ザレゴトマジシャン   作:hetimasp

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意志の石塊を切開していらぬお節介。


08 戯言会談

主役は七人と七体の組み合わせだと思っていたが、実はそうではないらしい。

キャスターさんの話によるとどうやらアサシン、佐々木小次郎を彼女が呼び出しているという。

魔術師がサーヴァントを呼ぶと言うのだから間違ってもいないし、ルール違反でもないだろう。

佐々木さんはクールな侍だった。

みいこさんを男にしたらあんな感じかもしれない。

途中でキャスターさんに願いがあるかどうか聞いたわけだけど、はぐらかされた。

士郎君の家に早速やってきたわけだが、セイバーちゃんは先ほどアサシンさんと殺し合っていたわけだ。

勝手に動くなと言ってもこの程度の効力しかないのだから言ったところで無駄だとキャスターさんにも理解してもらえただろう。

それで今、目の前で修羅場が繰り広げられていることになったのはちょっと予想外だった。

「戯言遣い殿!これは一体どういうことか!?」

「その・・・キャスターさんを連れてきました」

「キャスターは我々を襲った敵!魂喰いを行う外道です!」

「それについては彼女も済まないと言っていたよ。何せ聖杯戦争に誤解があったからね。魂喰いも何を犠牲にしても願いを叶えたかったからだ。故郷を救いたいと言う君にも理解できる感情だろう。でも彼女は死者を出さなかった。超えてはならない壁を越えられなかったと言うべきか。その理性をもって今回は君たちに謝罪と協力を申し出てくれたんだよ」

「あ、あなた・・・」

背後で言葉を失っているサーヴァントがいるようだが、そんなことよりこちらが優先だ。

「信用が出来ないと言うなら疑えばいい。でも、今こうして平和的に解決できるような状況になったんだ。それに魔術師という点では英雄クラスの存在だぜ?事件の調査に是非加わってほしいんだ。それが終わってやはり殺すしかないというのであれば、仕方がない。どうかな?」

ぼくはその場にいる存在全員に問いかける。

凛ちゃん、士郎君、アーチャーさん、セイバーちゃん。

「今、ここにいる戦力ならキャスターが何をしても返り討ちにできるわね」

凛ちゃんはあくまで現状を見て言った。

「しかし、魔術師相手に隙を見せぬ方が」

セイバーちゃんは交戦する意思を見せる。

「戯言遣い君。君は一体何をしてきたんだ」

アーチャーさんは今の状況に困惑をしているようだ。

「すぐに信じられないけど。説得が出来れば」

士郎君は素直にぼくの話を信じたようだ。

長年の積み重ねという奴だろうか。

「いー先輩はこの手のことに関してずば抜けて信用できないけど、悪くはならないはず」

積み重ねなんてなかった。

「まあまあ。こうしてカモがネギを背負ってきたんだから。それにぼくからの難題は早々にギブアップと言わないでくれよ?赤い魔術師」

「それでこうして宿題を持ってきたって?いくら何でも手際が良すぎるわ」

「なんにせよ。七組の内五体のサーヴァントが集結できる状態になった訳だ。頑張っただろう?」

「五体?」

「魔術師がサーヴァントを呼ぶという例に則って、キャスターさんがアサシンさんを呼んだ。ちなみに真名は佐々木小次郎って言っていたよ」

「・・・いーさんから目を離すとすぐに状況が動くのは何かあるのかしら?」

「さて、なんでだろうね。それよりも士郎君。その木刀は何だい?」

「あ、これは」

「サーヴァント対策だって。笑っちゃうわよね」

なるほど。護身装備という訳だ。

対して何の防備もないぼくは、実は勇者なのかもしれない。

 

 

「請負人さん?坊やたちを襲ったことを知っていたの?」

小声で聞いてくる彼女に対してぼくも小声で返す。

「知らなかった」

「それなのにあんなことを?」

「言いましたよね。ぼくは嘘つきなんだ」

ぼくは笑わず、家の中へ入っていった。

ちらりと見たときのキャスターさんの表情はご想像に任せる。

 

 

