ありふれたクラスは世界最凶!【完結】   作:灰色の空

12 / 70
次回一章最終話です。


平和は何時だって崩れ去る物なんだって!

 

 順調と言う登山から転げ落ちたのは何時頃だろうか、天之河が天翔剣を放ったから?それとも崩れた壁の中から宝石?が出てきたから?檜山がそれを回収しようとしてトラップに引っかかったから?

 

 …多分だけど最初からだと思う。騎士団と言うベテラン同伴で天職持ちが大勢で、雑魚を手間取らずに殺し続けていたせいで全員が慢心に陥ったんだと思う。よくある慣れてきた時が一番事故りやすい、という奴だ。

 

 天之河が狭い洞窟内で天翔剣を使い壁を崩してしまったのは、まぁしょうがない。一歩誤れば俺たち全員が生き埋めになるという悲惨な状況になってしまったかもしれないが皆無事だった。これはまだいい。ちゃんと反省しているみたいだし許してやろう、俺は心が広いんだ。

 

「あれは…グランツ鉱石か」

 

 崩れた壁の中から宝石の原石となるグランツ鉱石が発見されたのは、まぁ…都合がいいが偶然なのだろう。なにやら女性に贈ると人気のある宝石の原石らしく中々のお宝らしい。

 

「売れば金に…っと。みんな気を付けろ、ああいう手合いの物には良くトラップが仕掛けられている。アラン、反応はどうだ?」

 

「…フェアスコープに反応はありません。()()()()()()()()()()()()()

 

 迷宮の定番のトラップに関してはフェアスコープと言う優れものがありそれで罠を回避しているのだ。迷宮のトラップはほとんどが魔法を用いたものであるから八割以上はフェアスコープで発見できる。ただし、索敵範囲がかなり狭いのでスムーズに進もうと思えば使用者の経験による索敵範囲の選別が必要だ。   

 

 扱っているアランさんがそう判断していたので本当に罠は無かったのだろう。ほんの少し物欲しそうにしているメルド団長の顔に気付いたのかそれともほかに下心があったのか檜山がグランツ鉱石に向けて歩き出したのだ。

 

「罠がねぇんなら頂いても良いっすよね。俺が回収してきますよっと」

 

「むっ。…まぁフェアスコープに反応が無いのなら…少しは我が騎士団の軍備に、いやこの後の打ち上げに…」

 

「団長、そんな事を言うとまた副長からお叱りを受けますよ」

 

 何やら打ち上げがどうこう言ってる団長と呆れて苦笑しているアランさんを尻目に檜山は宣言通りに鉱石がある場所までひょいひょいと壁を登って行く。流石は俺が見たところクラス内で実力№3の男だ。

 

 誰もが檜山の事を止めなかったのは綺麗な鉱石を見て緩んだという空気があったのだろう。

 

 誰もが危険を感じなかったのはフェアスコープとアランさんの判断に信頼を置いていたからなのだろう。

 

 

 だが、現実は甘くは無かった

 

 

『僕がそんなつまらない事許すと思う?』

 

 

 檜山がグランツ鉱石を掴んだ瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして今、俺達は迷宮のトラップに引っ掛かり見たこともない場所へと転送されてしまった。これが危険のない場所だったのなら壁の中に転送されなくてよかったと冗談の一つでも飛ばせたのだが、周りの空気がそれを許さなかった。

 

 巨大な石造りの橋。ざっと100メートルかそれ以上の大きさで横幅も10メートかそれ以上。手すりなんてものはなく縁石もない。橋の下には何も見えず暗い深淵が広がっている。落ちたらどうなってしまうのかなど考えたくもない。

 

 それだけだったらまだマシだったのかもしれない。でも現実は非情で俺たちの前に強大な体長十メートル級の四足で頭部に兜のような物を取り付けた魔物が現れたのだ。オマケに追撃を掛けるかのように出口をふさぐように魔法陣が無数に表れそこから動く骨の魔物の集団も同時に。

 

 

 

 

 

「グルァァァァァアアアアア!!」

 

「あ……う…」

 

 その魔物の咆哮を聞いて俺は情けない事に死を連想してしまった。自分があの巨体に踏みつぶされ虫けらのように死んでしまうのを連想してしまったのだ。

 絶望とはきっとこういう事を言うんだろう。メルド団長が呟いて凝視している大型の魔物『ベヒーモス』。RPGではよく聞くその魔物は圧倒的な存在感と威圧感を放っていた。

 

(あれは…駄目だ!)

