「それが…君の願いなのかい?」
ーそうだけど、もしかして無理?
もし、ライトノベルの様に転生と言う物があったら、もし願いをかなえてくれるという物のがあったのなら、どうしてもやってみたいことがあった。
それはとっても馬鹿げたことで他の人が聞いたら首を傾げるような物。…それでも自分が望む願い。
だが自分の願いを聞いた青年は俯いてしまう。もしかして無理なことなのかと落胆した時青年はガバリと顔をあげ大声で笑い始めた
『ック…クハハハハ…アッハハハハハハハハ!!』
突然目の前で腹を抱え大声で笑い始める青年にビビる。何がそんなにおかしいのか。講義をしたいが相手は聞く耳を持たない。数分経ってようやくこちらに顔を向けてきた。その顔は、とびっきりの笑顔だった。
『ハハハ…ぁあ良かった…まさかそんな事を願うなんて…僕は本当に君と出会えた良かったよ。まさかそんな事を願うなんて…』
ーできるのか?結構アレな事だが…
『無論できる。嫌…必ずして見せる。君の願いは実に面白そうだからね…しかし本当に参ったよ。今までいろいろな転生特典…実に下らない願いを見てきたけど、君のは一風変わっているね』
ーそうだろうか?確かに変だとは思うが、そこまでの事だろうか
「自覚がないのは良い事なのか悪い事なのか…まぁいいや、それじゃ君の願いをかなえる為に…」
そこで青年はぐっと言葉を貯める。いったい何を言うつもりだ。もしかして契約とか、何かをよこせとでもいうつもりか。身構えていると青年はやっぱりというかにっこり笑ってた。
「もっと話をしよう。君の願いをかなえる為に、君の転生が上手く行くように、もっともっと話して…君が望む楽しい物語にしようよ」
「……朝か」
何やら変な夢を見ていたような気がする。望みがどうのとか願いがどうとか…いったいなんだっての。窓からこぼれる朝日は暖かく嫌が応でも遂に迷宮に来る日がやってきたことを実感する。何事も起こらなければいいのだが…
その後幸せそうに寝ている南雲を起こし(昨日白崎さんと話したせいだろうか?鼻の下が伸びてた。ぺっ)朝の身支度を整え朝食へ。
宿の食堂にいる皆は眠そうにしている奴や元気よく動いている奴様々だが今日の訓練について嫌そうな顔をしている人は少ない。
朝食が終わりメルドさんから改めて訓練内容の確認をする。やはり昨日南雲が話した内容と変わらないものだった。説明が終ると騎士団の人から装備品や道具などが支給されていく。
「さて?なにが貰えるのかなっと」
「貸してもらうんじゃなかったっけ?」
支給された装備品は部屋で身に付けるように言い渡され、部屋で防具品をつけることになった。やったね南雲君初めての装備品だよ!
「…なぁ南雲お前のその胸当てどうやってつけてんの?」
「えーと首から下げて…?これであってるのかな?」
「んでコートか、言っちゃ悪いけどコスプレ感が凄いな」
「っんぐ、人が気にしている事を…」
コートを着て比較的軽そうな胸当てをつけている南雲はどう見てもコスプレ初心者だった。端的に言うと似合ってない。ぷ―クスクスww
「そういうそっちは…」
「あんだよ」
「…ノーコメント」
「おい止めろよっ!気になるじゃんか!」
こっちは防具と言う防具はジャケットの様な上着だけである。普通の服とは違って堅そうだが…似合ってもなさそうだし役に立つのだろうかコレ?
そんなこんなで準備を整え宿の前の広場に集まる。ほかの皆も準備はできているようで仲のいい友達と談笑したり支給品の剣や槍、杖をしげしげと眺めている。天職が前衛の奴は鎧を着ている奴が多く、後衛組はローブ系統ってのは実にファンタジーらしい
…本当にこう言っては何だが一部を除いて皆似合っていないな!?なんか防具を装備しているんじゃなくて着られているって言うか…戦闘の素人感がたっぷり過ぎてなんだか変な笑いが出てきそうだ。やっぱり日本人は戦うための服装は似合わない。そういう事にしておこう
「…んで、武器はこれかぁ」
みんなの様子を観察した後、支給された武器…短剣をしげしげと見つめる。刃渡りは俺の腕よりも小さい、護身用又は作業用とでも言い換えそうな代物だった。これでどうやって戦えっていうねん!
