ちなみにですが、この物語滅茶苦茶あっさりと終わる予定です。え、これで終わり?見たいな位にあっさり風味です。しかし物語としての進みは牛歩の如くゆっくりする予定です。お陰で未だ皇帝とは会えませんし、会うのはもう少し後の予定です。
やりたい事だけをやり続ける物語ですが今後ともよろしくお願いいたします。
夢があった。小さい頃無邪気に願い望んだこと。到底不可能な幼少期の願いがあった。
自分は…あの空を飛んでみたかった。
異世界トータスに召喚され斎藤芳樹は風術師言う天職を手に入れた。風の魔法を操るファンタジーではなんてことはない天職。自分がその力を手に入れた時さして興味は無かった。異世界と言う事情になれるので精一杯だったからだ。
「魔法か…ケッ良いよな斎藤。お前はスゲェ力を手に入れてよ」
「そんな事無いよ~出来ても扇風機替わりじゃん」
「…物を切り裂く扇風機って一体?」
檜山達に皮肉られたが斎藤にとっての魔法なんてそんな程度の軽い認識だった。これで戦争をしろと言われようが人を殺せと言われようが斎藤にとっては実感がわかなかったのだった。
そんな認識が崩れ落ち自身の事で悩むようになったのはオルクス迷宮での一件だった。
狭く暗い洞窟で初めて味わう死と隣り合わせの時間。いつ死んでもおかしくは無かった、柏木が死にかけた時もしかしたら自分も…と考えだしたのもそのときからだ。
「………綺麗な空」
鬱屈した数日を過ごし、前日の馬鹿騒ぎを得て斎藤は王城の中で最も空に近い場所に足を運ぶようになった。
時間は昼近く、見上げる空は雲一つない青空で日本では見られないような晴れ晴れとした空だった。
(…日本は大気汚染があるからなぁ~)
日本ではどんなに空を見上げていても自身の望む空が見える事は無かった。手を伸ばせば届きそうになる空を見上げてふと幼少のころを思い出した。
斎藤がまだ小学生に上がる前のころ家族と一緒に小さい山へとハイキングに出かけた時だった。何の変哲もないピクニックで何でもない日常の風景だった。頂上までたどり着きそこで家族一緒になって記念撮影をしていた時斎藤は何一つ遮るものない空に感動しずっと空を見上げていたのだ。
誰もが手の届かない果てなき青い空。自身を誘う広大な空。
その光景は斎藤の記憶に強烈に焼き付けられ、いつか空を飛んでみたいと夢を持つようになった。あの果てない青空のもとへと。
しかし、夢は枯れ果て朽ちるもので、年月が経つにつれ次第にその夢を薄れさせてしまったのだ。幼少期の純粋な願いは何時しか灰色の現実となってしまった。
「……人は空なんて飛べないんだよ」
空をぼんやりと見上げ呟く。成長するにつれて現実を理解していき、夢は適えるものではなく夢見るものだと気付いてしまった。幼き頃の自分に諦め諭すように声を掛ける。くだらない事を夢見ているんじゃないと。空を見てざわつく心を押し隠す様に。
「お、空いてんじゃ~ん。って斎藤?」
昔を思い出しそんな鬱屈染みた気持ちになった時現れたのは柏木だった。足取りは軽くなぜか楽しそうに笑っている。息を吹き返した柏木は…死にかけたはずのに余り気にしている風には見えなかった。
…それが少しだけ気味が悪い。
「隣良いか?」
「…ん、良いよ~」
といっても別に嫌な奴ではないのだし空を見上げる自分の邪魔する気も無さそうだった。隣に座り込んだ柏木は呑気に空を見上げている。
「うーん。やっぱトータスの空は綺麗だよなぁ」
「…そーだね」
「召喚された時初めてこの空を見たときびっくりしたよ。こんな綺麗な所があるのかって」
言われてみれば召喚されたときの事を思い出す。確かにあの時初めてこの世界の空を見たとき感動していた。こんなに爽やかな空があるのかと思わず言葉に出したぐらいだ。