 

 ニート教官からは敵と対峙するときは敵の力量をよく見て観察する事だと言っていた。その心構えが本当の意味で分かった。あれは…マズい!

 

 俺の本能が心が魂が喚く

 

(逃げろ!逃げろ!今すぐここから逃げるんだ!)

 

 しかし後ろには遊いつの出口を阻む様に大多数の骨型の魔物が行く手をさえぎっていた。

 詰み。その言葉が俺の頭の中をよぎる。死にたくない。ここから逃げたい。叫ぶ心とは裏腹に足は竦んで動かない。

 

「嫌だ…死にたくない…まだ死ねない…誰か…」

 

 周りを見るも皆、恐怖で混乱し好き勝手に動いている。誰もがパニックに陥っていた。

 

「グォォォオオオッ!!」

 

 ベヒーモスが叫ぶ。それだけで生きたいという気持ちが抜け萎え絞っていく。このままこんなところで終わってしまうのか。…これじゃ何のために俺はこの世界に…

 

 

 

「柏木君ッ!!しっかりして!!」

 

 

 

 絶望と言う言葉に力が抜けていく時だった。肩を掴まれ大きな声で叫ばれる。ハッとして肩をつかんで正面にいる相手を見る。そこにいたのは親友の南雲だった。冷や汗をかいている物の顔はまだ挫けてはいなかった。

 

「南雲あれは駄目だ…みんな…ここで死ねんだ」

 

「そんな事は無い。僕がさせない」

 

「何で、何でそんなこと言えるんだ お前もあれの強さがとんでもないって分かるだろう」

 

 口から出てくるのは何とも情けない言葉。でも仕方がなかった。死という絶対的なものが目の前にあるんだ。恐怖で俺は何もすることができない。気のせいか涙が出てくる。

 

「そうだね。確かにアイツには僕たちは敵いっこない。でもまだ生きている。だから全部を諦めるのはまだ早いよ」

 

 情けない俺に南雲は苦笑しながら優しく声をかける。その声は言葉は震えて怯えている俺の心にしみこんでいく。

 

「何で…」

 

「ん?」

 

「どうしてお前はそうやって笑っていられるんだ? こんな状況なのに、もしかしたら死ぬかもしれないのに」

 

「…それはね」

 

 俺の問いかけに恥ずかしそうに笑った南雲は真剣にしかしどこか悪戯っぽく笑うと囁いた。

 

「君がいるから。だから僕は大丈夫なんだよ」

 

「……なんだそれ」

 

「君と一緒ならどんな事でも案外何とかなるんじゃ無いかなって本気で思うんだ。さぁ立ち上がって生きてここから帰って、一緒にふざけあって馬鹿なことをやってゲラゲラと大いに笑ってこの世界を楽しもうよ。まだまだやりたいことはいっぱいあるんでしょ?」

 

 『一緒に馬鹿をやって大いに笑いあう』その言葉は不思議と俺の中にすんなりと染み込んでいく。言葉と南雲の思いに感化されたのか俺の中で知覚できなかったナニカが騒いでいるような気がする。気が付けば体の震えは止まっていた。

 

 そうだ。俺は死ねない。こんなつまらない所で死ぬわけにはいかない!もっともっと人生を楽しむまで俺は死ねないんだ!