「おいおい、そんなしょぼい武器しかもらえなかったのかよ~」
そんな俺の武器ににやにやとした顔で近寄ってきたのは檜山だった。装備品を身に着けた檜山の武器は歪曲した剣を左右両方に腰に二本差してある。
「まーな。そう言う檜山は?イイの貰えたのか?」
「へっへっへ。俺はお前らのような雑魚とは違っていいもの貰ったぜ」
すらりと剣を抜く動作はもたついた感じが無く、はっきりと言えば中々に様になっている。両手に片方つずつもった剣は 片刃でいささか歪曲したような形だった。確かコレサーベルと言うんだったか?
「へぇ、良さそうなモン貰ったのかよ。いいなぁ」
「やらねぇぞ」
にやにやと笑う檜山。…こう言うと絶対怒りそうだが、新しい玩具を買ってもらって見せびらかそうとする子供みたいで凄く微笑ましい。
「まぁ俺より良いの貰ってるのは分かったから、実地訓練ではよろしく頼むぞ」
「……チッ」
俺が檜山の望む薬を作りその檜山が俺達を守る。その事を思い出したのか舌打ちをし苦虫を潰した様な顔になったがすぐにニヤついた顔になった。なんてわかりやすい。そういう切り替えの早い所おいちゃんは好きよ。
「仕方ねぇ奴だな。約束通りしてやるから雑魚なお前らは俺の活躍を指加えて見てろよ」
「おーおーイキってるねぇ。 んじゃまその時はよろしく頼んますよ」
完全に調子に乗ってるが檜山はこれ位持ち上げた方が動きが良くなるし行動も読みやすくなる。後は口車に乗せて今日の訓練を調子よく順調に頑張ってもらうようにしよう。
オルクス迷宮に挑むときは受付で出入りをチェックしなければいけないらしい。迷宮は薄暗い洞窟ではなくまるで博物館の様に入場ゲートがあり制服を着たお姉さんがステータスプレートをチェックしていた。何で面倒なことをしているのかなぁーとぼけた頭で考えていると
「戦争を控えているから死者を多く出さないためじゃないかな?」
とは南雲の談だ。なるほど納得である。となると戻ってこなかった人間はロスト扱いになると…中々怖いな。
迷宮の前広場には露店が所狭しとあり、まるでお祭り騒ぎだ。ここで消耗品をそろえたり装備品の最終確認をするのだろう、時間があれば俺も見てきたいのだが…流石に自由時間はなさそうだ。また帰って来たら覗いてみるとしよう、もしかしたらいいお土産品があるかも?
「見て見て柏木君。ゲートの脇の窓口」
南雲促され入り口付近の窓口を見て見るとそこには素材の売り買いをしていた。遠目なのであんまりよくは見えないが、魔物の牙や毛皮、爪等々いかにもと言う素材のやり取りをしている。
「僕達が倒した魔物の素材をあそこに持っていけばお金が入るかも?」
「良いなそれ。程よく懐が温まったら露店にでも行って何か買おうぜ」
「うん、頑張らないとね。…僕達でできるか不安だけど」
「大丈夫だって、それより魔物の素材と言えば魔物って食えるのかな?」
「え”!?…無理だよ」
なんと!?ファンタジーなら魔物の肉は食えるのが定石ではないのか?ちょっと楽しみにしていたんだけど、魔物を食べるライトノベルや漫画もあるんだし食べらるれるんじゃないのと視線で南雲に訴えれば溜息が返ってきた。
「僕もそう思って調べてみたんだけど、
「マジか…ちょっと楽しみにしていたんだけど…さきっちょだけなら」
「ダーメ。駄目なものは駄目なんだから諦めて帰って来たらそこら辺の露店で美味しい物でも食べようよ」
「へーい」
駄目押しされては仕方がない、諦めることにしよう。でもなんでかなぁー呆れて説明している南雲を見ていると何故か魔物肉にがっついている南雲の姿が浮かんだんだけど…気のせいかな?
