やりたいことがものすごく多いのでとてもながーーーーーーーーーい章になります。そしてまだ完成していないという…
なんにせよ今後もお付き合いよろしくお願いいたします
無事帰還!…なにがあったんだろうね?
『やぁ、ひとまずはお疲れさまって事かな』
『返事はしなくていいよ。色々と大変そうだしね』
『それより聞いてほしんだ』
『色々考えたけど、僕も
『やっぱ見てるだけはつまらないんだ。勿論君の邪魔はしないよ』
『……うん。返事が無いって事は良いって事だね。それじゃあ良い異世界生活を』
目を開ければそこは知らない天井と良く聞く表現があるのだが、俺は何時も眠っている人が仰向けだとは限らないのではなかろうかと考えたことがある。
「……」
まぁ何が言いたいかと言うと、ぼんやりとした頭で目を開ければそこは俺の知ってる部屋だった。より正確に言えば二週間近く滞在していた部屋だというのが正しいが…
「…はぁ」
溜息一つ出す。ふかふかのベットでもっと眠りたかったが頭はどんどん覚醒してくる。仕方ないと思いつつもさっさと起きなければ。
「おはよう。よく眠れた?」
のそりと体を起こす俺に声がかかる。傍から聞こえてきたその声の主は親友の南雲ハジメだった。ベットの近くに備えられている椅子に座っていて、どうやら俺が目覚めるのを待っていたみたいだ。
「あー多分よく眠れた」
「そう…まぁ三日も寝ていればそうなるよね。それで体の調子はどう、傷む所ある?」
「…?」
三日も寝ていた?それに痛むところとは何だろうか、一応体をペタペタと触って確認するが問題はなさそうだ…が
迷宮 トラップ 橋
大きな魔物 襲い掛かる無数の骨
そして堕ちて行く南雲
「っ!?」
途端に思い出した。そうだ!俺達はあの時トラップに引っかかって、それで橋の上で死闘を繰り広げていたんだ!そして南雲を助けようとして…骨に後ろからぶっ刺されて…
大慌てで自分の身体、特に穴をあけられたところを確認する。なにせ胸から剣が生えていたのだ。致命傷の騒ぎではない。
「あれ…塞がっている?」
胸に大穴を開けられたはずなのだがそこには何もなかった。恐る恐る来ていたシャツをめくり上げると多少の傷跡があるだけで完全に傷は塞がっていた。
「あの時の事、思い出した?」
「あ、ああ」
こっちは狼狽しているのに南雲はなぜかとても落ち着いていた。その余裕が恨めしい。だが今は何よりも説明がほしかった。皆は無事なのか?一体どうやって脱出できたんだ。そもそも俺の怪我はどうやって治ったんだ?
「まぁ落ち着いて。一応確認しておくけど、どこまで覚えている?」
「えっと南雲を助けて、骨に刺されて…橋が崩れていたからお前を投げてジャンプして…そこら辺からよく覚えてはいないな」
「…そっか。じゃあ説明するよ。あの時何があったか、一体何が起こっていたのか」
そう言って深く息を吐いた南雲は静かに語り始めた、あの時何が起こったのかを…
「それじゃあ」
「あ、ちょい待って」
「なに?」
「お前があの時何で残っていたのか俺知らないんだけど」
「殿をしていたんだけど」
「その理由は?天之河は一体どうして遅れていたんだ?」
「…はぁー」
(?結構怒ってる?)
