ザレゴトマジシャン   作:hetimasp

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運命は回る。螺旋のように。


03 既視

「さて、流れに流され凛ちゃんの家に来たわけだが」

ぼくが聖杯戦争に関わっているとバレた時点でそうなるだろうとは思っていたけど、それにしても早かったな。

多分、言峰さんが監視のために何か策を講じていただろうけど、すぐ翌日にバレるとは。

そして凛ちゃんに流されるままに来てしまったけど、お前の命はここまでだ。みたいな展開はないと思いたい。

なんにせよ、やることもなく一人寂しく他人の家の前に立つことになるわけだが、はたから見れば不審人物のようではないか。

ここに来るまでさんざん道に迷ったから今辿り着いたばかりだけど。

凛ちゃんは学校に危ない結界が張ってあるからと言っていたが、危険なものなのだろうか。

とはいえ、その学校に結界を張るような存在がいることが知れた。

 

 

「あら、こんなところでどうかしたのかしら。いー兄」

「その場の勢いに流されてこんなところに来ちゃったんだ。イリヤちゃん」

ぼくは既に待っていた白い小人に言葉を返す。

「嘘だよね。本当に流されたなら私をここに呼ぶはずがないもの」

「それはどうかな?ぼくはただ巻き込まれただけ。君たちにね。だからこうして凛ちゃんの家に来たのは彼女が偶然、学校よりもこの家が安全だと思ったからじゃないかな。とはいえ昨日ぶり、こんばんは」

「レディを待たせておいて酷い言い様ね」

「ぼくは男女平等なんだ」

「待たせるのね」

「たまたまだよ」

別に不思議なことでもないだろう。

ぼくとイリヤちゃんは協力関係にある。

彼女と遭遇した際に、ぼくは彼女に協力を取り付け、この土地の魔術的管理者の家に、聖杯戦争の参加者になるであろう遠坂凛の家に待ち合わせ、待ち伏せることにしていた。

「それで?リンとは上手くやれそうなの?」

好奇心旺盛に聞いてくるイリヤちゃんはぼくの置かれている状況が面白いらしい。

「どうせ見ていたんだろう?」

「それで済ませちゃったらつまらないじゃない」

「なるほど。でもそれは君の事情で、ぼくの事情じゃない」

「世界を救ったヒーローさんは言うことが違うわね」

「あれはぼくの敵がいたからできたことだよ。終わりに終わらず漂うように終焉を求め続けた果てにぼくという敵に出遭えた。同時にぼくという曖昧な存在に正義の味方という役を当てはめることが出来た人類最悪。結局、世界はどうやっても終わらなかったわけだが」

「それも戯言?」

「さて、傑作かな?」

歪に生きて辟易していたぼくは初めて敵という存在に出遭えて喜んだ。

たったそれだけの事。

しかし、それだけのことでどれほどの被害が出たものか。

この世界にぼくという存在に利用する価値があると見た人間はもういない。

面白いと評して観察する聖職者はぼくの敵にはならない。

強力な力を持つ白い妖精はぼくの影響下。

情に厚い赤い魔術師はどのように動くだろうか。

ぼくを裏切り者とは言わないだろう。

だからと言ってぼくの敵になりえないだろう。

彼女は人類最悪ではないのだから。

 

 

「何か居ると思って警戒して見れば」

凛ちゃんは厳しい眼差しをぼくに送ってくる。

「これも説明してくれるわけ?」

「勿論。嘘偽りなく聞かれたこと全てを正直に答えるよ」

「じゃあ説明して。何で魔術師がいるわけ?」

「ぼくが呼んだ」

「その子は聖杯戦争のマスター?」

「イエス」

「何で私の家にいるのよ」

「都合がよかったからね。凛ちゃんにも手伝ってほしいことがあったから、ついでに言えば彼女とはつい昨日会ったばかりで、数時間濃厚な話し合いをした親密な仲だよ」

「よくもまあぺらぺらと」

「戯言遣い君。君は聖杯戦争をなんだと思っているのかね」

凛ちゃんだけでなくアーチャーさんも呆れた表情を浮かべている。

「さあ?なんでも願いを叶えてくれるとかいう胡散臭いキャッチコピーを掲げた七人と七体のバトルロワイヤルくらいにしか」

「その目撃者は基本的に処分される。知ってた?」

「うん。だからイリヤちゃんに協力してもらった」

ぼくは弱いから圧倒的な力を持っている存在が欲しかった。

そこに必然的に注意を促しに来た凛ちゃんによって偶然その力がやってきた。

ただそれだけだ。

 