「二酸化炭素が少ないからかなぁ?あの空を飛行機で飛んだら気持ちよさそうじゃね?」
「ははっ 飛行機なんてあるわけないじゃん。馬鹿じゃないの?」
くだらないことを話す柏木に皮肉気に笑う。こんな世界に飛行機なんてものは無い、地球にある様な空を飛ぶような発達した技術は無いのだ。
「そっかー うーんなら魔法で空を飛ぶことは出来ないのかなぁ」
「そんなの…出来る訳」
出来ないのだろうか、ファンタジーの世界で空を飛ぶことは本当にできないのだろうか?ふと思いついた小さな疑問はざわついていた心に深く沈み込み大きく広がっていく。
「そうかぁ?出来ないって思うと本当にできなくなるぞ。大体魔法だぞ魔法、化学では解明できない奇妙で摩訶不思議な力。つーかファンタジーを謳ってるのならせめて飛行位は出来ないと…」
隣でぐだぐだと話す柏木を置いといて考えはどんどん空を飛べるかどうかへと変わっていく。意図せずか無意識か柏木がそばにいるとどんどん疑問と可能性が膨れ上がってくるような気がするのだ。
(風…風の魔法 空気を操る術師)
自身の天職風術師は風を使う術師である。風とはつまり空気の形を変え動かしているに過ぎない。例えば『風刃』なら空気を刃のように扱っているに過ぎない。だったらただ風を出すだけなら?それはとても簡単な事だった。一番最初に出来たことで一番最初に覚えたことだ。
(風の出す方向を変えて…空気の流れを…)
どんどん空気の操り方風の力、様々な事を思いつく。湧き上がる泉のようにアイディアが止まらないのだ。自身が使う魔法、魔力、そして可能性。そのどれもが諦めてしまった自分の夢へと届きそうになるのだ。
「つってもまぁ可能性ってだけの話なんだけどな」
「柏木は…」
「ん?」
「出来ると思う?魔法の力なら空が飛べるって本当に思うの?」
理論の構築、自身の可能性。検討し出来ると頭が判断してしまった。しかし心はまだその一歩を踏み出せずにいる、故に隣にいた無責任な男に確認をする。お前は信じる事が出来るのかと。
「出来るさ。最も魔法の力じゃなくて斎藤の空を飛んでみようって思いがあるのならどこへでも飛んでいけるって俺はそう思っている」
ケラケラと笑う何処までも無責任な男。しかしそれだけでよかった、どこへでも行ける出来て見せる、踏み出すためにはその言葉が何よりほしかったのだ。
「そうだよね、それじゃあっと!」
軽い気持ちで塀に飛び移る。一歩足を踏み出せばそこは断崖絶壁…ではないが地面までは数メートルある高さだ。落ちたらいくら身体能力が上がっているとはいえひとたまりもないだろう。
「お、おい何やってんだよ!?」
「何って、飛ぶんだよ、空へ!」
慌てた柏木が焦って掴みに来るがもう心は晴れたのだ。飛び上がる気持ちのままに足を一歩踏み出す。
「は、ははっ!」
途端に重力に従い真っ逆さまに堕ちて行く。当たり前だ、たとえ異世界でも重力があって人間は空を飛ぶ生き物ではないのだから。
でも、その墜落感が心地いいのだ。まるで先日やった野郎だけの飲み会のテンションのように。
「あっはははっはははは!!!」
頭の中で構築された風の魔法を使う、心の赴くまま、風が吹くまま。幼少のころ見たあの空へ飛べるように。瞬間浮き上がっていく体。
適わなかった夢を羽ばたかせる。
斎藤が落ちた。
話をすればその単語一つだが、起きたことは割とシャレにならない事態だった。なんだか元気がなさそうだったので少しばかり雑談して話を誘導しようかと軽い気持ちで目論んでいたらら何を思ったのかアイツはいきなり飛び降りたのだ!
