「くっそ~~絶対に消臭力を作ってやるからなぁ~」
「えーっと、ド、ドンマイ」
仲良く肩を並べながら俺の愚痴に苦笑いをするのは放火未遂のあった部屋を修復した南雲ハジメだ。今俺達はホセ副長から呼び出しを受けて騎士団団長室に向かっているのだ。先ほどの罰の便所掃除は今日は俺がすることになったのだが、ブラシを片手にくっさい男所帯の便所をごしごしと…綺麗な体がむけつきマッスル連中の匂いによって穢れてしまった…起訴!
「まぁ便所掃除で済んだと思えば軽い事でしょ」
「そうだけどさぁ、仕方ねぇこうなったらアロマの匂いでもする消臭液でも作ってやる」
便所から強烈なアロマの匂いをまき散らし野郎どもの体に染みつくようにしてやる!俺の能力ならこれ位なら簡単に作れるはずだ!
そんなアホな事を考えながら団長室にたどり着く。話とは何なのか南雲も知らないらしい。とりあえずノックをして入室~
「まずはいきなりお呼び立てして申し訳ありません」
にこやかな似非スマイルを浮かべるのは副長ホセ。中々の美麗な顔立ちだが油断しちゃいけねぇ。とりあえず話とは何だろうと思いはするものの並べられた椅子に座る俺と南雲
(一体何の話か分かるか)
(うーん、頼みごとっぽいよね)
ひそひそと話しかければ何かの依頼ではないかと言う話だった。ふむ
「あの、話とは何でしょうか」
「そうですね。まずは…迷宮内で大変お疲れさまでした。君たちが奮闘してくれたおかげで皆無事に帰ってくることが出来ました」
開口一番に迷宮でのことをほめられた。褒められるのは嬉しい、しかし南雲の殿は分かるが俺は得に何もしていないような…?
「前線を支えてくれていたではありませんか、バラバラになった皆をまとめたとか。それにアランが貴方の事を褒めていましたよ。薬を惜しみなく使ってくれたおかげで皆持ち直したと」
あの激戦区の中で見ていてくれたのか?だったら嬉しい話だ。ここは謙遜するのが美徳かもしれないが少し顔がにやけてしまうのはまぁしょうがないだろう。
「そ、そうですか~いやーそう持ち上げられても何も出ませんってば―」
「しかし、特に白兵戦が得意でもないのに急に前に出てくるのは止めてくれとも言ってました。もう少し自分の得手不得手を自覚したらどうですか」
「おぉう…調子に乗って申し訳ありませんでした」
褒められたと思ったら窘められてしまった。むむむしかしこれはホセ副長の言う通りだ。あの時は気分がハイになっていたとは言え前線に出てしまったのだ。檜山が居なければ危うい部分も多々あったのでこればっかりはしっかりと反省をしなければ。
「南雲君もベヒモスの足止めお疲れさまでした。錬成の技能をうまく使い時間を稼いでくれたこと団長に変わって私から礼を申し上げます」
「いえ、あの時は自分にできる事しか考えていなかったので」
なんとも淡白な答えの南雲。照れているのかな?人に褒められるのはなれていないもんねぇ~
「さて、そんな自分たちの技能と役割を周知している二人に頼みたいことがあるのです」
お、遂に本題が来た。持ち上げておいてから頼みごとをするのは何ともまぁ人の乗せ方を分かっているようで。
「君たちの技能、錬成と調合を私たちメルド騎士団のために使ってくれませんか」
ふむん?それはどういう意味だろうか。勿論俺の力は後方支援に属するものだから騎士団員の為に使う事に特に疑問な無いのだが、何故改めてそんな事を言うのだろうか。南雲もそう思ったのか少しばかり疑問そうな顔をしている
「そうですね。詳細を言うのならば…今ここで所属をはっきりとさせておくことで神殿騎士に貴方達の身柄を確保されないため、という事になるのでしょうか」
「それはどういう事ですか」
「…あーそうか。先生の事だよ柏木君」
先生?愛子先生が何故話題に出てくるのか。そう聞くとホセ副長が分かりやすく説明してくれる。
「愛子さんは貴方達が精神的に疲労しているのを見て自身の作農師の力を盾に農地開拓を条件に戦闘訓練の強制参加の抗議をしてくれましてね」
「教会に真正面から歯向かって僕達の事を守ってくれたんだ。代わりに作農氏の力を有効活用するために神殿騎士…教会の協力を要請されてって所かな」
…なんだか薄い本みたいな展開、じゃなくてそれで先生は教会の関係者すなわち神殿騎士の傍にいると。
「こういうと情けなく聞こえるかもしれませんが我がメルド騎士団と神殿騎士団はあまり仲がよろしくはありません。ですので神殿騎士団が貴方達の力の有用性に気付く前に私達の方で囲みたかったのです」
真正面から青田買いみたいなことを言いやがったなこの副長!?しかし何故そこまでして俺たちの力を買うのだろうか?言っては何だが調合師も、錬成師も作農師とは違ってこの世界ではありふれた職業では無かったのではないのか?
