ザレゴトマジシャン   作:hetimasp

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表向き


12 世は全てこともなし

金色のアーチャーとマスター、言峰綺礼は死んだ。

言峰綺礼は殺人、虐待、拉致諸々の罪で指名手配されていたが、跡形もなく死んだ以上、事件は迷宮入りすることは間違いない。

その件でぼくは警察からこってりと絞られたが、ぼくが彼は死んだと言うと何故か納得された。

おかしいだろ。

とはいえ、ぼくに殺人をした証拠もない以上、警察も縛っておくことが出来ない。

ぼくはすぐとは言えないけど釈放された。

そこで待っていたのは士郎君だった。

「いー先輩!助けてくれ!」

「どうしたんだい?昨日ようやく決着がついたところだろう?」

「いや、ランサーだったりアサシンだったり、とにかく今、家にいるんだけど、藤ねぇに見つかってさ。取り敢えずいー先輩の関係者だってことにしておいたから」

この後輩はぼくに全部面倒を投げていきやがった。

「まあそれくらいなら知り合いで納得してくれるだろう。セイバーちゃんも切嗣さんの知り合いにしたんだろう?」

「それはそうだけど、イリヤの方はどう話したらいいか」

ああ、そういえば彼女は切嗣さんの娘だった。

確かに士郎君が話をするとやや拗れそうだし、仕方がない。ぼくが行くとしよう。

今は丁度ご飯時だ。

ついでにご飯も頂くとしよう。

 

 

「えー!イリヤちゃんが切嗣さんの娘ぇ!」

「そうですよ。ドロドロの事情がありますけど、聞きますか?藤村先生の精神衛生上、悪い話しかないですけど」

「う。聞きたいけど聞きたくないような。いっくんの意地悪!ああ。まさか切嗣さんが結婚していたなんて」

まあ正直打ち明ければ大したことはなかった。

この居間には多くの存在が入っている。

まずは何故かいるランサー。

彼は消滅するまではセイバーやアサシン等と斬り合うらしい。

今までできなかった全力の戦いが出来て嬉しいらしい。

今は住む場所がないため衛宮家に居候している。

同じく凛ちゃん。

全てが終わった今でも士郎君の魔術の師匠として居座っている。

詳しいことは知らないが、士郎君の魔術は異質だったという。

セイバーちゃんはもはや公然としている。

まあこれは士郎君の説得のおかげだ。

別世界の士郎君ことアーチャーもその輪に入っている。

剣で覆われた荒野を心に宿す彼に、少しでも平穏を享受してほしいとぼくは思っている。

 

 

「ねえねえ。いっくん。あのランサーさんとか佐々木さんっていっくんの知り合いでしょう?どういう関係?」

「大した関係ではありませんよ。殺人事件に巻き込まれた仲ですかね」

「大したことあるよ!それって大したことあるよ!?」

大事なことなので二回言われた。

「でもいっくんならありえそうだよね。なんだかんだ事件に首つっこんでるし」

それで納得された。

納得いかない。

「あの、藤村先生。それって結構有名だったりしますか?」

「そうよ。遠坂さん。いっくんは犯罪に巻き込まれること前提で生まれてきたのよ。うちの組でもいっくんの事を知らない人はいないし、警察もよく学校に尋ねてくるよ?」

「へ、へえ・・・それは何というか・・・すごいですね・・・」

凛ちゃんの笑みが引きつっていたのは見間違いではないだろう。

「おい欠陥製品。お前、この平和な時代にどんだけのことをしてんだ?」

ランサーが小声で訪ねてくる。

「ここにいる人間の両手両足の指を足しても足りないと思いますよ」

「うぇ。時代が時代ならお前も英雄だな。ある意味」

「さあどうでしょう」

曖昧に答えておいた。

「遠坂さんは知らないの?士郎とは別種だけど、頼めばおおよそ解決する万能な人間よ。生徒のカウンセリングは取りあえず任せておけば間違いないし、いじめ問題もあったのになかったことにできるんだから」

いじめ問題はなかったことにしちゃだめだろう、ぼく。

「遠坂さんも困ったら士郎かいっくんに頼めばいいわよ!」

「今度からそうします・・・」

元気よく言う藤村先生に、凛ちゃんは諦め気味に頷くのであった。

 

 

