…これ、知ってる人からすると怒られるだろうなぁ
「本当なら日本で話すつもりだったんだがな」
そう言って俺と南雲の前で苦々しく口を開くのは転校生であり不思議な力を持つ中野信治だ。時間帯は夜、ここは中野の部屋で当たり前だが俺達三人しかいなかった。
「話してくれるんだよね。僕と柏木君の身に何が起きたのかを」
「ああ、勿論だ。ただし、俺自身誰かに物を教えるモンじゃないし感で分かれという部分もある」
確かに中野はあんまり説明が上手そうではない。それでも俺達よりは知ってることが多いはずだ。
中野が一つ息を吸い、途端に首が散りつくような変な空間が広がる。南雲も同じなのか少しだけ眉をひそめた。不快感は無いが少し気になるという奴だ。
「今のは《ワーティング》俺達オーヴァードが相対した時に起こすもので他の一般人は俺達を認識できなくなる」
「ふむ?今使うのはなんで?」
「他の奴に聞かれると厄介だからだ。…人の姿をした化け物の末路なんて想像できるだろ」
そう言う前置きを置いてようやく中野は語り始める。俺と南雲がこの世界に来てから得た能力の事を。そして中野自身の事を。
「まずは俺達の様な異能の力を得た奴の事をオーヴァードって呼ぶ。俺たちの体内に宿るレネゲイドウィルスって奴に掛かった物をそう呼ぶんだ。由来とか歴史は詳しくは知らん。日本に帰ってから詳しい奴に聞いてくれ」
「ふんふん。それで」
「俺はそのオーヴァードの連中の中でUGNと言う組織に所属している」
「UGN?」
「ユニバーサルガーディアンネットワークス。人と
異能の力を持った集団の組織。人と異能者の共存…となると善よりの組織だろうか。何となく漫画やゲームである様な秘密結社を意識すると分かりやすいかも。
「なるほど、中野君はそのUGNから派遣されてきたって事なんだね。表向きは転校生として」
「そうだ。柏木、お前がオーヴァードとして覚醒した時に説明と保護をするのが俺の本来の任務だった。…だったんだがなぁ」
ハァと溜息一つ。そりゃそうだなんせこんな異世界に召喚されるなんて誰が思いつくもんか。
「それがどうしてかこんな訳の分からない世界に呼び出されて…最初はFHの奴らかの仕業かと警戒したがこれは全くの別件だったな」
「FHって?」
「ファルスハース。この異能の力をあるがままに使おうとするテロリストの連中だ。UGNとは敵対していて、そいつらの勧誘からお前を守るのもまた俺の仕事だった」
…何かえらくファンタジーなことになっているな日本。俺達一般人が知らなかっただけで実は異能力が飛び交う世界だったのか。
「記憶処理とか事後処理を担当する連中がいるんだよきっと。だからこんな能力は世間にばれないし表沙汰になる事は無い。…UGNって組織はかなり大きいみたいだね」
手に持っていた石ころをコップへと変えてしまう南雲。その錬成を超えた異能を見つめる横顔はかなり複雑そうだ。
「話を続けるぞ。ともかく俺達オーヴァードが得た力は数十種類に分別される。分けられたものをシンドロームと呼ぶが…まぁここら辺の説明はまた今度だ、今重要なのはお前たちの得た能力の事だ」
「能力…この世界で手に入れた『技能』とは違うのか?」
「俺もよくは知らん。ただ異能と技能が似たようなものだという事はステータスプレートを見ればわかるはずだ。兎も角似たようなものだと思っとけばそれでいいだろう。それで俺のシンドロームは『サラマンダー』と呼ばれている」
サラマンダー。確か火蜥蜴の事を差すんだったか、南雲に確認すればあたりだと言われた。なるほどだから中野は炎を詠唱無しで生み出し火炎放射器として使う事や炎を纏わせることが出来たんだ。
「…別に炎しか使えないって訳じゃない。熱を操るのがサラマンダーの特徴だ。そら、只の炎術師じゃこんな芸当出来る訳ないだろう」
「うわって冷たい!?これって氷か!?」
そういって石ころ大の透明な結晶を放り投げてくる中野。慌てて受け取ったそれは氷の塊だった。ヒヤリとしたその冷たさは間違いなく氷そのものであり只の
