どうせ残るのは結果だけだ。
「いー先輩の言葉に流されて納得したけど、何で遠坂はここに住むんだ?あとイリヤも当然のようにいるし」
「戦略上、私たちは常に行動を共にする必要があったのよ。聖杯戦争の前提が覆っている可能性がある今では、戦力の分散を避けるためかしらね」
「おいおい。ぼくはそんなにひどい嘘つきじゃないぜ」
「詐欺師が何を言うのだか」
全くである。
さて、自己批判は後にしておいて聖杯戦争は彼に任せるよう。
ぼくは門外漢過ぎて訳が変わらないから。
「今は学校に張られたライダーの結界を阻止するのが目的よ。一緒にいれば素早く連携もできるしね。結局、同じ場所に陣を構えておくのが一番効率がいいのよ」
「学校に結界があるのか」
「・・・いーさん。ここに来るまでに説明したわよね」
「そうだっけ?いや、確かそんな気もしないでもないような」
「とにかく。今、学校は危険な状況にあるのよ」
「それでも君はその結界をどうにかしようという訳だ」
「これでも私はこの土地の管理者よ。どこの馬の骨とも分からない奴に好き勝手させるものですか」
「君は健常でありながら異常者だ。魔術師全員がそうであればぼくも楽なんだが」
「戯言遣いさんは魔術師よりも厄介って話だけど?」
「ぼくより異常な存在はいないだろう。ぼくより弱い存在はいないだろう。ぼくより欠陥のある存在はいないだろう。厄介と言えばこんな厄介な人間はまずいない。何せ亡霊のように生きているのだから誰にも干渉できない」
「だから聖杯戦争に関わらせたくなかったわけだけど、まさか十年前から関わっているとは思わなかったわ」
「言わなかったからね。ついでに士郎君との関係も何もかも聞かれなかったから言わなかっただけだよ」
「こうまで捻じれていながらよくもまあ生きていられるものだわ」
「死にたくないからね」
これは戯言だろうか。
「それで遠坂」
士郎君はご飯を盛りつけながら聞く。
「これからの事なんだけどさ。ライダーのマスターに何か心当たりはあるのか?」
「それがね。最初は学校関係者かと思ったんだけど考えてみたら学校にはもう魔術師自体いない筈なのよ」
「そうなのか?」
魔術の経験を積んだ魔術師は他の魔術師の存在を認識できるらしい。
なんだそのスタンド使いは惹かれあうみたいな設定は。
哀川さんが聞いたら喜んで話に参加するに違いない。
凛ちゃんの話ではそれらしい存在は見当たらなかったという。
「ちょっと待てよ。ってことは遠坂は昔から俺が魔術師だってことに気づいていたのか?」
「あんたのことは知らなかったわ。魔術師として判別できないへっぽこだったことと、そこにいる詐欺師が曖昧にしていたから」
「いー先輩が?」
「虚言において右に出るものがいないいーさんが、あんたの関係者だってつい最近まで知らなかった。私はただ厄介な存在だから近寄らなかったけど、それを含めていーさんはあんたから魔術師を遠ざけるように立ち回っていた。思えば衛宮君といーさんは知り合いであるって調べれば分かっていたはずなのに、聖杯戦争を知るいーさんと知らない衛宮君を結び付けられなかった。本当に嫌な性質をしているわ」
「囮として優秀だろ。それに、君が言う程ぼくは暗躍していない。というよりも何もしていない」
「ただ私が勘違いしただけ」
「その通り」
「はあ。ともかく、学校に魔術師がいないってことは・・・」
「外部の人間ってことか」
どうやって探し出すかと考えているようだ。
その間にセイバーちゃんは黙々と食事を進めていた。
サーヴァントにも味覚はあるのだろうか。
かなりの美少女である彼女を見ながらちょっとメイド服が似合いそうだとか、思わないでもなかった。
「どうしたセイバー?さっきから神妙な顔をしているけど」
「いえ。とても美味しい料理でしたので」
そう言われてぼくたちも料理に手を付ける。
確かにおいしい。
でも、あの鴉の濡れ羽島のシェフには敵わないだろう。
彼女と比べること自体、戯言なんだけど。
「よし。これなら勝った!」
一人ガッツポーズを決める凛ちゃんはちょっと情けないと思った。
「戦力分析は兵法の基本でしょ?まあ明日を楽しみにしてなさいな」
赤色の言う言葉には気を付けた方がいいと思っていたが、美味しいものには罪はなし。
言われた通り楽しみにすることにしよう。
