一人を囲んで棒で殴れば勝てる。
次の日の夜にはとてつもなく嫌そうな顔をした青い鎧のサーヴァントがいましたとさ。
言っておいてなんだけど展開が早いね。
親の仇みたいにぼくを睨みつけているのが分からないけど、とりあえずお話でもしよう。
「えっと?ランサーさん?」
「そうだよ。欠陥製品」
「なんでぼくを敵みたいに見ているんですか?」
「なんでもなにも、この状況にした原因はお前だって言われてるんだよ!」
「それは誤解です。ぼくはそういう方法もあると提示しただけです。それをやったのは魔術師たちだ。関係ないとは言えませんが、あなたに敵視されるほどでもありませんよ」
「どこも間違ってねぇだろ!」
「戯言ですからね。キャスターさん?」
ぼくはこのようにしただろう彼女に話を聞くことにした。
『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』。
マスター権限を奪い取ってしまう宝具で、使いようによっては戦況を一気に変えてしまう程の宝具だ。
イリヤちゃんの目を使ってランサーを捜索。
彼は一般人に上手く紛れているようだったが、やはり外国の人間はどうしても浮いて見える。
後は囲んで警戒をさせたところに宝具の短刀をグサリ。
ちなみに夜ではなく昼の出来事だ。
夜に魔術師の戦いが行われるという秘匿の戦いを逆手にとって、人ごみの中で多くのサーヴァントの気配を表に出しながら、それでキャスターさんの気配を殺す。
後は通り魔よろしくといったところだ。
そこのところはぼくが見ていないので良く分からないが、筆舌しがたい戦いがあったかもしれないし、なかったかもしれない。
何にせよ、それが出来る存在に任せた方が成功しやすいわけだ。
使わない手はない。
やはり彼女を味方にできたのは大きかったな。
「何かしら?」
「彼から情報は聞けましたか?」
「ええ。マスターとその残虐行為をね。令呪を使って聞いたから間違いないわ」
「マスターはともかく、残虐行為?」
その疑問に答えたのはランサーさんだった。
「いけすかねぇ奴だったよ。地下に人間を飼って魔力の供給源としてやがった」
「それは・・・」
ぼくは少しだけ言葉を失った。
「マスターの名前は言峰綺礼。この聖杯戦争を監督する野郎だ」
「それは本当かい?いや、本当だろうね。それにしても言峰さんがそんなことをしていたとは」
「ランサー。その人間たちは今も生きているのか?」
士郎君は真剣な表情で聞いた。
ランサーさんは黙って頷く。
「悪かったけどよ。俺にはどうしようもなかった。令呪をかざされちまっては逆にこっちが死にかねなかった」
「すぐに助けに行こう!」
士郎君は急いているようだが、ぼくは彼を宥める。
「いー先輩!」
「落ち着くんだ。君一人行ったところで助けられるとは限らないだろう」
「じゃあ!」
「こういう時は多くの人間を巻き込むんだ。凛ちゃん。時計塔の魔術協会に連絡を頼むよ。戯言遣いからと言えばすぐに話が通るはずさ」
「何故そっちの方に顔が広いのよ。でも綺礼はそれを上手く隠しているのでしょう?だったら魔術協会は動かないと思うわよ?」
凛ちゃんは魔術師としての意見を言う。
確かにそうだろう。
魔術は秘匿されるものであり、おおっぴらにしなければ魔術協会が動くこともない。
「そこはこの戯言遣いに任せてくれ」
ぼくはそう言って携帯を取り出して電話を掛ける。
「お久しぶりです。はい。ぼくですよ。またとは人聞きの悪い。これでも善良な市民として生活をしているつもりですよ。用件ですか?ああ、言峰教会って知っていますか?あそこで神父をしている男性が、地下で人間に残虐行為を働いているので報告を。・・・嘘ではありませんよ。ぼくがこのような件で嘘をついたことがありますか?人数は分かりませんね。取り敢えず救急車と多くの警官で囲ってしまえばいいんじゃないですか?昔ながらのお前は包囲されているって奴ですよ。では、そういうことで」
ぼくは電話を切る。
あらゆる事件に関わってきたぼくは警察ではちょっとした有名人だ。
こういう時に便利だね。
「いーさん・・・あなたまさか・・・。そんなことをしたら魔術協会に目を付けられかねないわよ!」
「既に目をつけられているけどね。それはいいとして、さて魔術の秘匿が明かされようとしている。ピンチだね。魔術協会も動かざるを得ないだろう。ああ、そうだ。キャスターさんは柳洞寺の人間を避難させておいてほしい。あそこの地下に大聖杯と呼ばれる魔法陣があるからね。万が一のことを考えるとそこに言峰さんが行く可能性がある。護衛にライダーも同行してもらっていいかな。慎二君」
