ありふれたクラスは世界最凶!【完結】   作:灰色の空

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これにて一章終了です。


運命を変える

 

 

「うぐっぐぶぅ」

 

 とめどなく溢れる赤い液体…血が俺の口から胸から流れ出ている…止血、手当、死。単語が頭の中をよぎる。激痛を堪えながら後ろにいるこのでっかいアクササリーを作った奴に裏拳を放つ!

 

「くそがぁぁああ!!」

 

 バキリと言い音を立てて俺の胸に刃物をぶっ刺した骨は頭蓋骨を粉砕していった。ざまぁみろと嘲笑をしたいところだが息が出来なくなり蹲ってしまう

 

「柏木君!しっかりして柏木君!」

 

「へ…うるせぇ…聞こえて」

 

 口から出たのは強がる言葉、でも本当は痛くて痛くて堪らない。漫画やゲームでよく見た痛さがこんなにも苦痛なものだったとはわからなかった。

 涙と冷や汗が止まらない、痛い、痛いんだ。動くたびに血が噴き出て呼吸が辛い流れ出ていくものが自分の命にかかわるものだと分かっているのに止められない

痛い痛い取って今すぐ、治して誰か助けて!

 

「応急処置…駄目だ回復薬は無い、柏木君のは…無い、使い切ったのか」

 

 南雲の声が途切れ途切れに聞こえる、人の胸に刃物が生えているというのにその冷静さは助かる、でも早く助けてほしい。

 

「くそっ!まだやってくるの!?」

 

 霞む目で前を見ると骨が数体こちらにやってくる。魔法陣はまだ消えていない。…失態。その言葉が俺の頭を駆け巡る。油断をしていたのだ、こちら側に来ないだろうと…思っていたのだ。

 

「肩を貸して柏木君。ここから抜けるよ!」

 

 蹲る俺の傍にしゃがみ込み肩を貸して俺を無理矢理立ち上がらせる南雲。苦痛で顔が歪む。動かさないでほしいんだお前にはわからないだろうけど傷口が広がっていくんだ。…命が流れていくような気がするんだ

 

「うぁあ…痛てぇよぉぉ」

 

「痛いよね…でももうちょっと我慢して。必ず僕が君を助けるから」

 

 引きずられる様に移動していく。体も足も動かしたくない呼吸でさえ傷に響くのだ。…でもそれでも進まないと2人とも死んでしまう。痛い体に鉄串を刺されたような内臓を掻きまわされている様な、思考がまた壊れていく、考えがまとまらない。今考えるべきは…骨がこちらにやってくる。南雲は気付いていない

 

「…ぁ……ほね…き…」

 

「大丈夫!僕じゃ無理だけど皆が居るから!」

 

 その言葉と同時に骨の数体が吹き飛んだ。まるでそれは風に煽られるように。…遠くの階段近くで斎藤がこちらを指さしている。その横には清水が大声で何かを叫んでいた

 

「…!……!!…!!!」

 

「斎藤君や清水君が魔法を撃ってくれている。皆が僕達を助けようとしているんだ!」

 

 骨が黒い影に覆われる、風によって吹き飛ばされる、小石が当たっても気にせずやってくる。そんな骨を水が押し流す。

 

「…はや…こい!…るんだ!」

 

「…か…君!頑張って!」

 

「にゃる・しゅたん!ふたぐん!にゃるらと!」

 

 一歩一歩進むたびに声が聞こえてくる。それは男の声だった、少女の声だった、馬鹿の叫び声だった。待っている奴らが居る。傷が痛み意識が遠くなりそうになるとその声で呼び戻される。

 

「み……ん…な」

 

「あともう少しなんだ…っ」

 

 俺を引きずっている南雲の声に焦燥の色が混じる。流れ出ている俺の血の量はそれほどやばいのだろうか、痛みをもう感じなくなってくる。気のせいか肌寒い、それなのに頭のどこかは嫌に冷静だった。

 

 引きずられる様にして数分だろうか、それとも数十分だろうか、突如大きな音と共に南雲の足が止まった。

 

「なんで…こんな所で!」

 

「どうし…た」

 

「橋がっ! あっちまで行けない!」

 

 意識を総動員させ頭を振るい目を開けると、其処には四メートルほどの穴があった。正確に言えば俺達と出口までの通路が壊されていたのだ。 

 

 とてもでは無いがジャンプでは届かない。こんな時に限って自分たちの身体能力が低いことが悔やまれる。そこそこの力があれば飛び越えられるかもしれないのに。

 

「うしろぉぉおおおお!」

 

 目を見開き唾を飛ばしながら奇声を上げる清水。チラリと向けばなるほど、骨が群れを成してやってくる。それが武器を構えゆったりと歩いてやってくるのだから何と悪辣な事か。

 

「どうする…どうやってここを乗り越えられる。僕のこの力なら…でも制御できるの?この正体不明の…」

 

 南雲のつぶやきが聞こえる。錬成に何か秘密でもあるのだろうか。

 

「クッソ!離せお前達!あいつ等は俺が救う!」

 

