アフターも読んでいなければ、本編でやったことは覚えていても台詞は覚えていませんから…と自己弁護
皆が自分に気が付か無くなったのは何時頃だろうか。
幼少期から何となくそんな気がしていたし小学生になったころからにはなってきたような気もした。先生から忘れ去られるなんてしょっちゅうだし。
でも中学になってから家族にまで存在を忘れ去られるって一体何なんだろう。そして高校生になってからは遂に
存在を無かった事にされる。それがどれほど辛い事か考えた奴は果たしてどれだけいるのだろうか…
「暗殺者って何なんだよ…」
異世界に来てからステータスプレートを見ての一言だった。戦士とかなら分かるがよりによって暗殺者。人を殺すのに最も長けた職業。引き攣った声になるのはまぁ仕方のない事だろう。
「暗殺者か…ふむ、この天職を持つものにはそれなりの理由があるとされるが君には何か心当たりはあるかい」
メルドにステータスプレートを見せて言われた言葉だった。暗殺者と呼ばれ職業には理由がある。ドキリと心臓がはねたが顔には出さないように必死で取り繕った。…人の良さそうな何も知らないこの人には知られたくなかった。
「あ…いえ、別にないですね」
「そうか。ともかく暗殺者とは言え隠密の能力に適性があるから君にはそっち方面で活躍をしてもらうか」
追及されなかったのは幸福だった。そして言われた訓練は自身の影の無さを増幅させるようなものだった。思わず出てきそうな舌打ちを隠す
(…嫌だなぁ)
何が悲しくて自身の存在を薄くしなければならないのか、日本にいたときは居ない物扱いされ呼び出された異世界では影に徹しろと言う。折角のファンタジーなのだ。小さい頃夢見たおとぎ話の主人公たちのように光り輝きたいと僅かな希望を持ったらこれだ。
「ああ、安心しろ。流石に今のお前に暗殺技術を教えるつもりはない…いや、もういるから必要ないと言った方が正しいか」
「…あざっす」
人を殺す訓練はしない方が良いと言われたのは幸運か?少なくても余計な心労は担がなくてもよさそうだった。…またもや自身の存在意義に疑問を持ってしまったが。
「ふむ、不意打ちからの必殺の一撃。見事だな」
郊外の訓練にて褒められた言葉だった。確かに一撃で仕留めたのは間違いないし、不意打ちなのも確かだ。しかし実態は気付かれていないから傍に近寄って短剣を急所に刺したという余りにもそれでいいのかという内容だった。
「…ありがとうございます」
皮肉をするほどひねくれてはいないがだからといって素直に喜ぶほど子供でもない。あるのは暗殺者と言う天職に複雑な気分を持つ心と魔物に出さえ自身を認識されていなかったという事実だけだった。
中学から卒業し地元とは多少はなれる高校に入った。新しい場所、新しい人間関係なら自身の薄い存在感も変わるのではないかと言う願いだったからだ。
その思いと願いもあってか野村と永山と言う友人が出来た。恋多き野村と寡黙ながらも落ち着いた永山との雑談は楽しかった。しかし…
「永山、野村おはよう」
「……」
「……」
朝の挨拶をしても気づかれることは無かった。これはいつもの事だった、昔からのありきたりな光景しかしそれは無視されていたのではないかと人間不信になりかけた過去を思い返しそうで…
「おおいっ無視するんじゃねぇ!」
「うおっ遠藤か、悪い気付かなかった」
「すまんすまん。お前存在感薄いから気付きにくかったんだよ~」
「ひっでぇな~次からはちゃんと気付いてくれよ~」
只の冗談とはわかっていてもその言葉は酷く傷ついたのだ。顔には絶対に出さないが心にドス暗い感情を持ってしまうほどに。