何だかんだともたもたとしていたが、いよいよ入りました今回の訓練場所であるオルクス迷宮。中は意外にも明るく辺りを見回すことができる。緑光石と言う鉱石が光って仲が明るいとか何とか南雲が言っていたが詳細は覚えていない。
「ちゃんと説明は聞いておこうよ…」
溜息を吐いてくる親友をスルーして俺達は隊列を組みメルド団長の後ろをカルガモの様にひょこひょこあるく。まるでお上りさんだ。
で、実地訓練と言うとはっきり言えば俺たち以外のクラスメイト達はいかんなくそのチートの戦闘能力を発揮していた。
天之河はやたらと光る剣をぶんぶん振り回し坂上もこれまた拳をぶんぶんと振り回し同じく八重樫もクッソ中途半端な刀モドキをぶんぶん振り回し魔物を驕っていた。
「ぶんぶんって…嫉妬が表面に出ているよ」
他の奴らも順調だった。近藤や永山も問題なく魔物をぶちのめし檜山に至ってはカサカサ動き回って騎士団の人たちをげんなりさせていた。本人は気付いていなかったがアレはゴ○ブリだ。そのうち黒い檜山と呼んであげよう。
そう言えば遠藤も魔物の意識外からの奇襲を連発させていた。俺の見た限りではなかなかの動きだと思うが騎士団の人たちからお褒めの言葉をもらっていなかった。影が薄いからね。ショボンとしていたし後でねぎらって置こう
「魔法ってばチート」
「僕も使えたらなー」
後衛組もまた魔法の威力をこれでもかってぐらいに魔物相手に発揮していた。意外や意外に治癒術師であるはずの白崎は攻撃型の魔法も使えるようで谷口や中村と一緒に魔法を発動して魔物をまとめて灰にしていた。他の方々もこれまた問題なく野村は岩石を操ると砲弾の様に射出し中野や斎藤も以下同文。意外と地味だったのが吉野さんだろうか。まぁあの人は付与術師だからね。武器に魔法を込めるのが主だから少しばかり地味になってしまうのは仕方ない。
で、肝心の俺達だが…
「うーん。ちょっと手間取ったかな」
そういって汗を軽くぬぐうは我らが親友南雲ハジメ。非戦闘職業である南雲はなんと錬成の能力を使って魔物の動きを封じ込めナイフでめった刺しにするという戦い方を披露したのだ!はっきり言ってドン引きである
最もアランさんがかなり弱らせた魔物を用意して、動きが鈍ったところを封じ込めたってのがあるし遠距離用の武器を何故か渡されなかったってのもあるしそもそも俺達非戦闘職業だから小細工を弄するのは何も問題ないのだが…だからと言ってめった刺しはいかがな物でしょう。しかも躊躇なし!