 

「……あのなぁ、いきなりクサい言葉を使うなよ…照れるだろ?」

 

「あはは、でも柏木君の調子が戻ったのなら言った買いがあったね」

 

「ああ、大丈夫ってのにはいささか不安があるがな。 …ありがとよダチ公」

 

 気恥ずかしそうに肩をすくめる南雲にニヤッと笑うと、懐にあった俺の最高傑作『深夜のテンション!』を飲む。 どうせビビッて何もできないのならハイになるしかない。もう一つのオクスリは今はまだお留守番だ。

 

「ふぃーー……ああたぎってくるなぁおい!んで状況はっと」

 

「皆大パニック状態。このままじゃもう持たないかもね」

 

「目を背けたくなる説明ありがとよ!」

 

 荒ぶるテンションにHAIになってくるのを感じながら今もなお混乱しているクラスメイト達を見る。今は前線で戦いながらアランさんが必死に混乱している皆に声をかけまとめようとしているがパニックになって好き勝手戦っている皆には響かない。まぁ仕方ないよな今まで命の危機に瀕したことなんてなかったんだから。

 

「あーもう滅茶苦茶だよ。こんな時にこそ必要な勇者様はどこに行ったんだ?」

 

「あっちの方にいるよ」

 

 南雲が指さすところへ視線を向ければ、ベヒーモスの前でなんかメルドさんと言いあっていた。正直邪魔になっていない君ぃ?

 

「何やってんだアイツ?馬鹿なの?死ぬの?」

 

「一番力がある自分がベヒーモスと戦わないとって思っているんじゃないの?間違ってはいないんだけど…」

 

「いかにも天之河らしい考え方だ」

 

 アイツはきっとベヒーモスさえ倒せば何とかなると考えたのだろう。そうかもしれない、でも天之河は個人で動いてはいけないんだ、自覚があるかどうかわからないがアイツは()()()()()()()()()()()()()()()があるんだから。

 

「さて、どうする?」

 

「僕が天之河君を引っ張ってくる。柏木君は皆をお願い」

 

 これからどう動くべきか。目で南雲に問いかければ、なんと天之河の説得は自分ですると言う。危険な所に迷わず突っ込む当たりコイツの肝はどうなっているのやら。…もしかして全身肝だったりして

 

「分かった。っと南雲回復薬はしこたま飲んでいけ」

 

「サンキュー」

 

 かばんに入っているお手製魔力回復薬を南雲に渡す。この際ケチってはいけないバンバン使うのみだ。なにせまだ在庫はあり、俺がいる限り()()()()()()()()のだから。

 

 魔力が回復したのか目に活力が入っている南雲と向き合う。もう時間は無い、さっさと行動しければ、皆終わりだ。

 

「じゃ行ってくるよ」

 

「分かった…南雲」

 

 拳を前に突き出せば親友はすぐに察したのかニヤリと笑って拳を合わせる。どうでもいいけどそのニヤリとする顔は全然似合わない。南雲には苦笑が似合っているといつか教えてあげよう。本人は嫌がるかもしれないけど

 

「抜かるなよ」

「そっちこそ」

 

 拳を突き合わせ俺達は背中を向け別々の方へ走り出す。南雲は天之河を呼びに、俺はクラスの皆を纏めるために。

 

 

 

 

 

 

 南雲と別れた俺は比較的近くにいた二人の元へと向かった。女子2人組で困惑と恐怖に飲まれそうになっている二人の元へ、スライディングを骨へとぶちかましながら気軽に挨拶。

 

「ぃよう!谷口!中村さん!元気にしていたか!」

 

「「か、柏木君!?」」

 

 2人は周辺を見回しながらどう動けばいいかわからない様だ そりゃそうだ、何せいきなりこんな変な場所にワープされたのなら誰だってそうなる。実際俺も混乱していたしな、直ぐに冷静に動ける南雲ってばほんとチート

 

「2人とも怪我はないか?無事か?立てる?歩ける?」

 

「う、うん私も鈴も無事だけど…」

 

 だけど行き成りすぎて如何すればいいのかよく分からないって所か。いつも一緒につるんでいる天之河達はベヒーモスの所でまごついているし、皆の所はパニック状態。どっちへ向かえばいいのか咄嗟の判断は難しいかも。

 

「なら、二人ともまずは出口を確保しよう。皆を落ち着かせて力を合わせるんだ」

 

「皆…出来るの?」

 

「するんだよ。兎も角二人とも先にアランさんの方に行って指示を受けてくれ。多分それが一番堅実だ」

 

 今声を張り上げて皆に指示を出そうとしているアランさん。あの人なら俺達をうまく扱えるはずだ。何せニート先輩曰くあの人こそが次の団長候補らしい。人の扱い方や指示だしなんて俺達よりよっぽどうまいに違いない。地味な印象かと思わせておいて次期団長候補なんて凄いな!