オルクス迷宮での実地訓練は正直郊外の訓練とさほど変わらなかった。気付かない相手に短剣を突き刺すだけの単純作業。いやが応にも自身の存在感を認識させられてしまう。
「…どれだけやっても反応は無しか」
周りにいる騎士団員は偶然かほかのクラスメイトに目を向けていた。別に褒められたかったわけではないが余りにも露骨すぎると悲しさとイラつきが湧いてくる
目立ちたいわけではないのだ。ただ誰かに認識されてほしかったのだ。自分はここにいると確かに知ってほしかったのだ。
「頼むから…俺をシカトしないでくれよ」
無視されるのは心に響くのだ、居ない物扱いは心が割れるのだ。周りからは冗談で言われても、本人にとっては只ただひたすらに辛いのだ。そうして自身の心を押し隠して…結果暗殺者という天職を得てしまったのだろう。
そんなこんなで休憩時間。永山たちと一緒に入るが果たして気付いているのだろうか。
「「「え、遠藤(君)何時からそこに!?」」」
やっぱり気づいていなかった。ここまで来るといっそ故意的なものを感じてしまうものだった。湧き上がる黒い感情を押しとどめる。
「みんなひでぇな~泣くなよきょーだい。俺はちゃんとお前が頑張っていることを知っているからな」
そんな中ただ独り柏木だけがちゃんと自分の存在を把握していたのだ。物凄い馴れ馴れしさを感じるが…
(きょーだい、か)
柏木と顔見知りになったのは特になんてことはないクラスの自己紹介の後だった。偶々トイレで一緒になってたまたま近くにいて話すことになって…
「へぇ遠藤浩介っていうのか。じゃあ俺ときょーだいみたいなもんか」
「なんだそりゃ?」
理由を聞いたが、正直どうでも良すぎるのでもう忘れてしまった。しかしその馬鹿っぽい奴だとしても自分の事をちゃんと認識しているのは確かで…嬉しかったのを今でも覚えている。最も積極的に話すことは無いし日常的に挨拶をする中でもなかったが。
「天翔剣!」
天之河が放った光の斬撃は魔物を両断した。それはいい、理由が女の子に襲い掛かってきた魔物を切る為と言う実に天之河らしい理由なのは納得はできるものだった。
「うわっ!?っぶねぇ!」
しかしそれで崩れた壁の岩壁で自身が怪我を負いそうになったのは納得がいかなかった。比較的高い俊敏性のお陰で崩れた岩から逃げることだし怪我も無かった。しかしだからといってそれは許されることなのだろうか。
天之河は自分の存在に気が付いていなかった。怪我をしそうなのも気が付いていないし、なんなら天翔剣でクラスメイトが巻き込まれても気が付かなさそうな顔をしていた。 メルドから叱責され少々申し訳なそうな顔をしていたが…それで自身のはらわたが煮え借りるのを抑えられる訳では無かった。
(あの野郎……殺してやろうか!?)
異世界と言う生活でストレスがたまっていたのだろうか今まで溜まっていた鬱憤がほんの一瞬で爆発しそうになっていた。あの阿保面を下げている勇者に気付かれず近づき首筋に短剣で切れ込みを入れることだって可能なのだ。皆グランツ鉱石に夢中になっている間にが自分が本気で隠行をすれば、きっと誰にも気づかれる事無く…
(……今なら誰にも気づかれない、今なら殺れる…誰も俺には気付いていないこの瞬間なら)
湧き上がる殺意を薄めそろりそろりと天之河に近づく。短剣を握る力は軽くしかしてしっかりと。
天之河に殺意を抱いたのは偶々でしかない。自身を怪我させたかもしれないただそれだけの理由だった。
(死ね!俺の存在に気が付かない奴は皆!)