藤村先生が帰った後、今回の聖杯戦争に参加している存在がほとんど集結した。

桜ちゃんは入院中のため不在だったが、慎二君がいる。

「じゃあ今度こそ全部説明してもらうわよ」

音頭を取ったのは凛ちゃんだった。

「まずは聖杯戦争についての説明からがいいかな?」

「それは別にもういいんじゃないの?」

「凛ちゃんはそうでも、なんでこんな面倒なシステムが必要なんだ?」

「それは・・・」

「わざわざ七つのクラスなんて用意しないで、各々好きなサーヴァントを呼べるようにすればいいじゃないか」

「むう・・・」

「大体、魔術は秘匿するなんて言いながら公共の場所で戦ったりするんだ。秘匿も何もないだろう」

「・・・降参。特に考えていなかった」

両手を上げて赤面する凛ちゃん。

この聖杯戦争というものは合理的ではないのだ。

「これはぼくが思うに、ただの化かし合いじゃないかな?」

始まりの御三家が始めたという聖杯戦争。

詳しい資料などはないため推測の域を出ることはないが、第一回目で成功しなかったというのにも理由はあるだろう。

いわゆる人の欲望という奴だ。

「聖杯自体はあったんだろうね。でも、それを欲しがる人間はたくさんいたわけだ。そのための選別という訳だけど、それなら一人でやった方がいいだろう。誰にも邪魔されないのだから」

「聖杯にはサーヴァントの魂が必要になるわ」

「それが機能するのは少なくとも五体必要。これは前聖杯戦争の切嗣さんの証言から推測できる。決戦はセイバーちゃんとアーチャーだった。そして召喚する人間の魔力もそれなりに持っていくから人数も必要。不備ばかりだね」

「実はね。いー兄。聖杯戦争って一回目は成功したんだよ。令呪も無くてサーヴァントが暴れまわったりしたけど。でも、願いは一組だけしか叶えられないって分かって御三家で揉めたの」

「結果、聖杯は消滅しました。ってとこか」

ランサーは呆れた様子で言った。

実に人間らしい結末だ。

「以後、ルール制定ってところかな。人間らしいね。問題が起きた後に対策をする。それで御三家の役割は?イリヤちゃんが実は聖杯の器だってことは知っていたけど、遠坂家は?間桐家は?」

「遠坂家の役割って言うと、霊地の管理かしら。聖杯戦争はこの地、柳洞寺の地下にある大聖杯の魔法陣が元だから」

「なるほど。じゃあ探求者の慎二君。君は間桐家の役割を知っているかな?」

「ああ。サーヴァントや令呪のシステムを考案した」

「こうして聞くと遠坂家だけ何だか労務量が多すぎやしないか?霊地の管理と言えば聞こえはいいけど、その他諸々の整備をしなければならない。対してイリヤちゃんの家は聖杯の器を差し出せばいいだけ。間桐家に至ってはほぼ何もしないに等しい。そうして外来組四組にも隙を与えてしまいましたと」

聞いて見れば大失敗も甚だしい。

 

 