「確かにありふれた職業です、そこは間違いありません。しかし貴方方と彼等では全然違うところがあります。どこか解りますか」
どこだろうか?この国にいる天職持ちの職人たちと俺たちで違う所とは…
「…僕達が異世界人って事ですね」
「あ」
「その通りです。貴方方は我らとは文明も歴史も恐らく考え方も違う世界の人間です。確かに能力では我が国の職人たちの方が優れているかもしれません。しかしそれはあくまでもトータスと言う世界での話でありこれが別の世界が絡んでくると違ってくるのです」
なるほど確かに俺達はこのトータスにとって異世界である「地球」の住人だ。能力的には劣っていようが考え方が違い地球が辿ってきた歴史、発展してきた文明をあるていどは知っている。この世界の住人には考え付かない事を知っているし体験しているのだ。
「私は貴方方の力を使いたいと言いました。これを少し訂正します、私は貴方方地球の技術と文明を我らのために提供してほしいのです」
なるほど…だから俺と南雲を囲みたかったと。確かに技術と文明はそれなりには知っており、其処が俺と南雲の強味でもあり武器にもなるのだ。
「ふむ」
「……」
しかしこの話、実際に乗るべきかどうかと言うと…南雲の方は何やら考えているようだ。眉間に皺が寄っているあたり脳内がトップスピードになってるに違いない。
「勿論すぐに答えが聞きたいわけではありません。貴方達に事情があり考えがある。ですので考えたうえで答えをくれませんか」
一度言葉を切りその場はひとまず解散となった。
「…僕達のメリット……後ろ盾…」
ひとまずは自分達の部屋に戻り、先ほどから自身の考えに没頭している南雲に倣って少し俺も熟考してみようかな。
といってもはっきり言ってこの案は受けた方が良いというのが俺の答えだ。理由は簡単、この力で人を助けることが出来るのならそれ幸いだという短絡的な考えとメルド団長たちを気に入っているという感情論で判断した結果である。
単純に治療薬が簡単にそれもほぼノーコストで出来上がってくるのだ。いくら王宮務めと言えども薬代の軍事費用は馬鹿にならないだろうし魔法かって限度もあるだろう。これは全線で戦う傷だらけの騎士団にとって美味い話であり俺の心情もにっこりである。誰かって傷ついた人は見たくないのだ。
後は、地球の文明の力といっても想像できるのであるのなら日常生活で役に立つもの位なら簡単に生成できそうだ。例えば先ほど便所掃除で必要性を感じた消臭剤、洗剤もいいかもしれない、これがあれば少ない労力で洗いもんがピッカピカやで!ついでに化粧品でも作ってみようかな、あんまり詳しくはないがそこは女子連中の力を借りればいい。他には労働者には湿布、簡単な医薬品に…やべぇ考えれば考えるほど案が出てくる…
「ヤバイでこれは…金がたんまり儲かるでぇ」
「いったい何を考えたのさ」
どうやら独り言を聞かれてしまったらしい。思考の海から戻ってきた南雲は呆れた顔でツッコんできた。
「色々とね。それで南雲お前は決まったか」
「…まぁね。それで柏木君はどうするの。ちゃんとメリットとかデメリットとか考えたの」
「俺たちの得になる事しか考えていませんでした」
「だろうと思ったよ」
ハァと溜息を一つもらいました。しゃーねじゃん人間誰しも欲望に目がくらんでいくんだもん。
「それじゃあこの話を受けるメリットについて話をするよ」
「お願いします」