自身の天職が暗殺者になってしまったのはきっとこういう短絡的に人に殺意を持つからだろうと頭の片隅でそんな事を考えていた。
人から認識されない人生だった。友人から忘れ去れ家族からも偶に居ないものとして扱われる。それが故意的な物でないくらいちゃんとわかっているし目立とうとしない自分にも問題があるのは承知していた。
しかしだからといって人にシカトされ続ける事がどれだけ悲しい事か辛い事なのかきっと自分以外分からないのだ。
話しかけても知らない顔をされる、ちゃんと目の前にいるのに居ない扱いをされる。ついには機械にも認識されなくなってしまった。生きているのに、ちゃんと存在しているのに、それなのに…
理由がわからない生まれ持った呪いに振り回され人を恨むことをした、人に殺意を持つようになった。表面上には出さない、しかし無視をする人間にはどうやってほかの人間にばれずに殺せるか頭の中でずっと妄想していた。
人を殺してうさ晴らしなんてみっともない、人を殺して目立とうなんて情けない。
自分の良心はそう言って騒ぐが、この呪いに翻弄された心にはどす黒い人に対しての殺意が渦巻いているのだ。
(あと一歩で)
天之河の傍までたどり着き短刀を振り上げる。ほかの連中はグランツ鉱石の間で何やら話しているがどうでも良い、今は自分に気が付かず殺そうとしたこいつに復讐をするのが先だった。
身勝手な殺意に捕らわれ短剣を振り下ろす、しかしその短剣が人の命を奪う事は無かった。
「……は?」
前方には大型の魔物、後方には骨の魔物の大軍。突然視界を襲った白い光に目を瞑り気が付けば混雑する橋の上だった。なぜいきなりこんな場所にいるのか
訳の分からないまま呆然とする。
そんな自分の傍を剣を持った骨型の魔物が通り過ぎる。それもかなりの数が。
(こんな時でもかよ…)
どうやら本当に魔物は自身の存在に気が付いていないらしい。何処まで狂った呪いなのだろうかと自身の存在感の無さに嘆こうとして…魔物が何を狙っているのかわかった。混乱している自分のクラスメイト達だった。
出口をふさいで数で押しつぶそうとする骨型の魔物と混乱しながらも奮戦するクラスメイト達の死闘が始まった。騎士団員の一人が指示を飛ばし、慌てながらも鬼気迫る表情で骨の魔物を倒していくクラスメイト達。
その中でただ一人、自分だけは参加して居なかった。……正確に言えばする気が無かった。
(誰も俺に気が付かない…か)
骨の魔物は傍を通っても振り向くこともなく、クラスメイト達は応戦に必死で自分の事は気が付かない。それは自分だけがどこか取り残されているのと同じような居心地の悪さだった。
(気が付かないのなら…いっそこのまま)
このままそばを通り過ぎ去っても誰にも気が付かずこの場を安全に通り抜けることが出来るかもしれない。そんな短絡的な考えが頭の中に思いつく。
元々誰にも気が付かれないという事はいなくても問題ないという事なのだ。幼少のころから影が薄い存在感が無いと言われ続けてきた鬱憤は積りに積もり最悪な形で晴らそうとしている。
(でもよ、いいじゃん俺なんかいなくなったって誰も気にしないんだし)
心の中で粘つく悪意は自分がクラスメイト達を見捨てようとしていることに言い訳を作り始める。居ない物扱いするのならこっちだって居ないものにしてやろうと被害者ぶった考えを押し付けてくる。
(でも、…それでいいのかな)
しかし、良心はこのまま見捨てていいのかと訴えてくる。元々は性根が良いのだ、例えいない物扱いしてもそれだけで見捨ててしまうのは薄情過ぎないかと咎めてくるのだ。
フラフラと出口へと向かって足が進む。誰も自分の姿を見るものは無く、咎める者もいない。そうして前線までたどり着いて…友人である永山重吾が奮戦していた。
体中に浅い傷を作り、それでもまだ大きな体格を根を張るようにして踏ん張っていたのだ。永山らしい体を張って皆を守ろうとする戦い方だった。
(永山…)
寡黙な男だが、誰もよりも気遣いのできる良い男だった。友人となれたのはある意味奇跡の様な人間だった。そんな友人を置いて自分は逃げ出してしまうのだろうか。
もう一人の数少ない友人の野村健太郎は辻綾子を庇って負傷していた。好きな女の子の為に体を張れる良い奴だ。今は辻に支えられながら必死で魔法を唱えている。
(野村…俺…は…)
誰よりも影の薄い自分を友人と呼んでくれる彼らを見捨ててしまうのか?