 

 二人に指示を出し、次にパ二くってるやつの所へ向かおうとしたらクイッと引っ張られる感触がした。何だと振り向けば谷口が涙目で俺を見上げていた。…不謹慎だがカワイイッ!

 

「柏木君…鈴たち…死なないよね」

 

「うん?そりゃそうだろ。こんな糞みたいなところで死ぬわけないじゃん。大丈夫、一時間後には太陽の光を浴びているさ」

 

 身近にある死の恐怖に怯えてしまったのか、谷口は涙目でそう尋ねてきた。谷口は見た目小さい女の子だからこうやって見ると幼い少女に見えてしまう。そんな事を考えていたのか気が付けば頭をぐしゃぐしゃと撫でまわし元気づけていた。

 

「さて、俺はもう行かないと。中村さん、谷口の事を頼んでいいか」

 

「うひゃっ!?」 

「え、あ、うん。分かった」

 

「よし、じゃあまた後で。さっさ脱出して無事だったら甘いもんでも食おうぜ」

 

「……うん」

 

 未だ震える谷口をを中村さんに託す。多分この人なら何だかんだで切り抜けるだろう。死霊術師だし …ん?死霊術師ならアンデッドに分類される骨の一体や二体操れるのでは?多少の疑問を浮かべながら俺は次のクラスメイト達へと向かって走り出すのだった。

 

 

 

 

 

「クソ、クソこっちに来るんじゃねぇ!」

 

「うわぁああああ!!!!」

 

 剣を滅茶苦茶に振り回す檜山と狂乱しながら槍を振り回す近藤。近づいたのはいいが出てくる魔物の数に完璧に錯乱している。今は何とかなっているが流石にこのままじゃヤバイ!現に骨の一匹が檜山の背後から剣を振りかぶっている

 

「檜山うしろだ!」

 

「っ!こ…っこっちにくんなぁ!」

 

 俺の声には後ろを振り返った檜山。しかし咄嗟の事で対応が遅れてしまう。いままさに骨から攻撃を食らいそうなる檜山。だがそんな事はさせん!

 

「おおおおおぉぉおおお!!」

 

 雄たけびをあげ思いっきり振り上げた拳を骨にぶち当てる。骨は完全に檜山に注意を向けていたので奇襲は成功!俺の一撃を受けた骨は頭蓋骨陥没となった。そして俺の拳もボロボロの血だらけになった。

 

「か、柏木!?」

 

「何こんな雑魚を相手にもたついてんだよっ!!それでも戦闘職かよお前ら!」

 

 回復薬をカバンから取り出し自身の手に乱暴に振りかけながら檜山達を叱咤する。無理矢理攻撃したからか裂傷でグズグズになった手は見る見るうちに治っていく。痛みを全く感じ無いのはアドレナリンが大量に出ているからか。

 

「おい近藤!」

 

「な、なんだ!?」

 

「なんだその腰つきは!いくらなんでもそれじゃいつまでも女のアソコに入れる事ができねぇ童貞坊主だぞ!」

 

「はぁ!?」

 

 未だ震えながらおぼつかない手つきで槍を突き出す近藤に檄を入れる。折角の槍使いだというのに突きの一つ一つに腰が入っていないのだ。呆れの一つも出てきてしまいそうだ。実際出てるけど。

 

「槍術師なんだろ!お前の肉棒さばきはそんなもんなのか!そんなヘボな槍さばきすんなら今日からお前のあだ名は皮つき短小君にすっぞ!」

 

「お、おおお俺のナニが短小だって!?」

 