「え?は?…うわぁ!?」
慌てて体を掴もうとするが時すでに遅し、斎藤は身を乗り出して落ちて行ってしまった。いくら異世界で体を鍛えていてもこの高さだ。いくら身体能力が上がってももしかしたらと言う可能性がある。
まさか自分のせいでこうなってしまうとは、頭が真っ白になってる中、いきなり目の前を何かが飛んでいくのを見た。
「あっはは!良いね空を飛ぶって!」
呑気でしかし楽しそうな声は上から聞こえてきた、恐る恐る見れば、…そこにいたのは斎藤だった、屈託なく笑って空を漂っている、どういう理屈で空にいるのかわからないでも確かに斎藤は空を飛んでいたのだ。
「お、お前大丈夫なのか!?」
「お陰様でね。ははっ!何だ簡単な事だったんだ」
何を納得しているのかさっぱりわからないが、本人はいたって楽しそうだ。一瞬頭が真っ白になった自分が何だが滑稽で思わずため息が出てきてしまった。
「どうだっていいけど、早く降りて来いよ…ほら」
いまだ空中に浮いている斎藤に向かって手を伸ばす、何時魔力が切れるのかわからないのだ。さっさと降りて来いという気持ちを込めてなのだが…
「あ、折角だから柏木も空を一緒に飛ぼうよ」
なんと斎藤は俺の手を取って上昇し始めたのだ!グイッと手を引っ張れる感触と足が地面から離れる感覚。怖いってもんじゃない!
「ちょ、おま!?」
「大丈夫大丈夫、怖いのは最初だけよ」
そんままふわふわと飛び上がって行きついには下を見れば町がみえてくる。これは…怖いってもんじゃない!やべぇ!やばすぎる!
「ままっままてくれ!おろ、降ろしてくれ!」
「や~だよー。それよりもっとこの先まで行こうよ!」
ぐんぐん高度を上げていく。気のせいか息苦しくなってきたし寒くなってきた。異世界でも酸素濃度とかあるのか?大気圏とかあるのか、そもそも宇宙ってあるの?様々などうでも良い疑問が頭をよぎる。…怖すぎてそんな事でも考えないとマズいってのあるけど
「ねぇ見てよ柏木」
「あ!?なにをだよぉ!」
「空。綺麗だよね」
宙ぶらりんのまま斎藤に声尾を荒げるが帰ってきたのはどこか呑気な声。掴まれている腕を外さない様に見渡すとそこには…
「うわぁ…真っ青だ」
雲一つない澄み渡るような青空が広がっていた。地上では森やら砂漠やらがみえ青とのコントラストがとても美しい。言いたくはないが確かにこれは綺麗で斎藤が見惚れるのも仕方のない事だ。
「僕さぁ」
「あん?」
「いつか空を飛ぶ職業に就くよ。…この空を僕は忘れない」
それはとても真剣で、願いが込められたような響きがあった。何を悩んでいたのかは知らない、何を思いつめていたのかわからない。けどどうやらフッきることが出来たようだ。なら俺はその思いを尊重しよう。
「そっか。ならちゃんと日本へと帰らないとな」
「うん。…それじゃあ降りて行こう、僕達の帰るべき所へ」
高度はだんだん下がっていく。手を伸ばせば届く空は遠くなっていく。しかし斎藤は満足そうに笑うのだった。
「ヒィィイヤッホオオオオオ!!!」
「待て!降りて来い斎藤!テメェがはしゃぐと俺が怒られるんだよ!」
その後斎藤は空を飛ぶことに熱中し今では低空飛行で訓練所を飛び回る事となった。人間が空を飛ぶという事情を知ったメルド団長は口を大きくあんぐりと開けやホセ副長はブツブツと呟き頭を抱えてしまったが、何だかんだで受け入れてくれたらしい。
最もむやみに空を飛び回らない、王国内でしか飛行を許さない、などの条件が課せられ破った場合は討伐対象となってしまうという約束事が決められたがそれでも斎藤は文句や不満一つ洩らさなかった。
「ヤッホー!檜山も空を飛んでみる!?」
「そういってどうせ引きずるんだろ!誰が飛ぶか!」
自由に空を飛び檜山に追いかけれらながらも楽しそうにはしゃぐ斎藤。最も空を飛べるのはこの異世界トータスにいる間だけだろう。本人がその事を宣言したし何より日本に帰ったら航空関係の仕事に就くと話をしていたのだ。
しかしそれでいいのだ。斎藤はあの日見た青空を忘れない限り何時だって空を飛べるのだ。
無邪気に笑い、両手を広げ風を受けるその姿はまるで夢がかなった小さな子供のように見えたのだった。
斎藤芳樹 原作ではモブだった人。空を飛ぶという夢を諦め適当に日常を過ごしていたが異世界で何の因果か風術師となった。夢への憧れが限界突破したのか空へ飛ぶ快感に魅入られ現在訓練所を低空飛行する毎日。そして檜山に怒られる。