「まず、僕達の後ろ盾が確実になる事。僕達はそもそも神の使徒だと呼ばれているけど、実際は只の高校生だからね。騎士団の人たちが宣言するのとしないとでは色々と勝手が違うしそれにメルド団長たちとのつながりが強くなる」
あんまり政治的な事は分からないのだが、南雲がそう言うのだからそうなのだろう。後ろ盾があるってのはきっと良い事だと思う。
「次に僕達の技能の訓練や異能力の良い実験にもなる。何時かは鍛え上げないといけなかったこの力の訓練をごまかしながらも公的に使えるのは気分的に楽だ」
確かに堂々と異能力を使うと勘ぐられるが、騎士団のもとで鍛え上げましたの一言でどうにかはなりそうだ。
「後、これは単純な話だけど地球の文明で俺ツエーができる」
「なんじゃそりゃ!?」
「やってみたかったんでしょ。無論僕もだけど」
自虐的に笑う南雲。確かに地球の文明力すげーで無双をする空想を何どかしたことはあるのだが…
「次はデメリット。色々とあるけどきっとこれが一番だね」
「何じゃらほい?」
「僕達の力が戦争のために利用されるかもしれないという事。今更かもしれないけどきっと今までのようになぁなぁじゃすまされない」
…それは、確かに分かってはいた事だった。この技能と異能力が戦争に使わされるって事ぐらい分かってはいたのだが…改めて言葉に出されると結構クるものがある。
「もしもの話だけど、例えば僕なら銃の製造と量産。これだけでこの世界のバランスが崩れてしまう」
誰にでも気軽に撃てて簡単に人を殺める事が出来る地球の代表的な武器であり人が作り出した叡智と禁忌の結晶『銃』 確かに量産が可能になってこの世界に簡単に普及したら滅茶苦茶大変なことになりそうだ。
「柏木君の場合は、有毒ガスや毒物。想像でしかないけど君の力なら合法麻薬も細菌兵器もきっと思いのまま作ることが出来る」
「…そ、れは」
言われてようやく気が付く。その気になったら出来てしまうという可能性を否定できないのだ。きっと俺が本気で作ろうと思うのならどんな劇物でも水道の蛇口を捻るよりも簡単にできてしまう。その危険な可能性を自身の内側から感じれるのだ
「改めて考えると凄い能力だよね。誰かを助けることも守る事も出来て、簡単に人を壊して世界のバランスを崩壊させることが出来るんだから」
「でも道具も武器も薬も毒も結局は使う人次第。僕達が制御できれば…この戦争終わらせれるかもしれないよ」
そうだ、確かにその為に
「それで、どうするの柏木君。僕は君の意見を尊重するよ」
「はぁ…大事な判断を丸投げしやがって」
「それほど君を信頼しているんだよ」
中々の重い事を言う奴だ。だが言われたからには判断しよう。何度も言ってるが俺は俺のできる事をするまでだ。
「その話うけます。僕達の力、人を守るために遣わせてください」
結局俺と南雲はホセ副長の話を受ける事にした。俺の頭ではどう考えてもその方が良いと判断してしまうのだ。
「そうですか…有難うございます」
「でも少し条件を付けさせてください」
「条件、ですか」
ホセ副長の目が細くなった。話を受けると言っておきながら条件を付けるのは確かに思うところがあるだろうが俺達だって譲れないことがあるのだ。
「まずは一つ。ぶっちゃけちゃんと仕事をするので、仕事量に見合ったお給料をください!」
「ほう!」
頼まれたことはするがそれでもお金は欲しい。無論衣食住をちゃんと提供されているのでやる事はやるのだがやはりモチベーションを上げる必要があるのだ。それはつまり…おちんぎんちょうだい!