「ならご立派な肉棒さばき見せてみろよ!骨の一つも満足させれねぇんじゃこの先女なんてできねぇぞ!」

 

「言いやがったな!」

 

 文句を言いつつもさっきとは比べ物にならないぐ槍さばきで骨を撃退していく近藤。俺の言葉に奮い立つことができたのってもしかして…後で謝っておこう。ほんとゴメン…

 

「斎藤なにやってんだよっ!馬鹿かお前は!」

 

「こっちは真剣にやってるよ~!『風刃』!」

 

 中野が放った風の刃は2体の骨を切り裂いていく。なるほどなるほど流石は風術師。風の切れ味は中々のものだ。でも違うよね。

 

「だからそれがおかしいんだよ!いい加減気が付けよ!」

 

「何がさ!何にもおかしくないじゃん!っていうか柏木こそ何か変だよ!」

 

「ヤク決めてHAIなってるだけだ!そんな事より魔法のチョイスが駄目なんだよ!」

 

 斎藤。お前の風魔法が凄いのはよく知ってる。風の刃の切れ味が天之河並みだってのもちゃんと理解している。でも今使うのはそれじゃないんだ。

 

「何で風で骨どもを吹き飛ばさないんだよ!橋の上なんだからふっ飛ばして落とせばそれでいいだろうが!いちいち風で細切れにするよりはるかり効率がいいだろ!?アイツら体重軽いんだから!」

 

「……あ」

 

「え?マジで気付かなかったの?馬鹿なの?死ぬの?死ねよ」

 

「~~~い、今からふっ飛ばせばいいだけの話だよね!」

 

 顔を赤くして反論しながら詠唱を開始する斎藤。これできっと大丈夫だ。人間パ二クってしまうと思考が狭くなるもんね。仕方ない仕方ない。

 

「で、さっきからサボってる中野は何してんの?」

 

 気怠そう、又はやる気が無い。そんな風に見えるほど中野は適当に火の球を投げていた。見るからに本気じゃないのはその顔から丸わかりだ。最も檜山達とは違って動揺は微塵、も感じられないが。

 

「あーあんまりやり過ぎると加減が難しくなっちまってな、この場にいる全員が灰も残らない様に…まぁ楽にこいつら倒せたら苦労はしないっての」

 

「………なよ」

 

 火術師と言うやり方ひとつで無双できるはずの天職を持ちながらそれは無いだろ。思わず出てきてしまった言葉はなぜか…

 

「あ?」

 

「諦めんなよ、諦めんなよお前!どうしてそこでやめるんだそこで!もう少し頑張ってみろよ!ダメダメダメダメ諦めたら!頑張れ頑張れできるできる絶対出来る頑張れもっとやれるって!やれる気持ちの問題だ頑張れ頑張れそこだ!そこで諦めんな絶対に頑張れ頑張れ!」

 

「うるせぇな…ってお前レネゲイドウィルスが」

 

「もっと熱くなれよぉぉおおおおおお!!!!!!!」

 

「はぁ、どうなっても知らねぇぞ」

 

 俺の声でようやく火が付いた拳を振るって骨をこんがりと焼き砕いていく。アイツ術士の癖に意外と白兵戦も行けるんだな。流石は中野だ。それに比べて…

 

「おい檜山」

 

 檜山大介。俺の代わりに魔物を殺し、クラス内での実力№3位で、調子に乗り安いが確かな強さを持つ男。それなのに今は見る影もなくみっともなかった。

 

「何してんだ。こんな雑魚相手になに手間取ってんだ?」

 

「うるせぇ!知った風な口を開くんじゃねぇ!」

 

 喚くように声をあげやたら滅多に骨を相手に剣を振り回す。しかし悲しいかな余りも大ぶりなそれは素人丸出しで、俺が強い失望を感じさせるのには十分だった。

 

「さっきまでの調子に乗ってイキって無双していたのは何なんだ?こんなのがお前の本当の実力だとでも言いたいのか」

 

「あんだと…何もできねぇ奴が偉そうにほざくな!」

 

「言いたくもなるわ!あれだけ…あれだけカッコいいと思っていたのにそれがお前の限界なのかよ!笑わせるな檜山ぁ!」

 