「まあいいよ。詐欺師。もうこれが終わったら魔術もお前にも関わりたくないよ」
そう言い残してライダー・キャスターのグループは立ち去る。
「おいおい。こんな奴相手にしようとしていたのかよ。そこらの魔術師なんかよりよほどたちが悪いじゃねぇか」
「まさにそうなのよ。後、聞かれるかもしれないから今のうちに私が聞いておく。ランサー。あなたは聖杯に願いがあるのかしら?」
「ねぇよ。俺は全力を尽くして戦えれば文句なかった。それが使い走りみたいなことをさせられて辟易していたところだぜ」
「なら良かったわね。なまじ、願いなんて持っていたらそこの詐欺師にどんなふうに解体されたことやら」
「戯言だね。ランサーさん。あなたには悪かったと思っていますよ。でも、あなたのマスターがそのような行為をしていたのなら話が変わってきますね。いつ頃からそれをやっていましたか?」
「キャスターの魂喰いも同じだろうに。まあ俺が召喚されたときには既にやっていたぜ。それに俺の本当のマスターはあいつじゃねぇ。女だ。本来のマスターの腕を奪い取って俺を強引に従えやがった。今、生きているか分からねぇ」
「そうですか。そちらの女性についても手を打っておきましょう。しかし、召喚前からやっていたとなると、あらかじめサーヴァントを奪うことを目的にしていたのか。それは置いておくとして、ランサーさん。あなたはキャスターさんの宝具でこうして縛られていることになった訳ですが、あちらのマスターを裏切りませんか?結果次第ではあなたの全力を尽くしての戦いを用意してもいい」
どうでしょうと語るぼくを、怪しいものを見る目でランサーさんが見返す。
「俺に選択権なんてないんだろうが。だが、いいぜ。奴の思い通りにさせなかったお前さんの戯言を信じてやる」
「ありがとうございます。さて、これで第五次聖杯戦争のサーヴァントたちがこちら側になった訳だ」
「いー兄の言った通りにね。これで勝ち?」
「敵がいなくなった以上は勝ちだね。言峰さんはまあ刑務所で後悔してもらうといいよ。それよりも大聖杯の方で何かを企むかもしれないから、そちらを警戒しないとね」
仮にも前聖杯戦争を生き残った人物なのだ。
警戒するに越したことはないだろう。
「さて、士郎君」
「え?俺?」
「うん。君はこの聖杯戦争でどんな解答をするのか気になってね。君は正義の味方に憧れていただろう?どうだった?人類最弱の請負人は」
「・・・多分、俺じゃあこんなことにはできなかったと思う。でもやっぱり諦めることはできない」
彼ははっきりとぼくに告げた。
「そうか。それもいいだろう。では次にセイバーちゃんの答えを聞こうか」
セイバーちゃんは僅かに迷った視線をぼくへ送る。
未だに諦めがつかないのだろう。
「君は分かっていないだろうけど。国が滅ぶっていうのは、その民草が全員死ぬってわけじゃないんだよ。志が死んでしまうわけではないんだ。だからアーサー王なんていう英雄が出来上がるんだ。人間っていうのは現金なもので、偉大な王が死んでしまったとしても、その時は悲しむけど、生活に支障が出てこなければ誰でもいいんだ。その証拠に、この国なんて為政者が何度も変わっている。ぼくたちはより良い為政者を求めているんじゃない。より良い生き方を求めている。君の申し訳ないと思う気持ちも分かるが、それを言ったところで現実は変わらないよ」
「戯言遣い殿・・・。私は間違っていたのでしょうか?あの時、選定の剣を抜いてしまったのは」
悲痛な表情で問いかけてくる彼女は英雄とは思えない程、弱く見えてしまった。
ぼくがそうしてしまったのだ。
こうなると分かっていた。
だけどね、今のぼくはこれで終わりなんて認めないんだ。
「・・・セイバーちゃん。君はどれくらい人を殺してきた?」
「それは・・・犠牲になったものは数知れない」
「ぼくもだよ。数えきれない人が死んだ。だから、ぼくはそれを最小限に留めたいんだ。騎士の王様。間違っていたかどうかなんて。戯言だろう。君がいなかったとしても、君の代わりがやっただろうさ。そして結末は変わらず。今、ここに僕たちがいるのがいい証拠だろう。もしもあの時こうしていればなんてのはもう終わった話さ。君に出来ることは生きることだ。生きて生きて生きて、精一杯生きて、そして過去に出来なかったことを成し遂げて生き抜くこと。やれないとは言わせないぜ」
「あなたは」
「?」