「黙ってくださいこの糞脳筋団長!貴方が行っても着地の衝撃で橋が崩れるかもしれないんですよ!自分の質量考えてください!」

 

 メルド団長とその部下たちが何やらもめている。騎士四人がかりで絶対に行かせまいと必死になってメルド団長にしがみついている。

 

「畜生!斎藤お前風術師なんだろ!?飛べねぇのかよ!?」

 

「出来ないよそんな事!」

 

「えーっとえっと そうだ誰かロープを持っていない!?あっちに投げるのは私がするから柏木君と南雲君の体に巻き付けてこっちに手繰り寄せれば!」

 

「優花そうは言ってもそんなロープ誰も持っていないよ!?それにそれだと柏木君が持たない!」

 

 クラスメイト達はざわざわと騒ぎ案を出して俺達を助けようとしている。

 

 

 皆が俺達を助けようとしてくれている。それでも時間は刻一刻と迫ってくる。

 

 

 …ここまでなのか?ここで俺は終わるのか?これじゃ何のために生きて…

 

 

 

 

「――――――」

 

 ふと熱を感じた。身を焦がすようなのに不思議と身体の奥が温まる様な暖かな熱気を。

 

 体の奥から感じる熱の原因を探す様に視線を向ければそこには…中野が居た。こちらに視線を向けて何かを言ってる

 

「――――――」

 

 口角をあげ嗤っているよう見えても何を言ってるのかはわからない。でも中野から発せられる熱は俺の体に入り込んでくるように感じるのだ。それは冷えた体が温まるかのように、熱の力を己の力に変えるかのように…機械にガソリンを入れるかの如く、中野から贈られる熱は俺の力になっていく。

 

「は…はは」

 

「柏木君…?」

 

 あの生きた炎に何をされたのかはわからない、もしかしたら気のせいかもしれない、それでも何か激励をもらったような気分だった。もはや胸に刺さったままの剣など、どうでも良くなってきた。頭の中も熱く燃え上がるかのように上がってくる。体中から湧き上がる力を持って俺はしっかりと南雲を掴む。

 

「え…まさか」

 

「歯ぁくいしばれよぉぉおお!!」

 

 なんてことはない、俺がするのはとても簡単な事、持ちうるすべての力を持ってして南雲を全力で一切の加減もせず脳内リミッターを外して皆の所へ向かってぶん投げたのだ。

 

「俺も…行きますか!」  

 

 後ろからとガチャガチャ音が聞こえる。体中に巡る熱のお陰で痛みは吹っ飛んでいる、南雲がどうなったかと確認する間もなく俺も一気に助走つけ飛び上がる!

 

 ふわりと浮く感触。対岸にいる皆の驚く顔がとても滑稽でなんだか笑えて来る。どこかゆっくりとした映像の中そんな事を考えながら手を伸ばして…

 

(あ、…届かない)

 

 あと少しが届かない、自身の跳躍力は確かに上がったがあと少しが足りない。落ちる…奈落の底へと落ちてしまう

 

 

 

 

 

「うわぁぁああああ!!!」

 

 ガシッッ!!!

 

 だが、俺の落下は止まった。落ち行く俺の腕を清水が身を乗り出して掴んだのだ。

 

「し…みず」

 

「離すな!離すもんか!うばぁああぁあわああぁぁあ!!」

 

 奇声をあげ涙を流し涎や唾をまき散らしながらそれでもしっかりと両手を使って俺の腕をつかんだのだ。しかし勢いをつけすぎたのか上半身の殆どが身を乗り出している。清水の馬鹿野郎そんな体勢じゃ…お前も落ちて

 

「やるじゃねぇか清水!お前ら、清水を引き上げるぞ!」

 

 酷く男くさいこの声は…坂上か?見れば清水の足を坂上が掴んでいる。その坂上の後ろには永山がいて…男連中が引きずりあげようと声を出している。

 

「いよぉし!よくやった龍太郎!重吾、アラン!お前たちも手伝え!」

 

 メルド団長の声が聞こえる。同時に清水の体が引き上げられ俺も一緒に地上へと…

 

 

 

 

 

 

 

 何とか引き上げられ地面に寝かされる。周りには騎士団の人がいて、その後ろにはクラスメイトが居る。…でも誰が誰なのかもう区別がつかない。

 

 だって俺は…

 

「!?―――!!!――――!!」

「―――!?――――!!!!!!!」

 

 靄がかかったような視界に誰がそばにいるのかわからないのだ。何を言ってるのかも聞き取れない。血を流しすぎたのだと、どこかで冷静な頭がそう判断していた。

 

 

 体温が急激になくなってとても寒い…でもなんだか温かいような気がする。

 

 

「―――」

 

 聞こえない、見えない。これが死ぬという事なのだろうか。それはなんて寂しくて…悲しいのだろう

 

 

「………」

 

 ………言葉が出てこない、揺さぶられていてももう反応する体力が無い。走馬灯のように思い出すのは…

 

 

『まぁ君の願いはともかく そうだね、二度目の人生楽しんできなよ。なんだかんだ言っても人生は楽しまなきゃね』

 

 そうだ、俺は…()()はまだ楽しんでいないのだ。こんな所で終わる訳にはいかないのだ。まだやりたいことが一杯あるまだすべきことがある。

 

 

 生きたい!ここで終わるわけにはいかない!死にたくなんて…無い!