 骨をなんとか倒した檜山の胸ぐらに掴みかかる。今はこんな事をしている場合じゃない。そう頭の片隅がささやいているのだがどうにも心が止まらない。それほど今の只の雑魚相手にへっぴり腰をしている檜山にショックを受けていたのだ。自分でも驚くほどに

 

「不敵に笑って人を馬鹿にしていたお前が!只の経験値如きにビビってんじゃねぇぞ!」

 

「さっきから言わせておけば…テメェ!」

 

 怒り心頭と言った顔で檜山もこちらの胸ぐらを掴んでくる、でもそのまま殴って来ないのは檜山自身自覚しているからか。だから俺は想いを吐き出す。お前はこんな所で簡単に躓くような男じゃないだろという勝手な期待を押し付けるかのように。

 

「俺は弱い。多分この場にいる誰よりもだ。だから…俺の代わりに戦ってくれ檜山。何も出来ない俺に変わってお前が戦うんだ」

 

「……クソがっ!」

 

 突き飛ばす様に胸ぐらを手放すと骨に向き合い剣を力強く握った。気のせいか檜山の背中から揺らめくようなものが見えてしまう。

 

「…やってやるよ。ああくそっ!やりゃあいいんだろコイツら全部!だったらやってやんぜ!」

 

 ベヒモスに負けないかのような大きく自らを鼓舞するような咆哮を上げ檜山はアランさんたちの方へと突き進んでいく。慌てて近藤もその背中を追い続いて斎藤も。

 

「へぇ…アイツを焚き付けるのは難しいと思ったが、やるじゃないか」

 

「そんな事は無い。ただ思ったことを言ったまでだ」

 

 檜山は強い。本人は自覚しているのかしていないのかわからないがこれから先どんどん伸びていく。それがこんなくだらない骨を相手にして縮こまっているのがあまりにも残念で仕方なかったのだ。

 

(…人を煽る事でしか役に立たない奴が随分と偉そうに言うなぁ)

 

 本当は俺だって戦って皆を助けたいけど、たかが知れている。口先だけで人を動かす俺は何時からこんな無責任な男になってしまったのだろう。…父さんが知ったら悲しむだろうなぁ。

 

 遠い故郷にいる最愛の家族の顔を思い浮かべ俺は戦場を走り回る。できる事をするために。

 

 

 

 

 

 

 

 

「清水君!しっかりしなさい!」

 

「もう駄目だぁ…おしまいだぁ」

 

 ヘタレ腰になってる最後のクラスメイト清水は園部さんから何度も声を掛けられているが反応が無くうわごとを繰り返しているだけだった。もちろん俺が到着しても以前変わりない。

 

「おい清水何ヘタこいてんだ!今こそカッコつける時だろ!」

 

「勝てるわけがないんだぁ…」

 

 何故か知らないが先ほどから聞いたことがある様なうわ言ばかり言ってる……実はコイツ結構余裕があるんじゃね?さっきからどうにもワザと言ってるとしか思えない言葉の数々。本当はこの時を狙っていた?

 

「柏木君!?清水君がさっきから動かかないの!」

 

 ああ、園部さん。腰を抜かしたコイツが心配になってんだね。でもそんなに張り切らなくても案外こいつは大丈夫かもしれないよー。

 

(って言えたら良いんだけどねぇ…しょうが無い、恨むなよ清水?)

 

 とは言え、恐怖で怯えているのはまた事実。俺は南雲からの言葉で立ち直りプライドの高い檜山は煽って奮起したが清水はそう上手くはいかない。いつも偉ぶってるけど所詮は普通の高校生、無理もない。状況をすぐに判断をした俺は懐から秘蔵の『深夜のテンション』を掴み中身をすべて清水の呆けた口に中に突っ込む。そして鼻を掴み顔を無理矢理上に向かせる。はーいおクスリのお時間でちゅよーいい子だからごきゅごきゅしましょうねー

 

「ウボッ!?ウッゴゴオウウ!?」

 