気が付けば足は止まっていた。両手には刃物を持ち臨戦態勢を取っていた。何故立ち止まったのか、何故武器を手にしたのか、もう考える余裕は無かった。
「シッ!」
永山に襲い掛かろうとしていた骨に向かって背後から奇襲をかける。気配を消すのではなく存在を消した一撃だ。急所に必ず入る暗殺者としての最高の一撃だった。
「むぉ!? え、遠藤か!」
一瞬の事で動揺を見せた永山に返事を返すことなく今度は足払いで骨の二対を同時に転ばせる。我に返った永山がその転んだ骨の頭蓋を蹴り砕く。
「何処にいるのかわからんが、援護は任せたぞ!」
(ああ、分かったよ)
言葉に出す気はない、一度声を出せば友人たちに向かって何を言うか分からないからだ。声を出すこともせず援護に回る事で先ほどの自分の醜態を隠そうと躍起になった。
「誰か…誰か助けてお願いだから!」
そうしてあの橋で危機的な状況を皆の援護に回る事で骨を多数驕った。常日頃からの鬱憤を晴らす様に我武者羅に動き回り自分に気が付かない数多の骨を葬った。
結果的に皆は助かった。しかし自分の事を普通に認識し話しかけてくる柏木が瀕死の重傷を受けた。
(俺のせい…だよな)
自分の責任ではないにしろどこかであの時殺意に飲まれていた自分が悪いのだと思った。結局は呪いに負けず人に接すればよかったのだ。辛抱強く、諦めずに。自分や他人の危機でようやく冷や水を浴びた様に自らが悪いと気が付いたのは皮肉だった。
血を流し今にも消えそうな柏木の姿を見て自分の愚かさを認識してしまった。人に身勝手な八つ当たりをしてしまう愚かさも一緒に。
(はぁ…生きて帰れたらちょっと考えよう)
柏木はなぜか無事に助かった、理由は分からずじまいだがどうでも良かった、ようやく頭が冷えたときにはふとそんな事を考えていた。影の薄い自分でもできる事があり役に立つことがあるはずだと思い治す様にした。
(陰に徹する黒子。他の誰もが気付かない自分ができる事、…何だ考えれば結構役目あるじゃん)
「お前らはどうするんだ。どう行動するんだ」
宴会騒ぎで柏木に問いかけられ、改めて考える。だがすぐに答えは出た。割と単純な自分に苦笑が出てくる。
「天職…変わってるな」
自分のステータスプレートを見ればそこには「暗殺者」の天職は無く別の天職があった。なぜそうなったのかはわからないが、まぁ心境の変化という奴だろう。
「野村、永山。柏木はああ言ってたけど、二人はどうするんだ」
ボヤ騒ぎから解散し、野村と永山に今後について聞いてみた。今回はちゃんと自分を認識してくれて二人は少し考え込んだ。
「俺は…訓練しようかなって思ってる。そりゃ只のガキだから役に立てないけど…やっぱ女の子には情けない所は見せたくないし」
後半はぼつぼつと小声だったが野村は戦う事は決めたようだった。きっと辻綾子が関係しているのだろう、どこまでも一途で報われてほしい物だと思った。
「俺もやる。今度は負けん」
永山も言葉少なくてもはっきりと意思を表した。何を考えての事かは分からないが恐らく自分と似た様なものなのだろう。
「遠藤は?お前は」
「俺か、俺は…まぁお前らと一緒」
「む?…フッ ああ、そうだな」
言葉には出さなかったが永山には気が付かれてしまった。まぁ些細な事だろう。だって
遠藤浩介 誰からも気づかれ難いという呪いがある。友人は愚か家族に機械さえも彼の存在を認識するのは難しい。無視をされるのはとても傷ついていた。「存在感が薄い」些細な言葉でも常日頃から言われれば誰だって嫌になる。