「ライダーを見つけたとして、どうするつもりだ?いー先輩の話ではもう戦う意味も無いように思えるけど」
「それはいーさんの話を信じた場合の事よ。魔術師なんて基本、自己中心的な人物ばかりなんだから問答無用で攻撃してくるわ」
「じゃあやっつけちゃえば?」
「イリヤの案には賛成したいけど・・・」
そう言ってぼくをみる凛ちゃん。
「下手をすれば自滅しかねない。そうでしょ?いーさん」
「なるほど。君は切嗣さんのように良い観測者みたいだ。だからこそ管理者になれるわけだが。そうだね。ぼくを客観的に見ればただの異常者でしかないけど、深く関係したとなれば話は別だ。誰かが言うには、ぼくが居るだけで事件が起き、何もしないのに人が狂う。こうして一緒にいるみんなが狂っていないのはお互いが異常を抱えているからであって、膠着状態になっているからだと思う」
「さらりと私たちを異常扱いしたわね」
「魔術師は異常者の集まりなんだろう?」
「否定はしないわよ」
「いー兄は私を異常だと思っているの?」
「異常は誰でも持っているのであって、それが表に出ているか裏にあるかの違いさ。さて問題だ。君の持っている異常は一体どのようなものなのか。それは表裏一体ではなく、コインの表と裏がある。表は君か、それとも裏が君か。どっちだろうね?イリヤちゃん」
イリヤちゃんは真面目に頭を悩ませている。
そんな様子を見た凛ちゃんはため息をついた。
「そんな問題に意味はない。それが答えよ」
「正解だね。結局イリヤちゃんであることに変わりなく、どこにも疑問を挟む余地はない。正常か異常かなんてものにも意味はなく、それが変わることも無し。戯言だね」
からかわれたと分かったのか、イリヤちゃんはぼくを小突いてくる。
脇腹はちょっと痛いからやめてほしい。
「なんでそんなに懐かれているのやら。そういえばイリヤのサーヴァントって一体どのクラスよ。いーさんが言うには強そうらしいけど」
「私のサーヴァントはバーサーカー。ヘラクレスよ」
凛ちゃんは飲んでいたお茶を吹き出しそうになる。
「ヘラクレス!?超有名どころじゃない!」
「へえ」
「いーさん!あんたそんなのとやり合おうとしていたの!?」
「別に、そんな度胸がぼくにあるわけないじゃないか」
そんな度胸があれば悲惨な惨劇がどれ程防げたことか。
「いー兄はヘラクレスの名前すら知らなかったわ」
「流石いーさん。知らない相手に、しかも何もさせずに影響下に置く辺りがまた酷いわ」
「過大評価だね。彼女たちには協力してもらっているだけだよ。それに、名前は分からないと不便だろう?」
名前の無い相手をぼくにぶつけた人類最悪は最高の手札を切っていたわけだ。
そういう意味ではこの聖杯戦争はぼくの天敵ばかりかもしれない。
だが残念。名前がないのではなくある存在が隠しているに過ぎない。
記号を持っている時点で既に手遅れ。
戯言だけど。
「もういいわ。いーさん絡みは考えるだけ無駄になるし、でもライダーを放置できないわ」
「初めに戻って、イリヤの案を採用しましょう。彼女にはそれほどの戦闘能力はないようでしたから。宝具に気を付ければ討伐できるでしょう」
「宝具?」
士郎君は何を言っているんだという表情を浮かべ、周りは何で知らないんだという顔をする。
ぼくも知らないんだけど。
セイバーちゃんの説明では、英霊のシンボルであり、奥の手だと言う。
いくら英雄と言えど、自分の力で偉業を成したわけではないと言う凛ちゃんの補足。
では、武器がない方が強かった人類最強の請負人は一体どのような宝具があると言うのだろうか。
そんなものはない。
彼女は最強故に最強。その理由はない。
「そういえばランサーがゲイボルクって」
「ん?ランサー?」
「ああ。俺がセイバーを呼び出した時に戦いになったんだ。そのとき」
「忘れていた。ぼくは士郎君の事情も聴いておくべきだったな」
聖杯戦争という事件は既に起きているのだ。
ならばその関係者に当たるのは基本ではないか。
「ぼくは士郎君が好き好んで聖杯戦争に参加するように見えないけど、何があったのか教えてくれるかい?」
「えっと。取り敢えず後でいいかな」
「仕方がないね。ごめん、話の続きをどうぞ」
彼、彼女たちはこれからの戦いに備えて話し合いを続ける。
「ねえいー兄」
イリヤちゃんがぼくの腕を引っ張る。
「いー兄はもうどうするか決めているんでしょう?」