「分かった。あの時君と別れた時から話すことにするよ」
柏木と別れた後、ハジメはベヒモスと対峙している光輝への元へと走った。クラスメイト達が混乱しているのを早急に立て直すにはリーダーの力が必要だと感じたからだった。
件の勇者はすぐに見つかった、しかし様子が何やらおかしい。どうやらメルドと口論しているようだった。
「だからさっさとアイツらの所へ行け!ここは俺達が引き受ける!」
「行けません!貴方達を置いてはいけない!」
話の内容からしてメルド団長と傍にいる騎士団のを置いてはいけないという事だろうか。なるほど、実に光輝らしいと ハジメは思った。騎士団の人達を置いて自分たちだけが助かろうとは思っていない辺り実にらしい。しかし今見る限りでは騎士団の人達だけでもベヒモスを抑えられそうだった。
メルドを除く三人の騎士がスクロールを使い障壁をを作りベヒモスを押しとどめている。今はまだ大丈夫でもしかしいつまで続くのかという懸念が残りそうな状況。
すぐさま南雲は光輝の前に飛び込んだ
「天之河君何やってんの!早くみんなの所へ行って!混乱を抑えて逃げ道を作らないと!」
驚く一行を無視して簡潔に説明する。皆が混乱している事、逃げ道が塞がれて脱出が出来ない事。分かりやすく伝えたつもりだった。現に傍にいた八重樫は事の重大さをすぐに理解していたようだった。
しかし当の光輝は後方を一瞥しただけで何故かベヒモスに向き直った。
「大丈夫だ南雲。皆は強い。俺は知っている。だから大丈夫なんだ!」
「はぁっ!?」
あの状況を見てどうしてそんな事が言えるのか。光輝の目には確かに混乱しているクラスメイト達がみえていたはずだ。それなのにどうして…八重樫も同じ疑問を持ったのか光輝に詰め寄りクラスメイト達を指さす。
「何言ってるのよ光輝!貴方がリーダーなんでしょう!?皆を助けに行かないと」
「雫こそ何を言ってるんだ。皆の実力ならあんな魔物に後れを取る事は無い。今は動揺しているけど直ぐに落ち着いて対処できるさ、それよりアイツの相手は俺がしないと…」
雫の言葉に不思議そうに返す光輝。その顔には一切のクラスメイト達への心配がなく、逆に絶対的な信頼という感情が見て取れた…不自然なほどに。
「おい、それよりもさっさとアイツをぶちのめしてやろうぜ光輝。さっきから腕が鳴って仕方ねぇんだ!」
「…龍太郎。そうだな、お前が一緒なら俺達は勝てる!」
坂上の言葉を受け、ベヒモスに向き直り聖剣を構える光輝。その顔にはクラスメイトの心配は微塵もなく強敵へ立ち向かうために怪しく光り輝く聖剣を向け覚悟を決めた勇者の姿があったのだ。
「…はぁ?天之河がそんなトンチンカンな事を言ったの?」
南雲の話を聞く限りでは、俺達の事を放っておいてベヒモスと対峙していたと言うのだ。そんなにアホな事をする奴だろうか…確かに少々独善的で人の話を聞かないところのある奴ではあるが、
「言ったさ。それでベヒモスに挑もうとしてメルド団長に怒鳴られて、…何やかんや時間を使ったからベヒモスが吶喊してきてわやくちゃになってきて僕の錬成でベヒモスを足止めにすることになったって感じ」
…コイツ、説明が面倒になったな!嫌そうな顔で言うのは当時の状況を思い出したくないからだろうか。細かい所…坂上が相手との力量差を図れない奴だったのか?とか八重樫さん結局天之河の手綱をとれていないんだねとか白崎お前結局何もしていないじゃんとか、気になるところはあるけどまぁ大体の事は分かった。
「今になって何であんなおかしな事を言ってたのか何となく理由がつかめたけど、それでもアイツは周りを見なきゃダメなんだよ…ったく」
「ま、まぁそう邪険にしなさんな。っていうか理由知ってるの?」
俺の問いに頷き恐らくだけどねと前置きを置く南雲。何か原因でもあったのだろうか。
「アイツの持っていた聖剣。恐らくアレが嫌な方向に馬鹿に力を与えたんだと思う」
「聖剣?…あーなんか特殊な力があるって言ってたな」
天之河が持っていた光り輝くTHE・聖剣と言った感じの長剣。迷宮に行く前に誰かがその聖剣の説明をしていたようだが…何だったっけ?
「光属性の性質が付与されていて、光源に入る敵を弱体化させると同時に自身の身体能力を自動で強化してくれるという聖なる力(笑)を持った剣だよ」
「それのどこが原因なんだ?」
「大ありだよ。自動で相手にデバフを与え自分にはバフがかかるんだから、自分と相手の力量差が分からなくなるんだよ。あの馬鹿はまんまと嵌っちゃったんだ」
あーつまりそういう事か。天之河は自分がどんどん強くなっていって相手が弱いもんだから、段々と力量差が分からなくなったんだな。んで天之河の性格上、皆も訓練中はさほど苦戦していない事を見ているから、強くなってると勘違いして…
「今までずっと順調だったんだ。自分達は強く苦戦もない。だから自分と同じように仲間達も強くなってると勘違いする。…自分と同じように強大な敵に立ち向かえると思ったんだあの馬鹿は」
勘違いを正すのは時間がかかる。説得をするにも天之河は基本的に自分の考えを強く持つ。そうして、天之河は皆に振り向くことなくベヒモスと対峙したんだ。皆ならきっと魔物に後れは取る事が無いって。
