。

それを説明したとき、切嗣さんは複雑な表情を浮かべていた。

彼は士郎君に半端な魔術を教えていた。

切嗣さんは士郎君に危ない生き方をしてほしくないという考えもあっただろう。

しかし、自分の為し得なかった未来を作ってほしいという未練もあっただろう。

士郎君にとって切嗣さんは紛れもなく救世主で、今もヒーローなのだ。

だが、この世界にヒーローはいない。

ぼくもなるつもりはない。

それでも世界は終わらないだろう。

 

 

「君は何故、正義の味方になんてなったんだい?」

ぼくの起源を聞き、切嗣さんは答えを欲するようにしていた。

ぼくはなんて返したのだろう。

正義感に囚われたから。

救いたい友人がいたから。

世界を終焉に導かせるわけにはいかなかったから。

ぼくの唯一の敵がいたから。

いや、違うな。

ああ、思い出した。

「成り行きで」

戯言だ。

 

 

切嗣さんは士郎君を養子にしてから十年程で死んだ。

士郎君は葬式で涙を流さなかった。

彼は壊れているのだ。

災害の中で壊れてしまったのか、元々壊れていたのか。

それはあの冬木の災害から生き残った故の歪みか、あるいは救い出されてしまったがゆえに切嗣さんの思想を自分の思想と思い込んでしまったのか。

 

 

葬式は粛々と行われ、全てが終わったときに士郎君がぼくに口を開いた。

「じいさんがさ。正義の味方になりたかったって」

知っていた。

ぼくと切嗣さんはよく顔を合わせていた。

切嗣さんが呪われているという話も聞いていた。

彼にはもう一人、娘がいるということも。

その告白は懺悔のようだった。

歪んだ呪いを、ぼくという存在に肩代わりしてもらいたかったのか。

あるいは娘に会うためにぼくを利用しようとしていたのか。

しかし、切嗣さんは結局、ぼくに頼ろうとしなかった。

それは彼の中で、あらゆるものを利用する生き方を止めてしまったからだろう。

もしも、切嗣さんがぼくに一言でもこの呪いをどうにかしてほしい、娘を助けてほしいと言ってしまえば、ぼくはそれを請け負っただろう。

語り部であり、戯言遣いであり、人類最弱の請負人たるぼくは。

 

 

それらは全て、士郎君には知らされていないことだ。

そういう意味ではぼくは切嗣さんの業を請け負ったと言ってもいいかもしれない。

それほどまでに、切嗣さんはぼくに全てを話していた。

だから僕は語り部でもある。

いつの日か、この物語を語る日が来るだろう。

「ヒーローは期間限定だって」

だから俺が代わりになることにしたと。

あの人は死色の真紅のように、厄介をぼくに持ち込んで、そして勝手にどこかへ行ってしまったらしい。

本当に一言、たった一言口にするだけで切嗣さんの負担も減っただろう。

いや、こうして間違って関わってしまったぼくに投げうってしまったのかもしれない。

だとすれば非常にリスクのある博打だ。

いつか面倒なことになるだろう。

今、話せば楽になるだろう。

でもぼくは決して話さなかった。

生涯を通して敗北者だった彼は、それでもなお、足掻くことを止めずに生き抜いた。

この世界に生まれ落ちて未だに敗北も勝利もしていないぼくだが、たった一度、まさに生前に偶然で空前の糸や意図がジグザグに絡まって得た勝利を覚えている。

「士郎君。甘えてはいけないよ。それは君が受け継いだのかもしれないけど、請け負っちゃいない」

だからだろう。

「切嗣さんは君にそれを求めてはいなかっただろう。引き継いでくれたことに喜びは感じていただろう。でも正義の味方なんてものは、空想の産物さ」

「いー先輩?」

怪訝そうにする士郎君。

そう言えば彼にぼくというものを見せるのは初めてだった。

戯言遣いという存在を。

「君は、君のできることをすればいいだけさ。正義の味方なんてものは相反する敵がいなければ無用の産物。いてもいなくても変わらない存在だよ。だから、甘えるな。そんな空想のものに縋ってはいけないよ」