「ちょ、ちょっと柏木君何やってんの!」

 

「へっへっへ。ほほぅ体は正直だな、上の口はよほど欲しがっていると見える」

 

 鼻から液体が洩れて苦しそうに呻いている清水に無理矢理薬を嚥下させる。園部さんが何やら言ってるがこの際無視だ。そして哀れ全部を飲み切ってしまった清水は…

 

「うひょひょひょひょ!!くぁwせdrftgyふじこlp!!!」

 

 何という事でしょう奇声を上げアランさんの所へと突っ込んでいってしまった。皆の方へはしていったので結果オーライという奴だろう。我ながらほれぼれする薬を作ったもんだ。大量生産することも視野に入れなければいけないな!

 

「……うわぁ」

 

「さ、園部さんもさっさと行くべ!」 

 

 園部さんのジト目が突き刺さるが気にせずアランさんの方へ走り出すの俺だったのだ。 

 

 

 

 

 

 

 

 清水の後を追いアランさんの所へ着いた時にはかなりの激戦と化していた。前衛組が踏ん張って骨を押しとどめ後衛組がもたつきながらも詠唱をして魔法を放っている。先ほどかき集めたクラスメイト達が中心となっているが流石に現状ではいささかまずそうだ。 

 

「アランさん大丈夫ですか!」

 

「柏木君か!君はそっちの子たちの治療を頼む!」

 

 指揮をしているアランさんに指示を仰げば負傷しているクラスメイトの治療を頼まれる。一体誰が怪我をしているのかと見れば野村が血を流している腕を抑えその傍で辻さんが真っ青な顔で治癒魔法の詠唱をしようとしている。

 

「の、野村君…わ、私詠唱が」

 

「大丈夫っ! 俺は、へ平気だから…痛っ!」 

 

 何とか治癒魔法を唱えようとしている辻さんだが野村の出血が予想以上に酷く腕を真っ赤に染めなお地面へと流れだしている血の量を見て 狼狽しているようだ。…考えてみればクラスメイトの皆が今まで苦戦も怪我も全然なかったんだ。治癒術師と言っても辻さんは現代日本の女の子。流石に重症の怪我を直せと言うのは酷な物か。

 

 まぁ俺がいる限りその心配は無用なんですけどね!

 

「へいっノムさん!助けに来たぜ!」

 

「柏木!?」

 

 滑りこむようにして野村に近づき有無を言わさず腕の容体を見る。なるほどこれは酷い。骨に切られてしまったのか前腕部分が思いっきり裂けてしまっている。繋がっているのが奇跡的にさえ見えてしまうひどい怪我だった。平常時だったら卒倒もんですなこりゃ。

 

「ちょいと染みるぜ」

 

「おまっ待って…イギッ!?」

 

 押さえつけていた手ごとこれまた有無を言わさず回復薬を遠慮なくぶっかける。傷に染みてしまったのか滅茶苦茶痛そうな顔をするが、我慢しろぉ耐えれば快感になるぞ~。

 

「つぅ~いきなり怪我人に液体ぶっかける馬鹿がどこに居やがるんだ!」

 

「いるさ!ここに!」

 

「この馬鹿ぁ!」

 

 憎まれ口をたたけるなら案外余裕がありそうだ。次々と回復薬を掛け、包帯の準備をする。殺菌等はこの際、我慢してもらうとして応急処置は手早くしなければっ!

 

「あれ…痛くない?」

 

「どうだ~効くだろぉ俺のオクスリはよぉ~」

 

 押さえつけていた手を外せばそこには怪我の後は残る物の先ほどよりは大分マシな腕の具合になっていた。……本当に今更だけどこの世界の回復薬って何で出来ているんだ?怪我の修復って魔法的に塞いでいるのか?それとも新陳代謝を上げているのか?もしかしてもしかして俺の作ったものがやばすぎるのか?…帰って時間的余裕があるのなら検証をしなければ。

 

「後は包帯を巻き巻きしてっと。しかしまぁノムさんがこれほどの怪我をするとはねぇ」

 