「仲間の信頼こそが勝手な思い上がりだったんだ。皆はあの馬鹿のように突出していない。それをちゃんと把握するのがリーダーで天之河の役目なんだ。それを放棄して、絶望的な敵に立ち向かう勇者ごっこに興じてしまった。…本当に馬鹿な奴」
はぁーと大きな溜息を吐く南雲。直に天之河の失敗を目にしたからかさっきから天之河に対するディスがとても酷い。…こんな誰かの悪口を言う南雲は見たくないなぁ
「あのー南雲さんや。そこまでにしておきましょうや。この話はあくまでも憶測で、もし当たってたとしても人間誰しも失敗はするんだから」
「その失敗のせいで君が死にかけたんだよっ!アイツがちゃんと指示を出していれば!」
南雲の剣幕に一瞬ビクッと身体が跳ねる。南雲との付き合いは短くてとても深いがここまでの剣幕は初めて見た。俺が驚いたことに我に返ったのかばつが悪そうに顔を顰める南雲。
「…分かってるよ。天之河に八つ当たりしても意味が無いって事ぐらい。それに天之河が直接的な原因じゃないって事も。…でも本当にアイツがもっとシャンとしていたら君があんな目には…」
あ、これは駄目だ。ネガティブに思考が進んでいる。南雲は普段は落ち込むことは少ないけど一度挫けるとどんどん悪循環へ加速していくのだ。このままだと天之河に悪感情を募らせ溝が大きくなってしまう。
「あーああー えっとそれで天之河達が何をしていたのかは分かったんだけど…そうだ!俺の怪我!あの時どうやって治してくれたんだ?正直かなりやばいと感じていたんだけど…」
確か覚えている範囲では、俺の身体から立派なトンガリものが生えていたのは確実なのだが…うぇぇぇ思い出すと吐き気がする。
「大丈夫?白崎さん呼んでくる?」
「あー平気。それより話を続けてくれ。俺は清水に引っ張られたのは覚えているけどお前は…」
そこで南雲を見るとこれまた物凄い複雑な顔をしていた。色々と感情が煮詰まれてどう表現したらいいかわからないって顔だ。…さっきから南雲の顔が一向に晴れないのが凄く悲しい。
「はぁ。……それじゃあ君にぶん投げられた後のことを話すね。…正直思い出したくもないけど」
南雲のため息がとても重い。部屋の空気も重くなる中、あの時何が起きていたのか話が始まるのだった。
「歯ぁくいしばれよぉぉおお!!」
柏木にぶん投げられたハジメは空中で手を伸ばしていた。思いっきり投げられたはいい物のあと少し距離が足りないのだ。
(駄目だ…このままじゃ!)
もがくようにして手を伸ばすハジメ。しかしあと少しが足りない。このまま奈落へ落ちていくのではと思った瞬間
「うぉぉおおお!!」
「…え?」
雄たけびと同時にしっかりと手は握られたのだ。ハジメはその手を握った人物があまりにも以外過ぎて呆けた声を思わず出してしまった。
「おいっ!阿保面してねぇでさっさと上がって来い!」
「…檜山君」
ハジメの手を握ったのは檜山だった。必死な声とその表情に余りにも以外過ぎてハジメは少々現実感がつかめなかった。
嫌われていると感じていた。実際日本にいたときは多少の悪態をつかれる時もあり、自分自身からかう事も多かったので助けてもらえるとまでは考えたことが無かったのだ。それに、白崎の事もある、檜山は白崎に好意を抱いていることは薄々ハジメ自身知っていたのだ。
だからまさか助けてくれるとは思わなかったのだ。
「檜山君…どうして君が」
「……」
檜山に続き近藤、斎藤に引きずりあげられ、荒い息を吐いている中ハジメは檜山に何故助けたのかを問うが檜山は苦い顔したまま何も答えなかった。その表情に違和感を持つが誰かの叫び声にすぐにハジメの意識は離れた。
「おい柏木!しっかりしろ!」
メルドの野太い声が響き渡る、そしてハジメは思い出した、自分を助けてくれた親友が致命傷を負っているのを。
「柏木君!」
すぐさま親友の元へ駆け寄るハジメ。集まっていたクラスメイトをかき分け見た現状は酷い物だった。
「そ…んな」
背中から串刺しにされた剣は引き抜かれたのか胸から血が容赦なくあふれ出ていた。出血の量が酷いのか倒れている柏木の周囲に血が滲み広がっていく。それは素人目から見ても余りにも致命傷でしかなかった。
「柏木、血が、血が溢れて」
「うっ…おぇぇ」
「柏木君…そんな」
「か、回復薬…誰か」
先ほどまで元気に動いていたはずの柏木の凄惨な状況に周りの皆が混乱している声が南雲の耳に聞こえてくる。それはようやく自分たちがどんな状況でどんな場所で生きているのかを自覚したような声だった。
「ベイル!回復薬をありったけ持って来い!イヴァン傷口をもっとしっかり押さえろ!カイル念のため周囲の偵察をして来い!」
混雑する状況の中メルドは部下たちに檄を飛ばしていた、呼ばれたイヴァンが必死になって柏木の傷口に布を押し付ける。その押し付けられた布が赤く鮮血に染まっていく中ようやくハジメは我に返った。
「柏木君しっかりして!」
飛びつくように倒れ伏した親友に呼びかける。だがその声は聞こえていないのか柏木は荒い呼吸で虚空を見ていた。こちらに意識を向けていない、即ち何も聞こえていないのだ。呼吸の度に胸から流れ出てくる血の量が増える。
ついほんの数時間前まで一緒に笑いあっていた親友は今死に瀕している。その事実がハジメに冷静さと混乱を招き起こす。
(どうすれば…どうすれば助けれるんだっ!?このままじゃ…このままじゃ!)