「…確かに只でやってくれと言うのは虫が良すぎますし、労力に見合った対価は必要ですもんね。分かりました。これぐらいでどうでしょうか」
何処からかそろばんらしきものを持ち出し南雲に見せる。あーこの流れは…
「え?これだけですか?冗談でしょう、僕達の世界基準ならこれぐらいは無いと…」
「む!?ふふ、南雲君ここはトータスですよ?貴方達の故郷とは違います。ならば私たちの世界基準での給料が妥当になるのでは?」
「駄目ですよ駄目駄目。そんな子供のお小遣いではないんですから。今から貴方達が手に入るのは異世界の技術。全く持って未知の想像できない代物です。それが格安でしかも独占できるというのにその代価がこれでは…ねぇ?」
「ふふふ…なかなか小賢しくしたたかですねぇ南雲君」
「いえいえ、この世界で生きのこるには多少の知恵は身につかないとですよホセ副長」
何やらにやにやと笑う2人。しかし両者目が一切笑っていないのがとても怖い。給料の値上げ交渉はもうちょっと続きそうだ。
「うん、こんな所が妥当かな」
「…減った分は団長の給料を見直して…こんなものですかね」
にこやかに笑う南雲と何やら不穏な事を呟くホセ副長。給料の話はひと段落したようだ。とりあえず一安心。なんだったんだが
「それでホセさん。最後に一つだけ譲れないことがあるんですがいいでしょうか」
「…拝聴しましょう」
南雲の真剣な様子にホセ副長も先ほどの和やかな雰囲気を引っ込めスッと目を細める。交渉はすべて南雲任せにしているとはいえ中々の迫力だ。
「僕達は貴方達に協力をします。ですけどあくまでこの国の人を守るために力を使いたいんです」
それは言い変えれば魔人族を殺すために力は使いたくないという事。誰かを害するために協力をするのではなく誰かを守るために協力をするのだという意思表示だった。
「確かにこの戦争を終わらせなければ僕達は日本へ帰れない。だけどそれでも僕達には誰かを傷つける物は作りたくはありません」
「…ふむ。何とも耳障りの良い言葉です。しかしそのせいで君の友人たちが危険にさらされても君達は同じことが言えるのでしょうか。後悔し失くしてからは遅いんですよ?」
それは…ああ、確かにその可能性は否定できない。だからこそ、俺は布石を張ったのだ。最も南雲はまだ知らないことで俺とアリスさんだけが知っているのだが。
「そう…ですね。きっとその時は後悔すると思います。何であの時甘い事を言ったんだろうって。でもそんな未来は作らない、作らせさせない。だってそのために今を頑張るんですから」
その時が来たら後悔をするのは間違いない。だけどそんな未来にしないから後悔なんてするはずもない。きっとこれは只の屁理屈だ。でもこれが南雲と俺の本音。甘っちょろい事を言うのならそれ相応の準備や備えをする。覚悟なんて決められない只の凡人が選択するのだ。
「…分かりました。君がそう選択をするのなら私はとやかく言いません。協力を頼んでいる身ですし、そもそも君達には防衛のための手伝いを頼もうとしていたのですから」
「うん?それって?」
「単純に備品の新調や修復、治癒薬の大量生産など量はあるけど簡単なお仕事を頼もうとしていたんです。きっと君達なら誰かのを傷つけるようなものを作らせるのは向かないだろうなと思いまして」
クスリと笑うホセ副長。…これ、もしかして最初から俺と南雲が武器とかを作るのには消極的だって見抜かれていた?
「さてね、私はニートから聞かされた評価をもとに考えていただけです。それよりも君たちはこれからは騎士団が後ろ盾となりますが神殿騎士たちや教会の関係者には十分に気を付けてください」
おや、何位やら不穏な気配が…って言うまでもないか。だってエヒトの関係者なんだもん。
「あれらは神の名のもとに強硬な手段をとる場合があります。君たちの有能性を知ったら何をしでかすか分かりません。くれぐれも注意をしてください」
「はい、分かりました」
「YES、ボス」
「では今度ともよろしくお願いします」
これからの俺たちの仕事は兵站を担うものとなる。目覚めたばかりのオーヴァードがどれくらいできるか分からないが、これだけは言える。
俺達はやれることをやるだけだ。
「あ、ホセさん。ちょっと頼みたいことがあるんですけど」
「何でしょうか南雲君」
「この国の錬成師の職人さんで一番偉い人ってどこに居ますか」
「僕はその人のもとで修業がしたいんです」
一言メモ
おちんぎん 労働者には無くてはならないもの。ただ働きと働きに見合った報酬があるのなら仕事の成果は段違い!お金はいくらでも欲しいのです。
兵站 戦争には欠かせない後方支援全般の事。……原作では重要視されていないけど実際魔人族との戦争のときどうするつもりだったんだろう?
生産職 錬成師と調合師。戦うのではなく仕事で手助けをする人達。戦って俺ツエーは出来ないけど他の事で頑張るのです。