ぼくは切嗣さんの言葉にしなかった事件に首を突っ込むことにした。

「これも戯言だけどね」

 

 

時間は戻り。

士郎君のように魔術を覚えようともしなかった。

ぼくがそんなものに手を出してもたかが知れている。

この欠陥製品が出来ることは戯言を吐いて周りを散々かき回すだけ。

かつて策師と呼ばれた少女が『無為式』、『なるようにならない最悪』と評したが、全くその通りだ。

前世はそれで散々にかき回したが、巡り巡った今生でもそれは変わらなかったらしい。

 

 

切嗣さんから始まり、いや、その前に始まっていたかもしれない、聖杯戦争の災害に巻き込まれた士郎君、前回の聖杯戦争に参加していたという言峰教会の言峰綺礼神父、そして聖杯戦争に関わる間桐の家。

そして今回の聖杯戦争に望むだろう遠坂凛。

うん。前の世界よりは大人しい方だな。

しかし、これほど関わることになるとは思わなかった。

ぼくは何もしていないのに、ぼくが関心を持つ登場人物とこれほど関わることになった。

全ては切嗣さんを基点にしているように見えるが、これらの出会いは全て偶然で、周りが勝手にぼくを知覚した。認識してしまっただけだ。

ちなみにぼくのことを面白いと評価したのは言峰さんだけだった。

彼もどこか欠落しているようだったが、ぼくに積極的に関わろうとしてきた不思議な人物だった。

 

 

「私は昔、生きる目的を見出せなくてね」

「……懺悔は聞く方では?」

「この身とて、誰かに打ち明けたい話というものがあるのだよ」

道すがら偶然、出会った。

この場合、出遭ったと言うべきか、言峰さんはぼくに歩調を合わせながら歩く。

「君も知っている第四次聖杯戦争でその目的を得るために戦いに身を投じた」

「ああ。切嗣さんと殺し合ったとか」

ぼくはどこでも危険人物に囲まれる運命にあるらしい。

運命。

必然、あるいは因果。

林檎が落ちる。

太陽が明るい。

悲しければ泣く。

生きていれば、死ぬ。

哀川さんは運命をどう表現するだろうか。

既に決定されたもの?ちがうな。

あの人なら捻じ曲げられるに違いない。

文字通り。

「ふむ。確かに最後の最後で直接対決になった。だが、その後は君が知っての通り、彼に殺された」

「でもこうして歩いている」

「どのような因果かは分からないが、こうして立っていることは間違いないな」

「立って、歩けることが生きているとは言わないでしょう。それなら人形にだってできる。奇跡があってそうしているのと、人としてちゃんと生きているのとは話が違います」

「ほう。では君は何を以て生きるとするのかね?」

「それをぼくに問いますか?それこそ戯言だ。人は今日を生きるより明日をより良く生きるために生きる。ただ立ち止まっているのはそれこそ人形。まあ、人形にも価値があるかは別ですがね」

「やはり君は面白いよ。では、君は何故生きているのかね?」

面白いね。

いつか出会った、どういえばいいのか分からない遭遇をした研究家は面白いという人物にとても興味があるようだった。

「あなたも面白い人間が、自分の人生に関わらないと許せないたちですか?さてはて、どうでしょうか。ぼくを生きているといってよいのか。立てば嘘吐き座れば詐欺師、歩く姿は詭道主義。それがこのぼくですから」