焦る。考えている時間の一秒一秒があまりにも惜しい。どうすればよかったのかという後悔と今どうすればいいのかという焦燥。 二つの感情にむしばまされながら出した結論は、
(駄目だ…僕じゃあ何もできない!)
自分ではなにも出来ないという残酷な答えだった。この世界で手に入れた『錬成』という力も、最近自覚し始めてきた体内に宿る未知の力も親友を助ける能力では無かった。
自分は何もできない、だからハジメは自分でどうにかしようとするのを諦めた。そして自分の力になってくれるであろう少女に協力を求めた。
「白崎さん!柏木君の事をお願い!」
白崎香織。自身の元ストーカーで現クラスメイト。何故か自分に好意を抱いている不思議な女の子で、天職が治癒術師である今まさにこの場で誰よりも助けとなる人物だった。
「…っ うん分かった!」
だがその少女は何故か顔を真っ青にして頭を押さえていた。ハジメの呼びかけに正気に戻ったかのように数度頭を振ると、柏木の傍に座り込む。
「………『治癒』」
詠唱は小さく素早くハジメの耳には聞こえなかった。白崎の手からあふれた光が柏木の胸に吸い込まれていく。
「やったか!?」
メルドのどこか安堵したかのような声。だが、なぜか出血が止まらない。胸の傷も塞がることなく、顔色も依然として白いままだった。
「どうしてっ!?」
確かに治癒魔法は掛けられたはずだった。それなのに柏木の容体は一向に変わらない。魔法については未だ疎いが今ので確かに傷は治るはずだった。そんなハジメをよそに香織は何度も治癒魔法をかけ続ける。
「はぁ…はぁ…お願い治って…柏木君」
だが駄目だった。何度魔法をかけても柏木の傷は治らないのだ。香織の顔色も白くなっていき魔力切れも時間の問題だった。
魔法も駄目、薬ももうない…詰みだった。
「そんな…誰か、誰か助けてお願いだから!」
涙が出てきた。親友は死にかけているのに自分は何もできない、助けを求めても周りも見渡しても誰もが悲痛な顔をしていた。中には涙を流している者さえいた。
「助け…て……死にたく…ない」
どこか遠くを見つめながら柏木が手を伸ばす。涙でくしゃくしゃになった顔をあげハジメは咄嗟にその手を掴んだ。力を失っていくその手を握りしめ叫ぶ。
「死んじゃ駄目だ!こんな所で…生きて、お願いだから…」
握られた手に力が無くなっていく…呼吸が浅くなっていく。それが何を意味するのかハジメは頭の片隅で理解する。しかし心は否定したかった。
「生き…て…ま…だ……」
そう言い終わるうちに声が途切れた …手はもう動かなくなっていた。信じられない様に親友の顔を見る。メルドが首筋の脈を図り…悔しそうに首を横に振った。
「嫌だ…嫌だ嫌だ!どうして!何で!何で君が死ななきゃいけないんだ!」
涙が溢れ、息をしなくなった親友に縋りつく。数時間前までは笑いあっていた親友はもう動かない。その事をいや応なく理解しても涙は止まらない止まるわけがない。
沈痛な雰囲気が辺りを包む。誰もが言葉を失っていた。先ほどまで笑いあっていた友人の死を嘆くハジメに誰もが声を掛けられなかった。
「すまん坊主…これは俺の失態だ」
メルドが心底悔やむ声で謝り気遣うように肩を触れてくるがそれもハジメにとってはどうでも良い事だった。自分の大切な親友がこんなどうでも良い所で死んでしまったのだ。
「うぅ…お願い…助けて……誰か、柏木君を…」
死人は生き返らない。それがハジメが知ってる常識であるしこの世界でも変わらない真実だった。
だが、その根底は覆される。ハジメは親友の死を見た瞬間、本当の意味で非日常の扉を開いたのだ。
「え…俺死んだの?マジで?」
何やら大層な引きを残した南雲だが、聞いている俺からしてみればいったい何のこっちゃという話である。しかし我らが親友南雲はマジな顔で頷いた。
「マジ。ピクリとも動いていなかったし、血もドバドバ出てた。誰がどう見たって死んでた」
「えぇー」
どうやら俺氏死んだらしい。…胸をペタペタ触るがそこに穴は勿論血も出てい無し寧ろ怪我一つない。…死んだというのなら何故ワタシハイキテイルノデショウカ?