 

「紹介するよ。彼女はイリヤちゃん。イリヤス・・・ちょっと待って今思い出すから」

「その壊滅的な記憶力でよく協力を得ようとしたわね。私はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。いー兄風にいうなら裏切り者かしら?」

「アインツベルン・・・」

「知り合い?」

表情を堅くする凛ちゃん。

彼女にとっては不都合なことでもあったのだろうか。

「アインツベルンは毎回聖杯戦争に参加しているいわば強豪。聖杯戦争について知っているんじゃなかったの?いーさん」

「あいにく。ぼくは記憶力に自信があるんだ」

「忘れる自信はいらないわよ。・・・ここでやり合うつもりじゃないってことで良いのよね」

「雰囲気じゃないのでは?」

「いーさんは黙っている!」

叱られてしまった。

「まあそれは置いておいて、遅かったね」

「いー兄もさっき来たばかりじゃなかった?」

「そういうのは知っていても口にしないのがいい嘘つきだよ」

「何を教えているのやら。こっちでもトラブルがあってね」

「例の結界?」

「そしてサーヴァントよ。ライダーが現れたわ」

「へえ」

「興味なさそうね」

「興味の外なので」

「じゃあ少しだけ興味のありそうな話をしてあげる。襲われたのは衛宮君よ」

「ふうん」

「・・・それだけ?」

それだけではないが声に出たのはそれしかなかった。

そういえばまだ彼に会いに行ってなかった。

まあその前に凛ちゃんに話を通しておきたかったというのもある。

「ぼくと士郎君の関係は切嗣さんが繋いだ程度の関係しかないよ。でも興味が出る話ではあるね。後輩がやんちゃをしないように見張ってあげるのも先輩の役目だと思わないかい?」

「口では勝てないから何もつっこまないわ。でも、何を企んでいるかの説明はしてもらうわよ」

「いいよ。立ち話もなんだから中に入ろうか」

「何でいーさんがこの家の主みたいに言うのよ」

「そういう振りかと」

凛ちゃんはそのままぼくとイリヤちゃんの間を通って家へと向かう。

アーチャーさんは苦笑いをしてぼくたちのわきを通っていった。

「ちょっとそこで待ってなさい。拠点を移すから準備をしてくるわ」

拠点を移すとなると、どうやら深刻な状況にでもなったのだろうか。

なんにせよ、また待つことになったわけだ。

さっき来たばかりだけど。

 

 

「ねえ。いー兄」

「なにかな。イリヤちゃん」

「本当にやるつもり?正気じゃないと思うよ」

まるで子供の様に、実際子供の様に、イリヤちゃんはぼくを見上げた。

「任せておいてくれ。こういう異常なケースには異様に慣れてしまったからね。とはいっても、ぼくがやることはいつも通り傍観者になって、時々茶々を入れるくらいだ。主役はあくまで君たち七組の登場人物なんだから。君は胸を張って堂々とすればいい。あの時の焼きまわしくらいなら、ぼく一人でも再現できる。主役の中から主人公を出したいわけだけど。イリヤちゃん。なってみる?」

「遠慮します」

「丁寧にどうも。凛ちゃんもいいけど、アーチャーさんも捨てがたい」

「サーヴァントが主人公?」

「悪くないだろう。サーヴァントは何かしらの名を遺した英雄というではないか。君のサーヴァント、ヘラクレスも有名どころだろう?」

「昨日は全く知らなかったくせに」

「今日、図書室で調べたよ。そんな彼らを主人公にするのはある意味では必然だ。でも、ちょっと力不足だ。そこで代役を立てたいわけだけど、あいにく、ぼくは作家ではない。もっともらしい主人公がいればいいんだけど」