(おじさん、おばさん、ごめん俺南雲を止めることができなかったよ…)
心の中でおばさんたちに謝る俺。いつの間に親友は一線を飛び越えていったのだろうか。日本に帰ったら心療内科に行くことを視野に考えた方が良いかもしれない。又はカウンセラー
さて、ここまでぐだぐだとクラスメイト達の戦闘を見てきた等の俺だが…
「先生!お願いします!」
「しゃおらっ!」
「流石先生!お見事な手さばきで!」
檜山にすべて丸投げしていました♪ アランさんが弱らせた魔物を俺のと所へと誘導させるが約束を交わした檜山が横からかっさらうように着々と撫で切りにしていきます。いくら魔物が弱っているとはいえほぼ檜山の無双状態である。つーかアイツマジで強ぇ…
振るう剣に一切の躊躇が無いのか瞬く間に魔物の手足を切り飛ばし、どこでそんな動きを覚えたのか壁蹴りまで披露している。…言いたくはないが正直カッコイイ。
「檜山!なにをやってるんだ、それじゃ柏木の訓練にならないぞ!」
「あぁん?駄目っすよアランさん。コイツは生産職。そんな奴の為に労力と時間を割るより俺みたいな強ー奴が強くなる方がよっぽど良いじゃないっすか~」
「むぐっ」
「アランさん大丈夫ですよ。ちゃんとニート教官に言われた体力づくりはしていますので。そもそも俺は後方支援生産職。戦闘は檜山達に任せて俺はおクスリを作っているのが本職ですから」
「ぬぬっ」
正論を言われてしまえばアランさんは言葉に詰まるしかない。と言うより戦闘に参加しない奴が訓練するよりバリバリの戦闘職の方が経験を積んだ方が良いのはよくわかっている筈だろうに。…もしかして俺や南雲、生産職の奴が戦闘に参加しなければいけないほかに理由があるのかな?…天職が作農師だった先生は除外されているのにね。
「はぁ…君達がそれでいいのなら俺も何も言わないけど。…副長に報告すると後が面倒そうだが」
「副長?」
「ハイリヒ王国騎士団メルド特務部隊副団長『ホセ・ランカイド』。団長の右腕であり、この世で怒らせたら一番怖い人ナンバー2」
妙に青い顔で教えてくれるアランさん。そう言えば団長や騎士の人達は見たことあるけど副団長は見たことが無いな。その疑問にアランさんは青い顔が抜けきらずに教えてくれる。
「君達が姿を見ていないのは団長がいつもしている事務作業を副長に押し付けていたからだ。この実務訓練も知ってはいるものの口を出せないほど悩殺されていてな…君達は合わなくてある意味良かったかもしれん」
「へぇ… そのホセって人どんな人なんですか?」
何やら苦労するかのような口ぶりが気になりつい件の副長とやらをアランさんに聞いてしまった。一応俺の番は終わったし今は移動中だ。檜山はいつの間にか中野達と合流していたのでちょっとした手持無沙汰だったのだ。
「そうだな、団長が飴ならあの人は鞭だ。厳しくて俺達騎士団員が最も恐怖する存在だ。…それ以上に尊敬しているがな」
「へぇ~メルドさんが優しい人だからその副長さんが脇を締めるような感じなんですね」
「その通りだ。だけど俺達からしてみればあの人もまた敬愛する上官なんだ。…こんな事副長には言わないでくれよ?可愛がられて訓練のメニューが割り増しされちまう」
苦笑するアランさんだが、その顔に浮かぶ敬愛や信頼は確かなものの様だ。…厳しい人は嫌われるのが普通なのだがよっぽどその副長さんは信頼されているらしい。どんな人なのだろうか
「この実地訓練が終ったら今後を見極める為に合う予定になってるからその時を楽しみにしておくんだ。…まぁ今の現状では戦闘職全員」
「全員?」
「っと。すまん」
どうやら口を滑らせそうになっていたのは戦闘職の奴らの評価の事だったらしい。どうにも歯切れの悪い言い方から見てアランさんは思う事があるらしい。って事は俺も?
「柏木君は…秘密にしておきたいんだが」
あたりをきょろきょろと見回して他の人達と距離がある事を確認するとこそっと耳打ちをしてきた。きっとそれはほかのクラスメイト達に聞かせたくない事。
「俺達が本当に欲したのは
そう言ってアランさんはどこか悲しそうな目で戦闘職の奴らを見ていたのだった。
訓練は順調に進む。杞憂するような事もなく誰かが危険に陥る事もなく。依然として俺は檜山に魔物の相手をしてもらっていた。
これでは訓練にならないという苦言もあるのは知ってる。何のためについてきたのか問われるのも仕方のない事だ。だけど考えてほしい。果たして俺が戦う事に意味があるのかと。