「それも含めて話すってば。あのね話は最後まで聞こうよ」
「あ、はいすみません」
怒られた。確かに話の腰を折ったのは俺だがそんなに怒らなくても…
「……?」
どれくらい泣いていたのだろうか。数時間も泣いていたように感じていたが本当は数分だったのかもしれない。ふと周りから声が聞こえないことにハジメは気が付いた。先ほどまでは騒音が確かにあったのに…
「みんな…?」
周りを見渡すと時が止まったかのようにクラスメイト、騎士団の人たちまでもが心ここにあらずと言った様子でぼんやりとしていた。それは横にいるメルド、香織も例外ではなく、ほぼ全員が自失呆然と言った様子だった。
「ふん、やっぱり《ワーティング》内でも行動できるんだなお前は」
その中でただ一人だけハジメに歩み寄ってきた人物がいた。
「…中野君」
クラスの転校生中野信治だった。この異常な状況の中ただ独り落ち着いている。困惑するも何が起きたのかと問いかければ薄く中野は笑った。
「これからすることを見られると面倒だから少し意識を外してもらった。…安心しろ、誰も怪我一つない」
そう言って柏木の傍に座り込む中野。ぼんやりと虚空を眺めるクラスメイト達に騎士団、そのどれもが異常な状況を自分が作り出したと話す中野は一体何をしようとしているのか、そもそもいったい何者なのか。疑問が膨れ上がるが次に出た言葉でハジメはその疑問を追いやってしまった。
「今からコイツを蘇らせる。離れていろ」
「よみがえらせるって、どうやって」
「俺の炎を使って無理矢理こいつのレネゲイドウィルスを叩き起こす。まぁ俺達オーヴァードが持っている《
何を言ってるのか、その言葉は中野が生み出す炎によって出てくることは無かった。片手から燃え上がった火は奇妙な輝きを放っていて何故だが本能的に恐怖を感じさせるものだった。
揺らめく炎を宿した手をを柏木の心臓へとそっと置く中野
「ほんっとにコイツは面倒を掛けさせやがって…まぁいい、これで貸し借りなしだ」
言葉と同時に中野から生み出された炎は心臓へと伝わり中に入っていく。異様な光景だった。炎に炙られれば炙られるほど柏木の顔色が良くなっていくように感じるのだ。
「さて、そろそろお目覚めの時間だ。とっとと起きろこの寝坊助野郎!」
最後に炎の拳を柏木の胸に叩きつける。それで最後だった、開けられた穴は見る見るうちに塞がって行き血の流出は完全に止まってしまった。
ハジメはただその光景を呆然と眺めることしかできなかった。目の前で起きた異常な光景、何もかもが理解不能で…分かるのは親友が息を吹き返した事だけだった。
「柏木君!大丈夫なの!?」
とにかく今は声が聞きたい、大丈夫だったと笑いかけてほしい、そう思い体を揺するが目を開ける様子は無かった。ただその呼吸は小さいながらもしっかり行われており胸はちゃんと上下していた。
血だらけになった服を見なければただ寝ているしか見ないだろう。
「お前を助ける為に無茶をしたんだ、今は寝かせておけ」
中野の言葉に不服の感情が出てくるが、安静にさせることもまた必要というのは理解できるので、納得することにした。
「わかったよ… でも中野君。君は一体、
「……さてな」
一体何者かという問いに中野はほんの一瞬遠い目をした。その目に映った感情は望郷の念だろうか。しかしそれ以上話すつもりはないようで立ち上がると踵を返した。
「そろそろ《ワーティング》を解く。色々聞きたいだろうが細かい話は柏木が目を覚ましてひと段落をしてからだ。いいな」
「…うん」
「じゃあ話の都合合わせはよろしく頼んだぞ」
その言葉を合図にピリリとした空気は一瞬で無くなった。と、同時に周囲がざわつき始める。見たところほんの一瞬だけ意識を失っていたように見え、多分ほとんどの者が何があったのか分からないだろう。
「坊主…っ!?皆!柏木が生きているぞ!」
(ど、どうしよう…)
メルドの慌てたような声が叫びに皆が驚き声を上げるまでどう誤魔化そうか一瞬で考えるハジメだった。
「中野がそんな事を…」
つくづく縁があるというか、中野には何かとお世話になってるな…。今度手土産をもってお礼を言いに行こうかな。
「僕もまだ中野君から詳細は教えられていないけど、柏木君は何か知ってるの?」
知ってることを話せと言外に聞いてくる南雲。といっても俺も知ってることは少ない。情報量はたいして変わらないと思うのだが…仕方がないので中野が漏らした事を話す。