「もう、いきなり渡されても困るんだけど。それで中野君は炎と氷が使えるオーヴァードなんだね。…あれ?でも天職は炎術師しか無かったような?」
渡された氷をコップの中にことりと落とす南雲。確かに言われてみれば中野のステータスプレートには有ってもおかしくない氷術師が無かった。
「…何かを冷やす方は点で駄目でな。俺は炎の方に傾いているんだ。…馬鹿みたいにな」
何やら思うところがあるんだろうか、溶け始めてしまった氷を眺める中野。…これは何やら中野の過去に関係がありそうだ。ツッコむのは止めた方が良いかも。
「話を戻す。サラマンダーの
「ちょいと待った純血種って何?」
「あー こいつは人によって違うんだがシンドロームを二つ持つ奴とか三種類掛け合わせることが出来るやつがいるんだ。それぞれ一種類の奴を
「それなら能力を多く持ってるやつが強いんじゃ…」
「んな事は無い。俺の炎なんて純血種と混合種じゃ火力がまるで違うんだ。純血種と混合種を一緒にするのは止めとけ」
「つまり一点特化型とバランス型と器用貧乏型って事だね」
「なんか、ゲームじみてきたな…」
能力を多く持てれば強いという訳でもなさそう。なるほどねぇ世の中そんなに甘くないという事ですな。
「それで南雲の方だ。お前の力の名は『モルフェウス』物質の錬成を得意とする
「それって…南雲の技能『錬成』と同じ?」
「いいや、ちょっと違うよこの力は。だって
そう言って持ってたコップを見る見るうちに変化させていき…やがてそれは一本の金属バットになった。…材質変化してなぁい?質量変化していなぁい?…手に収まるコップが両手で持つほどの材質が金属になったバットになった。明らかにやばくないこのモルフェウスってのは?
「小枝を剣に、
中野の問いに南雲はコクリと頷いた。物質錬成能力。それは俺が思っている以上に物凄い力なのかもしれない。
「そして柏木お前だ。もうおおよその予想はつくだろうが…」
そして俺の力。天職が能力を刺すのなら俺の力は明白だった。
「お前の力は『ソラリス』
「南雲を助けに行ったときのあのバカげた身体能力はお前自身が体内で脳内麻薬を分泌し身体能力を上げたもののはずだ。普通にそんな事をしたら体が壊れていくのを無理矢理治癒力を馬鹿みたいに上げてな」
だからあの時急に力がみなぎったのか。確かに火事場の馬鹿力と言うにはかなり動きまくっていたから…あれ?あの時何で俺南雲が落ちると確信して?そんな疑問は中野の続いた言葉ですぐに消えてしまった。
「他にも幻覚を見せて恐怖感をあおったり高揚感を操作出来たりとか…まぁ薬のあらゆるものがお前は出来ると考えておけばいいだろう」
「ありとあらゆる……つまり」
ふむん!?何でもできるって事は何だってできちゃうわけでございますなぁ!ぐ、ぐへへという事やあんなおクスリやこんなものを…うへへ
「はいはい鼻の下が伸びているのは結構だけど中野君の話を最後まで聞こうよ」
「お、おおうう。チャントワカッテマスヨー えほんえほん。って事は何だ。この力があれば実質チートじゃねぇか!?」
ハッキリ言えばかなりずば抜けた力だ。この世界のステータスやら技能やらの力を超えた可能性を秘めている気がするのだ。俺達が宿したレネゲイトウィルスは。
しかしそんな考えは中野の皮肉った笑みで霧散してしまった。
「ははっ 柏木まさかお前その力、何にも代償を払わずにできると思ってんのか」
「……やっぱり?」
「そんな事だろうと思った」
やはりどこまでも俺たちにとっては甘くないようで、この異能には代償があるらしい。南雲は何やら分かっていたみたいだけど…
「この力は体内のレネゲイドウィルスが活性化するほど強く、強大になっていく。しかしだ、その代償として」
「
能力を使えば使うほどその力は己の心を壊していきあるべきだったはずの道徳心や常識、理性を失くしてしまう…
