ザレゴトマジシャン   作:hetimasp

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令呪をもって命ずる。

蹂躙せよ。ただ蹂躙せよ。理不尽に蹂躙せよ。

後ろには戯言遣いと赤い魔術師がいる。

何の気兼ねもいらない。

蹂躙せよ。


11 異常終了

「これも君の作戦通りという訳か。戯言遣い君」

ぼくは今、柳洞寺にいた。

そこに人気はなく、いるのはぼくと今回の聖杯戦争のサーヴァントたちと一部のマスター。

言峰さんはぼくを待ち構えていたように立って、笑みを浮かべていた。

「作戦なんて立てていませんよ。全部成り行きでここまで来てしまっただけです。ああ、いうなら留守番の延長です。士郎君がマスターにならなければこんなことにならなかったかもしれない。あの時にイリヤちゃんと出会わなければ関わらなかったかもしれない。全部かもしれないってだけでここへ来てしまっただけです。今日、ここへ来たのもやっぱり決着をつけなくちゃいけないと思いましてね」

「私は、君が目的を持って動いているように見えたが」

「そんな大層なものを持つ人間に見えますかね。ぼくはただそこにいるだけですよ。でも、どうしてか、こういう風に対立しちゃいましたね。ぼくが聖杯へ願いを持つことも無いのに物語の中心に鎮座して、必要もないのに辺りをかき回す。まあそれがぼくなので仕方がないですけど」

言峰さんは笑った。

「だから君は面白い。君が居るだけで物語は狂い、周りの人間が落ち着かなくなる。かくいう私も我慢するのに必死だった。いや、それこそ狂っていたのだろう。さっさと君を殺せばよかった。だが、聖杯の選定者として何故か君を勘定に入れていた。いくら娯楽のためとはいえ、少々過ぎてしまった」

「ああ、なるほど。あなたは娯楽のために参加していたんですね」

「分からなかったか?」

言峰さんがマスターとして参加しているときに分からなかった理由の一つだ。

何のために聖杯を欲しているのか。

彼には穢れた聖杯であると分かっていたはずなのに。

つまり、彼は人の不幸を楽しむ悪癖を拗らせてしまったのだ。

何ともまあ、戯言だ。

「ええ。あなたの目的が分からなかった。ランサーからは聖杯を欲していると聞いていましたが、どんな願いがあるかは分からなかった。疑問が解決しました」

「それは良かった」

そんなやり取りをするぼくらは酷く不自然だっただろう。

皆、困惑していただろう。

「そいつが全てを狂わせたという雑種か」

「!」

それはやってきた。

 

 

それはまさに強大であった。

それはまさに傲岸不遜であった。

それはまさに王であった。

 

 

「紹介しよう。彼は前回の聖杯戦争で私のパートナーだった英霊。アーチャーだ」

「何故!貴様が生きている!」

ぼくは片手を上げセイバーちゃんを止める。

「戯言遣い殿!?」

「まあ何かしら用意しているとは思っていたけど、予想外が続くとやっぱり飽きてくる。ちなみにお名前を聞いても?」

「王たる我に問を投げるか。雑種」

「戯言遣いですので。しかしまあ雑種とは言い得て妙だ。ありとあらゆる欠陥を内包するぼくはまさに雑種だろう。それにぼくは記憶力が壊滅的なんだ。言峰さん。彼は?」

「私が言うのはアーチャーだということだけだが?」

「こうして見ると不快な存在だ。が、しかし、それでいてこの世から浮いている。いや、だからこそ浮いているのか。不快なくせに中々愉しませる」

「誰もがぼくを見ている。誰もがぼくを見ていない。ぼくはピエロが役目なので」

「道化か。なるほど。それにしては随分と不遜な道化だ」

「いえいえ、ぼく程度が不遜なんて。あの赤い彼女を見ていないからそう言えるのですよ。と、それより前回の聖杯戦争のサーヴァントとの話ですが、何故、生きているので?」

「フン。まあよい。前座として話してやろう。我はセイバーが聖杯を破壊した後、聖杯の泥を浴びたのだ」

「切嗣さんは相当な呪いだと言っていましたが?」

「我を雑種と同じに見るな。道化。あの程度の呪い。飲み干せなくて何が英雄か。だが、なんの因果か、それを浴びてから受肉した。再びこの世に君臨するためにな」

「この世に君臨ね。既に死んだ人間が良くもまあ」

「笑わせる。だが、道化。我には分かるぞ。その身に数奇な呪いとも祝福とも言えぬ不可思議を秘めていることを。綺礼より絶対に接触するなと言われた意味が良く分かる。そのようなものを持ちながらよく生きているものだ」