「そこまで言うならいー兄がやればいいじゃない」

「ぼくは主人公なんてやったことないよ」

「正義の味方なんてやったことがあるのに?」

「ヒーローは期間限定なんだってさ」

「そうなの?」

「そうだよ」

そんなグダグダなやり取りを続けていたら凛ちゃんとアーチャーさんが出てきた。

赤い魔術師だ。

なにやら荷物を持っているようだが。

「お待たせ。じゃあ行くわよ」

「行き先は何処まで?」

「衛宮君の家」

ああ、やはり戯言だ。

 

 

「遠坂!?それにいー先輩に、子供?」

「言い訳をしておくけど、ぼくはただ巻き込まれただけだよ」

「巻き込んだけど、その後好き好んで首を突っ込んできたのはあなたでしょうが。いーさん」

「こんばんは。お兄ちゃん」

ぼくはこちらに来る途中で士郎君と凛ちゃんが対ライダーの結界のために同盟を組むと話を聞いていた。

ふむ。士郎君にも説明がされていると思ったら何もされていない。

赤い人間は皆こういった生態をしているのだろうか。

ぼくは小一時間程考えたくなったが、士郎君の混乱を抑えるのが先だろう。

 

 

「えっと。凛ちゃんは士郎君に説明していたのでは?」

「さっき詳しい話は後でって言っておいたわよ」

「そうか」

なに納得しているんだぼくは。

「いー先輩も?」

「さっきも言ったけど巻き込まれただけだよ。ぼくは聖杯戦争について知っているけど、ぼくは傍観者だ」

「シロウ。この男は危険です」

西洋風の美少女が士郎君の前に守るように立つ。

今にも殺さんとする視線を感じる。

「セイバー!いー先輩は敵じゃない!」

「しかし」

「そうだよ。セイバーちゃん。ぼくは敵になりえない存在さ。士郎君とは縁が合って、いや繋がれた関係でね。勝手知ったる仲なんだよ」

「そのような人物が何故魔術師を連れて・・・イリヤ?」

セイバーちゃんはイリヤちゃんの姿を見るとあれほど警戒していた緊張の糸を緩ませてしまった。

これはあれだ。面倒の気配がする。

「セイバー!裏切り者!」

「やっぱりだ」

イリヤちゃんの言葉に面を食らうセイバーちゃん。

何やら家庭の事情に巻き込まれたようだ。

「イリヤちゃん。落ち着いてほしい」

「悪いけど、いー兄には関係のない話よ」

「違うんだ。ぼくにも関係がある話だから落ち着いてほしいんだ」

「え?」

イリヤちゃんは虚を突かれた表情を浮かべる。

彼女との交渉で、ぼくは第四次聖杯戦争に関わる情報を開示して協力を得るということになっている。

そのために近場の、マスターになるであろう存在を巻き込みたかったので凛ちゃんの家で待ち合わせたのだが、こんなところで予想外があるとは思わなかった。

「一体何がどうなっているんだ?」

一番困惑しているだろう士郎君には悪いが、もう少し放置させてもらう。

「セイバーちゃん。君は彼女を知っているようだね」

「・・・ええ」

ぼくに対してまだ警戒心を抱いているらしい。

まあその方がやり易い。

一挙手一投足を見て、聞いて、感じてもらうとしよう。

「士郎君にも関係するけど、彼女はちょっと複雑な事情を持っていてね。イリヤちゃん。ぼくに任せてもらえるかい?」

念のため確認を取っておこう。

彼女は小さく頷いた。

「じゃあ中に入らせてもらうよ。ああ、凛ちゃん。離れがあるからそこで準備しておいて」

「いえ。私も聞かせてもらうわ。いーさんに任せたらどうなるかわからないじゃない」

「御尤も。ちょっと落ち着くまで時間を空けようか。水を用意してくる」

「いや。いー先輩の水って本当に水道水じゃないか。お茶を用意するから座っていてくれ」

そう言って士郎君は台所へ向かっていった。

「そういうことらしい」

「説明になってないわよ。どういうこと?いーさん」

「説明なんて大したものでもないけど、語り部の出番が必要になった訳だ。それも急にほとんどを語らなくてはならなくなった」

「私たちに分かるように言って」

「イリヤちゃんとセイバーちゃん。そして士郎君を取り巻く環境に整理が必要なんだ」

「さりげなくいーさんを外しているのはわざと?」

「勿論。語り部だから」

凛ちゃんはため息をついて座る。

「凛。彼は一体」

「見てわかるように異常者よ。まともに相手をしちゃいけない人間。公的不審人物」

「最後のは聞いた覚えがないな」

「学校でのいーさんの呼び名よ」

「そんなこと言われていたっけ?」

「・・・まあ本人に向けて陰口を言う人間もそういないわね」

「なるほど。納得」

ぼくは台所からお茶を汲んできた士郎君を見ながらつぶやいた。

 