イリヤちゃんの言葉に凛ちゃんの目が鋭くなる。
「いーさん・・・」
「そんな目をしないでくれよ」
「じゃあどうするつもりなのか聞かせてもらおうじゃないの」
「それはちょっと」
「聞くまで引かないわよ。いーさんの言う通りなら、赤色はそうなんでしょう?」
「・・・やれやれ、参ったな」
まさか戯言遣いたるぼくが戯言で言い負かされるとは。
「まあこれはだいぶ有効な手段だと思う。そもそも、君たちはちょっと勘違いしている部分があるね。それは魔術師ゆえの思い違いという奴だ」
「いいからさっさと言いなさいよ」
急かされたぼくは別に日常会話をするように、ただ呼吸をして、食事をして、睡眠をとるのが当然だというように言った。
「要するに敵がいなくなれば戦いにならないわけだ」
ぼくが言い放った言葉に皆が黙ってしまった。
これについてよく知っているのはイリヤちゃんだったが、いや、初めの犠牲者がイリヤちゃんというべきか。
彼女もやはりぼくを信じがたい目で見ている。
「それはお得意の戯言?」
「いや、これは本当にやったことだ。さっきも言ったけど、敵がいなくなれば戦いにならない。聖杯は正常に機能しないとチェスボードをひっくり返してもいい。マスターを懐柔してしまってもいいかもね。実際、七組の内二組はそういう状態になった訳だ」
「・・・イリヤと私たちね。まさか衛宮君みたいなことを言う人間がまだいるとは思わなかったわ。既に実行しているとも」
「ほう?士郎君も?」
それは面白い展開だ。
「ついでにで良いけど、そのことについて詳しく」
「彼は自分から戦いは仕掛けない。襲ってきた敵は倒す。そして悪行を働くマスターは止める。そう言っていたわ」
「なるほど。それは素敵だ」
実に戯言だ。
「いーさんはそんな主義ではないでしょう。戦いは避けて、襲うこともなく、波風を立てずにただ生きていきたい。そんなところかしら」
「とある事件の前まではね。今ではいらないお節介をする程度には人間をやっているよ」
「・・・参考までに聞くけど、衛宮君の言うようなことをやるとしたら、いーさんはどうするの?」
「話し合いで解決しよう」
「・・・・・・まじ?」
「戯言だろう?でも残念なことにぼくの戯言は不死身の人間にも人類最悪にも通用する。士郎君は恐らく具体的にと言われて言葉に詰まったのかな?それでもって問答無用で殺されるとか言われたのかな?いやいや悪くはないよ。そうだね。正気の人間がやるようなことではないし、メリットもない。でも思い余って殺人をするように、勢い余って全員を絡めとっても些細なことだと思わないかな?矛盾を矛盾させて道理を覆す。セイバーちゃんたちには悪いけど、死んだ人間はそのまま死ぬべきだと思っているよ。何を未練がましく留まっているのか。それこそ戯言というものだろう」
「む」
「死者が後世に伝えるのはその遺志と歴史だけで十分。起きたことは既に過去の事。今あるべきなのは現実。見据えて歩くのは未来だ。過去のことは歴史家や魔術師に任せて、未来は科学者にでもやらせておけばいい。でも今起きている事件はその当事者たちが解決しなければならない。そうだ。赤色にちなんで凛ちゃんに教えておくことがある」
「・・・何?」
「人類最強はハッピーエンド至上主義者だったよ。ぼくには似合わなかったけど、押し上げられてしまった。人類最悪の言葉を借りるなら、全ての事物には代替が可能。君にはできるかな?」
この聖杯戦争という事件にハッピーエンドという幕を下ろすことが、大団円を迎えることが。
「ハッ。言ってくれるじゃない。前世の赤色からの挑戦状ってわけ?」
「彼女になれるわけはない。だけど代替物が存在するというならできなくはないだろう。どうだい?赤色からの挑戦状ではないけど、戯言遣いからの難題だ。受けるも結構、避けるもまたよし。魔術を極めるより困難で、得られるものは何もなし。もし受けてみると言うなら、不肖、人類最弱の請負人が付いてくることになるけどね」
しばらく黙ってお互いに視線を交差させていたが、凛ちゃんはシニカルに笑って言って見せた。
「その挑発、乗った」
「それでこそ赤色。見える敵という敵を全て覆そう。大丈夫。舌先三寸、口八丁の詐欺師が付いてくる。あらゆる矛盾に否定を突きつければいい。そしてこのやり取りも結局」
「戯言ね」
その通り。
戯言節。
やっぱりハッピーエンドが一番だろう?