「そしてそんな化け物の末路は…分かっての通り粛清される。人の営みを破壊し蹂躙するモンスターとして殲滅対象になるんだ。そいつが生前どんな奴であろうとも、な」
重く口を開く中野は両手に炎を宿した。赤く真紅に燃え盛る炎だった。
「俺の仕事にはその理性の失くした化け物『ジャーム』の処理も含まれている。存在をこの世から灰すら残さない様にするのが俺が転校する前の主な仕事だった」
「……」
俺も南雲も黙ったままだった。それは目の前の炎を恐れてのことも有るが、普通に檜山達と笑いあっていたこの中野が別人化と思わせるような冷たい目をしているのに言葉を失ったのだ。
「力を使えば使うほど、力に飲まれれば飲まれるほどジャームへと変貌していく。俺達オーヴァードはいつかジャームになるの恐れながら生きていくしかないんだ」
「…治すことは出来ないのか」
「不可能だ。治そうとして精神を病み結果狂ったジャームとなった研究者もいる始末だ。誰も化け物から人へ戻る事なんて出来ないのが現状だ。…人から化け物になるのは簡単なのに皮肉なもんだな」
…中野はこれまで一体何人の元人間を燃やしてきたのだろうか。それは想像でしかわからないけど…きっと俺の想像を超えるぐらい焼却して来たんだろう。炎を消した中野の横顔にはそんな悲しみが見たような気がした。
「そのジャームに僕達もなる可能性はあるの?」
南雲が少し震えた声で中野に尋ねた言葉は俺も聞きたかった事だった。何しろそんな事に気付かずに使っていたのだ。それが技能なのか異能なのか分からないままではあるが。
「ある。と言いたいところだが」
「だが?」
「この世界はおかしい。日本…地球とは違ってレネゲイドウィルスが暴走する気配を感じさせないんだ」
「ううん?」
「レネゲイドウィルスは使えば使うほど活性化し強大な力となって理性を蝕んでいく。それが普通だった。だがこの世界トータスではレネゲイトウィルスが活性化はするものの暴走する気配は微塵も感じないんだ」
それはつまり、この世界ではジャーム化が起きないという事だろうか。
「…かもな。何度か試したがレネゲイドウィルスは安定と活性化を交互に起こさせるだった。何度か考えたがこれがどういう事か俺は分からん」
「うーん。魔力が関係しているのかなぁ?ともかくこの世界トータスでは僕達が異能を使っても問題は無いって事?」
「そうなる。俺が使っても問題なかったんだ。お前らも同じだろう」
つまりこの世界では化け物にはならずに異能の力を自由に使えるという事だった。となると…やりたいことは無限に出てくるわけで、ふむ。
「とまぁ俺の説明はこんな所だ。今後お前たちがこの異能をどんな風に使おうとも俺は止める気はないし推奨するつもりない」
「良いのか?好きに使うかもしれんぞ?」
「UGNとしては止めるべきだが、あいにくここはUGNの管轄外でな。俺は口を挟まないさ」
ならこの異能は俺たちにとって強力な武器となる。この世界で生き抜くための大きな力となり得るのだ!
「ただし、ある程度の悪いことなら見逃してやるがドの過ぎたことをすれば……分かってるよな」
そう言って笑った中野は、どこか薄ら寒い炎の形をしていたような気がするのだった。
この物語に出てくるシンドローム説明
サラマンダー 熱を操る能力。炎と氷を生み出す熱エネルギーを操作することに加え、熱エネルギーを運動能力に転化することも可能。
モルフェウス 物質創造能力。質量や体積を無視して物質を生み出せる。出来るものは作成者の思いのまま。また砂を操り攻撃や防御としても使える模様。
ソラリス 薬品生成能力。治癒力促進の薬や身体能力向上の薬もできる。他にも幻覚剤や恐慌薬、記憶障害を生み出す薬も出来てしまう。
他にもシンドロームは数多くある。光を操る物、重力や時の力。血や音、獣化や肉体変化に雷機械に領域と天才頭脳。ブリードと組み合わせ次第で君だけのキャラクターが作れるぞ!
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