 

「さて、どこから説明が欲しい?」

「俺としてはセイバーとイリヤとの関係が知りたいけど」

「ああ、それはぼくもよく知らないよ」

士郎君はずっこけた。

「知らない癖に語り部なんて言っていたの?」

「知らないけど推測できる。物語なんてものは外から見た人間が勝手に紡いでいくものだからね。そうだな。確認したいけど、セイバーちゃんは第四次聖杯戦争の記憶がある?」

「はい」

「ちょっと待って。聖杯に呼び出されたサーヴァントって記憶がリセットされるんじゃなかったの?」

「さあ?第四次の時はぼくも生まれて、この冬木の土地にいたからね。間違って何かが起きてもおかしくないよ」

「いーさんって思っていた以上にやばい?」

「それほどでもないよ」

「昨日の話だと事故頻発性体質並びに優秀変質者誘引体質とか言っていなかったっけ」

「要するにトラブルメイカーじゃない!」

「その程度だよ」

 

 

閑話休題。

 

 

「話を戻すけど、セイバーちゃんは第四次で呼び出されたセイバー。切嗣さんのサーヴァントだ」

「あなたは切嗣を知っているのですか?」

「いや。じいさんが聖杯戦争に参加していたのか?」

「二人とも落ち着いて。その辺はセイバーちゃんの方が詳しそうだ。後で話してもらうといいよ。それで肝心なのは、イリヤちゃんのことだけど、士郎君。君には実は・・・姉?それとも妹?」

「お姉ちゃんよ」

「姉がいたんだよ」

「そこはきちんと締めてよ」

凛ちゃんが何か言ってくるが無視だ。

「というのも、切嗣さんは既婚者でね。聖杯を取るために雇われた傭兵で、その時に切嗣さんとその妻が聖杯戦争に参加した。だいぶ端折ったけど、ここまではいいかい?」

「パンクしそうだ」

「まだパンクしないなら大丈夫さ。切嗣さんとセイバーちゃんは聖杯戦争の後半まで戦い抜いて、妻という犠牲を払いながらも聖杯まであと一歩のところまでたどり着いた。切嗣さんは世界平和のために聖杯を利用しようとしたらしいけど、結局聖杯を破壊した。令呪を使ってね。そこら辺の誤解を解いていなかった」

「はぁ!?それ本当!?」

「聞いた話だけど・・・セイバーちゃんは知っているだろう?」

皆の視線が彼女の方へ向く。

「はい。私たちはすぐそこまでたどり着いていました。しかし、キリツグが令呪で聖杯の破壊を命じたのです」

彼女の表情には後悔、無力、絶望、そのような負の感情を継ぎ接ぎにしたようなものが浮かんでいた。

「切嗣さんの話では聖杯は呪いで満たされていた。だから破壊しなければならないと判断したらしい。その時に切嗣さんは呪いを受けてしまい、破壊した結果は・・・士郎君が経験した通りだ」

 

 

「冬木の大災害。数百人の犠牲者が出たあの災害にそんな背景があったのね」

「凛ちゃんはぼくの言葉を信じるのかい?」

「ただの嘘ではなさそうだからかしら」

「あなたは聖杯が呪われていると言うのか!?」

「うん。結局それが原因で切嗣さんは早死にしてしまった」

「それでは、願いを叶える願望機というのは」

「さて、そこは門外漢だから分からないが、ここに運よくあらゆる欠点を持つ人間がいる」

「?」

セイバーちゃんは分からないという表情をするが、凛ちゃんがすぐにぼくのことだと言った。

「あなたと切嗣の関係は?」

「ん?そういえばそれは考えていなかった。そうだな・・・言ってしまえば」

ぼくと切嗣さんの関係。

そんなものは考えるまでもないだろう。

「依頼人と請負人さ」

 




ここにいるのは人類最弱の請負人である。
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