「レネゲイドウィルス?…なるほど、だから」
「何か心当たりあるの?」
何やら思うところがあるのか悩み始めてしまった、そんな俺の疑問に南雲は小さく溜息を吐くとほんの少し声の音量を小さくした。まるで内緒話をするかのように。
「僕の錬成の力なんだけど、少し変な所があったんだ」
「???」
「この前檜山君達と訓練をしていた時があったよね」
「あ~覚えている。お前が落とし穴を使って檜山を生き埋めにしたんだっけ」
「そこまでする気は無かったんだけど、あの時魔力を使っていなかったんだ」
魔力を使っていない。つまりそれは…
「この世界の超常現象は大体魔法や魔力で片が付く。でも僕がやったのはもっと別の力だったんだ、多分そのレネゲイドウィルスってのが鍵になると思うけど…」
レネゲイドウィルス、聞けば俺の中にも同様の物があるらしくその力で傷を修復したらしい。言われてみれば俺の回復薬を皆が美味い美味いと飲んでいたのも…ふむ、となるといつの間にか俺と南雲はそのレネゲイドウィルスに感染していたって事になるのか?
「…多分ね。それがいつなのか分からないけど…ともかくこの話は後で中野君に聞こうよ」
「だな」
今は分からなく未知の力だが、詳しい事を知っている奴がいるのだ。細かいところは後でちゃんと聞くとしよう。本人も話してくれるって約束していたし
「しっかしまぁ何やかんやとあったがお前が無事でよかったよ」
「お陰様でね。…正直あの火球が来た時は本当にダメかと思ったよ」
「そうだな、あの火球さえ来なければ……あ」
火球で思い出した。そう言えば事の発単、つまりあの火球はなんで南雲に当たる様に動いていたんだろう?もしかしてあの骨の中に魔法を使う奴が紛れていたんだろうか。
「…その火球なんだけど…」
妙に歯切れが悪い南雲。どうやら南雲は事の詳細を知っているらしい。やっぱりあの時どこかで魔物が魔法を放ったのだろうか
「…はぁ。 僕としてもどう消化すればいいのかわからない事なんだけど…」
そう言って深呼吸をする南雲。そしてきっぱりと言い放った。
「アレは、檜山君がやったんだ。…
「カイル、どうだった」
「異常はありません。おそらくこの周辺の魔物はいないかと」
メルドが部下と周辺の斥候の話をするのを歩きながら聞くハジメ。ハジメ達一行は柏木の無事を確認すると休憩を挟み地上までの道を警戒しながら歩く事となったのだ。
今の階層が分からない以上どんな魔物が居るか予想できないので、どうしても警戒することになって歩みが遅れてしまうのだった。幸い魔物は一度も遭遇せずにすんでおり、消耗をすることもなかった。
(………誰だ)
そんな中ハジメはあの橋での事を振り返っていた。パニックとベヒモス。突破と脱出劇。そして…
(僕に魔法を放ったのは誰なんだ)
あの火球さえなければハジメはギリギリでもみんなと合流できたはずだったのだ。それがあの一度の魔法で完全に歯車が狂ったのだ。
(僕に攻撃して得する奴なんて…)
火球は完全にハジメを狙っていた。それがフラフラと動くのなら事故かもしれない、しかしそれは明確にハジメの元へやってきたのだ。
誰かが自分を狙って魔法を放った。
それはクラスメイトを疑うという最も考えたくない考察だが、あの場には魔法を使う魔物などいなかったのだ。実際メルドやアランの会話で魔法を使う魔物はいないと確信したハジメだが次に考えたことは誰なんだというのと、どうしてという疑問だった。
(………はぁ 駄目だ、考えても思いつかない)
先ほどから眉間に皺を作り考えているが、実際ハジメは容疑者を絞ることが出来ないでいた。そもそもハジメはクラスメイトとそこそこに交流がある、その中で自分に明確に敵意を持つものなんていなかったのだ。おまけにそんな殺人なんて大それたことを考えるような人間もいないと確信しているのだ。
人を疑うのには想像以上のストレスと労力が居る。ハジメとしてもクラスメイト疑いたくはないのだ。
しかし…
「…柏木君」
そのせいで命を失いかけた親友が居る。自分だけなら悪態をつき怒るだけで感情を消化させるが大切な親友が死にかけたとなると話は別なのだ。
当の柏木は今、せめて役に立たせてくれと言う坂上におぶられて静かに寝ている。命に別状はなくメルドの見立てでも休ませれば回復するだろうというお墨付きもある。