「聖杯戦争が始まってまだ三日と経たないうちにほぼ無傷でサーヴァントが会談するなんて、全く思いもよらなかったわ」

「そうなのかい?ぼくは切嗣さんから三体のサーヴァントが会談したとか聞いたけど」

「そうなの?セイバー?」

「・・・ええ。少々」

「それが本当なら今度はその倍になる可能性があるわけね。それで?キャスターは協力という形になるの?」

「そういう約束だからね」

「どんな約束よ」

「魂喰いをしない。赤い魔術師と協力する。できれば勝手に動かない」

「最後の方が重要じゃない!なんで曖昧なのよ!」

「そもそも。戯言遣い君がキャスターに接触できたことを疑うべきだろう。凛」

「出会った過程はさほど重要ではありませんよ。大したきっかけでもありませんでしたし」

ぼくはアーチャーさんの誤解を解くべく言葉の糸を繰り広げる。

「君には危機感というものがないのかね。それに私たちから見れば君はキャスターに操られている可能性も否定できないのだぞ?」

おおう。つまり容疑者扱いのようだ。

「ぼくを操るなんて、非生産的なことはしないでしょう。口さえ動けば食欲を満たすように嘘をつく人間を好き好んで使うとは思えませんね。その辺どうなんでしょう。依頼人さん」

「あなたという人物に限って言えば操るなんてしないでしょう。メリットよりもデメリットの方が多すぎる」

まあ当たり前か。

欠陥製品を操ろうにも欠けている部分が多すぎて糸が絡まってしまう。

それこそ曲弦師のような存在が十人ほど必要になってくる。

「いー先輩を利用してくるのは多分難しいと思うぞ」

「そうね。魔術師よりも厄介な存在を相手に、リスクを背負う必要ないものね」

この二人はぼくをなんだと思っているんだ。

「それで、何でキャスターはいーさんと出会えたのかしら?」

「まあ簡単な話だよ」

「いーさんは黙ってる。どうせ口から出るのは戯言なんだから」

新種の戯言殺しだな。

とはいえ正直に言っても何も変わらない。

ぼくはキャスターさんに目配せをする。

「昨夜、新都で調査をしていたわね。その時にいた魔術師ではない存在から情報を頂こうかと思ったのよ。一番警戒心が薄かったからというのもあるけど」

「何故、出会おうとしたかじゃないわよ」

「魔術師にそれはないのではなくて?出会おうとすれば出会えてしまう」

それに凛ちゃんは言葉に詰まってしまった。

魔術師という生物にはどうやったかなどという過程は意味なく、誰がやったかも関係ない。

ただ会いたいという動機だけで成立させてしまう探偵殺し。

キャスターさんは、ただ情報を得たいという理由でぼくに会いたいと思った。

魔術師にはそれで証明完了なのだ。

「見事に事件を頻発させているわね」

「本気になればこんなものさ」

「褒めてないからね」

そうだろうね。

「凛。あなたはキャスターを受け入れるつもりですか!?」

「まだ決めかねているわ。魔術師じゃない人間が絡んでいるから。あなたのマスターが来ないのは何故かしら?」

「交渉が決裂した場合、私が死んでも、あの人は生きていられるから」

「・・・いーさんと方向が違うけど同種の存在ね。致命的な部分を避けてくる。魔術戦はともかく、交渉は苦手よ。秘密兵器はあちら側にいるようだし」

「請け負ったからね。この話し合いの場を設けるって」

「なら仕事はもう終わりよね?帰ってもいいのよ?」

「切嗣さんから請け負った仕事があるじゃないか。士郎君が巻き込まれている以上はぼくもいないといけない」

「戯言遣いめ・・・」

「これでも前世は名探偵って呼ばれていたんだぜ」

戯言戯言。

「でも、壊滅的な記憶力を持っているいーさんから何か聞き出せたの?これでも数年関わっているから分かるけど、相当よ?記憶を取り戻す魔術を使ったというなら話は別だけど、記憶を消す魔術が通用しない相手に干渉する魔術が通用するとは思えないんだけど」

え?何それ聞いてない。

いつの間にそんな物騒な魔術を使われていたんだ。

というか本当にそれ通用していないの?