生産職が戦わないといけないという事はつまりそこまで情勢がヤバイと言う話になる。だがこの町しかり王都しかり、どこもかしこも追い詰められた特有の雰囲気が無いのは何故だろうか。魔人族の脅威があるはずなのにどいつもこいつも能天気な顔をしている。危険を感じていない腑抜けた面だ。そのくせ異世界人に自分達のために戦えと強制させて来る。
馬鹿だ。それもどうしようもないほどの。そんな奴らのために俺は…手を染めなければいけないのか?殺しを許容しなければいけないのか?それでもやれと言うのなら…
「とか何とかいってるけど、要はサボりたいだけなんだよね~」
流石に見てるだけなのはあれなので檜山が倒した魔物の魔石の回収作業をする俺。何でこんな事をするのかって?魔石は素材として重宝するらしく売ればいいお金になるそうなのだとか。という訳なので檜山が切り殺した魔物を腑分けしてせっせと回収するのです。
「ほぅ…柏木お前中々手際が良いな。腑分けをやっていたことがあるのか?」
「ん~?そんな事ないですよ。魔物の解体作業なんてこれが初めてですよ」
隣にいて感心するのはメルド団長。最初は天之河達の傍にいたのだがいつの間にかこっちにやってきたのだ。当の天之河達には今はアランさんがついている。
「初めてにしてはかなり上出来だと思うぞ。俺でもここまでは綺麗に削ぐのは…」
「はぁ」
褒めてくれるのはありがたいがそこまで言う事なのだろうか。肉の間に刃を入れ骨と脂と肉を分けその奥にある魔石を回収するだけなのだ。…言われてみれば腑分けなんて重労働でコツがいるのだからすいすい自分でも手際よく分けれるのは疑問に思うのだができるのだから仕方ない。血で汚れるのもすぐに慣れてしまったし。
「いつの間にか経験でも詰んでいたんですかね~っと取れた取れた」
魔物の死骸の中から魔石を取り出す。多少血で汚れているが拳より小さなそれは赤黒く輝いている。作業用の軍手を外し少しだけ手の平で転がす。なにせ日本ではめったにお目に掛かれない宝石モドキなのだからこれぐらいはいいでしょう。
「うへぇ~ 魔物の中にあったのに綺麗ですなぁ」
「うむ。これぐらいだと…余り大した額にはならんが集めればそこそこのルタになるだろう」
団長が言ったルタとはこの世界での通貨の名称だ。青、赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金の種類があり、左から一、五、十、五十、百、五百、千、五千、一万ルタとなっている。かなり都合の良い事に貨幣価値は日本と同じだ。それとも言語理解のお陰でそうなってるのかね?
「でもこれ集めるとそこそこの量になりますよ?流石に手荷物になるんじゃ?」
「ははは、まぁそこは我慢して持ち帰ってくれ、何せこう見えても俺たちの部隊は金欠でな」
苦笑いをするメルドさんはボカシながらも軍備にかなりのお金がかかると教えてくれた。何でもこの遠征でもそこそこの金が動いており実地訓練の合間にこうしてお金稼ぎをしておけなければ副長からどやされるのだとか。
考えてみればこの遠征かなりお金かかってるよな。馬車の運用費に二十数人の滞在費、おまけに宿は結構な高級宿っぽいからさらに掛かる。しかも滞在期間はどれくらいか分からんが恐らく1月はかかったとしても…凄い額が動きそうだ。
「…多少は土産を持って行かなければクドクドとお小言を言われてしまうからな。うむ、赤字より黒字になるくらいの土産を持って行かなければっ」
金欠騎士団ここに極まる。…多少は余裕があるのかもしれないが意外と生活がかかってるらしい。もしかしてそれ、俺たちがやってきたから?でもそういうのって国からお金が出るんじゃ…
「軍備に回される金は意外と少ないんだ。寧ろ俺達より神殿騎士団の方が贅沢で教会へのお布施も流れて結構の額となってる」
うへぇ、やぁねぇ金に執着する信者は。意外とどこの世界も宗教に金がかかるってのは似たようなもんなのだろうか。遠い目をして何故かお腹の音を鳴らすメルド騎士団長に憐れみの心を抱いて手に持っていた魔石を差し出す。
「これ、少ないけどお腹の足しにしてください」
「うぅ…ありがとう柏木。最近忙しくて腹が減っててな…ホント、俺はほかの奴らより喰わないと持たないのに」
涙を流すのではないかと思わせるほど哀感を漂わせたメルド団長はそう言って渡した魔石をしげしげと眺め呟いた後
「あぁ本当に―――――――
「ちょっ!?メルドさん!それ魔石です!」
ほんの一瞬目がギラリとなったメルドさんを揺すって呼び起こす。どんだけ腹減ってんだよ!?いくらなんでも魔石を食ったら死ぬぞ!