「あなたは優しい人だ」
「・・・そんなことこそ嘘だよ」
ぼくは、即答できなかった。
「切嗣の希求に偽りはなく。私のやってきたことも事実として残っている。間違っているかいないかなど、私だけが判断するものではなかった。我が生涯に悔いあり。されどもその生に不満なし。ようやくたどり着いた」
彼女は年相応の少女のように微笑んだ。
「私は聖杯に何も望みません。今はただのアルトリアという少女だ」
「なあ欠陥製品」
「何でしょうか。ランサーさん」
「ランサーでいい。お前にさん付けされると怖気が走る。お前さんにはどこら辺までが予想の範囲だ?」
ランサーとぼく、そしてアーチャーさんの三人、庭で魔術の鍛錬をする士郎君とそれを叱る凛ちゃん。それを眺めながら今を生きているイリヤちゃんとセイバーちゃん。
その光景を眺めていた。
平和な光景だ。
切嗣さんの望んだ光景がここにあるのかもしれないと思うのは傲慢だろうか、戯言だろうか。
どちらにしろ変わりなしか。
「予想なんてしていませんでしたね。ぼくはその場しのぎの戯言遣い。彼らがいたからこうなっただけです」
「ハッ。じゃあ何か。お前さんはただ巻き込まれたからその場で煙に巻いて、幸運な結果でサーヴァント全員が裏切ったっていうのか」
「そうとしか言えないでしょう。魔術師でもないただの人間がこんなことを出来るわけがない」
「傑作だな。あの野郎はただの一般人に野望を阻止されたわけだ。今だから言うけどよ。あいつは聖杯を望んでいたぜ」
「それは良かった。一番の不穏分子が警察と魔術師の両方に追われることになった」
「それは君のせいだろう」
「まあ、何かと事件を頻発させていますからね。知ってます?僕って学校では何もしない要注意人物。警察からは未来の大犯罪者って呼ばれているんですよ」
「なんか納得だな」
「的を射ている」
二人からの酷評を受けるが、もはや覆す気もない。
「あの坊主もよくやるぜ。あの時、確実に息の根を止めたと思ったんだが。そんな恐怖を持っても聖杯戦争に立ち向かおうなんてな」
「あれはただの思い上がりだ。正義の味方の行きつく先など見ていない」
「それは追々直していきますよ。こうなった訳だからそろそろ真名を明かしてもいいんじゃないですか?アーチャーさん」
もはや真名など、聖杯戦争自体が覆されているのだから意味を持たない。
「それは凛に聞いてからだな。軽々と口に出してよいものではないからな」
「なるほど。一理ありますね。ランサーは戦ったことがあるんですよね」
「ああ。俺としてはあの坊主が殺されたって聞いて顔色一つ変えないお前の方が気になるんだが」
「今は生きていますからね。ぼくは死体に感慨を抱かない」
「・・・・・・まあいい。そこの弓兵とは斬り合った。弓兵の癖に随分と腕の立つ奴だな」
「なるほど。じゃあクイズです。アーチャーの正体は何でしょうか」
「唐突だな。その口だと、もう答えは知っているようだな」
「さて。推測の範囲ですけど、間違っていないと考えています。ヒント、ぼくがあったことがある」
「それは今の事じゃないよな」
「勿論。この聖杯戦争が始まる前からだ」
「戯言遣い君・・・」
アーチャーさんは渋面を作る。
この反応だと本当に合っているらしい。
「その様子だと欠陥製品の推測はあっていそうだな。だがそれだけじゃあ分からないな」
「ヒントその二。ぼくは記憶力が壊滅的に悪い。昨日会った人物を思い出せないこともある」
「ということは身近な人間になるわけだが、間桐の坊主じゃあないな。知っているぜ。お前さん、あいつのこと忘れていたんだろ」
「見ていたんですか?」
「身を隠すルーン魔術がある。でもそうじゃないとすれば答えは限られてくるわけだ。だが、本当にそうか?俺には違うように思うが」
「雰囲気は違えど、似通っているところはありますよ。アーチャーさんも彼同様、非情になれないところとか」
「ヒントその三って奴か。じゃあ答え合わせだ。せーのでやるか?」
「いいですよ」
ぼくとランサーはせーのと声を合わせる。
「「衛宮士郎」」
「・・・・・・」
「思えばぼくが会った憶えがあると思うところがおかしかった。昨日会った人間を思い出せないのに会ったことがある。不思議ですね。まるで長い間付き合いがあるような感じだ」
「なるほど。どれくらいの付き合いだ?」
「十年ちょっとですかね」
「それなら判断するのに十分なわけだ。それで?答えはどうなんだ?」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべるランサーに、アーチャーさんは居心地の悪そうな表情をした。