通用していたらぼくの記憶力の無さに説得力が出てくるんだけど。

「予想以上に何も知らなかったわ。精々クラスぐらいね。時間制限もあったから詳しい話も聞けなかったわ」

「時間制限?」

「請負人さんはここに手紙を置いていったのでしょう?遅くなったら柳洞寺へ来るように」

 

 

沈黙が周囲を支配する。

視線の的はぼく。

「・・・ねえ詐欺師」

「なんだい魔術師」

「手紙ってあの『遅くなる』の一言だけ書いてあったあれ?」

「そうだね」

再び沈黙が舞い降りるが、その中でふつふつと怒りが溢れる気配がするのは気のせいではないだろう。

「請負人さん?あの時言ったことは」

「嘘だね。まさかセイバーちゃんが来るとは思っていなかったけど」

「ご愁傷様。でもおかげでいーさんが操られている線も薄くなってきたわね。これもいーさんの予想の範囲内なの?」

「全くの予想外だったよ。キャスターさんとは会いたいと思っていたから僥倖だった。前戦争では一般人に多く被害を出したクラスだったからね。一番の懸念だったから早く会えてよかった」

キャスターさんは騙された屈辱からか、ぼくへの視線が厳しいものになっていたが、どうか許してほしい。

命乞いの術は十全に持っているんだ。

「あぁ」

士郎君が遠い目をしてキャスターの方を見ている。

まあこの中で一番ぼくに騙され続けているのは、付き合いの長い彼なので推して知るべしだな。

「さて、話を戻すわよ。キャスターの協力だけど、私は受け入れていいと考えるわ」

「その心は?」

アーチャーさんは片目を瞑って凛ちゃんに聞く。

「いーさんの話がどこまで本当か別にして、彼女がこちらに手を貸してくれるというならライダーの結界に対策が取りやすくなる。キャスターの信用については、餅は餅屋。魔術師より厄介な人間に任せましょう」

それってぼくの事じゃないか?

それってぼくの事じゃないか!

「それと報告よ。ライダーのマスターは間桐慎二だったわ」

間桐慎二。

うん。憶えているぞ。

「憶えているよ。桜ちゃんの・・・お兄さんだね」

「何で間があったかは聞かないでおくわ。そういうことだから。いーさんはキャスターと協力してライダーに当たること。キャスターもそれに従うこと。いいわね」

「・・・まあぼくが連れてきたわけだから当たり前と言えば当たり前か」

それにしてもやはり赤色の生態は強引なのだろうか。

「とはいえボランティアでやるわけでもないでしょう。あなたは何を求めるの?キャスター?」

キャスターさんが求めること。

ここに来る途中ではぐらかされてしまった願い。

こればかりは彼女も言わざるを得ないだろう。

詐欺師は詐欺師を知るのだ。

はぐらかせば分かる。

追求しなかったのは危険があったからであり、今は違う。

「今のマスターと、少しでも一緒に生きていたい。それだけよ」

「・・・・・・」

それはとてもロマンチックで、なんとも残酷な願いだろう。

サーヴァントとマスターの関係は聖杯戦争の短い間だけのこと。

だと言うのに、彼女はマスターに惹かれてしまったのだ。

「なるほど。聖杯に願いたいわけだ」

「本当に願いが叶うのならば。でしょう?請負人さん」

「ぼくがまた嘘をついていると思わないのですか?」

「それは追々分かること。でも、あなたは妙に自信がある。ただ聞いただけにしては詳しく知り過ぎではなくて?」

ぼくはこのことを出来れば言うつもりはなかった。

でもキャスターさんが入って、しかも願いが叶いそうなものだったから説明を余儀なくされてしまった。

仕方がない。少し本腰を入れるとしよう。

「ああ。確かにそうですね。でも、役回りとしては知っていないと駄目な立ち位置なので、その部分は詳しく聞いて調べました」

「は?」

「調べたと言ったんだよ。聖杯戦争を」

「でもいーさんは何もしていなかったわよね?監視をつけていたから変な行動はしていなかったはず」

「君の監視は数年前で、十年くらい前ではないからね。監視がついてからは何もしていなかったよ。言っただろう?一日は永久だって。一日あれば聖杯戦争がどんなものか知るのに十分だったよ。何より経験者が二人もこの地にいたからそんなに苦労はしなかったよ。その様子だと、言峰さんも君に話をしていないみたいだね。彼もいい性格をしているよ。結論を言ってしまえば聖杯は歪に願いを叶えるだろう。人が死ぬという結果でしか願いは叶わない。切嗣さんの願いは何だった?世界平和だ。あらゆる生命を消し去ってしまえば争いを起こす余地がなくなり、間違いなく平和になるだろう。ではキャスターさんの願いはどのように叶えられるかな?少しでも長く今のマスターと居たい。一見何も害はなさそうだが、そうした話に悲劇はつきものだ。永遠の愛。誰もそこに入る隙間のない虚空の空虚な空間が出来上がるかもしれない。彼女たちに害をなすかもしれない人間が全員死ぬかもしれない。じゃあ願い方を変える?それも怪しいものだ。それこそ戯言でなければ付け入る隙が無い願いを作るしかないだろう」