 野村の天職は土術師だ。石を操ったり土人形を作れたりなどの魔法を使う天職だがら後衛にいるのが基本なのだが混乱しているときに襲われたのだろうか

 

「野村君の怪我は…私をかばって出来た怪我なの…私のせいでっ」

 

「辻さんをかばって?」

 

 青く血の気を失くしたように語る辻さん。呟く言葉で想像すると混乱していた辻さんが骨に襲われそうになっていた所に野村が身を挺して庇ったのだろう。野村の顔を見れば、俺の推測は当たっているようで、辻さんを慰めようとあたふたしてやがる。

 

「いやっアレは咄嗟だから俺は何も考えなくて、辻さんが悪いわけじゃなくて、えっと」

 

「でも、私のせいで野村君が」

 

 野村は辻さんの事が好きだ、日本にいた時からクラスの男子内ではそれが知れ渡っている。そんな好きな女の子をかばって怪我をするとはカッコいい野郎だ。でも今は緊急事態なのでそんな青春物語は帰ってからやってください。俺も協力いたしますので。

 

「はいはいお二人さん。誰が悪いとかそういうのは今は良いんで、後で好きなだけやってくれ」

 

「ちょっ!?柏木そんな言い方は無いだろ!」

 

「今は生きるか死ぬかだってば。それより野村怪我はどうだ?まだ痛むか」

 

「…多分大丈夫。流石に岩を動かす魔法は集中できないから無理っぽいけど」

 

「よし、ならお前も戦線に参加しろ。土術師の本領を発揮させるチャンスだ」

 

「つっても岩を飛ばすのは無理って…」

 

 野村に頼みたいことは簡単な事。土術師しかできない簡単で複雑な事柄。きっと野村ならできる筈。

 

「岩なんていらねぇよ。小石…砂利でもいいや。それを作り出してあの骨どもの足元で適当に動かしまくれ」

 

「はぁ?…まぁそれなら何とかなるけどそれでいいのか?」

 

「甘いぜノムさん。足の踏み場ってのは案外重要だぜ」

 

 ニート教官に教えられたことで、自分の移動する足場をよく理解しておけと言う教習があった。何でも新米兵士にありがちなのが敵とにらみ合いになった時足元がおろそかになったせいで躓き敵の先制攻撃を許すことが多いとか何とかと言う話があったのだ。   

 

「幸いにもあの骨どもは二足歩行だ。俺達より足の面積は少ないが絶えず動き回る砂利を避けるほどの足さばきは無いと見た。そこでお前の砂利だ。何でもいいから動かしてアイツらに尻もちを付けさせてやれ」

 

 体勢を崩した骨に前衛の一撃は確実に効き、地の利は俺達がとる。…多分これでいいはず。

 

「辻さんはノムさんがぶっ倒れない様にサポートしてくれ。コイツ一人じゃ無茶をするが辻さんの前なら無様な真似は出来ないからな」

 

 そして辻さんには野村のサポート。何処に砂利を出せばいいのか教えたり倒れそうになったら魔力回復薬を渡すだけでも違う筈。

 

 …最もサポートと言う名の待機なんだけどな!今の辻さんの精神状況ではヘタに動き回るよりその場にいた方が被害は少ない。動けなくなってしまった仲間は働く仲間の邪魔にならない様に動かないでおきましょう! 

 

「うん…わかった」

 

「よしっ!それじゃあ俺は前線に」

 

「あ、その前にアイツらを見てやってもらっていいか柏木」

 

 意気揚々に前線に戻ろうとした時、野村に指をさされ視線を向けた。そこにいたのは…倒れている相川にへたり込んでいる玉井と、仁村だった… 

 

 

 

 

 

 




一言メモ

フェアスコープ 騎士団が所持しているトラップ検知用の道具。遠征に出る前に検査して置いたもので不備は無かった。

グランツ鉱石  女性に贈る贈答品として良質な鉱石。売ったら結構な額になるらしい。

ベヒモス  本来六十五階層に出てくる魔物。…という名の舞台装置。

薬は無限にできる  ラストエリクサー症候群とは無縁である。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。