「おおよそ当たっていると言っておこうか。違うのは戯言遣い君がいるということだ」
「些細なことでは?」
「ハハハ!こんだけ聖杯戦争をかき回しておいて今更些細な事ときたもんだ!いや、実際お前さんは些細なことだと思っているんだろうよ。一緒にいる俺たちにとっては違うけどな」
ランサーは全くどうしようもねぇと笑った。
「ここは私のいた世界とは違う並行世界だ。私の世界では言峰教会に行った後、帰りにバーサーカーに襲われている」
「その前に僕が裏切らせましたから」
「ライダーとキャスターも生存している。どちらも君のおかげでな」
「キャスターさんはどうしても必要でした。ライダーさんは桜ちゃんの依頼の成り行きで」
「そこだ。間桐桜を救うことが出来なかったのが私の世界で一番の汚点だ。あれほど近くにいたにも関わらず、私は彼女に気が付かなかった。どうして彼女が苦しんでいると分かった?」
「言峰さんから聞いただけですよ」
「はぁ?あの外道から?」
ランサーは驚いたらしい。
「彼は嘘をつきませんからね。人の不幸を楽しむのはどうかと思いますけど、彼はぼくに前回の聖杯戦争を話してくれましたよ。あるいはぼくが破綻してくれることを願っていたのかもしれませんね。既に破綻している人間に何を望んでいるのやら」
「するっていうと、あの野郎は嬢ちゃんが苦しんでいるのが分かっていたと?」
「前回の聖杯戦争では彼は偵察を重きに置いていたらしいですからね。遠坂時臣という同盟者のために。でも結局時臣さんは死に、彼もライダーにサーヴァントをやられて敗退しました。その後もちょっと何かがあったらしいですけど、そこは分からずじまいです」
「なるほどなぁ」
「ぼくの辞書にはすべての言葉が載っている。まさにすべての言葉があった訳だ。愚直に力だけを求めた私ではなく、あらゆる言葉を聞いていた。凛にはあの時一喝されたが、それが王道だった」
「じゃないと赤い人類最強が並行世界を破ってきそうでしたからね。そのために赤い魔術師という代替品まで役を作ったのですから」
「なんだ?その人類最強って」
「ハッピーエンド至上主義で、べたべたな王道展開が大好きな、サーヴァントよりも強いだろう今もなお進化を続ける赤色ですよ」
「それ人間か?」
「ええ。その対極にあるのが人類最弱の請負人。つまりぼくですね」
「是非相手にしてみたいもんだが」
「もしも、ぼくが魔術師だったら真っ先に呼び出したでしょうね。でも残念ながらぼくは詐欺師ですので」
なら無理だとランサーは笑い、ぼくはそうですねと笑わなかった。
「では、士郎君を殺そうとするのはやめてくれますね?」
「そこまでお見通しだったとは」
「あなたに出会ったとき、ぼくはあなたがその振る舞いとは逆にすり減った、諦めのようなものを持っていると感じました。記憶が曖昧でも、その生き方は体に染み付いていたみたいですね。それでもやるしかなかったからやった。そんな機械のような印象でした。そして、士郎君への時折見せる敵意や殺気。いわゆるタイムパラドックスを望んだ。全ては推測に過ぎませんが、士郎君がそうするだろうということくらい、十年も関わってくれば分かる。逆算ですね。今の士郎君からあなたの生き様を推測した。おおよそはあっていると思いますが」
「ああ。私は何も考えずただひたすらに突き進み続けた。その末に私が望んだものはなかった。今は全て思い出している。私は最終的に殺すことでしか世界を救えなくなった」
「そうですか。知っていますか?僕ってたくさんの人を死なせているんですよ?」
「ああ。初対面の時に衝動的に殺しそうになった。世界の抑止力という奴なのかもしれないが、できなかった。均衡を保つ上で必要と判断されたのかもしれない」
「ぼくにそんな力があると勘違いしただけですね。世界も思った以上に盲目なんだ」
「どうやらそうらしい」
「士郎君」
「何だね?」
「君に幸あれ。ぼくの呪いだ」
「・・・しかと受け取った」
そう言って返したアーチャーさんの笑みは、やはり士郎君に似ていた。
物語は大詰め、まさか言峰さんが大人しくしているとはぼくも思っていない。
なんかしらの策を用意しているのだろう。
望むところではないが、ここはひとつ、正義の味方にでもなってみようか。
さあ、戯言の始まりだ。
まさに困窮、極まって急な展開になりました。
一体、どこから物語の歯車が狂い始めていたのでしょうか。