「じゃあ聖杯が穢れたのはいつ頃だろうか。少なくとも第四次では穢れが見つかっていた。ということはそれ以前になるわけだ」

「それは分からない。でも、もしかしたらアインツベルンのせいかも」

「ん?」

「アインツベルンは第三次の時に別のクラス、アヴェンジャーを呼び出した。でもすぐにやられちゃって、聖杯も壊れて終わりになったの」

「そのサーヴァントの名前は?」

「アンリマユ」

誰だそいつは。

「・・・分かる人は?」

「いーさんはその手の話になると途端に弱くなるわよね。確かゾロアスター教の悪神だったはずよ」

「神様か。でもイリヤちゃんの話を聞く限りでは簡単にやられてしまったみたいだけど」

「それは私たちが思った形で召喚されなかったから。現れたのはただの悪を背負わされた人間。言ってみればいー兄みたいな人を戦場に放り込んだの」

「ああ。それなら聖杯も穢れるな」

本当にぼくをなんだとおもっているんだ。

「ぼくが云々は置いておいて、そんな経緯があった訳だ。切嗣さんが第四次で見たのは本当らしいね」

「らしいって。いーさんは自信満々に聖杯は穢れているって言っていなかった?」

「うん。でも、ぼくは聖杯が何なのか見てもいないし、切嗣さんは嘘をついているようにも見えなかったからね。都合のいいように解釈させてもらったよ」

「おいおい。じゃあ今まで多分そうだろうであちこちを騙していたわけか?」

「最悪そうなったら困るからの方が正しいかな」

「詐欺師って呼ばれるわけだ」

ランサーは大きくため息をついて見せた。

「多分、もう初めの頃みたいに純粋に魔術儀式をするつもりもなくなったんだろうね。聞くところによると五十年くらいの周期で行われていたらしいじゃないか。今回のは前回の魔力が残っていたから早まってしまったとしても、少なくても二百年は時間を超えている。初めの頃の思想なんてだれも憶えてられないだろう」

「・・・まあ、ね」

「聞いて見れば二百年以上にわたる大失敗だってことが分かっただけ。聖杯戦争の概要はこれくらいでいいか。それじゃあイリヤちゃん」

「なに?」

「このままだと君は穢れた聖杯に呑まれてしまうかもしれない。それは切嗣さんの依頼によって許容できることじゃない。君は既に士郎君の家族だ。幸せにならなくちゃいけない。だからよく聞いておくれ」

切嗣さんの本懐。

半ばまでとはいえ、このぼくが果たして見せよう。

「君は決して自分を見失ってはいけない。士郎君の姉として、切嗣さんが命を懸けて取り戻そうとした娘として。あらゆる邪悪を君が呑み込むんだ。それでも無理ならぼくに頼れ。この世の不条理を味わい尽くした戯言遣い。君が思っているほどやわじゃない。いいか、君は一人ではない。君を想う人間はここにいる。だから君に、聖杯の呪いよりも邪悪な呪いをここに紡ごう」

ぼくは一拍置いてイリヤちゃんの目を見た。

「ぼくは君を大切に想っている」

 

 

「ヒュー。気障なセリフを良く吐けるもんだ。だが、確かに呪いっちゃ呪いだな。お前を放したくない。鎖でつながれるような言葉だ」

「ぼくにも大切はたくさんあるけど、極少数の人間にしかそんなことは言いませんよ。それ以上の特別もある。それは青を失ったサヴァンだったり、助かった橙色だったり。そんな奴らがいるからこそ、ぼくはどんなことだってやってのける」

「請負人さんは人を平気で騙すのに、人を一番真摯に想っていたということね」

「そんな大層なことではありません。当たり前の事なんですよ。誰もがそれに目を向けなかったからぼくが目を向けさせただけ。誰もが無理だなんて戯言を言ったからやって見せただけ。結果はこの通り。ぼくもこれでいてハッピーエンドが大好きでしてね。あらゆる蟠りにNOと言ってやるのが大好きなんです」

「・・・いー兄は私が大切なの?」

ぼくの言葉を受けて黙っていたイリヤちゃんが静かに聞いてきた。

「大切だ」

「私のこと好き?」

「好きだ」

「大好き?」

「・・・それは済まないが譲れない」

「・・・何で?」

「君はぼくがいなくなったら悲しんでくれるだろう。だけどね。大好きな存在は、ぼくがいなくなったら地球を破壊すると言った彼女がいる。いなくなったらもう誰もいらない。跡形もなく壊す。全部消し炭残らず殺す。そう言ってくれた彼女がいる。ぼくは彼女を裏切らない。この世界にいなくても、決して裏切らない。だから、大好きは譲れない」

それがぼくの決意だ。

意味がなかろうが戯言だろうと絶対だ。

そんなぼくを見て、イリヤちゃんは少しだけ寂しそうな表情を浮かべた後、微笑んだ。

「そっか。仕方がないね」

「そうだよ。仕方がないんだ」

「いー兄」

「何だい?」

「私も好きだよ」

ああ、よかったよ。

 

 

「いーさんはそうして人を助けるのね。セイバーの救済だったり、間桐家の闇を払ったり、果てには聖杯戦争に宿る呪いすらも超越するっていうの?いーさんは」

「それだけで納得するものか。ランサーの戦いたいって願いだって今なら何の遠慮もいらずに叶えられる。小次郎さんもその刀を存分に振るいたいとも言っていた。葛木先生の停滞もキャスターさんが動かしてくれると信じている。やりたいことがいっぱいで脳の許容量がオーバーしている。赤い魔術師。君はこれからぼくに関わる多くに遭遇するだろうね」