「―――……あ、ああ、すまん。どうかしていたな」
「はぁぁぁーーー お腹空いてんのなら地上に戻ってご飯にしましょうよ。昼飯や夕飯が美味しく感じますよきっと」
「そうだな… そうと決まったらもう少しだけ頑張ろうか。さぁ柏木ちゃっちゃと歩け。皆とはぐれないようにな」
魔石を大事そうに懐へとしまう中間管理職者の闇を垣間見た俺。普段はそんな姿を見せていなかったがきっと激務で脳が疲れてしまったのだろう。可哀想なことに毒物を美味しそうに見えてしまうメルド団長にせかされながらみんなの方へ歩いてくのだった。
……ゴリッゴリッ…バキッ……ゴクリ
二〇階層にたどり着き小休憩をとる事となった俺達。皆が思い思いの中休んでる中、俺はと言うと。
「おい柏木。さっさとお前の回復薬をよこせ」
「へいへい、これでもどーぞ」
「へへっワリィな。…かっーウメェ!五臓六腑に染み渡るってのはこの事だな!」
檜山に催促されて自分で作った回復薬モドキを檜山に渡していたのだ。王都でちょくちょくと作っていた市販の薬の真似物なのだが、どうやら檜山はこれをお気に召したらしい。なんでも疲れが取れる気がするとか何とか。
「柏木~俺にもちょうだ~い」
「お、俺にも」
「はいはいっと」
檜山の飲みっぷりを見て喉が渇いたのか斎藤と近藤からも催促されたので手渡す。これでももしもの事を考え多めに作ってあるのだ。アイテム士を舐めるなよっ
「中野、お前は要らないのか?」
「ああ、貰って置く」
ぐびぐびと美味しそうに飲んでる檜山達を見ていた中野に手渡す。が、飲む気は無いようでしげしげと瓶の中に入った回復材を眺めている。…変なもんは入っていないよ、ホントだよ?
「へい、そこのくたびれ少年ズ、薬はいるかい?」
檜山達の元から今度は永山組の元へ。重格闘家の永山を中心とした、土術師の野村、暗殺者の遠藤に治癒術師の辻さんと付与術師の吉野さんのパーティーだ。
「柏木の持ってるのって檜山達が飲んでるアレ?」
「そーだよ。勿論自前のがあるってのなら無理には進めないけど」
俺としても無理に飲んでもらおうとしているわけではない。気が向いたらと言う心配りだ。…決して自分の作ったもので褒められたいとか人によってどういう結果になるのかが気になるとかそういう事では無い。純粋な心配りだ。ホントダヨッ!
「俺は貰おう」
「お、即決かい永山。嬉しいこと言ってくれるじゃないの」
渡された薬をグビリと飲む永山、飲むのは大変うれしいのだがその腰に手を当てる動作は何なの?なんか風呂上がりの一杯と言う感じで妙におっさん臭い。
「美味いな」
「そうか?俺にはそんな感じしないけどなー」
「作った当人がそれでどうするんだよ…俺にも一つくれ」
「はいよ」
突っ込みながらも貰おうとする野村に薬を一つ手渡す。まだまだ在庫は豊富にあるので無問題だ。という事なので傍にいる遠藤にも手渡す。
「ほれ、きょーだい。お前は強制だ」
「きょーだいってやっぱりお前俺に対して妙に馴れ馴れしいな!?…って、お、俺に気付いた!?」
「「「「え、遠藤(君)何時からそこに!?」」」
「最初からだよっ」
皆に認知されない悲しみの業を背負う男、遠藤にもわけ隔てなく渡すのだが、皆はそこに遠藤が居る事に気付かなかったのでやたらと驚愕していた。…これイジメじゃね?違うの?