それを聞いて黙っていなかったのはやはりというかセイバーちゃんだった。

「戯言使い殿!それでは最初から我らの願いは」

「叶わなかった。思い通りにはね。君はあらかじめ知っていただろうけど、こんなだとは思っていなかっただろうね。黙っていたのはここまで急にことが進むとは思っていなかったからだ。そして君が壊れてしまいそうだったからだよ。このメンバーの中では君が一番壊れそうだった。士郎君は既に壊れているけど直る。でもサーヴァントとして呼び出された君を直すにはあまりにも時間がない。だけどね。君には少ない時間の中で知らなければならないことがある。そうだろう?」

ぼくは彼女に向けて言い放つ。

 

 

「アルトリア・ペンドラゴン。アーサー王」

 

 

「それも切嗣から?」

「ああ。切嗣さんと士郎君の縁が合って、そして繋がっていた糸に絡まっていたのは君だ。君の故郷、故国の救済は王たちの戯言会談で一笑されたと聞いた。それでも胸を張って願いを叶えようとするのは誰もできるようなことではない。君はまさに騎士の王だ。でもね、セイバーちゃん。君は勘違いしているよ。一番救済されないといけないのは君なんだ」

「戯言遣い殿も私を愚弄するのか。私は国に仕える身。私のせいで国が滅んだのであれば、私は再び国を救うために力を尽くさねばならない」

「戯言遣い相手に戯言で勝負とはね。いいだろう。誰が悪いかなんてものを払拭させてやろう。ぼくの辞書にはすべての言葉が載っている。では、ぼくの敵の言葉を借りるとしよう。バックノズルという理論だ。今起きなくても、起こるべき事は絶対に起きることであり、それはどうしても避けようがない。つまり、君が過去に戻ろうが決定されたことは覆らない。それこそ赤色の人類最強のような因果を崩壊させる存在が必要だ。だが、彼女はそんなことはしない。何故なら生きた道は悲惨に満ちていたかもしれないけど、そこには君の知らない救いがあったからだ。誰もが前に進もうと歩いていたからだ。誰も君を否定できるものか。目を向けろ。多くの犠牲を払って尽くしてきた君にバッドエンドは似合わない。今を生きて見せろ。絶望を殺して見せろ。喜びを守って見せろ。それでも分からないと言うならばこの戯言遣いが相手になってやる。人類最弱と言えど、逃げている奴に負けるぼくだと思うなよ」

ぼくの勢いに呑まれたのか、セイバーちゃんは苦渋を表情に浮かべる。

「あなたに私の何が分かるというのです」

「思い上がるなよ殺人者。君という存在が全知全能とでも思っているのか?ただそこにいるだけで数えきれない人間を死に向かわせたぼくに失う痛みが知らないとでも言わせる気か?前ほど人が死ななくなったとはいえこんな事件が起きて黙っているぼくじゃないぜ。国を救いたいと思ったんだろう?共に戦った人間の意志を無為に帰するのか。いい加減に人間に戻れ。アルトリア。人の心を踏みにじろうとするのをやめるんだ」

「!!!」

「胸を張って生きろ。無様でもいい。君はもう王ではない。死んだ人間にちょっとだけ奇跡が起きてここに産み出されただけ。ならば今を生きる人間として生を全うして見せろ。ぼくにハッピーエンドにしてやったぞと言ってのけろ。あいつはやはり戯言しか言えなかったと言わせて見せろ」

困惑するセイバーちゃんはぼくの目を見る。

この濁った墨汁のような目を。

淡々と言葉を吐き続けたぼくは一体どのような表情を浮かべているか分からない。

しかし、彼女の驚愕の表情を見るに、いい顔ではないだろう。

だが、戯言だろうと傑作だろうと言わなければならない。

「甘えるな」

 




あるのは厳しい現実だけ。

その中で、より良く生きていくかが重要である。

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