ちょっと予想外だった。

ぼくという人間を観測できる存在がまだいるとは。

だからと言って変わることも無いんだけどね。

だから、戯言なんだよ。

「ぼくに意味を持たせるなんて戯言ですからね」

「無意味を持つ人間故にそれもまた無意味。フハハ。余興としては中々のものであった」

王は笑って見せた。

「そういえば自己紹介の続きでしたね。まあ自己紹介は先にするのが礼儀だし、ぼくから名乗るとしよう」

ぼくはアーチャーに向けて名乗った。

それは彼の耳にも届いただろう。

そしてそれは

 

 

「××××××。その不遜さ。我自ら砕いて見せよう」

 

 

「っ!アーチャー!」

それはとても迂闊で不用意で不用心で軽はずみな致命的で致命傷で決定的な決定打で曖昧だったはずのそれが唐突に忽然と、しかし、前からあったかのように彼を蝕む。

「残念です。あなたの意図はここで切れました」

かつてぼくに指向性を持ったらどうなるか分からない、目的を持った時が恐ろしく、しかし期待していると言った赤色がいた。

その結果はどうだった?

もう散々だ。

勝手に乞われ、請われ、壊れてしまうといい。

こんなことはやはり柄ではない。

柄ではないが、適役だった。

そろそろバトンタッチだ。

「So as I pray, UNLIMITED BLADE WORKS」

果てなき荒野に無数の剣が突き刺さっている心象風景。

赤き魔術師のサーヴァントの宝具の具現。

彼の生きた世界の果て。

「時間稼ぎか。それにしてもやってくれたな。戯言遣い」

言峰神父は険しい視線をぼくへと送ってくる。

「一度は見てみたいものでしょう。正義の味方。それがここにいる。士郎君の行く末はぼくが見守らせてもらう。あなた程度にぼくの敵は務まらない。死人はさっさとこの世からいなくなってしまうといい」

ぼくはそう言って彼らに背を向ける。

当然、攻撃をしてくるが、それはバーサーカーとセイバーちゃん、アサシンさんにランサーが切り払う。

「よもや、このような形で再会しようとは、あの時は微塵も思わなかったぞ。セイバー」

「私こそ。だが、あなたと肩を並べられることを光栄に思う」

「そうだな。何があるか分からねぇのは世界のいいところだぜ」

 

 

ぼくは戦う彼らを背にしながら、アーチャーさんに対面する。

「どうです?正義の味方って奴は」

それに対して彼は皮肉気味に笑った。

「悪魔でさえひれ伏すよ。改めて憧れてしまった」

「それは重畳。では御武運を?」

「何故疑問形なんだね」

「ぼくにしてみればもう終わった人間の話ですよ。決着がついているんです。そこにちょっとだけ駄目押しをした。結果が分かっているのに祈りを捧げるのは邪魔以外の何物でもないでしょう」

「最後の最後で君の本気という奴を見たわけだ。では行くとする」

「行ってらっしゃい。正義の味方」

「行ってきます。正義の味方」

アーチャーさんは剣の荒野を駆け抜ける。

ライダーさんはその目に隠された魔眼で相手の動きを縛る。

キャスターさんは的確な援護で前衛を補佐する。

相手はたった二人。

それでも拮抗させているのはあの金色のアーチャーの力が強大なおかげだろう。

剣やら槍やら無節操に放ちまくる。

それでも彼らは止まらない。

止められるものか。

彼らはぼくと違い、皆、名を馳せた英雄なのだ。

 

 

「これにてお終い。お疲れ様。赤い魔術師」

「現在進行形で戦いが続いているのはつっこむべき?」

「さてね。無意味の延長じゃないかな?」

「でもさ。いー先輩の名前って」

「あんまり触れない方がいいぜ。詐欺師は詐欺師だ。触れないことの方がいいことがある。それが普通でも異常でも変わりないんだからよ」

「慎二君は戯言みたいなことを言うね。だが、その通りだよ。そしてこれが君の目指す生き方でもある。正義の味方なんてものは空想の産物って言ったけど。実はぼく、正義の味方だったんだ」

あの日、切嗣さんがぼくに士郎君を任せた理由。

それは別に消去法でも何でもなかった。

彼が憧れた正義の味方。そいつが目の前に立っていたから任せることにした。

「勧善懲悪の物語ではないけど、それなりにやって見せた。衛宮家二代にわたる願望の果てだよ」

「難易度が高いよ。いー兄」

「それでもできてしまったんだ。ぼくが目的を持った場合、まあこんな風になるよ」

振り返ってみれば先ほどの拮抗も崩れ、徐々に金色のアーチャーが追い詰められていっている。

とっておきを使いたいが何故か使えないという感じだ。

いや、語弊があるな。

使えるが使えない状況になったというべきか。

「あれはいーさんのせい?」

金色のアーチャーはぼくを見ている。

必要もないのに。

だからそんな隙を見せてしまうのだ。

それを見逃す英雄たちではないだろうに。

「さあ?でも言っただろう。ぼくの名前を呼んでまともに生きている人間はいない。サーヴァントも同じだったわけじゃないかな」

「詐欺師の次は呪術師か」

「大して変わらないだろう」

「それもそうか」

慎二君は諦めたように、いや悟ったような感じだ。

 