(はぁ……本当に厄介な所に来ちゃったね)
出てくるのはため息ばかりである。そんなハジメの考えとは裏腹に帰還は驚くほど順調でようやく出口の光が見え始めたのだ。
「帰ってきたの?」
「戻ったのか!」
「帰れた……帰れたよぉ……」
安堵の表情で太陽の光を浴びる生徒達。今まで明るいとは言えどずっと迷宮の中にいたのだ、時間は夕暮れになったが太陽の光はハジメ達を優しく迎えてくれた。
正門の広場で大の字になる者、友人と手を取り合って生還を喜ぶ者、表情は様々だがその顔には喜びに満ち溢れていた。
そんな生徒達をメルドは大声で呼びかける。その声にはさすが騎士団長といった所か疲れは感じさせないものだった。
「みんなよく頑張ったな、この後各自宿で休んでほしいが…その前に確認したいことがある」
その目にはほんの少しばかりの剣呑さが混じり何を言いたいのかハジメは気が付いた。
「あの橋で坊主…南雲に魔法が当たった件。アレについてだがお前たちの中で何か知ってるいう者は」
橋であった火球の事だろう。その事について聞きだそうとしているのかハジメがそう考えた時だった、一人の人間が大きな声でメルドの言葉を遮った。
「待ってくれ!」
「…檜山?」
メルドの言葉をふさいだものは檜山大介だった。不思議そうに檜山を見ている斎藤と何故か慌てている近藤を振りほどき檜山は集まっている皆の前に出てきたのだ。
「…皆覚えているか、南雲が走ってきた時に当たった火球があるだろ」
そう、静かに切り出す檜山、その顔は覚悟を決めたようで堂々としていた。…今までハジメが見たこともない顔だった。そして、続く言葉に皆が驚いた。
「
言葉にしてみればとても短い、しかしその言葉は場を混乱させるのには十分で皆が騒然となる。ある者は檜山を信じられないと見、ある者は剣呑な視線を檜山にぶつけていた。
「あの魔法を間違いなく俺がやったものだ。 …南雲、すまん」
そう言って檜山は地面に頭を付けた。誰よりもプライドの高い檜山が行う謝罪だった。その行動と言葉で檜山の言ってることが嘘ではないと判断した皆が声を上げる
「お前何やってんだよっ!」
「いくらなんでも人を殺そうなんてどうかしてるよ!」
「そんな…どうして」
次々に浴びらせる驚愕と罵倒を檜山は何も言わず受け止めていた。…一切言い訳も事情も言わず檜山大介は頭を下げ続けていたのだ。
「おい!何か言ったらどうなんだ!」
「なんで何も言わないの…」
「こんな奴が俺らのクラスに…」
嫌な雰囲気が辺りを包む。剣呑になっていく雰囲気の中メルドは口を挟む様子は見受けられない。そんな中檜山を庇うように躍り出てきた人がいた。近藤礼一だった。
「待って!待ってくれ!あれは違うんだ!檜山はワザとじゃないんだ!」
飛び出してきて言ったのは檜山の放った魔法は過失ではないという事だった。怪訝な視線を送る数十人のクラスメイト相手にびくつきながらも近藤は精一杯の声を出していた。
「檜山が得意な魔法は風魔法なんだっ!最初はそれを使おうとして」
「おい近藤、言わなくていい」
「でも何かいきなり火になって」
「言わなくて良いつってんだろ」
「あんなグネグネとした動き檜山にできるはずないじゃん!アレは違うんだ!」
「だから言うなって言ってんだろ
背後から押しのけるようにして近藤の言葉を遮る。押しのけられた近藤は今にも泣きそうな顔で口をパクパクと開いていた。そんな友人の姿に檜山は大きく息を吐くと改めて皆に向き合った。
「たとえ間違いでもワザとじゃなくても、俺が使った魔法であることには変わりはない。そして、その事に言い訳も弁解もするつもりはない。アレは俺がやったんだ」
それは誰よりもプライドの高い男が見せた筋の通し方だった。たとえどんな非難があっても受け入れるという覚悟がその顔にはあったのだ。
「南雲すまん、決して許されることじゃないというのは分かってる。だが俺には謝る事しかできねぇ。殴っても蹴ってもいい。刃物でぶっ刺してもそれは仕方のねぇことだ」
許してくれと言ってるのではなく、それしか謝罪の方法が分からないという風でもなく、ただ檜山は当事者であるハジメに好きにしろと言ってるのだ。それが責任の取り方だと。
「……」
そして謝罪を受けたハジメは、怒りと困惑と…なぜか納得と言う感情が心の中で渦巻いていた。
どうしてそんな事をっ!