 

 

「………」

 

 

 でも体はもう動かない。伸ばした手は何もつかめない。

 

 

 

 

 

 そうして

 

 

 

 

 

 自分は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…よっと」

 

 それはその場にぬるりと落ちてきた。しなやかな体を持つそれは何でもない様に上層へとつながる階段付近に音もなく落ちてきた。

 

「行きましたか?…行きましたよね」

 

 確認する様に階段の奥へと視線を向け奥には誰もいないことを確認するとそれは体をググッと伸ばした。

 

「んん~っと。 まぁあの人たちは大丈夫でしょう。出口までの掃除はちゃんと済ませましたし、あの騎士団長もいるのでどうにかなる筈でしょう」 

 

 そうして一呼吸したそれは丁度数十分前まで少年が倒れ伏していた場所まで軽い足取りで近づいた。

 

 その場所では数十分前に騒動が起きていたのだ。トラップに引っかかった一団が死力を尽くした脱出劇。巨大な魔物と大軍の魔物に挟まれた大イベント。しかし今はもう誰も彼も居なくなっており物音一つなかった。

 

「~~♪」

 

 鼻歌を歌い、とても上機嫌で先ほどまで血だまりだった地面へとぺたんと座った。目の前にはおびただしい量の血が地面に広がっている。先ほどまで少年が流していた物だった。惨劇の余韻がまだ終わっていないことを示しているかのように乾いていない血を指でなぞりながらそれは口角を上げた。

 

「いやはや、こうなるとは…流石ですねっ」

 

 気分よく言葉を吐き出すと地面に這わせた指先に付着した血痕を愛おしそうに見つめる。それは、ひどく慈愛に満ちた目付きだった。

 

「運命を変えるのならば相応の代償は必要になる物です。それをよくもまぁ…」

 

 指先に付着した血痕をそのままそれはペロリと舐めた。途端に電気が走ったかのように体をびくりと震わせ表情を零すそれ。甘く刺激に満ちたとても()()()()衝撃が脳髄に響き渡ったのだ。

 

「ああ…美味しぃ…体に馴染むとはこういうことを言うんですね。ううむ、しかしここまで馴染むとは、実によく馴染むぞーー……」

 

 言い切った後にすぐさまキョロキョロと辺りを見回す。気恥ずかしそうに頭をポリポリと掻いたソレの頬は少しばかり朱色になっていた。

 

「…我ながら実に変態チックですねぇ。まぁ手遅れなほどに変態ですけど」

 

 気を取り直す様にして立ち上がると先ほどまで死闘を繰り広げていた橋をしげしげと見渡す。その翠の目は憧れと歓喜と希望を含んだ少年のようにキラキラと輝いていた。

 

「カッコよかったですね、思った以上に」

 

 思い返すのは奮闘した少年の姿。ソレは見ていた。少年がくじけそうになったのを親友によって奮起したのを。クラスメイト達へ声を掛け死地から生き残ろうと奮闘していたのを。

 

「勇ましかったですね、想像以上に。」

 

 戦えないと分かっていても少年は抗った。我武者羅でそれでも必死で。 

 

「…立派でしたね。抱きしめたくなるほどに」

 

 想像以上で期待以上でもあった。だからひたすらに愛でたくなった。自身の使命も目的すらどうでも良くなるほど。 

 

「よく頑張りました。貴方は知らないだろうけど私は貴方の事をちゃんと見ていましたよ」

 

 愛おしそうにつぶやき思いを馳せる。決して届かないなんてことは十分によくわかっている。それでも感情は留まる事を知らないのだ。

 

 

「おめでとう。貴方は運命を変えた、筋書きを変えた…茶番劇を滅茶苦茶にした。今までは予定調和だったけどこれから先は未知の領域になる。…貴方が望んだように」

 

 仲間達に背負われ運ばれていった少年にソレは言葉を告げる。聞こえ様が聞こえまいがもはやどうでも良い。銀糸の髪を指先でいじりながら微笑む。

 

「これからどうなるのでしょう?どうなっていくのでしょう?貴方の掴んだ未来は不透明で私の知る世界とは違っていきます」

 

 翠色の目を輝かせワクワクが止まらないとでも言いたげにそれは笑っていた。まるで楽しみがようやくやってきたといわんばかりの笑顔で。 

 

「楽しみです。貴方を呼び出してしまったこの世界が、関わっていく人々が…運命どう変わっていくのかが、私は本当に楽しみなんですよ?」

 

 虚空へ向け言葉を吐き出すと…それは踵を返した。後はもう用が無いといわんばかりに。

 

 

「…これにて序曲は終わりを告げます。次は一体どうなるのか、私も貴方の『―――』として見守らせていただきますよ。」

 

 

 

 

 

 その一言を告げ、ソレは暗闇へと消えて行く。後に残されたのは無音と暗闇の空間だけだった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちょっとしたネタバレ

南雲君はちゃんと助かりました。奈落へ入ってません。


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