 

「ところで聞きたいんだけど。いいかしら?」

戦況を油断なく見渡しながら凛ちゃんはぼくに聞いてくる。

「どうぞ」

「実は最後にサーヴァントが出てくるって、いーさんは予想していたんじゃない?」

「・・・種明かしか。ぼくがあらゆる事件に関与しているのは知っているだろう?」

「ええ」

「じゃああらゆる事件をぼくが解決していたのは?」

「はぁ!?」

ぼくは窃盗から殺人、自殺まであらゆる事件をこの世界で関わった。

それは監視していた凛ちゃんも分かっていただろう。

しかし、その事件をぼくが解決していたかまでは良く分かっていなかったらしい。

それは、彼女が生粋の魔術師だという点がぼくを観測するうえで邪魔をしていた。

一般人はぼくを死んだ人間の目をした人間。ドロドロに煮詰めた墨汁のような瞳。一目でわかる異常者。等々様々な呼び名で呼んでいるが、それでもぼくを請負人として認識できていた。

綾子ちゃんはぼくを有名人と呼び、一般人の側面を持つ慎二君は請け負ってくれたら何でも解決する万能者と呼んだ。

凛ちゃんはぼくをただ厄介な人間と見ていたのは、魔術師としての閉鎖的な思考が彼女の視野を狭めていたからに他ならない。

「人類最弱の請負人。その名前は伊達で名乗っているわけじゃないよ。一度請け負えば立ちどころに事件が解決。といえば聞こえはいいけど、ぼくがいれば相手が勝手に墓穴を掘ってくれる。だからなにも偉そうなことは言えないけどね。言っただろう?僕は名探偵と呼ばれていたこともあるって。君はぼくに集中するあまり、他の情報を取ろうとしなかったね」

「まあそれはいいとして、いや、良くないけど。とにかく、あのサーヴァントとなんの関係があるのよ」

「警察を舐めちゃいけないよ。それに、前回の聖杯戦争で時臣さんはアーチャーのサーヴァントを呼び出していることが分かっている。これは知っていたかな?」

「・・・知らなかった」

「随分と無防備に戦いを挑んだわけだ」

「うるさいわね!こっちとしても色々準備があったし、何よりいーさんがいたから」

「悪かったよ。これは前回の聖杯戦争の関係者、つまり切嗣さんから聞いた。彼はアーチャーを時臣さんが呼んだと推測しているし、間違いないだろう」

「でも今あそこにいるのは綺礼のアーチャーでしょ?」

「ああ。ここで警察の記録が手掛かりになってくる。ぼくは立場上、入れない場所に入れるまでの信用を勝ち取っていたわけだ」

「・・・あの暴露電話」

凛ちゃんは苦虫を五、六百匹ほど噛みつぶしてしまったような何とも言えない顔をしていた。

まあ魔術を暴こうとしたわけだから気持ちは分かるけど。

「それくらいには事件に巻き込まれたし、解決もした。その時に記録を漁ったんだ。順を追って話そう。まず第一に脱落したのはキャスター。次にアサシン。その次はランサー。この後は前後するけど、バーサーカーとライダーが倒れた。残ったのはアーチャーとセイバー。でもそうなるとおかしい点が出てくる」

「今話したのはじいさんの話だろ。事実じゃないのか?」

「いや。事実だ。だけど警察の記録を見ると、時臣さんが亡くなった時期とアーチャーが生き残っている時期がズレるんだよ。時臣さんはアーチャーよりも先に倒れてしまった。これが警察の調書だ。でも、切嗣さんの話ではアーチャーは最後まで生き残っていた。奇妙なことに今回、サーヴァントを奪った人間がいるね」

「・・・まさか」

「言峰綺礼。彼がどうやったのかは分からないが、時臣さんのサーヴァントを受け継いだのか奪い取った。そしてアーチャーの最期を見た人間は存在しない。疑うなって方がおかしいだろう?」

だからこうしてサーヴァント勢ぞろいさせて彼を殺しにかかった訳だ。

「未来の大犯罪者ね。確かにそうだわ」

「そうなる前にぼくは請負人になった。そっちの役はまた別の人がなるだろう」

これにて戯言終了。

同時にあまりにも眩しい光が辺りを包んだ。

今までの戦いが呆気ない程、圧倒的な力が振りかざされる。

過去と同様に振るう剣と今を生きる人間が振るう剣。

結果、今を生きた少女が終止符を打った。

 




これで異常は終了。

残るのはちょっと物騒な平穏のみ。

そして戯言遣いの目的のみ。

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