「出来ればお断りしたいけど」

「さてね。そこは縁が合ったらといったところかな」

ぼくは赤い魔術師にそう告げた。

 

 

「はぁ。それじゃ今度はこちらの番で良いわね?取り敢えず、いーさんは切嗣さんから聖杯戦争を教えてもらったの?」

「そうだよ。あと言峰さん。二つの視点を合わせてみると前回の様子が良く分かったよ」

「それで?いーさんは結局何をしたかったわけ?」

「もうすでに答えは出ているだろう?この状態を作りたかった。サーヴァントはサーヴァントで、人間は人間で、話し合って全てを解決。最後は残念だけど言峰さんと金色のアーチャーには死んでもらった。まだ君たちに話していなかったけど、言峰さんはもう死んでいるんだよ。十年前にね。だからあるべき場所に行ってもらうことにした」

「・・・・・・結果、言峰より邪悪な人間が残った訳ね」

「どうだかな」

「じゃあ欠陥製品。一つ質問だ。お前さん、初めから遠坂のお嬢ちゃんに面倒を押し付けるつもりだっただろ」

「何ですって?」

「いやさ。こいつが考えるに、一番初めに仲間に入れておきたいのは御三家の、それも管理者なんて肩書がついている奴が一番だと考えそうだったからな」

「概ねランサーの言う通りですね。御三家の発言力というよりはその知識が欲しかった。そういう意味では初めにイリヤちゃんをこちらに引き込めたのは幸先が良かったよ。魔術師としても優秀だったからそのまま前面に出そうとも思っていた」

「そうしなかったのは何でかしら?」

「やっぱり赤色がいないと話が始まらないと思ってね」

「・・・聞きたかったのですが」

「ライダーさん?」

「その赤というものは戯言遣いさんの中ではどのようなものなのかと。随分と執心されているので」

赤色が特別な理由なんて、あの人しかいないだろう。

「ぼくの前世。こちらで言う並行世界の赤色の人ですよ。人類最強の請負人、赤き征裁、死色の真紅。まあ色々呼ばれていますけど、名前は哀川潤。多分、会えば分かりますよ。真っ赤な人なので」

「話によるとサーヴァントを薙ぎ払うくらいはしそうだって言っていたのは?」

「あの人ならやりかねない。というか、今、この瞬間にでも世界の壁を突き破ってきても驚かない。面白そうなことが大好きで、よく首を突っ込んでいたからね。ぼくも振り回されたりしたよ」

「すっごい気になる。その前世」

「一番振り回されたのは、やっぱり暗殺者育成所みたいなところに事前情報ほとんどなしで放り込まれたことかな」

「・・・生きて帰ってきたのね」

「当時のぼくは今みたいではなかったからしょっちゅう病院で目覚めることが多かったよ」

「前に聞いた誕生パーティの話は?」

「本当だね。最後は犯人の遺志を継いだ犯人の心を壊して終了。昔はえげつなかった」

「今もえげつないけど、人の心って壊そうとできるものなの?」

「セイバーちゃんにでも聞いて見ればいい。もっともあの時みたいに壊そうと思ったわけじゃないけど」

「サーヴァントの心を破壊できるのかよ。欠陥製品」

「ああ。だからその逆もまたできるわけだ。請負人である今ならね」

「そんなのが坊主に付きっ切りだったとは。でも坊主を殺した時はいなかったな」

それが今回唯一の失敗だ。

「その辺の事情は凛ちゃんが説明済みか。それは結局どうなのか分からないね。ぼくは失敗した。でも士郎君は生きている。どうしてだい?士郎君」

「いや。俺に聞かれても」

「ああごめん。アーチャーさんの方」

「へ?」

「ん?」

「は?」

みんな面白いような表情を浮かべている。

アーチャーさんは困ったような表情をする。

なるほど、哀川さんのからかう気持ちが良く分かる。

「こいつが衛宮君?」

「そうだよ。彼は衛宮士郎。並行世界の士郎君。君ならばどのようにして生き返ったか分かるのでは?聞くところによると凛ちゃんと士郎君は会うべくしてあったみたいだけど」

「・・・ひっかけだな」

バレたか。

「いや、確かに知っている。というより凛と同行して分かったことだ。私を蘇生させたのは私ではない。凛だ」

「それは予想外だ。正義の味方に憧れている士郎君なら蘇生術の一つや二つ憶えていそうだったけど」

「いや。戦うことでしか何も為せなかった」

そう言って彼は凛ちゃんに視線を向ける。

「悪かった。この世界の君に言うことではなかったが、君の言うことを聞いておくとよかったよ。それでも今は後悔していないが」

 