なんで皆が遠藤に気付かないのか疑問を抱きつつ今度は天之河グループへ。え、辻さんと吉野さん?断られてしまいました。まぁクラスメイトとはいえ、男が作ったもんなんて飲みたくはないよな。…ちくしょー
「へい、勇者様にそのお供達。お薬はいかがかな?」
「柏木か。俺はいいよ。そんなに疲れていないし調子がさっきからとてもいいんだ」
流石は勇者、疲れ知らずとはこの事か。見たところ本当に疲れている様子もなく体も好調そうだ。レベルでも上がっているのかな?そう言えば聖剣がどうたらと南雲が言っていたような気がする。天之河の腰に差している怪しく輝く聖剣が気になりつつ、坂上に八重樫、白崎、谷口、中村に聞いてみる。
「有り難く頂くぜ。…ウメェなこれ!?どうやって作ったんだ!?」
本当に驚いた様子で一気飲みした後大変ありがたいお言葉を残す坂上。製法は市販のものと変わりませんよー
「疲れた体に染み渡るわ…」
やたらと疲れた様子の八重樫さん。天之河と坂上のフォローで気疲れが酷いのだろう。よく見れば目に隈が薄っすらあり髪の艶も普段より衰えている様な… これは早急に化粧品の一つでも開発せねば、この年で皺だらけのおばちゃんになってしまう。
「私はいらないかな」
「え、えっと鈴は」
「もらうよ柏木君」
きっぱりと断った中村に対して迷っている谷口。まぁクラスメイトとは言え特に仲の良くない男からもらうもんなんて警戒して当然だ。八重樫?アレは疲労がピークに達している様なので例外だ。
そんな中唯一女子の中で速攻で受け取り薬をがぶ飲みしているのは白崎だった。飲みこぼれた液体を腕で拭い取るその姿は実に漢らしい…お前女子だろ。もうちょっと女の子っぽくできへんの?
「え、なんで?それより、流石は柏木君だね。もう二本ほど貰うよ」
俺が返答する前に薬を取っていく白崎。褒めるのは嬉しいし薬を取っていくのも別に構わないけど、どったの急に?
「分かんない。だけど、備えておけって魂が叫んでいるの」
「香織?どうしたの急に」
「何でもないよ雫ちゃん。…そう本当に何でもないんだよ」
良くは分からないが予備薬としてくれるのだろう。そう言えば昨日南雲に対してデジャブがあるとか遠くに行くだとか話していたな。女の感という奴かもしれない。何方にせよ有効に使ってくれるのなら俺としても本望だ。
「えっとね、その…もらってもいいかな柏木君」
「ええよ~」
もじもじと似つかわしくない行動をしていた谷口に薬を渡し、これで俺の仕事は終了となる。オッツカレシター
「ただいまー」
「お疲れ~」
南雲の元に戻ればこちらも回復薬を飲んで一息ついていたようだった。錬成は何かと魔力を使うらしい、そりゃ疲れる訳ですな。
「んで、お前の薬皆なんだって?」
「好評だった。俺としてはそこまで良いもの作った覚えないんだけどね」
何故かいた清水にそう返して俺もドカリと座り一息つけることにした。清水がわきわきと手を動かして催促してくるので投げて薬を手渡す。…なんかここまでくると薬ではなくドリンクを配っているみたいだ。
「実際これドリンクだぞ?味がモンスターエナジーっぽい」
「はぁ?嘘こけ俺がそんなもん作れるはず…」
清水の言葉に自分の薬を一口。 味は確かに炭酸の抜けたモンスターエナジーだった。なして!?いつの間に俺は調味料とかをすっ飛ばしてこんなもん作っていたの!?
「良くは分かんないけど、柏木君が作る物の有用性を皆知ったという事だね」
自分が作ったクスリに呆然としている俺に対してそう南雲はドヤ顔で語ったのだった。
一言メモ
ルタ トータスにおける通貨の名称。日本の通貨と同じような金額となっている!スゲェ!分かりやすい!…でも使う機会なんてそうそうない。
二刀流 100+100=1000!……???
副長ホセ 騎士団を纏める団長の次に偉い人。メルドから押し付けられた業務に格闘しながら罵詈雑言中。
魔石 普通の人が体内に含んだ場合体が崩壊していく。詳しくは原作を見て見よう!