「戯言遣い」

「ええ。だからこのやり取りも・・・意味がない」

「君は」

「げぇ!」

ヒキガエルがつぶれたような声をあげたのは僕でも言峰さんでもない。

冬木の土地を魔術的に管理している管理者、凛ちゃんだ。

「やあ。凛ちゃん」

「そのような声をあげるのは感心しないな」

「出来れば会いたくない人間のツートップに会えばそうなるわよ」

「この場合、遭いたくないの方が正しいね」

「相変わらず言っていることは訳が分からないし」

凛ちゃんは本当に嫌なものを見たという様子であった。

「それがぼくというものだからね。言峰さんとはさっき偶然、出遭っただけだよ。ちょっと昔話をしただけさ。人がどうやって生きるのか、あるいは死んでいくのか。迷いに魔酔い、魔が差した。そんなどうでもいい話」

「その手の話にはついて行けないわ。綺礼。あんたは理解できるの?」

「いや?しかし、戯言遣いには我々の感性では理解できない何かを語ることが出来る。それだけは分かっている」

「そんな大層なものではないですよ。ぼくはしがない一般人ですので」

「ただの一般人は聖杯戦争なんて知らないし、魔術師の存在を知ることなんてないのよ」

「じゃあ一般人じゃないね。まあ語り部・・・というのが妥当なところでしょうか?」

「君を語り部と呼ぶには少々役が不足気味だな」

「主人公ではないのでそこらへんのモブがいいのでは?」

「なんの話よ……」

「なんの話でもないよ。これも結局」

戯言なのだから。

凛ちゃんは呆れた様子だった。

 

 

「時間を浪費したわ。いーさんはこれからあまり外に出ない方がいいわよ」

「どうかな。ぼくは夜走るような趣味はないけど。うっかり出回るかもしれない。ああ、言峰さんがぼくに会いに来たのは」

「ご想像にお任せしよう」

「任されました。・・・聖杯戦争が始まるわけですね」

わざわざ言葉に出した。

「そうよ。私は今夜、サーヴァントを召喚する。聖杯戦争は秘匿される魔術師同士の戦いだから基本的に夜に動くのよ。だからいーさんには出ないでほしい。というかかき回してもらいたくないのよ」

どうやら言峰さんも同様らしい。

ぼくという不純物を含んではその戦いにどのような結末をもたらすか観測できない。

言峰さんはこの聖杯戦争の管理者、そして凛ちゃんは土地の管理者。

二度と前回のような災害は起きて欲しくないのかもしれない。

「そうだね。できるだけ夜は出歩かないようにするよ」

「……何故か信用できないのよね。いーさんのその約束」

「嘘つきだからね」

「もう。とにかく!邪魔はしないこと!聖杯戦争の目撃者は秘密裏に処分されるのが普通なのよ?」

「死に向かうのも慣れているよ。でも何故か嫌われていてね。こんなところに来ちゃったんだ」

ようやく死んだと思ったけどねと。

その言葉には言峰さんも凛ちゃんも分からないようだった。

「では、戯言遣い君。私はここでお別れとさせてもらうよ」

「ええ。縁が合ったらまた会いましょう。人生お気をつけて」

ぼくは言峰さんを見送っていった。

 

 

「いーさん。これは真面目な話だからね?」

「ん?ああ。ぼくが死ぬかもしれないんだっけ?」

「分かってない!?」

失礼な。

これでもぼくは分かっているつもりだ。

憶えているか分からないけど。

ぼくはこれより始まる戦いに、特段、なんの感情も抱いてはいなかった。

でも、これが事故ではなく故意の事件であるとしたら、ぼくは関わってしまうだろう。

ぼくの意思に関係なく、周りの思惑に左右されず、既に混沌になっているかもしれない。

主人公もまだ見つけていない。

敵も分からない。いや、ぼくの敵はいない。

「いーさんが死んだら悲しむ人だっているんだから。忠告はちゃんと聞きなさいよ」

凛ちゃんはそう言って去って行った。

残ったのはぼくだけ。

さてさて、誰をどうやって巻き込んでいこうか。

そう言えば凛ちゃんにはお別れの挨拶をしなかったな。

でもいいか。

「それじゃあ戯言と行きましょうか」

 




今回はゆっくり投稿して、短く終わらせる予定です。
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