何でそんな事になったの?
渦巻く感情を言葉で表すならそんな感じだろうか。死にかけた恐怖と傷つき倒れた親友の事を想うと怒りがこみあげてくる。
だが、檜山の態度と近藤の慌て方から言ってることは恐らく本当だというのも理解していた。
そして奇妙なことにようやくその言葉が本人から聞けたという謎の感傷と強い納得が心底にもあったのだ。
場の空気は完全にハジメと檜山の空気で固まっていた。誰もが動けず言葉を発せないでいた。そんな中ただ独り空気を読めず(読もうとせず)動いた人間は…
「南雲、檜山が謝ってるだろなら許「光輝、ここは口を挟む場面じゃねぇぞ」うぐっ!」
190㎝の巨漢によって口を塞がれ沈黙していた。そんなやり取りを視界の端に入れハジメは口から息を吐いた。その動作で何人かがびくりと動いたのも見えたが無視をした。…そんなに怖い顔をしていたのだろうかと思いはしたが。
「檜山君」
「…なんだ」
顔を上げる檜山。きっと何をしても受け止めるのだろう、その顔がその覚悟がちょっとだけカッコいいと思いながらハジメは大きく拳を振りかぶった!
「歯ぁ食いしばれぇぇええ!!」
「…っ!」
バキリと良い音を立て、拳を檜山に打ち付けるハジメ。思いっきり振りかぶったそれを避ける事はせず頬を殴られた檜山は地面に尻もちを突く。対してハジメの方も全力なのと人を殴るという初めての行為にたいして肩で息をする羽目になった。
「はぁ…はぁ……それでチャラだ」
「…いいのか」
「後でちゃんと柏木君にも謝って。それでも責任を取るっていうのなら…またその時考えるよ」
「…わかった」
大きく息を吐く。これでいいのだ、いつまでも恨むのは性分でもないし、結果的にとはいえ自分達は無事だった。
それで良しとしよう。そう考えたハジメを夕暮れの太陽の光は優しく照らすのだった
「って檜山がやったのかよ!?」
「マジで檜山がやったんだって」
あ、ありえねー いくら白崎が南雲に惚れているからって恋敵を排除するような奴じゃないぞ檜山は。寧ろ正面から啖呵をきって玉砕していく様な奴だ。
「しかし風魔法を撃とうとしたら火になったとか一体何が起きてたんだ?」
「僕もさっぱり。後でメルド団長たちが詳しい事情聴取をするとか言ってたけど…」
詳しいことがわからないのは残念だがまぁ檜山がちゃんと謝って南雲とわだかまりを解消できたのなら俺はそれでいいのだ。…しっかしあの檜山がねぇ。アレさえなければ……ん?
「って直接の原因檜山のなのに何でお前天之河に対してキレてるわけ?」
天之河に対しては辛辣なのに檜山に対してはそこまで怒ってる訳ではなさそうな南雲。間接的なのと直接的なら普通檜山を恨むはずでは?
「檜山君はねぇ…ちゃんと自分が何をしたのかわかって謝っていたし…」
確かに面と向かって謝って罰を受けた相手に対してはわだかまりは少ないのかもしれない。んじゃ天之河は?只の八つ当たりでは?
「アイツは自分がした過ちに何もわかっていないから。だからムカつくんだよ」
膨れっ面になる南雲。…言いたいことは分からんでもないが、あんまり怒らないでほしいと思う。そんな俺に対して小声で「皆にも助けるのが遅れたこと謝っていないし…」と呟いている。…それは確か残当な気がする。
「ともかく、大体はそんな感じ」
「そっかー。しっかし大変だったなぁ」
しみじみとオルクス迷宮での事を想い返す。色々とあったが皆無事帰れてそれでよかったのだろう。一人ウンウン頷いていると、さてとって言いながらハジメは立ち上がる。
「うん、その調子じゃ本当に調子良さそうだね」
「そうだな。少し体がなまっているような気がするが、まぁ大丈夫だろう」
ベットから這い出て体の伸びをする。体のあちこちからペキポキと音が鳴るがまぁこれは只の運動不足だろう。いまは腹に何かを詰めたい気分だ。そう南雲に返したが南雲は非常に苦い顔をしていた。
「あーそれなんだけど…実はこの後団長から生徒全員出席しろって言われてて」
「?なにがあるの」
「…副長ホセ・ランカイドからの僕達の今後についてだよ」
どうやら王宮に無事帰ってきてそれで終わりではなさそうだった。
一言メモ
リザレクト 能力者ご用達、死んでも一瞬で蘇生する。
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