 

「最後にサプライズがあったものね。確かに衛宮君を助けたのは私。その時の彼は聖杯戦争に関係のない第三者だったから」

「その様子を見ると、蘇生したのに安心してうっかり帰った。そして再びランサーが殺しに行くだろうと分かって慌てて士郎君の家に行った」

「・・・そうよ。まさか衛宮君がセイバーを召喚しているとは思ってもいなかったけど」

「ぼくもランサーに殺されているとは思いもよらなかった。その時は別のところで話をしていたからね」

「私とね。いー兄はもしもランサーがお兄ちゃんを殺そうとしている場面に出会ったらどうしてたの?」

「実はぼくとランサーは相性が悪いんだ。話を聞く人、聞かない人。まあそれでも必要なら不幸になってもらう他なかったね」

「具体的に言うと?」

「ぼくの名前を呼んでもらう。多分条件反射で呼び返すんじゃないかな。騎士の名乗り合い見たいな感じで」

「あの金色のアーチャーが本気を出せていなかったのはそのせいですか?」

セイバーちゃんは戦っているときに疑問を抱いたのだろう。

それはぼくたちから見ても分かるくらいにアーチャーは焦っていたから。

「それは分からないね。でも、ぼくの名前を呼んでまともに生きている人間はいないんだ。金色のアーチャーに何かあったように、ランサーに何らかの影響があってもおかしくない」

「おっかねぇ。ちなみに殺してそのままだったら?」

「ぼくも鬼じゃないよ。それに死体に何の感慨も持たない。でも、言峰さんのサーヴァント相手だったらどうだったろうね。思い余って殺すように、勢い余って何かしてもおかしくないだろう?」

「全く笑えねぇ」

「戯言だからね。そういう意味では凛ちゃんのファインプレーに助けられたわけだ。感謝するよ。一回だけなら何かを無料で請け負ってもいい」

「こっちは遠坂家数代の魔力を消費した大魔術だったんだけど。まあいーさんに恩を売っておけたと考えればいいとするわ」

「遠坂に助けられたんだな。助かったよ。結局いい奴じゃないか」

士郎君の言葉に凛ちゃんは顔を赤くする。

彼女は咳ばらいをしてその場を仕切りなおすと、ぼくの方へ向き直る。

「これからが重要。ここまではいーさんを中心にして動いていたわけだけど、これからどうする訳?」

「別に」

「はい?」

「ぼくはもう何もしない。それぞれが今の時代を謳歌して、そして心残りなく消え去ればいい。ああ、でも聖杯は破壊してもらうよ。そこら辺の手筈は専門家にお願いする。もちろんぼくも立ち合いはするけど。よろしくね。凛ちゃん」

「ちょ、ちょっと待った!ここまで来て全部放り投げていくの!?」

「ぼくにできることもなくなったからね」

「いーさんはこれからどうするのよ!?」

これもほんの焼きまわし。

だからこう答えるのが一番だろう。

「家に帰るんだ」

 

 

その後、ぼくは赤い魔術師に全てを押し付け、聖杯を破壊する最後を見届けた後、日常に戻った。

その間にランサーとアサシンは十二分に生を謳歌していった。

おかげでその処理をやることになったと凛ちゃんがぼやいていた。

ぼくが関わった一週間にも満たないたった数日のやり取りはあまりに濃厚で強烈で濃密だった。

これを記憶から消し去るには、それ相応の年月が必要だろう。

日常を取り戻した主役たちも、この出来事を決して忘れることが出来ないだろう。

それでいい。

平和を取り戻した彼らは幸せになった。

戯言に満ちた聖杯戦争は、穢れた聖杯よりもぼくの方が上手だった。

あるものを無意味にした結果に得られた幸福。

ぼくは間違いなく幸せを見ていた。

 




表があればもちろん裏があるわけでして。

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